説明

熱伝導型ガス分析器

【課題】本発明は、基準ガス封入室と測定ガス室の内部環境を同一にするように自動的に調整することができて、CPU等を用いた高価な補正装置を使用する必要がなく、正確な測定値を得られる熱伝導型ガス分析器を提供する。
【解決手段】基準ガス封入室の内部環境を測定ガス室の内部環境に対して対応しうるように形成されたことを特徴とする。上記基準ガス封入室は、その容積が可変となるように形成され、その容積変化によりその内部環境を上記測定ガス室の内部環境に合致させうるように形成されている。上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室は、互いに連通するように形成され、その連通部に基準ガス封入室側と測定ガス室側とを仕切るダイヤフロム等を用いて形成された可動隔壁が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導型ガス分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱伝導型ガス分析器にあっては、基準ガス室内に基準ガスを密閉させる形式のものと、基準ガスを流通させる形式のものとがある。
【0003】
このような基準ガス室内に基準ガスを密閉させる形式の熱伝導型ガス分析器にあっては、従来、基準ガス封入室と、測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、不平衡電流又は電圧を発生せしめるように上記熱線素子が組み込まれて形成された抵抗ブリッジ回路とを有して構成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
このような従来の熱伝導型ガス分析器にあっては、上記基準ガス封入室は外部から密閉され、内部に基準ガスを封入できるように構成され、一方、上記測定ガス室は、外部から密閉されることなく、測定ガスを常時、流通させて測定するように構成されている。
【0005】
この場合、上記の熱伝導型ガス分析器は、従来、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室が完全に分離されて形成されていた。
【0006】
上記基準ガス封入室は、外部環境からシールされた構造になっていることから、外部環境における気温、気圧の変化に拘わらず、封入された基準ガスの密度が一定で変化がないため、基準出力値が常に一定であった。
【0007】
これに対し、上記のように測定ガス室は外部から密閉されることなく測定ガスを流通させるように構成されていることから、測定ガスは気温、気圧等の外部環境の影響を受けることになる。従って、測定ガス室内の測定ガスの温度や圧力は変化するため、これらの変化が密度変化として現れる。
【0008】
この場合、基準ガス封入室は密閉され、外部環境の影響を受けないことから、上記基準ガス封入室と測定ガス室の内部環境が同一にならず、温度や圧力に差が生じて、測定条件が異なってしまうので、正確な測定値が得られないという問題点が存していた。
【0009】
このような問題を解決するためには、測定値の誤差を解消するためにCPU等を用いて補正することも可能ではあるが、その補正装置を備えた場合には設備費が嵩む、という不具合があった。
【0010】
【非特許文献1】岡 正太郎、「工業ガス分析(連続分析機の原理と応用)」、共立出版株式会社、昭和41年11月1日、P147〜P164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基準ガス封入室と測定ガス室の内部環境を同一にするように自動的に調整することができて、CPU等を用いた高価な補正装置を使用する必要がなく、正確な測定値を得られる熱伝導型ガス分析器の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、基準ガスが封入される基準ガス封入室と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、上記熱線素子を用いて形成された抵抗ブリッジ回路とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器において、上記基準ガス封入室の内部環境を上記測定ガス室の内部環境に対して対応しうるように形成されたことを特徴とする。
【0013】
即ち、請求項1記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、基準ガスが封入される基準ガス封入室と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、上記熱線素子を用いて形成された抵抗ブリッジ回路とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器を改良したものであって、従来の熱伝導型ガス分析器と異なる点は、上記基準ガス封入室の内部環境が上記測定ガス室の内部環境に対して対応しうるように形成されている点である。
【0014】
また、請求項2記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記基準ガス封入室が、その容積が可変となるように形成され、その容積変化によりその内部環境を上記測定ガス室の内部環境に合致させうるように形成されたことを特徴とする。
【0015】
