説明

熱交換器用チューブ及び熱交換器

【課題】組み立て時にチューブ表面がフィンによって擦られる場合でも、ろう付け用組成物不足を生じることなく、これらを確実に接合することができる熱交換器用チューブ及び熱交換器を提供する。
【解決手段】熱交換器用チューブ2は、少なくとも組み立て時にフィン3の溝又は孔の内周部に接する部位の表面が、10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成され、この算術平均粗さRaに形成された表面にろう付け用組成物9が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器用チューブ及びそのチューブの表面にフィンを接合してなる熱交換器に係り、フィンに形成した孔又は溝にチューブを緊密嵌合して組み立てられる熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用、建物用の空調装置あるいは冷蔵庫や冷凍庫等に用いられている熱交換器として、アルミニウム合金の押出成形によって形成したチューブを多数の板状フィンに串刺しするように嵌合したものが知られている。このような熱交換器として特許文献1及び特許文献2記載のものがある。
【0003】
特許文献1記載の熱交換器は、相互に平行な多数の板状フィンに形成した溝にチューブ(伝熱管)を嵌合している。フィンの溝の両側には、フィンの一方の面側に折り曲げられたフィンカラーが設けられ、このフィンカラーとチューブとの間にろう材(はんだ)が流れ込んで接合されるようになっている。
特許文献2記載の熱交換器は、多数の板状フィンに形成した長孔にU字状に曲げたチューブをその曲管部から挿入して固着した構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−156525号公報
【特許文献2】特開平11−333539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような熱交換器において、チューブと板状フィンとをろう付けにより接合する場合、チューブの表面に予めろう材を塗布しておき、板状フィンとチューブとを嵌合状態とした後に、加熱してろう材を溶融固化することが行われる。
【0006】
これら特許文献記載の熱交換器においては、いずれもチューブをフィンの溝又は孔に嵌合するようにして組み立てられるものであり、チューブとフィンとのろう付けのためにチューブに予めろう材が塗布されている場合には、フィンによってチューブ表面が擦られることにより、チューブ表面のろう材が剥がれてしまい、ろう材不足により接合不良となるおそれがある。また、フィンも、嵌合時にチューブに引っ掛かって、引きちぎられる場合がある。これらを防止するため、フィンとチューブとのクリアランスを大きくすると、これらの接合部に十分なろう材が供給されずに、接合不良となる。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、組み立て時にチューブ表面がフィンによって擦られる場合でも、ろう材不足を生じることなく、これらを確実に接合することができる熱交換器用チューブ及び熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱交換器用チューブは、フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位の表面が、10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成され、前記算術平均粗さRaに形成された表面にろう付け用組成物が塗布されていることを特徴とする。
【0009】
チューブの表面が10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成されて、凹凸を有しているので、組み立て時に表面がフィンに擦られることにより、ろう付け用組成物の表層部が削られたとしても、チューブ表面の凹部内にはろう付け用組成物が残留しており、この残留ろう付け用組成物を用いてフィンとチューブとをろう付けすることができる。したがって、ろう付け用組成物の不足を生じることなく、フィンとチューブとを確実にろう付けすることができる。
【0010】
この場合、チューブの算術平均粗さRaが10μm未満では、フィンを組み立てた際にろう付け用組成物が削り取られると、残留するろう付け用組成物が少なくなって所望の効果を得ることができず、100μmを超えると、大きな凹凸の存在により、その谷部とフィンとの隙間が大きくなって、ろう付け用組成物が供給不足となるおそれがある。
ろう付け用組成物としては、ろう材、フラックス、バインダのいずれか、又はこれらのうちの二種以上の混合物が該当する。
【0011】
本発明の熱交換器用扁平チューブにおいて、フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、表面にろう付け用組成物が塗布されてなり、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位であって前記ろう付け用組成物が塗布された表面に、直径0.5mm〜10mm、深さ10μm〜50μmの多数の凹部が形成されている構成としてもよい。
