説明

熱処理用ローラ

【課題】 熱処理用ローラの両端部における温度変化の度合いを簡単な構造で低減し、被処理物の均一な加熱又は奪熱或いは圧延などの熱処理を安定的に達成することができること。
【解決手段】 ローラ本体21と回転駆動軸23の中空内を、加温した熱媒流体を通流してローラ本体21の表面を所定の温度に維持する熱処理用ローラであって、ローラ本体21の肉厚内に形成した長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を注入する密閉室21gを、ローラ本体21の両端の鏡板22内まで又は回転駆動軸23内まで延設する。この延設でローラ本体21の端部における温度変化を抑制し、ローラ本体の各部位の温度に依存した熱膨張により決定される直径円筒精度を良好とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱又は奪熱若しくは圧延など熱を伴う処理に用いる熱処理用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを加熱したり、所定の温度にまで奪熱したり、あるいは金属薄板を圧延したりする場合、樹脂フィルムや金属薄板などの被処理物を所定の温度に加熱したローラ本体に掛け、ローラ本体に圧接して通過する間に加熱又は奪熱若しくは圧延などの処理を実行することが行われている。この場合のローラ本体の熱源として、電磁誘導発熱機構または加熱流体あるいはヒータがあり、その熱源はローラ本体の中空内に設けられている。
【0003】
図6は加熱流体を熱源とする熱処理用ローラの一例の概略構成を示すもので、この図6において、1は円筒状のロールシェル(ローラ本体)、2は鏡板、3は回転駆動軸、4は機台、5は軸受、6は円筒状の中子、7はロータリジョイント、8はポンプ、9は熱交換器、10は油などの熱媒流体、11は貯油タンク、12は温度検出器、13は被処理物で、ローラ本体1の長手方向の両端に鏡板2を固着し、その鏡板2に回転駆動軸3が固着されている。そして、両側の回転駆動軸3を機台4に軸受5を介して回転自在に支持し、一方の回転駆動軸3は図示しないモータに連結しており、モータと回転駆動軸3の回転駆動によりローラ本体1は回転する。
【0004】
鏡板2および回転駆動軸3には、適宜ローラ本体1の中空と連通する連通孔が形成され、連通孔の端部は回転駆動軸3に設けたロータリジョイント7に接続されている。すなわち、中子6の中空と連通孔は、熱媒流体10(矢示)を通流する通流路とされ、この例では一方の回転駆動軸3に設けたロータリジョイント7から流入された加熱された熱媒流体10は中子6の中空6aおよび中子6の外周面とローラ本体1の中空内周面との間1aを経て回転駆動軸3に設けたロータリジョイント7から流出する。流出した熱媒流体10は貯油タンク11に貯められ、貯められた熱媒流体10はポンプ8により熱交換器9で温度検出器12の温度検出にしたがい所定の温度に加熱または冷却してロータリジョイント7へ送るように構成されており、このローラ本体1の中空に流れる加熱された熱媒流体10によりローラ本体1を所定の温度に維持し、ロールシェル1の表面に当接した被処理物13を加熱又は奪熱或いは圧延などの熱処理を行う。
【0005】
ところで、ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる例えばドリルなどで形成した複数の密閉室1bを設ける場合がある。この密閉室1bに水などの気液2相の熱媒体を封入しておくと、気液2相の熱媒体の潜熱移動によりローラ本体1の被処理物13と当接する表面温度を均一することができ、上記のような熱媒通流ローラでは、表面温度の均一のための熱媒流体10の流量を増加させる必要がなく、小型の熱交換器9やポンプ8を用いることができる。
【特許文献1】特開2004−116538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような熱処理用ローラでは、ローラ本体の熱がローラの両端面から大気中へ対流・輻射によって放熱することや回転駆動軸から軸受を介して機台に伝熱することのため、気液2相の熱媒体を封入した密閉室のないローラ両端部において、ローラ本体の表面温度分布が降下し、その降下と比例的にローラ本体の直径円筒精度が降下し、その直径円筒精度が降下によって被処理物の均一な加熱又は奪熱或いは圧延などの熱処理を行うことができないという問題があった。また、機台への伝熱量は、機台の温度が飽和状態に達するまで、機台の温度の上昇に応じて経時的に低下し、この伝熱量の変化に伴って、ローラ表面温度分布精度の降下度合いや直径円筒制度の降下度合いも経時的に変化するため、被処理物の加熱又は奪熱或いは圧延などの効果も経時的に変化するという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熱処理用ローラの両端部における温度変化の度合いを簡単な構造で低減し、所定の温度まで加温した直後から、被処理物の均一な加熱又は奪熱或いは圧延などの熱処理を安定的に達成することができるようにし、斯かる問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ローラ本体と前記ローラ本体の長手方向の両側の端部に固定した鏡板と前記鏡板に固定した回転駆動軸とを有し、前記ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を形成し、前記ローラ本体内部に、前記ローラ本体の表面に当接する被処理物を熱処理する熱源を配置してなる熱処理用ローラにおいて、前記密閉室を前記鏡板の肉厚内部に延設してなることを主たる特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気液2相の熱媒体を封入する密閉室をローラの両端部に延設しているので、ローラの両端面からの放熱や軸受を介しての放熱があっても、気液2相の熱媒体の潜熱の移動によりローラの両端部の温度低下を低減でき、したがってローラ本体両端面の温度分布も良好となり、また、ローラ本体の各部位の温度に依存した熱膨張により決定される直径円筒精度も良好とすることができ、さらにその経時的な変化も低減することができる。