説明

熱処理炉における加熱方法

【課題】 昇温時間差を最短とした被処理材の加熱方法を提供する。
【解決手段】 被処理材2を収納する炉室1と、該炉室1内の雰囲気ガスを加熱する加熱手段3と、加熱手段3により加熱された雰囲気ガスを炉室1内で循環させる正逆運転可能な循環手段4とを有した熱処理炉を用い、循環手段4の正逆運転により被処理材2の両側から交互に熱風を供給して、被処理材2を目標温度まで加熱する方法において、前記熱風の流れに沿った方向での被処理材2の各部の温度が目標温度に到達する時間差を最短とするように循環手段4の正逆運転を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンパ炉などの熱処理炉における加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ファンを使用したバッチ式の熱風循環型の熱処理炉において、特に、被処理材が熱伝導の良い場合には、ファンによって送られた熱風が材料間を通過する間にその熱風温度が低下し、ファンの風上と風下ではかなりの加熱速度の差が見られる。この温度差を短縮するために、特許文献1では、その従来技術として、「従来よりファンの回転方向をタイマーにより定期的に逆転させる方法が採られていた。」と記載されている(特許文献1の第2図参照)。
前記従来技術は、ファンの正逆運転を数10回繰り返すため、それだけ所定時間に昇温する時間が長時間かかるという欠点を有していた。
【0003】
そこで、特許文献1記載の発明では、その正逆切換を1回だけとして昇温時間の短縮を図っている(特許文献1の第3図参照)。
【特許文献1】特公昭53−29281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の第2図に示す数10回の正逆転切り換え運転と、その第3図に示す1回だけの切換による運転との何れにおいても、被処理材の風上側と風下側では、所定温度に昇温するまでの時間に差が見られる(以下、この差を「昇温時間差」という)。すなわち、被処理材の全体が均一に目標温度に達するまでは、温度分布が生じている。例えば、鋼板等を焼き戻しするテンパ炉において、被処理材である鋼板に昇温時間差が生じると、その強度や品質にバラツキが生じることになる。
そこで、本発明は、昇温時間差を最短とした被処理材の加熱を実現できる熱処理炉における加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、次の手段を講じた。
すなわち、本発明の特徴とするところは、被処理材を収納する炉室と、該炉室内の雰囲気ガスを加熱する加熱手段と、該加熱手段により加熱された雰囲気ガスを熱風として炉室内で循環させる正逆運転可能な循環手段とを有した熱処理炉を用い、前記循環手段の正逆運転により前記被処理材の両側から交互に熱風を供給して、該被処理材を目標温度まで加熱する方法であって、前記熱風の流れに沿った方向での被処理材の各部の温度が目標温度に到達する時間差を最短とするよう、前記循環手段の正逆運転を制御する点にある。
【0006】
本発明を被処理材の熱処理に適用した場合、熱処理中の全ての時間(昇温+均熱)の被処理材の温度均一性が良好になり、被処理材の強度や品質のバラツキをなくすることができる。
前記循環手段の正逆運転の制御は、正逆の送風量(Q正,Q逆)に応じて正逆の送風時間(T正,T逆)の比率を決定し、該決定された送風時間(T正,T逆)の比率に基づいて前記循環手段を運転するのが好ましい。
循環手段は、一般に、その正転時と逆転時において送風量は異なるものである。一方、熱風が風上から風下に流れる際、その温度低下量は循環手段からの送風量に比例する。例えば、送風量が多くなれば、風上で同じ熱風温度であっても、風下の熱風温度は送風量が少ない場合に比して上昇することになる。したがって、熱風の送風量が異なる場合、熱風温度が変化し、当該熱風の流れ方向に沿った被処理材の各部の温度上昇量も異なることになる。
【0007】
また、熱風の送風量が変化することによって、熱風と被処理材との熱伝達係数も変化するため、これによっても、被処理材の温度上昇速度が変わる。
このように、熱風の送風量によって、被処理材の各部の温度上昇速度が異なるため、正逆の送風量(Q正,Q逆)に応じて、送風時間の比率(T正,T逆)を決定することで、被加熱材の各部の昇温時間に差を生じにくくし、「昇温時間差」を極力小さくすることができる。
前記正逆の送風時間(T正,T逆)の比率が、正逆の送風量(Q正,Q逆)の比率のべき乗で決定されるようにすることは好ましい。
【0008】
また前記循環手段の正逆運転の制御の他の具体例としては、正逆各々の送風量(Q正,Q逆)を同一とするこができる。
循環手段の回転数を正転時と逆転時とで異なるように制御することにより、正逆各々の送風量(Q正,Q逆)を同一とすることができる。この場合は、正逆の送風時間(T正,T逆)は同一とするのが好ましい。
