説明

熱伝導性シリコーングリース組成物およびその硬化物

【課題】
塗工部以外の部品を汚染したり、長時間に亘って使用した場合であっても油状物が漏出したりすることを防ぐことができ、熱伝導性が優れた十分に薄い硬化物、及び硬化させて該硬化物となる熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子結合水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基1個に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜5.0個となる量、
(C)熱伝導性充填剤:100〜2200質量部、
(D)白金系触媒:有効量、及び
(E)付加反応抑制剤:有効量
を含有してなり、かつ(C)成分が平均粒径0.1〜100μmのインジウム粉末を90質量%を超え100質量%以下含む熱伝導性シリコーングリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーングリース組成物、その硬化方法、その硬化物、その硬化物を含む電子装置、ならびに電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板上に実装される電子部品、例えば、CPU等のICパッケージは、使用時の発熱による温度上昇によって性能が低下したり破損したりすることがある。そのため、従来、ICパッケージと放熱フィンを有する放熱部材との間に、熱伝導性が良好な熱伝導性シートを配置したり、熱伝導性グリースを適用したりして、ICパッケージ等から生じる熱を効率よく放熱部材に伝導して放熱させることが行われている。しかしながら、電子部品等の高性能化に伴い、その発熱量は益々増加する傾向にあり、従来のものよりも更に熱伝導性に優れた材料・部材の開発が求められている。
【0003】
熱伝導性シートは、手軽にマウント・装着することができるという作業・工程上の利点を有する。また、熱伝導性グリースは、CPU等のICパッケージおよび放熱部材の表面の凹凸に影響されずに該凹凸に追随し、これらICパッケージと放熱部材との間に隙間を生ずることなく両者を密着させることができるので、界面熱抵抗が小さいという利点を有する。これらの熱伝導性シートおよび熱伝導性グリースは、ともに熱伝導性を付与するために熱伝導性充填剤を配合してなるものである。しかし、熱伝導性シートの場合には、その製造工程における作業性・加工性に支障をきたさないようにするために、また熱伝導性グリースの場合には、電子部品等にシリンジ等を用いて塗工する際の作業性に問題が生じないように、そのみかけ粘度の上限を一定に抑制する必要がある。そのため、いずれの場合においても熱伝導性充填剤の配合量の上限は制限されるので、十分な熱伝導性が得られないという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、熱伝導性ペースト内に低融点金属を配合する方法(特許文献1、特許文献2)、120℃より低い温度で液体状態の合金と熱伝導性粒状固体とを含有する熱伝導性パッド(特許文献3)等が提案されている。しかし、これら低融点金属を用いた熱伝導性材料は、塗工部以外の部品を汚染し、また長時間にわたって使用した場合には組成物から油状物が漏出する等の問題があった。
【0005】
その他にも、低融点金属と他の熱伝導性充填剤とを併用した硬化性材料(特許文献4)が提案されている。これは発熱体、放熱体および熱伝導性充填剤に、溶融した低融点金属を融着させ、金属の連続相を形成させることで高い放熱特性を得ようとするものである。低融点金属と他の熱伝導性充填剤とを併用した場合、硬化物の熱伝導性を向上させるためにはグリース層の厚みを薄くする必要がある。そのためには、一般的には平均粒径の小さいものを熱伝導性充填剤として使用する。しかし、平均粒径の小さな熱伝導性充填剤を使用しても、熱伝導性充填剤に予期せぬ粗粒が混入しているため、電子部品等に形成させたグリース層が所望の薄さにならないことがある。そして、これが原因で、大量の低融点金属および熱伝導性充填剤を配合しなければ十分な放熱特性が得られないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−207160号公報
【特許文献2】特開平8−53664号公報
【特許文献3】特開2002−121292号公報
【特許文献4】特開2003−176414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、塗工部以外の部品を汚染したり、長時間にわたって使用した場合であっても油状物が漏出したりすることを防ぐことができ、特に熱伝導性が優れた十分に薄い硬化物、および硬化させて該硬化物となる熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することにある。また本発明の目的は、この組成物の硬化方法、この硬化物を含む電子装置、および電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を形成する方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、熱伝導性に優れた低融点金属としてインジウムを選択し、充填剤として粒径をコントロールしたインジウム粉末を単独で、もしくは該インジウム粉末と粒径をコントロールしたその他の熱伝導性充填剤とを組み合わせて、組成物の一成分として配合することにより、前記インジウム粉末、および場合によっては組み合わせて配合した熱伝導性充填剤が、微粒子状態で均一に分散した組成物が得られるとの知見を得た。
【0009】
インジウム粉末を単独で配合した場合には、組成物を加熱して硬化させる工程において、インジウム粉末の融点以上の温度となるように加熱することによって、液状となったインジウム粒子同士が凝集して粒径の大きな液状粒子を形成すると共に、該液状インジウム粒子同士が連結して連なった一種の熱伝導経路を形成すること、また、加熱処理の際に、適切な圧力が組成物に加えられることにより、液状インジウム粒子が押しつぶされ、十分に薄い層を形成することができることを見出した。
【0010】
インジウム粉末と他の熱伝導性充填剤とを併用した場合には、インジウム粉末の融点以上の温度となるように加熱することによって、液状となったインジウム粒子同士が凝集して粒径の大きな液状粒子を形成すると共に、該液状インジウム粒子同士あるいは液状インジウム粒子と他の熱伝導性充填剤とが連結して連なった一種の熱伝導経路を形成すること、また、他の熱伝導性充填剤の粒径を特定のものとすることにより、インジウム粉末単独の場合と同様に、適切な圧力が組成物に加えられることにより、十分に薄い層を形成することができることを見出した。
【0011】
また、組成物の硬化により形成される三次元網状構造中に、前記熱伝導経路の構造が固定・保持されるとの知見を得た。
【0012】
