説明

熱収縮性フィルム、該フィルムを用いた熱収縮ラベル、成形品、及び容器

【課題】熱収縮性、透明性、および耐衝撃性等の機械的特性に優れ、かつ収縮仕上がり性に優れた熱収縮性フィルム、前記フィルムを用いた成形品又は熱収縮性ラベル、及び前記成形品等を装着した容器を得る。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部と、(メタ)アクリル系樹脂(B)20〜200質量部とを含有させた混合樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸した熱収縮性フィルムである。この熱収縮性フィルムは、80℃温水中に10秒間浸漬させた際の主収縮方向における熱収縮率が20%以上であり、かつ主収縮方向と直交する方向における70℃での貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上に調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱収縮性ラベル等の用途に適した熱収縮性フィルム、この熱収縮性フィルムを用いた熱収縮性ラベルや成形品、この熱収縮性ラベルを装着した、またはこの成形品を用いた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、清涼飲料、またはアルコール飲料等を充填した瓶、ペットボトル等の容器には、充填された飲料の種類を表示したり、容器を装飾したりするために、熱収縮性ラベルが装着されている。この熱収縮性ラベルの用途に適した熱収縮性フィルムとして、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリスチレン系フィルム等が用いられる。
【0003】
上記のプラスチックフィルムは、自然環境中に廃棄されると、その化学的安定性のため分解せず、ゴミとして蓄積され、環境汚染が進行するという問題を引き起こす恐れがあった。また、石油などの化石資源から製造されているため、将来的に化石資源の枯渇を招くという問題を引き起こす恐れもあった。
【0004】
上記の問題を軽減するという観点から、化石資源の節約に貢献する材料としてポリ乳酸系樹脂等の植物由来の生分解性プラスチックが知られている。
【0005】
上記ポリ乳酸系樹脂は、とうもろこしやジャガイモ等のでんぷんから得られる乳酸を原料とする植物由来のプラスチックであり、透明性に優れているため、フィルムなどの用途において特に注目されている。
【0006】
しかし、ポリ乳酸系樹脂は、素材自体が有する脆性のため、これをそのままシート状やフィルム状に成形した場合に充分な強度が得られず、実用に供することが難しい。特に一軸延伸した一軸収縮性フィルムは、延伸しない方向の脆性が延伸によって改善されず、耐衝撃性等の充分な機械的特性を得ることができないものであった。
【0007】
上記のポリ乳酸系樹脂の耐衝撃性等の機械的特性を向上させる種々の方法として、ポリ乳酸系樹脂に樹脂組成物を含有させる方法が提案されている。例えば、特定の重量平均分子量を有するポリ乳酸系樹脂にポリメタクリルアクリレート樹脂を含有させたもの(特許文献1)、ポリ乳酸系樹脂にポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを含有させたもの(特許文献2)、ポリ乳酸系樹脂にポリカプロラクトンを含有させたもの(特許文献3)、ポリ乳酸系樹脂にエチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィンを含有させたもの(特許文献4)、L−乳酸とD−乳酸の共重合比を調整したポリ乳酸系樹脂に脂肪族芳香族ポリエステルを含有させたもの(特許文献5)、ポリ乳酸系樹脂にエチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィンを含有させたもの(特許文献6)などが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−036054号公報
【特許文献2】特開平9−169896号公報
【特許文献3】特開平8−300481号公報
【特許文献4】特開平9−151310号公報
【特許文献5】特開2003−119367号公報
【特許文献6】特開2001−011214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載のポリ乳酸系樹脂は、その耐熱性、透明性の向上させることが主たる目的であり、熱収縮性フィルムとして収縮仕上がり性を向上させることに適応することが難しいという問題があった。
【0010】
上記特許文献2から4に記載のポリ乳酸系樹脂は、その透明性を維持しつつ、脆性を改良することを目的をとしたものであり、熱収縮性フィルムとして収縮仕上がり性の向上として適用することが難しい。
【0011】
上記特許文献5に記載のポリ乳酸系樹脂は、熱収縮性フィルムとして加熱時の結晶化を抑制することができるが、急激な収縮によって、収縮斑、しわ、アバタを生じるという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献6に記載のポリ乳酸系樹脂は、熱収縮性フィルムとしてポリ塩化ビニル系熱収縮性フィルムと比較して、未だ十分な収縮仕上がり性が得られないという問題があった。
【0013】
そこで、この発明は、熱収縮性、透明性、および耐衝撃性等の機械的特性に優れ、かつ収縮仕上がり性に優れた熱収縮性フィルムを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明は、ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部と、(メタ)アクリル系樹脂(B)20〜200質量部とを含有する混合樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸した熱収縮性フィルムであり、80℃温水中に10秒間浸漬させた際の主収縮方向における熱収縮率が20%以上、70%以下であり、かつ粘弾性スペクトロメーターを用いて、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件下で測定した際の主収縮方向と直交する方向における70℃での貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上、1.5MPa以下となるようにしたのである。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、特定量のポリ乳酸系樹脂(A)と(メタ)アクリル系樹脂(B)とを含有した混合樹脂組成物を用いることにより、熱収縮性、透明性、および耐衝撃性等の機械的特性に優れ、かつ収縮仕上がり性に優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。また、上記熱収縮性フィルムを用いた成形品、および熱収縮性ラベルを得ることができる。
