説明

焼結磁石の製造装置と製造方法

【課題】磁粉が優れた配向性のもとで磁場配向されてなる焼結磁石を効率的に製造することのできる焼結磁石の製造装置と製造方法を提供する。
【解決手段】チャンバー1と、磁粉収容部2と、磁粉Jを提供する磁粉提供部4と、磁粉Jに磁界を付与する磁界付与部5と、磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部6とからなる焼結磁石の製造装置10である。磁粉収容部2は、昇降自在なステージ3と開口21を有する型枠とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結磁石の製造装置と製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータをはじめとする各種モータの中で、ロータコア内部に複数の永久磁石が埋め込まれてなる永久磁石埋込型のロータを具備するモータ(以下、IPMモータという)はよく知られるところである。例えば、ハイブリット車両の駆動用モータには、上記するIPMモータが使用されている。
【0003】
モータ等のアクチュエータに適用される上記永久磁石に関してさらに言及するに、Nd−Fe−B系焼結永久磁石(たとえば、NdFe14B)はその優れた磁気特性ゆえにその用途が広範囲に広がっており、たとえば、近時の自動車産業界を牽引するといってもよいハイブリッド車をはじめとする車両、産業機械、現在クリーンエネルギーとして注目を集めている風力発電機器など、その用途は広範に及んでいる。
【0004】
ところで、磁石性能の指標として残留磁束密度と保磁力を挙げることができるが、Nd−Fe−B系焼結磁石に関して言えば、体積率の増大や結晶配向度の向上によってその残留磁束密度を増大させることができ、結晶粒の微細化やNd量の多い組成合金の使用、保磁力性能の高い金属粒の添加などによってその保磁力を増大させることができる。その中でも現在一般に適用されている保磁力性能向上のための方策として、保磁力性能の高い金属である、Dy(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)などを焼結磁石の表面から粒界拡散させて粒界相の組成金属の一部と置換することで金属化合物の異方性磁界を増大させ、これによって保磁力増大を図る方策がある。
【0005】
また、これまでの焼結磁石の製造方法として、磁場生成手段を具備する型内に磁粉を投入し、縦磁場もしくは横磁場雰囲気にてプレス加工と熱処理を実施する方法が一般に適用されている。なお、特許文献1には、超音波振動子を備えた型を使用して磁場中プレス生成する方法とその装置の開示がある。
【0006】
この磁場中プレス成形では、プレスしながら磁粉を配向させるために、十分なプレス圧でプレスすることができず、緩めにプレスされたバルクを焼結することになる。しかし、バルクが緩めにプレスされているために体積収縮し易く、この体積収縮によって形状が歪になり得るといった課題を有している。また、比較的小さな焼結磁石を製造するに当たり、従来は上記する磁場中プレス成形と焼結を経て大寸法の磁石を製造し、これを切断加工することによって小寸法の磁石が製造されているが、この製造方法では、ブレードソーやワイヤソー等の切断刃具の切断代が材料ロスとなってしまうといった課題を有している。
【0007】
さらに、従来の永久磁石の製造においては、磁場中プレスおよび焼結によってできた永久磁石の表面にジスプロシウム等を付着させ、上記するように熱処理にて粒界拡散させることでその保磁力性能を向上させている。また、モータに適用される形状および寸法に製作された永久磁石の表面からジスプロシウム等を粒界拡散させる方法では、その深部へ十分に拡散させるために必要量以上のジスプロシウム等の使用が余儀なくされているのが現状であり、このことが材料コストや製造コストを上げる要因の一つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−285365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、配向性に優れた磁粉の磁場配向と焼結を一つの装置で連続的に実施できるとともに、材料ロスを生じさせることなく永久磁石を製造することのできる焼結磁石の製造装置と製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による焼結磁石の製造装置は、チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、からなるものである。