こうして得られる硬化物を電子部品と放熱部材との間に挟まれるように層状に配置した場合には、インジウム粉末および(他の熱伝導性充填剤が配合される場合には)他の熱伝導性充填剤の配合量が少量であっても、熱抵抗が低い熱伝導性部材として使用することができる。したがって、電子部品の稼動時に発生する熱を、三次元網状構造中に固定・保持されたインジウムまたはインジウムとその他の熱伝導性充填剤とを含む、熱伝導性部材を経由して速やかに放熱部材に伝導することができる放熱特性に優れた電子部品が得られるとの知見を得た。
【0013】
即ち、本発明は第一に、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: (A)成分中のアルケニル基1個に対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜5.0個となる量、
(C)熱伝導性充填剤: 100〜2200質量部、
(D)白金系触媒: 有効量、および
(E)付加反応抑制剤: 有効量
を含有してなり、かつ前記(C)成分の熱伝導性充填剤が平均粒径0.1〜100μmであるインジウム粉末を90質量%を超え100質量%以下含む熱伝導性シリコーングリース組成物、を提供する。
【0014】
本発明は第二に、前記組成物をインジウム粉末の融点以上の温度で加熱することにより硬化させてなる熱伝導性シリコーン硬化物、を提供する。
【0015】
本発明は第三に、電子部品と、放熱部材と、これらの電子部品と放熱部材との間に設けられ前記硬化物からなる熱伝導性部材とを有してなる電子装置、を提供する。
【0016】
本発明は第四に、前記組成物の硬化方法であって、該組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度で加熱する工程を有する硬化方法、を提供する。
【0017】
本発明は第五に、
(I)電子部品の表面に前記組成物を塗布する工程、
(II)こうして塗布した組成物に放熱部材を載置する工程、および
(III)次に、塗布した組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度で加熱することにより硬化させる工程、
を含む電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を形成する方法、を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、硬化前はグリース状(ペースト状の場合も含む)であり伸展性があるので、ICパッケージ等の電子部品上に塗工する際の作業性が良好である。さらに、この組成物は、電子部品および放熱部材の表面に凹凸が存在しても、両者間に隙間を生じることなく両者を密着できるので、界面熱抵抗が生じ難い。
【0019】
この組成物をインジウム粉末の融点以上の温度で加熱し硬化させて得られる硬化物は、極めて高い熱伝導性を有するだけではなく、長時間にわたって使用した場合であっても、従来の熱伝導性グリースで問題とされた硬化物からの経時的な油状物の漏出および他の部品の汚染を起こし難い。また、組成物をインジウム粉末の融点以上の温度で加熱する際に適切な圧力をかけることによって、熱伝導性が優れた十分に薄い硬化物層を形成することができる。
【0020】
したがって、本発明の硬化物を電子装置の熱伝導性部材として用いた場合には、高い放熱効果を発揮することができる。こうして、電子装置の信頼性を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
[熱伝導性シリコーングリース組成物]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、以下の(A)〜(E)成分を含有してなるものである。
【0022】
<(A)オルガノポリシロキサン>
本発明の組成物の(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、付加反応硬化系における主剤(ベースポリマー)となる成分である。
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは25℃で液状であれば、その分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状等が挙げられるが、好ましくは直鎖状である。
【0024】
前記アルケニル基は、通常、炭素原子数が2〜10、好ましくは2〜6である。このアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−へキセニル基等が挙げられる。これらの中でも、汎用性が高いビニル基が好ましい。このアルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖末端のケイ素原子または分子鎖途中(即ち、分子鎖非末端)のケイ素原子のいずれかに結合していても、それらの両方に結合していてもよいが、得られる硬化物の柔軟性をよいものとするため、分子鎖末端のケイ素原子にのみ結合して存在することが好ましい。
【0025】
(A)成分中の前記アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、非置換または置換の炭素原子数が1〜12、好ましくは1〜10の一価炭化水素基等が挙げられ、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。合成面および経済性の点から、これらのアルケニル基以外のケイ素原子に結合した全有機基のうち90モル%以上、とりわけ95モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0026】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、通常、0.05〜100Pa・s、好ましくは0.5〜50Pa・sの範囲である。この粘度が低すぎると得られる組成物の保存安定性が悪くなることがあり、この粘度が高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなることがある。
【0027】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、例えば、下記一般式(1):
【0028】
【化1】

(式中、R1は独立に非置換または置換の1価炭化水素基であり、但し、少なくとも2個はアルケニル基であり、R2は独立にアルケニル基以外の非置換または置換の1価炭化水素基であり、mは1以上の整数である。)
で表される。
【0029】