【0016】
さらに、上記成形品を用いた、または上記熱収縮性ラベルを装着した容器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の熱収縮性フィルム、成形品、熱収縮性ラベル、および前記成形品または熱収縮性ラベルを装着した容器(以下それぞれ、この発明のフィルム、この発明の成形品、この発明のラベル、およびこの発明の容器ともいう。)について詳細に説明する。
【0018】
なお、この明細書において、「主成分とする」とは、各成分を構成する樹脂等の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨であり、具体的な含有率を制限するものではない。また、この発明のフィルムの構成成分全体のうち、最も大きい割合を占めることを意味する。この発明のフィルムが単層で構成される場合は、その層の構成成分のうちの最大の割合を占めることを意味し、この発明のフィルムが積層で構成される場合は、全層を合計した構成成分のうち、最大の割合を占めることを意味する。また、この明細書においてフィルムの主収縮方向とは、縦方向と横方向のうち延伸方向の大きい方を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向である。
【0019】
[熱収縮性フィルム]
この発明のフィルムは、ポリ乳酸系樹脂(A)と、アクリル系樹脂(B)とをそれぞれ所定の割合で含有させた混合樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸したものである。
【0020】
<ポリ乳酸系樹脂(A)>
上記ポリ乳酸系樹脂(A)とは、乳酸の単独重合体(以下、乳酸単独重合体という。)または乳酸系共重合体をいう。
【0021】
上記乳酸単独重合体としては、構造単位がL−乳酸もしくはD−乳酸の単独重合体(ポリ(L−乳酸)、またはポリ(D−乳酸))、または構造単位がL−乳酸およびD−乳酸の両方を有する共重合体(ポリ(DL−乳酸))や、これらの混合体を主成分とする組成物が挙げられる。前記共重合体の共重合の割合は、特に指定されないが、前記乳酸単独重合体の機械的特性、特に後述するビカット軟化点の範囲を超えない程度の割合で共重合することが望ましい。
【0022】
上記乳酸単独重合体は、縮重合法、開環重合法等の公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持った乳酸単独重合体を得ることができる。
【0023】
また、開環重合法(ラクチド法)を用いた場合、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合をして任意の組成をもつ乳酸単独重合体を得ることもできる。
【0024】
上記ラクチドとしては、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸との2量体であるDL−ラクチドが挙げられる。これらを必要に応じて、混合して重合することにより、任意の組成や結晶性を有する乳酸単独重合体を得ることができる。
【0025】
上記乳酸系共重合体として、L−乳酸やD−乳酸と、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸およびジオールとジカルボン酸との共重合体、あるいはL−乳酸やD−乳酸と、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸またはジオールとジカルボン酸との共重合体を主成分とするものが挙げられる。
【0026】
上記乳酸系共重合体のα−ヒドロキシカルボン酸の構造単位としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0027】
また、上記乳酸系共重合体の単量体として用いられるジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。また、上記ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0028】
上記乳酸系共重合体としての乳酸と、α−ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、又は脂肪族ジカルボン酸との共重合体の共重合比率は、乳酸:α−ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、又は脂肪族ジカルボン酸=90:10〜10:90が好ましく、よりこのましくは80:20〜20:80、さらに好ましくは30:70〜70:30である。共重合比が上記範囲内であれば、剛性、透明性、耐衝撃性などの物性バランスの良好なフィルムを得ることができる。
【0029】
なお、上記乳酸単独重合体および上記乳酸系共重合体は、単独で用いても混合して用いてもよい。
【0030】
上記乳酸単独重合体および上記乳酸系共重合体の構造単位として用いられるL−乳酸とD−乳酸は、その構成割合がL−乳酸:D−乳酸=99:1〜90:10の範囲、または1:99〜10:90の範囲であることが好ましい。L−乳酸またはD−乳酸の比率が99%以下であれば、収縮ムラを抑えることができ、また、前記比率が90%以上であれば、熱収縮性や収縮仕上がり性など収縮特性の良好な熱収縮性フィルムを得やすい。
【0031】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)のビカット軟化点は、下限温度が50℃以上、好ましくは55℃以上、上限温度が95℃以下、好ましくは85℃以下であることが望ましい。このビカット軟化点の下限温度が50℃以上であれば、得られる熱収縮性空孔含有フィルムを常温よりやや高い温度、例えば夏場に放置しても、自然収縮を抑制することができる。一方、その上限温度が95℃以下であれば、フィルムを低温延伸することが可能となり、延伸されたフィルムに良好な収縮特性を与えることができる。