【0011】
本発明の製造装置は、焼結材用の磁粉を集めて集合体を形成し、この磁粉の集合体に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された集合体にレーザ焼結にて焼結材を製造するものである。すなわち、従来の磁場中プレス成形装置と異なり、磁場配向された磁粉の集合体に対してレーザ焼結にて焼結磁石を製造する構成の製造装置であることから、配向性に優れた焼結磁石を製造することができるものである。
【0012】
磁界付与部の構成は特に限定されるものではないが、たとえば、環状の磁性コアの一部にコイルを形成しておき、このコイルに通電して磁性コアに磁界を生じさせる形態などを挙げることができる。そして、この磁性コアの一部に磁粉収容部を設けておけば、磁粉収容部内に収容された磁粉の集合体に対して磁性コアで形成された磁界を作用させることができる。
【0013】
レーザ照射部を構成するレーザ発振器としては、COレーザ発振器、YAGレーザ発振器、ファイバーレーザ発振器などを適用できるが、本発明者等の検証によれば、比較的レーザ波長の長いCOレーザ発振器を使用した際に、製造された焼結磁石の中心まで十分に磁粉同士の焼結がおこなわれているとの知見が得られており、好適なレーザ発振器となる。これは、レーザの波長が比較的長いことで磁粉の材料吸収率が比較的悪く、したがって磁粉材料間を反射しながら磁粉の集合体の中心までレーザが提供されるためである。
【0014】
レーザ発振器の作動や磁界付与部を構成するコイル等への通電制御、ステージの降下のタイミングやその降下量の制御などは、この製造装置の各部を製造管理者がマニュアルでON−OFF制御する形態であってもよいし、製造装置の各部を制御するCPUや制御機構、インターフェイス、RAM、ROMなどとこれらをデータ交換可能に電気的に連通させるバス等を内蔵したコンピュータによって制御することができる。
【0015】
また、本発明の製造装置の他の実施の形態として、前記磁粉収容部は、昇降自在なステージと開口を有する型枠とからなり、開口内に提供された磁粉に磁界が付与されて磁場配向され、磁場配向された磁粉の集合体がレーザ焼結されて第1の焼結材が形成され、ステージと第1の焼結材がともに降下し、第1の焼結材と前記型枠の開口によって新たな磁粉収容部が形成され、第1の焼結材の上に第2の焼結材が形成されて焼結材が積層してなる焼結磁石を製造するものであってもよい。
【0016】
これは、1つの装置で比較的薄層の焼結材を2以上製造してこれらの積層体からなる焼結磁石を製造する装置形態であり、磁粉が提供される磁粉収容部が昇降自在なステージと、このステージ上に位置する開口を有する型枠とから構成され、1つの焼結材が製造された段階で、このステージと製造された焼結材が下方へ降下し、この降下によって、この焼結材の上面と型枠の開口とで新たな磁粉収容部が形成されることになる。そして、この形成された磁粉収容部に既に製造された焼結材と同様の方法で次の焼結材を製造することにより、2つの焼結材が積層してなる焼結磁石が製造される。
【0017】
なお、3つ以上の焼結材が積層してなる焼結磁石を製造する場合には、ステージと既に製造されている2つの焼結材を降下させ、2つ目の焼結材の上面と型枠の開口とで新たな磁粉収容部を形成し、ここに磁粉を提供して同様に3つ目の焼結材を製造し、4つ目以降の焼結材も同様の方法で製造すればよい。すなわち、ステージの降下量の調整によって焼結材の厚みを所望に制御でき、焼結材の積層数も所望に調整することができる。
【0018】
ここで、本発明の焼結磁石の製造装置の好ましい実施の形態は、前記チャンバー内に不活性ガスを導入してチャンバー外へ排気する不活性ガス導入排気手段、もしくは、前記チャンバー内を真空引きする吸引手段、のいずれかをさらに備えているものである。
【0019】
磁粉を焼結するに当たり、チャンバー内に不活性ガスの提供と排気を繰り返しながらフローさせることで、チャンバー内の酸素濃度が低下し、焼結磁石の酸化を防止することができる。また、チャンバー内を真空引きすることでチャンバー内の酸素濃度を低下させることもできる。
【0020】
また、本発明による焼結磁石の製造装置の他の実施の形態は、焼結磁石の保磁力性能を高める金属粒を提供する金属粒提供部をさらに備えており、焼結材に金属粒が提供されて粒界拡散されるようになっているものである。
【0021】