前記被処理材を前記炉室に収納する前に、前記炉室内を予熱するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被処理材の各部の昇温時間に差が生じないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1に示すものは、本発明方法に使用する熱処理炉の断面図である。この実施の形態では、熱処理炉として、厚鋼板を熱処理する台車炉が例示されている。
前記熱処理炉は、燃焼排ガス(雰囲気ガス)が充満する炉室1を有する。この炉室1は、被処理材2を収納するものである。前記熱処理炉は、該炉室1内の雰囲気ガスを加熱する加熱手段3を有する。また、前記熱処理炉は、循環手段4(循環ファン)を有する。この循環手段4は、前記加熱手段3により加熱された雰囲気ガスを炉室1内で循環させるものである。この循環手段4は、正逆運転可能とされている。
【0011】
炉室1の周囲は炉壁5によって覆われている。炉室1の底部は台車6によって塞がれている。台車6には、被処理材載置台10が設けられ、この載置台10上に被処理材2が載置されている。
被処理材2は、この実施の形態では、厚板鋼板が例示される。被処理材2は、厚さ、幅及び長手方向を有する。図1においては、厚さ方向は上下方向であり、幅方向は左右方向であり、長手方向は紙面に直交する前後方向である。
炉室1は仕切壁11を介して上下に区画されている。この仕切壁11は、被処理材2の上面から所定間隔を有して上方を塞ぐように水平に配置されている。
【0012】
仕切壁11によって区画された上側炉室1は加熱室12とされ、下側炉室1は被処理材2を処理する熱処理室13とされている。加熱室12に加熱手段3が設けられている。この加熱手段3の一例として、コークス炉や高炉で発生したガスを燃焼させるバーナが例示されている。この加熱手段3は、炉体天井部(炉室1の天井部)に取り付けられ、略垂直下方側に向かって火炎を放出するよう構成されている。
炉室1の内側であってその断面右端部(図1の右側)には、上下に貫通する第1熱風通路14が形成されており、その反対側の端部(図1の左側)にも第2熱風通路15が上下に貫通して設けられ、この第2熱風通路15に循環手段4が配置されている。この循環手段4(循環ファン)として軸流ファンが例示されている。この循環手段4の正逆運転は、正逆運転可能なモータ16により行われる。この循環手段4の正転で、加熱室12の雰囲気ガスは第1熱風通路14から熱処理室13へ供給され、逆転で加熱室12の雰囲気ガスは第2熱風通路15から熱処理室13へ供給され、炉室1内を正逆循環する。
【0013】
循環手段4の送風量は、回転数が一定であれば、正転時を(Q正)とし、逆転時を(Q逆)としたとき、両者は等しくなく、(Q正≠Q逆)とされている。
また、第1熱風通路14に第1温度測定手段17と、第2熱風通路15に第2温度測定手段18が設けられている。これら両温度測定手段17,18は、循環手段4から送風される熱風の温度を測定するものである。
第1及び第2温度測定手段17,18と循環手段4のモータ16とは、制御装置19を介して接続されている。従って、第1及び第2温度測定手段17,18は、その測定結果を電気信号として制御装置19に伝達できるものであれば好ましい。
【0014】
図2は、熱処理炉の平面図である。炉室1は前記長手方向に複数の制御ゾーンに区画されている。各制御ゾーンは、仮想線で示す位置に設けられた垂直仕切壁23により区画されている。この実施の形態では5個の制御ゾーンが設けられ、各制御ゾーンに前記加熱手段3と循環手段4が一つずつ設けられている。各循環手段4により熱風は前記被処理材の上下表面に沿って幅方向に流れる。
前記熱処理炉を用いた本発明の加熱方法は次のとおりである。
即ち、循環手段4の正逆運転により被処理材2の両側から交互に熱風を供給して、該被処理材2を目標温度に加熱する方法であって、被処理材2の両側の温度が目標温度に到達する時間差を最短とするよう、循環手段4の正逆運転を制御する。尚、この実施の形態では被処理材2の両側とは、鋼板の幅方向両側である。
【0015】
前記制御において、循環手段4の正転時回転数と、逆転時回転数が同一の場合は、循環手段4の正逆各々の送風量(Q正,Q逆)に応じて、正逆の送風時間(T正,T逆)の比率を決定して循環手段4を運転する。
循環手段4の送風量は、正逆転時で、回転数が同じであれば、(Q正≠Q逆)であるので、正逆運転を同じ時間で交互に行ったのでは被処理材2に与える熱量は同じにならず、昇温時間差が生じる。
そこで、昇温時間差が所定範囲以下になるように正逆の送風時間(T正,T逆)の比率を決定する。
【0016】
具体的には、前記比率を決定するため、図1,図2に示す設備を用いて実験を行った。そして、昇温時間差を最短とできる正転比率を板温計算(被処理材の温度計算)から算出し、計算された正転比率から、正逆の送風時間(T正,T逆)の比率を決定した。
なお、正転比率(運転時間比率)は、式(1)で定義される。

