説明

熱分解装置

【課題】 熱分解ガスおよび加熱空気が大気に漏洩することを防止するシール装置の磨耗を低減でき、シールの寿命を長くでき、保守を容易にできる熱分解装置を提供する。
【解決手段】 熱分解装置1は、被処理物が内部に供給されるキルン3と、キルンの外周を取り囲み、内部にキルンを加熱する熱媒体が供給されるジャケット5と、キルン3とジャケット5との間およびキルン3と装置固定部2,8との間に設けられたシール装置10,10Aを備えており、該シール装置は、キルンに固定された回転リング11と、回転リングと接触するようにジャケット5に固定された固定リング15とから構成され、回転リングはキルンの回転軸方向に延出する筒状部を有すると共に、筒状部11bの外周面が傾斜外周面11cに形成されており、固定リングはジャケットにキルンの回転軸方向に沿って伸縮可能なジャバラ12を介して固定されると共に、傾斜外周面11cに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を熱分解するロータリーキルン方式のガス化溶融炉を備える熱分解装置に係り、特に、熱分解ガスや加熱空気等の熱媒体を装置外に漏洩させないシール装置を備える熱分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルン方式のガス化溶融炉を備える熱分解装置においては、キルン内で生成する熱分解ガスや、キルンを加熱するための加熱ガスを、熱分解装置外へ漏洩することを防止するため、シール装置を有している。
【0003】
従来の熱分解装置のシール装置の例として、図4,5に示す熱分解装置は、焼却場に持ち込まれたごみ41は、前処理工程を経た後、熱分解装置に投入され、スクリューフィーダー42により、横置きされたキルン43の入口からキルン内に送り込まれる。キルン内のごみは、出口に向かって移動する間に、空気を遮断した雰囲気中で加熱されることにより、熱分解ガス44とチャー45に分解されて、それぞれの処理系に送られる。この過程で、アルミや鉄等は融点以下で処理されるため、そのままの形態で不燃物46として回収される。一方ごみを加熱するための加熱ガス47は、キルン43とジャケット48で構成された経路に、ごみの移動方向に対して順方向または逆方向に循環させることによりキルンを加熱する。キルン内のごみには、加熱されたキルンから熱が供給される。この際ごみへの熱供給を均一かつ効率的に行うためキルンを回転させる。
【0004】
前記の熱分解装置のシール装置50は、キルン43の外周から突出して回転リング51が固定され、この回転リングの一方の面に接するように固定シール部材52が配置され、固定シール部材52はキルン回転軸方向に伸縮可能なジャバラ53によりジャケット48に固定されている。そして、回転リング51の他方の面に固定シール部材54が接しており、固定シール部材54は固定シール部材52とボルト55とスプリング56により連結され、回転リング51は2つの固定シール部材52,54により押圧状態に挟まれてシールが行なわれ、ジャケット48内部の加熱ガスが大気中に漏れるのを防止している。このシール装置は、キルン43と固定物であるごみ投入部との間や、キルン43と熱分解ガス等を排出するフード部との間にも設置される。
【0005】
このように、回転リング51がキルン43の回転軸に対して垂直方向位置に配置され、キルン長さの熱伸縮量を吸収するジャバラ53の反力を、回転リング51と固定シール部材52とのシール面で受ける構造となっている。ジャバラ53はキルン内部の高温熱分解ガスに耐えるためステンレス鋼等の材料が使用され、また伸縮量は長いキルンの長さに比例するため、ジャバラ反力が大きく、その結果として図3(A)のようにシール面の面圧も大きくなっている。
【0006】
また、特許文献1に記載のロータリーキルンのシール装置は、図6に示すように、ロータリーキルン61の外周に沿って可動側のシールリング62を設けるとともに、可動側のシールリングと対向する位置に固定側のシールリング63を配置し、固定側のシールリング63を可動側のシールリング62に一定圧力で押付けるように構成したものである。そして、一定圧力で押付ける手段が、流体圧供給装置65と、流体圧配管66の途中に設けられ流体圧を検出する圧力検出器67と、流体圧を一定に制御する圧力制御装置68とから構成され、伸縮可能な袋体69に流体圧を供給できるようにしている。