即ち、請求項2記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記基準ガス封入室の容積が一定ではなく、変化することにより内部環境の気温や気圧を変化させて、上記測定ガス室の内部環境に合致させるように構成されている。
【0016】
また、請求項3記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室は、互いに連通するように形成され、その連通部に基準ガス封入室側と測定ガス室側とを仕切る可動隔壁が設けられたことを特徴とする。
【0017】
即ち、請求項3記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室が、互いに隔離されて形成されるものではなく、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室は、互いに上記可動隔壁を介して連通するように形成されており、測定ガス室内のガスの圧力変動により上記可動隔壁が圧力変形することにより上記基準ガス封入室の容積が変化するように形成されている。
【0018】
また、請求項4記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記可動隔壁が、上記測定ガス室内と上記基準ガス封入室内の圧力を平衡状態にするように自動的に変位しうるように形成されたことを特徴とする。
【0019】
即ち、請求項4記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記測定ガス室内の圧力変化に対応して、上記可動隔壁が、操作や制御を行うことなく、自動的に変位することにより、上記測定ガス室内と上記基準ガス封入室内の圧力を平衡状態にするものである。
【0020】
また、請求項5記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記可動隔壁が、機械式変位機構を用いて形成されたことを特徴とする。
【0021】
即ち、請求項5記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記測定ガス室内の内部環境が変化したときに、上記可動隔壁が機械的に変位することにより、上記測定ガス室内と上記基準ガス封入室内の圧力を平衡状態にするものである。
【0022】
また、請求項6記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がダイヤフラムを用いて形成されていることを特徴とする。
【0023】
即ち、請求項6記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記可動隔壁がダイヤフラムにより形成されている。
【0024】
また、請求項7記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がピストンを用いて形成されていることを特徴とする。
【0025】
即ち、請求項7記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記可動隔壁がピストンにより形成されている。
【0026】
また、請求項8記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がベローズを用いて形成されていることを特徴とする。
【0027】
即ち、請求項8記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器にあっては、上記可動隔壁がベローズにより形成されている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、基準ガスが封入される基準ガス封入室と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、上記熱線素子を用いて形成された抵抗ブリッジ回路とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器において、上記基準ガス封入室の内部環境を上記測定ガス室の内部環境に対して対応しうるように形成されたことから、上記基準ガス封入室と測定ガス室の内部環境、即ち、温度や圧力を同一にして上記不平衡電量又は電圧を測定することができる。これにより、測定の安定性及び精度が向上して正確な測定値を得られると共に、CPU等を用いた高価な補正装置を使用する必要がなく、設備費を低減することができる。
【0029】
また、請求項2記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記基準ガス封入室が、その容積が可変となるように形成され、その容積変化によりその内部環境を上記測定ガス室の内部環境に合致させうるように形成されたことから、上記基準ガス封入室の容積を変化させることにより、上記基準ガス封入室と上記測定ガス室の内部環境を容易に等しくすることができる。これにより、例えば圧力を等しくするために、基準ガス封入室内を加圧したり減圧するような補正装置が不要であり、設備費が嵩む事態を回避することができる。
【0030】
また、請求項3記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室は、互いに連通するように形成され、その連通部に基準ガス封入室側と測定ガス室側とを仕切る可動隔壁が設けられたことから、上記連通部において可動隔壁だけを変位させるだけで上記基準ガス封入室の容積を容易に変化させることができる。従って、上記基準ガス封入室の構造が複雑化するのを避けることができ、上記基準ガス封入室の製造コストを低く抑えることができる。