【0032】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)は、その重量平均分子量が50,000以上、好ましくは100,000以上であり、かつ400,000以下、好ましくは250,000以下の範囲であることが望ましい。重量平均分子量の下限値を前記の値にすることで機械的強度が低下するなどの不具合が生じず、またその上限値を前記の値にすることで溶融粘度が高くなりすぎて成形加工性が低下するなどの不具合が生じないので好適である。
【0033】
また、上記ポリ乳酸系樹脂(A)は、耐熱性を向上させる等の目的で少量の他の共重合成分を含有することができる。この他の共重合成分として、例えば、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール等が挙げられる。また、分子量を増加させる目的で、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を含有することもできる。
【0034】
この発明で好ましく使用されるポリ乳酸系樹脂(A)の代表的なものとしては、三井化学(株)製の「レイシア」シリーズ、NatureWorksLLC社製の「Nature Works」シリーズ等が商業的に入手されるものとして挙げられる。
【0035】
<(メタ)アクリル系樹脂(B)>
次に、この発明で用いられる(メタ)アクリル系樹脂(B)について説明する。
【0036】
上記の(メタ)アクリル系樹脂(B)とは、アクリル酸メチル若しくはメタクリル酸メチルの単独重合体、またはアクリル酸メチル若しくはメタクリル酸メチルを50質量%以上と、他のビニル単量体との共重合体(以下、これらをまとめてメタクリル酸メチル系共重合体という。)をいう。
【0037】
上記メタクリル酸メチル系共重合体に用いられる他のビニル単量体としては、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル類が挙げられる。また、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類が挙げられる。さらに、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和酸類、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのビニル単量体の中でも、剛性、成形性の観点から、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸、およびメタクリル酸から選ばれる2種以上からなる共重合体が好適に用いられる。
【0038】
上記メタクリル酸メチル系共重合体には、ポリブタジエン、ブタジエン/アクリル酸ブチル共重合体、もしくはポリアクリル酸ブチル共重合体などのエラストマー成分を樹脂として混合させてもよく、また、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位を組成物として含有させてもよい。
【0039】
この発明で用いられる(メタ)アクリル系樹脂(B)は、その重量平均分子量の下限値が20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは60,000以上であり、上限値が400,000以下、好ましくは350,000以下、さらに好ましくは300,000以下であることが望ましい。重量平均分子量が20,000以上であれば、フィルムの強伸度が不足したり、フィルムが脆化したりすることを抑えることができる。重量平均分子量が400,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、製造、生産性向上の観点から好ましい。
【0040】
この発明で好ましく使用される(メタ)アクリル系樹脂(B)としては、例えば、「スミペックス」(住友化学(株)製)、「アクリペット」(三菱レイヨン(株)製)、「パラペット」((株)クラレ製)、「アルテュグラス」(アトフィナ・ジャパン社製)、「デルペット」(旭化成ケミカルズ(株)製)などが挙げられる。
【0041】
<混合樹脂組成物>
この発明の混合樹脂組成物は、上記ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル系樹脂(B)を10質量部以上、好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上、また、200質量部以下、好ましくは180質量部以下、さらに好ましくは160質量部以下で含有させることが重要である。(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量が10質量部以上であれば、フィルムの収縮特性、収縮仕上がり性、透明性を向上させる効果を得ることができる。一方、この含有量が200質量部以下であれば、フィルムの耐衝撃性を著しく低下させることなく、低温での延伸性および収縮特性を維持することができ、また、実用温度域(70〜90℃程度)の熱収縮率を充分に得ることができる。
【0042】
<ゴム状成分(C)>
上記混合樹脂組成物には、所定量のゴム状成分(C)を含有させることができる。以下にゴム状成分(C)について説明する。
上記ゴム状成分(C)とは、上記ポリ乳酸系樹脂(A)以外の他のゴム成分をいい、上記混合樹脂組成物から得たフィルムの耐衝撃性を向上させるために、そのフィルムの熱収縮性、剛性を損なわない範囲内で前記ゴム状成分(C)を含有させることが好ましい。
【0043】
上記ゴム状成分(C)としては、具体的に上記ポリ乳酸系樹脂(A)以外の乳酸系共重合体、脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と上記乳酸単独重合体との共重合体、コアシェル構造型ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、およびエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらの中でも、コアシェル構造型ゴムが好適に用いられる。
【0044】
上記ゴム成分(C)のポリ乳酸系樹脂(A)以外の乳酸系共重合体としては、α−ヒドロキシカルボン酸単位として、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸や、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。具体的には、商品名「プラメート」(大日本インキ化学工業(株)製)や商品名「GS−PLA」(三菱化学(株)製)などが商業的に入手することができる。