上記一般式(1)において、R1で表される非置換または置換の1価炭化水素基は、通常、炭素原子数が1〜12のものであり、具体的には、前述したアルケニル基、およびアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基の中の1価炭化水素基と同種のものである。R2で表されるアルケニル基以外の非置換または置換の1価炭化水素基は、前述したアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基の中の1価炭化水素基と同種のものである。
【0030】
また、mは好ましくは50〜3000、より好ましくは100〜1000の整数である。
【0031】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの好適な具体例としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0032】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上(例えば、粘度が異なる2種以上)を組み合わせても使用することができる。
【0033】
<(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
本発明の組成物の(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは2〜100個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が、後述の(D)成分の白金系触媒の作用により、(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化反応により付加して、架橋結合を有する3次元網状構造を有する架橋硬化物を与える。
【0034】
(B)成分中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、アルケニル基以外の非置換または置換の一価炭化水素基等が挙げられ、具体的には、(A)成分の項で説明したアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基と同種のものが挙げられる。その中でも、合成面および経済性の点から、メチル基であることが好ましい。
【0035】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造は、特に限定されず、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0036】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、下記一般式(2):
【0037】
【化2】

(式中、R3は独立にアルケニル基以外の非置換または置換の1価炭化水素基あるいは水素原子であり、但し、少なくとも2個は水素原子であり、nは1以上の整数である。)
で表される。
【0038】
上記一般式(2)において、R3で表されるアルケニル基以外の非置換または置換の1価炭化水素基は、(A)成分の項で前述したアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基の中の1価炭化水素基と同種のものである。
【0039】
また、nは好ましくは2〜100、より好ましくは5〜50の整数である。
【0040】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの好適な具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0041】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のアルケニル基1個に対して、本成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜5.0個となる量であり、好ましくは0.5〜3.0個となる量である。この個数が0.1個となる量未満である場合には、三次元網状構造が十分に形成されず、硬化後に必要とされる硬さが得られないことがあり、さらに後述の熱伝導性充填剤を硬化物中に固定・保持することが困難になることがある。この個数が5.0個となる量を超える場合には、硬化物の物性の経時変化が大きくなり、保存安定性が悪化することがある。
【0042】
<(C)熱伝導性充填剤>
本発明の組成物の(C)成分は、熱伝導性充填剤であって、硬化物に良好な熱伝導性を付与するために配合される成分である。
【0043】
−(C-1)インジウム粉末−
(C)成分の熱伝導性充填剤は、(C-1)平均粒径0.1〜100μmのインジウム粉末を含むものである。このインジウム粉末の形状は特に限定されないが、通常、長短度が1.0〜5.0、典型的には1.0〜3.0の範囲内であり、偏平度が0.01〜200、典型的には0.1〜100の範囲内のものである。なお、長短度とは、〔長短度〕=〔粉末の長径〕/〔粉末の短径〕で定義される値であり、偏平度とは、〔偏平度〕=〔粉末の短径〕/〔粉末の厚み〕で定義される値である。また、(C-1)成分のインジウム粉末の個々の形状は、完全同一またはほぼ同一であってもよいが、不揃いであってもよく、イレギュラーなものが含まれていてもよい。(C-1)成分のインジウム粉末の形状は、具体的には、球状(例えば、真球状;擬球状、楕円球状、扁平球状等の略球状);鱗片状、針状、塊状、棒状等である。
【0044】
インジウム粉末の平均粒径は5〜50μm、とりわけ10〜30μmであることが好ましい。この平均粒径が0.1μm未満である場合には、組成物の粘度が高くなりすぎ伸展性が乏しいものとなるので塗工作業性に問題が生ずることがあり、また、平均粒径が100μmを超える場合には、組成物が不均一となりインジウム粉末の沈降の原因ともなるため、電子部品等へ薄膜状に均一に塗布することが困難となることがある。なお、本明細書において「平均粒径」とは、体積基準の累積平均径を意味する。この「平均粒径」は、例えば、粒度分析計(日機装株式会社製、商品名:マイクロトラックMT3300EX)により測定することができる。
【0045】
(C)成分に含まれる(C-1)インジウム粉末は、全(C)成分の90質量%を超え100質量%以下であることが必要であり、好ましくは91〜100質量%、より好ましくは92〜100質量%である。かかる割合が90質量%以下の場合には、加熱され液状となったインジウム粒子同士の凝集や、他の熱伝導性充填剤との連結が十分に行われず、熱伝導経路の形成が満足されないことがある。
【0046】
−(C-2)他の熱伝導性充填剤−
(C)成分は、さらに、(C-1)インジウム粉末以外の(C-2)他の熱伝導性充填剤、具体的には、平均粒径が0.1〜20μmであり、JIS Z8801-1に規定の目開き32μmの篩上分率が50ppm以下であり、かつ同規定の目開き45μmの篩上分率が実質的に0ppmであるものを、0質量%を超え10質量%未満、好ましくは0質量%を超え9質量%以下含んでいてもよい。
【0047】
