説明

熱伝導性シリコーン組成物の接着方法、熱伝導性シリコーン組成物接着用プライマー及び熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法

【課題】シリコンウェハーの表面に形成された金表面へ熱伝導性シリコーン組成物を接着させることができる方法及びプライマーを提供する。
【解決手段】シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーを塗布して乾燥させた後、塗布面に熱伝導性シリコーン組成物を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金などの貴金属表面に熱伝導性シリコーン組成物を接着する方法、それに用いるプライマー及び熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーン樹脂を基材へ接着する方法としては、シリコーン樹脂に接着性を付与する材料を混合しておくか、又は基材表面に予めシリコーン又はシランカップリング剤等を含むプライマーを塗布した後、シリコーン樹脂を塗布・硬化させる方法が一般的である。
プライマーを用いる技術としては、例えば、アルコキシシランと白金系化合物を含むプライマー組成物を基材表面に塗布、乾燥させ、この面にシリコーンゴムを接着させる技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特公平3−12114号公報
【特許文献2】特開平9−208923公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2記載の技術の場合、金などの貴金属表面へのシリコーン組成物の接着が困難であるという問題がある。これは、通常、シリコーン組成物に含まれる成分、又はプライマー中の反応基が基材表面の置換基と反応し、化学結合することで接着力が生じるが、金などの貴金属表面には置換基が極めて少なく、このような作用が生じにくいためと考えられる。
【0005】
従って、本発明の目的は、シリコンウェハーの表面に形成された金表面へ熱伝導性シリコーン組成物を接着させることができる方法、熱伝導性シリコーン組成物接着用プライマー、及び熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、プライマー中にアルコキシシランを含むと、金などの貴金属表面への熱伝導性シリコーン組成物の接着性が低下することを見出した。
すなわち、上記の目的を達成するために、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の接着方法は、シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーを塗布して乾燥させた後、該塗布面に熱伝導性シリコーン組成物を接着するものである。
【0007】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する25℃の粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンと、(B)下記一般式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、n,mは0.01≦n/(n+m)≦0.3を満足する正数を示す。)とを含むことが好ましい。
【0008】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物接着用プライマーは、シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に熱伝導性シリコーン組成物を接着するためのプライマーであって、白金単体粒子、白金担持粒子、塩化白金酸、白金錯体、及び白金配位化合物の群から選ばれる1種以上並びに溶剤を含み、かつアルコキシシランを含まない。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法は、シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーを塗布して乾燥させた後、該塗布面に熱伝導性シリコーン組成物を接着する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコンウェハーの表面に形成された金表面へ熱伝導性シリコーン組成物を接着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<被接着体>
本発明において、熱伝導性シリコーン組成物を接着する対象(被接着体)は、シリコンウェハーの表面に形成された金の表面である。表面には置換基が極めて少なく、プライマー中の反応基と化学結合することが困難であり、一般に熱伝導性シリコーン組成物との接着力が低下する。
なお、めっきや蒸着等によりシリコンウェハーの表面に形成されているものも被接着体に含む。
【0011】
<プライマー>
本発明に用いるプライマーは、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まない。
[白金系化合物]
白金系化合物としては、白金単体粒子、白金担持粒子、塩化白金酸、白金錯体、及び白金配位化合物の群から選ばれる1種以上を挙げることができる。
白金担持粒子としては、シリカ、アルミナ、カーボンブラック等に白金粒子を担持したものを用いることができる。
白金錯体としては、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体等を例示することができる。
【0012】
プライマー中の白金系化合物の含有割合は、白金系化合物に含まれる白金換算で、プライマー中の溶媒に対し0.01〜2.0重量%であることが好ましい。白金系化合物の含有割合が0.01重量%より少ないと接着力の向上が認められず、2.0重量%より多いと効果が飽和するとともに不経済となる傾向にある。
【0013】
[溶剤]
プライマーを使用し易くするため、白金系化合物を溶剤中に希釈する。溶剤としては、プライマーの乾燥(風乾)時間を短縮するために比較的揮発性の良いものを用いることが好ましく、例えばトルエンやイソプロピルアルコール等の有機溶剤が例示されるが、これらに限定されない。