【0045】
上記ゴム成分(C)の脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等のポリ乳酸系樹脂を除く脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0046】
上記脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステルとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオールまたはこれらの無水物や誘導体と、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらの無水物や誘導体との中からそれぞれ1種類以上選んで縮合重合することにより得られたものが挙げられる。この際、必要に応じてイソシアネート化合物等で鎖延長させることにより、所望のポリマーを得ることができる。前記脂肪族ポリエステルとして、例えば、「ビオノーレ」(昭和高分子(株)製)などが商業的に入手することができる。
【0047】
上記環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーとして、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等から1種類以上を選択して重合したものが挙げられる。また、上記合成系脂肪族ポリエステルとしては、無水コハク酸等の環状酸無水物と、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のオキシラン類との共重合体等が挙げられる。具体的に、商品名「セルグリーン」(ダイセル化学工業(株)製)や、商品名「トーンポリマー」(ユニオンカーバイト日本社製)が商業的に入手することができる
【0048】
また、上記芳香族脂肪族ポリエステルや、芳香族ポリエステルとしては、上記脂肪族ジオールもしくはその誘導体、またはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等などの芳香族ジオールもしくはその誘導体と、上記脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体、またはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,4−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体との中からそれぞれ1種類以上選んで縮合重合することにより得られたものが挙げられる。この際、必要に応じてイソシアネート化合物等で鎖延長させることにより、所望のポリマーを得ることができる。具体的には、商品名「イースターバイオ」(イーストマンケミカルズ社製)や、商品名「エコフレックス」(BASF社製)が商業的に入手することができる。
【0049】
上記ゴム状成分(C)として用いられるポリ乳酸系樹脂(A)以外の乳酸系共重合体、脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、および芳香族ポリエステルの重量平均分子量は、下限値が50,000以上、好ましくは100,000以上、かつ上限値が400,000以下、好ましくは250,000以下で範囲であることが望ましい。下限値が50,000以上であれば、機械的強度の劣化などの不具合の発生が起こりにくい。一方、上限値が400,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、製造、生産性向上の観点から好ましい。
【0050】
上記コアシェル構造型ゴムとしては、メタクリル酸−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などのジエン系コアシェル構造型重合体、メタクリル酸−スチレン−アクリロニトリル共重合体などのアクリル系コアシェル構造型重合体、シリコーン−メタクリル酸−メチルメタクリル酸共重合体、シリコーン−メタクリル酸−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのシリコーン系コアシェル構造型共重合体が挙げられる。この中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性が良好であり、フィルムの耐衝撃性、透明性のバランスのとれるシリコーン−メタクリル酸−メチルメタクリル酸共重合体がより好適に使用される。具体的に、「メタブレンC、S、E、W」(三菱レイヨン(株)製)、「カネエース」((株)カネカ製)などが商業的に入手することができる。
【0051】
上記ゴム状成分(C)のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体としては、エチレン以外のコモノマー含有量が20質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、90質量%以下、好ましくは80質量%以下のものが好適に使用される。エチレン以外のコモノマー含有量が20質量%以上であればフィルムの耐破断性の向上の効果が十分に得られ、透明性も維持できる。80質量%以下であればフィルム全体の剛性、耐熱性を良好に維持できる。これらの中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好適に使用される。
【0052】
具体的に、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、「EVAFLEX」(三井デュポンポリケミカル(株)製)、「ノバテックEVA」(三菱化学(株)製)、「エバスレン」(大日本インキ化学工業(株)製)、「エバテート」(住友化学(株)製)、「ソアブレン」(日本合成化学工業(株)製)、エチレン−アクリル酸共重合体としては「ノバテックEAA」(三菱化学(株)製)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては「ノアフロイAC」(三井デュポンポリケミカル(株)製)、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体としては「アクリフト」(住友化学(株)製)などが商業的に入手することができる。
【0053】
