説明

熱処理方法及び熱処理装置

【課題】炉内のCPを安定させることができる熱処理方法及び熱処理装置を提供する。
【解決手段】炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理方法において、炉内のカーボンポテンシャルに基づいて前記エンリッチガスの供給流量を操作することにより、カーボンポテンシャルをフィードバック制御し、炉の開口を開ける前に、前記フィードバック制御を停止させ、前記変成ガス及び前記エンリッチガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量よりそれぞれ増加させ、炉の開口を閉じた後、前記変成ガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量に戻し、かつ、前記フィードバック制御を再開させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の熱処理方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の熱処理では雰囲気制御が重要であり、かかる雰囲気制御は、熱処理雰囲気のCP(カーボンポテンシャル)を制御することによって行われる。従来、鋼材の浸炭熱処理において、CPに基づいてエンリッチガス(Cガス)の供給量を制御することによりCPを一定の値に安定させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、比例制御、PID制御などのフィードバック制御によってCPを安定させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−15782号公報
【特許文献2】特開2003−013136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の熱処理炉にあっては、被処理体を搬入出するときに、炉の開口を開くと、炉内に空気が侵入して、CPが大きく減少する問題があった。特に、CPをフィードバック制御している場合、制御応答(CP)がオーバーシュートする問題があった。さらに、制御応答が不安定になってハンチングが起こったり、目標値になるまでに時間がかかったりすることがあった。
【0005】
本発明の目的は、炉内のCPを安定させることができる熱処理方法及び熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明によれば、炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理方法であって、炉内のカーボンポテンシャルに基づいて前記エンリッチガスの供給流量を操作することにより、カーボンポテンシャルをフィードバック制御し、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記フィードバック制御を停止させ、前記変成ガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量より増加させ、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック制御を再開させることを特徴とする、熱処理方法が提供される。かかる熱処理方法によれば、開口の開閉の影響により炉内に空気が侵入しても、炉内のCPが減少したり乱れたりすることを防止できる。
【0007】
この熱処理方法にあっては、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記変成ガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量に戻すようにしても良い。さらに、前記フィードバック制御を停止させた際、前記エンリッチガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量より増加させるようにしても良い。そうすれば、CPの減少をさらに効果的に抑制できる。
【0008】
また、前記開口は、被処理体を炉から搬出するための搬出口であって、記炉の搬出口の外側に設けた油槽室の出口を閉じた状態で、前記炉の搬出口を開き、被処理体を前記油槽室に搬入し、前記炉の搬出口を閉じた後、前記油槽室の出口を開いて被処理体を前記油槽室から搬出することとしても良い。
【0009】
また、本発明によれば、炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理装置であって、前記変成ガスの供給路に設けられた変成ガス流量調整弁の開度を調節する第一の調節器、及び、前記エンリッチガスの供給路に設けられたエンリッチガス流量調整弁の開度を調節する第二の調節器を備え、前記第二の調節器を備え前記カーボンポテンシャルをフィードバック制御するフィードバック制御系が構成され、前記第一の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記変成ガス流量調整弁の開度を大きくし、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記変成ガス流量調整弁の開度を小さくし、前記第二の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、フィードバック調節を停止させ、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック調節を再開させることを特徴とする、熱処理装置が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理装置であって、前記変成ガスを炉内に供給する第一の変成ガス供給路及び第二の変成ガス供給路を備え、前記第二の変成ガス供給路に設けられた開閉弁の開閉を調節する第一の調節器、及び、前記エンリッチガスの供給路に設けられたエンリッチガス流量調整弁の開度を調節する第二の調節器を備え、前記第二の調節器を備え前記カーボンポテンシャルをフィードバック制御するフィードバック制御系が構成され、前記第一の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記開閉弁を開き、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記開閉弁を閉じ、前記第二の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、フィードバック調節を停止させ、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック調節を再開させることを特徴とする、熱処理装置が提供される。