この金属粒提供部は、焼結磁石の保磁力性能を高める金属粒であるDy(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)、製造される永久磁石がNd−Fe−B系焼結永久磁石の場合には、その粒界相を構成するリッチなNdを改質できる典型金属、遷移金属およびこれらの金属と希土類の合金などであるCu、Al、Cu−Nd、Al−Ndなどを焼結材に提供するものであり、たとえば、既述する磁粉提供部がこの金属粒提供部を兼用する形態であってもよい。
【0022】
ここで、この金属粒は、磁粉集合体が焼結されて焼結材が製造された後にこの焼結材の表面に提供されるようになっている。本発明の製造装置で製造された焼結材は、従来の製造方法で製造された焼結磁石よりも小寸法のものであることから、その中心まで効果的に金属粒を粒界拡散させることができる。したがって、従来の製造方法のように、必要量以上のジスプロシウム等を使用してこれを焼結磁石表面から粒界拡散させる場合に比して、高価なレアメタルの材料コストの低減とこれに起因する製造コストの低減を図ることができる。
【0023】
また、本発明による焼結磁石の製造装置の他の実施の形態は、絶縁材料を焼結材の表面に提供する絶縁材料提供部をさらに備えており、製造された焼結材の表面に絶縁材料が提供され、これにレーザが照射されて絶縁層が形成され、この絶縁層の上に次の焼結材が形成されるようになっているものである。
【0024】
この絶縁材料提供部から焼結材の表面に提供される絶縁材料として、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂材料やアルミナやシリカなどのセラミックス材料などを使用することができる。
【0025】
たとえばモータのロータに適用される寸法の焼結磁石が複数の相対的に小寸法の焼結材が積層したものからなり、隣接する焼結材の界面に絶縁層が形成されることにより、たとえばモータを構成するステータからロータに入射してくる磁束がこの焼結磁石を通過する面積を小面積に分割でき、磁束通過によって生じ得る渦電流損失を小さくすることができる。
【0026】
なお、この絶縁材料提供部も金属粒提供部と同様、既述する磁粉提供部がこの絶縁材料提供部を兼用する形態であってもよい。
【0027】
ここで、本発明の製造装置が製造対象としている焼結磁石は、希土類磁石やフェライト磁石、アルニコ磁石等を包含するものである。この希土類磁石としては、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石(Nd−Fe−B系焼結永久磁石)、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、サマリウム鉄窒素磁石、プラセオジム磁石などを挙げることができる。中でも、希土類磁石はフェライト磁石やアルニコ磁石に比して最大エネルギー積(BH)maxが高いことから、高出力が要求されるハイブリッド車等の駆動用モータへの適用に好適である。
【0028】
上記する本発明による焼結磁石の製造装置によれば、1つの製造装置で、磁粉の集合体を形成し、集合体を構成する磁粉を磁場配向させ、焼結して焼結材を製造し、この焼結材を同様の方法で複数製造してそれらの積層体からなる所望形状および寸法の焼結磁石を製造することが可能となる。したがって、製造効率が格段に向上することのほかに、従来の製造方法の場合のように大寸法の焼結体を製造してこれを小寸法の焼結磁石に切断する際に生じていた切断代分の材料ロスを解消しながら、小寸法の焼結磁石を製造することができるものである。
【0029】
また、本発明は焼結磁石の製造方法にも及ぶものであり、チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、を少なくとも備えた製造装置を使用する、焼結磁石の製造方法であって、開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して焼結磁石を製造するものである。
【0030】
さらに、本発明の焼結磁石の製造方法の他の実施の形態は、チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、を少なくとも備え、磁粉収容部が昇降自在なステージと開口を有する型枠とからなる製造装置を使用する、焼結磁石の製造方法であって、開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して第1の焼結材を形成し、ステージと第1の焼結材をともに降下させて、第1の焼結材と前記型枠の開口によって新たな磁粉収容部を形成し、開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して第1の焼結材の上に第2の焼結材を形成し、2つの焼結材が積層してなる焼結磁石を製造するものである。
