説明

熱収縮性空孔含有フィルム、並びに該フィルムを基材とした成形品、熱収縮性ラベル及び容器

【課題】嵩比重が小さく、印刷適性、高剛性、耐破断性、収縮特性に優れた熱収縮性空孔含有フィルム、及び該フィルムを用いた成形品及び熱収縮性ラベルが装着された容器の提供。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂組成物と、該ポリ乳酸系樹脂組成物に非相溶なポリオレフィン系樹脂組成物とからなる(I)層と、ポリ乳酸系樹脂組成物を主成分としてなる(II)層の少なくとも2層で構成される未延伸積層フィルムを、少なくとも一軸方向以上に延伸し、(I)層において、A成分からなるマトリックス中に分散しているB成分からなる分散ドメインの主収縮方向に直交する方向の主収縮方向に対するアスペクト比を5〜50、80℃の温水中で10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率を20%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性空孔含有フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル及びこれらを装着した容器に関する。より詳しくは、本発明は嵩比重が小さく、印刷適性、高剛性、耐破断性、及び収縮特性に優れた熱収縮性空孔含有フィルム、並びに該フィルムを用いた成形品、熱収縮性ラベル及びこれらを装着した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器などの包装用途・結束用途としては熱収縮性フィルムが用いられてきた。熱収縮性フィルムの原料としては、主としてポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステルなどが用いられている。これらはいずれも原料として石油資源を使用しているため、将来に亘り継続的に使用していくと石油資源の枯渇という問題を引き起こす可能性がある。また、これらの原料は使用後の燃焼時に有害なガスを発生する、燃焼カロリーが高すぎて燃焼炉を痛め、炉の寿命を縮める等といった問題もある。
【0003】
これらの問題を解決する材料として、植物由来で工業的に生産が可能なポリ乳酸が最近注目を集めている。すなわち、ポリ乳酸はとうもろこしなどのバイオマスを原料とするため、持続可能型社会を目指す上で好適であり、さらに燃焼時に有害ガスを発生せず、燃焼カロリーが低いため燃焼炉を傷めることもない。
【0004】
しかし、熱収縮性ラベルの材料としてポリ乳酸を使用した場合、剛性が高く、低温収縮性に優れ、かつ自然収縮が小さいという特長を有する反面、耐破断性に問題があり、ポリ乳酸単独では高品質な熱収縮性ラベルを作製することは困難であった。
【0005】
ポリ乳酸の耐破断性を改良するため、ポリ乳酸に相溶する軟質成分を添加した熱収縮性フィルムも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このフィルムは、軟質成分を添加することにより耐破断性の問題をある程度改善できるが、その反面、剛性が低下し、自然収縮が大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
一方、現在、消費量が増大しているPETボトルに熱収縮性ラベルを使用する場合、使用後のPETボトルをリサイクルする観点から、熱収縮性ラベルをPETボトルから容易に分離できることが望ましい。PETボトルから熱収縮性ラベルを分離する方法として、熱収縮性ラベルとともに粉砕されたPETボトルのフレークを水中に投入し、比重の大きいPETフレークのみを水中に沈めて回収する液比重分離法が用いられている。しかし、特許文献1に記載された熱収縮性ラベルの嵩比重は1より大きいため、PETボトルフレークと共にラベルも水中に沈んでしまい、分離が困難であった。
【0007】
他方、熱可塑性樹脂の嵩比重を低下させる目的で、非相溶成分を添加した後、一方向以上に延伸し、空隙を形成させるという手法が知られている。ポリ乳酸系樹脂を使用したフィルムにおいても非相溶な樹脂を添加した後に延伸することにより嵩比重を低下させたフィルムが報告されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、このフィルムは二軸方向に延伸した後、熱処理を施しているため、熱収縮性ラベルとして使用することはできない。
【0008】
また、ポリ乳酸以外のポリエステル系樹脂に非相溶な樹脂を添加した後、延伸し、空孔を形成した熱収縮フィルムも提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし、この熱収縮性フィルムで使用されるポリエステル系樹脂は、ポリ乳酸に比べて延伸時における空孔形成が困難であるという欠点があった。
【特許文献1】特開2003−119367号公報
【特許文献2】特開2002−146071号公報
【特許文献3】特開2003−321562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、植物由来であるポリ乳酸系樹脂を用いて、嵩比重が小さく、PETボトル用ラベルとして使用された場合に、容易に液比重分離でき、高剛性、耐破断性、及び収縮特性に優れ、かつ自然収縮が小さい熱収縮性フィルムを提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの課題は、収縮包装、収縮結束包装や収縮ラベル等の用途に適した前記フィルムを用いた熱収縮性ラベル、成形品及び容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂に着目して鋭意検討した結果、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂を所定の割合で混合した層を有するフィルムであれば上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の課題は、以下の熱収縮性空孔含有フィルムにより達成される。
下記A成分とB成分とを主成分として含み、B成分の含有量がA成分100質量部に対して10質量部以上90質量部以下である混合樹脂組成物で構成される(I)層と、下記A成分を主成分とする樹脂組成物で構成される(II)層との少なくとも2層を有し、前記(I)層において、A成分からなるマトリックス中に分散しているB成分からなる分散ドメインの主収縮方向と直交する方向の主収縮方向に対するアスペクト比が5以上50以下であり、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であることを特徴とする熱収縮性空孔含有フィルム。
A成分:D−乳酸及びL−乳酸の共重合体からなるポリ乳酸系樹脂組成物
B成分:A成分に非相溶で、振動周波数10Hzで測定したときの80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa以上2.0GPa以下であるポリオレフィン系樹脂組成物
【0013】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルム(以下「本発明のフィルム」という。)では、メルトフローレートが1.0g/10分以上5.0g/10分以下であるポリオレフィン系樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0014】
本発明のフィルムは、嵩比重が0.50以上1.00未満であることが好ましい。
【0015】
本発明のフィルムは、25%以下の範囲で熱収縮させた後の嵩比重が1.00未満であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のフィルムは、成形品や熱収縮性ラベルの基材として用いることができる。
【0017】
また、本発明の成形品又は熱収縮性ラベルは、容器に装着して用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフィルムは、所定のA成分とB成分とを所定の割合で混合する層を有し、さらにこの層では、A成分中におけるB成分のアスペクト比が調整されているため、得られる熱収縮性空孔含有フィルムに対し、優れた剛性、耐破断性、及び熱収縮特性を付与できるとともに、自然収縮率を小さくできる。また、本発明のフィルムは、乳酸系樹脂組成物を主成分とするため、バイオマスの使用を促し、循環型社会を構築する上で有用である。
【0019】
また、本発明のフィルムは、嵩比重0.50以上1.00未満であるので、PET等の比重が1.0以上である容器用のプラスチックとの液比重法による分別が可能となり、リサイクル性に優れる。
【0020】
さらに、本発明のフィルムは、空孔を含有する(I)層と、表面が平滑である(II)層とを積層したものであるため、印刷性・製袋シール性・意匠性にも優れている。さらに、本発明のフィルムは空孔を含有するため、断熱性や遮光性、クッション性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のフィルム、熱収縮性ラベル、成形品及び該ラベル又は成形品を装着した容器について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「主成分として含有する」とは、各層を構成する樹脂の作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。さらに、この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、各層の構成成分全体の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上を占める成分である。
