説明

熱プレス用クッション材およびその製造方法ならびに積層板の製造方法

【課題】 熱プレスに繰返し使用した場合でも、経時的な厚みの減少が少なく物性的に安定しており、しかも熱プレスでの使用時には良好なクッション性を発揮することのできる熱プレス用クッション材を提供する。
【解決手段】 熱プレス用クッション材は、繊維ウエブ4からなる不織布を備える。繊維ウエブ4は、相対的に低い軟化温度を有する第一成分を主体とする第一繊維4aと、相対的に高い軟化温度を有する耐熱性の第二成分を主体とする第二繊維4bとを含む。不織布は、第一成分の軟化温度以上で第二成分の軟化温度よりも低い温度で圧縮処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱プレス用クッション材およびその製造方法ならびに当該クッション材を用いた積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、この発明は、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、多層板等のプリント基板や、ICカード、液晶表示板、セラミックス積層板などの精密機器部品(以下、本発明において「積層板」と称する)を製造する工程で、対象製品をプレス成形や熱圧着する際に使用される熱プレス用クッション材およびその製造方法ならびに当該クッション材を用いた積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等の積層板の製造において、プレス成形や熱圧着の工程では、図7に示すようにプレス対象物である積層板材料19を、加熱・加圧手段としての熱盤20,20間に挟み込み、一定の圧力と熱をかける方法が用いられる。精度の良い成形品を得るためには、熱プレスにおいて、積層板材料19に加えられる熱と圧力を全面に亘って均一化する必要がある。このような目的で、熱盤20と積層板材料19との間に平板状のクッション材21を介在させた状態で熱プレスが行なわれている。
【0003】
ここで、クッション材21に要求される特性としては、熱盤20や積層板材料19の持つ凹凸を吸収するクッション性、熱盤20の温度ムラを吸収する温度緩和性、均一な温度と圧力を積層板材料19に伝達するためのクッション材21自体の板厚精度、面内全体に亘って均一な圧力を積層板材料19に伝達するとともにプレスに繰返し使用した場合でも一定の安定した物性を保持する厚み復元性等が挙げられる。
【0004】
熱プレス用クッション材21としては、クラフト紙、有機または無機繊維をバインダーで結合したもの、ゴム、不織布、ゴムと不織布との積層体など、さまざまな種類のものが使用されている。クラフト紙以外は、基本的には複数回のプレスに繰り返し使用される。その中でも、不織布を用いたクッション材21は、熱盤及び積層板材料の厚みムラを吸収する性能に優れているため、板厚精度の要求される積層板や凹凸のある積層板のプレス成形など、均一な加圧力を積層板材料19の全面に加える必要がある場合に特に適している。
【0005】
不織布製の熱プレス用クッション材に関する公知文献として、特開昭55−101224号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、バット繊維と基布とが複数積層され、ニードルパンチにより一体に結合され、さらに熱処理によって仕上げられた多層ニードルフェルトクッション材が記載されている。しかし、不織布製のクッション材は、熱プレスに繰返し使用した場合に、構成繊維のヘタリによる経時的な厚みの減少が大きく、次第にクッション材としての機能を果たさなくなるという本質的な問題を有している。また、クッション材の厚みが減少した場合、積層板材料の昇温速度が不適正になり、積層板に気泡、板厚不良、反り、カスレ等の不具合が発生するという問題がある。
【0006】
他の公知文献として、特開平4−361012号公報(特許文献2)が挙げられる。特許文献2には、不織布に耐熱性樹脂を含浸して加熱加圧した熱プレス用クッション材が開示されている。特許文献2に開示されたクッション材の場合、熱プレスに繰返し使用した場合の経時的な厚みの変化は少なくすることができる。しかし、反面、不織布の空隙内に耐熱性樹脂が入り込んで不織布の形態を固めてしまうため、不織布の特性を損ない、クッション性が悪くなってしまうという問題がある。
【0007】
更に他の公知文献として、特開平10−58473号公報(特許文献3)が挙げられる。特許文献3には、熱プレス成形温度内にガラス転移温度があり、成形温度以上の温度領域に軟化点、融点または分解点がある熱可塑性繊維を用いたフェルト体を、その構成繊維の軟化点、融点または分解点以内の温度で熱セットしたクッション材が開示されている。このような熱可塑性繊維として、ポリフェニレンサルファイド樹脂からなるPPS繊維等が具体的に例示されている。また、熱セットは、フリーな状態か低加圧の状態で行われる必要があるとされている。特許文献3に記載のクッション材の場合、熱セットした時のフリーな状態が一種の形状記憶性として働き、熱プレスでの使用時に厚み回復性を有して均一な加圧伝達性能が得られる。しかし、特許文献3に記載のクッション材は、特許文献1に記載のクッション材と同様に空隙を多く含んでいるため、やはり経時的な厚みの減少は避けられないと考えられる。
