説明

熱処理炉

【課題】処理材を効率よく加熱する。
【解決手段】制御部6が有する電力関数生成部11が、負荷2の発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとが一致するように、PAM変換器4が有するパワートランジスタG11、G12を制御するための電力波形を生成する。電力関数生成部11からの出力電力がパルス変換器13によりパルス変換された後に、PAM変換器4のパワートランジスタG11、G12をON、OFF制御するパルスに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉の熱源に供給する電力を制御する電力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱処理炉におけるハロゲンランプなどの熱源が単相負荷の場合には、電源として単相交流電源を用い、単相交流電源からの出力を平滑化せず直接、PWM方式電圧制御(例えば、特許文献1参照)、位相制御、サイクル制御による電力、電圧、電流制御(例えば、特許文献2参照)により熱源に供給する電力を制御することが一般に行われている。また、電力フィードバックはPWM方式電圧制御の電力出力の半サイクル単位で検出が行われている。位相、サイクル制御はこの機能を付加していない。
【0003】
【特許文献1】特開平8−171992号公報
【特許文献2】特開2000−77345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術によると、単相電源の直接制御は熱源に対する単なる熱出力の制御となっている。しかしながら、熱源においては、供給される電力が変化すると、熱出力が変化するだけでなく、熱源スペクトルも変化する。ここで、熱源であるハロゲンランプにおける熱出力と熱源スペクトルとの関係について図7を参照しつつ説明する。図7に示すように、ハロゲンランプにおける熱出力が100%のとき、熱源スペクトル波長が10μmがピークとなっているとき、熱出力が低下するに伴って、熱源スペクトルの波長が長くなる方向に変化する(図中(a)〜(c)参照)。一方、処理材は固有の熱吸収スペクトルを有している。例えば、処理材が、波長8〜12μmの熱吸収スペクトルを有している場合(図中(d)参照)、一般的に、熱源は100%の熱出力時における熱源スペクトルとこの処理材の熱吸収スペクトルとが一致するように決められている。このため、熱源が100%以下の熱出力となっているときの熱源スペクトルは、処理材の熱吸収スペクトルと一致しない。この場合、熱源からの放射熱が効率よく処理材に吸収されず、輻射熱によって処理材を加熱することになり熱応答が遅くなる。処理材は、処理全体が同一物質のとき、また個々に分布してもよい。
【0005】
そこで、本発明は、処理材を効率よく加熱することができる熱処理炉における電力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱処理炉における電力制御装置は、熱処理炉が有する熱源を関数制御することで発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとを一致させる。
【0007】
本発明によると、熱源の発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとが一致するため、熱源からの放射熱が効率よく処理材に吸収される。これにより、処理材の熱応答が速くなり、処理材を効率よく加熱することができ、生産性及び品質を向上されることができる。さらに、熱処理炉における省電力化を図ることができる。
【0008】
本発明においては、前記熱源に供給される電圧、電流及び電力のいずれかをフィードバック制御することが好ましい。これによると、熱源に供給される電力を正確に制御することができる。また、負荷が短絡したときなど瞬時に負荷対応するころができパワー素子などを安全に守ることができる。
【0009】
また、本発明においては、複数の前記熱源に供給する電力を三相電源から生成してもよい。これによると、相バランス及び力率を改善することができるため、熱処理炉におけるさらなる省電力化を図ることができる。
【0010】
さらに、本発明においては、前記処理材の材質変化、搬送速度変化、前記処理材の不連続な熱処理炉への挿入に対して、前記熱源に供給する電力をフィードフォワード制御することがより好ましい。これによると、処理材を適切(最適)に加熱することができる。
【0011】
また、本発明においては、外部から指示を受信する受信手段と、内部データを外部に送信する送信手段とをさらに備えていてもよい。これによると、複数の電力制御装置を一箇所で電力関数発生器、各種パラメータの設定ができ制御することができる。また設定、負荷の電力などのデータを送信することができる。
【0012】
