説明

熱処理装置、熱処理設備および熱処理方法

【課題】処理装置内からの熱の放出をできる限り防止し、エネルギー効率が高く、また装置内の雰囲気が高精度で均一であり、スペース効率のよい熱処理装置および熱処理方法を提供し、さらに、該熱処理装置を備える熱処理設備を提供する。
【解決手段】ワークの熱処理を行う熱処理装置であって、断熱材を備えた筐体と、前記筐体内部に設けられる複数の収納段を有するワーク収納棚と、前記ワーク収納棚の各収納段に設置される引出し式トレイと、前記筐体の内部の気体を加熱する加熱器と、前記筐体内部の気体を循環させる循環ファンと、を備える熱処理装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中で焼鈍し、焼きならし等の熱処理を行う熱処理装置、熱処理設備および熱処理方法であって、例えば熱間鍛造等の加熱処理が行われた鋼部品などのワークに焼鈍し処理を行う熱処理装置、熱処理設備および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ギアや歯車等の鋼部品であるワークには、熱間鍛造等の前段処理が行われた後、均熱状態で所定の時間ワークを保持し、その後徐冷を行う、いわゆる焼鈍し処理が行われる。この焼鈍し処理においては、ワークをオーステナイト組織の状態で十分保持しておくために、均熱状態でワークを保持する熱処理装置が必要となる。
【0003】
そこで、特許文献1には、回転炉床の上に放射方向にワークを複数段配置し、軸流ファンにより上下もしくは平面方向に熱風循環流を発生させ、ワークが1回転する間に、熱風によってそのワークを均熱状態で保持する熱風循環炉が開示されている。また、特許文献2には、回転するワーク載置棚と平面視周方向に熱風を循環させる熱風循環装置を備える熱処理設備が開示されている。即ち、特許文献1および特許文献2に記載の熱処理装置はワークを回転させながら熱風を接触させ均熱状態を保持する構成となっており、以下ではこの構成
をとる熱処理装置を回転型熱処理装置と呼ぶ。
【0004】
また、従来一般的に用いられてきた連続処理炉としては、トンネル型の長い処理炉が例示され、このトンネル型処理炉では、一端のワーク搬入口から搬入されたワークが、他端のワーク搬出口へ向けて移動する間に均熱や冷却等が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−257658号公報
【特許文献2】特開2006−200823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された回転型熱処理装置は、ワークを放射状に配置するため、スペース効率が悪くなってしまうという問題があった。また、ワークの搬入・搬出時にロボットアームを処理装置の炉内に入れて作業を行う際、その作業中に開放された扉から熱が放出されてしまうため、均熱のために炉内の熱を保持しておく熱処理装置としては、熱効率に問題があった。さらに、炉の扉開放時の熱の放出を極力抑えるために、炉内に空のスペースを設ける場合にも、スペースが余分に必要となるためスペース効率が悪く、ワークの収容効率も悪くなってしまうという問題があった。また、ロボットアームを炉内に入れて作業を行うため、そのロボットアーム等のトラブル時には、復旧にかなりの時間が必要になってしまうという問題点があった。
【0007】
上記トンネル型処理炉を用いた場合には、ワークの冷却を行う冷却部を通過する、各炉共通のコンベアが備えられており、冷却されたコンベアがワークの均熱を行う炉を通過する際に、均熱部の熱がコンベアに奪われてしまうため、エネルギーの無駄が発生してしまうという問題があった。また、ワークを連続してコンベア上に配置し熱処理を行う際に、ワーク同士の衝突による衝突キズを防止するためワーク同士の間隔をある程度あけて各ワークを配置するが、これによりコンベアの長さ、即ち、トンネル型処理炉全体の長さが長くなってしまうという問題があった。