【0011】
この熱処理装置にあっては、前記第二の調節器は、フィードバック調節を停止させる際、前記エンリッチガス流量調整弁の開度を大きくする操作を行う構成としても良い。また、前記エンリッチガスを炉内に供給する第二のエンリッチガス供給路を備え、前記第二の調節器は、フィードバック調節を行っている際、前記第二のエンリッチガス供給路に設けられた開閉弁を閉じ、フィードバック調節を停止させている際は、前記第二のエンリッチガス供給路に設けられた開閉弁を開くように操作する構成としても良い。
【0012】
前記開口は、被処理体を炉内から搬出するための搬出口であって、前記炉の搬出口の外側に、油槽室を設けたこととしても良い。また、炉内に設けられた浸炭室と拡散室との間に、被処理体を通過させる通過口を設け、前記通過口を閉じるシャッターを設けても良い。そうすれば、浸炭室と拡散室の雰囲気をさらに安定させることができる。
【0013】
すなわち本発明は、炉の開口部を開閉する際に生じるCPの乱れを防止するためのものであり、開口部の開閉に合わせて、変成ガスの供給流量、又は、変成ガスの供給流量とエンリッチガスの供給流量とを共に増加させることにより、従来、開口部の開閉によって炉内が負圧になり空気などを吸い込んでCPが低下していた現象を防止するものである。CPを安定させることにより、例えば浸炭などの熱処理の効率を向上させるものである。さらには、浸炭処理の場合などでは、浸炭室と拡散室の間にシャッターを設けることにより、浸炭室を高CPに保ちながら、拡散室のCPを適切に保持させることによっても、効率の良い浸炭処理を行うことができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炉の開口を開くときに変成ガス又はエンリッチガスの供給流量を増加させることにより、炉内に空気が侵入しても、炉内のCPが減少することを防止できる。炉の開口を開くときにCPのフィードバック制御を停止させることで、CPが不安定になることを防止できる。複雑な制御の設定を行うことなく、簡単にCPの安定を図ることができる。炉内のCPを安定させることにより、浸炭処理を効果的に行うことができる。さらには、高CPの雰囲気にしても、CPを安定させることができ、効率の高い浸炭処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】浸炭処理装置の構成を説明する概略断面図である。
【図2】熱処理炉内の圧力の変化を説明するグラフである。
【図3】浸炭室のCPの変化を説明するグラフである。
【図4】浸炭室へのエンリッチガスの供給流量の変化を説明するグラフである。
【図5】浸炭室への変成ガスの供給流量の変化を説明するグラフである。
【図6】別の実施形態にかかる浸炭処理装置の構成を説明する概略断面図である。
【図7】別の実施形態にかかる浸炭処理装置の構成を説明する概略断面図である。
【図8】実験1における炉温の目標値及びCPの目標値の変動を示すグラフである。
【図9】比較実験1における炉温の目標値及びCPの目標値の変動を示すグラフである。
【図10】比較実験2における炉温の目標値及びCPの目標値の変動を示すグラフである。
【図11】実験1において得られた炉温とCPの測定値の変動を示すグラフである。
【図12】比較実験1において得られた炉温とCPの測定値の変動を示すグラフである。
【図13】比較実験2において得られた炉温とCPの測定値の変動を示すグラフである。
【図14】実験1による処理を施した被処理体、比較実験1による処理を施した被処理体、及び、比較実験2による処理を施した被処理体の炭素濃度分布を示すグラフである。
【図15】実験1による処理を施した被処理体、比較実験1による処理を施した被処理体、及び、比較実験2による処理を施した被処理体のECDを示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明にかかる熱処理方法としての浸炭処理方法を実施する熱処理装置としての浸炭処理装置1は、鋼材品である被処理体2の熱処理を行う熱処理炉3を備えている。熱処理炉3内には、搬入室としての脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14が、前方から後方(図1においては左方から右方)に向かってこの順に設けられている。熱処理炉3の後方には、油槽室16が設けられている
【0017】
熱処理炉3の前部には、被処理体2を熱処理炉3内の脱脂室10に搬入するための開口としての搬入口21が設けられており、搬入口21を開閉する扉22が設けられている。
【0018】
脱脂室10と予熱室11の間には、被処理体2を通過させるための通過口31が形成されており、通過口31を塞ぐシャッター32が備えられている。予熱室11と浸炭室12の間には、被処理体2を通過させるための通過口33が形成されており、通過口33を塞ぐシャッター34が備えられている。浸炭室12と拡散室13の間には、被処理体2を通過させるための通過口35が形成されており、通過口35を塞ぐシャッター36が備えられている。拡散室13と焼入室14の間には、被処理体2を通過させるための通過口37が形成されており、通過口37を塞ぐシャッター38が備えられている。脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14において被処理体2を処理するときは、通過口31、33、35、37はシャッター32、34、36、38によってそれぞれ閉じられるようになっている。なお、シャッター32、34、36、38によって通過口31、33、35、37を塞いだときも、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14の雰囲気は、通過口31、33、35、37と各シャッター32、34、36、38の間の隙間を介して互いに連通している。