【特許文献1】特開2003−269864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のロータリーキルン方式の熱分解装置のシール装置では、運転時にキルンが熱膨張すると、熱伸縮吸収用ジャバラが伸長してシール面を押圧する。この結果、シール面の面圧が増えて磨耗が大きくなり、シール部材の寿命が短くなる問題点が発生する。シール面圧は、図3に示されるように、ジャバラの伸長により大きくなる傾向がある。この種のシール構造において、ジャバラの伸長量は140mm程度に設定されるが、このときのシール面圧は1〜10N/mm程度に変化する。したがってシール面磨耗も過大となり、頻繁にシールを交換しなければならなかった。
【0008】
また、特許文献1に記載のロータリーキルンのシール装置は、前記のようなシール面圧の変動を防止するもので、固定側のシールリングを可動側のシールリングに一定圧力で押付けるように構成している。しかし、このシール装置は一定圧力で押付ける手段が流体圧を供給できる伸縮可能な袋体であり、流体圧を供給する流体圧供給装置と、流体圧を検出する圧力検出器と、測定した圧力に基づき流体圧が一定となるように制御する圧力制御装置を必要としており、構成が煩雑で制御が複雑という問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ロータリー式のキルンを備える熱分解装置において、運転時のキルンの熱膨張による伸縮時にシール部分に作用するジャバラの反力を小さくし、シール部分の面圧を小さくすることにより磨耗低減でき、シール装置の寿命を長くでき、保守を容易にできる熱分解装置を提供することにある。また、シール装置のシール性能を向上して熱分解ガスや加熱空気が大気に漏洩することを防止できる熱分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明に係る熱分解装置は、被処理物が内部に供給され、該被処理物を熱分解する回転可能のキルンを備える熱分解装置であって、この装置は、キルンと装置固定部との間にシール装置を備えており、このシール装置は、前記キルンに固定された回転側シール部材と、該回転側シール部材と接触するように装置固定部に固定された固定側シール部材とから構成され、回転側シール部材は、キルンの回転軸方向に延出する筒状部を有すると共に、該筒状部の外周面が傾斜外周面に形成されており、固定側シール部材は、装置固定部に、キルンの回転軸方向に沿って伸縮可能な伸縮部材を介して固定されると共に、傾斜外周面に接触することを特徴としている。
【0011】
前記のごとく構成された本発明の熱分解装置は、被処理物を熱分解処理する際にキルンが回転し、回転しているキルンと装置固定部とのシール装置から熱分解ガスや加熱空気が漏れないようにシールがなされる。キルンが加熱され熱膨張すると、ジャバラ等の伸縮部材が伸縮されてシール面の押圧力が変化するが、この押圧力は筒状部の傾斜外周面に作用するため、押圧力の変化は小さいものとなる。このように、キルンの熱膨張方向とシール面の方向が平行に近い傾斜面に弾接しているため、シール面に加わる面圧が大きく変化することはない。このためシール性能が安定して、内部のガスが漏れることを防止し、シール装置の寿命を延ばすことができる。すなわち、ジャバラの伸縮方向は回転軸に沿う方向であり、固定側シール部材の回転側シール部材を押圧する方向は傾斜外周面に沿う方向であり、従来のように押圧方向と接触面とが直角でないため、シール面に加わる面圧を小さい状態に保つことができる。
【0012】
また、本発明に係る熱分解装置の好ましい具体的な態様としては、前記回転側シール部材は、筒状部の内周面が傾斜内周面に形成され、この熱分解装置は該傾斜内周面と接触する固定側内周シール部材をさらに備えており、前記固定側シール部材と固定側内周シール部材は、前記筒状部の傾斜外周面と傾斜内周面を挟むように付勢されることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、回転側シール部材は傾斜外周面と傾斜内周面が、固定側内周シール部材と固定側外周シール部材とにより挟まれてシールされるため、シール性能が安定して好ましい。すなわち、外周側の固定側シール部材と固定側内周シール部材とは回転側シール部材の筒状部の傾斜外周面と傾斜内周面を挟むように付勢されるため、固定側シール部材と固定側内周シール部材とは自動調心されてシール部からの漏洩を確実に抑えることができる。