【0008】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明の目的は、処理装置内からの熱の放出をできる限り防止し、エネルギー効率が高く、また装置内の雰囲気が高精度で均一であり、スペース効率のよい熱処理装置および熱処理方法を提供し、さらに、該熱処理装置を備える熱処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ワークの熱処理を行う熱処理装置であって、断熱材を備えた筐体と、前記筐体内部に設けられる複数の収納段を有するワーク収納棚と、前記ワーク収納棚の各収納段に設置される引出し式トレイと、前記筐体の内部の気体を加熱する加熱器と、前記筐体内部の気体を循環させる循環ファンと、を備える熱処理装置が提供される。
【0010】
上記熱処理装置によれば、炉体内部にワークを搬送する搬送機構を持たないため、炉体容積をコンパクトにして、かつ大量のワークを炉体内に収納させることが可能となる。即ち、ワークを均熱状態で保持するという観点から、コンパクトな炉体内に大量のワークを保持することにより熱処理の熱効率を従来の熱処理装置と比べ高めることができる。さらに、炉体容積がコンパクトであるため、使用スペースを抑えることができ、その構成部品が少ないことから、製作納期や製作コストの面でも有用性が高い。また、メンテナンス時に、比較的単純な構造であり、炉体が小さいため、メンテナンスのための炉体冷却時間が短くてすむという利点がある。
【0011】
また、上記熱処理装置は、前記収納段に流入する気体の流入側空間を1または複数の収納段ごとに複数の流路に分割する整流板と、前記流路内に各収納段に対応して取り付けられる風量調整用ダンパーと、を備えている。この熱処理装置によれば、各収納段に均一な熱風を供給することができ、ワークの均熱性を安定して保持することができる。これにより、製品化されたワークの品質の安定化が図られる。
【0012】
また、前記引出し式トレイの前端部および後端部に断熱材が備えられている。このため、ワークの搬入・搬出時に炉体内部から放出される熱が減少するため、炉内の雰囲気を安定化させることが可能となり、熱効率の上昇が図られる。また、前記筐体内部に大気を導入する大気導入機構を備えていてもよい。なお、前記ワークとしては自動車部品のシャフトやギアが例示される。
【0013】
また、別な観点からの本発明によれば、ワークに熱処理を施す熱処理設備であって、上記熱処理装置と、上記熱処理装置の外部に設置されるワークを熱処理装置に搬入および搬出する搬送機構を備える、熱処理設備が提供される。
【0014】
上記熱処理設備によれば、ワークを熱処理装置に搬入および搬出する搬送機構が熱処理装置の外部に設置されるため、熱処理装置の外で搬送装置の故障状態を観察し、そのメンテナンスを容易に行うことができ、設備故障を少なく抑えられる。また、設備故障時の復旧も安全かつ迅速に行うことが可能である。
【0015】
さらに別の観点からの本発明によれば、上記熱処理装置を用いて、ワークに熱処理を施す熱処理方法であって、使用する引出し式トレイの数を前記ワークの処理時間および前記ワークの生産数に応じて変化させる、熱処理方法が提供される。この熱処理方法によれば、ワークの処理時間および生産数に応じて、熱処理装置をフレキシブルに稼動させることができ、生産コストおよび省エネルギーの観点から非常に有効にワークの熱処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、処理装置内(筐体)からの熱の放出をできる限り防止し、エネルギー効率が高く、また装置内の雰囲気が高精度で均一であり、スペース効率のよい熱処理装置および該熱処理装置を用いた熱処理設備が提供される。また、ワークの処理時間および生産数に応じて、熱処理装置をフレキシブルに稼動させることができ、生産コストおよび省エネルギーの観点から非常に有効にワークの熱処理が行える熱処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】熱処理装置1の正面断面図である。
【図2】熱処理装置1の側面断面図である。
【図3】熱処理設備50の概略説明図である。
【図4】熱処理装置60の正面断面図である。
【図5】熱処理装置70の概略図である。
【図6】熱処理設備80の概略図である。
【図7】実施例で用いた熱処理装置の正面断面図である。
【図8】熱処理装置において位置a〜iでの温度変化を時間の経過に沿ってグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