【0019】
熱処理炉3の後部には、被処理体2を熱処理炉3から搬出して油槽室16に搬入するための開口としての搬出口41が形成され、搬出口41を開閉する扉42が設けられている。前述した油槽室16は、搬出口42の外側に設けられており、搬出口41を介して熱処理炉3と連通するようになっている。扉42には、孔42aが設けられている。
【0020】
熱処理炉3内の下部には、被処理体2を搬入口21から搬出口41側に向かって搬送するローラコンベア50が設けられている。被処理体2は、ローラコンベア50によって通過口31、33、35、37を順に通過するように搬送され、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に順に搬入、搬出されるようになっている。なお、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14には、複数の被処理体2をローラコンベア50の搬送方向に並べて搬入することができる。
【0021】
予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14には、変成ガス(RXガス)を供給する変成ガス供給路61、62、63、64がそれぞれ接続されている。変成ガスは主にCO(一酸化炭素)ガス、H(水素)ガス、N(窒素)ガスからなり、CO(二酸化炭素)、HO(水)を微量に含んでいる。変成ガス供給路61、62、63、64には、変成ガス流量調整弁71、72、73、74がそれぞれ介設されている。変成ガス流量調整弁71、72、73、74の開度は、第一の調節器90の出力信号によって調節される。
【0022】
また、浸炭室12、拡散室13、焼入室14には、エンリッチガス(Cガス)として例えば都市ガスなどを供給するエンリッチガス供給路82、83、84がそれぞれ接続されている。エンリッチガス供給路82、83、84には、エンリッチガス流量調整弁92、93、94がそれぞれ介設されている。エンリッチガス流量調整弁92、93、94の開度は、第二の調節器100の出力信号によって調節される。
【0023】
さらに、焼入室14には、空気を供給する空気供給路104が接続されている。空気供給路104には、空気流量調整弁105が介設されている。脱脂室10の上部には、排気を行うエキセス106が備えられている。脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14の上部には、各室内の雰囲気を攪拌するファン110がそれぞれ備えられており、さらに、図示はしないが、各室内の雰囲気を加熱するヒータがそれぞれ設けられている。また、浸炭室12、拡散室13、焼入室14には、各室内のCPを測定するための酸素(O)センサ112、113、114がそれぞれ設けられている。各酸素センサ112、113、114の検出値は、第二の調節器100に送信されるようになっている。
【0024】
調節器100は、酸素センサ112、113、114の検出値に基づいて、浸炭室12、拡散室13、焼入室14における各CPを計算する機能を有し、また、浸炭室12、拡散室13、焼入室14内の各CPに基づいてエンリッチガス流量調整弁92、93、94の各開度をそれぞれ調節するPID(比例・積分・微分)調節計の機能を有する。即ち、調節器100は、計算により求めた浸炭室12、拡散室13、焼入室14内の各CPをそれぞれの目標値と比較し、各CPがそれぞれ目標値になるように、エンリッチガス流量調整弁92、93、94の各操作量を求め、エンリッチガス流量調整弁92、93、94に対して操作信号を送信する。そして、調節器100の操作信号に応じてエンリッチガス流量調整弁92、93、94の開度がそれぞれ調節され、これにより、エンリッチガス供給路82、83、84からの変成ガス供給流量がそれぞれ調節される。即ち、酸素センサ112、調節器100及びエンリッチガス流量調整弁92を備えたフィードバック制御系としてのPID制御系122と、酸素センサ113、調節器100及びエンリッチガス流量調整弁93を備えたフィードバック制御系としてのPID制御系123と、酸素センサ114、調節器100及びエンリッチガス流量調整弁94を備えたフィードバック制御系としてのPID制御系124とが構成されている。浸炭室12におけるCPはPID制御系122によって制御され、拡散室13におけるCPはPID制御系123によって制御され、焼入室14におけるCPはPID制御系124によって制御される。
【0025】
油槽室16の下部には、油槽130が備えられている。また、被処理体2を油槽室16内から搬出するための出口131が形成されており、出口131を開閉する扉132が設けられている。また、油槽室16の上部には、排気を行うエキセス133、油槽室16に変成ガスを供給する変成ガス供給路134が取り付けられている。
【0026】
なお、熱処理炉3内の雰囲気は、エキセス106から排気され、また、扉42の孔42aを介して油槽室16に流入して、エキセス133から排気されるようになっている。また、前述のように、通過口31、33、35、37がシャッター32、34、36、38によってそれぞれ閉じられるときも、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14の雰囲気は互いに連通しており、被処理体2の熱処理中、熱処理炉3内の雰囲気は、おおむね拡散室13から浸炭室12、予熱室11、脱脂室10へ順に流れ、エキセス106から排気されるようになっている。また、拡散室13から焼入室14にも流れ、扉42の孔42aを介して油槽室16に流入して、エキセス133から排気されるようになっている。こうすることで、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14内の雰囲気が好適に調整される。特に、拡散室13と浸炭室12の間にシャッター36が設けられていると、拡散室13から浸炭室12に雰囲気が流入することを防止でき、これにより、拡散室13のCPが上昇することを防止できる。また、熱処理炉3内の炉圧は、エキセス106、133の開度を調節することにより制御することができる。