【0031】
この製造方法においては、前記ステージと第1、第2の焼結材を降下させて、第2の焼結材と前記型枠の開口によって新たな磁粉収容部を形成し、開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して第2の焼結材の上に第3の焼結材を形成し、3つの焼結材が積層してなる焼結磁石を製造する方法であってもよい。また、さらに、同様のステップを経て第4の焼結材がさらに積層して4つの焼結材が積層してなる焼結磁石、5以上の焼結材が積層してなる焼結磁石を製造するものであってもよい。
【0032】
ここで、前記チャンバー内に不活性ガスを導入し、チャンバー外へこの不活性ガスを排気することによってチャンバー内を不活性ガス雰囲気としておく、もしくは、チャンバー内を真空引きして減圧しておくのが好ましい。
【0033】
また、それぞれの焼結材ごとに、レーザ焼結にて焼結材を形成した後に焼結材の保磁力性能を高める金属粒を提供して粒界拡散させてもよい。
【0034】
さらに、形成された焼結材の表面に絶縁材料を提供し、これにレーザを照射して絶縁層を形成し、この絶縁層の上に次の焼結材を形成する方法であってもよい。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から理解できるように、本発明の焼結磁石の製造装置と製造方法によれば、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して焼結磁石を製造することにより、磁粉が優れた配向性のもとで磁場配向されてなる焼結磁石を、連続的かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の焼結磁石の製造装置を説明した模式図である。
【図2】磁粉提供部が作動して磁粉収容部へ磁粉を提供している状態を説明した図である。
【図3】(a)は、第1の焼結材が製造された状態を説明した図であり、(b)はステージと第1の焼結材が降下して、第1の焼結材と型枠の開口によって新たな磁粉収容部が形成された状態を説明した図である。
【図4】(a)は、第1、第2、第3の焼結材が製造されてこれらの積層体からなる焼結磁石が製造された状態を説明した図であり、(b)は、製造装置から取り出された焼結磁石を示した図である。
【図5】(a)は、製造された第1の焼結材を示す図、(b)は、第1の焼結材に保磁力を高める金属粒が粒界拡散された第1の焼結材の変形例を示す図、(c)は、第1の焼結材の変形例の上に第2の焼結材が製造された図、(d)は、第2の焼結材に保磁力を高める金属粒が粒界拡散されて第2の焼結材の変形例が形成され、第1、第2の焼結材の変形例によってできた焼結磁石の第1の変形例を示す図である。
【図6】(a)は、製造された第1の焼結材の変形例の表面に絶縁層が形成された状態を示す図、(b)は、絶縁層の上に第2の焼結材の変形例が製造された状態を示す図、(c)は、第1の焼結材の変形例〜第4の焼結材の変形例と各焼結材の間に絶縁層が介在してなる焼結磁石の第2の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の焼結磁石の製造装置とその製造方法を説明する。なお、図示する製造装置を構成する磁粉収容部は、昇降自在なステージと開口を有する型枠からなる形態であるが、昇降自在なステージを具備しない磁粉収容部を備えた製造装置であってもよいことは勿論のことである。また、製造装置を構成する各部の作動を制御するコンピュータの図示は省略している。
【0038】
図1は、本発明の焼結磁石の製造装置を説明した模式図である。図示する製造装置10は、チャンバー1の内部に、磁界付与部5と、昇降自在なステージ台31を具備するステージ3と、磁界付与部5の一部に形成された磁粉収容部2と、この磁粉収容部2に磁粉を提供する磁粉提供部4と、が配設され、さらに、磁粉収容部2内の磁粉の集合体にレーザを照射して焼結するレーザ照射部6がチャンバー1に装備されてその大略が構成されている。なお、図示する製造装置10は、その前面に透視扉7を備えており、その内部が視認できるとともに、この透視扉7を開けて磁粉格納箱49に磁粉を補給したり、製造された焼結磁石の取り出しができるようになっている。
【0039】
チャンバー1には、アルゴンガス等の不活性ガスをチャンバー内に提供する(X1方向)ための導入路1aと、チャンバー内をフローした不活性ガスをチャンバー外へ排気する(X2方向)ための排気路1bが流体連通しており、この不活性ガスの導入および排気を繰り返すことでチャンバー内の酸素濃度を低減して、磁粉の集合体にレーザ焼結する際の磁粉の酸化が防止されるようになっている。