【0014】
[アルコキシシラン]
本発明に用いるプライマーは、アルコキシシランを含まないことを特徴とする。本発明者らが鋭意検討した結果、プライマー中にアルコキシシランを含むと、上記表面への熱伝導性シリコーン組成物の接着性が低下することが判明した。
アルコキシシランは、アルコキシシリル基を含む化合物であり、特にトリアルコキシシリル基を含む化合物である。トリアルコキシシリル基を含む化合物としては、特開平9−208923公報に記載のアルケニルトリアルコキシシラン(例えば、アリルトリメトキシシラン)を挙げることができる。又、トリアルコキシシリル基を含む化合物として、特公平3−12114号公報に記載のシラン化合物(同公報の特許請求の範囲の一般式(2)で表されるもの、例えばγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を挙げることができる。
【0015】
<熱伝導性シリコーン組成物>
本発明を適用することができる熱伝導性シリコーン組成物は、加熱硬化型のものである。熱伝導性シリコーン組成物としては、(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する25℃の粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンと、(B)下記一般式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、n,mは0.01≦n/(n+m)≦0.3を満足する正数を示す。)とを含むものを用いると、表面との接着性がさらに向上するので好ましい。
上記(A)成分と(B)成分とを配合し、さらに必要に応じて白金及び白金化合物から選ばれる触媒を配合することにより、(A)成分と(B)成分とが付加反応し、加熱硬化する。(A)成分と(B)成分との加熱硬化体は、シロキサン鎖中又はシロキサン末端にアルケニル基をもつ部分と、Si-H基をもつ部分とが混在している。上記熱伝導性シリコーン組成物はさらに、必要に応じて接着成分としてエポキシ基あるいはアルコキシ基など持つ成分を含んでも良い。
【0016】
なお、上記(A)成分と(B)成分とは、特許第3580366号公報に記載の(A)成分及び(B)成分と同一のものである。さらに、同公報に記載の(C)〜(F)成分を配合したものを熱伝導性シリコーン組成物として用いることができ、各成分の配合割合も同公報に記載のものと同一とすることができる。
又、上記した白金及び白金化合物から選ばれる触媒としては、同公報に記載の(E)成分を用いることができる。
【0017】
さらに、上記熱伝導性シリコーン組成物の反応を制御する目的で、アセチレン化合物、各種窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、及び有機クロロ化合物より選択される制御剤を配合しても良い。さらに、上記熱伝導性シリコーン組成物は増稠剤としてのフィラーを含んでもよい。フィラーとしては、シリコーンを増稠させるものならいずれのものでもよいが、例えば金属粉、セラミック粉、金属酸化物粉、カーボンなどが挙げられる。
【0018】
<プライマーの塗布>
上記プライマーを被接着体に塗布する方法としては、ディッピング、ガーゼ塗布、スプレー塗布などが挙げられるが、ガーゼ塗布やスプレー塗布が簡便で且つ経済的である。塗布回数は基本的に一回で良いが、必要に応じて塗布を二回以上繰り返しても良い。プライマー塗布後の乾燥は、室温で1時間程度の風乾で充分であるが、プライマー中の溶剤の揮発を促進するため、乾燥機などを用いても良い。
プライマーの塗布及び乾燥後、塗布面に上記熱伝導性シリコーン組成物を塗着して加熱硬化させることにより、被接着体に熱伝導性シリコーン組成物を接着させることができる。熱伝導性シリコーン組成物の加熱方法は特に限定されないが、オーブンなどを用いることが好ましい。加熱温度は100〜180℃程度とし、加熱時間は数分から数時間とすることが好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法は、上記した被接着体にプライマ−を塗布後に上記熱伝導性シリコーン組成物を接着し、被接着体と熱伝導性シリコーン組成物の加熱硬化物からなる複合体を製造する。
【0020】
<実施例>
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り、質量部及び質量%を示す。
【0021】
<被接着体の作製>
被接着体1:金表面を有する被接着体として、10mm角のシリコンウェハーの片面に金を蒸着させた。
被接着体2:金表面を有しない被接着体として、10mm角のシリコンウェハーの表面に金を蒸着させないものを用いた。
【0022】
<プライマーの作製>
プライマーA:白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体をトルエン(溶媒)に0.5%溶解したものを用いた。
プライマーB:アリルトリメトキシシランをトルエン(溶媒)に10%溶解したものを用いた。
プライマーC:白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体、及びアリルトリメトキシシランをトルエン(溶媒)にそれぞれ0.5%、10%溶解したものを用いた。
【0023】
<熱伝導性シリコーン組成物の作製>
成分(A)として、両末端がシ゛メチルヒ゛ニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が600 mm2/sのシ゛メチルホ゜リシロキサン100gを配合し、さらに平均粒径4.9μmのアルミニウム粉末800g、平均粒径1.0μmの酸化亜鉛粉末200g、及びカップリング剤であるC10H21Si(OCH33を6g加え、5ルッタープラネタリーミキサーで70度、1時間の加熱攪拌を行った。冷却後の混合物に対し、1-エチニル-1-シクロヘキサノールの50%トルエン溶液を0.45g加え、さらに白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体の0.5%トルエン溶液を0.2gを攪拌しながら加え、次いで、成分(B)として、式(2)
【化2】