図1は本実施の形態にかかる熱処理装置1の正面断面図である。また、図2は熱処理装置1の側面断面図である。なお、図2では、以下に説明する引出し式トレイ35が一箇所引き出されている状態を図示している。
【0020】
図1に示すように、熱処理装置1の外周は、断熱材9を備えた筐体10によって構成されている。筐体10は外部への放熱を抑えるために全面にわたり断熱材9で構成され、筐体10の内部には、例えばギアや歯車等の鋼部品であるワーク15を収納するワーク収納棚20(以下収納棚20とする)が設けられており、収納棚20は縦4段、横5列に分割され、複数のワーク収納部22(以下収納部22とする)に仕切られている。なお、本実施の形態にかかる熱処理装置1においては、収納棚20は縦4段、横5列に仕切られているとして説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、収納するワークの数や大きさ等によって収納部22の数(仕切る段数および列数)は適宜定めることができる。
【0021】
また、熱処理装置1内において、収納棚20下方には、加熱器24が設置され、加熱器24の側方近傍には熱処理装置1内の気体を循環させる循環ファン25が設置されている。循環ファン25にはファンを回転させる例えばモーター等の駆動機構26が接続しており、駆動機構26は熱処理装置1外周部に設置されている。また、熱処理装置1の外部には、熱処理装置1内部に連通し、大気を送り込むポンプ28が設けられている。なお、気体を加熱する前記加熱器24は必ずしも熱処理装置1内に設置されている必要はないが、スペース効率やエネルギー効率を考えた場合、熱処理装置1内に設置されることが好ましい。また、熱処理装置1内の気体を循環させるために、複数台の循環ファン25を図1に示す場所以外の適当な部分に設置してもよい。
【0022】
収納棚20の両側方の空間A、空間Bそれぞれには、流動する気体を整流する整流板30、31が設置されている。ここで、空間Aとは、循環ファン25から送られる気体が収納棚20に流入する際に通過する空間であり、空間Bとは、収納棚20から流出した気体が加熱器24に吸引されるまでに通過する空間である。本実施の形態にかかる熱処理装置1においては、空間Aに設けられる整流板30の形状は、図1に示すように、熱処理装置1の角部に対応する曲線形状の円弧部分と直線部分が組み合わさった形状(熱処理装置1の角に沿った形状)である。各整流板30は空間Aに4つの流路33(33a、33b、33c、33d)を形成するように設置される。4つの流路33a、33b、33c、33dは、縦に4段設けられた収納部22にそれぞれ対応し、収納部22の各段に、循環ファン25から送られる気体(熱風)を水平方向に流動させる流路となっている。また、筐体10内において、上記空間Aに形成される流路33(33a、33b、33c、33d)には、それぞれ風量調節ダンパー29が設けられている。なお、整流板30によって形成される流路の数は、本実施の形態では4つであるが、これは収納部22の段数に応じた数であり、収納部22の段数が異なればその数に応じた流路数となることが好ましい。
【0023】
上述したように、空間Aにおいて4段の収納部22に対応した4つの流路33(33a、33b、33c、33d)を形成するように整流板30が設置されているが、空間Bにおいても同様に、収納部22の段数に対応する数の流路、即ち、図1、図2においては4段なので4つの流路34(34a、34b、34c、34d)が整流板31によって形成される。整流板31の形状は整流板30と同様に熱処理装置1の角部に沿った形状であり、収納部22を通過した気体(熱風)が鉛直方向(図1内下方向)に向かうように流動させられる。
【0024】
また、図1および図2に示すように、複数の収納部22それぞれには、前後に引出し自在であり、熱処理装置1の正面から奥行き方向(図2左右方向)へ伸長する引出し式トレイ35(以下トレイ35とする)が設けられており、各トレイ35には1個以上のワーク15が収納され、複数のワーク15が一定間隔で収納されることが好ましい。また、各トレイ35の前端部、後端部にはそれぞれ前部断熱材36、後部断熱材37が施工されている。従って、トレイ35が収納部22内へ収納されている場合、前部断熱材36によって収納部22内は断熱状態となり、トレイ35が収納部22から引き出された場合(図2に示す上から1段目の状態)には、後部断熱材37によって収納部22内は断熱状態となる。即ち、トレイ35の収納時、引き出し時の両方の場合共に、収納部22(熱処理装置1)は断熱状態とされ、内部の熱が逃げにくい構成となっている。また、熱処理装置1内部が断熱状態であるため、内部温度が上昇しすぎる場合を考慮し、図1および図2に示すように熱処理装置1上部には熱を逃がすことが可能な開閉式の排熱ダクト39が設置されている。