【特許文献1】特開昭55−101224号公報
【特許文献2】特開平4−361012号公報
【特許文献3】特開平10−58473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、熱プレスに繰返し使用した場合でも経時的な厚みの減少が少なく物性的に長期に安定しており、しかも熱プレスでの使用時には良好なクッション性を発揮することのできる熱プレス用クッション材およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、この発明が解決しようとする他の課題は、熱プレス用クッション材を改良することにより、精度の良い積層板を製造することのできる積層板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従った熱プレス用クッション材は、繊維ウエブからなる不織布を備えたものであって、次のことを特徴とする。
【0011】
すなわち、一つの実施形態では、繊維ウエブが、相対的に低い軟化温度を有する第一成分と、相対的に高い軟化温度を有する耐熱性の第二成分とを含み、不織布が、第一成分の軟化温度以上で第二成分の軟化温度よりも低い温度で圧縮処理されていることを特徴とする。
【0012】
上記の実施形態の場合、例えば、第一成分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、低融点ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれた材料であり、第二成分は、ナイロン66、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノールからなる群から選ばれた材料である。どのような材料の組合せであっても、好ましくは、第一成分の軟化温度はプレス対象物の熱プレス成形温度よりも低く、第二成分の軟化温度はプレス対象物の熱プレス成形温度よりも高い。
【0013】
他の実施形態では、繊維ウエブが、軟化温度を有する第一成分と、軟化温度を持たない耐熱性の第二成分とを含み、不織布が、第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮処理されていることを特徴とする。
【0014】
上記の他の実施形態の場合、例えば、第一成分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、低融点ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれた材料であり、第二成分は、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、金属、カーボン、シリカ、ガラス、セラミックスからなる群から選ばれた材料である。この場合、好ましくは、第一成分の軟化温度は、プレス対象物の熱プレス成形温度よりも低い。
【0015】
上記熱プレス用クッション材は、次のようにして得ることができる。すなわち、この発明に従った、圧縮不織布を備えた熱プレス用クッション材の製造方法は、軟化温度を有する熱可塑性の第一成分と、第一成分の軟化温度よりも高い軟化温度を有するか又は軟化温度を持たない耐熱性の第二成分とを含む繊維ウエブからなる不織布を準備する工程と、この不織布を第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮する工程と、この不織布を、圧縮状態を維持したままで第一成分の軟化温度より低い温度に冷却する工程と、冷却後に、この不織布に対する圧縮状態を開放する工程とを備える。
【0016】
圧縮不織布を製造する際、第一成分と第二成分とを含む繊維ウエブからなる不織布を第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮することにより、第一成分が軟化または溶融した状態で不織布が圧縮される。第二成分は圧縮処理温度よりも高い軟化温度を有するか又は軟化温度を持たないので、圧縮処理しても第二成分は弾性復元力を保持している。次に、圧縮状態を維持したまま第一成分の軟化温度より低い温度に冷却することにより、第一成分が固化し、固化した第一成分が弾性復元力を維持したままの第二成分を圧縮状態で拘束するため、その後圧縮を開放しても、不織布の圧縮状態は維持される。従って、この発明による熱プレス用クッション材は、従来の不織布製クッション材に比べて初期から圧縮状態となっているため、使用による経時的な厚みの減少が少なく、物性的に長期に安定している。
【0017】
熱プレス成形は、熱盤とプレス対象物である積層板材料との間にクッション材を介在させた状態で、加圧しながら加熱することにより行われる。このとき積層板材料のプリプレグは流動状態を経て所定の形状に硬化する。その後、加圧状態のまま冷却され、プレスが開放される。この発明によるクッション材は、使用時に熱プレス成形温度に加熱されると、不織布中の第一成分が軟化または溶融し、圧縮状態の第二成分が拘束から解かれて厚み回復性を発揮する。この厚み回復性によって、熱盤やプレス対象物の厚みムラを吸収して均一な加圧力を伝達することができる。その後、加圧状態のまま冷却され、プレスが開放された時には、クッション材は再び圧縮状態で固定された状態となっている。