上記ゴム状成分(C)の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上、好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、100質量部以下、好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下の範囲が好適である。10質量部以上であれば耐衝撃性を向上させる効果を得ることができ、100質量部以下であれば、フィルムの剛性、透明性を損なわず、熱収縮ラベルとして好適に使用することができる。
【0054】
<添加物>
この発明では、この発明の効果を著しく損なわない範囲で、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂(汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体(SIS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−カルボン酸共重合体など)、ポリアミド系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂などの熱可塑化性樹脂などを少なくとも1種以上を更に含有させることもできる。
【0055】
また、この発明では、この発明の効果を損なわない範囲で、耐衝撃性、透明性、成形加工性および熱収縮性フィルムの諸特性を向上させる目的で、必要に応じて可塑剤を添加してもよい。この可塑剤としては、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ(n−オクチル)アジペート、ジ(n−デシル)アジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(n−ヘキシル)アゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)ドデカンジオネートなどの脂肪酸エステル系、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレートなどのフタル酸エステル系、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテートなどのトリメリット酸エステル系などが挙げられる。
【0056】
上記熱可塑性樹脂や可塑剤の他に、この発明の効果を損なわない範囲で、成形加工性、生産性及び熱収縮性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で必要に応じて添加剤を添加することができる。例えば、フィルムの耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、老化防止剤などである。
【0057】
<熱収縮性フィルム>
この発明のフィルム構成は、単層としてもよく、また、その表面に滑り性、耐熱性、耐溶剤性、易接着性等の新たな機能を付与するために積層構造としてもよい。例えばポリ乳酸系樹脂(A)と(メタ)アクリル系樹脂(B)とゴム成分(C)とからなる(I)層に、樹脂組成または添加剤の異なる(II)層、(III )層を積層した場合には、(I)/(II)の2層構造、(II)/(I)/(II)、(II)/(I)/(III )の3層構造、あるいは(II)/(I)/(III )/(II)の4層構造などが例として挙げられる。また、各層の積層厚みの比率は用途、目的に応じて任意に設定することができる。
【0058】
この発明のフィルムの総厚みは特に限定されるものではないが、透明性、収縮加工性、原料コスト等の観点からは薄い方が好ましい。具体的には延伸後のフィルムの総厚みの上限が80μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。また、熱収縮性フィルムの総厚みの下限は特に限定されないが、フィルムのハンドリング性を考慮すると、20μm以上であることが好ましい。
【0059】
[製造方法]
この発明のフィルムは、公知の方法によって製造することができる。この熱収縮性フィルムの形態は、平面状、チューブ状のいずれであってもよい。平面状のフィルムは、その幅方向に製品として数丁取りすることができ、また、内面に印刷することができるため好ましい。例えば、平面状のフィルムの製造方法は、複数の押出し機を用いて樹脂を溶融し、Tダイから共押出しを行い、チルドロールで冷却固化する。その後、縦方向にロール延伸を、横方向にテンター延伸を行い、アニール処理後冷却して、(印刷が施される場合にはその印刷面にコロナ放電処理をして、)巻取機で巻き取るものである。また、チューブラー法により製造したフィルムを切り開いて平面状のフィルムとしてもよい。
【0060】
延伸倍率は、オーバーラップ用等、二方向に収縮させる用途では、縦方向が2倍以上10倍以下、横方向が2倍以上10倍以下、好ましくは縦方向が3倍以上6倍以下、横方向が3倍以上6倍以下程度である。これらの範囲内の延伸倍率で延伸した二軸延伸フィルムでは、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が大きくなりすぎることはなく、例えば、熱収縮性ラベルとして用いる場合、容器に装着するとき容器の高さ方向にもフィルムが熱収縮する、いわゆる縦引け現象を抑えることができる。一方、熱収縮性ラベル用等、主として一方向に収縮させる用途では、主収縮方向に相当する方向が2倍以上10倍以下、好ましくは4倍以上8倍以下、主収縮方向と直交する方向が1倍以上2倍以下(1倍とは、延伸していない場合をいう。)、好ましくは1.01倍以上1.5倍以下の、実質的には一軸延伸の範疇にある延伸倍率を選定することが望ましい。
【0061】
また、延伸温度は、含有する樹脂等のガラス転移温度や熱収縮性フィルムに要求される特性によって調節する必要があるが、概ね、下限が60℃以上、好ましくは70℃以上であり、上限が100℃以下、好ましくは90℃以下の範囲で制御されればよい。一方、延伸倍率は、含有する樹脂等の特性、延伸手段、延伸温度、目的の製品形態等に応じて調整する必要があるが、主収縮方向には1.5倍以上10倍以下、好ましくは3倍以上7倍以下、さらに好ましくは3倍以上5倍以下の範囲で1軸又は2軸方向に適宜決定される。さらに、横方向に1軸延伸の場合でもフィルムの機械物性改良等の目的で縦方向に1.05倍以上1.8倍以下程度に延伸することも効果的である。
【0062】