また、フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、表面にろう付け用組成物が塗布されてなり、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位であって前記ろう付け用組成物が塗布された表面に、幅1mm〜5mm、深さ10μm〜50μmの複数本の溝が長手方向に沿って形成されている構成としてもよい。
【0012】
このようにろう付け用組成物が塗布されたチューブ表面が凹部又は溝を有することにより、組み立て時にろう付け用組成物が擦られて削られたとしても、凹部又は溝内にろう付け用組成物が残留し、ろう付け用組成物不足を生じることなく、フィンとチューブとを確実にろう付けすることができる。
【0013】
これらチューブ表面の凹部あるいは溝は、その数値範囲の下限未満では、フィンを組み立てた際にろう付け用組成物が削り取られると、残留するろう付け用組成物が少なくなって所望の効果を得ることができず、数値範囲の上限を超えると、大きな凹凸の存在により、その谷部とフィンとの隙間が大きくなって、ろう付け用組成物が供給不足となるおそれがある。
これらチューブ表面の凹部又は溝は、ろう付け用組成物が塗布される前のチューブの表面を10μm〜100μmの算術平均粗さRaとしたものに適用してもよいし、その算術平均粗さRaよりも小さい平滑なチューブに適用してもよい。
【0014】
そして、本発明の熱交換器は、フィンに形成した溝又は孔に前記チューブが嵌合状態に組み立てられるとともに、これらフィンとチューブとの間がろう付けにより接合されて構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チューブ表面の表面粗さ、凹部又は溝により、フィンとチューブとの組み立て時にチューブ表面から削り取られるろう付け用組成物を抑制して、チューブ表面にろう付け用組成物を残留させることができるので、ろう付け用組成物の不足を生じることなく、フィンとチューブとを確実にろう付けすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の熱交換器の一部を省略した斜視図である。
【図2】図1の熱交換器におけるチューブ表面の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の熱交換器の正面図である。
【図4】図3の熱交換器の縦断面図である。
【図5】図3の熱交換器における組み立て途中の状態を示す部分断面図である。
【図6】本発明の熱交換器用チューブの表面形状の変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明の熱交換器用チューブの表面形状の他の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
この熱交換器1は、図1に示すように、熱媒としての流体を通す複数のチューブ2と、これらチューブ2の外表面に接触して熱を放散する多数のフィン3と備え、チューブ2内を流通する熱媒体としての流体と、フィン3間を流通する空気との間で熱交換される構成としている。これらチューブ2及びフィン3は、アルミニウム合金から構成されている。
【0018】
また、チューブ2は、幅寸法に対して高さが小さい扁平な形状であり、その外周を形成する周壁4の内側に幅方向に間隔をおいて複数の仕切り壁5が形成されていることにより、周壁4の内側空間が相互に平行な複数の内部流路6に分割された状態の、いわゆる多穴管である。
また、このチューブ2の外表面は、算術平均粗さRaが10μm〜100μmに形成されている。この算術平均粗さRaのチューブ12を得るには、押出成形したチューブの表面にワイヤブラシを回転させながら押し付けるなどの方法を用いることができる。
【0019】
一方、フィン3は、板状に形成され、一定の間隔をおいて相互に平行に配置されており、その一側部に、チューブ2を幅方向に挿入する溝7が側部の長手方向に沿う所定間隔で複数形成されている。また、各溝7の両側部には、垂直に立ち上げてなる立ち上げ部8が一体に形成されている。
そして、チューブ2とフィン3とは、一定間隔に並べたフィン3の一側方から図1の矢印で示すように、チューブ2を幅方向に沿って各溝7内に嵌合して固定されている。この場合、チューブ2は、幅方向一端部から扁平な表面にかけた部分が溝7内に収容され、幅方向の他端部は溝7の開口部に配置されており、また、溝7の立ち上げ部8がチューブ2の扁平な表面に接触している。そして、チューブ2の幅方向一端部から扁平な表面にかけた部分がフィン3にろう付けにより固定されている。
なお、フィン3の溝7とチューブ2との間の隙間は10μm以下とするのがよい。
【0020】
このように構成された熱交換器を組み立てる方法について説明する。