加えて、本発明においては、スイッチング素子及び前記スイッチング素子を制御するマイクロプロセッサを備えていてもよい。これによると、熱源に供給する多群の電力を細かく平均化して3相電源の相バランス、力率を改善することができる。
【0013】
本発明においては、前記処理材が太陽電池であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る実施形態である熱処理炉における電力制御装置の概略ブロック図である。本熱処理炉は、太陽電池を処理材とする太陽電池用の熱処理炉である。電力制御装置1は、処理材を熱処理する熱処理炉において、熱源であるハロゲンヒータ(以下、負荷と称する)2に供給する電力を制御する装置であり、図1に示すように、RSTの三相交流電源に対して並列に複数接続されている。なお、負荷2は出力が100%のときに、負荷2の発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとが一致するように決定されている。したがって、処理材の種類によって、発熱スペクトルが異なるキセノンランプ、ニクロムヒータ、炭化珪素ヒータなどの選択又は併用が可能となっている。各電力制御装置1は、複数の負荷2に対して供給する電力が制御可能となっており、各負荷2に接続された電力変換ユニット3と、各電力変換ユニット3を制御する制御部6とを有している。三相交流電源から供給された電力は、フィルタ7、整流器8及びコンデンサ(平滑コンデンサ)C1を介して直流電力に変換された後に、各電力変換ユニット3に供給される。そして、制御部6に制御された電力変換ユニット3が所望の電力を生成するとともに、生成した電力が負荷2に供給される。コンデンサC1は入力が3相電源、負荷2が抵抗負荷のとき削除してもよい。
【0016】
電力変換ユニット3は、PAM変換器4及び極性変換インバータ5を含んでいる。PAM変換器4は、直流電力をPAM(Pulse Amplitude Modulation)変換するものであり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの2つのパワートランジスタG11、G12、コイルL11及びコンデンサC11を有している。PAM変換器4は、パワートランジスタG11、G12を一定の比率で交互にON、OFF制御されることによって、所望の出力波形を有する電力を生成する(図4参照)。極性変換インバータ5は、PAM変換器4において変換された電力が0になる毎に極性を変換させるものである。負荷2に供給する電力は、負荷2の熱源時定数により決定される所定の周期(図3におけるt11参照)で極性を反転させる必要がある。このため、PAM変換器4は、所定周期で電力が0となるような出力波形を生成する。これにより、極性変換インバータ5は、極性が所定周期で反転する出力波形を有する電力を生成することになる。極性変換インバータ5が生成した電力は負荷2に供給される。
【0017】
制御部6について、図2〜図4をさらに参照しつつ説明する。図2は、制御部6の機能ブロック図である。図3は、制御部6の電力関数生成部11が生成する電力波形図である。図4は、負荷2に供給される電力波形図である。なお、以下の説明においては、制御部6と1つの電力変換ユニット3との関係についてのみ説明する。制御部6は、PAM変換器4の動作を制御するものである。図1及び図2に示すように、制御部6は、電力関数生成部11、ゲイン調整部12、パルス変換器13、フォトカプラ14、電力変換器15、上限電流設定部16、及び、比較器17を有している。点線で囲んだK01の係数設定ブロック18及びK02の係数設定ブロック19、主電力指令信号生成部20、フィードフォワード電力指令信号生成部21、及び、フィードフォワード開始信号生成部22を示す。K01、K02は複数の値を持ってもよい。また点線で囲んだ部分は制御部6の外部に設置してもよい。
【0018】
電力関数生成部11は、外部から無線、有線を介して操作されることによって、極性変換インバータ5に出力すべき電力関数波形を生成するものである。負荷2に供給すべき電力は、図3(a)に示すように、負荷の熱源時定数により決定される所定の周期t11で極性を反転させる必要があるため、電力関数生成部11は、周期t11毎に電力が0となるような電力関数波形を出力する。また、電力関数生成部11は、負荷2に供給する電力を主電力指令信号、フィードフォワード電力指令信号の加算に基づいて決定し、負荷2に供給する電力が100%となる時間を増減させる。例えば、図3(b)においては、負荷2に供給する電力がt21の間100%となっており、負荷2に供給する電力がt22の間30%となっている。このとき、負荷2に供給する電力が100%となる時間と30%となる時間との関係が維持されていれば、生成する電力波形は任意のパターンであってよい。例えば、図3(c)に示すように、負荷2に供給する電力が100%となる時間t31、t33及び負荷2に供給する電力が30%となる時間t32を組み合わせたものであってもよい(なお、t31+t32×2=t21、t32×3=t22)。このとき、負荷2の発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとが一致する時間が最も長くなるように負荷2に供給する電力が100%となる時間を長く確保することが好ましい。また、処理材が移動するとき処理材温度が移動時間と同期して悪影響を及ぼすとき、図3(b)、(c)、図5(a)、(b)及び図6のように、熱出力を変化させ、熱出力を時間軸に対して位相を進めたり、遅らせたりすることによってこの同期を無くすことができる。