平均粒径は、好ましくは1〜10μm、より好ましくは1〜5μmの範囲内とするのがよい。この平均粒径が小さすぎると組成物の粘度が高くなりすぎ伸展性が乏しくなることがある。この平均粒径が大きすぎると均一な組成物を得ることが困難となる。
【0048】
また、(C-2)他の熱伝導性充填剤は、JIS Z8801-1に規定の目開き32μmの篩上分率が、当該他の熱伝導性充填剤の全質量に対して50ppmを超えると、熱伝導性シリコーングリース組成物の硬化物層の厚さを十分に薄くすることができず所望する放熱効果が得られないことがあるので、50ppm以下であることが必要であり、好ましくは30ppm以下、より好ましくは0〜10ppmである。また、同規定の目開き32μmの篩上分率がたとえ50ppm以下であっても、一粒でも大きな粗粒が組成物中に存在している場合には、熱伝導性シリコーングリース組成物の硬化物層が十分に薄くならず、所望の放熱効果が得られないことがある。従って、所望の放熱効果を得るためには、同時に同規定の目開き45μmの篩上分率が実質的に0ppmであることが必要である。
【0049】
熱伝導性充填剤等のフィラーを製造するメーカーが粒度分布を測定し、検査表等に値を載せているが、絶対量が少ない粗粒は一般的に粒度分布測定装置では検出できない。しかし、この粗粒の存在はグリース実装時の厚みに大きく影響するので、同じ材料、同じ平均粒径のものを使っても粗粒を取り除いているかどうかで放熱特性に大きな差が生じる。近年、素子等の電子部品の発熱量が非常に大きくなっているので、熱伝導性充填剤の粗粒の量をコントロールすることは特に重要である。そして、熱伝導性充填剤から粗粒を取り除くためには、いくつかの方法がある。具体的には、例えば、気流分級、メッシュ分級等があるが、高度に粗粒を取り除きさえすれば熱伝導性充填剤の分級方法は何でもよい。
【0050】
他の熱伝導性充填剤としては、熱伝導率が良好なものであれば特に限定されず、従来から公知の熱伝導性シートまたは熱伝導性グリースに配合される熱伝導性充填剤が挙げられる。その具体例としては、アルミニウム粉末、アルミナ粉末、ニッケル粉末、亜鉛粉末、ステンレス粉末、銅粉末、銀粉末等の金属粉末;酸化亜鉛粉末等の金属酸化物粉末;窒化硼素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化珪素粉末等の金属窒化物粉末;ダイヤモンド粉末、カーボン粉末等が挙げられる。なお、他の熱伝導性充填剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0051】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して100〜2200質量部であることが必要であり、好ましくは100〜1700質量部、より好ましくは100質量部以上800質量部未満、特に好ましくは300〜700質量部である。この配合量が100質量部未満の場合には、得られる組成物の熱伝導率が悪い上、保存安定性の乏しいものとなることがあり、2200質量部を超える場合には、伸展性が乏しいものとなることがある。
【0052】
−好ましい実施形態−
本発明の組成物において、(C)成分の熱伝導性充填剤は、(C-1)成分のみからなるか、あるいは(C-1)成分および(C-2)成分のみからなることが好ましい。これらの場合において、(C)成分に含まれる(C-1)成分の割合が(C)成分の全熱伝導性充填剤の90質量%を超え100質量%以下であることが必要であり、かつ(C-2)成分を含む場合には(C)成分に含まれる(C-2)成分の割合が0質量%を超え10質量%未満であることが好ましい。かかる割合を満たすことによって、組成物の硬化時の加熱処理条件下において、(C-1)成分同士あるいは(C-1)成分と(C-2)成分との連結が十分なものとなり、かつ(C-1)成分の液状微粒子の凝集自体も良好なものとなるため、硬化物の熱伝導経路が良好に形成される。したがって、該硬化物の層は、放熱性能が優れたものとなる。
【0053】
<(D)白金系触媒>
本発明の組成物の(D)成分の白金系触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進し、本発明の組成物から三次元網状構造の架橋硬化物を与えるために配合される成分である。
【0054】
(D)成分としては、通常のヒドロシリル化反応に用いられる公知の触媒を全て使用することができる。(D)成分の具体例としては、白金金属(白金黒)、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。なお、(D)成分の白金系触媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0055】
(D)成分の配合量は、本発明の組成物を硬化させるために必要な有効量であればよく、特に制限されないが、白金原子として(A)成分の質量に対して、通常、0.1〜500ppm程度とするのがよい。
【0056】
<(E)付加反応抑制剤>
本発明の組成物の(E)成分の付加反応抑制剤は、室温における白金系触媒の作用によるヒドロシリル化反応を抑制し、組成物の可使時間(シェルフライフ、ポットライフ)を確保して、電子部品等への組成物の塗工作業に支障をきたさないようにするために配合される成分である。
【0057】
(E)成分としては、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応抑制剤を全て使用することができる。その具体例としては、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、3−ブチン−1−オール等のアセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。なお、(E)成分の付加反応抑制剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0058】
(E)成分の配合量は、(D)成分の使用量によっても異なるので一概には定義できないが、ヒドロシリル化反応の進行を抑制することができる有効量であればよく、通常、(A)成分の質量に対して、10〜50000ppm程度とすることがよい。(E)成分の配合量が少なすぎる場合には十分な可使時間を確保することができないことがあり、また多すぎる場合には組成物の硬化性が低下することがある。
【0059】
なお、(E)成分は、組成物中への分散性を向上させるため、必要に応じて、トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で希釈して使用することもできる。
【0060】
<任意成分>
本発明の組成物には、上記(A)〜(E)成分に加えて、本発明の目的・効果を損ねない範囲で、その他の成分を配合しても差し支えない。例えば、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱性向上剤;シリカ等の粘度調整剤;着色剤等を配合することができる。また、下記の(F)表面処理剤を配合することもできる。