【0025】
また、図3は、熱処理装置1の収納部22へのトレイ35の引き出しおよび収納や、ワーク15の収納および取り出しを行うアーム41を備える外部搬送機構40と、熱処理装置1から構成される熱処理設備50の概略説明図である。図3に示すように構成される熱処理設備50(熱処理装置1)において、加熱処理された高温のワーク15を均熱状態で保持する、熱処理が行われる。まず、外部搬送機構40のアーム41によって収納部22からトレイ35が引き出される。そして、外部搬送機構40によって、例えば熱間鍛造工程において高温状態となったワーク15が熱処理装置1のトレイ35に複数配置される。ワーク15がトレイ35に配置された後、外部搬送機構40によってトレイ35は収納部22へ収納される。熱処理装置1は断熱材9の施工された筐体10から構成されているため、熱処理装置1内は高温のワーク15自身の熱によって加熱され高温雰囲気下となる。
【0026】
次いで、熱処理装置1内においては、ワーク15を所定の時間一定の温度に均熱することによりその熱処理が行われるが、そのためには熱処理装置1内を常時一定の高温雰囲気下に保持する必要がある。これは、例えば鋼部品であるワーク15をオーステナイト状態で保持しておく焼きならしにより、所望の性質を持つ製品を得るためである。
【0027】
そこで、上述したようにワーク15自身の熱によって加熱された熱処理装置1内を一定の温度に保つため、加熱器24、ポンプ28および排熱ダクト39が備えられる。熱処理装置1内の温度が所望の温度より下がってしまった場合には、加熱器24の稼動によって熱処理装置1内の気体を加熱することで所望の温度に保つ。一方、熱処理装置1内の温度が所望の温度より上昇してしまった場合には、排熱ダクト39を開放するとともにポンプ28によって熱処理装置1内に大気(外気)を導入し、内部の熱を逃がすことで熱処理装置1内の温度を所望の温度に保つのである。ここで、鋼部品であるワーク15をオーステナイト状態で保持するために、均熱処理を行う温度は650℃前後が望ましい。
【0028】
さらに、熱処理装置1内の加熱器24の側方近傍に設けられた循環ファン25の稼動により、熱処理装置1内の気体(通常は空気)は流動させられる。この熱処理装置1内の気体流動は、空間Aにおいて上述したような形状・構成を有する整流板30に整流され、流路33(33a、33b、33c、33d)を高温の気体が通過する。ここで、流路33(33a、33b、33c、33d)にはそれぞれ風量調節ダンパー29が設けられているため、収納棚20の各段への気体(熱風)の流入量は制御することが可能となっている。従って、この風量調節ダンパー29の制御により収納棚20の各段でのワーク15への均熱処理が均等に行われ、また、所定の温度での均熱処理が可能となる。そして、収納棚20の各段を該気体が通過した後、空間Bにおいて整流板34によって形成される流路34(34a、34b、34c、34d)を、それぞれ高温の気体が通過し、熱処理装置1内を高温の気体が循環流動することとなる。なお、収納棚20を通過後の気体(熱風)は流路34を通過した後、加熱器24内に吸引され、温度が所定値より低下した場合は再度加熱された後、再び循環ファン25によって空間Aへ送り出される。なお、前記気体は空気に限らず、例えば熱処理の必要に応じて不活性ガス等をポンプ28により外部から流入させ、不活性ガス雰囲気で熱処理を行ってもよい。
【0029】
各収納部22のトレイ35に収納された複数のワーク15は、熱処理装置1内が高温雰囲気下であり、さらにその内部の気体が各収納部22(収納棚20の各段)に均一に流動させられることにより、均一な温度でもって均熱状態で保持されることとなる。収納棚20に収納された複数のワーク15の均熱性が、高精度かつ安定的に保持されることにより、その熱処理によって製品としてのワークが安定して製造されることとなる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0031】
