説明

熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法、熱可塑性樹脂シートを備えた面光源装置および表示装置

【課題】高い賦形率で熱可塑性樹脂シートを製造する製造装置を提供する。
【解決手段】製造装置10は、熱可塑性樹脂からなるシート原反12を供給する供給ダイ11と、供給ダイ11の下方に設けられ、エンボスパターンが表面に形成された成型ロール13と、成型ロール13との間でシート原反12を挟圧部14において挟圧する挟圧機構15と、を備えている。また挟圧部14の上流側近傍には、温度制御機構25が設けられている。この温度制御機構25により、成型ロール13の表面13a上の第1境界部Bと、挟圧部14と、シート原反12の成型ロール13側の表面12a上の第2境界部Bと、を含む挟圧部直前領域20の雰囲気温度が、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートを製造する製造装置および製造方法に係り、とりわけ、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シートを賦形により製造する製造装置および製造方法に関する。また本発明は、当該製造方法により得られた熱可塑性樹脂シートを備えた面光源装置および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などのディスプレイにおいては、所定の光学的機能を有する様々な光学シートが用いられている。このような光学シートとして、例えば、プリズムシート、レンチキュラーレンズシートなど、所定の凹凸パターンを有する光学シートが知られている。
【0003】
所定の凹凸パターンを有する光学シートを製造する方法として、ガラス転移点より高い温度に加熱された熱可塑性樹脂をダイから押し出す押出成形法が知られている。この場合、ダイから押し出された熱可塑性樹脂は、はじめに、所定の凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面に形成された成型ロールに対して押し付けられ、その後、冷却されて固化する。ここで、成型ロールへ熱可塑性樹脂を押し付けるため、一般に、ロール状またはベルト状の挟圧機構が用いられる。このようにして、所定の凹凸パターンを有する光学シートが形成される。
【0004】
ところで、ダイから押し出された熱可塑性樹脂が、挟圧機構により成型ロールに対して押し付けられる位置(以下、挟圧部)に到達するには、所定の時間を要する。このため、挟圧部に到達するまでに熱可塑性樹脂が冷却され、これによって、挟圧部に到達した際の熱可塑性樹脂の温度がガラス転移点よりも低くなってしまうことが考えられる。この場合、熱可塑性樹脂の流動性が低下し、このため、成型ロールのエンボスパターンに対してシート原反が十分に押し付けられなくなる。
【0005】
熱可塑性樹脂の流動性を向上させるため、成型ロールまたは挟圧機構の温度を高くすることが考えられる。しかしながら、成型ロールまたは挟圧機構の温度を全体的に高くする場合、成型ロールに対して押し付けられた後の熱可塑性樹脂が長時間にわたって加熱されることになる。長時間の加熱は、これによって生じる反りなどにより熱可塑性樹脂シートの特性が劣化することが考えられるので、好ましくない。
【0006】
このような課題を解決するため、挟圧部近傍の成型ロールのみを加熱することが提案されている。例えば特許文献1において、成型ロールの表面を加熱するための熱源と、この熱源からの放射熱を反射する反射手段と、を備えた熱可塑性樹脂シートの製造装置が提案されている。この場合、反射手段は、熱源からの放射熱を成型ロールに向けて反射し、これによって成型ロールの表面を加熱するよう構成されている。このように挟圧部近傍の成型ロールの表面を加熱することにより、成型ロールに押し付けられる熱可塑性樹脂の流動性を高め、このことにより、成型ロールのエンボスパターンに対してシート原反を十分に押し付けることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−315295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱源からの放射熱、例えば赤外線によって成型ロールの表面を加熱する場合、成型ロールのエンボスパターンが均一に加熱されないことが考えられる。なぜなら、熱源からの赤外線は、成型ロールのエンボスパターンにおける幾何学形状に起因して、様々な態様で反射され得るからである。このため、成型ロールのエンボスパターンの特定の箇所、とりわけエンボスパターンのうち最も深い箇所が、赤外線によっては十分に加熱されないことが考えられる。この場合、エンボスパターンのうち最も深い箇所における熱可塑性樹脂の流動性を高めることができず、このため、成型ロールのエンボスパターンをシート原反に十分に転写することができない。
【0009】