で表されるSi-H基含有オルガノポリシロキサン11.7gを攪拌しながら加え、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0024】
<テストピースの作製と接着力の測定>
図1に示すように、25mm×100mmの鉄表面にニッケルをコートしたニッケル板14(株式会社テストピース社製)を用意し、このニッケル板14と被接着体10との間に熱伝導性シリコーン組成物12を挟み込んだ。この積層物10、12、14を125℃のオーブンに90分間装入して熱伝導性シリコーン組成物12を加熱硬化させ、テストピースを作製した。さらにテストピースを125℃で200時間エージングした後、被接着体10の横方向からプローブ20で負荷を与え、破壊荷重を測定し、この値を接着力とした。接着力の測定機は株式会社レスカ社のボンディングテスターPTR-1000を用い、測定を3回行った結果の平均値を採用した。
【実施例1】
【0025】
プライマーAを浸したガーゼで被接着体1の金蒸着面を一回拭ってプライマーAを塗布した後、室温で1時間風乾した。この塗布面に対し上記方法でテストピースを作製し、接着力を測定したところ、接着力は55Nであった。
【0026】
<比較例1>
被接着体1の代わりに被接着体2を用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてテストピースを作製し接着力を測定したところ、接着力は31Nであった。
【0027】
<比較例2>
被接着体1の代わりに被接着体2を用い、さらにプライマーAを被接着体2に塗布しなかったこと以外は実施例1と全く同様にしてテストピースを作製し接着力を測定したところ、接着力は28Nであった。
【0028】
<比較例3>
被接着体1の金蒸着面にプライマーAを塗布せず、代わりにニッケル板の表面をプライマーAを浸したガーゼで一回拭って塗布した後、室温で1時間風乾したこと以外は実施例1と全く同様にしてテストピースを作製し接着力を測定したところ、接着力は24Nであった。
【0029】
<比較例4>
プライマーAの代わりにプライマーBを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてテストピースを作製し接着力を測定したところ、接着力は28Nであった。
【0030】
<比較例5>
プライマーAの代わりにプライマーCを用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてテストピースを作製し接着力を測定したところ、接着力は44Nであった。
【0031】
以上から明らかなように、白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体及び溶剤を含みかつアルコキシシラン(を含まないプライマーを用いた実施例1の場合、金表面への熱伝導性シリコーン組成物の接着力が向上した。
【0032】
一方、白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーをシリコン表面に塗布した比較例1の場合、熱伝導性シリコーン組成物の接着力は向上しなかった。
シリコン表面にプライマーを塗布しなかった比較例2の場合、熱伝導性シリコーン組成物の接着力は向上しなかった。
金表面にプライマーを塗布しなかった比較例3の場合も、熱伝導性シリコーン組成物の接着力は向上しなかった。
【0033】
白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体を含まず、アルコキシシラン(アリルトリメトキシシラン)を含んだプライマーを金表面に塗布した比較例4の場合、熱伝導性シリコーン組成物の接着力は向上しなかった。
白金-ヒ゛ニルシロキサン錯体を含むものの、アルコキシシラン(アリルトリメトキシシラン)を含んだプライマーを金表面に塗布した比較例5の場合も、熱伝導性シリコーン組成物の接着力は実施例1に比べて劣った。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】テストピースの作製及び接着力の測定方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーを塗布して乾燥させた後、該塗布面熱伝導性シリコーン組成物を接着する熱伝導性シリコーン組成物の接着方法。
【請求項2】
前記熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する25℃の粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンと、
(B)下記一般式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、n,mは0.01≦n/(n+m)≦0.3を満足する正数を示す。)とを含む請求項1記載の熱伝導性シリコーン組成物の接着方法。
【請求項3】
シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に熱伝導性シリコーン組成物を接着するためのプライマーであって、白金単体粒子、白金担持粒子、塩化白金酸、白金錯体、及び白金配位化合物の群から選ばれる1種以上並びに溶剤を含み、かつアルコキシシランを含まない熱伝導性シリコーン組成物接着用プライマー。
【請求項4】
シリコンウェハーの表面に金が形成され、当該金の表面に、白金系化合物及び溶剤を含みかつアルコキシシランを含まないプライマーを塗布して乾燥させた後、該塗布面に熱伝導性シリコーン組成物を接着する熱伝導性シリコーン組成物の接着複合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221485(P2009−221485A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156641(P2009−156641)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【分割の表示】特願2006−291907(P2006−291907)の分割
【原出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】