チューブ2には、前述の算術平均粗さRaに仕上げられた表面にろう付け用組成物9が塗布されている。このろう付け用組成物9は、例えば、ろう粉末とフラックスとバインダとからなるろう組成物である。ろう粉末としては、Si粉末、Al−Si粉末、Al−Si−Zn粉末等が用いられ、フラックスとしては、K1−3AlF4−6、Cs1−3AlF4−6、Cs0.021−2AlF4−5、AlF、KF、KZnF、KSiFなどのフッ化物系フラックスが用いられ、バインダとしてはアクリル系樹脂が用いられる。
【0021】
このろう付け用組成物9の塗布厚さは5μm〜20μmが好ましい。この場合、チューブ2の全面にわたってろう付け用組成物9が塗布されていてもよいが、幅方向の他端部を除き、フィン3と接触する幅方向の一端部から扁平な表面にかけた部分にろう付け用組成物9が塗布されていればよい。
このろう付け用組成物9を塗布したチューブ2を図1の矢印で示すようにフィン3の溝7内に嵌合した後、全体を加熱炉に入れて加熱することにより、チューブ2表面のろう付け用組成物9を溶融させ、その後、冷却して固化させフィン3とチューブ2とを一体化する。
【0022】
この組み立て作業において、チューブ2はフィン3の溝7の両側縁に擦られながら溝7内に嵌合することになり、図2に鎖線で示すようにフィン3の溝7の両側縁に形成されている立ち上げ部8がチューブ2表面に塗布されているろう付け用組成物9の一部を削り取ってしまうが、チューブ2の表面は10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成されているため、ろう付け用組成物9の表層部が削り取られたとしても、表面の凹凸内の凹部にろう付け用組成物9が残留している。また、チューブ2表面から削り取られたろう付け用組成物9はフィン3の溝7の側縁付近の表面に付着しており、ろう付け時に加熱されると、そのろう付け用組成物が溶融してフィン3とチューブ2との間にフィレットを形成するとともに、フィン3とチューブ2との隙間が小さいため、その隙間にも侵入する。
したがって、これらチューブ2表面の凹部内に残留したろう付け用組成物及びフィン3表面に付着したろう付け用組成物等により、ろう付け用組成物不足を生じることなく、フィン3とチューブ2とを確実にろう付けすることができる。
【0023】
この場合、チューブ2の算術平均粗さRaが10μm未満では、フィン3を組み立てた際にろう付け用組成物9が削り取られると、残留するろう付け用組成物9が少なくなって所望の効果を得ることができず、100μmを超えると、大きな凹凸の存在により、その谷部とフィン3との隙間が大きくなって、ろう付け用組成物が供給不足となるおそれがある。このため、チューブ2の算術平均粗さRaは10μm〜100μmが好ましく、この範囲内の表面粗さとすることにより、チューブ2とフィン3とをろう付けにより確実に固着することができる。
【0024】
また、チューブ2とフィン3の溝7との間の隙間が10μm以下、ろう付け用組成物9の塗布厚さも5μm〜20μmの範囲内であれば、ろう付け用組成物は溶融により流動するので、フィン3とチューブ2との隙間へのろう付け用組成物の侵入が容易であり、確実にろう付けすることができる。
【0025】
図3から図5は、本発明の第2実施形態の熱交換器を示している。
この熱交換器11は、熱媒としての流体を通す複数本のチューブ12と、これらチューブ12が串刺し状態に嵌合することによりチューブ12の外表面に接触して熱を放散する多数のフィン13と、各チューブ12を連結するヘッダ管14と、このヘッダ管14を通して流体をチューブ12に供給する供給管15及びチューブ12を経由した流体を回収する回収管16とを備える構成としている。これらチューブ12、フィン13、ヘッダ管14、供給管15及び回収管16は、アルミニウム合金から構成されている。
【0026】
また、チューブ12は、図1のチューブと同様、幅寸法に対して高さが小さい扁平形状とされており、長さ方向の途中で折り曲げ形成されることにより、直管部17の間にU字状の曲管部18が屈曲形成され、その直管部17の各端部がヘッダ管14に接続されている。このヘッダ管14は、内部が複数に分割され、そのヘッダ管14の両端部に供給管15及び回収管16が接続されていることにより、供給管15から回収管16に向けて各チューブ12がヘッダ管14内を経由して順次連結状態とされ、流路が蛇行状に形成される。
また、このチューブ12の表面は、算術平均粗さRaが10μm〜100μmに形成されている。この算術平均粗さRaのチューブ12を得るには、押出成形したチューブの表面にワイヤブラシを回転させながら押し付けるなどの方法を用いることができる。
【0027】
一方、フィン13は、一定の間隔をおいて相互に平行に配置されており、チューブ12を部分的に嵌合する孔19が複数形成されている。また、孔19の周縁部にはバーリング加工が施されており、図5に示すように、孔19の周縁部を垂直に立ち上げてなる立ち上げ部20が一体に形成されている。
そして、チューブ12とフィン13とは、一定間隔に並べたフィン13を串刺しするように、フィン13の孔19内にチューブ12の直管部17が嵌合し、その直管部17の部分でフィン13がろう付けにより固定されている。