本発明は、このような課題を効果的に解決し得る熱可塑性樹脂シートの製造装置および製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該製造方法により得られた熱可塑性樹脂シート(光学シート)を備えた面光源装置および表示装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シートを賦形により製造する製造装置において、熱可塑性樹脂からなるシート原反を供給する供給ダイと、供給ダイの下方に設けられ、熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面に形成された成型ロールと、成型ロールとの間でシート原反を挟圧部において挟圧する挟圧機構と、挟圧部の上流側近傍の挟圧部直前領域の雰囲気温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御する温度制御機構と、を備え、前記挟圧部直前領域は、成型ロールの表面上の第1境界部と、挟圧部と、シート原反の成型ロール側の表面上の第2境界部と、を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造装置である。
【0011】
本発明の製造装置において、前記温度制御機構は、前記挟圧部直前領域を外部から覆う保温カバーと、保温カバーの内側に設けられた熱源と、挟圧部直前領域の雰囲気温度が熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなるよう熱源を制御する制御部と、を有していてもよい。
【0012】
本発明の製造装置において、前記熱源が、前記成型ロールの表面に向かって熱を放出する第1熱源と、前記シート原反の成型ロール側の表面に向かって熱を放出する第2熱源と、を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の製造装置において、前記成型ロール上の前記第1境界部は、成型ロールの直径をD〔mm〕とするとき、挟圧部から第1境界部までの成型ロール上における長さがπ×D/16〜π×D/2〔mm〕の範囲内となるよう定められてもよい。
【0014】
本発明の製造装置において、前記シート原反上の前記第2境界部は、挟圧部から第2境界部までのシート原反上における長さが50〜200〔mm〕の範囲内となるよう定められてもよい。
【0015】
本発明の製造装置において、前記成型ロール上の前記第1境界部は、成型ロール上の所定ポイントが第1境界部を通過してから挟圧部に到達するまでの時間が0.05〜2〔s〕の範囲内となるよう定められてもよい。
【0016】
本発明の製造装置において、前記シート原反上の前記第2境界部は、シート原反上の所定ポイントが第2境界部を通過してから挟圧部に到達するまでの時間が0.01〜0.5〔s〕の範囲内となるよう定められてもよい。
【0017】
本発明の製造装置において、前記熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンは、三角形形状の断面を有する複数の単位形状要素から形成されるプリズムパターンであり、前記成型ロールの表面に、熱可塑性樹脂シートのプリズムパターンに対応する三角形形状の断面を有する複数の溝が形成されていてもよい。
【0018】
本発明の製造装置において、前記シート原反を構成する熱可塑性樹脂は、前記成型ロールのエンボスパターンに押し付けられる賦形層を有し、当該賦形層は、ポリカーボネート系樹脂からなっていてもよい。
【0019】
本発明の製造装置において、前記熱可塑性樹脂は、前記賦形層よりも前記成型ロール側に位置する第1保護層をさらに有していてもよい。
【0020】
本発明の製造装置において、前記熱可塑性樹脂は、前記賦形層よりも前記挟圧機構側に位置する第2保護層をさらに有していてもよい。
【0021】
本発明は、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シートを賦形により製造する製造方法において、熱可塑性樹脂を収納する供給ダイを準備する工程と、供給ダイ下方に設けられた成型ロールと挟圧機構との間に形成される挟圧部に向けて、供給ダイから、熱可塑性樹脂からなるシート原反を押し出す工程と、挟圧部において成型ロールと挟圧機構とによりシート原反を挟圧する工程と、を備え、前記成型ロールの表面には、熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンに対応するエンボスパターンが形成されており、挟圧部に到達する際の成型ロールの表面の温度およびシート原反の成型ロール側の表面の温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなるよう、挟圧部の上流側近傍における雰囲気温度が制御されることを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法である。
【0022】
本発明は、光源と、上記記載の製造方法により得られた熱可塑性樹脂シートであって、前記光源からの光を受ける熱可塑性樹脂シートと、を備えたことを特徴とする面光源装置である。
【0023】