【0061】
−(F)表面処理剤−
本発明の組成物には、組成物調製時に、(C-1)インジウム粉末を疎水化処理し(A)オルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させ、(C-1)インジウム粉末を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的として、(F)表面処理剤(ウェッター)を配合することができる。この(F)成分は、インジウム粉末以外の(C-2)他の熱伝導性充填剤を用いる場合には、同様に、(C-2)熱伝導性充填剤の(A)オルガノポリシロキサンとの濡れ性を向上させて、その均一分散性を良好なものとする作用をも有する。
【0062】
・(F-1)アルコキシシラン化合物
(F)成分としては、例えば、(F-1)下記一般式(3):
45Si(OR6)4-a-b (3)
(式中、R4は独立に炭素原子数6〜15、好ましくは8〜14のアルキル基であり、R5は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜8、好ましくは1〜6の1価炭化水素基であり、R6は独立に炭素原子数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基であり、aは1〜3の整数、好ましくは1であり、bは0〜2の整数であり、但し、a+bは1〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0063】
上記一般式(3)において、R4で表されるアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このR4で表されるアルキル基の炭素原子数が6〜15の範囲を満たすと、(C)成分の濡れ性が十分に向上し、取り扱い作業性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0064】
5で表される非置換または置換の1価炭化水素基しては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフロロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(へプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基等が挙げられる。これらの中では、特に、メチル基、エチル基が好ましい。
【0065】
6で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。これらの中では、特に、メチル基、エチル基が好ましい。
【0066】
この(F-1)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
13Si(OCH)
1021Si(OCH)
1225Si(OCH)
1225Si(OC)
1021Si(CH)(OCH)
1021Si(C)(OCH)
1021Si(CH)(OC)
1021Si(CH=CH)(OCH)
1021Si(CHCHCF)(OCH)
【0067】
なお、(F-1)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、(F-1)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。この配合量が多すぎると、ウェッター効果が増大することがなく不経済であり、また揮発性があるので開放系で放置すると組成物が徐々に硬くなってしまうことがある。
【0068】
・(F-2)ジメチルポリシロキサン
この(F-1)成分以外の(F)成分としては、例えば、(F-2)下記一般式(4):
【0069】
【化3】

(式中、R7は独立に炭素原子数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基であり、cは5〜100、好ましくは10〜60の整数である。)
で表される、分子鎖の片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0070】
上記一般式(4)において、R7で表されるアルキル基は、上記一般式(3)中のR6で表されるアルキル基と同種のものである。
【0071】
この(F-2)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0072】
【化4】

【0073】
なお、(F-2)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、(F-2)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。この配合量が多すぎると、得られる硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。
【0074】
(F)成分の表面処理剤として、これら(F-1)成分と(F-2)成分とを組み合わせて使用しても差し支えない。この場合、(F)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.02〜40質量部であることが好ましい。
【0075】
<調製方法>
本発明の組成物は、通常、(C-1)インジウム粉末の融点未満の温度で混練して均一な混合物を得る工程を含む調製方法によって調製される。特に好ましくは、
(a)(A)成分と、(C)成分と、場合によっては含まれる(F)成分とを、好ましくは40〜120℃、より好ましくは50〜100℃の範囲内の温度で混練して均一な混合物を得る工程、および
(b)得られた混合物に、(B)成分と、(D)成分と、(E)成分と、場合によっては含まれるその他の成分とを添加し、(C-1)成分のインジウム粉末の融点未満の温度で混練して均一な混合物を得る工程、
を含む調製方法によって得ることができる。
【0076】
これらの工程において、混練には、加熱手段および必要に応じて冷却手段を備えたコンディショニングミキサー、プラネタリーミキサー等の攪拌・混練機を使用すればよい。
【0077】
工程(a)では、(C-1)成分のインジウム粉末は、微粒子の状態で(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散される。
【0078】
工程(b)は、(A)、(B)、(D)および(E)成分が経時で反応し、組成物の組成が変化することを防ぐため、できるだけ短時間で終了させることが好ましい。一般的に、工程(ii)の終了後は、得られた組成物を容器内に収容し、速やかに約−30〜−10℃、好ましくは−25〜−15℃の温度の冷凍庫、冷凍室等で保存するのがよい。組成物を輸送する場合には、冷凍設備を備えた車両等を用いるのがよい。このように低温下で保存・輸送することにより、例えば、長期間の保存によっても、組成物の組成および分散状態を安定に保持することができる。