これにより、気液2相の熱媒体を封入する密閉室をローラの両端部に延設する簡単な構造で、所定の温度まで加温した直後から、被処理物の均一な加熱又は奪熱或いは圧延などの熱を伴う処理を安定的に達成することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
熱処理用ローラの両端部における温度変化の度合いを簡単な構造で低減し、所定の温度まで加温した直後から、被処理物の均一な加熱又は奪熱或いは圧延などの熱処理を安定的に達成することができるようにする目的を、ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室をローラの両端部の鏡板あるいは回転駆動軸にまで延設することにより実現した。
【実施例1】
【0011】
図1は一実施例に係る流体を熱源とする熱処理用ローラの概略構成を示す断面図である。図1において、21は円筒状のロールシェル(ローラ本体)、22は鏡板、23は円筒状の回転駆動軸、24は軸受、25は油などの熱媒流体である。ローラはローラ本体1の長手方向の両端に鏡板22を固着し、その鏡板22に回転駆動軸23が固着されて構成され、軸受24を介して図示しない機台に回転自在に支持されている。両側の回転駆動軸23には図示しないロータリジョイントが取付けられ、一方の回転駆動軸23に取付けられたロータリジョイントを経て加熱された熱媒流体25が回転駆動軸23の中空孔に流入され、その熱媒流体25はローラ本体25の中空内を通流し、他方の回転駆動軸23に取付けられたロータリジョイントを経て排出される。排出された熱媒流体25は図7に示す貯油タンク11、熱交換器9、ポンプ8を経て一方の回転駆動軸23の中空孔に流入される。
【0012】
ローラ本体21の肉厚内には、長手方向に伸びる貫通孔21aが周方向に複数形成され、鏡板22の肉厚内には、半径方向に伸びる孔22aが形成されている。そして、貫通孔21aと孔22aを合わせてローラ本体21の端縁に鏡板22が固着されている。この固着で貫通孔21aと孔22aとにより密閉室が形成され、その密閉室内に気液2相の熱媒体となる適量の水、アルコール、アンモニアなど適当な物質を注入し、減圧した状態で密封される。すなわち、ローラ本体21の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を鏡板22の肉厚内部にまで延設している。
【0013】
この延設によりローラの両端面からの放熱や軸受を介しての放熱があっても、ローラの両端部は気液2相の熱媒体の潜熱の移動でローラ本体21の表面温度と同じ温度が維持され、したがってローラ本体21の各部位の温度に依存した熱膨張により決定される直径円筒精度も良好とすることができる。
【実施例2】
【0014】
図2は他の実施例に係る加熱流体を熱源とする熱処理用ローラの概略構成を示す断面図である。図1に示す実施例と異なる点は、円筒状の回転駆動軸23の肉厚内部に長手方向に伸びる孔23bを形成し、この孔23bと鏡板22の肉厚内に形成した半径方向に伸びる孔22aとを連通し、ローラ本体21の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を鏡板22の肉厚内部を経て回転駆動軸23にまで延設している点である。このように気液2相の熱媒体を封入する密閉室を構成すると、回転駆動軸23、鏡板22を含めてローラ本体21の表面温度と同じ温度が維持され、より一層ローラ本体21の各部位の温度に依存した熱膨張により決定される直径円筒精度も良好とすることができる。
【実施例3】
【0015】
図3および図4はさらに他の実施例に係る加熱流体を熱源とする熱処理用ローラの概略構成を示す断面図である。図3および図4に示す実施例は、大径のロールシェル部31aと鏡板部31b(以下、ロールシェル部と鏡板部を合わせてローラ本体31という。)および小径の回転駆動軸部31cとを一体に形成したローラであり、ローラ本体31の内部中空は長手方向の中央部で障壁31dで二つに仕切られている。ローラ本体31の両側の端部に内部中空に伸びる貫通孔31eが図4に示すように周方向に複数形成され、両側の端部の貫通孔31eと連通するローラ本体31の長手方向に伸びる貫通孔31fが周方向に複数形成され、貫通孔31eのローラ本体31の表面側端部、貫通孔31fの両側端部はいずれも密封されている。
【0016】
これにより一方の回転駆動軸部31cの中空内に流入された熱媒流体25は障壁31dで仕切られた一方のローラ本体31の中空内、貫通孔31e、貫通孔31f、障壁31dで仕切られた他方のローラ本体31の中空内を順に通流し、他方の回転駆動軸部31cの中空内を経て排出される。排出された熱媒流体25は各実施例と同様に、図6に示す貯油タンク11、熱交換器9、ポンプ8を経て一方の回転駆動軸部31cの中空内に流入される。
【0017】