本発明は、上記記載の面光源装置と、前記面光源装置に対向して配置された透過型表示部と、を備えたことを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱可塑性樹脂シートの製造装置は、熱可塑性樹脂からなるシート原反を供給する供給ダイと、供給ダイの下方に設けられ、熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面に形成された成型ロールと、成型ロールとの間でシート原反を挟圧部において挟圧する挟圧機構と、挟圧部の上流側近傍の挟圧部直前領域の雰囲気温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御する温度制御機構と、を備えている。ここで、挟圧部直前領域は、成型ロールの表面上の第1境界部と、挟圧部と、シート原反の成型ロール側の表面上の第2境界部と、を含んでいる。このため、挟圧部に到達する際のシート原反の表面の温度、および、成型ロールの表面の温度を十分に高温に保つことができ、これによって、成型ロールと挟圧機構との間で挟圧される際のシート原反の流動性を十分に確保することができる。このことにより、高い賦形率で凹凸パターンが形成された熱可塑性樹脂シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における熱可塑性樹脂シートの製造装置を示す側面図。
【図2】図2は、図1に示す製造装置の温度制御機構を拡大して示す斜視図。
【図3】図3は、図2に示す成型ロールを拡大して示す斜視図。
【図4】図4は、本発明の実施の形態において、成型ロールの溝にシート原反が押し込まれる様子を示す図。
【図5】図5は、本発明の実施の形態における製造装置により得られた熱可塑性樹脂シートを示す斜視図。
【図6】図6(a)は、比較の形態における熱可塑性樹脂シートの製造装置を示す側面図、図6(b)は、比較の形態における製造装置の成型ロールが加熱される様子を示す図。
【図7】図7は、本発明の実施の形態の変形例における熱可塑性樹脂シートの製造装置を示す側面図。
【図8】図8は、本発明の実施の形態のその他の変形例における熱可塑性樹脂シートの製造装置を示す側面図。
【図9】図9は、本発明の実施の形態における製造装置により得られた熱可塑性樹脂シートを備えた表示装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1乃至図5および図9を参照して、本発明の実施の形態について説明する。はじめに図9を参照して、本実施の形態における製造装置により得られる熱可塑性樹脂シート30を備えた表示装置50について説明する。
【0027】
表示装置
表示装置50は、透過型表示部55と、透過型表示部55の背面側に配置され透過型表示部55を背面側から面状に照らす面光源装置60と、を備えている。透過型表示部55は、面光源装置60からの光の透過または遮断を画素毎に制御するシャッターとして機能し、画像を形成する装置である。本実施の形態において、透過型表示部55は、液晶表示パネルから構成されている。つまり、表示装置50は液晶表示装置として構成されている。透過型表示部(液晶表示パネル)55の構成は、従来の液晶表示装置に組み込まれている装置(部材)と同様に構成することができ、ここでは、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0028】
次に、面光源装置60について説明する。図9に示された面光源装置60は、直下型のバックライトユニットとして構成されている。このため、面光源装置60は、図9に示すように、光源65と、光源65に対向して配置された複数のシート状部材と、を有している。シート状部材には、光源65に直面する位置に配置された拡散板68と、拡散板68の出光側に配置された下拡散シート70と、下拡散シート70の出光側に配置された熱可塑性樹脂シート30と、熱可塑性樹脂シート30の出光側に配置された上拡散シート75と、が含まれている。
【0029】
光源65は、複数の線状の発光部65aを有している。複数の発光部65aは、ある仮想の平面上に規則的に並べて配列されている。具体的には、複数の発光部65aは、仮想平面上の一つの配列方向に配列され、各発光部65aは当該配列方向と交差する仮想平面上の方向に延びている。図示する例において、複数の発光部65aは、並列配置された冷陰極管から構成され、例えば、水平方向に延びるように配列される。
【0030】
光源65をなす複数の発光部65aは、反射板62によって背面側から覆われている。反射板62は、熱可塑性樹脂シート30の側に開口部(窓)を有する箱状に形成されている。反射板62は、図9に示すように、光源65からの光を透過型表示部55の側へ向けるための部材である。反射板62の少なくとも内側表面は、例えば金属等の高い反射率を有する材料を用いて形成されている。
【0031】
拡散板68、下拡散シート70および上拡散シート75は、いずれも、光を拡散させる機能を有したシート状の部材である。拡散板68および下拡散シート70は、主として、光源65をなす発光部65aからの光を拡散させ、光源65の構成(とりわけ発光部65aの配列)に応じた輝度の不均一さを均し、光源65をなす発光部65aの像を目立たなくさせる。一方、上拡散シート75は、熱可塑性樹脂シート30によって後述するように集光された光をある程度拡散させ、視野角を調節したり、輝度の角度分布の変化を緩やかにする。
【0032】