【0079】
<粘度>
本発明の組成物は、室温(25℃)でグリース状態(ペースト状態も含む)のものである。そのため、本発明の組成物は、例えば、電子部品の表面に塗布する場合等に作業性が良好である。
【0080】
また、本発明の組成物は、例えば、シリンジに充填して用いられる。具体的には、組成物をシリンジ内に充填し、このシリンジからCPU等の電子部品の表面に組成物を吐出し、塗布し、被覆層を形成させ、この被覆層に放熱部材を圧接する。したがって、本発明の組成物の25℃における粘度は、通常、10〜1000Pa・s、特に50〜400Pa・sであることが好ましい。かかる粘度が低すぎると組成物の塗布時に液垂れが生じて作業上問題となることがある。また、かかる粘度が高すぎるとシリンジからの組成物の押し出しが困難となるため、塗布作業の効率が悪くなることがある。
【0081】
<硬化方法>
本発明の組成物は、加熱して硬化させることにより硬化物とすることができる。この硬化は、(C-1)成分のインジウム粉末の融点以上の温度で行うことが好ましい。これは、組成物を硬化時の温度条件に昇温する過程で、組成物中の(C-1)成分のインジウム粉末が液状となり、互いに凝集して粒径の大きな液状粒子を形成すると同時に、この液状粒子同士が互いに連結して連なった一種の熱伝導経路を形成するからである。組成物中にインジウム粉末以外の(C-2)他の熱伝導性充填剤が配合されている場合には、液状となった(C-1)インジウム粉末は(C-2)他の熱伝導性充填剤とも連結して、同様に連なった一種の熱伝導経路を形成する。この熱伝導経路を介して、硬化物は効率よく熱を伝導することができる。また、この熱伝導経路は、硬化物の三次元網状構造中に固定・保持される。
【0082】
この硬化物は、例えば、薄い層状の熱伝導性層等の熱伝導性部材として、電子部品の放熱に用いることができる。さらに、例えば、組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度で加熱する工程を有する硬化方法によって、好ましいとされる薄い(例えば、30μm以下)層状の硬化物を得ることができる。
【0083】
加圧は、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属板等で組成物を挟み、クリップ等で圧力を加える方法等により行えばよく、特に限定されない。また、加圧の際の圧力は、通常、50〜1500kPaであり、典型的には100〜700kPaとすればよい。
【0084】
[電子装置]
本発明の組成物を用いて放熱特性に優れた半導体装置等の電子装置、即ち、発熱性電子部品等の電子部品と、ヒートスプレッダ、ヒートシンク、ヒートパイプ等の放熱部材と、これらの電子部品と放熱部材との間に設けられ本発明の組成物の硬化物からなる熱伝導性部材とを有してなる電子装置を製造することができる。熱伝導性部材の厚さは、好ましくは30μm以下である。この電子装置を製造するために、電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を設けるには、例えば、
(I)電子部品の表面に組成物を塗布する工程、
(II)こうして塗布した組成物に放熱部材を載置する工程、および
(III)次に、塗布した組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度、好ましくは160〜190℃、より好ましくは170〜180℃で加熱することにより硬化させる工程、
を含む電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を形成する方法で行うことが好ましい。
【0085】
<電子装置の例>
電子装置およびその製造方法について、電子装置の一例である半導体装置を表す縦断面概念図である図1を参照しながら説明する。なお、図1に記載の装置は、本発明の組成物の半導体装置への適用の一例を示したものに過ぎず、本発明に係る電子装置を図1に記載のものに限定するとの趣旨ではない。
【0086】
図1に示すように、この半導体装置は、プリント配線基板3の上に実装されたCPU等のICパッケージ2と、ICパッケージ2の上であって放熱部材4との間に介在されている熱伝導性シリコーングリース組成物を硬化させてなる熱伝導性部材1により構成されている。ここで、放熱部材4は表面積を広くとって放熱作用を向上させるためにフィン付き構造となっている。また、放熱部材4とプリント配線基板3は、クランプ5で締め付け固定され押圧されている。
【0087】
この半導体装置の製造方法は、以下のとおりである。
まず、シリンジ等の塗工用具に組成物を充填する。なお、組成物を冷凍状態で保存している場合には、室温で放置して自然解凍させてグリース状の組成物としてから用いる。
【0088】
次に、プリント配線基板3上に実装されたICパッケージ2の表面に、シリンジ等から組成物を吐出し、塗布(ディスペンス)して組成物層1を形成させる。この組成物層1の上に、放熱部材4を載置し、クランプ5を用いて放熱部材4を、組成物層1を介してICパッケージ2に圧接した状態で固定させる。
【0089】
その後、こうして得られた圧接した状態の装置を、リフロー炉等の加熱装置内を通過させ、組成物層1を硬化させて熱伝導性部材1とする。この硬化に要する温度条件は、組成物中に含まれるインジウム粉末の融点以上であり、好ましくは160〜190℃、より好ましくは170〜180℃である。この硬化温度がインジウム粉末の融点未満の温度であるとインジウム粉末の溶融が不十分となることがあり、この硬化温度が高すぎると電子部品もしくは基材が劣化するおそれがある。
【0090】
硬化の際には、ICパッケージ2と放熱部材4とに挟まれて存在する熱伝導性部材1の厚さが、通常、5〜30μm、好ましくは10〜25μmとなるように、クランプ5を調整または選択するのがよい。この厚さが薄すぎると、ICパッケージ2および放熱部材4への本発明の組成物の追随性が不十分となり、これらICパッケージ2と放熱部材4との間に隙間が生じるおそれがある。また、この厚さが厚すぎると、熱抵抗が大きくなり十分な放熱効果が得られないことがある。
【0091】
組成物を前記温度条件まで昇温する過程において、「硬化方法」の項で説明したとおり、(C-1)インジウム粒子同士、あるいは(C-1)インジウム粒子と(C-2)他の熱伝導性充填剤とが連結して連なった一種の熱伝導経路を形成する。この熱伝導経路は、(A)成分および(B)成分の付加反応により形成される硬化物の三次元架橋網状構造中に、固定・保持される。さらに、液状の(C-1)インジウム粒子は、組成物が接するICパッケージ2および放熱部材4の表面にも融着する。したがって、ICパッケージ2と放熱部材4とは、液状の(C-1)インジウム粒子(および場合によっては(C-2)他の熱伝導性充填剤)が連結して連なった一種の熱伝導経路を介して、実質上、一体的に連続した熱伝導性に富んだものとなる。