上記実施の形態では、ワーク15として鋼部品を例示し、その熱間鍛造後、焼きならしや焼鈍の処理を行う場合に用いる熱処理装置として熱処理装置1を説明したが、本発明はこれに限られるものではない。大気中や不活性ガス中などの雰囲気ガス中で熱処理を行うものであれば本熱処理装置を適用できる。例えば、アルミの熱処理を行うアルミ時効炉やセラミックス等の焼結を行う焼結炉など、連続的かつ高効率な熱処理工程を行うための様々な炉に用いることが可能である。
【0032】
また、上記実施の形態にかかる熱処理装置1の構成としては、収納棚20、加熱器24および循環ファン25の配置を、図1に示すように加熱器24が収納棚20の下方にされ、循環ファン25が加熱器24の側方に配置されるものとしたが、本発明はこの構成に限られるものではない。そこで、以下に他の構成を有する熱処理装置について図面を参照して説明する。
【0033】
図4には、本発明の他の実施の形態にかかる熱処理装置60の正面断面図を示す。以下において、熱処理装置60の各構成要素は上記実施の形態の構成要素と同様であるため、同じ符号を用い、各構成要素の詳細な説明は省略する。熱処理装置60はその内部において、収納棚20が下方に配置され、収納棚20上方に加熱器24、加熱器24の側方に循環ファン25がそれぞれ配置されている。
【0034】
この熱処理装置60によれば、循環ファン25の稼動により内部の気体(空気)が循環させられる。ここで、一般的に、高温の空気はそれより温度の低い空気と比べ上方に溜まってしまうという性質があるが、熱処理装置60内部において高温の気体は循環ファン25によって熱処理装置60下方へと押し出されるように(図4中反時計回りに)循環させられているため、高温の気体が熱処理装置60の上方に溜まってしまうことなく均熱状態が担保される。即ち、熱処理装置60内部において各々場所の異なる複数の収納部22に収納されたワーク15が、高精度で全て同じ温度での均熱状態を保持することが比較的容易に可能となる。
【0035】
また、図5には、上記実施の形態にかかる熱処理装置1を二台、即ち、熱処理装置1a、1bを用いた熱処理設備70の概略図を示す。ここで、熱処理設備70の外部搬送装置40’にはアーム41が複数設けられており、ワーク15を熱処理装置1aから熱処理装置1bに連続的に移動収納させることが可能となっている。なお、各熱処理装置1a、1bの構成要素については上記実施の形態で説明したものと同一であるため説明は省略する。
【0036】
例えば、鍛造のIA(恒温焼鈍)処理、焼き入れ焼き戻し処理、アルミの容体炉(溶体化処理)、時効炉を用いた処理(時効処理)等の2種以上の温度帯での均熱保持を必要とする処理を効率的に行う場合には、ワーク15には異なる温度域でもって連続的に均熱状態を保持させる必要がある。図5に示す熱処理設備70を用いた場合、異なる温度域で均熱保持されている熱処理装置1aと1bの間において、ワーク15を連続的に移動させることが可能となる。従って、ワーク15の均熱状態での保持を異なる温度域でもって安定して行うことができ、製品としてのワークが安定して生産されることとなる。
【0037】
なお、本発明は上記図1、図4および図5に示した構成に限られるものではなく、ワーク15の材質や形状等によって均熱状態を効率よく担保できるように収納棚20、加熱器24、循環ファン25等の配置は適宜変更することが望ましく、また、熱処理の工程に必要とされる場合には熱処理装置1を複数設けてもよい。
【0038】
また、以下には、図1および図5に記載した上記実施の形態にかかる熱処理装置、熱処理設備に準じた熱処理装置(設備)を用いて行う熱処理方法の一例について説明する。図6は5列8段の収納棚20’とそれに対応した40個のトレイ35を有する熱処理装置1a’、1b’を備える熱処理設備80の概略図である。ここでは、熱間鍛造により成形されたワーク15を650℃で約22分間の焼きならし処理を行う熱処理を例として説明する。
【0039】