【0031】
また、請求項4記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記可動隔壁が、上記測定ガス室内と上記基準ガス封入室内の圧力を平衡状態にするように自動的に変位しうるように形成されたことから、上記可動隔壁を変位させる装置や操作が不要となる。従って、設備が複雑化するのを避けて設備費を低減することができる。
【0032】
また、請求項5記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記可動隔壁が、機械式変位機構を用いて形成されたことから、構造が複雑化せず、市販の部品を用いて製造できるので、製造コストを低減することができる。
【0033】
また、請求項6記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がダイヤフラムを用いて形成されていることから、構造が複雑化せず、製造コストを低減することができる。
【0034】
また、請求項7記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がピストンを用いて形成されていることから、構造が複雑化せず、製造コストを低減することができる。
【0035】
また、請求項8記載の本発明に係る熱伝導型ガス分析器は、上記機械式変位機構がベローズを用いて形成されていることから、構造が複雑化せず、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る熱伝導型ガス分析器11は、図1及び図2に示すように、基準ガスが封入される基準ガス封入室12と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室13と、上記基準ガス室12内に設置された熱線素子14と、上記測定ガス室13内に設置された熱線素子15と、上記熱線素子14,15を用いて形成された抵抗ブリッジ回路16とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子14,15の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路16に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器11にであって、上記基準ガス封入室12の内部環境を上記測定ガス室13の内部環境に対して対応しうるように形成されている。
そして、上記基準ガス封入室12は、図1に示すように、その容積が可変となるように形成され、その容積変化によりその内部環境を上記測定ガス室13の内部環境に合致させうるように形成されている。
また、図1に示すように、上記基準ガス封入室12と、上記測定ガス室13は、互いに連通するように形成され、その連通部17に基準ガス封入室12側と測定ガス室13側とを仕切る可動隔壁18が設けられている。
そして、上記可動隔壁18は、図1に示すように、上記測定ガス室13内と上記基準ガス封入室12内の圧力を平衡状態にするように自動的に変位しうるように形成されている。
また、上記可動隔壁18は、図1に示すように、機械式変位機構を用いて形成されている。
そして、上記機械式変位機構は、図1に示すように、ダイヤフラム19を用いて形成されている。
なお、上記機械式変位機構としてピストンを用いた実施形態や、上記機械式変位機構としてベローズを用いた実施形態も可能である。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
本実施例に係る熱伝導型ガス分析器11は、図1に示すように、基準ガスが封入される基準ガス封入室12と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室13とを有している。
【0038】
上記基準ガス封入室12は、図1に示すように、外部から気体が流入したり、外部へ気体が流出しないように密閉され、その内部に基準ガスが封入されている。
従って、基準ガスの組成は一定で、変化しない。
なお、基準ガスとして本実施例では空気を用いているが、アルゴンや窒素などを用いることも可能である。
【0039】
一方、上記測定ガス室13は、図1に示すように、密閉されておらず、外部から測定ガスを流入させるガス導入口20と、外部へ測定ガスを流出させるガス排出口21が開設されている。
なお、測定ガス室は、測定ガスの導入の仕方によって、拡散形、対流形及び流通形の3種類があり、カサロメーターに代表される拡散形は、従来より使用され、測定ガスはガラスウールを詰めたフィルターを通って拡散し、熱線素子に到達するように形成され、対流形は、ガス導入口から流入した測定ガスが熱線素子で加熱されることにより自然対流してガス排出口から流出するように構成され、流通形は、測定ガスを下方から上方へ流通させるように形成されている。本実施例に係る上記測定ガス室13は、上記対流形を採用している。
【0040】
また、本実施例における上記測定ガスは、窒素、空気、アルゴンと共に含まれる水素、又は、窒素、空気、アルゴンと共に含まれるヘリウムを対象としている。
【0041】
上記基準ガス室12内には、図1に示すように、熱線素子14が設置されている。