また、延伸されたフィルムは、必要に応じて自然収縮率の低減や熱収縮特性の改良等を目的で、50℃以上100℃以下程度の温度で熱処理や弛緩処理後、分子配向が緩和しない時間内に速やかに冷却することで、熱収縮性フィルムとすることができる。さらに、必要に応じてコロナ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工などを施すことができる。
【0063】
この発明のフィルムは、被包装物によってフラット状から円筒状等に加工され包装に供される。例えば、ペットボトル等の円筒状の容器で印刷を要するものの場合、まずロールに巻き取られた幅広のフラットフィルムの一面に必要な画像を印刷し、これを所定幅にカットし、印刷面が内側になるように折り畳んでセンターシール(シール部の形状はいわゆる封筒貼り)して円筒状とする方法がある。このセンターシールの方法としては、有機溶剤、ヒートシール、接着剤、インパルスシーラーによる接着方法等が考えられる。これらの中でも、生産性、見栄えの観点から有機溶剤による接着方法が用いられる。
【0064】
[成形品、熱収縮性ラベル及び容器]
この発明のフィルムは、フィルムの熱収縮性、収縮仕上がり性、透明性等に優れているため、その用途が特に制限されるものではない。必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特にこの発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用または食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であってもその複雑な形状に密着させることが可能であり、シワやアバタ等のない美しいラベルが装着された容器が得ることができる。この発明の成形品および容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。また、前記成形品を他の材料からなる成形品と組み合わせることにより容器として使用することもできる。
【0065】
この発明のフィルムは、優れた低温収縮性、収縮仕上り性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等がこの発明のフィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用することができる。
【0066】
この発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、前述の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は、2種以上の前記樹脂等の混合物でも、積層体であってもよい。
【0067】
<物理的・機械的特性>
[熱収縮率]
この発明のフィルムは、80℃温水中に10秒間浸漬させた際の主収縮方向の熱収縮率の下限値が20%以上、好ましくは30%以上、上限値が70%以下、好ましくは65%以下であることが必要である。一般に、熱収縮性フィルムは、被覆対象物への熱の影響などの点からできるだけ低い温度で十分熱収縮することが必要である。従って、前記条件での熱収縮率が20%以上70%以下のフィルムであれば、収縮加工時間内に被覆対象物に十分密着させ、かつ斑、皺、アバタが発生せず良好な収縮仕上がり外観を得ることができる。
【0068】
この発明のフィルムにおいて、80℃の温水中に10秒浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率を上記範囲に調整するためには、樹脂組成をこの発明で記載するように調整するとともに、延伸温度を後述する範囲に調整することが好ましい。例えば、熱収縮率をより増加させたい場合には、ポリ乳酸系樹脂(A)の光学異性体比率を大きくする、(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を上げる、延伸倍率を高くする、延伸温度を低くする等の手段を用いるとよい。
【0069】
また、この発明のフィルムが熱収縮性ラベルとして用いられる場合、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は、80℃の温水中で10秒間浸漬したときは10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下の熱収縮性フィルムであれば、収縮後の主収縮方向と直交する方向の寸法自体が短くなったり、収縮後の印刷柄や文字の歪み等が生じたりすることを抑制でき、また、角型ボトルの場合でも、縦ひけ等のトラブルの発生を抑えることができる。
【0070】
[貯蔵弾性率]
この発明において、貯蔵弾性率(E’)は、粘弾性スペクトロメーターを用いて、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件下で測定した際の主収縮方向と直交する方向における70℃での貯蔵弾性率(E´)を100MPa以上、1.5GPa以下に調整することが重要である。70℃での貯蔵弾性率(E´)が100MPa以上であれば、収縮温度域での強度が保たれるため、幅広い収縮条件においても収縮仕上がりが良好で、美しい外観を得ることができ、工業生産性も含めた観点から好ましい。なお、上記貯蔵弾性率(E´)の上限値は特に規定されないが、1.5GPa以下であれば低温収縮性が損なわれることがないので好ましく、より好ましくは1.2GPa以下、さらに好ましくは1.0GPa以下である。
【0071】
この発明のフィルムにおいて、70℃での貯蔵弾性率(E’)を大きくするためには、樹脂組成や製造方法をこの発明で記載するように調整することが好ましい。その具体的な調整方法としては、ポリ乳酸系樹脂(A)の光学異性体比率を下げる、(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を上げる、可塑剤の添加量を減らす、延伸温度を上げる、熱処理温度を上げるなどの方法が挙げられる。また、70℃での貯蔵弾性率(E’)を小さくするためには、ポリ乳酸系樹脂(A)の光学異性体比率を上げる、(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を下げる、可塑剤の添加量を増やす、延伸温度を下げる、熱処理温度を下げるなどの方法が挙げられる。
【0072】
[引張弾性率]