【0040】
チャンバー1内において、環状の磁性コア51がその一部にコイル52が形成された姿勢で配設されており、磁性コア51の上方の長手領域51aはその上面がフラット面Fを備えている。
【0041】
そして、この長手領域51aの途中には、開口21を具備する型枠が埋設されており、この開口21の下方には、不図示のサーボモータの回転シャフトに装備された係合ギア33と係合する案内ギア32に固定されたステージ台31が配設されており(ステージ台31、案内ギア32、係合ギア33からステージ3が構成される)、図示する状態において、ステージ台31の上面と開口21で磁性収容部2が形成される。
【0042】
また、チャンバー1の側面には、COレーザを照射するレーザ発振器61が固定され、チャンバー1内で開口21に対応する位置に折り返しミラー62が配設されており(レーザ発振器61と折り返しミラー62からレーザ照射部6が構成される)、照射されたCOレーザは、チャンバー1内を通り、折り返しミラー62で屈折して下方の磁粉収容部2内に収容された磁粉の集合体に照射され(X5方向)、レーザ焼結がおこなわれるようになっている。
【0043】
チャンバー1内には、磁性コア51の短手領域51bの側面に沿って昇降する磁粉格納箱49が設けてあり、この磁粉格納箱49はその側面に案内ギア48を備え、この案内ギア48と係合する係合ギア47がサーボモータ46の回転シャフトに装着されている。サーボモータ46の回転駆動によって磁粉格納箱49が上昇し(X3方向)、磁粉格納箱49内に格納された磁粉Jが磁性コア51の長手領域51aのフラット面F上に提供されるようになっている。
【0044】
また、チャンバー1の上方には、サーボモータ41と、これに装備されたシャフトネジ42の回転によってスライドする(X4方向)移動ナット43とからなるボールネジ機構が配設されており、この移動ナット43に装着された係止腕44に固定されたワイパ45が移動ナット43の移動に同期してフラット面F上を移動できるようになっている(サーボモータ41〜磁粉格納箱49から磁粉提供部4が構成される)。
【0045】
図2は、磁粉提供部4が作動して磁粉収容部2へ磁粉Jを提供している状態を説明した図である。
【0046】
同図で示すように、磁粉格納箱49が上昇して(X3方向)磁粉格納箱49内に格納された磁粉Jがフラット面F上に提供されたら、不図示の昇降機構によって上昇されたワイパ45が図示位置に移動し、ここで降下して図示の状態とされ、この状態から、サーボモータ41が駆動してワイパ45が移動し(X4方向)、この移動によって磁粉Jが運ばれて開口21内へ提供されることとなる。
【0047】
なお、図2の状態においては、開口21の下方にはステージ台31が位置決めされており、したがって開口21に提供された磁粉Jは下方へこぼれ落ちない。
【0048】
開口21内に磁粉Jが収容されて集合体が形成されたら、次に、コイル52に所望値の電流が通電され、磁性コア51に環状方向への磁界が形成される。なお、磁性コアは図示する環状形態に限定されるものではなく、直線状の磁性コアなどであってもよい。
【0049】
磁性コア51に磁界が形成されると、磁路内に位置する磁性の集合体にこの磁界が直接的に付与され、この磁界によって集合体を構成する各磁粉が磁場配向される。
【0050】
磁粉の集合体が磁場配向させたら、レーザ発振器61をON制御してCOレーザを照射し、折り返しミラー62で屈折されたCOレーザが下方の磁粉収容部2に収容された磁粉の集合体に照射されることでレーザ焼結がおこなわれ、図3aで示すような第1の焼結材S1が製造される。
【0051】
第1の焼結材S1が製造されたら、不図示のサーボモータを駆動して係合ギア33を回転させ、図3bで示すようにこの係合ギア33と係合する案内ギア32を下方に移動させることにより(X6方向)、案内ギア32に固定されたステージ台31を所定量(たとえば第1の焼結材S1の厚み)だけ下方に移動させる。
【0052】
ステージ台31が下方へ移動することで、これに載置された第1の焼結材S1が開口21から脱型されてステージ台31とともに下方へ移動し、第1の焼結材S1の上面と開口21とで新たに磁性収容部2が形成される。
【0053】
新たに形成された磁性収容部2に対して、第1の焼結材S1の製造ステップと同様に磁粉の提供がおこなわれ、磁粉の集合体に対して磁場配向がなされ、レーザ焼結がおこなわれることで、第1の焼結材S1の上に第2の焼結材S2が製造される。
【0054】