【0018】
上記繊維ウエブは、1つの形態として、第一成分を主体とする第一繊維と、第二成分を主体とする第二繊維とを混合したものとされる。この場合、第一繊維と第二繊維との混合割合は、質量比率で5/95〜70/30とするのが好ましい。第一繊維の混合割合が少なすぎると、圧縮状態で第二繊維を十分に拘束することができなくなる。一方、第二繊維の混合割合が少なすぎ、第一繊維の混合割合が多すぎると、使用時の厚み回復性能が不十分となる上、第一繊維の溶融物がクッション材の外に出てきて悪影響を及ぼす恐れがある。より好ましくは、第一繊維と第二繊維との混合割合は、質量比率で10/90〜70/30である。
【0019】
好ましくは、第一繊維は、第一成分からなる芯部と、第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する。このような芯鞘構造の繊維は、プレス成形時の加熱によって、芯部の軟化によって繊維全体が軟化し、第二繊維の拘束を開放する。また、低い軟化温度を有する芯部が耐熱性の被覆部で覆われているので、クッション材の使用によって第一繊維の溶融物が出てくるのを防止することができる。
【0020】
また、繊維ウエブは、別の形態として、第一成分からなる芯部と、第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する繊維のみで構成することもできる。この場合、芯鞘構造を有する繊維自体が第一成分と第二成分とを含んでいるので、プレス成形時の加熱によって繊維の芯部が軟化し、被覆部の拘束を開放する。軟化または溶融した芯部の染み出しを抑制する観点から、例えば、次のような点を考慮して材質を選ぶ。考慮すべき点の一つは、例えば、被覆部に対して、耐熱性に優れ、かつ物理的強度が高く、しかも弾性復元力に優れた材質のものを選ぶ。考慮すべき他の一つは、例えば、芯部を形成する材料の軟化温度と熱プレス成形温度との差が余り大きくならないようにすることである。
【0021】
上記いずれの形態においても、不織布は、第一成分と第二成分とを含む繊維ウエブを、第二成分と同等の成分からなる織布とともにニードルパンチしたものであるのが好ましい。そうすることにより、不織布の寸法安定性が良くなる。なお、「第二成分と同等の成分」とは、第一成分よりも高い軟化温度を有する耐熱性成分であること、または軟化温度を持たない耐熱性成分であることを意味する。
【0022】
この発明による熱プレス用クッション材は、上記の圧縮不織布上に表面被覆材を積層した積層構造とすることができる。
【0023】
この発明による積層板の製造方法は、積層板材料と加熱・加圧手段との間に平板状のクッション材を介在させた状態で加熱・加圧処理する積層板の製造方法であって、クッション材は、上記圧縮不織布を備えた熱プレス用クッション材であることを特徴とする。圧縮不織布を備えたクッション材を用いて積層板を製造するので、前述のとおりクッション材の経時的な厚みの減少が少ない。そのため、プレスを繰り返しても長期間に亘って適正昇温速度で積層板を製造することができる。熱プレス成形は、熱盤とプレス対象物である積層板材料との間にクッション材を介在させた状態で、加圧しながら加熱することにより、積層板材料のプリプレグが流動状態を経て所定の形状に硬化する。その際、昇温の途中で、まずクッション材に含まれる第一成分が軟化し、クッション材に厚み回復性が現れる。更に昇温を続けると、積層板材料のプリプレグが流動性を持つようになるが、この時クッション材は厚み回復性を有しているので、熱盤や積層板材料の厚みムラを吸収して均一な加圧力を積層板材料に伝達することができる。このため、この発明による積層板の製造方法によれば、気泡、板厚不良、反り、カスレ等のない良質の積層板を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本発明による熱プレス用クッション材1の一例を示す断面図である。クッション材1は、中央に位置するシート状の圧縮不織布2とその上下に積層された表面被覆材3とで構成されている。圧縮不織布2は、プレス対象物の熱プレス成形温度より低い軟化温度を有する熱可塑性の第一成分と、プレス対象物の熱プレス成形温度より高い軟化温度を有するか又は軟化温度を持たない耐熱性の第二成分とを含む繊維ウエブからなる不織布を、第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮処理したものである。繊維ウエブは、より具体的には、第一成分を主体とする第一繊維と、第二成分を主体とする第二繊維とを混合したウエブである。ここで、積層板のプレス成形温度は、通常は150℃〜300℃の範囲内であるが、プレス対象物である積層板の種類や積層板製造業者によって異なる温度が設定される。
【0026】