【0027】
また、浸炭処理装置1には、浸炭処理装置1における工程を制御するシーケンサ140が備えられている。前述した調節器90、100は、シーケンサ140にネットワーク等を介して接続されている。
【0028】
次に、以上のように構成された浸炭処理装置1を用いた被処理体2の浸炭処理工程について説明する。先ず、熱処理炉3の搬入口21を開いて、被処理体2を脱脂室10に搬入し、搬入口21を閉じ、脱脂処理を行う。脱脂室10において、被処理体2は約80℃程度まで昇温される。次に、通過口31を開いて、被処理体2を脱脂室10から予熱室11に移動させ、通過口31を閉じる。予熱室11においては、被処理体2は約940℃程度まで昇温される。予熱後、通過口33を開いて、被処理体2を予熱室11から浸炭室12に移動させ、通過口33を閉じる。浸炭室12において、被処理体2は約950℃程度に加熱され、所定時間、浸炭処理が行われる。浸炭室12内のCPは、PID制御により比較的高い値、例えば約1.1%程度に維持される。浸炭処理後、通過口35を開いて、被処理体2を浸炭室12から拡散室13に移動させ、通過口35を閉じる。拡散室13においては、被処理体2は約950℃程度に加熱され、所定時間、拡散処理が行われる。拡散室13のCPは、PID制御により約0.8%程度に維持される。拡散後、通過口37を開いて、被処理体2を拡散室13から焼入室14に移動させ、通過口37を閉じる。焼入室14においては、被処理体2は約850℃程度に降温され、所定時間、焼入れが行われる。焼入室14のCPは、PID制御により約0.7%程度に維持される。焼入後、熱処理炉3の搬出口41を開いて、被処理体2を油槽室16に搬入し、搬出口41を閉じる。そして、油槽室16において、被処理体2を油槽130に浸漬させて油焼き入れを行い、油槽130から引き上げた後、出口131を開いて搬出させる。以上のようにして、浸炭処理装置1における一連の処理が終了する。
【0029】
ところで、熱処理炉3の搬出口41を開閉する間に、搬入口21と油槽室16の出口131がそれぞれ閉じられている場合、CP値のPID制御をそのまま継続すると、CP値の制御が非効率的になる問題がある。図2は、搬入口21及び出口131を閉じた状態で搬出口41を開いたときの、熱処理炉3内の圧力の変化を示している。図3及び図4は、そのときの浸炭室12におけるCPの変化、エンリッチガス供給路82からのエンリッチガスの供給流量の変化をそれぞれ示している。搬入口21及び油槽室16の出口131が閉じられた状態で、熱処理炉3の搬出口41が開きはじめると(図2においてS1)、油槽室16内の低温の雰囲気が熱処理炉3内からの輻射熱によって加熱されて急激に膨張し、図2に示すように、熱処理炉3内の圧力が上昇する。その後、搬出口41が閉まりはじめると(図2においてS2)、熱処理炉3内の圧力が急激に下降する。搬出口41が閉じられると(図2においてS3)、熱処理炉3内の圧力が下降し続けた後、熱処理炉3の外部から空気が吸い込まれる。そのため、図3において一点鎖線で示すように、浸炭室12内のCPが急激に下降する。このようにCPが急激に減少するときに、PID制御系122のPID制御をそのまま継続すると、図4において一点鎖線で示すように、エンリッチガス供給路82からのエンリッチガス供給流量を急激に増加させるように制御され、図3において一点鎖線で示すように、浸炭室12のCPがオーバーシュートする。そして、CPが不安定になってハンチングが起こったり、目標値になるまでに時間がかかったりするなどの問題が生じて、制御が良好に行われなくなる。そこで、本実施の形態では、搬出口41を開閉する際にPID制御系122のPID制御を停止させ、CPが不安定になることを防止する。このようにすると、図3において二点鎖線で示すように、浸炭室12のCPが減少しても、CPを安定的に目標値に近づけることができる。さらに、本実施の形態では、PID制御を停止させるとともに、変成ガス供給路62からの変成ガス供給流量及びエンリッチガス供給路82からのエンリッチガス供給流量を増加させることで、浸炭室12内の圧力が減少すること、及び、浸炭室12内のCPが減少することを防止している。同様の理由により、拡散室13、焼入室14においても、搬出口41を開閉する際にPID制御系123、124のPID制御を停止させ、さらに、変成ガス供給路63、64からの変成ガス供給流量及びエンリッチガス供給路83、84からのエンリッチガス供給流量を増加させるようにしている。
【0030】
具体的に説明すると、先ず、搬出口41を開く前においては、エンリッチガス供給路82、83、84からのエンリッチガス供給流量は、PID制御系122、123、124によってそれぞれ調節されており、変成ガス供給路62、63、64からの変成ガス供給流量は、変成ガス流量調整弁72、73、74の開度が一定に維持されていることにより、図5に示すように、それぞれ一定の流量に維持されている。そして、搬出口41を開く直前に、シーケンサ140から調節器100に対して、PID調節を停止させてエンリッチガス流量調整弁92、93、94の開度を大きくさせる命令が与えられ、図4において実線で示すように、エンリッチガス供給路82、83、84からの供給流量が所定の値に増加させられる。また、シーケンサ140から調節器90に対して、変成ガス流量調整弁72、73、74の開度を大きくさせる命令が与えられ、図5に示すように、変成ガス供給路62、63、64からの供給流量がそれぞれ所定の値に増加させられる。