なお面光源装置60において、複数のシート状部材のうち上述の拡散板68、下拡散シート70および上拡散シート75が常に全て含まれている必要はない。面光源装置60に求められる光学特性に応じて、設けられるシート状部材が適宜選択される。
【0033】
ところで、本明細書において、「出光側」とは、進行方向を折り返されることなく光源65から透過型表示部55を経て観察者へ向かう光の進行方向における下流側(観察者側)のことであり、「入光側」とは、進行方向を折り返されることなく光源65から透過型表示部55を経て観察者へ向かう光の進行方向における上流側のことである。
【0034】
また、本明細書において、「シート」、「フィルム」、「板」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「シート」はフィルムや板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0035】
次に図5を参照して、熱可塑性樹脂シート30について詳細に説明する。
【0036】
熱可塑性樹脂シート
図5に示すように、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シート30は、シート状の本体部31と、本体部31上に配列された複数の単位形状要素32と、を有している。図5に示すように、単位形状要素32は、三角形形状の断面を有しており、これら単位形状要素32によりプリズムパターンが形成されている。すなわち、これら単位形状要素32により、いわゆるプリズムシートとしての光学的機能が熱可塑性樹脂シート30に付与されている。
【0037】
なお、本明細書における「三角形形状」とは、厳密な意味での三角形形状のみでなく、製造技術における限界や成型時の誤差等を含む略三角形形状や、三角形形状と同様に光学的機能を期待することが可能な略三角形形状などを含む。例えば、三角形の頂点が丸くなっている形状や、三角形の頭部が切断されている形状(截頭三角形)等を含む。
【0038】
図5に示すように、熱可塑性樹脂シート30の本体部31の高さはtとなっている。また、熱可塑性樹脂シート30の単位形状要素32において、三角形形状の断面の高さはLとなっており、頂角の角度はθとなっており、配列ピッチはdとなっている。ここで、本体部31の高さt、および、単位形状要素32の高さL、角度θおよび配列ピッチdの値が特に限られることはなく、熱可塑性樹脂シート30に要求される光学的機能に応じて適宜設定される。例えば、正面輝度を高めることが熱可塑性樹脂シート30に要求される場合、角度θは、好ましくは80〜120°の範囲内となっており、より好ましくは90°となっている。また、単位形状要素32の高さLは例えば6μm〜120μmの範囲内となっており、単位形状要素32の配列ピッチdは例えば10μm〜200μmの範囲内となっている。
【0039】
熱可塑性樹脂シート30を構成する熱可塑性樹脂としては、光学シートとしての所定の光学的機能を実現するよう、所望の屈折率、透明性および成形性などを有する熱可塑性樹脂が用いられる。例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂などが用いられる。
【0040】
熱可塑性樹脂シートの製造装置
次に図1乃至4を参照して、熱可塑性樹脂シート30の製造装置10について説明する。
【0041】
図1に示すように、製造装置10は、熱可塑性樹脂からなるシート原反12を連続的に供給する供給ダイ11と、供給ダイ11の下方に設けられ、製造される熱可塑性樹脂シート30の凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面に形成された成型ロール13と、成型ロール13との間でシート原反12を挟圧部14において挟圧する挟圧機構15と、挟圧部14の上流側近傍の挟圧部直前領域20の雰囲気温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御する温度制御機構25と、を備えている。ここで、挟圧部直前領域20は、図1に示すように、成型ロール13の表面13a上の第1境界部Bと、挟圧部14の上流側端部14aと、シート原反12の成型ロール13側の表面12a上の第2境界部Bと、を含む領域となっている。
【0042】
以下、供給ダイ11、成型ロール13、挟圧機構15、および温度制御機構25についてより詳細に説明する。
【0043】
(供給ダイ)
供給ダイ11は、上述のように、熱可塑性樹脂からなるシート原反12を連続的に供給するものである。ここで、図示はしないが、供給ダイ11には、熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート系樹脂をそのガラス転移点よりも高い温度に加熱する溶融手段が連結されており、供給ダイ11内には、溶融手段から供給される、ガラス転移点より高い温度に加熱された熱可塑性樹脂が収容されている。供給ダイ11は、加熱された熱可塑性樹脂を上述の挟圧部14に向けて押し出し、これによって、熱可塑性樹脂からなるシート原反12が成型ロール13と挟圧機構15との間に供給される。
【0044】