第一成分の種類は、熱プレス成形温度よりも低い軟化温度を有する熱可塑性の成分であれば特に限定はされない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、低融点ポリエステル(L−PET)、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられ、これらの中からプレス対象物のプレス条件に応じて選択することができる。
【0027】
第二成分は、熱プレス成形温度よりも高い軟化温度を有するか又は軟化温度を持たない耐熱性の成分であれば特に限定はされない。プレス成形温度よりも高い軟化温度を有する成分としては、ナイロン66、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノール等が挙げられる。軟化温度を持たない成分としては、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、金属、カーボン、シリカ、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0028】
第一繊維として、通常は上記第一成分の単一材料からなる繊維が用いられるが、第一成分を主体とする繊維の変形例として、図2に示す繊維9を使用しても好ましい結果が得られる。図2に示す繊維9は、第一成分からなる芯部10と、第二成分からなる被覆部11とからなる芯鞘構造を有している。このように、繊維9は、主体となる第一成分と、第二成分とを複合した複合繊維である。ここで、第一成分は熱プレス成形温度よりも低い軟化温度特性を有する成分であり、第二成分は熱プレス成形温度よりも高い軟化温度特性を有する成分か、又は軟化温度を持たない成分である。繊維9は、第一成分を主体とすることにより、熱プレス成形時に全体としては軟化し、冷却時に固化して第二繊維を拘束する。
【0029】
第二繊維も、通常は上記第二成分の単一材料からなる繊維が用いられるが、第二成分を主体とする芯鞘構造等の複合繊維としても構わない。この場合、第二繊維は、第二成分を主体とすることにより、熱プレス成形時に全体としては軟化せず、第一成分からの拘束を解かれて厚み回復性を発揮する。
【0030】
なお、第一繊維および第二繊維の説明において「主体とする」成分とは、第一繊維および第二繊維の一方の繊維を芯鞘構造等の複合構造とした場合、複合構造を構成する複数成分のうち、他方の繊維とは異なる特徴的な熱特性を当該繊維に発揮させる成分を意味している。
【0031】
第一繊維および第二繊維は、それぞれ単一の繊維を用いてもよいし、二種類以上の繊維を混ぜ合わせても良い。
【0032】
不織布2は、第一繊維と第二繊維とを重量比率で5/95〜70/30の割合で混合したウエブ4を、第二繊維と同等の成分からなる織布5とともにニードルパンチし、更に第一繊維の軟化温度以上の温度で圧縮処理したものである。圧縮処理は、不織布2と後述する表面被覆材3とを一体化する際のプレスの過程で行うことができる。
【0033】
表面被覆材3としては、耐熱性の有機あるいは無機材料からなるフィルム、織布、紙、箔、シート、板など任意のものを用途に応じて適宜用いることができる。これらの材料の片面に接着剤等により接着性を付与したものを貼り付けることができる。また、フィルムの一形態として、液状樹脂をコーティングしてもよい。図1に示す実施形態では、表面被覆材3として、ガラスクロス基材7の片面(接着面)にフッ素ゴム系の接着剤6を塗布し、他面(表面)にポリイミド樹脂8をコーティングしたシートを示している。
【0034】
クッション材1は、第一繊維の溶融による染み出しや、不織布の毛羽等が問題にならない場合には、表面被覆材3を省略しても構わない。また、不織布2および表面被覆材3以外に、他の層、例えばゴム、繊維補強ゴム、繊維補強樹脂等からなる弾性層や補強層等と積層しても構わない。他の層を積層する場合は、不織布2と表面被覆材3との間に介在させたり、複数の不織布2の間に介在させたりすることができる。
【0035】
クッション材1を構成する不織布2は、変形例として次の構成とすることもできる。すなわち、図2に示した芯鞘構造の繊維9は、芯部10が第一成分からなり、被覆部11が第二成分からなっているので、繊維9自体が第一成分と第二成分とを含んでいる。従って、不織布2として、上記例のように第一繊維と第二繊維とを混合することなく、芯鞘構造の繊維9のみを用いたウエブで不織布2を形成しても構わない。
【0036】
次に、クッション材1の製造方法について説明する。まず、第一繊維と第二繊維とを質量比率で5/95〜70/30となる割合で混合して混合ウエブ4を準備する。次いで2層の混合ウエブ4の間に補強用の織布5を配置し、ニードルパンチを施して不織布2を作成する。次に、不織布2の上下にそれぞれ、別途準備しておいた表面被覆材3を配置して積層する。ここで、表面被覆材3の片面(接着面)にはフッ素ゴム系の感熱接着剤6が塗布してある。この積層材を、ホットプレスに掛け、第一繊維の軟化温度以上の温度で圧縮する。この加熱加圧により、不織布2と表面被覆材3とを接着させると同時に第一繊維を軟化させる。続いて、圧縮状態を維持したまま、水冷等により第一繊維の軟化温度より低い温度に冷却する。これにより、第一繊維が固化して圧縮状態のまま第二繊維を拘束することができる。最後に圧縮状態を開放する。得られたクッション材1の不織布2は、従来のクッション材の不織布、すなわち第一繊維を含まず、耐熱性の第二繊維のみからなる不織布に比べて厚みが小さい圧縮不織布となっている。