まず、熱間鍛造により成形されたワーク15(ギア)を、ロボット(図示しない)の稼動により、外部搬送機構40’によって引き出された収納棚20の最上部左端の引き出し式トレイ35の上に搭載(収納)する。前記熱間鍛造においては約4秒に1個のペースでワーク15が連続的に成形され、それに応じてワーク15が前記ロボット(図示せず)により引き出し式トレイ35に順に搭載され、4個が一定間隔で収納される。熱間鍛造によって成形されたワーク15は、冷却工程を経ずに連続的に引き出し式トレイ35上に搭載するので、加熱された状態にある。また、熱処理装置内は予め加熱器により空気が加熱され、650℃に保持されており、循環ファンにより内部の空気が循環された状態にある。
【0040】
次に、ワーク15が収納された引き出し式トレイ35を、外部搬送機構40’が押すことで、熱処理装置1a’の収納部22にトレイ35が収納される。続いて外部搬送機構40’によって、ワーク15を収納したトレイ35の下側のトレイ35(上から2段目、左端)を引き出す。この上に連続的に熱間鍛造され成形されたワーク15を前述と同様に4個搭載し収納部22にトレイ35を収納する。次に上から3段目、左端のトレイ35を引き出し、同様にワーク15を搭載する。図6に記載の熱処理装置1a’を正面から見た場合における左端の最上段のトレイ35から始まり、その下方のトレイ35にワーク15を収納してそのトレイ35を収納部22に収納することを繰り返し、左端最下段までワーク15をトレイ35に収納しそのトレイ35を収納部22に収納する。続いて熱処理装置1a’を正面から見た場合の左端から2番目の列の最上段のトレイ35から下方に向かって収納の工程を繰り返し、さらに順に右側の列のトレイ35にワーク15を収納する。以上を繰り返し、最後に右端の最下段(8段目)にワーク15をトレイ35に収納し、そのトレイ35を収納部22に収納するようにする。このようにして、熱処理装置1a’にワーク15が満載された状態となる。次に、熱処理装置1b’にも同様の方法でワーク15をトレイ35に搭載する。
【0041】
熱処理装置1a’、1b’にワーク15が満載されたとき、すなわち合計80個のトレイ35に全てワーク15が搭載されたときに、最初に収納した熱処理装置1a’の左端最上段のトレイ35は約16秒×80個(トレイ35の全個数)=約1280秒(約22分)の均熱処理(焼きならし)、すなわち目的の時間熱処理が行われたことになる。この間、650℃の温度に熱処理装置内を保持するために、加熱器24や排熱ダクト39、外部からの空気の導入などで温度制御が行われる。また、図6中には図示していない整流板30、31を調整することでも収納棚20の各段における均熱が図られる。
【0042】
次いで、最初に収納したトレイ35から順に外部搬送機構40’によりトレイ35引き出し、ワーク15を前記ロボット(図示せず)により取り出しワーク15の熱処理を終了した。さらに、連続的に熱間鍛造によりワーク15が新たに成形され、トレイ35上に搭載され、その後トレイ35を収納棚20に収納する。次いで2番目に収納したトレイ35を引き出しワーク15を取り出し、そのトレイ35に熱間鍛造で成形されたワーク15を搭載し、そのトレイ35を収納棚20に収納する。このような繰り返しにより、連続的にワーク15の熱処理が可能となる。
【0043】
ここで、熱処理設備80においては、ワーク15の処理時間や生産数が変わっても、上述のトレイ35の数を変えることにより対処することができる。例えば、熱処理時間が約11分であれば、熱処理装置は一方のみ(1a’だけ(40トレイ))で連続処理が可能となり、熱処理装置のトレイ数や使用するトレイ数を変更することで、様々な処理時間に対応可能となる。なお、熱処理設備中のワーク15をトレイ35に入れる順番は任意でも構わない。また、熱処理装置の構造からわかる通り、連続処理が不要な場合は、バッチ炉的な処理も可能である。
【0044】
また、ワーク15が熱間鍛造後の冷却工程を経ないで、連続的に熱処理装置1a’、1b’内に投入され、ワークの持つ熱を熱処理炉内の気体の加熱に利用できるため、エネルギーコストを大幅に削減でき、且つ一端室温まで冷却した場合と比べて大幅な処理時間の短縮が図られる。
【実施例】
【0045】
本発明の実施例として、本発明にかかる熱処理装置において、加熱器により加熱された空気を熱処理装置内部で循環させ、熱処理装置内部の各位置での温度分布を測定した。図7は本実施例で用いた熱処理装置の正面断面図である。熱処理装置の構成要素については、上記実施の形態において説明したので省略する。
【0046】