なお、フィン13の孔19とチューブ12との間の隙間は10μm以下とするのがよい。
【0028】
この熱交換器を組み立てる方法について説明する。
チューブ12の表面は前述の算術平均粗さRaに仕上げられ、その算術平均粗さRaに仕上げられた表面にろう付け用組成物9が塗布される。このろう付け用組成物9は、チューブ12の全長にわたって塗布されていてもよいが、フィン13が接触する直管部17の表面にろう付け用組成物9が塗布されていればよい。ろう付け用組成物9の塗布厚さは5μm〜20μmとされる。
そして、このチューブ12の直管部17をフィンの孔19内に挿入するようにしてフィン13を一枚ずつ嵌め込む。この際には、図5に示すように、フィン13の立ち上げ部20が挿入方向の後方を向くように挿入される。そして、多数枚のフィン13を順次嵌め込み、前方のフィン13の立ち上げ部20に後方のフィン13の表面が接触した状態とすることにより、各フィン13が立ち上げ部20の長さに相当する一定の間隔を開けて配置される。このようにして多数枚のフィン13をチューブ12に嵌め込んだ後、全体を加熱炉に入れて加熱することにより、チューブ12表面のろう付け用組成物を溶融させ、その後、冷却して固化させフィン13とチューブ12とを一体化する。
【0029】
この組み立て作業において、フィン13はチューブ12の直管部17表面を擦りながら嵌め込まれることになり、フィン14がチューブ12表面に塗布されているろう付け用組成物9の一部を削り取ってしまうが、チューブ12の表面は10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成されているため、ろう付け用組成物9の表層部が削り取られたとしても、表面の凹凸内の凹部にろう付け用組成物が残留している。また、チューブ12表面から削り取られたろう付け用組成物はフィン13の表面に付着しており、ろう付け時に加熱されると、そのろう付け用組成物が溶融してフィン13とチューブ12との間にフィレットを形成するとともに、フィン13とチューブ12との隙間が小さいため、その隙間にも侵入する。
したがって、これらチューブ12表面の凹部内に残留したろう付け用組成物及びフィン13表面に付着したろう付け用組成物等により、ろう付け用組成物不足を生じることなく、フィン13とチューブ12とを確実にろう付けすることができる。
【0030】
図6及び図7は、チューブ表面形状の変形例を示している。
図6に示すチューブ21では、表面にろう付け用組成物9が塗布されているとともに、ディンプル状の凹部22が多数形成されている。これら凹部22は、直径0.5mm〜10mm、深さ10μm〜50μmとされている。
また、図7に示すチューブ23は、表面にろう付け用組成物9が塗布されているとともに、幅1mm〜5mm、深さ10μm〜50μmの複数本の溝24が長手方向に沿って形成されている。
これら凹部22又は溝24の深さはろう付け用組成物9が塗布された後の寸法である。
【0031】
このようにろう付け組成物9が塗布されたチューブ21,23表面が凹部22又は溝24を有することにより、組み立て時にろう付け用組成物9が擦られて削られたとしても、凹部22又は溝24内にろう付け用組成物9が残留し、ろう付け用組成物不足を生じることなく、フィンとチューブとを確実にろう付けすることができる。
この場合、図6に示すチューブ21では、表面の凹部22が直径0.5mm未満、あるいは深さ10μm未満であり、一方、図7に示すチューブ23では、表面の溝24が幅1mm未満、あるいは深さ10μm未満であると、フィンを組み立てた際にろう付け用組成物9が削り取られた場合に、残留するろう付け用組成物9が少なくなって所望の効果を得ることができない。また、図6に示すチューブ21では、表面の凹部22が直径10mmを超え、あるいは深さ50μmを超えている場合、一方、図7に示すチューブ23では、表面の溝24が幅5mmを超え、あるいは深さ50μmを超えている場合、大きな凹凸の存在により、その谷部とフィンとの隙間が大きくなって、ろう付け用組成物9が供給不足となるおそれがある。
これらチューブ21,23表面の凹部22又は溝24は、第1実施形態又は第2実施形態で示したろう付け用組成物が塗布される前のチューブの表面を10μm〜100μmの算術平均粗さRaとしたものに適用してもよいし、その算術平均粗さRaよりも小さい平滑なチューブに適用してもよい。
【実施例】
【0032】
アルミニウム合金の押出成形によりチューブを作製し、その表面にワイヤブラシを回転させながら押し付けて所定の表面粗さとしたもの(表1及び表2中「粗し」と表示)、ディンプル状の複数の凹部を形成したもの(表1及び表2中「ディンプル」と表示)、溝を形成したもの(表1及び表2中「溝」と表示)をそれぞれ用意した。また、ワイヤブラシで所定の表面粗さとしたものにさらに凹部を形成したもの(表2中「粗し+ディンプル」と表示)、及びワイヤブラシで所定の表面粗さとしたものにさらに溝を形成したもの(表2中「粗し+溝」と表示)も作製した。表2の「押出まま」との表示は、押出成形により作製したままのチューブであることを示す。比較例15を除き、チューブの表面にはろう材を塗布した。表1及び表2中、表面粗さは、ろう材を塗布する前のチューブの表面粗さを測定したものであり、凹部又は溝の寸法は、ろう材を塗布した後の表面を測定したものである。