【0037】
図3を参照して、圧縮不織布の動作原理を図解的に示す。図3は、第一成分を主体とする第一繊維4aと、第二成分を主体とする第二繊維4bとを備えた繊維ウエブ4の形態の変化を図解的に示しており、(a)は圧縮処理前の状態、(b)は圧縮処理後の状態、(c)は熱プレス成形時に加熱された状態を示している。
【0038】
図3は、動作原理を簡略的に示すために、第一繊維4aと第二繊維4bとを模式的に図示しているが、実際には、第一繊維4aおよび第二繊維4bはランダムに絡み合って存在している。
【0039】
圧縮処理前においては、第一繊維4aと第二繊維4bとが混在し、繊維ウエブ4は一定の厚みT1を有している。繊維ウエブ4を第一繊維4aの軟化温度以上の温度で厚さ方向に圧縮すると、全体の繊維ウエブ4が圧縮された状態で第一繊維4aは軟化し、繊維ウエブ4の厚みが減少する。このとき、圧縮処理温度よりも高い耐熱性を有している第二繊維は弾性回復力を保持している。続いて、この圧縮状態を維持したままで第一繊維4aの軟化温度よりも低い温度に冷却すると第一繊維4aは再び固化する。そして最後に圧縮状態を開放する。この状態では、図3(b)に示すように、固化した第一繊維4aが第二繊維4bを拘束するので、繊維ウエブ4の厚みは、T1よりも小さなT2にまで減少する。熱プレス成形時に繊維ウエブ4が第一繊維4aの軟化温度以上に加熱されると、図3(c)に示すように、第一繊維4aが軟化して第二繊維4bに対する拘束を解くので、第二繊維4bが厚み回復性を発揮し、繊維ウエブ4に対して、その厚みをT2よりも大きなT3にまで増加させるような厚み回復力が作用する。熱プレス成形時には繊維ウエブ4に対して熱盤によるプレス圧力が作用しているので、実際には、繊維ウエブ4の厚みが増加するわけではないが、プレス対象物に対しては、厚みT3の繊維ウエブ4が圧縮されているのと同等のクッション性を発揮する。
【0040】
次に、積層板の製造方法について説明する。本発明によるクッション材1を用い、従来と同様の方法で積層板を製造することができる。すなわち、図4に示すように、印刷回路を施したプリプレグ等からなる成形前の積層板材料12と熱盤13、13との間に本発明によるクッション材1を介在させ、所定時間の加圧、加熱、冷却及び減圧を施す。この過程で、積層板材料のプリプレグが流動化を経て硬化することにより、積層板が製造される。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するため、以下の通り比較実験を行った。実験に用いたクッション材は、前述の図1に示した構造であり、以下のとおりサンプル1〜7のクッション材を作成した。なお、各クッション材は、120℃で流動を開始するエポキシ樹脂プリプレグを用いたガラス基材エポキシ樹脂積層板を190℃で熱プレス成形する場合に使用されるクッション材を想定している。
【0042】
まず、第一繊維と第二繊維とを所定の割合で混合した混合ウエブ2層の間に補強用の織布を配置し、ニードルパンチを施して、目付け650g/mの不織布を作成した。各材料には次のものを使用した。
【0043】
[第一繊維]
構造:芯部が低融点ポリエステル(軟化温度118℃)からなり、被覆部がポリエステル(軟化温度264℃)からなる芯鞘構造のポリエステル繊維
太さ:4.4d
繊維長:51mm
[第二繊維]
構造:非熱可塑性であるメタ系芳香族ポリアミド繊維
太さ:2.2d
繊維長:51mm
[補強用織布]
構造:ポリエステル製平織り織布(軟化温度245℃)
目付け:80g/m
ここで、第一繊維と第二繊維との混合割合を表1に示すように変化させ、7種類の不織布を作成した。
【0044】
【表1】

【0045】
次に、各不織布の上下にそれぞれ表面被覆材を積層し、次の条件でプレスして一体化し、不織布1〜7に対応するサンプル1〜7の熱プレス用クッション材を得た。
【0046】
加熱:185℃×60分
冷却:15分
圧力:2MPa
表面被覆材としては、厚み0.2mmのガラスクロス基材の片面(接着面)にフッ素ゴム系の接着剤を塗布し、他面(表面)にポリイミド樹脂をコーティングしたシートを用いた。
【0047】
各サンプルのクッション材について、以下のとおりクッション性、断熱性および厚み復元性を比較した。
【0048】
[クッション性]
図5に示すように、上下の加熱加圧冷却板14の間にクッション材1を配置させ、4MPaの加圧力をかけながら、190℃の加熱を100分間行った後、加圧力を維持したまま水冷による冷却を20分間行い、その後加圧を開放するサイクルを1サイクルとするプレスを100回まで繰返した。加圧前と加圧中でのクッション材1の厚み変化量をクッション性の指標とし、プレスを繰り返すことにより、クッション性がどのように変化していくかを測定した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の結果から明らかなように、第一繊維を含まずに第二繊維のみからなるサンプル1の場合、クッション性の低下が大きい。それに対して、第一繊維を5〜70%含むサンプル2〜6の場合、クッション性の低下は小さい。特に、第一繊維を10〜70%含むサンプル3〜6において、クッション性の低下がより小さくなる。第一繊維を90%含むサンプル7の場合には、ブリードが発生したためにクッション性を測定できなかった。