この発明のフィルムの主収縮方向と直交する方向の引張弾性率の下限値が1.2GPa以上であることが好ましく、1.4GPa以上であることがより好ましく、1.6GPa以上であることがさらに好ましい。通常使用される熱収縮性フィルムの引張弾性率の上限値は3.0GPa程度であり、好ましくは2.9GPa程度であり、さらに好ましくは2.8GPa程度である。前記引張弾性率が1.2GPa以上あれば、フィルム全体としての腰(常温での剛性)を高くすることができる。これにより、特にフィルムの厚みを薄くした場合においても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの不具合の発生を抑えることができる。前記引張弾性率は、JISK7127に準じて、23℃の条件で測定することができる。
【0073】
この発明のフィルムにおいて、引張弾性率を上記の範囲とするためには、樹脂組成や製造方法をこの発明で記載するように調整することが好ましい。その具体的な調整方法として引張弾性率を高めるためには、例えば、(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を上げる、ゴム状成分(C)の含有量を下げることなどの方法が挙げられる。
【0074】
[透明性]
この発明のフィルムの透明性は、例えば、厚み50μmのフィルムをJIS K7105に準拠して測定した場合、ヘーズ値は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ヘーズ値が10%以下であれば、フィルムの透明性が得られ、ディスプレー効果を奏することができるからである。
【0075】
この発明のフィルムにおいて、ヘーズ値を前記範囲とするためには、樹脂組成や製造方法をこの発明で記載するように調整することが好ましい。その具体的な調整方法としては、ポリ乳酸系樹脂(A)に対する(メタ)アクリル系樹脂(B)およびゴム状成分(C)の含有量を下げる、それぞれの原料の屈折率を近づける、それぞれの原料の相溶性を高めることや混練効率を高めることにより分散粒子径を小さくする、延伸倍率を下げる、延伸温度をやや高めにすることなどの方法が挙げられる。
【0076】
[引張破断伸度]
この発明のフィルムの耐衝撃性は、引張破断伸度により評価され、23℃環境下の引張試験において、特に熱収縮性ラベル用途ではフィルムの引き取り(流れ)方向(MD)で伸び率が100%以上、好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上である。23℃環境下での引張破断伸度が100%以上あれば印刷・製袋などの工程時にフィルムが破断するなどの不具合が生じにくい。また、印刷・製袋などの工程のスピードアップにともなってフィルムに対してかかる張力が増加する際にも、引張破断伸度が150%以上あれば破断しにくくなり好ましい。また、好ましい引張破断伸度の上限値は特に設定されないが、十分な速度でフィルムを製造するためには500%程度あることが望ましい。
【0077】
この発明のフィルムにおいて、23℃環境下の引張試験においての伸び率を前記範囲とするためには、樹脂組成や製造方法をこの発明で記載するように構成することが好ましい。その具体的な調整方法としては、例えばフィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を下げる、ゴム状成分(C)の含有量を上げる、引取り(流れ)方向に1.01倍以上の延伸をおこなうことなどの方法が挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下にこの発明について実施例を用いて説明する。
なお、実験例および比較例中の測定値および評価は、以下の方法により測定し、評価を行った。フィルムの引き取り(流れ)方向を「縦」方向、それと直交する方向を「横」方向と記載する。
【0079】
(1)熱収縮率
フィルムを縦100mm、横100mmの大きさに切り取り、80℃の温水バスに10秒間浸漬し、収縮量を測定した。熱収縮率は、縦方向または横方向のうちより大きいものについて、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
【0080】
(2)動的粘弾性測定
測定対象のフィルムを縦60mm、横4mmの大きさに切り取り、粘弾性スペクトロメーター(アイティー計測(株)製、DVA−200)を用いて振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、昇温速度1℃/分、チャック間2.5cm、測定温度0から150℃の範囲で縦方向について測定を行い、70℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0081】
(3)ヘーズ値
JIS K7105に準拠してフィルム厚み40μmでのフィルムのヘーズ値を測定した。
【0082】
(4)引張り破断伸度
JIS K7127に準拠して、温度23℃、試験速度200mm/分の条件でフィルムの主収縮方向と直交する方向(縦方向)について測定した。
【0083】
(5)引張弾性率
JIS K7127に準じて、温度23℃の条件でフィルムの主収縮方向と直交する方向(縦方向)について測定した。
【0084】
(6)収縮仕上がり性
10mm間隔の格子目を印刷したフィルムを縦(MD)170mm×横(TD)114mmの大きさに切り取り、横(TD)の両端を10mm重ねてテトロヒドロフラン(THF)溶剤で接着し、円筒状フィルムを作製した。この円筒状フィルムを、容量500mLの円筒型ペットボトルに装着し、蒸気加熱方式の長さ3.2m(3ゾーン)の収縮トンネル中を回転させずに、約4秒間で通過させることにより、容器に被覆させた。各ゾーンでのトンネル内雰囲気温度は、蒸気量を蒸気バルブで調整し、60〜90℃の範囲とした。そのときの雰囲気温度を下記に示す。
被覆条件1・・・65℃/80℃/80℃
被覆条件2・・・90℃/90℃/60℃
被覆条件3・・・75℃/85℃/85℃
フィルム被覆後は下記基準で評価した。
◎:収縮が十分でシワ、アバタ、白化、格子目の歪みが全く生じない。
○:収縮が十分だが、シワ、アバタ、白化、格子目の歪みがごく僅かに生じるが、実用上問題にならない。
△:収縮が十分だが、シワ、アバタ、白化、格子目の歪みがごく僅かに生じ、用途によっては問題となる。
×:収縮が不充分、またはシワ、アバタ、格子目の歪みが顕著に生じる。
【0085】
また、各実施例、比較例に用いた原材料は、下記の通りである。
(ポリ乳酸系樹脂(A)成分)
・ポリ乳酸系樹脂…Nature WorksLLC社製 商品名『NatureWork NW4050』、L体/D体量=95/5、以下「PLA1」と略称する。
・ポリ乳酸系樹脂…Nature WorksLLC社製 商品名『NatureWork NW4032』、L体/D体量=99.5/0.5、以下「PLA2」と略称する。