【0014】
さらに、前記固定側シール部材および固定側内周シール部材の少なくとも一方は、潤滑材を保持する溝部を備えることが好ましい。この構成によれば、傾斜外周面と固定側外周シール部材との接触面、傾斜内周面と固定側内周シール部材との接触面の少なくとも一方が潤滑剤で潤滑されるため、シール面の保護、低騒音化が達成できるとともに、シール部の磨耗の低減が図れる。また、前記回転側シール部材と、前記固定側シール部材および固定側内周シール部材との少なくとも一方は、クロムモリブデン鋼で形成されるか、クロムモリブデン鋼のコーティングがされていることが好ましい。この構成によれば、クロムモリブデン鋼は硬度が高いため、シール装置の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロータリー式のキルンを備える熱分解装置は、回転するキルンの回転側シール部材と装置固定部の固定側シール部材とを傾斜面で接触させたので熱伸縮による面圧を逃がすことができ、シール部材の接触面の面圧を低減できるため、シール装置の寿命を延長することが可能である。また、シール装置の面圧を小さくできるためシール性能が安定し、騒音を低減でき、シール装置の寿命を延長することができるため、シール部材の交換等のメンテナンスが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱分解装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る熱分解装置の概略構造を示す断面図、図2は、図1のシール装置の詳細を示す要部断面図、図3は伸縮部材であるジャバラ伸縮量とシール面圧の関係を示す図である。
【0017】
図1,2において、本実施形態の熱分解装置1は、ガス化溶融方式により被処理物として廃棄物を熱分解して焼却する装置であり、図4で示す従来の熱分解装置と基本構成が同じであり、ごみを熱分解ガスと熱分解カーボン(チャー)に分離した後、熱分解ガスにより高温にした溶融炉(図示せず)に、チャーと灰分を投入することにより、灰分を溶融スラグ化するものである。
【0018】
この方式の熱分解装置は、ごみを高温で処理できるためダイオキシンの発生を抑制でき、また最終生成物であるスラグは建築資材等に有効利用できるため、最終処分場への埋立量を大幅に低減できる。さらに、この熱分解装置は、これらの処理を、ごみが持つエネルギーで賄っているため、ごみ処理に必要とされる外部エネルギーを大幅に低減することができる特長がある。
【0019】
ガス化溶融炉を構成する熱分解装置1は、中央部に回転可能に支持されたキルンを備えた装置として構成されている。熱分解装置1は焼却場に持ち込まれたごみを投入する投入口2aを有する投入フード2をキルン3の一端側(左側)に備えている。投入口2の下方には、投入されたごみを搬送するスクリューフィーダー4が設置され、このスクリューフィーダーによりごみは、キルン3内に供給される構成となっている。キルン3は図示していない軸受機構で両端部を支持され、同様に図示していない回転駆動機構により低速で回転される。
【0020】
キルン3の外周には燃焼室としてジャケット5が取り囲んで設置され、ジャケット5の上流にはキルン3内で発生した熱分解ガスを燃焼する熱分解ガスバーナー(図示せず)が設置されている。ジャケット5は熱分解装置1の基礎に固定され、装置固定部であるジャケット5の内周をキルン3が回転する構成となっている。キルン3がジャケット5内に供給される加熱ガス6により外周から加熱され、キルン3内をごみが図1において右方に移動する間に、キルン3内のごみは空気を遮断した雰囲気中で加熱されることにより、熱分解ガス6とチャー7に分解されて、キルン3の他端側(右側)に位置する排出フード8の上下の出口からそれぞれの処理系に送られる。この過程で、アルミや鉄等は融点以下で処理されるため、そのままの形態で不燃物9として回収される。
【0021】