【0051】
[断熱性]
図6に示すように、下から加熱加圧盤(30℃)15、断熱材(熱抵抗52.52sec・℃/cal)16、熱電対17、クッション材1の順に積み上げ、その上から加熱加圧盤(185℃)18によって圧力4MPaで加圧し、熱電対17に伝わる温度を読み取った。結果は、サンプル1の初回プレス時の測定温度を100とした対比で表し、表2に示す。
【0052】
表2から明らかなように、サンプル2〜6において、断熱性の変化が小さいことが認められる。特に、サンプル3〜6の断熱性の変化が小さい。
[厚み復元性]
各クッション材を無加圧状態で180℃のオーブンに30分間入れ、厚みの復元量を測定した。加熱前の厚みと加熱による厚み復元量を表2に示す。
【0053】
表2から明らかなように、サンプル2〜7において、厚み復元性が大きいことが認められる。
【0054】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明による熱プレス用クッション材は、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、多層板等のプリント基板や、ICカード、液晶表示板、セラミックス積層板などの積層板を製造する工程で、対象製品をプレス成形や熱圧着する際にクッション材として用いることができる。また、この発明は、熱プレス用クッション材を製造する方法を提供する。更に、この発明は、熱プレス用クッション材を使用した積層板の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明による熱プレス用クッション材を示す断面図である。
【図2】芯鞘構造の繊維の説明図である。
【図3】圧縮不織布の動作原理を図解的に示す図である。
【図4】この発明による積層板の製造方法の説明図である。
【図5】クッション材のクッション性を測定するための装置の説明図である。
【図6】クッション材の断熱性を測定するための装置の説明図である。
【図7】一般的な積層板の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 クッション材、2 圧縮不織布、3 表面被覆材、4 ウエブ、4a 第一繊維、4b 第二繊維、5 織布、6 接着剤、7 ガラスクロス基材、8 ポリイミド樹脂、9 芯鞘構造を有する繊維、10 芯部、11 被覆部、12 積層板材料、13 熱盤、14 加熱加圧冷却板、15 加熱加圧盤、16 断熱材、17 熱電対、18 加熱加圧盤、19 積層板材料、20 熱盤、21 クッション材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維ウエブからなる不織布を備えた熱プレス用クッション材において、
前記繊維ウエブが、相対的に低い軟化温度を有する第一成分と、相対的に高い軟化温度を有する耐熱性の第二成分とを含み、
前記不織布が、前記第一成分の軟化温度以上で前記第二成分の軟化温度よりも低い温度で圧縮処理されていることを特徴とする、熱プレス用クッション材。
【請求項2】
繊維ウエブからなる不織布を備えた熱プレス用クッション材において、
前記繊維ウエブが、軟化温度を有する第一成分と、軟化温度を持たない耐熱性の第二成分とを含み、
前記不織布が、前記第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮処理されていることを特徴とする、熱プレス用クッション材。
【請求項3】
前記第一成分の軟化温度はプレス対象物の熱プレス成形温度よりも低く、前記第二成分の軟化温度はプレス対象物の熱プレス成形温度よりも高い、請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項4】
前記第一成分の軟化温度は、プレス対象物の熱プレス成形温度よりも低い、請求項2に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項5】
前記第一成分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、低融点ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれた材料であり、
前記第二成分は、ナイロン66、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノールからなる群から選ばれた材料である、請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項6】