こうしてPID制御を停止させエンリッチガス及び変成ガスの供給流量をPID制御を停止させる直前における供給流量より増加させてから所定時間T1後に、シーケンサ140から図示しない扉42の開閉駆動機構に、搬出口41を開く命令が与えられる。その後、PID制御を停止させてから所定時間T2後に、シーケンサ140から調節器100に対してPID調節を再開させる命令が与えられる。これにより、エンリッチガス流量調整弁92、93、94の開度が、PID制御を停止させる前の状態に近づき、図4において実線で示すように、各エンリッチガス供給路82、83、84からのエンチッチガスの供給流量が減少し、PID制御を停止させる前の状態に近づく。また、シーケンサ140から調節器90に対して、変成ガス流量調整弁72、73、74の開度を小さくさせる命令が与えられ、図5に示すように、変成ガス供給路62、63、64からの供給流量がそれぞれPID制御を停止させる前の状態に戻る。以上の方法により、図3において実線で示すように、CPをほぼ一定に維持することができる。
【0031】
なお、所定時間T2は、予め実験に基づき十分な時間が確保されるように決定すれば良い。例えば、PID制御を停止させエンリッチガス及び変成ガスの供給流量を増加させてから所定時間T1後に、搬出口41を開口させ、被処理物2を搬出させ、搬出口41を閉じ、その後、熱処理炉3内の炉圧が所定の圧力、例えば搬出口41を開く前の炉圧に近づくまでの平均的な時間を調べ、その所要時間を所定時間T2としても良い。即ち、搬出口41を閉じた後において炉圧が所定の圧力、例えば搬出口41を開く前の炉圧に戻ったら、PID調節が再開され、変成ガス流量調整弁72、73、74の開度が戻されるように設定すれば良い。これにより、炉圧が十分に上昇して空気の吸い込みが無くなってから、PID制御を再開させ、また、変成ガスの供給流量を戻すことができる。PID調節を再開させても、CPが不安定になることを防止でき、また、炉内に空気が吸い込まれる間中、変成ガスの供給流量を増量させることで、CPが減少することを確実に防止できる。
【0032】
かかる浸炭処理装置1によれば、熱処理炉3の搬出口41を開くときに変成ガス及びエンリッチガスの供給流量を増加させることにより、熱処理炉3内の炉圧が低下することを防止でき、さらに、熱処理炉3内に空気が侵入すること、熱処理炉3内のCPが減少することを防止できる。熱処理炉3の搬出口41を開くときにCPのフィードバック制御を停止させることで、CPが不安定になることを防止できる。複雑な制御の設定を行うことなく、簡単にCPの安定を図ることができる。熱処理炉3内のCPを安定させることにより、浸炭処理を効果的に行うことができる。例えば、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13又は焼入室14において被処理体2を処理しているときに、搬出口41を開いて他の被処理体2を焼入室14から油槽室16に移動させる際に、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14の各CPが変動することを抑制できる。従って、脱脂室10、予熱室11、浸炭室12、拡散室13、焼入室14における各処理を良好に行うことができ、さらには、処理効果の信頼性の向上、処理時間の短縮を図ることができる。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0034】
以上の実施形態では、変成ガスとエンリッチガスの供給流量を同時に増加させ、同じ所定時間T2の後、減少させる方法を説明したが、変成ガスとエンリッチガスの供給流量を増加又は減少させるタイミングは、かかるものに限定されない。例えば、エンリッチガス供給流量を増加させる時間T3を、変成ガス供給流量を増加させる時間T2より短くしても良い。変成ガスの供給流量の増加開始時刻とエンリッチガスの供給流量の増加開始時刻は互いに異なっていても良い。
【0035】
また、以上の実施形態では、PID制御の停止や、変成ガスの供給流量の増加開始、エンリッチガスの供給流量の増加開始といった操作を、搬出口41を開く直前に行うようにしたが、これらの操作は、搬出口41を開く前ではなく、搬出口41を開いた後に行っても良い。即ち、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内に炉外の雰囲気が流入し始める前までにこれらの操作を行えば、CPの減少や乱れを防ぐことが可能である。例えば、搬出口41を開いている間に上記の操作を行っても良い。また、搬出口41を閉じてから熱処理炉3内に炉外の雰囲気が流入し始めるまでの平均的な時間を予め調べておき、その時間が経過する前に、上記の操作を行うようにしても良い。また、搬出口41を閉じてから熱処理炉3内の炉圧が所定の値まで下がる前に、上記の操作を行うようにしても良い。
【0036】
また、以上の実施形態では、変成ガスとエンリッチガスの供給流量を共に増加させるようにしたが、エンリッチガスの供給流量は、PID制御を停止させる直前における供給流量のまま増加させず、変成ガスの供給流量のみを増加させるようにしても良い。即ち、PID制御の停止と、変成ガスの供給流量の増加のみでも、搬出口41の開閉に伴うCPの減少を十分に防止することが可能である。
【0037】
以上の実施形態では、変成ガス流量調整弁72、73、74の開度とエンリッチガス流量調整弁92、93、94の開度をそれぞれ調節することにより、変成ガスとエンリッチガスの供給流量を調節したが、例えば、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に変成ガスを供給する第二の変成ガス供給路をそれぞれ備え、搬出口41を開くときのみ第二の変成ガス供給路から変成ガスを供給することにより、変成ガス供給流量を増加させるようにしても良い。同様に、浸炭室12、拡散室13、焼入室14にエンリッチガスを供給する第二のエンリッチガス供給路をそれぞれ備え、搬出口41を開くときのみ第二のエンリッチ供給路からエンリッチガスを供給することにより、エンリッチガス供給流量を増加させるようにしても良い。