図4aは、第1の焼結材S1、第2の焼結材S2のさらにその上に第3の焼結材S3が製造されて、これら3つの焼結材S1,S2,S3が積層してなる焼結磁石SJが製造された状態を示したものである。
【0055】
ステージ台31が降下して第3の焼結材S3が脱型され、チャンバー1から取り出された焼結磁石SJを図4bに示している。
【0056】
図5は、図5a〜図5dの順で、製造過程でできる焼結材や最終製品である焼結磁石の変形例を示したものである。
【0057】
まず、既述する方法を経て図5aで示す第1の焼結材S1を製造する。
【0058】
次に、図5bで示すように、第1の焼結材S1に対してジスプロシウムやテルビウム等の保磁力を高める金属粒Kを粒界拡散させて、保持力が高められた第1の焼結材S1’を製造する。
【0059】
詳細な図示は省略するが、この金属粒Kも、たとえば磁粉格納箱49内に収容しておき、開口21内で図5aのように第1の焼結材S1が製造された段階で、磁粉格納箱49からワイパ45を介して第1の焼結材S1の表面にこの金属粒Kが提供され、レーザ焼結して、もしくは不図示の加熱装置にて熱処理して粒界拡散を実施することができる。
【0060】
第1の焼結材S1は最終寸法の焼結磁石に比して小寸法であることから、可及的に少量の金属粒Kの提供によっても、焼結材の中心部まで効果的に粒界拡散することができる。
【0061】
保持力が高められた第1の焼結材S1’が製造されたら、ステージ台を降下させて新たに磁粉収容空間を形成し、同様の方法で第1の焼結材S1’の上に第2の焼結材S2を製造し(図5c)、さらにこの第2の焼結材S2に金属粒Kを粒界拡散させることにより、第1の焼結材S1’と第2の焼結材S2’の積層体からなる焼結磁石SJ’が製造される。
【0062】
図6は、図6a〜図6cの順で、製造過程でできる焼結材や最終製品である焼結磁石のさらなる変形例を示したものである。
【0063】
まず、図6aで示すように、第1の焼結材S1に金属粒Kを粒界拡散させて第1の焼結材S1’を製造する。
【0064】
次に、第1の焼結材S1’の表面に絶縁材料を提供し、熱処理して第1の絶縁層Z1を形成する。
【0065】
この絶縁材料は、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂材料やアルミナやシリカなどのセラミックス材料を使用できる。
【0066】
また、この絶縁材料も、たとえば磁粉格納箱49内に収容しておき、開口21内で図5bのように第1の焼結材S1’が製造された段階で、磁粉格納箱49からワイパ45を介して第1の焼結材S1’の表面に提供され、レーザ焼結して、もしくは不図示の加熱装置にて熱処理して第1の絶縁層Z1を形成することができる。
【0067】
第1の焼結材S1’の表面に絶縁層Z1が製造されたら、ステージ台を降下させて新たに磁粉収容部2を形成し、同様の方法で第1の絶縁層Z1の上に第2の焼結材S2’を製造し(図6b)、これを繰り返して第2の絶縁層Z2、第3の焼結材S3’、第3の絶縁層Z3、および第4の焼結材S4’を順次製造することにより、4つの焼結材とそれぞれの界面に絶縁層を具備する焼結磁石SJ”が製造される。
【0068】
この焼結磁石SJ”がたとえば不図示のIPMモータのロータスロット内に配設され、このIPMモータを駆動させた際には、ステータ側から入射する磁束JSが通過する面積Aは、3つの絶縁層Z1,Z2,Z3で3分割された磁性領域となる。各磁性領域の面積A1は当初面積Aに比して1/3未満の面積となっていることにより、磁束が通過する面積に依存する渦電流損失を大幅に低減することができる。
【0069】
図示する焼結磁石の製造装置10と、これを使用してなる焼結磁石の製造方法によれば、磁粉の集合体の形成、集合体を構成する磁粉の磁場配向、焼結による焼結材の製造と、この焼結材を同様の方法で複数製造してそれらの積層体からなる焼結磁石の製造を連続的かつ効率的におこなうことが可能となる。また、それぞれの焼結材ごとにジスプロシウム等を粒界拡散することで、従来の粒界拡散の場合のように最終寸法の焼結磁石の表面から粒界拡散する方法に比して、ジスプロシウム等のレアメタルの使用量を大幅に低減することができる。さらには、比較的小寸法の焼結磁石を切断等することなく製造することができるため、従来の製造方法の場合のような切断時の材料ロスは生じ得ない。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1…チャンバー、1a…導入路、1b…排気路、2…磁粉収容部、21…開口、3…ステージ、31…ステージ台、32…案内ギア、33…係合ギア、4…磁粉提供部、41…サーボモータ、42…シャフトネジ、43…移動ナット、45…ワイパ、46…サーボモータ、47…係合ギア、48…案内ギア、49…磁粉格納箱、5…磁界付与部、51…磁性コア、52…コイル、53…ガードレール、6…レーザ照射部、61…レーザ発振器、62…折り返しミラー、10…製造装置、J…磁粉、K…金属粒、S1、S2、S3…焼結材、S1’、S2’、S3’、S4’…焼結材(変形例)、Z1、Z2、Z3…絶縁層、SJ、SJ’、SJ”…焼結磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、からなる焼結磁石の製造装置。