【0022】
[熱収縮性空孔含有フィルム]
本発明のフィルムは、下記のA成分とB成分とを混合した樹脂組成物で構成される(I)層と、下記のA成分を主成分とする樹脂組成物で構成される(II)層との少なくとも2層からなる未延伸積層フィルムを、少なくとも1軸方向に延伸することにより得られた熱収縮性空孔含有フィルムである。
【0023】
<(I)層>
(A成分)
A成分として用いられるポリ乳酸系樹脂組成物としては、乳酸の単独重合体(具体的には構造単位がL−乳酸若しくはD−乳酸の単独重合体(すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)))、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方を有する共重合体(すなわちポリ(DL−乳酸))や、これらの混合体(以下、これらをまとめて「乳酸系樹脂」という。)を主成分とする樹脂組成物が挙げられる。さらに、ポリ乳酸系樹脂組成物には、L−乳酸やD−乳酸と、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸及び/又はジオール成分とジカルボン酸成分との共重合体を主成分とする乳酸系共重合体(以下「乳酸系共重合体」という。)も含まれる。共重合成分における共重合比は特に指定されないが、乳酸系樹脂の機械的特性、特に後述するビカット軟化点の範囲を超えない程度の割合で共重合することが望ましい。上記乳酸系樹脂及び乳酸系共重合体は、単独で用いても混合して用いても構わない。
【0024】
上記乳酸系樹脂は、縮重合法、開環重合法等の公知の重合方法を用いて製造できる。例えば、縮重合法を用いた場合、L−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0025】
また、開環重合法(ラクチド法)を用いた場合、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合をして任意の組成をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0026】
上記ラクチドとしては、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、及びD−乳酸とL−乳酸との2量体であるDL−ラクチドが挙げられる。これらを必要に応じて、混合し、重合することにより、任意の組成や結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0027】
上記乳酸系共重合体を構成するα−ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0028】
また、上記乳酸系共重合体の単量体として用いられるジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。また、ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0029】
上記乳酸系樹脂又は乳酸系共重合体を構成するD−乳酸とL−乳酸との構成割合(共重合比)は、D−乳酸/L−乳酸=1/99、好ましくは3/97、より好ましくは5/95、さらに好ましくは8/92、最も好ましくは10/90であり、かつ15/85、好ましくは13/87、より好ましくは12/88、さらに好ましくは10/90の範囲であるか、あるいは99/1、好ましくは97/3、より好ましくは95/5、さらに好ましくは92/8、最も好ましくは90/10であり、かつ85/15、好ましくは87/13、より好ましくは88/12、さらに好ましくは90/10の範囲に調整することが好ましい。L−乳酸又はD−乳酸の含有率を99質量%以下とすることにより、結晶化度を適度な範囲に抑えられると共に、結晶化に伴う収縮ムラを少なくすることができるため好ましい。また、前記含有率を85質量%以上とすることにより、十分な空孔を形成でき、所望の嵩比重を有するフィルムが得られる。
【0030】
上記ポリ乳酸系樹脂組成物のビカット軟化点は、50℃以上、好ましくは55℃以上であり、95℃以下、好ましくは85℃以下であることが望ましい。ポリ乳酸系樹脂組成物のビカット軟化点が50℃以上であれば、得られる熱収縮性空孔含有フィルムを常温よりやや高い温度(例えば夏場の室内温度)で放置しても自然収縮を抑制できる。またポリ乳酸系樹脂組成物のビカット軟化点が95℃以下であれば、フィルムの延伸時に低温延伸を実現でき、得られるフィルムに良好な収縮特性を与えることができる。
【0031】
上記ポリ乳酸系樹脂組成物の重量平均分子量は、50,000以上、好ましくは100,000以上であり、かつ400,000以下、好ましくは250,000以下の範囲であることが望ましい。重量平均分子量の下限を50,000にすることにより機械的強度が劣るなどの不具合が生じることがなく好適であり、また重量平均分子量の上限を400,000にすることにより、溶融粘度が高くなりすぎて成形加工性を低下させるなどの不具合が生じることがなく好適である。
【0032】
上記ポリ乳酸系樹脂組成物の商業的に販売されている代表的なものとしては、例えば、三井化学(株)製の「レイシア」シリーズ、Nature WorksLLC社製の「Nature Works」シリーズ等が挙げられる。
【0033】
また、上記ポリ乳酸系樹脂組成物は、耐熱性を向上させる等の目的で、少量の他の共重合成分を含有することもできる。そのような共重合成分としては、例えば、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール等が挙げられる。さらにA成分は、分子量を増加させる目的で、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を含有することもできる。
【0034】
さらに、上記ポリ乳酸系樹脂組成物は、耐衝撃性や耐寒性を向上させる目的で、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の乳酸系共重合体、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、又は脂肪族−芳香族ポリエステルを、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して70質量部以下の範囲で含有してもよい。
【0035】
上記Tg0℃以下の乳酸系共重合体を具体的に例示すれば、α−ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。また、ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0036】
商業的に入手可能な上記Tg0℃以下の乳酸系共重合体の例としては、例えば商品名「プラメート」(大日本インキ化学工業社製)や商品名「GS−PLA」(三菱化学社製)などが挙げられる。
【0037】
上記脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等のPLA系樹脂を除く脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0038】
上記脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステルの具体例を挙げると、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール又はこれらの無水物や誘導体と、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はこれらの無水物や誘導体の中からそれぞれ1種類以上選んで縮合重合することにより得られたものが挙げられる。この際、必要に応じてイソシアネート化合物等でジャンプアップすることにより、所望のポリマーを得ることができる。
【0039】
商業的に入手可能な上記脂肪族ポリエステルの具体例としては、例えば「ビオノーレ」(昭和高分子社製)などを例示できる。
【0040】
上記脂肪族−芳香族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂の具体例を挙げると、上述した脂肪族ジオール又はその誘導体、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体と、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等などの芳香族ジオール又はその誘導体、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,4−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からそれぞれ選んで縮合重合することにより得られたものが挙げられる。この際、必要に応じてイソシアネート化合物等でジャンプアップすることにより、所望のポリマーを得ることができる。
【0041】