上述のように、供給ダイ11内において、熱可塑性樹脂の温度はガラス転移点よりも高い温度となっている。例えば、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート系樹脂(ガラス転移点は約140°)が用いられる場合、供給ダイ11内における熱可塑性樹脂の温度は例えば約300°となっている。なお、熱可塑性樹脂を加熱するための手段が供給ダイ11内にも設けられていてもよい。
【0045】
(成型ロール)
成型ロール13は、上述のように、製造される熱可塑性樹脂シート30の凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面13aに形成されたロールであり、一般に金属から形成される。この成型ロール13は、図3に示すように、表面13aに形成された複数の溝13bを有している。各溝13bは、図3に示すように、熱可塑性樹脂シート30のプリズムパターンを構成する上述の単位形状要素32に対応する三角形形状の断面を有しており、各溝13bの深さはLとなっている。このような溝13bを有する成型ロール13に対してシート原反12を押し付けることによりシート原反12が賦形され、これによって、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シート30が得られる。
【0046】
成型ロール13の直径Dは、形成される熱可塑性樹脂シート30の寸法などに応じて適宜選択されるが、例えば、200〜600mmの範囲内となっている。
【0047】
(挟圧機構)
挟圧機構15は、シート原反12を成型ロール13に対して押し付けるためのものである。挟圧機構15は、図1に示すように、ニップロール16と、調整ロール17と、ニップロール16および調整ロール17に巻きつけられたベルト18と、を有している。
【0048】
ニップロール16は、図1に示すように、挟圧部14の上流側端部14aを介して成型ロール13と対向するよう設けられている。このようなニップロール16の形態が特に限られることはなく、熱可塑性樹脂シート30に要求される特性に応じて、弾性体または金属などからなるロールが適宜用いられる。中心が金属からなり、表面が弾性体からなるロールがニップロール16として用いられてもよい。
【0049】
ニップロール16がシート原反12を成型ロール13に対して押し付ける際の線圧は、熱可塑性樹脂の特性、成型ロール13の溝13bの形状などに応じて適宜設定される。例えば、ニップロール16がシート原反12を成型ロール13に対して押し付ける際の線圧が100kg/cmとなるよう、ニップロール16が成型ロール13に対して配置される。
【0050】
ニップロール16の直径は、成型ロール13の直径、シート原反12の搬送速度などに応じて適宜選択されるが、例えば、100〜350mmの範囲内となっている。
【0051】
ベルト18は、図1に示す挟圧部14の上流側端部14a近傍においてだけではなく、より広い範囲においてシート原反12を成型ロール13に対して押し付けるために設けられるものである。ベルト18の材料としては、耐久性や鏡面性に優れた材料が適宜用いられ、例えばクロム合金やニッケル合金などの金属合金が用いられる。
【0052】
調整ロール17は、ベルト18が成型ロール13に沿って搬送されるようベルト18を支持するものである。この調整ロール17の配置、形状などを調整することにより、ベルト18が成型ロール13に沿って搬送される範囲、すなわち挟圧部14の範囲(成型ロール13の周方向における長さS)が適宜調整される。挟圧部14の範囲は、成型ロール13の溝13bの溝の形状、シート原反12を構成する熱可塑性樹脂の特性などに応じて適宜選択されるが、例えば、30〜200mmの範囲内となっている。
【0053】
図4は、挟圧機構15のベルト18によって成型ロール13の溝13bにシート原反12が押し込まれる様子を示す図である。上述のように、供給ダイ11内における熱可塑性樹脂の温度はガラス転移点よりも高くなっており、このため、挟圧部14に到達したときのシート原反12は、所定の流動性を有している。従って、図4に示すように、シート原反12は、挟圧機構15のベルト18からの圧力によって溝13b内に押し込まれる。なお、溝13bの深さLが大きい場合や、シート原反12の流動性が小さい場合は、シート原反12が溝13bの最深部13dまで押し込まれず、図4に示す隙間13cが存在していることが考えられる。
【0054】
成型ロール13と挟圧機構15との間で挟圧されて凹凸パターンが転写されたシート原反12(熱可塑性樹脂)は、図1に示すように冷却ロール19に送られる。冷却ロール19は、凹凸パターンが転写された熱可塑性樹脂を、成型ロール13との間で挟圧しながら冷却するためのものである。これによって、熱可塑性樹脂が冷却されて固まるとともに、賦形の際に生じうる反りが取り除かれる。このようにして、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シート30が賦形により製造される。
【0055】