【0092】
こうして得られた半導体装置等の電子装置を稼動・使用する場合には、ICパッケージ等の電子部品は、表面温度が、通常、60〜120℃程度の高温となる。この発熱に対して、本発明の組成物の硬化物からなる熱伝導性部材は高い熱伝導性を示すので、従来の熱伝導性シートあるいは熱伝導性グリースに比較して著しく放熱特性に優れるものである。さらに、半導体装置等の電子装置の長期連続稼動・使用によっても、熱伝導性部材に含まれ、熱伝導経路を形成している(C-1)成分および(C-2)成分は硬化物の三次元架橋網状構造中に固定・保持されているため、熱伝導性部材から漏出することがない。
【0093】
さらに、熱伝導性部材はタック性を有し、放熱部材がずれた場合であってもあるいは長期使用時においても安定した柔軟性を有し、電子部品および放熱部材から剥離し難い。
【0094】
なお、予め本発明の組成物から所望の厚さのシート状硬化物を作製し、これを従来の熱伝導性シートと同様に電子部品と放熱部材との間に介在させることによっても、同様な効果を得ることができる。その他にも、熱伝導性および耐熱性が必要とされる他の装置等の部品として、本発明の組成物のシート状硬化物等を適宜使用することもできる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
まず、下記実施例および比較例において用いた(A)〜(F)成分を下記に示す。
<(A)成分>
・(A-1)25℃における粘度が0.6Pa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
・(A-2)25℃における粘度が30.0Pa・sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
<(B)成分>
・(B-1)下記構造式:
【0096】
【化5】

で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
<(C)成分>
−(C-1)成分−
・(C-1a)平均粒径18.4μmのインジウム〔融点156.7℃〕粉末
・(C-1b)平均粒径47.6μmのインジウム〔融点156.7℃〕粉末
−(C-2)成分−
・(C-2a)アルミニウム粉末〔平均粒径:7.4μm、メッシュ分級品〕
・(C-2b)アルミニウム粉末〔平均粒径:1.5μm、メッシュ分級品〕
・(C-2c)酸化亜鉛粉末〔平均粒径:1.0μm、気流分級品〕
・(C-2d)銅粉末〔平均粒径:60.2μm、分級なし〕<比較用>
<(D)成分>
・(D-1)白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン(分子鎖両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたもの、25℃における粘度:0.6Pa・s)溶液〔白金原子含有量:1質量%〕
<(E)成分>
・(E-1)1−エチニル−1−シクロヘキサノールの50質量%トルエン溶液
<(F)成分>
・(F-1)構造式:C1225Si(OCH2CH)で表されるオルガノシラン
・(F-2)下記構造式:
【0097】
【化6】

で表される分子鎖片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン
【0098】
<(C-1)成分および(C-2)成分の測定・観察>
(C-1)成分および(C-2)成分の平均粒径は、粒度分析計(日機装株式会社製、商品名:マイクロトラックMT3300EX)により測定した体積基準の累積平均径の値である。
【0099】
また、(C-2)成分の篩上粒子の割合は、以下の方法で観察・測定した。
【0100】
[目開き45μmの篩上粒子の目視観察]
各(C-2)成分50gを別々にトルエン100gと共に200mlのプラスチック瓶に入れ、栓をして粒子が分散しきるまで振とう、もしくは超音波分散した。分散した後、目開き45μmの試験用篩(標準篩:JIS Z8801-1)にその分散液を流し込み、洗浄用トルエンでよく洗い流し、乾燥機にそのふるいごと入れて乾燥させた。乾燥後、薬包紙に試験用篩上の粗粒を移して目視にて観察し、下記評価基準に従って評価を行った。
〈評価基準〉
○:目開き45μmの篩上の粗粒が目視にて認められなかった。
×:目開き45μmの篩上の粗粒が目視にて認められた。
【0101】
[目開き32μmの篩上粒子の質量測定]
目開き45μmの篩上粒子の目視観察で粗粒が認められなかった各(C-2)成分50gを別々にトルエン100gと共に200mlのプラスチック瓶に入れ、栓をして粒子が分散しきるまで振とう、もしくは超音波分散した。分散した後、目開き32μmの試験用篩(標準篩:JIS Z8801-1)にその分散液を流し込み、洗浄用トルエンでよく洗い流し、乾燥機にそのふるいごと入れて乾燥させた。乾燥後、薬包紙に試験用篩上の粗粒を移してその質量を測定し、その測定値から、各(C-2)成分の全粒子質量に対する目開き32μmの篩上粒子の質量の割合(ppm)を算出した。
【0102】
実施例、比較例に用いた(C-2)成分の篩上粒子の観察・測定結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

*なお、C−2d成分は、目開き45μmの篩上分率の観察結果が×であったので、目開き32μmの篩上分率は測定を行わなかった。
【0104】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
<組成物の調製>
表2および表3に記載の化合物を同表に記載の配合量で用いて、次のとおりにして、組成物を調製した。
【0105】
内容積700ミリリットルのプラネタリーミキサー(特殊機化工業(株)製、商品名:T.K.ハイビスミックス)に、(A)成分、(C)成分および(F)成分を加え、70℃に昇温してその温度を維持し、60分間混練した。次いで混練を停止し、25℃になるまで冷却した。その後、(B)成分、(D)成分および(E)成分を加え、均一になるように混練して組成物を調製した。
【0106】
こうして得られた組成物(但し、比較例1および比較例2のものを除く)の25℃における粘度(Pa・s)を、マルコム粘度計(株式会社マルコム製、型式:PC−1T)を用いて測定した。その粘度を表2および表3に示す。
【0107】
<硬化物の調製>
上記で得られた組成物(但し、比較例1および比較例2のものを除く)を、標準ニッケルの円板状プレート(純度:99.9%、直径:約12.7mm、厚み:約1.0mm)の全面に0.2g塗布し、その上に他の標準ニッケルプレートを重ね、得られる構造体をクリップで挟むことにより約175.5kPa(1.80kgf/cm2)の圧力をかけて3層構造体を得た。次いで、このクリップで挟まれ加圧状態にある3層構造体を電気炉内で175℃まで昇温しその温度を90分間保持して組成物を硬化させ、その後、室温になるまで放置して冷却し、熱抵抗の測定用試験片を調製した。