【請求項2】
前記磁粉収容部は、昇降自在なステージと開口を有する型枠とからなり、
開口内に提供された磁粉に磁界が付与されて磁場配向され、磁場配向された磁粉の集合体がレーザ焼結されて第1の焼結材が形成され、ステージと第1の焼結材がともに降下し、第1の焼結材と前記型枠の開口によって新たな磁粉収容部が形成され、第1の焼結材の上に第2の焼結材が形成されて焼結材が積層してなる焼結磁石を製造する請求項1に記載の焼結磁石の製造装置。
【請求項3】
前記チャンバー内に不活性ガスを導入してチャンバー外へ排気する不活性ガス導入排気手段、もしくは、前記チャンバー内を真空引きする吸引手段、のいずれかをさらに備えている請求項1または2に記載の焼結磁石の製造装置。
【請求項4】
焼結磁石の保磁力性能を高める金属粒を提供する金属粒提供部をさらに備えており、焼結材に金属粒が提供されて粒界拡散されるようになっている請求項1〜3のいずれかに記載の焼結磁石の製造装置。
【請求項5】
絶縁材料を焼結材の表面に提供する絶縁材料提供部をさらに備えており、製造された焼結材の表面に絶縁材料が提供され、これにレーザが照射されて絶縁層が形成され、この絶縁層の上に次の焼結材が形成されるようになっている請求項2〜4のいずれかに記載の焼結磁石の製造装置。
【請求項6】
チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、を少なくとも備えた製造装置を使用する、焼結磁石の製造方法であって、
開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して焼結磁石を製造する焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
チャンバーと、チャンバー内に配設された磁粉収容部と、磁粉収容部へ磁粉を提供する磁粉提供部と、磁粉収容部に収容された磁粉に磁界を付与する磁界付与部と、磁粉収容部に収容された磁粉にレーザを照射してレーザ焼結するレーザ照射部と、を少なくとも備え、磁粉収容部が昇降自在なステージと開口を有する型枠とからなる製造装置を使用する、焼結磁石の製造方法であって、
開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して第1の焼結材を形成し、
ステージと第1の焼結材をともに降下させて、第1の焼結材と前記型枠の開口によって新たな磁粉収容部を形成し、開口内に磁粉を提供し、開口内の磁粉に磁界を付与して磁場配向させ、磁場配向された磁粉の集合体をレーザ焼結して第1の焼結材の上に第2の焼結材を形成し、2つの焼結材が積層してなる焼結磁石を製造する焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記チャンバー内に不活性ガスを導入し、チャンバー外へこの不活性ガスを排気することによってチャンバー内を不活性ガス雰囲気としておく、もしくは、チャンバー内を真空引きして減圧しておく請求項6または7に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
それぞれの焼結材ごとに、レーザ焼結にて焼結材を形成した後に焼結材の保磁力性能を高める金属粒を提供して粒界拡散させる請求項6〜8のいずれかに記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
形成された焼結材の表面に絶縁材料を提供し、これにレーザを照射して絶縁層を形成し、この絶縁層の上に次の焼結材を形成する請求項7〜9のいずれかに記載の焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−19030(P2012−19030A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154939(P2010−154939)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】