【0019】
電力変換器15は、電流検知42に検知される極性変換インバータ5に出力された電流I11、及び、極性変換インバータ5に出力される電圧E1を変換して、極性変換インバータ5に出力された電力を検知するものである。電力変換器15で検知された電力は、電力関数生成部11の出力端にフィードバックされる。そして、ゲイン調整部12が、電力関数生成部11の出力結果と、電力変換器15の検知結果との偏差に対してゲインKを掛けた電力を出力する。上限電流設定部16は、負荷2が短絡したときの電流制限を開始するときの上限電流I0を設定するものである。比較器17は、電流検知41に検知されたパワートランジスタG12のドレイン電流I10と、予め決定された上限電流I0とを比較し、ドレイン電流I10が上限電流I0を超えたときに、パルス変換器13に入力される電力が常にI0となるように、ゲイン調整部12からの出力を調整するこれにより、負荷2が短絡したときの電流制限を行うことができる。
【0020】
パルス変換器13は、入力された電力に応じてパワートランジスタG11、G12をON、OFF制御するためのパルス信号を生成するものである。フォトカプラ14は、パルス変換器13からのパルス信号をゲート電圧GE11、GE12に伝達するためのものである。これら制御部6のシステム構成はマイクロプロセッサにより構成されている。
【0021】
なお、制御部6は、図3に示すように、矩形パルスで変化するように負荷2に供給される電力を制御する構成について説明したが、図5(a)に示すように、各矩形パルスが正弦波となるように負荷2に供給される電力を制御してもよい(図4(b)参照)。この場合、各矩形パルスの出力と対応する正弦波の実行出力とが一致していることが好ましい。また、図5(b)及び図5(c)に示すように、波形パターンの少なくとも一部を時間的に入れ替え、また周波数を多く繰り入れてもよい。さらに、正弦波出力で熱源出力スペクトルを確保する方法を図6に示す。図6に示すように、正弦波による熱源出力スペクトルがフリッカーするとき正弦波周波数を上げフリッカーをなくす。このように電力関数生成器は負荷が要求する熱吸収スペクトルに対応した電力関数波形を発生がさせることができる。
【0022】
以上、説明した本実施形態によると、制御部6が、負荷2の発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとが一致するように負荷2の供給する電力を制御するため、負荷2からの放射熱が効率よく処理材に吸収される。これにより、処理材の熱応答が速くなり、処理材を効率よく加熱することができ、生産性及び品質を向上されることができる。さらに、熱処理炉における省電力化を図ることができる。
【0023】
また、制御部6が、負荷2に供給される電力をフィードバック制御しているため、負荷2に供給される電力を正確に制御することができる。
【0024】
さらに、制御部6が、各負荷2に供給する電力を三相電源から生成しているため、相バランス及び力率を改善することができるため、熱処理炉におけるさらなる省電力化を図ることができる。
【0025】
加えて、制御部6が、主電力指令信号、フィードフォワード指令信号に基づき関数制御することで熱源発熱スペクトルと処理材の吸収スペクトルが一致させることができ処理材を効率よく加熱することができる。このように、処理材の材質変化、搬送速度変化、処理材の不連続な炉への装入に対して、処理材を熱処理すべき温度に加熱する負荷2に供給すべき電力を決定するため、処理材を適切に加熱することができる。
【0026】
また、制御部6が、外部との間でデータを送受信する通信手段を有しているため、複数の電力制御装置1を一箇所で制御することができる。
【0027】
さらに、制御部6がマイクロプロセッサを含む構成となっているため、負荷2に供給する電力を細かく平均化を図る制御することができる。なお、制御部6の回路構成はソフトウェアのみならずハードウェアにより実現することが可能となっている。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した実施形態においては、制御部6が、負荷2に供給される電力をフィードバック制御する構成であるが、負荷2に供給される電流又は電圧をフィードバック制御する構成であってもよい。
【0029】
また、上述した実施形態においては、制御部6が、各負荷2に供給する電力を三相電源から生成する構成であるが、単相電源から生成する構成であってもよい。