【0033】
このようにして作製したチューブに、図5に示す形状のフィンを順次嵌合した後、窒素ガス雰囲気中で590〜600℃で5分間加熱してろう付け接合した。
フィンをチューブに嵌合する際には、フィンがチューブに引っ掛かるなどにより、フィンちぎれが発生したものやフィンの配列ピッチが安定しなかったものを確認した。また、ろう付け後は、接合率を測定し、エロージョン発生の有無を確認した。
フィンちぎれが発生したものやフィンの配列ピッチが安定しなかったものは×、これらが認められなかったものを○とした。
【0034】
接合率は、ろう付けする接合面において、接合すべき全面積から空隙等の未接合部が形成された部分の面積を差し引いた実際の接合面積が、接合すべき全面積に占める割合として求めた。その結果、接合率が90%未満であったものを×、90%以上95%未満であったものを△、95%以上であったものを○、100%であったものを◎とした。
エロージョンは、部分的にろう材が過剰となることによって生じる母材の侵食である。その評価は、ろう付け後の試料を樹脂埋めし、断面を鏡面研磨してバーカー氏液で組織を現出後、光学顕微鏡で観察してろう侵食深さ(ろう材表面からの深さ)を測定した。その侵食深さが60μm以上であったものを×、60μm未満であったものを○とした。
これらの結果を表1及び表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
これら表1及び表2に示されるように、チューブ表面の算術平均粗さRaが10μm〜100μmのもの、直径0.5mm〜10mm、深さ10μm〜50μmのディンプル状の凹部を有するもの、幅1mm〜5mm、深さ10μm〜50μmの溝を有するもの、あるいはこれら表面粗さと凹部又は溝の組み合わせによるものは、フィン嵌合時にフィンちぎれ等が生じることがなく、フィン接合率が高く、エロージョンのない良好な接合部を得ることができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ろう付け組成物として、ろう粉末とフラックスとバインダとからなる混合物としたが、これらのうちの1種からなるもの、又はこれらのうちの2種以上の混合物としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 熱交換器
2 チューブ
3 フィン
9 ろう付け用組成物
11 熱交換器
12 チューブ
13 フィン
14 孔
21 チューブ
22 凹部
23 チューブ
24 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位の表面が、10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成され、前記算術平均粗さRaに形成された表面にろう付け用組成物が塗布されていることを特徴とする熱交換器用チューブ。
【請求項2】
フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、表面にろう付け用組成物が塗布されてなり、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位であって前記ろう付け用組成物が塗布された表面に、直径0.5mm〜10mm、深さ10μm〜50μmの多数の凹部が形成されていることを特徴とする熱交換器用チューブ。
【請求項3】
フィンに形成した溝又は孔に嵌合状態に組み立てられる熱交換器用チューブであって、表面にろう付け用組成物が塗布されてなり、少なくとも組み立て時に前記フィンの溝又は孔の内周部に接する部位であって前記ろう付け用組成物が塗布された表面に、幅1mm〜5mm、深さ10μm〜50μmの複数本の溝が長手方向に沿って形成されていることを特徴とする熱交換器用チューブ。
【請求項4】
前記ろう付け用組成物が塗布される前の表面は、10μm〜100μmの算術平均粗さRaに形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の熱交換器用チューブ。
【請求項5】
フィンに形成した溝又は孔に請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱交換器用チューブが嵌合状態に組み立てられるとともに、これらフィンとチューブとの間がろう付けにより接合されていることを特徴とする熱交換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102951(P2012−102951A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252986(P2010−252986)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】