商業的に入手可能な上記脂肪族−芳香族ポリエステル樹脂又は芳香族ポリエステル樹脂の例としては、商品名「イースターバイオ」(イーストマンケミカルズ社製)や、商品名「エコフレックス」(BASF社製)等が挙げられる。
【0042】
また、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーとして、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等から1種類以上を選択して重合したものが挙げられる。さらに、合成系脂肪族ポリエステルとしては、無水コハク酸等の環状酸無水物と、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のオキシラン類との共重合体等が挙げられる。
【0043】
商業的に入手可能な例としては、商品名「セルグリーン」(ダイセル化学社製)や、商品名「トーンポリマー」(ユニオンカーバイト日本社製)が挙げられる。
【0044】
上記Tg0℃以下の乳酸系共重合体、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族−芳香族ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、いずれも50,000以上、好ましくは100,000以上であり、かつ400,000以下、好ましくは250,000以下の範囲であることが望ましい。これらの樹脂の重量平均分子量の下限を50,000にすることにより、機械的強度が劣るなどの不具合が生じることがなく好適であり、また上限を400,000にすることにより、溶融粘度が高くなりすぎて成形加工性を低下させるなどの不具合が生じることがなく好適である。
【0045】
(B成分)
本発明において、B成分は、上記A成分に非相溶であり、かつ振動周波数10Hz、歪み0.1%、チャック間2.5cm、昇温速度1℃/分で昇温して測定したときの80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa以上2.0GPa以下であるポリオレフィン系樹脂組成物である。
【0046】
本明細書において、「非相溶」とは、上記A成分とB成分との混合樹脂組成物を電子顕微鏡等の光学装置を用いて観察したときに、A成分中においてB成分が長径又は短径の平均径0.1μm以上のドメインを形成している状態をいう。このようなポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、高結晶性ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリメチルテルペン、又はこれらの混合樹脂等が挙げられる。
【0047】
B成分の市販品としては、より具体的には、ポリエチレン系樹脂として商品名「ノバテックHD、LD、LL」「カーネル」「タフマーA,P」(日本ポリエチレン(株))、「サンテックHD,LD」(旭化成ライフ&リビング(株)製 )、「HIZEX」「ULTZEX」「EVOLUE」(三井化学(株)製)、「モアテック」(出光興産(株)製)、「UBEポリエチレン」「UMERIT」(宇部興産(株)製)、「NUCポリエチレン」「ナックフレックス」(日本ユニカー(株)製)、「Engage」(ダウケミカル社製)などが挙げられる。またポリプロピレン系樹脂の市販品としては、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「タフマーXR」(日本ポリプロ社製)、「三井ポリプロ」(三井化学(株)製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」「エクセレンEPX」(住友化学(株)製)、「IDEMITSU PP」「IDEMITSU TPO」(出光興産(株)製)、「Adflex」「Adsyl」(サンアロマー(株)製)などが挙げられる。また、ポリメチルペンテン系樹脂の市販品としては、「TPX」(三井化学(株)製)が挙げられる。これらは、各々単独に、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
B成分として用いられるポリオレフィン系樹脂は、A成分として用いられるポリ乳酸系樹脂組成物より比重が小さいため、A成分とB成分との混合樹脂組成物を含むフィルムは、A成分単独からなるフィルムの場合と比較して、比重をより小さくできる。
【0049】
上記B成分は、振動周波数10Hz、歪み0.1%、チャック間2.5cm、昇温速度1℃/分で40℃から150℃まで昇温して測定したときの80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa以上、好ましくは0.40GPa以上であり、かつ2.00GPa以下の範囲である。貯蔵弾性率が0.25GPa以上であれば、後述する延伸工程においてフィルムに空孔を付与でき、また、貯蔵弾性率が2.00GPa以下であれば、所望の結晶性が得られ、かつ比重も比較的小さくできるため、目的とする嵩比重のフィルムを得やすい。
【0050】
上記B成分はA成分に非相溶であるため、両成分が混合される(I)層では海島構造が形成される。後述するように、本発明のフィルムの(I)層ではB成分よりもA成分が多く存在するため、A成分が海部分、すなわちマトリックスを形成し、B成分が島部分、すなわち分散ドメインを形成する。詳細については後述する。
【0051】
(I)層は、上記のA成分100質量部に対してB成分10質量部以上90質量部以下を混合した混合樹脂組成物からなる。B成分の含有量は、好ましくはA成分100質量部に対して20質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上であり、かつ90質量部以下であり、さらに好ましくは80質量部以下である。
【0052】
(I)層において、A成分とB成分とを混合した混合樹脂組成物は、上記のとおりA成分がB成分より多く含まれるため、A成分がマトリックスを形成し、B成分が分散ドメインを形成する。そのため、(I)層は海島構造を形成し、延伸することにより、マトリックスと分散ドメインとの界面で剥離を生じ、空孔を形成させることができる。B成分の含有量が10質量部以上であれば、(I)層中に空孔を形成でき、かつ延伸した後のフィルムの嵩比重を1.0未満に抑えることができる。一方、B成分の含有量が90質量部以下であれば、(I)層において海島構造を形成でき、良好な機械的特性及び耐破断性を有するフィルムを得ることができる。
【0053】
(充填剤)
本発明のフィルムは、A成分とB成分を含有することにより空孔を形成することができ、それによって光線透過率を抑えること(すなわち遮光性を付与すること)は可能であるが、さらに充填剤(以下「C成分」ともいう。)を含有させることにより、光線透過率をさらに抑えることができる。
【0054】
C成分は、フィルムに遮光性を付与できるものであれば無機充填剤及び有機充填剤のいずれであってもよい。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、アスベスト粉、シラスバルーン、ゼオライト、珪酸白土などが挙げられ、特に炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、珪藻土、硫酸バリウムなどが好適である。有機充填剤としては、木粉、パルプ粉などのセルロース系粉末が挙げられる。これらは単独でも、2種以上の混合物であってもよい。
【0055】
C成分は、フィルムを構成するベース樹脂としてのA成分との屈折率差が大きいもの、すなわち無機系充填剤であって屈折率が大きいものを用いることが好ましい。具体的には、屈折率が1.6以上である炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン又は酸化亜鉛を用いることが好ましく、これらの中でも酸化チタンを用いることがより好ましい。酸化チタンを用いることにより、内容物を劣化させる280〜380nmの紫外線領域の波長を良好に吸収するため、より少ない充填量でフィルムの遮光性を付与することができ、また薄肉でもその効果を得ることができる。
【0056】
上記酸化チタンとしては、例えば、アナタース型酸化チタン及びルチル型酸化チタンのような結晶形の酸化チタンが挙げられる。ベース樹脂との屈折率差を大きくするという観点からは、屈折率が2.7以上の酸化チタンであることが好ましく、例えば、ルチル型酸化チタンの結晶形のものを用いることが好ましい。
【0057】
酸化チタンの中でも、高純度酸化チタンを用いることで外観の黄色味などを最小限に抑えることも可能となる。高純度酸化チタンとは、可視光に対する光吸収能が小さい酸化チタンであり、例えばバナジウム、鉄、ニオブ、銅、マンガン等の着色元素の含有量が少ないものをいい、本発明では、バナジウムの含有量が5ppm以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下の酸化チタンを高純度酸化チタンと称する。高純度酸化チタンは、光吸収能を小さくするという観点からは、酸化チタンに含まれる、その他の着色元素である鉄、ニオブ、銅、マンガン等も少なくすることが好ましい。
【0058】
本発明の(I)層では、酸化チタンと他の充填剤とを併用することもできる。また、C成分以外の樹脂(すなわち、A成分とB成分)への分散性を向上させるために、C成分の表面に、シリコーン系化合物、多価アルコール系化合物、アミン系化合物、脂肪酸、脂肪酸エステル等で表面処理を施したものを使用してもよい。