ところで、供給ダイ11の開口11aから押し出されたシート原反12が挟圧部14の上流側端部14aに到達するには、所定の時間を要する。このため、上流側端部14aに到達するまでにシート原反12が冷却され、これによって、上流側端部14aに到達した際のシート原反12の温度がガラス転移点よりも低くなってしまうことが考えられる。このような温度の低下を防ぐため、本実施の形態においては、上述のように、挟圧部14の上流側近傍の挟圧部直前領域20の雰囲気温度を熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御する温度制御機構25が設けられている。以下、温度制御機構25について詳細に説明する。
【0056】
(温度制御機構)
図1に示すように、温度制御機構25は、挟圧部直前領域20を外部から覆う保温カバー21と、保温カバー21の内側、すなわち挟圧部直前領域20内に設けられた熱源と、を有している。このうち熱源は、成型ロール13の近傍に設けられ、成型ロール13の表面13aに向かって熱を放出するセラミックヒーター22(第1熱源)と、シート原反12の近傍に設けられ、シート原反12の成型ロール13側の表面12aに向かって熱を放出する赤外ヒーター23(第2熱源)と、を含んでいる。
【0057】
図1および図2に示すように、挟圧部14の上流側(供給ダイ11側)の挟圧部直前領域20は、保温カバー21により覆われている。保温カバー21は、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度を一定に保つためのものであり、例えば鉄板から構成されている。このため本実施の形態によれば、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23を作動させた場合、各々により成型ロール13の表面13aおよびシート原反12の表面12aが加熱されるだけでなく、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度が全体的に高められる。このことにより、挟圧部直前領域20に到達した成型ロール13の表面13aおよびシート原反12の表面12aを万遍なく加熱することができる。
なお、挟圧部直前領域20が保温カバー21により外部から隙間なく覆われる必要はなく、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度が急激に変動するのが防がれる程度に、挟圧部直前領域20が保温カバー21により外部から覆われていればよい。
【0058】
セラミックヒーター22および赤外ヒーター23は、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度が熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなるよう、制御部24により制御される。例えば、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート系樹脂(ガラス転移点は約140°)が用いられる場合、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23は、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度が160〜300°の範囲内となるよう、制御部24により制御される。なお、制御部24による制御の具体的な方法が特に限られることはなく、周知の方法により適切な制御が実施される。例えば、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度をモニタするモニタ手段(図示せず)からの情報に基づいて、制御部24が、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23の出力を制御することができる。また、図1においては制御部24がセラミックヒーター22および赤外ヒーター23と別体に設けられる例を示したが、これに限られることはなく、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23を制御する制御部がセラミックヒーター22および赤外ヒーター23内にそれぞれ組み込まれていてもよい。また、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23内にモニタ手段が組み込まれていてもよい。
【0059】
このように本実施の形態によれば、温度制御機構25により、挟圧部直前領域20の雰囲気温度が、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御される。このため、シート原反12は、その表面12aの温度がガラス転移点よりも高くなっている状態で、挟圧部14の上流側端部14aに到達する。また、成型ロール13は、その溝13bの温度が満遍なくガラス転移点よりも高くなっている状態で、挟圧部14の上流側端部14aに到達する。このため、シート原反12は、流動性が高い状態で成型ロール13の溝13b内に押し込まれる。これによって、シート原反12を成型ロール13の溝13bの最深部13d近傍まで十分に押し込むことが可能となり、このことにより、高い賦形率で熱可塑性樹脂シート30を製造することが可能となる。
【0060】