熱処理装置の内部位置を以下の位置a〜iように定め、加熱器および循環ファンを稼動させ、到達設定温度を650℃としてそれぞれの位置における温度を測定した。なお、このときワークは投入しなかった。
a:収納棚下側部手前側(図7中左下手前)
b:収納棚下側部奥側(図7中左下奥)
c:収納棚上側部手前側(図7中左上手前)
d:収納棚上側部奥側(図7中左上奥)
e:収納棚下部中央手前側(図7中中央下部)
f:収納棚中央(図7中中央部)
g:収納棚下側部手前側(図7中右下手前)
h:収納棚中央側部(図7中右側中央)
i:収納棚上側部奥側(図7中右上奥)
【0047】
図8は上記位置a〜iでの温度変化を時間の経過に沿ってグラフ化したものである。図8によれば、各位置a〜iの温度変化はほぼ同じような推移をしていることが分かった。また、設定温度に到達してからは650℃±15℃の範囲に保持されていることが分かった。即ち、収納棚の各段・各列に設けられた収納部はほぼ均一な温度に保持され、収納部に配置されるワークについても、高精度で均熱状態が保持されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、雰囲気中で焼鈍し、焼きならし等の熱処理を行う熱処理装置、熱処理設備および熱処理方法であって、例えば熱間鍛造等の加熱処理が行われた鋼部品などのワークに焼鈍し処理を行う熱処理装置、熱処理設備および熱処理方法に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1、1a、1b、1a’、1b’、60…熱処理装置
9…断熱材
10…筐体
15…ワーク
20…ワーク収納棚(収納棚)
22…ワーク収納部(収納部)
24…加熱器
25…循環ファン
26…駆動機構
28…ポンプ
30、31…整流板
33、34…流路
35…引き出し式トレイ(トレイ)
36…前部断熱材
37…後部断熱材
39…排熱ダクト
40…外部搬送機構
41…アーム
50、70、80…熱処理設備
A、B…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの熱処理を行う熱処理装置であって、
断熱材を備えた筐体と、
前記筐体内部に設けられる複数の収納段を有するワーク収納棚と、
前記ワーク収納棚の各収納段に設置される引出し式トレイと、
前記筐体の内部の気体を加熱する加熱器と、
前記筐体内部の気体を循環させる循環ファンと、を備える熱処理装置。
【請求項2】
前記収納段に流入する気体の流入側空間を1または複数の収納段ごとに複数の流路に分割する整流板と、
前記流路内に各収納段に対応して取り付けられる風量調整用ダンパーと、を備える請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記引出し式トレイの前端部および後端部に断熱材が備えられている、請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記筐体内部に大気を導入する大気導入機構を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項5】
ワークに熱処理を施す熱処理設備であって、
請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理装置と、
前記熱処理装置の外部に設置されるワークを前記熱処理装置に搬入および搬出する搬送機構を備える、熱処理設備。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理装置を用いて、ワークに熱処理を施す熱処理方法であって、
使用する前記引出し式トレイの数を前記ワークの処理時間および前記ワークの生産数に応じて変化させる、熱処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−12294(P2011−12294A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155634(P2009−155634)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(306039120)DOWAサーモテック株式会社 (45)
【Fターム(参考)】