ごみを加熱するためのジャケット5内に供給される加熱空気6は、キルン3とジャケット5で構成された経路に、ごみの移動方向に対して順方向または逆方向に循環させることによりキルン3を外周から加熱する。キルン内のごみには、加熱されたキルンから熱が供給され熱分解される。この際ごみへの熱供給を均一かつ効率的に行うためキルンを回転させる。熱分解装置1から得られる熱分解ガス6は熱分解ガスバーナー(図示せず)で燃焼後、ジャケット5内に供給され、キルン3の加熱に用いられる。
【0022】
キルンにて生成する熱分解ガスは、一酸化炭素や水素、炭化水素等の燃焼ガスを含むものであり、一酸化炭素等の有害ガスを含むと共に臭気を帯びているため、大気中に漏洩させることはできない。また熱分解ガスを熱分解ガスバーナーで加熱した加熱ガス6も、同様に有毒ガスを含むものであるため、ジャケット5から大気中に漏洩させることはできない。
【0023】
そのため、熱分解ガスや加熱空気の経路である熱分解装置の装置固定部と、熱分解ガスを発生させる回転式のキルン3との間においては、これらのガスが大気中に漏洩することを防止するためのシール装置が必要になる。これらのシール装置は、回転するキルン3と固定部であるジャケット5との接合部分のシール装置10と、回転するキルン3とごみ投入フード2との接合部分のシール装置10Aが必要である。また、図示していないが、排出フード8とキルン3との間にもシール装置が必要である。これらのシール装置10,10Aは基本的には同一構造でよい。そこで本実施形態に係る熱分解装置1で使用するシール装置の構造の詳細を、回転するキルン3と装置固定部であるジャケット5との接合部分のシール装置10を例として以下説明する。
【0024】
図2において、キルン3の外周には、円周方向に沿って2条の取付リブが突設され、この取付リブに回転側シール部材を構成する回転リング11がボルトナット等により固定されている。回転リング11はキルン3に固定されるつば状部11aと、このつば状部からキルンの回転軸方向に延出する筒状部11bとから構成され、筒状部の外周面は、その延出方向に沿って徐々に半径が縮小する傾斜外周面11cに形成されている。すなわち、基端部の半径R1に対して先端部の半径R2は小さく形成され、それらの途中は傾斜面となっており、この傾斜面の勾配は1/10から1/20程度が好ましい。このように、傾斜外周面11cは円錐台の外周面に相当する面となっている。
【0025】
また、筒状部11bの内周面は、その延出方向に沿って徐々に半径が拡大する傾斜内周面11dに形成されている。すなわち、基端部の半径R4に対して先端部の半径R3が大きく形成され、それらの途中は半径が徐々に直線的に変化する傾斜面に形成されている。この傾斜内周面11dの勾配も、傾斜外周面11cと同様な1/10から1/20程度が好ましい。この結果、筒状部11bの断面形状は延出方向の基端部から先端部に向けて細くなる楔状に形成されている。そして、楔の中心線はキルン3の回転軸と平行になっている。
【0026】
回転リング11は、つば状部11aと筒状部11bとが一体に形成された金属材から形成され、筒状部11bの傾斜外周面11cと傾斜内周面11dは表面が研磨されて円滑面となっていることが好ましい。回転リング11はキルン3の外周面の取付リブにボルトナットで固定する例を示したが、溶接等により直接固着してもよい。回転リング11はステンレス鋼等で形成されるが、硬度の高いクロムモリブデン鋼を用いることが好ましい。また、ステンレス鋼で形成し、表面にクロムモリブデン鋼をコーティングして表面の硬度を高めるようにしてもよい。
【0027】
一方、キルン3の外周側に位置する固定側のジャケット5は、回転するキルン3との間に間隙が形成され、この間隙部分にキルンの回転軸方向に伸縮可能のジャバラ12が固定されている。ジャバラ12は例えばステンレス鋼板等の金属板材をU字状に湾曲させ、次いで逆U字状に湾曲させ、これを複数形成して気密状態に伸縮可能としている。湾曲数を増やすことで伸縮量を増やすことができ、ジャバラのUと、逆Uの湾曲数はキルンやジャケットの形状に合わせて設定される。
【0028】
ジャバラ12の一端部はジャケット5の円周に沿って、気密状態に固定され、ジャバラの他端部には外周側の固定リング15が気密状態に固定されている。そして、固定リング15はキルンの回転軸方向に延びるベース部16からキルン方向に延びる2本のシール部17,18が間隔を有して突設され、2本のシール部の先端が回転リング11の傾斜外周面11cと接触している。したがって、2本のシール部の先端面は、回転リブの傾斜外周面11cと同じ勾配の連続する傾斜面となっている。2本のシール部17,18の間に形成された溝内にはグリース等の潤滑剤19が充填され、保持されている。