正転比率=T正/(T正+T逆) ・・・(1)

計算条件、及び計算結果(実験結果)を図3〜5に示す。
[計算条件]
1)板サイズ:28mm(厚さ)×4500mm(幅)×18000mm(長さ)
2)目標板温:600℃
3)1サイクル送風時間:20分
4)送風量:Q正=780m3/min、Q逆=520m3/min
図3は、正転比率と昇温時間差のグラフである。
【0017】
図4は、正転15分、逆転5分を交互に繰り返したときの板温計算例をグラフ化したものである。正転時送風温度とは、第1温度測定手段17により測定された熱風の温度であり、逆転時送風温度とは、第2温度測定手段18により測定された熱風の温度である。正転時上流側板温、中央板温及び逆転時上流側板温は計算されたものである。
図5は、図4のグラフの部分拡大図である。
図3〜図5の結果から、正逆の送風時間(T正,T逆)の比率と、正逆の送風量(Q正,Q逆)の比率のべき乗とが比例するものとして、熱処理炉を操業すると、昇温時間差を可能な限り小さくすることができることがわかった。
【0018】
正逆の送風時間比率と、正逆の送風量の比率との関係の一例として、式(2)の関係を採用することは好ましい。

T正/T逆=(Q正/Q逆)a ・・・(2)
但し、a=0.8〜0.9

循環手段4の正転時回転数と、逆転時回転数が同一でない場合は、循環手段4の正逆運転の制御は次のように行うことができる。
【0019】
すなわち、循環手段4の正逆各々の送風量(Q正,Q逆)が同一となるように、循環手段4の正逆運転を制御する。この制御は、前記モータ16の回転数をインバータ制御などで制御し、正逆運転でのファンの回転数を変化させ、(Q正=Q逆)とする。この場合、正逆の送風時間は同一(T正=T逆)とされる。
本実施の形態においては、被処理材2を炉室1に収納する前に、炉室1内を予熱する。
予熱することにより炉体への伝熱量が減少し、雰囲気ガスの上流、下流での温度差が小さくなり、鋼板の昇温時間差が小さくなる。
【0020】
更に本実施の形態では、前記雰囲気ガスの被処理材2に対する上流側炉温(t上流)と下流側炉温(t下流)を前記第1及び第2温度測定手段17,18で測定し、その温度差が各制御ゾーンで同一となるように、各々の循環手段4を制御装置19を介して制御する。
このような各ゾーンの制御により、ゾーン毎の鋼板の昇温時間差を小さくできる。すなわち、被処理材2の幅方向及び長手方向にわたって、昇温時間差を最短とすることができる。
【0021】
なお、本発明は、前記実施の形態に示したものに限定されるものではなく、加熱手段3として、特開2000−144239号公報に記載のような電気ヒータを採用したものであってもよい。また、熱処理炉として、加熱室が下方に設けられ熱処理室が上方に設けられたものであってもよく、その形式は限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、厚板鋼板の熱処理に用いることができる。また、棒材又は型鋼等の熱処理にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】台車炉の正面断面図(幅方向断面図)である。
【図2】台車炉の平面図である。
【図3】正転比率と昇温時間差の関係を示す図である。
【図4】送風温度と板温との関係を示した図である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0024】
1 炉室
2 被処理材
3 加熱手段
4 循環手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材を収納する炉室と、該炉室内の雰囲気ガスを加熱する加熱手段と、該加熱手段により加熱された雰囲気ガスを熱風として炉室内で循環させる正逆運転可能な循環手段とを有した熱処理炉を用い、前記循環手段の正逆運転により前記被処理材の両側から交互に熱風を供給して、該被処理材を目標温度まで加熱する方法であって、
前記熱風の流れに沿った方向での被処理材の各部の温度が目標温度に到達する時間差を最短とするよう、前記循環手段の正逆運転を制御することを特徴とする熱処理炉における加熱方法。
【請求項2】
前記循環手段の正逆運転の制御は、正逆の送風量(Q正,Q逆)に応じて正逆の送風時間(T正,T逆)の比率を決定し、該決定された送風時間(T正,T逆)の比率に基づいて前記循環手段を運転することを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉における加熱方法。
【請求項3】
前記正逆の送風時間(T正,T逆)の比率が、正逆の送風量(Q正,Q逆)の比率のべき乗で決定されることを特徴とする請求項2に記載の熱処理炉における加熱方法。
【請求項4】
前記循環手段の正逆運転の制御は、正逆各々の送風量(Q正,Q逆)を同一とすることを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉における加熱方法。
【請求項5】
前記被処理材を前記炉室に収納する前に、前記炉室内を予熱することを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の熱処理炉における加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−2300(P2007−2300A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184107(P2005−184107)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】