【0059】
上記表面処理剤としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア等からなる群から選ばれた少なくとも1種の無機化合物、シロキサン化合物、シランカップリング剤、ポリオール及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれた少なくとも1種の有機化合物等を用いることができる。また、これらの無機化合物と有機化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0060】
C成分の大きさは、酸化チタンを用いる場合、粒径が円相当径で0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上であり、1μm以下、好ましくは0.5μm以下であることが望ましい。酸化チタンの粒径が円相当径で0.1μm以上あれば、A成分とB成の混合樹脂組成物への分散性が良好であり、均質なフィルムを得ることができる。また、酸化チタンの粒径が円相当径で1μm以下であれば、A成分とB成分の混合樹脂組成物と酸化チタンとの界面が緻密に形成されるので、より遮光性を向上させることができる。
【0061】
本発明のフィルムの(I)層に含まれるC成分の含有量は、フィルムの遮光性、機械的物性、生産性等を考慮すると、上記A成分とB成分との混合樹脂組成物中100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、25質量部以下、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下であることが必要である。本発明のフィルムは空孔を有するため、C成分は遮光機能の補助的な役目を担うことより、その含有量が1質量部以上であれば、十分に遮光フィルムとして機能することが可能となる。また、C成分の含有量が25質量部以下にすることによって、熱収縮フィルムとして必要な機能、耐破断性、収縮特性を確保することができる。
【0062】
(軟質成分)
本発明フィルムは、さらに耐破断性を向上させる目的で、軟質成分(以下「D成分」という。)を添加することが好ましい。このようなD成分としては、上記A成分以外の脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と乳酸系樹脂との共重合体、コアシェル構造型ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EAA、EMA)、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体(EAMA、EMMA)、スチレン−イソブチレン共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体(SEBS)、酸変性SEBS等のスチレン系エラストマー等が好適に用いられ、その中でも、上記A成分以外の脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、ジオールとジカルボン酸と乳酸系樹脂との共重合体、コアシェル構造型ゴム、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等がさらに好適に用いられる。
【0063】
D成分の含有量は、上記A成分とB成分との混合樹脂組成物100質量部に対して、5質量部以上、好ましくは10質量部以上であり、かつ70質量部以下、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下であることが望ましい。D成分の含有量が5質量部以上であれば、D成分の添加効果が得られ、また30質量部以下であれば収縮特性、剛性に影響を与えることはない。
【0064】
(I)層では、上記A成分、B成分(必要に応じてC成分及びD成分)を混合した混合樹脂組成物以外に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、可塑剤、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、着色剤、滑剤、核剤、加水分解防止剤等の添加剤を含むことができる。その場合、添加剤は、混合樹脂組成物の質量に対して10質量部以下、好ましくは5質量部以下で含ませることができる。
【0065】
<(II)層>
本発明のフィルムは、空孔を含有する上記(I)層のほかに、空孔を含有しない(II)層を有する。(I)層に(II)層を配設することにより、印刷性、溶剤シール性などを向上できる。また、(I)層及び(II)層において、使用するポリ乳酸系樹脂組成物の共重合体比率を変更することにより、空隙形成・収縮特性を好ましい範囲に調整できる。
【0066】
(II)層は、上記A成分であるポリ乳酸系樹脂組成物を主成分として構成される層である。さらに、(II)層には、印刷性、溶剤シール性、耐融着性など表面層としての要求される諸特性を損なわない範囲で、層間接着性の向上、嵩比重の低減などを目的としてポリ乳酸系樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を含むことができる。ポリ乳酸系樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を例示すると、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、脂肪族及び/又は芳香族ポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0067】
また、(II)層における樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、着色剤、滑剤、核剤、加水分解防止剤等の添加剤を添加してもよい。
【0068】
<フィルムの層構成>
本発明のフィルムは、少なくとも上記(I)層と(II)層との少なくとも2層を有すれば、層構成は特に限定されるものではない。ここで、「(I)層と(II)層との少なくとも2層を有する」とは、(I)層に隣接して(II)層が片面又は両面に積層されている態様のみならず、(I)層と(II)層との間に接着性の改良やバリア性、隠蔽性、断熱性等を付与する目的のため、第3の層を有する場合も含まれる。好ましくは中間層として(I)層、表面層として(II)層を有する2種3層の層構成((II)層/(I)層/(II)層)、又は中間層と表面層との間に接着層を有する3種5層の層構成((II)層/接着層/(I)層/接着層/(II)層)などの層構成が挙げられる。
【0069】
(I)層及び(II)層の厚み比は、上述した作用効果を考慮して設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、中間層として(I)層、表面層として(II)層の層構成を有するフィルムの場合、フィルム全体の厚みに対する(II)層の厚み比は5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上であり、かつ70%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下、最も好ましくは40%以下の範囲にすることができる。またフィルム全体の厚みに対する(I)層の厚み比は、20%以上、好ましくは25%以上、さらに好ましくは30% 以上であり、かつ95%以下、好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下である。
【0070】
(I)層と(II)層との層間接着性を向上させる目的で、両層の間に接着樹脂を主成分としてなる接着樹脂層を設ける場合、接着樹脂としては、下記(a)、(b)、及び(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合体又は樹脂を主成分とする接着樹脂を用いることが好ましい。
(a)エチレンと、酢酸ビニル、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、メチル(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、及びメタクリル酸グリシジルからなる群から選ばれる1種の単位とからなる共重合体(以下「エチレン系共重合体」ともいう。)
(b)軟質の芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はこれらの水素添加誘導体
(c)変性ポリオレフィン系樹脂
【0071】
先ず(a)のエチレン系共重合体について説明する。上記エチレン系共重合体としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体が挙げられる。中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体を好適に使用できる。
【0072】
上記エチレン系共重合体は、エチレン単位の含有率が30質量%以上90質量%以下、好ましくは40質量%以上80質量%以下で有ることが望ましい。エチレン単位の含有率が30質量%以上であれば、フィルム全体の剛性を良好に維持できるため、好ましい。一方、エチレン単位の含有率が90質量%以下であれば、柔軟性を十分に維持でき、フィルムに応力が加わった場合に、(I)層と(II)層の間に生じる応力への緩衝作用が働くため、層間剥離を抑えることができる。