【0029】
回転リング11の筒状部11bの傾斜外周面11cには、前記のように外周側の固定リング15が接触しているが、本実施形態ではさらに、筒状部11bの傾斜内周面11dにも内周固定リング20が接触している。この内周固定リング20はベース部21からキルンの外周方向に延びる2本の内周シール部22,23が間隔を有して突設され、2本の内周シール部の外周側先端が回転リング11の傾斜内周面11dに接触している。2本の内周シール部22,23は外周固定リングの2本の外周シール部と対向するように設定されている。したがって、2本のシール部の先端面は、回転リブの傾斜内周面11dと同じ勾配の連続する傾斜面となっている。2本のシール部22,23の間に形成された溝内にはグリース等の潤滑剤24が充填され、保持されている。
【0030】
前記の外周側の固定リング15と内周固定リング20とは、円周上の複数の連結部25…で連結されている。したがって、内周固定リング20は、複数の連結部25…、外周固定リング15を介してジャケット5に固定されている。すなわち、外周側の固定リング15のジャバラ固定面と反対面には、板状の外周支持部26が突設され、同様に内周固定リング20には支持部26に対向して内周支持部27が突設され、両支持部の貫通孔を通して長尺のボルト28が貫通され、ボルトの端部にナット28aが螺合され、ボルトの頭部と外周支持部との間に圧縮スプリング29が装着されている。この構成により、回転リング11の傾斜外周面11cには外周側の固定リング15が弾接し、傾斜内周面11dには内周固定リング20が弾接し、回転リング11の筒状部11bは外周側の固定リング15と内周固定リング20により挟まれ、付勢された構成となっている。
【0031】
キルン3に固定された回転リング11は前記のようにステンレス鋼等が用いられ、回転リング11の筒状部11bに接触する外周側の固定リング15や内周固定リング20はステンレス鋼あるいは炭素鋼等が用いられる。また、固定リング15や内周固定リング20をクロムモリブデン鋼で形成してもよく、クロムモリブデン鋼のコーティングを施してもよい。このように、回転するキルン3と固定側のジャケット5とは金属接触によってシールされ、シール部には潤滑剤19,24が供給され気密状態で円滑にスリップできるように構成されている。
【0032】
金属接触によるシール装置10は、回転側の回転リング11と、固定側の固定リング15および内周固定リング20とにより構成され、3つの部材のうちの少なくとも1つの部材がクロムモリブデン鋼で形成されるか、クロムモリブデン鋼の表面処理(コーティング)がなされると好適である。そして、接触部分の硬度は固定部分である外周側の固定リング15や内周固定リング20の磨耗が早く、回転リング11の磨耗が遅くなるように回転リングの硬度を高くなるように設定すると、外周側の固定リング15と内周固定リング20が早めに磨耗するため、この部材を交換すればよい。また、接触するすべての部材を高硬度の部材で形成してもよい。
【0033】
前記の如く構成された本実施形態の熱分解装置1の動作について以下に説明する。熱分解装置1を起動させ、キルン3を回転させ、ジャケット5内に熱分解ガスバーナーで燃焼させた加熱ガス6を供給し、投入口2aからごみを投入する。ごみはスクリューフィーダー4によりキルン3の内部に搬送され、外周のジャケット5から加熱されて搬送される。ごみは搬送されながら熱分解して熱分解ガス6とチャー7に分解される。チャー7は熱分解装置1の排出フード8の下方から排出され、熱分解ガス6は排出フード8の上方から排出され、ジャケット5に供給されキルン3内の加熱に用いられる。
【0034】
前記の熱分解の工程において、回転しているキルン3は熱膨張し、特に長手方向である回転軸に沿う方向の膨張が大きいため、図2に示されるシール装置10で吸収される。キルン3が回転すると、キルン3と共に回転リング11が同じ回転速度で回転する。回転リング11の筒状部11bは、その傾斜外周面11cに外側側の固定リング15の2つのシール部17,18が弾接してシールし、傾斜内周面11dに内側固定リング20の2つのシール部22,23が弾接してシールするため、ジャケット5内の熱分解ガスが大気中に漏れることはない。このシール部10は2つのシール部の間に充填される潤滑剤19,24により潤滑されるため、磨耗を少なくできると共に、ガスの漏洩をより防止することができる。