・ポリ乳酸系樹脂…NatureWorksLLC社製 商品名『NatureWork NW4060』、L体/D体量=88/12、以下「PLA3」と略称する。
【0086】
((メタ)アクリル系樹脂(B)成分)
・ポリメタクリル酸メチル樹脂…三菱レイヨン(株)製 商品名『アクリペット VH01』、以下「PMMA」と略称する。
【0087】
(ゴム(C)成分)
・コアシェル構造型アクリル−シリコーン共重合体…三菱レイヨン(株)製 商品名『メタブレン S2001』、以下「ゴム1」と略称する。
・脂肪族ポリエステル系樹脂…ダイセル化学工業(株)製 商品名『セルグリーンPH7』、以下「ゴム2」と略称する。
・脂肪族ポリエステル系樹脂…昭和高分子(株)製 商品名『ビオノーレ1010』、以下「ゴム3」と略称する。
・脂肪族ポリエステル系樹脂…昭和高分子(株)製 商品名『ビオノーレ3003』、以下「ゴム4」と略称する。
【0088】
(添加剤)
・ポリエステル系可塑剤…大日本インキ化学工業(株)製 商品名『DOZ』、以下「可塑剤」と略称する。
・疎水性シリカ粒子…富士シリシア化学(株)製 商品名『サイロホービック100』、以下「シリカ粒子」と略称する。
【0089】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
表1に示す(I)層用樹脂として(A)成分、(B)成分および(C)成分の混合樹脂を2軸押出機(三菱重工業(株)製)に投入し、設定温度200℃で溶融混合し、Tダイ口金により押出した後、50℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて幅300mm、250μmの未延伸シートを得た。次に、フィルムテンター(三菱重工業(株)製)により、予熱温度90℃、延伸温度75℃で横一軸方向に5.0倍に延伸して、厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0090】
また、表1に示す(II)層用樹脂は、ポリ乳酸系樹脂とシリカ粒子とを含有させたものであり、上記(I)層の混合樹脂層の両面に、(II)層用樹脂層を形成するように2種3層のフィードロックを用いた共押出法によりそれぞれ所定の厚み比となる未延伸積層シートを製造する。この未延伸積層シートを上記の方法と同様の方法により、厚さ50μmの熱収縮性フィルムとした。
【0091】
【表1】

【0092】
表1よりこの発明で規定される組成、熱収縮率および貯蔵弾性率(E’)を有するフィルムは、透明性、引張破断伸度、透明性及び収縮仕上がりが優れていた。これに対し、(メタ)アクリル酸系樹脂が少ない場合(比較例1)には貯蔵弾性率(E’)と収縮仕上がり性に劣り、反対に(メタ)アクリル酸系樹脂が多い場合(比較例2)にはフィルムが破断してしまい、機械的特性や収縮仕上がり性を測定することは不可能であった。さらに、(メタ)アクリル酸系樹脂を含まない場合(比較例3)には、収縮率が低く、収縮仕上がり性がかなり劣っていた。
これにより、この発明のフィルムは、熱収縮性、透明性、および耐衝撃性等の機械的特性に優れ、かつ収縮仕上がり性に優れたものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部と、(メタ)アクリル系樹脂(B)20質量部以上、200質量部以下とを含有する混合樹脂組成物を少なくとも一軸方向に延伸した熱収縮性フィルムであり、
80℃温水中に10秒間浸漬させた際の主収縮方向における熱収縮率が20%以上、70%以下であり、
かつ粘弾性スペクトロメーターを用いて、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件下で測定した際の主収縮方向と直交する方向における70℃での貯蔵弾性率(E’)が100MPa以上、1.5GPa以下である熱収縮性フィルム。
【請求項2】
上記混合樹脂組成物は、ゴム状成分(C)10質量部以上、100質量部以下を含有する請求項1に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
JIS K7127にもとづき、23℃、引張速度200mm/分にて測定した際の主収縮方向に直交する方向の引張破断伸度が、100%以上である請求項1または2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)が、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、またはこの共重合体の混合樹脂組成物からなる請求項1から3のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。
【請求項5】
上記(メタ)アクリル系樹脂(B)が、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、および(メタ)アクリル酸から選ばれる2種以上の単量体からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル単独重合体である請求項1から4のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
上記ゴム状成分(C)が、上記ポリ乳酸系樹脂(A)以外の乳酸系共重合体、脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と乳酸単独重合体との共重合体、コアシェル構造型ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、およびエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体から選ばれる少なくとも1種以上からなる請求項1から5のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを用いた成形品。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
【請求項9】
請求項7に記載の成形品を用いた、または請求項8に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2007−161826(P2007−161826A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358106(P2005−358106)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】