【0073】
上記エチレン系共重合体は、MFR(JIS K7210、温度:190℃、荷重:21.18N)が0.1g/10分以上、好ましくは0.5g/10分以上であり、10g/10分以下、好ましくは8.0g/10分以下のものが好適に用いられる。MFRが0.1g/10分以上であれば、押出加工性を良好に維持でき、一方、MFRが10g/10分以下であれば積層フィルムの厚み斑や力学強度の低下を起こしにくく、好ましい。
【0074】
上記エチレン系共重合体は、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体として「ボンダイン」(住友化学社製)、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体として「ボンドファースト」(住友化学社製)などが商業的に入手できる。
【0075】
次に、上記(b)の共重合体及びその水素添加誘導体について説明する。軟質の芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体を構成する芳香族系炭化水素としては、スチレン系炭化水素が好適に用いられ、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α―メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等のスチレン同族体なども用いることができる。また、共役ジエン系炭化水素としては、1対の共役二重結合を有する時オレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−イソプレン、1,4−イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、これらは水素添加誘導体であってもよい。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
上記芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はその水素添加誘導体は、芳香族系炭化水素の含有率(好ましくはスチレン系炭化水素の含有率)が共重合体の総量の5質量%以上、好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ50質量%以下、好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である軟質な共重合体であることが望ましい。芳香族系炭化水素の含有率が5質量%以上であれば、リサイクルされたフィルムを(I)層に再生添加した場合に、良好な相溶性が得られる。一方、芳香族系炭化水素の含有率が50質量%以下であれば、(III)層の柔軟性を低下させることなく、フィルムに応力が加わった場合に、(I)層又は(II)層との間に生じる応力への緩衝作用が働くため、層間剥離を抑えることができる。
【0077】
芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体の水素添加誘導体としては、スチレン−共役ジエン系ランダム共重合体の水素添加誘導体を好ましく用いることができる。スチレン−共役ジエン系ランダム共重合体の水素添加誘導体の詳細な内容及びその製造方法については、特開平2−158643号、特開平2−305814号及び特開平3−72512号の各公報に開示されている。
【0078】
芳香族系炭化水素−共役ジエン系炭化水素共重合体は、上記例示した各々の共重合体を単独に、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0079】
芳香族系炭化水素−共役ジエン系炭化水素共重合体の市販品としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーとして商品名「タフプレン」(旭化成社製)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体として商品名「タフテックH」(旭化成ケミカルズ社製)、商品名「クレイトンG」(クレイトンジャパン社製)、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加誘導体として商品名「ダイナロン」(JSR社製)、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加誘導体として商品名「セプトン」(クラレ)、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体エラストマーとして商品名「ハイブラー」(クラレ社製)等が挙げられる。
【0080】
また、上記芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体又はその水素添加誘導体は、極性基を導入することで、A成分を主成分とする(II)層との層間接着性を一層向上させることができる。導入する極性基としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基、水酸基などが挙げられる。極性基を導入した芳香族炭化水素(好ましくはスチレン系炭化水素)と共役ジエンの共重合体又はその水素添加誘導体としては、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが代表的に挙げられる。無水マレイン酸等のカルボン酸で変性する場合、カルボン酸の含有率は0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であって、3質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下であり、かつ芳香族系炭化水素の含有率が5質量%以上、好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であって、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下であることが望ましい。変性するカルボン酸の含有率が上記範囲であれば、安定した接着樹脂が得られるほか、(I)層と(II)層との層間強度を高めることができる。また芳香族炭化水素の含有率が上記範囲内であれば、リサイクルされたフィルムを再生添加した場合においても、良好な相溶性が得られまた(III)層の柔軟性を低下させることなく、フィルムに応力が加わった場合に、(I)層又は(II)層との間に生じる応力への緩衝作用が働くため、層間剥離を抑えることができる。これらの共重合体は、各々単独に又は2種以上を混合して使用することができる。
【0081】
具体的には、商品名「タフテックM」(旭化成ケミカルズ社製)、「エポフレンド」(ダイセル化学社製)などが市販されている。
【0082】
次に、上記(c)の変性ポリオレフィン樹脂について説明する。本発明において、(III)層を構成し得る変性ポリオレフィン樹脂とは、不飽和カルボン酸又はその無水物、あるいはシラン系カップリング剤で変性されたポリオレフィンを主成分とする樹脂をいう。不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸あるいはこれらの誘導体のモノエポキシ化合物と上記酸とのエステル化合物、分子内にこれらの酸と反応し得る基を有する重合体と酸との反応生成物などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用することができる。これらの中でも、無水マレイン酸がより好ましく用いられる。また、これらの共重合体は、各々単独に、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0083】
また、シラン系カップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、メタクロイルオキシトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリアセチルオキシシランなどを挙げることができる。
【0084】
変性ポリオレフィン樹脂を製造するには、例えば、予めポリマーを重合する段階でこれらの変性モノマーを共重合させることもできるし、一旦重合したポリマーにこれらの変性モノマーをグラフト共重合させることもできる。また変性はこれらの変性モノマーを単独で又は複数を併用し、その含有率が0.1質量%以上5質量%以下の範囲のものが好適に使用される。この中でもグラフト変性したものが好適に用いられる。
【0085】
具体的には、商品名「アドマー」(三井化学社製)、「モディック」(三菱化学社製)などが市販されている。
【0086】
また、本発明のフィルムは、(I)層にリサイクルされた本発明のフィルム樹脂(以下「リサイクル樹脂」ともいう。)を含有することもできる。リサイクル樹脂の含有量は、含有すべき層を構成する樹脂100質量部に対し、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下であることが望ましい。リサイクル樹脂の含有量が50質量部以下であれば、剛性と収縮特性と耐破断性を維持することができる。