【0035】
キルン3が加熱されることにより熱膨張し、特に長手方向の熱膨張が大きくなるが、この膨張はジャバラ12により吸収される。そして、熱膨張がジャバラにより吸収されるため、シール装置の回転リング11と外周側の固定リング15および内周固定リング20との位置関係は変わらず、シール部10,10Aから熱分解ガス等が漏洩することはない。キルン3の外周方向の熱膨張についても、ジャバラ12により吸収されるため、熱分解ガスや加熱空気の漏洩は防止できる。また、ジャバラ12の伸縮によるシール面圧の変化は傾斜外周面11c、傾斜内周面11dに作用するため、シール面圧が大きく変化することはなく、シール面圧を小さい状態に維持することができる。
【0036】
外側シール材である外周側の固定リング15、および内側シール部材である内周固定リング20は、回転リング11の筒状部11bが傾斜面で楔型に形成されており、この傾斜面11c,11dに外周側の固定リング15と内周固定リング20が弾接しているため、シール部分に隙間が発生せず、キルン3内部の熱分解ガスや、ジャケット5内部の熱分解ガス、加熱空気等が外部に漏れることはない。キルン3と固定部である投入フード2および排出フード8とのシール装置10Aについても、同様に内部のガスが大気中に漏れないようにシールがなされる。
【0037】
このように構成された熱分解装置1は、長期間の運転によりシール装置の接触部分に磨耗が発生し、傾斜外周面11cと外周側の固定リング15との接触部と、傾斜内周面11dと内周固定リング20との接触部に隙間が発生すると、外周側の固定リング15と内周固定リング20とは圧縮スプリング29により狭められる方向に付勢されているため、外周側の固定リング15と内周固定リング20とのアセンブリーは回転リング11に対して相対的に、図2において右方向にわずかに移動し、シール部分の磨耗による隙間がなくなり、ジャケット5内の熱分解ガス等の漏洩が防止される。前記の相対移動はジャバラ12により吸収されるため、キルン3の熱伸縮と干渉することはない。
【0038】
また、図2において、ジャバラ12が伸長した場合に、外周側の固定リング15と回転リング11の傾斜外周面11cとの間、および内周固定リング20と傾斜内周面11dとの間に隙間が生じやすいが、外周側の固定リング15と内周固定リング20とは圧縮スプリング29により互いに接近するように付勢されているため、隙間が生ずることなく固定リング15と回転リング11の傾斜外周面11cとは密着し、内周固定リング20と回転リング11の傾斜内周面11dとは密着して、ジャケット5内部やキルン3内部の加熱空気や熱分解ガスが外部に漏れることはない。
【実施例1】
【0039】
熱分解装置の運転時に、キルン3の軸方向の熱伸縮時のジャバラ12の伸縮量は、合計約140(mm)としてある。このようなジャバラ12を用いた熱分解装置1を運転すると、実施例1ではジャバラ伸縮による反力の影響をほとんど受けず圧縮スプリング29の力が主体となり、図3(B)のようにシール面圧は最大約2(N/mm)であった。
【0040】
これに対し、従来技術の場合は、スプリング56の締付力およびキルン3の軸方向の熱伸縮時のジャバラ伸縮による反力の両者の影響を受けるため、図3(A)のようにジャバラ側シール面圧は最大約10(N/mm)となった。実施例1の場合の面圧は、従来技術の場合の約20%になり、したがってシール寿命も約5倍に延長することができる。
【0041】
このように、熱分解装置1の運転時に、ジャバラ12の伸縮による圧力変化がシール装置10,10Aの回転リング11と外周側の固定リング15および内周固定リング20との接触面に直接加わらず、勾配の緩やかな傾斜外周面11c、傾斜内周面11dに加わるため、シール面圧を大幅に低減することができる。この結果、シール部分の磨耗を大幅に低減できるためシール性能が安定し、シール装置の磨耗部品の交換周期を大幅に伸ばすことができ、メンテナンスが容易となる。また、シール部分のシール面圧を低減できるため、運転時の騒音を低減することもできる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、回転リングと外周側の固定リングおよび内周固定リングの材質は金属に限らず、セラミック等を用いることもできる。また、回転リングを金属で形成し、傾斜面をセラミック等でコーティングするようにして磨耗を少なくしてもよい。