【0108】
得られた試験片の厚さを測定し、標準ニッケルのプレートの既知の厚さを差し引くことによって、硬化物の厚さを算出した。なお、試験片の厚さの測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、型式:M820−25VA)を用いた。得られた結果を表2および表3に示す。
【0109】
<熱抵抗の測定>
上記試験片を用いて、硬化物の熱抵抗(mm2・K/W)を熱抵抗測定器(ネッチ社製、キセノンフラッシュアナライザー;LFA447 NanoFlash)により測定した。得られた熱抵抗を表2および表3に示す。
【0110】
<半導体装置への適用>
上記実施例1〜5で得られた組成物0.2gを、2cm×2cmのCPUの表面に塗布して組成物層を形成させた。この組成物層に放熱部材を重ねて圧接し、上記「硬化物の調製」の項と同様に、組成物層を加圧状態のまま、加熱することにより硬化させて、10〜30μmの厚さの熱伝導性部材を介してCPUと放熱部材が接合されている半導体装置を得た。これらの各装置をホストコンピューター、パーソナルコンピュータ等に組み込み、稼動させたところ、CPUの発熱温度は約100℃であったが、何れの装置の場合も長時間にわたって安定した熱伝導および放熱が可能であり、過熱蓄積によるCPUの性能低下、破損等が防止できた。よって、本発明の組成物の硬化物の採用により、半導体装置の信頼性が向上することが確認できた。
【0111】
【表2】

(注1):表中の(D)成分および(E)成分の濃度は、(A)成分の質量に対する(D-1)成分および(E-1)成分の濃度である。括弧内の数値は、(A)成分の質量に対する(D-1)成分の白金原子としての濃度および(A)成分の質量に対する(E-1)成分に含まれる1−エチニル−1−シクロヘキサノールの濃度である。
(注2):「SiH/Vi」とは、(A)成分中のビニル基1個に対する(B)成分中のSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)の個数を意味する。
【0112】
【表3】

(注1):表中の(D)成分および(E)成分の濃度は、(A)成分の質量に対する(D-1)成分および(E-1)成分の濃度である。括弧内の数値は、(A)成分の質量に対する(D-1)成分の白金原子としての濃度または(A)成分の質量に対する(E-1)成分に含まれる1−エチニル−1−シクロヘキサノールの濃度である。
(注2):「SiH/Vi」とは、(A)成分中のビニル基1個に対する(B)成分中のSiH基(ケイ素原子に結合した水素原子)の個数を意味する。
(注3):比較例1および比較例2では、何れの場合もグリース状の均一な組成物を得ることはできなかったので、測定ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の組成物を適用する半導体装置の一例を示す縦断面概念図である。
【符号の説明】
【0114】
1.熱伝導性部材(組成物層)
2.ICパッケージ
3.プリント配線基板
4.放熱部材
5.クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: (A)成分中のアルケニル基1個に対して、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数が0.1〜5.0個となる量、
(C)熱伝導性充填剤: 100〜2200質量部、
(D)白金系触媒: 有効量、および
(E)付加反応抑制剤: 有効量
を含有してなり、かつ前記(C)成分の熱伝導性充填剤が平均粒径0.1〜100μmであるインジウム粉末を90質量%を超え100質量%以下含む熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の熱伝導性充填剤が、さらに、前記インジウム粉末以外に他の熱伝導性充填剤を0質量%を超え10質量%未満含み、当該他の熱伝導性充填剤は平均粒径が0.1〜20μmであり、JIS Z8801-1に規定の目開き32μmの篩上分率が50ppm以下であり、かつ同規定の目開き45μmの篩上分率が実質的に0ppmである請求項1に係る組成物。
【請求項3】
さらに、(F-1)下記一般式(3):
45Si(OR6)4-a-b (3)
(式中、R4は独立に炭素原子数6〜15のアルキル基であり、R5は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり、R6は独立に炭素原子数1〜6のアルキル基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、但しa+bは1〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシラン化合物: 0.01〜20質量部、および/または
(F-2)下記一般式(4):
【化1】

(式中、R7は独立に炭素原子数1〜6のアルキル基であり、cは5〜100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン: 0.01〜20質量部
を含有する請求項1または2に係る組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物をインジウム粉末の融点以上の温度で加熱することにより硬化させてなる熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項5】
電子部品と、放熱部材と、これらの電子部品と放熱部材との間に設けられ請求項4に記載の硬化物からなる熱伝導性部材とを有してなる電子装置。
【請求項6】
前記熱伝導性部材が厚さ30μm以下の層状である請求項5に係る電子装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物の硬化方法であって、該組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度で加熱する工程を有する硬化方法。
【請求項8】
(I)電子部品の表面に請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物を塗布する工程、
(II)こうして塗布した組成物に放熱部材を載置する工程、および
(III)次に、塗布した組成物を加圧下でインジウム粉末の融点以上の温度で加熱することにより硬化させる工程、
を含む電子部品と放熱部材との間に熱伝導性部材を形成する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51227(P2007−51227A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238019(P2005−238019)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】