【0087】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、上記A成分とB成分とを混合した混合樹脂組成物で構成される(I)層がB成分からなる分散ドメインの長軸方向と直交する方向に少なくとも一方向に延伸されてなることが肝要である。
すなわち、本発明のフィルムは(I)層と、上記A成分を主成分として構成される(II)層とを積層した未延伸フィルムを少なくとも一方向に延伸する方法、あるいは(I)層を少なくとも一方向に延伸した後、(II)層の未延伸フィルム又は延伸フィルムを公知の方法によって熱又は溶剤によりラミネーションする方法、あるいは(I)層を少なくとも一方向に延伸した後、A成分からなる樹脂組成物を公知の方法によりコーティングする方法により作製できる。
【0088】
具体的な製造方法の一例を示す。
先ず、上記A成分とB成分の混合方法等として、同方向2軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドを得る方法がある。また、両成分を予め混合することなく、直接、フィルム押出機に投入し、混合とフィルム成形とを同一装置で行ってもよい。
【0089】
フィルムの製造方法は、上記A成分、B成分、又はこれらの成分をコンパウンドした混合物をそれぞれ押出機に投入し、溶融押出成形する。この際の押出方法としては、Tダイ法、チューブラ法等の公知の方法を採用できる。溶融押出されたフィルムは、冷却ロール、空気、水等で冷却される。また、本発明においては(I)層と(II)層とが積層されてなることが重要であるが、積層方法としてはマルチマニフォールド式の口金を用い共押出する方法、フィードブロックを用いて共押出する方法、(I)層と(II)層の単層フィルムを別個に得た後、熱ラミネーションにより積層する方法など、公知の方法を採用できる。
【0090】
得られた積層未延伸フィルムは、熱風、温風、紫外線、炭酸ガスレーザー、マイクロウェーブ等の方法で再加熱され、ロール法、テンター法、チューブラ法等により、少なくとも1方向、すなわち一軸方向又は二軸方向に延伸し、マトリックスとドメインとの界面で剥離を生じさせ、空孔を形成させることにより本発明のフィルムを作製できる。上記延伸を一軸延伸とするか、二軸延伸とするかは、目的の用途によって適宜決定できる。
【0091】
延伸温度は、上記A成分及びB成分の軟化温度や、得られる熱収縮性空孔含有フィルムの用途等によって変動し得るが、60℃以上が好ましく、65℃以上がさらに好ましく、85℃以下、より好ましくは80℃以下の範囲であることが望ましい。延伸温度が60℃以上であれば、延伸過程において原料の弾性率が高くなりすぎることを抑え、良好な延伸性が得られると共に、フィルム破断や厚み斑を抑えられる。一方、延伸温度が85℃以下であれば、所望の収縮特性を発現でき、またB成分の延伸性が高くなることを抑えて、マトリックスと分散ドメインとの界面での剥離を促進し、十分な空孔を得ることができ、かつ嵩比重を1.0未満にすることができる。
【0092】
上記延伸工程での延伸倍率は、上記A成分及びB成分を混合した混合樹脂組成物の構成組成、延伸手段、延伸温度、目的の製品形態等に応じて適宜選択することができる。例えば、延伸倍率としては、1.5倍以上、好ましくは3.0倍以上であって、8.0倍以下、好ましくは6.0倍以下とすることが望ましい。延伸倍率が1.5倍以上あれば、適切な収縮特と十分な空孔が得られ、かつ嵩比重を1.0未満に調整できる。また、延伸倍率の上限を80倍程度にすることにより実用的な性能を有するが得られる。
【0093】
上記延伸工程での延伸方向は、目的用途によって適宜選択することができるが、本発明のフィルムは後述するとおりMD方向にB成分の分散ドメインが伸長した構造をとるため、伸長方向と垂直方向、すなわちTD方向に延伸することにより容易に空孔を形成することができ好適である。
【0094】
また、一軸延伸の場合、必要に応じてフィルムの主収縮方向と直交する方向に1.01倍から1.8倍程度の弱延伸を付与すると、得られる熱収縮性空孔含有フィルムの機械的物性が改良されるのでより好ましい。
なお、本明細書において「主収縮方向」とは、縦方向と横方向のうち延伸の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向である。また、「主収縮方向と直交する方向」とは、延伸の大きい方向と直交する方向をいう。
【0095】
ところで、上記フィルム製造工程で使用される冷却ロールは、上記押出機の下方に存在するため、上記押出機から押し出されたフィルムが冷却ロールに到達するまでに、自重により多少延伸された状態になる。このとき、フィルムは上記押出機から押し出された段階であるため高温状態にあり、フィルムを構成する(I)層では、マトリックス(A成分)だけでなく分散ドメイン(B成分)も主収縮方向と直交する方向(流れ方向)に延ばされ、特に分散ドメイン(B成分)は、流れ方向(フィルム主収縮方向と直交する方向)に伸長された状態となる。このときの分散ドメイン(B成分)の主収縮方向と直交する方向の主収縮方向に対するアスペクト比は、5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であり、かつ50以下、好ましくは40以下、さらに好ましくは35以下に調整することが望ましい。上記A成分単独で構成されるフィルムを形成した場合、フィルム自体は脆性となってしまう。これに対し、マトリックスであるA成分中にアスペクト比が上記範囲内となるようにB成分からなる分散ドメインを含ませることにより、得られる熱収縮性空孔含有フィルムに低温での耐破断性を付与できる。前記分散ドメイン(B成分)のアスペクト比が5以上であれば、低温における耐破断性をフィルムに付与でき、また前記アスペクト比が50以下であれば、(I)層中に空孔を生じさせ易く、かつ所望の嵩比重が得られる。
【0096】
前記アスペクト比は、上記のフィルムの自重による方法で生じさせることが好ましいが、それでは不十分な場合がある。このような場合、押出機と冷却ロールとの間で多少延伸させることが望ましい。すなわち、押出機の押出口金の間隔(リップギャップ)に対し、製膜する延伸フィルムの厚みを変えることにより、流れ方向(フィルム主収縮方向に直交する方向)に伸長させ、また、その比によって、前記分散ドメイン(B成分)のアスペクト比を制御することが可能となる。
【0097】
分散ドメイン(B成分)が所定のアスペクト比を有するようにしたとき、この分散ドメイン(B成分)は、フィルム外表面に対して平行となり、かつ、一方向、すなわち、フィルムの流れ方向(フィルム主収縮方向に直交する方向)に伸長したものとなる。このため、一軸延伸の延伸方向又は二軸延伸の一方の延伸方向を流れ方向に対して直角方向(フィルム主収縮方向)とすることにより、マトリックス(A成分)と分散ドメイン(B成分)との境界の剥離をより生じさせやすくなり、かつより高い空孔率を得ることができる。
【0098】
上記分散ドメイン(B成分)のアスペクト比を実現させるため、B成分としては、メルトフローレートが1.0g/10分以上、好ましくは1.5g/10分以上であり、5.0g/10分以下、好ましくは4.5g/10分であるポリオレフィン系樹脂組成物を用いることが望ましい。ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートが1.0g/10分以上であれば、上記の海島構造が形成された際に分散ドメインのサイズが大きくなりすぎたり、分散状態が悪く空孔が均一に発生しにくくなったりするなどの不具合を生じることなく好適である。一方、ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートが5.0g/10分以下であれば、上記の海島構造が形成された際に分散ドメイのンサイズが小さくなり、ドメイン自体の強度が低下し、低温での耐破断性を十分に付与できない等の不具合を生じることなく好適である。
【0099】
<嵩比重>
本発明のフィルムの嵩比重は0.50以上、より好ましくは0.60以上、さらに好ましくは0.70以上であって、1.00未満、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下であることが望ましい。嵩比重が1.00未満であれば、このフィルムを液比重法によって分離することが容易であり好ましい。一方、嵩比重が0.50以上であれば、存在する空孔によって、このフィルムの強度が不十分となるなどの不具合を生じることなく好ましい。
【0100】
上記嵩比重を所望の値に調整する方法としては、上記A成分及びB成分のうち、比重が小さい方の成分の混合比率を増加させる方法や、延伸倍率を大きくする、延伸温度を低くするなどの延伸条件を操作することにより空孔を多く生じさせる方法などが挙げられる。
【0101】
<熱収縮性>
発明のフィルムは、80℃温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であり、好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であり、かつ80%以下、好ましくは75%以下であることが望ましい。これは、例えばペットボトルの収縮ラベル用途に適用される熱収縮性フィルムでは、その形状によって様々であるが、一般に20%乃至70%程度の熱収縮率が要求されるため、そのような用途において好適に対応し得るようにするためである。
【0102】