前記第一成分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、低融点ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれた材料であり、
前記第二成分は、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、金属、カーボン、シリカ、ガラス、セラミックスからなる群から選ばれた材料である、請求項2に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項7】
前記繊維ウエブは、前記第一成分を主体とする第一繊維と、前記第二成分を主体とする第二繊維とを混合したものである、請求項1〜6のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項8】
前記第一繊維と前記第二繊維との混合割合が、質量比率で5/95〜70/30である、請求項7に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項9】
前記第一繊維は、前記第一成分からなる芯部と、前記第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する、請求項7または8に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項10】
前記繊維ウエブは、前記第一成分からなる芯部と、前記第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する繊維からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項11】
前記不織布は、前記繊維ウエブと、前記第二成分と同等の成分からなる織布とをニードルパンチしたものである、請求項1〜10のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項12】
前記不織布上に積層された表面被覆材を備える、請求項1〜11のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項13】
圧縮不織布を備えた熱プレス用クッション材を製造する方法であって、
軟化温度を有する熱可塑性の第一成分と、前記第一成分の軟化温度よりも高い軟化温度を有するか又は軟化温度を持たない耐熱性の第二成分とを含む繊維ウエブからなる不織布を準備する工程と、
前記不織布を前記第一成分の軟化温度以上の温度で圧縮する工程と、
前記不織布を、圧縮状態を維持したままで前記第一成分の軟化温度より低い温度に冷却する工程と、
冷却後に、前記不織布に対する圧縮状態を開放する工程とを備える、熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項14】
前記繊維ウエブは、前記第一成分を主体とする第一繊維と、前記第二成分を主体とする第二繊維とを混合したものである、請求項13に記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項15】
前記第一繊維と前記第二繊維との混合割合が、質量比率で5/95〜70/30である、請求項14に記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項16】
前記第一繊維は、前記第一成分からなる芯部と、前記第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する、請求項14または15に記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項17】
前記繊維ウエブは、前記第一成分からなる芯部と、前記第二成分からなる被覆部とからなる芯鞘構造を有する繊維からなる、請求項13に記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項18】
前記不織布は、前記繊維ウエブと、前記第二成分と同等の成分からなる織布とをニードルパンチしたものである、請求項13〜17のいずれかに記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項19】
前記不織布上に、表面被覆材が積層一体化されている、請求項13〜18のいずれかに記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項20】
積層板材料と加熱・加圧手段との間に平板状のクッション材を介在させた状態で加熱・加圧処理する積層板の製造方法であって、前記クッション材は、請求項1〜12のいずれかに記載の熱プレス用クッション材であることを特徴とする、積層板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−192786(P2006−192786A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8137(P2005−8137)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】