なお本実施の形態において、挟圧部直前領域20とは、図1および図2に示すように、成型ロール13の表面13a上の第1境界部Bと、挟圧部14の上流側端部14aと、シート原反12の成型ロール13側の表面12a上の第2境界部Bと、を含む領域のことである。挟圧部直前領域20の範囲、すなわち、第1境界部Bおよび第2境界部Bの位置は、上流側端部14aに到達した際のシート原反12が十分な流動性を有するよう、シート原反12を構成する熱可塑性樹脂の特性、シート原反12の搬送速度、成型ロール13の直径および周速度、挟圧部直前領域20の雰囲気温度などを考慮して決定される。例えば、成型ロール13上の第1境界部Bは、成型ロール13の直径をD〔mm〕とするとき、挟圧部14の上流側端部14aから第1境界部Bまでの成型ロール13上における長さSがπ×D/16〜π×D/2〔mm〕の範囲内となるよう定められる。ここで、長さSの上限の値であるπ×D/2〔mm〕は、図1に示すように、シート原反12が成型ロール13から離れて冷却ロール19に送られる位置に対応する値となっている。また、シート原反12上の第2境界部Bは、挟圧部14の上流側端部14aから第2境界部Bまでのシート原反12上における長さSが50〜200〔mm〕の範囲内となるよう定められる。このようにして挟圧部直前領域20の範囲を適切に定めることにより、挟圧部14の上流側端部14aに到達する際のシート原反12および成型ロール13の溝13bの温度を十分に高くすることができ、このことにより、成型ロール13の溝13b内に押し込まれる際のシート原反12の流動性を十分に確保することができる。
【0061】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、熱可塑性樹脂シート30の製造方法について説明する。
【0062】
まず、ガラス転移点より高い温度に加熱された熱可塑性樹脂が収納されている供給ダイ11を準備する。次に図1に示すように、熱可塑性樹脂からなるシート原反12を、供給ダイ11下方に設けられた成型ロール13と挟圧機構15との間に形成される挟圧部14の上流側端部14aに向けて押し出す。
【0063】
その後、図1に示すように、挟圧部14において、成型ロール13と挟圧機構15とによりシート原反12を挟圧する。ここで上述のように、成型ロール13の表面13aには、エンボスパターンを構成する複数の溝13bが形成されている。このため、成型ロール13と挟圧機構15とにより挟圧されたシート原反12には、成型ロール13のエンボスパターンが転写される。
【0064】
エンボスパターンが転写されたシート原反12は、その後、成型ロール13と冷却ロール19との間で挟圧され、かつ冷却される。これによって、シート原反12が冷却されて固まるとともに、賦形の際に生じうる反りが取り除かれる。このようにして、所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シート30が得られる。
【0065】
ところで、熱可塑性樹脂シート30の製造工程において、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度は、温度制御機構25により、シート原反12を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御されている。このため、挟圧部14の上流側端部14aに到達する際の成型ロール13の表面13aの温度、およびシート原反12の成型ロール13側の表面13aの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなっている。このため、シート原反12は、流動性が高い状態で成型ロール13の溝13b内に押し込まれる。これによって、シート原反12を成型ロール13の溝13bの最深部13d近傍まで十分に押し込むことが可能となり、このことにより、高い賦形率で熱可塑性樹脂シート30を製造することが可能となる。
【0066】
なお賦形率とは、成型ロール13のエンボスパターンがどの程度正確に熱可塑性樹脂シート30に転写されたかを表す指標となる値であり、以下の式で与えられる値である。
賦形率(%)=(L/L)×100
ここで、Lは、得られた熱可塑性樹脂シート30の単位形状要素32の高さであり、Lは、成型ロール13の溝13bの深さである。本実施の形態によれば、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度を高くすることにより、賦形率を向上させることができ、この場合、賦形率は例えば90〜100%の範囲内となっている。このような高い賦形率を実現することにより、高い光学的機能を有する熱可塑性樹脂シート30(光学シート)を提供することが可能となる。
【0067】
例えば、熱可塑性樹脂シート30の単位形状要素32が三角形形状の断面を有する場合、すなわち、熱可塑性樹脂シート30がいわゆるプリズムシートである場合について考える。本実施の形態によれば、高い賦形率を実現することにより、三角形形状の断面の頂点における丸みが少ない単位形状要素32を製造することができる。このことにより、プリズムシートにおける正面輝度を高める効果がより向上される。
【0068】
比較の形態
次に、本実施の形態の効果を比較の形態と比較して説明する。図6(a)は、比較の形態における熱可塑性樹脂シートの製造装置100を示す側面図であり、図6(b)は、比較の形態において、製造装置100の成型ロール13が加熱される様子を示す図である。