また、現在ペットボトルのラベル装着用途に工業的に最も多く用いられている収縮加工機としては、収縮加工を行う加熱媒体として水蒸気を用いる蒸気シュリンカーと一般に呼ばれているものである。熱収縮性フィルムは被覆対象物への熱の影響などの点からできるだけ低い温度で十分熱収縮することが必要である。さらに、近年のラベリング工程の高速化に伴い、より低温で素早く収縮する要求が高くなってきた。このような工業生産性も考慮して、上記条件における熱収縮率が20%以上のフィルムであれば、収縮加工時間内に十分に被覆対象物に密着することができるため好ましい。
【0103】
また、本発明のフィルムが熱収縮性ラベルとして用いられる場合、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は、80℃の温水中で10秒間浸漬したときは10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下のフィルムであれば、収縮後の主収縮方向と直交する方向の寸法自体が短くなったり、収縮後の印刷柄や文字の歪み等が生じやすかったり、角型ボトルの場合においては縦ひけ等のトラブルが発生し難く、好ましい。
【0104】
<自然収縮率>
本発明のフィルムの自然収縮率はできるだけ小さいほうが望ましいが、一般的に熱収縮性フィルムの自然収縮率は、例えば、30℃で30日保存後の自然収縮率が3.0%以下、好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下であることが望ましい。上記条件下における自然収縮率が3.0%であれば作製したフィルムを長期保存する場合であっても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0105】
<耐破断性>
本発明のフィルムの耐破断性は引張破断伸度により評価され、0℃環境下の引張試験において、特にラベル用途ではフィルムの引き取り(流れ)方向(MD)で伸び率が100%以上、好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上ある。0℃環境下での引張破断伸度が100%以上あれば印刷・製袋などの工程時にフィルムが破断するなどの不具合を生じ難くなるため好ましい。また、印刷・製袋などの工程のスピードアップにともなってフィルムに対してかかる張力が増加するような際にも、引張破断伸度が100%以上あれば破断し難くなり好ましい。
【0106】
<剛性>
本発明のフィルムの腰(常温での剛性)は、フィルムの主収縮方向と直交する方向の引張弾性率が1.2GPa以上であることが好ましく、1.4GPaであることがより好ましく、1.6GPa以上であることがさらに好ましい。また、通常使用される熱収縮性フィルムの引張弾性率の上限値は3.0GPa程度であり、好ましくは2.9GPa程度であり、さらに好ましは2.8GPa程度である。フィルムの主収縮方向と直交する方向の引張弾性率が1.2GPa以上あれば、フィルム全体としての腰(常温での剛性)を高くすることができ、特にフィルムの厚みを薄くした場合においても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの問題点が発生し難く、好ましい。
【0107】
また、本発明のフィルムは、空孔を有するため、A成分又はB成分と空気との界面で光線が屈折・反射し、全体として不透明白色様の外観を呈するため、例えば遮光性が求められる用途などに特に好適である。さらに、空孔を有するため通常の熱可塑性樹脂よりも熱伝導効率が低下し、例えばホット飲料用ラベルなどの断熱性・保温性を求められる用途に特に好適である。さらに、空孔を有するためクッション性にも優れ、壊れやすいものや割れやすいものなどの保護用途にも適している。
【0108】
[成形品、熱収縮性ラベル及び容器]
本発明のフィルムは、フィルムの印刷適性、高剛性、耐破断性、収縮仕上り性等に優れているため、その用途が特に制限されるものではないが、必要に応じて印刷層、蒸着層その他機能層を形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。特に本発明のフィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用又は食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用熱収縮性ラベルとして用いる場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗なラベルが装着された容器が得られる。本発明の成形品及び容器は、通常の成形法を用いることにより作製できる。
【0109】
本発明のフィルムをPETボトル用熱収縮ラベル等として使用した場合、リサイクルされる時点では収縮された状態であるが、収縮後においても液比重法により分別できることが好ましい。具体的には、例えば、25%以下の範囲で収縮させた後の嵩比重は0.50以上1.00未満、好ましくは0.60以上0.95以下、さらに好ましくは0.70以上0.90以下であることが望ましい。収縮後の嵩比重が1.00未満であれば、このフィルムを液比重法によって分離でき、分別が可能となる。一方、収縮後の嵩比重が0.50以上であれば、存在する空孔によって、このフィルムの強度が不十分となるなどの不具合を生じることなく、好適である。
【0110】
本発明のフィルムは、優れた低温収縮性、収縮仕上り性を有するため、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0111】
本発明のフィルムが利用できるプラスチック包装体を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0112】
以下に、実験例及び比較例等を示して本発明を詳述するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
なお実験例及び比較例中の物性値及び評価は、以下の方法により測定し、評価を行った。ここで、フィルムの引き取り(流れ)方向をMD、それと直交方向をTDと記載する。
【0113】
(測定方法及び評価方法)
[メルトフローレート]
安田精機製作所製メルトインデクサー(120SAS−2000)を用い、JIS K7210(測定温度:230℃、荷重:21.18N)に準拠してポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートを測定した。
【0114】
[動的粘弾性測定]
熱プレス装置(神藤金属工業所製)によりポリオレフィン系樹脂を用いて厚み200μmのフィルムを作製し、次いで4mm×60mmの大きさに切り出し、粘弾性スペクトロメーター(アイティー計測(株)製:DVA−200)を用い、チャック間2.5cm、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、昇温速度1℃/分、測定温度40℃から150℃までの範囲で長手方向(辺長60mmの方向)について測定し、80℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0115】
[アスペクト比]
得られたフィルムをミクロトームでTD1mm×MD10mmの大きさに切り出し、電子顕微鏡で10カ所観察し、フィルム中のA成分に非相溶のB成分からなるドメインのMDのTDに対するアスペクト比(長径/短径)を算出した。
【0116】
[印刷適性]
バーコーターを用いて、大日精化工業(株)製特殊グラビアインキOS−M(藍色)を溶媒にて適度に希釈したインキを得られたフィルムに塗布し、その塗布面の状態を下記の基準により判断した。
○:インキがムラなく均一に塗布されている。
△:インキ塗布面にムラがあり、インキが塗布されていない個所がある。
×:インキがほとんど塗布されていない。
【0117】
[嵩比重]
得られたフィルムを正確にMD10cm×TD10cmの大きさに切り出して質量w(g)を量り、そのフィルムの50点の厚みt(μm)を測定し、下記の式により嵩比重(g/cm3)を算出した。
嵩比重=(w/t)×100
【0118】
[熱収縮後の嵩比重]
測定対象のフィルムを80℃で25%収縮させた後、MD1cm×TD1cmの小片に細かく粉砕し、水に浮かべて浮くか否か(すなわち、嵩比重が1.00g/cm未満であるか否か)を下記の基準で判別した。
○:全てが浮く場合
△:浮くものと沈むものがある場合、又は水中に漂うものがある場合
×:全てが沈む場合
【0119】
[耐破断性]
フィルムの製造工程及び使用時の耐破断性を評価するため、下記測定をおこなった。
得られたフィルムをMD110mm×TD15mmの短冊形に切り出し、JISK6732に準拠し、チャック間距離40mm、引張速度100mm/minで、雰囲気温度0℃におけるフィルムのMDでの引張伸度を測定し、十回の測定値の平均値を表に示した。
【0120】
[熱収縮率]
得られたフィルムを、MD100mm×TD100mmの大きさに切り出し、80℃温水バスに10秒間浸漬し、収縮量を測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率のMD/TDのうち大きい値を%値で表示した。
【0121】
[引張弾性率]
得られたフィルムの剛性を評価するため、下記の測定を行った。
得られたフィルムをMD400mm×TD5mmの大きさに切り出し、JIS K7127に準じて、チャック間距離300mm、引張速度5mm/min、雰囲気温度23℃の条件でフィルムの主収縮方向と直交する方向(MD)について測定した。