【0030】
さらに、上述した実施形態において、関数制御の中で矩形波を用いるとき(波形がどの部分でも不連続で上下するとき)、関数の立ち上がり、下がりにS字曲線を入れてもよい。これにより、サージの発生を抑制することができる。
【0031】
上述した実施形態においては、処理材が太陽電池である太陽電池用の熱処理炉の電力制御装置1について本発明を適用した例について説明したが、太陽電池以外の他の部材を処理材とする熱処理炉の電力装置についても本発明は適用可能である。
【0032】
また、上述した実施形態において、処理材を単一の部材として説明したが、太陽電池は複数種類の部材から構成されることがある。例えば、太陽電池が基材及び基材の表面に配置された端子を含む。この場合、熱処理工程において、太陽電池の表面に配置された端子のみを加熱することが要求されるときには、発熱スペクトルが端子の熱吸収スペクトルと一致するように負荷2に供給する電力を制御することが好ましい。これにより、端子のみを効率よく加熱することができ、基材に加えられる熱的な負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る実施形態である電力制御装置の概略ブロック図である。
【図2】図1に示す制御装置の機能ブロック図である。
【図3】図2に示す電力関数生成部が生成する電力波形図である。
【図4】図1に示す負荷に供給される電力波形図である。
【図5】図1に示す負荷に供給される電力波形図の変形例である。
【図6】図1に示す負荷に供給される電力波形図の変形例である。
【図7】熱源であるハロゲンランプにおける熱出力と熱源スペクトルとの関係を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 電力制御装置
2 負荷
3 電力変換ユニット
4 PAM変換器
5 極性変換インバータ
6 制御部
7 フィルタ
8 整流器
11 電力関数生成部
12 ゲイン調整部
13 パルス変換器
14 フォトカプラ
15 電力変換器
16 上限電流設定部
17 比較器
18 係数設定ブロック
19 係数設定ブロック
20 主電力指令信号生成部
21 フィードフォワード電力指令信号生成部
22 フィードフォワード開始信号生成部
41、42 電流検知
G11 パワートランジスタ
G12 パワートランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉が有する熱源を関数制御することで発熱スペクトルと処理材の熱吸収スペクトルとを一致させることを特徴とする熱処理炉の電力制御装置。
【請求項2】
前記熱源に供給される電圧、電流及び電力のいずれかをフィードバック制御することを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉の電力制御装置。
【請求項3】
複数の前記熱源に供給する電力を三相電源から生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理炉における電力制御装置。
【請求項4】
前記処理材の材質変化、搬送速度変化、前記処理材の不連続な熱処理炉への挿入に対して、前記熱源に供給する電力をフィードフォワード制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理炉における電力制御装置。
【請求項5】
外部から指示を受信する受信手段と、
内部データを外部に送信する送信手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理炉における電力制御装置。
【請求項6】
スイッチング素子及び前記スイッチング素子を制御するマイクロプロセッサを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱処理炉における電力制御装置。
【請求項7】
前記処理材が太陽電池であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱処理炉における電力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−111632(P2008−111632A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296154(P2006−296154)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(506366194)小川技研株式会社 (1)
【出願人】(591072868)日本インバータ株式会社 (3)
【出願人】(506367010)
【出願人】(502093771)セラミックフォーラム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】