【0038】
例えば図6に示すように、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対して、第一の変成ガス供給路62、63、64の他に、変成ガス増量用の第二の変成ガス供給路152、153、154をそれぞれ接続する。図示の例では、各第二の変成ガス供給路152、153、154は、変成ガスの供給源と変成ガス供給路62、63、64の変成ガス流量調整弁72、73、74より下流側との間に設けられたバイパス回路になっている。各第二の変成ガス供給路152、153、154には、それぞれ開閉弁156、157、158を介設する。各開閉弁156、157、158の開閉動作は、第一の調節器90’の出力信号によって調節されるようにする。この第一の調節器90’は、搬出口41を開く直前、搬出口41を開いている間、又は、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに開閉弁156、157、158を開き、搬出口41を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、開閉弁156、157、158を閉じる操作を行う。かかる構成において、搬出口41を開く前の通常状態では、各開閉弁156、157、158は閉じられており、第二の変成ガス供給路152、153、154からは変成ガスが供給されず、第一の変成ガス供給路62、63、64からそれぞれ一定流量の変成ガスが供給されている。そして、搬出口41を開く直前、搬出口41を開いている間、又は、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、シーケンサ140から第一の調節器90’に対して、各開閉弁156、157、158を開く命令が与えられる。これにより、開閉弁156、157、158が開かれ、第二の変成ガス供給路152、153、154から浸炭室12、拡散室13、焼入室14にそれぞれ一定流量の変成ガスが供給される。即ち、第一の変成ガス供給路62、63、64からの一定流量の変成ガスに加えて、第二の変成ガス供給路152、153、154からの一定流量の変成ガスが供給される状態となり、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対する変成ガスの供給流量が増加させられる。そして、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内の炉圧が所定の圧力になったら、シーケンサ140から第一の調節器90’に対して、開閉弁156、157、158を閉じるように命令が与えられる。これにより、開閉弁156、157、158が再び閉じられ、第一の変成ガス供給路62、63、64のみから変成ガスを供給する状態に戻される。即ち、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対する変成ガスの供給流量が減少し、PID制御を停止させる直前における供給流量に戻される。このようにしても、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対する変成ガスの供給流量を好適に制御でき、搬出口41の開閉に伴うCPの減少を好適に防止できる。
【0039】
また、例えば図7に示すように、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対して、第一のエンリッチガス供給路82、83、84の他に、エンリッチガス増量用の第二のエンリッチガス供給路162、163、164をそれぞれ接続する。図示の例では、各第二のエンリッチガス供給路162、163、164は、エンリッチガスの供給源とエンリッチガス供給路82、83、84のエンリッチガス流量調整弁92、93、94より下流側との間に設けられたバイパス回路になっている。各第二のエンリッチガス供給路162、163、164には、それぞれ開閉弁166、167、168が介設されている。各開閉弁166、167、168の開閉動作は、第二の調節器100’の出力信号によって調節される。この第二の調節器100’は、PID調節を行っている際は、各開閉弁166、167、168を閉じ、PID調節を停止させている際は、各開閉弁166、167、168を開く操作を行う。かかる構成において、搬出口41を開く前の通常状態では、各開閉弁166、167、168は閉じられており、第二のエンリッチガス供給路162、163、164からはエンリッチガスが供給されず、第一のエンリッチガス供給路82、83、84からそれぞれエンリッチガスがPID調節に基づき調節されながら供給されている。そして、搬出口41を開く直前、搬出口41を開いている間、又は、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、シーケンサ140から第二の調節器100’に対して、PID調節を停止させる命令と共に、各開閉弁166、167、168を開く命令が与えられる。これにより、開閉弁166、167、168が開かれ、第二のエンリッチガス供給路162、163、164から浸炭室12、拡散室13、焼入室14にそれぞれ一定流量のエンリッチガスが供給される。即ち、第一のエンリッチガス供給路82、83、84からの供給流量は、PID制御を停止させる直前における供給流量のままに維持され、この第一のエンリッチガス供給路82、83、84からのエンリッチガスに加えて、第二のエンリッチガス供給路162、163、164からの一定流量のエンリッチガスが供給される状態となり、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対するエンリッチガスの供給流量が増加させられる。そして、搬出口41を閉じた後において熱処理炉3内の炉圧が所定の圧力になったら、シーケンサ140から第二の調節器100’に対して、PID調節を再開させる命令と共に、開閉弁166、167、168を閉じるように命令が与えられる。これにより、開閉弁166、167、168が再び閉じられる。即ち、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対するエンリッチガスの供給流量が減少されると共に、第一のエンリッチガス供給路82、83、84のみからエンリッチガスがPID調節に基づき調節されながら供給される状態に戻される。このようにしても、浸炭室12、拡散室13、焼入室14に対するエンリッチガスの供給流量を好適に制御でき、搬出口41の開閉に伴うCPの減少を好適に防止できる。