同じく、上記測定ガス室13内にも、図1に示すように、熱線素子15が設置されている。これら熱線素子14,15はコイル状に形成されている。
【0042】
上記基準ガス室12内に設置された上記熱線素子14と、上記測定ガス室13内に設置された上記熱線素子15は、同一の環境下で同一の抵抗値を示すものである。
【0043】
上記基準ガス室12内に設置された上記熱線素子14と、上記測定ガス室13内に設置された上記熱線素子15とを用いて、図2に示すように、抵抗ブリッジ回路16が構成されている。
【0044】
上記熱線素子14,15の素材としては、白金が使用されている。
なお、上記熱線素子14,15の素材として、白金の他に、金、ニッケル、タングステンなどの金属を用いることも可能である。
また、白金などの金属は測定ガスと化学反応を起こしたりすることがあるので、それを防止するためにガラス又はシリコンの薄膜でコーティングされている。
なお、金属の抵抗線の代わりにサーミスタなどを検出素子として使用することも可能である。
【0045】
上記抵抗ブリッジ回路16には、図2に示すように、上記の熱線素子14の他に更に2つの抵抗素子22,23が用いられているが、これら抵抗素子22,23は、同一の環境下では、上記の熱線素子14,15と同一の抵抗値を示すように形成されている。
【0046】
なお、上記抵抗ブリッジ回路16は、上記の熱線素子14,15の抵抗変化を測定するものである。
この場合、測定方式としては、ブリッジ回路の不平衡電流又は不平衡電圧を直接測定する方式及び、不平衡信号をサーボ増幅器に与え、摺動抵抗を自動的に調節してブリッジ回路の平衡を自動的に追跡する方式とがあるが、本実施例に係る上記抵抗ブリッジ回路16は前者の不平衡電流又は不平衡電圧を直接測定する方式を採用している。
【0047】
また、抵抗ブリッジ回路は、電源に対する上記基準ガス室12と上記測定ガス室13の配置によって、直列形、並列形及びクロス形という3種類の結合方法があるが、本実施例に係る上記抵抗ブリッジ回路16は、図2に示すように、並列形を採用している。
なお、抵抗ブリッジ回路として直列形やクロス形を採用することも勿論可能である。
【0048】
また、上記基準ガス封入室12は、図1に示すように、上記測定ガス室13と、互いに連通するように形成されている。
即ち、上記基準ガス封入室12と、上記測定ガス室13との間に、上記基準ガス封入室から突出した管路24と、上記測定ガス室13から突出した管路25がそれぞれ接続した連通部17が配置されている。
【0049】
上記連通部17には、図1に示すように、基準ガス封入室12側と測定ガス室13側とを仕切る可動隔壁18が設けられている。
【0050】
上記可動隔壁18は、図1に示すように、ダイヤフラム19を用いて形成されている。なお、上記可動隔壁18は、図は省略するが、ピストン又はベローズを用いて形成することも可能である。
【0051】
上記基準ガス封入室12は、図1に示すように、上記管路24と、上記可動隔壁18により仕切られた上記連通部17の一部を含んで構成されているが、この基準ガス封入室12は、上記ダイヤフラム19が圧力変形することにより、その容積が変化するように形成されている。
【0052】
即ち、上記測定ガス室13の気温や気圧等の内部環境が変化すると、それに応じて、上記測定ガス室13内と上記基準ガス封入室12内の圧力を平衡状態にするように、上記ダイヤフラム19が自動的に圧力変形し、上記基準ガス封入室12の容積が変化する。これにより、上記測定ガス室13と上記基準ガス封入室12の内部環境が合致することになる。
【0053】
なお、上記基準ガス封入室12は、上記測定ガス室13と同一温度になるように、図示は省略するが、1つの装置内に設けられている。
【0054】
なお、上記熱伝導型ガス分析器11の仕様は、所要電源が110V(AC)、出力信号4
〜20mA(0〜20mA)、所要ガス流量10〜500cc/min、許容周囲温度が通常の気温、測定精度が±1%になっている。
【0055】
以下、本実施例における作用について説明する。
本実施例に係る熱伝導型ガス分析器11にあっては、上記熱線素子14,15に一定の電流を流して発熱させた場合には、周囲のガスの成分が一定で甚しい変動がない限り、上記熱線素子14,15の熱は周囲のガス中を熱伝導により外部へ逃げることになる。
上記熱線素子14,15に通電し始めた直後は、上記熱線素子14,15の温度が次第に上昇するが、やがて、電流による発熱量と逃げる熱量が平衡状態に達し、上記熱線素子14,15の温度は一定になる。
そして、上記の逃げる熱量は、周囲のガスの熱伝導率により異なり、熱伝導率の大きいガスの場合は大きくなるので、温度低下も大きくなる。これに対し、熱伝導率の小さいガスの場合は逃げる熱量が小さいので、温度低下も小さくなる。
また、上記熱線素子14,15の抵抗値は温度により異なる。
従って、一定の条件のもとで、熱平衡の状態に達した上記熱線素子14,15の抵抗変化を測定すれば、上記熱線素子14,15の温度変化を測定することができる。
そして、上記熱線素子14,15の温度変化を知ることができれば、上記熱線素子14,15の周囲に存在するガスの熱伝導率の変化を知ることができる。
混合ガスの熱伝導率は、ガスの混合比によって変化することから、予めガス混合比と熱伝導率との関係を求めておけば、熱伝導率の変化を測定してガス成分比率の分析が可能になる。