【0122】
[自然収縮率]
得られたフィルムをMD100mm×TD1000mmの大きさに切り取り、30℃の雰囲気の恒温槽に30日間放置し、主収縮方向について、収縮前の原寸に対する収縮量を測定し、その比率を%値で表示した。
【0123】
(実施例1)
表1に示すように、(I)層に用いられるA成分として、Nature WorksLLC社製のポリ乳酸系樹脂「Nature Works 4050D(L体:D体=95:5、重量平均分子量20万、以下「PLA1」と略称する。)」100質量部、B成分として日本ポリプロ(株)製のポリプロピレン系樹脂「FY6H(以下「PO1」と略称する。)」30質量部をドライブレンドし、三菱重工株式会社製の40mmφ小型同方向2軸押出機を用いて、200℃、100rpmにて混練し、ストランド形状に押出して水槽で急冷し、その後、切断してペレットを作製した。
(II)層に用いられる樹脂組成物として、前述の「PLA1」50質量部と、Nature WorksLLC社製のポリ乳酸系樹脂Nature Works 4060D(L体:D体=88:12、重量平均分子量20万、以下「PLA2」と略称)50質量部とをドライブレンドし、上述の方法にてペレットを作製した。
得られたペレットを、それぞれ別個の三菱重工業株式会社製の単軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混合後、2種3層ダイスより共押出し、60℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて未延伸積層シートを得た。次いで、京都機械株式会社製のフィルムテンターにて、予熱温度75℃、延伸温度72℃で横一軸方向に4.0倍延伸した後、冷風で急冷して、厚さ80μmの熱収縮性空孔含有フィルムを得た。
得られたフィルムの測定及び評価結果を表2に示す。
【0124】
(実施例2)
表1に示すように、実施例1において、「PO1」の添加量を60質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして熱収縮性空孔含有フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0125】
(実施例3)
表1に示すように、実施例1において、未延伸積層シートを作製する際にダイスのリップギャップとキャストロールの引取速度を調整することによりアスペクト比を変更した以外は、実施例1と同様にして熱収縮性空孔含有フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0126】
(実施例4)
表1に示すように、実施例1において、(I)層中のA成分を「PLA1」80質量部、及び「PLA2」20質量部との混合樹脂組成物に、B成分を日本ポリプロ(株)製ポリプロピレン「FL6H(以下「PO2」と略称)」20質量部にそれぞれ変更し、かつ(II)層に用いられる樹脂組成物を「PLA1」100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして熱収縮性空孔含有フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0127】
(比較例1)
表1に示すように、実施例1において、「PO1」の含有量を20質量部に変更し、かつ未延伸積層シートを作製する際にダイスのリップギャップとキャストロールの引取速度を調整することによりアスペクト比を変更した以外は、実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0128】
(比較例2)
表1に示すように、実施例1において、「PO1」の添加量を5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0129】
(比較例3)
表1に示すように、実施例1において、「PO1」の添加量を100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0130】
(比較例4)
表1に示すように、実施例1において、(II)層を形成せず、(I)層のみの単層フィルムとした以外は実施例1と同様にして熱収縮性空孔含有フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0131】
(比較例5)
表1に示すように、実施例1において、(I)層中のB成分として日本ポリプロ製ポリプロピレン「FB3HAT(以下「PO3」と略称)」40質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0132】
(比較例6)
表1に示すように、実施例1において、(I)層中のB成分の代わりにA成分と相溶可能な樹脂組成物である昭和高分子製ポリブチレンサクシネート樹脂「ビオノーレ(以下「BN」と略称)」30質量部添加した以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表2に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
表1及び2より、本発明で規定される範囲のフィルムは、嵩比重が小さく、リサイクル性、剛性、低温収縮性、自然収縮性に優れていた(実施例1乃至4)。
これに対し、アスペクト比が本発明の範囲外である場合、得られたフィルムは耐破断性に劣っていたり、十分に空孔を形成しなかったため、嵩比重が所望の値よりもやや大きなったりして、耐破断性に劣っていた(比較例1及び5)。また、(I)層中のB成分が本発明の範囲外である場合には、得られたフィルムは十分な耐破断性及び収縮特性を発現せず、また十分な空孔を形成しなかったため、嵩比重も所望の値よりも大きくなった(比較例2及び3)。また、(II)層を有しない場合には、得られたフィルムは良好な機械物性を発現したが、インキを塗布する際にややムラが生じた(比較例4)。また、(I)層においてA成分と相溶可能な樹脂を用いた場合には、得られたフィルムは良好な耐破断性を示したが、ほとんど空孔を形成しなかったため、嵩比重が所望の値よりも大きく、また自然収縮性もやや劣るものとなった(比較例6)。
これより本発明のフィルムは、嵩比重が小さく、リサイクル性、剛性、低温収縮性、自然収縮性に優れた、収縮包装、収縮結束包装や熱収縮性ラベル等の用途に適した熱収縮性空孔含有フィルムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のフィルムは、嵩比重が小さく、印刷適性、高剛性、耐破断性、及び収縮特性に優れているため、熱収縮性を必要とする成形品、特にシュリンクラベル等に好適に利用することができる。また、本発明に使用するPLA系樹脂は植物由来樹脂であるため、バイオマスの利用を促進し、循環型社会を目指す上で好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分とB成分とを主成分として含み、B成分の含有量がA成分100質量部に対して10質量部以上90質量部以下である混合樹脂組成物で構成される(I)層と、
下記のA成分を主成分とする樹脂組成物で構成される(II)層との少なくとも2層を有し、
前記(I)層において、A成分からなるマトリックス中に分散しているB成分からなる分散ドメインの主収縮方向と直交する方向の主収縮方向に対するアスペクト比が5以上50以下であり、
80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上であることを特徴とする熱収縮性空孔含有フィルム。
A成分:D−乳酸及びL−乳酸の共重合体を主成分とするポリ乳酸系樹脂組成物
B成分:A成分に非相溶であり、かつ振動周波数10Hz、歪み0.1%、チャック間2.5cm、昇温速度1℃/分で昇温して測定したときの80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa以上2.0GPa以下であるポリオレフィン系樹脂組成物
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートが1.0g/10分以上5.0g/10分以下である請求項1に記載の熱収縮性空孔含有フィルム。
【請求項3】
嵩比重が0.50以上1.00未満である請求項1又は2に記載の熱収縮性空孔含有フィルム。
【請求項4】
25%以下の範囲で熱収縮させた後の嵩比重が1.00未満である請求項3に記載の熱収縮性空孔含有フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱収縮性空孔含有フィルムを基材として用いた成形品。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱収縮性空孔含有フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
【請求項7】
請求項5に記載の成形品又は請求項6に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2007−90876(P2007−90876A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236715(P2006−236715)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】