【0040】
以上の実施形態では、PID制御系122、123、124によってPID制御が行われることとしたが、その他のフィードバック制御によってCPを制御することとしても良い。例えば、調節器100はPI(比例・積分)調節計の機能を有することとし、浸炭室12、拡散室13、焼入室14における各CPは、酸素センサ112、113又は114、調節器100、エンリッチガス流量調整弁92、93又は94によって構成されたフィードバック制御系としてのPI制御系によってそれぞれ制御されることとしても良い。
【実施例】
【0041】
本発明者らは、本発明の効果を確認するため、以下のような実験1、比較実験1、比較実験2を行った。実験1、比較実験1、比較実験2においては、いずれもバッチ式の熱処理炉を使用し、炉内に被処理体を装入して、本実施の形態に示したような連続式熱処理炉における浸炭室、拡散室及び焼入室にそれぞれ類似した雰囲気を順に実現して被処理体を処理した。そして、処理後の被処理体の表面付近における炭素濃度分布を測定した。なお、ダミーの被処理体として、SS400丸棒を使用した。
【0042】
(実験1)
熱処理炉3の浸炭室12に類似した雰囲気として、炉温の目標値を950℃、CP(起電力値法(酸素センサ法)による測定値、以下同様)の目標値を1.1%とした雰囲気を、約60分間維持した(図8参照、処理A1)。続いて、拡散室13に類似した雰囲気として、炉温の目標値を950℃、CPの目標値を0.8%とした雰囲気を、約45分間維持した(処理A2)。続いて、焼入室14に類似した雰囲気として、炉温の目標値を850℃、CPの目標値を0.75%とした雰囲気を、約30分間維持した(処理A3)。なお、変成ガス中のCOの濃度は、0.20%とした。
【0043】
(比較実験1)
比較実験1では、炉温とCPの目標値の変動を上記実験1と同様に設定し、さらに、図9に示したように、CPを間欠的に減少、復帰させる操作を行った。即ち、従来の連続式熱処理炉における処理のように、被処理体を搬入出するために開口を開閉する度にCPが減少する現象を再現した。CPの減少は、処理A1においては3回所定時間ごとに行い、処理A2においては2回所定時間ごとに行い、処理A3においては2回所定時間ごとに行った。なお、CPの減少を開始させてから元のCPに戻すまでの間の時間は、それぞれ7分間程度とした。また、CPの減少は、エンリッチガスの供給停止、及び、酸素の導入により実現させた。変成ガス中のCOの濃度は、実験1と同様に0.20%とした。
【0044】
(比較実験2)
比較実験2では、上記比較実験1における処理A1のCP目標値を0.9%とした(図10参照、処理A1’)。また、変成ガス中のCOの濃度は、0.40%とした。その他の条件は、比較実験1と同様である。
【0045】
(実験結果及び考察)
図11は、実験1において得られた炉温とCPの測定値をグラフ化したものである。図12は、比較実験1において得られた炉温とCPの測定値をグラフ化したものである。図13は、比較実験1において得られた炉温とCPの測定値をグラフ化したものである。なお、炉内のCPは、酸素センサの検出値に基づき算出した。炉内に存在するCH(メタン)の影響等のため、図11、図12、図13におけるCP測定値は、実際の炉内のCP値よりも高い値となっている。図14は、実験1による処理を施した被処理体、比較実験1による処理を施した被処理体、及び、比較実験2による処理を施した被処理体における、それぞれの炭素濃度分布の測定値(平均値)を示している。図14から明らかなように、実験1の処理を施した被処理体では、比較実験1の処理を施した被処理体、及び、比較実験2の処理を施した被処理体と比較して、高い炭素濃度が得られた。また、ECD(被処理体の表面から炭素濃度が約0.4%である位置までの浸炭深さ)の平均値は、実験1の処理を施した被処理体では0.54mm、比較実験1の処理を施した被処理体では0.49mmであり、0.05mmもの差が生じた(図15参照)。上記のことより、処理中のCPの減少を防ぐことで、ECDを改善でき、浸炭処理を効果的に行えることが検証できた。なお、実際の連続式浸炭処理では、CPの減少が起こる頻度、即ち被処理体を搬入出するために開口を開閉する頻度が比較実験1、2より多い場合もあり、そのような場合では、処理中のCPの減少を防ぐことにより得られる効果は、さらに大きくなると考えられ、処理時間の短縮等を図ることが可能であると推察される。また、比較実験1と比較実験2の結果より、浸炭時(処理A1、A1’)におけるCPの目標値を0.9%から1.1%に上昇させることでも、炭素濃度分布が改善され、ECDを0.12mmほど高めることが可能であることがわかった。これより、浸炭時におけるCPを高くすることが、処理効率の向上に有効であることが検証できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、浸炭処理装置に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 浸炭処理装置
2 被処理体
3 熱処理室
10 脱脂室
11 予熱室
12 浸炭室
13 拡散室
14 焼入室
16 油槽室
21 搬入口
61、62、63、64 変成ガス供給路
71、72、73、74 変成ガス流量調整弁
82、83、84 エンリッチガス供給路
92、93、94 エンリッチガス流量調整弁
90、100 調節器