本発明に係る熱伝導型ガス分析器11は、このような原理を利用するために上記のような抵抗ブリッジ回路16を形成して、比較測定を行うことによりガス分析を行うものである。
【0056】
図2に示した上記抵抗ブリッジ回路16に一定の電流を流すと、上記基準ガス封入室12に設置された熱線素子14の抵抗値と、上記測定ガス室13に設置された熱線素子15の抵抗値が異なることから、図2に示す抵抗ブリッジ回路16における検出端子A−B間に不平衡電流が流れる。
従って、この不平衡電流又は不平衡電圧を測定して、予め測定された既知の混合ガスの測定値と比較すれば、測定ガスの組成を分析することができる。
【0057】
そして、上記測定を行う場合に、上記測定ガス室を流通するガスは外気温度、外部気圧の影響を受けることから、ガスの温度、圧力に適宜変化が生じ、その結果、上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室の内部環境が異なっていると、ゼロ点が安定せず、測定値も安定せず且つ精度も低下する可能性があるが、本実施例に係る熱伝導型ガス分析器11にあっては、上記基準ガス封入室12と、上記測定ガス室13とを連通させて、その連通部17に上記可動隔壁18が設けられていることから、上記測定ガス室13の温度や圧力等の環境変化に応じて上記可動隔壁18が変位若しくは変形することにより、測定ガス室13の内部環境の変化に応じて上記基準ガス室12の内部環境が追随することができるため、ゼロ点や測定値の安定性が得られると共に測定精度が向上することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、基準ガスが封入される基準ガス封入室と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、上記熱線素子を用いて形成された抵抗ブリッジ回路とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例に係る熱伝導型ガス分析器における検出部の構成を示す概念図である。
【図2】本発明の実施例に係る熱伝導型ガス分析器における抵抗ブリッジ回路の概念図である。
【符号の説明】
【0060】
11 熱伝導型ガス分析器
12 基準ガス封入室
13 測定ガス室
14 熱線素子
15 熱線素子
16 抵抗ブリッジ回路
17 連通部
18 可動隔壁
19 ダイヤフラム
20 ガス導入口
21 ガス排出口
22 抵抗素子
23 抵抗素子
24 管路
25 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準ガスが封入される基準ガス封入室と、測定ガスが流通する状態で収納される測定ガス室と、上記基準ガス室内に設置された熱線素子と、上記測定ガス室内に設置された熱線素子と、上記熱線素子を用いて形成された抵抗ブリッジ回路とを有し、基準ガスと測定ガスの熱伝導率の差に基づく上記熱線素子の抵抗変化により上記抵抗ブリッジ回路に発生する不平衡電流又は電圧を計測することにより測定ガスの組成を分析するように構成された熱伝導型ガス分析器において、上記基準ガス封入室の内部環境を上記測定ガス室の内部環境に対して対応しうるように形成されたことを特徴とする熱伝導型ガス分析器。
【請求項2】
上記基準ガス封入室は、その容積が可変となるように形成され、その容積変化によりその内部環境を上記測定ガス室の内部環境に合致させうるように形成されたことを特徴とする請求項1記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項3】
上記基準ガス封入室と、上記測定ガス室は、互いに連通するように形成され、その連通部に基準ガス封入室側と測定ガス室側とを仕切る可動隔壁が設けられたことを特徴とする請求項2記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項4】
上記可動隔壁は、上記測定ガス室内と上記基準ガス封入室内の圧力を平衡状態にするように自動的に変位しうるように形成されたことを特徴とする請求項3記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項5】
上記可動隔壁は、機械式変位機構を用いて形成されたことを特徴とする請求項4記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項6】
上記機械式変位機構はダイヤフラムを用いて形成されていることを特徴とする請求項5記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項7】
上記機械式変位機構はピストンを用いて形成されていることを特徴とする請求項5記載の熱伝導型ガス分析器。
【請求項8】
上記機械式変位機構はベローズを用いて形成されていることを特徴とする請求項5記載の熱伝導型ガス分析器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−58201(P2006−58201A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241965(P2004−241965)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(591034073)ガスミックス工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】