【0043】
回転リングと外周側の固定リングおよび内周固定リングを金属で形成するとき、回転リングの硬度を高くすることが好ましい。例えば、回転リングをクロムモリブデン鋼で形成し、固定リングおよび内周固定リングをステンレス鋼で形成することが好ましい。回転リングの表面にクロムモリブデン鋼をコーティングして硬度を高めてもよい。さらに、回転するキルンは、水平方向の軸に沿って回転するものでなく、垂直方向の軸に沿って回転するタイプでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の活用例として、焼却ごみを熱分解する装置に限らず、各種のプラントで原料等の被処理物を熱分解する装置の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る熱分解装置の一実施形態の概略構造を示す断面図。
【図2】図1のシール装置の詳細を示す要部断面図。
【図3】従来技術および本発明の熱分解装置のキルン軸方向ジャバラ伸縮量とシール面圧の関係を示す図。
【図4】従来技術である熱分解装置の構造の例を示す図。
【図5】図4に示す熱分解装置のシール装置の要部断面図。
【図6】従来のロータリーキルンのシール装置の概略断面を示す構成図。
【符号の説明】
【0046】
1:熱分解装置、2:投入フード(装置固定部)、3:キルン、5:ジャケット(装置固定部)、8:排出フード(装置固定部)、10,10A:シール装置、11:回転リング(回転側シール部材)、11b:筒状部、11c:傾斜外周面、11d:傾斜内周面、12:ジャバラ(伸縮部材)、15:外周側の固定リング(固定側シール部材)、17,18:外周シール部、19,24:潤滑剤、20:内周固定リング(固定側シール部材)、22,23:内周シール部、25:連結部、26:外周支持部、27:内周支持部、28:ボルト、28a:ナット、29:圧縮スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が内部に供給され、該被処理物を熱分解する回転可能のキルンを備える熱分解装置であって、
該装置は、前記キルンと装置固定部との間にシール装置を備えており、
該シール装置は、前記キルンに固定された回転側シール部材と、該回転側シール部材と接触するように前記装置固定部に固定された固定側シール部材とから構成され、
前記回転側シール部材は、前記キルンの回転軸方向に延出する筒状部を有すると共に、該筒状部の外周面が傾斜外周面に形成されており、
前記固定側シール部材は、前記装置固定部に、前記キルンの回転軸方向に沿って伸縮可能な伸縮部材を介して固定されると共に、前記傾斜外周面に接触することを特徴とする熱分解装置。
【請求項2】
前記回転側シール部材は、前記筒状部の内周面が傾斜内周面に形成され、
前記熱分解装置は、該傾斜内周面と接触する固定側内周シール部材をさらに備えており、
前記固定側シール部材と固定側内周シール部材は、前記筒状部の傾斜外周面と傾斜内周面を挟むように付勢されることを特徴とする請求項1に記載の熱分解装置。
【請求項3】
前記固定側シール部材および固定側内周シール部材の少なくとも一方は、潤滑材を保持する溝部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の熱分解装置。
【請求項4】
前記回転側シール部材と、前記固定側シール部材および固定側内周シール部材との少なくとも一方は、クロムモリブデン鋼で形成されるか、クロムモリブデン鋼のコーティングがされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329536(P2006−329536A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154359(P2005−154359)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】