122、123、124 PID制御系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理方法であって、
炉内のカーボンポテンシャルに基づいて前記エンリッチガスの供給流量を操作することにより、カーボンポテンシャルをフィードバック制御し、
炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記フィードバック制御を停止させ、前記変成ガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量より増加させ、
前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック制御を再開させることを特徴とする、熱処理方法。
【請求項2】
前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記変成ガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量に戻すことを特徴とする、請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記フィードバック制御を停止させた際、前記エンリッチガスの供給流量を、前記フィードバック制御を停止させる直前における供給流量より増加させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
前記開口は、被処理体を炉から搬出するための搬出口であって、
前記炉の搬出口の外側に設けた油槽室の出口を閉じた状態で、前記炉の搬出口を開き、被処理体を前記油槽室に搬入し、
前記炉の搬出口を閉じた後、前記油槽室の出口を開いて被処理体を前記油槽室から搬出することを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の熱処理方法。
【請求項5】
炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理装置であって、
前記変成ガスの供給路に設けられた変成ガス流量調整弁の開度を調節する第一の調節器、及び、前記エンリッチガスの供給路に設けられたエンリッチガス流量調整弁の開度を調節する第二の調節器を備え、
前記第二の調節器を備え、前記カーボンポテンシャルをフィードバック制御するフィードバック制御系が構成され、
前記第一の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記変成ガス流量調整弁の開度を大きくし、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記変成ガス流量調整弁の開度を小さくし、
前記第二の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、フィードバック調節を停止させ、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック調節を再開させることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項6】
炉内に変成ガス及びエンリッチガスを供給し、前記炉内で被処理体を熱処理する熱処理装置であって、
前記変成ガスを炉内に供給する第一の変成ガス供給路及び第二の変成ガス供給路を備え、
前記第二の変成ガス供給路に設けられた開閉弁の開閉を調節する第一の調節器、及び、前記エンリッチガスの供給路に設けられたエンリッチガス流量調整弁の開度を調節する第二の調節器を備え、
前記第二の調節器を備え、前記カーボンポテンシャルをフィードバック制御するフィードバック制御系が構成され、
前記第一の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、前記開閉弁を開き、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記開閉弁を閉じ、
前記第二の調節器は、炉の開口を開く前、炉の開口を開いている間、又は、炉の開口を閉じた後において炉内に炉外の雰囲気が流入し始める前のいずれかに、フィードバック調節を停止させ、前記炉の開口を閉じた後において炉圧が所定の圧力になったら、前記フィードバック調節を再開させることを特徴とする、熱処理装置。
【請求項7】
前記第二の調節器は、フィードバック調節を停止させる際、前記エンリッチガス流量調整弁の開度を大きくすることを特徴とする、請求項5又は6に記載の熱処理装置。
【請求項8】
前記エンリッチガスを炉内に供給する第二のエンリッチガス供給路を備え、
前記第二の調節器は、フィードバック調節を行っている際、前記第二のエンリッチガス供給路に設けられた開閉弁を閉じ、フィードバック調節を停止させている際は、前記第二のエンリッチガス供給路に設けられた開閉弁を開くことを特徴とする、請求項5又は6に記載の熱処理装置。
【請求項9】
前記開口は、被処理体を炉内から搬出するための搬出口であって、
前記炉の搬出口の外側に、油槽室を設けたことを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項10】
炉内に設けられた浸炭室と拡散室との間に、被処理体を通過させる通過口を設け、
前記通過口を閉じるシャッターを設けたことを特徴とする、請求項5〜9のいずれかに記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−42878(P2011−42878A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226136(P2010−226136)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【分割の表示】特願2005−104403(P2005−104403)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】