ローラ本体31の表面側近傍位置の肉厚内には、長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を注入する密閉室31gが形成され、また、一方の回転駆動軸部31cの肉厚内部、ローラ本体31の肉厚内部および他方の回転駆動軸部31cの肉厚内部に直線状に伸びる密閉室31gとは独立した気液2相の熱媒体を注入する密閉室31hが形成されている。このように気液2相の熱媒体を封入する密閉室を構成すると、回転駆動軸31cとローラ本体31とが同じ温度が維持され、ローラ本体31の各部位の温度に依存した熱膨張により決定される直径円筒精度も良好とすることができる。
【0018】
以上の各実施例は、ローラ本体を所定の温度に加温する熱源として熱媒流体を用いているが、熱源は熱媒流体に限らず、電磁誘導発熱機構やヒータを用いてもよい。図5は、図1に示す実施例において熱媒流体に変えて電磁誘導発熱機構とした場合の概略構成を示すもので、円筒状のロールシェル(ローラ本体)21の中空内部に、回転駆動軸23に回転自在に支持した電磁鉄心25aに誘導コイル25bを巻回した電磁誘導発熱機構を配置する。この場合には、誘導コイル25bに交流電圧を印加して交番磁束を発生させ、その交番磁束によりローラ本体21をジュール発熱させることとなる。また、図2に示す実施例においても同様に電磁誘導発熱機構に変えることができる。図3示す実施例では、ローラ本体31の中空内部を仕切る障壁31dの両側、または障壁31dを取り去った内部に電磁誘導発熱機構を配置するようにしても良い。この場合には貫通孔31eと貫通孔31fは不要である。
【0019】
なお、気液2相の熱媒体を注入する密閉室は、当初その一端は開口されており、開口から気液2相の熱媒体となる適量の水、アルコール、アンモニアなど適当な物質を注入し、そのあと減圧して開口を密封して密閉室とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る熱処理用ローラの概略構成を示す断面図である。(実施例1)
【図2】本発明に係る熱処理用ローラの概略構成を示す断面図である。(実施例2)
【図3】本発明に係る熱処理用ローラの概略構成を示す縦断面図である。(実施例3)
【図4】図3に示す熱処理用ローラの横断面図である。
【図5】図1に示す熱処理用ローラにおいて電磁誘導発熱機構を用いた場合の構成を示す断面図である。
【図6】従来の熱処理用ローラの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0021】
8 ポンプ
9 熱交換器
11 貯油タンク
21、31 ローラ本体
21a 密閉室を構成する貫通孔
22 鏡板
22a 密閉室を構成する孔
23、31c 回転駆動軸
23b 密閉室を構成する孔
24 軸受
25 熱媒流体
25a 電磁鉄心
25b 誘導コイル
31d 障壁
31e 通流路を構成する貫通孔
31f 通流路を構成する貫通孔
31g 密閉室
31h 密閉室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ本体と前記ローラ本体の長手方向の両側の端部に固定した鏡板と前記鏡板に固定した回転駆動軸とを有し、前記ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を形成し、前記ローラ本体内部に、前記ローラ本体の表面に当接する被処理物を熱処理する熱源を配置してなる熱処理用ローラにおいて、前記密閉室を前記鏡板の肉厚内部に延設してなることを特徴とする熱処理用ローラ。
【請求項2】
ローラ本体と前記ローラ本体の長手方向の両側の端部に固定した鏡板と前記鏡板に固定した回転軸とを有し、前記ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を形成し、前記ローラ本体内部に、前記ローラ本体の表面に当接する処理物を熱処理する熱源を配置してなる熱処理用ローラにおいて、前記密閉室を前記鏡板の肉厚内部および前記回転駆動軸の肉厚内部に延設してなることを特徴とする熱処理用ローラ。
【請求項3】
ローラ本体と前記ローラ本体の長手方向の両側の端部に固定した鏡板と前記鏡板に固定した回転軸とを有し、前記ローラ本体の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を形成し、前記ローラ本体内部に、前記ローラ本体の表面に当接する処理物を熱処理する熱源を配置してなる熱処理用ローラにおいて、前記回転駆動軸の肉厚内部に長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する、前記ローラ本体の密閉室と独立し、前記ローラ本体と鏡板を貫通する密閉室を設けてなることを特徴とする熱処理用ローラ。
【請求項4】
熱源は、ローラ本体内部を通流する熱媒流体であることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の熱処理用ローラ。
【請求項5】
熱源は、ローラ本体内部に配置した電磁誘導発熱機構であることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の熱処理用ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−112475(P2006−112475A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298587(P2004−298587)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】