【0069】
図6(a)(b)に示す比較の形態における製造装置100は、成型ロール13の表面13aに向かって熱を放出する赤外ヒーター101が設けられ、一方、挟圧部14の上流側近傍の領域を覆う保温カバーが設けられていない点が異なるのみであり、他の構成は、図1乃至図5に示す本発明の実施の形態と略同一である。図6(a)(b)に示す比較の形態において、図1乃至図5に示す本発明の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0070】
上述のように比較の形態においては、挟圧部14の上流側端部14a近傍の領域を覆う保温カバーが設けられていない。この場合、成型ロール13の表面13aは、赤外ヒーター101からの放射熱(赤外線)によって加熱される。
【0071】
図6(b)において(1)〜(3)で示される経路は、様々な角度で成型ロール13の溝13bに照射される赤外線の経路を示している。図6(b)に示すように、成型ロール13の表面13aに形成された複数の溝13bは各々、三角形形状の断面を有している。この場合、図6(b)に示すように、溝13bに照射される赤外線の多くは、溝13bの最深部13d近傍に到達することなく溝13bの表面で反射されると考えられる。このため、比較の形態においては、溝13bの最深部13d近傍の温度が十分に高められないと考えられる。
【0072】
また供給ダイ11の開口11aから押し出されたシート原反12が挟圧部14の上流側端部14aに到達するには、所定の時間を要する。このため、上流側端部14aに到達するまでにシート原反12が冷却され、これによって、上流側端部14aに到達した際のシート原反12の温度がガラス転移点よりも低くなってしまうことが考えられる。このような温度の低下を防ぐため、挟圧部14の上流側近傍においてシート原反12を加熱することが好ましいが、しかしながら比較の形態においては、上述のように、挟圧部14の上流側端部14a近傍の領域を覆う保温カバーが設けられていない。このため比較の形態においては、シート原反12を十分に加熱することができず、従って、挟圧部14の上流側端部14aに到達した際のシート原反12の表面の温度が、供給ダイ11から押し出された際の温度に比べて大きく下がっていると考えられる。
【0073】
そして、最深部13d近傍の温度が十分に高められていない溝13b内にシート原反12が押し込まれる場合、シート原反12が最深部13dに向かって進むにつれて、シート原反12の温度がさらに低下することになる。このため、最深部13d近傍に到達したシート原反12の流動性を十分に確保することができず、従って、賦形の際に大きな隙間13cが形成されてしまう。すなわち比較の形態によれば、成型ロール13の溝13bの最深部13dを十分に加熱することができず、かつ、挟圧部14の上流側端部14aに到達した際のシート原反12の表面の温度を十分に高くすることができない。このため、高い賦形率を実現することができないと考えられる。
【0074】
これに対して本発明の実施の形態によれば、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度は、温度制御機構25により、シート原反12を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御されている。このため、成型ロール13の溝13bの最深部13dを十分に加熱することができ、加えて、挟圧部14の上流側端部14aに到達した際のシート原反12の表面の温度を十分に高くすることができる。これによって、最深部近傍13dに到達したシート原反12の流動性を十分に確保することができ、このことにより、高い賦形率で熱可塑性樹脂シート30を製造することができる。
【0075】
変形例
なお本実施の形態において、挟圧機構15が、ニップロール16と、調整ロール17と、ニップロール16および調整ロール17に巻きつけられたベルト18と、からなる例を示した。すなわち、成型ロール13に沿って搬送されるベルト18により、シート原反12が成型ロール13に対して押し付けられる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、図7に示すように、挟圧機構15がニップロール16Aからなり、このニップロール16Aにより、シート原反12が成型ロール13に対して押し付けられてもよい。
【0076】
ニップロール16Aの形態が特に限られることはなく、熱可塑性樹脂シート30に要求される特性に応じて、弾性体または金属などからなるロールが適宜用いられる。中心が金属からなり、表面が弾性体からなるロールがニップロール16Aとして用いられてもよい。また、得られる熱可塑性樹脂シート30の表面の平滑性を向上させるため、ニップロール16Aの表面に鏡面仕上げが施されていてもよい。
【0077】
ニップロール16Aがシート原反12を成型ロール13に対して押し付ける際の線圧は、熱可塑性樹脂の特性、成型ロール13の溝13bの形状などに応じて適宜設定される。例えば、ニップロール16Aがシート原反12を成型ロール13に対して押し付ける際の線圧が100kg/cmとなるよう、ニップロール16Aが成型ロール13に対して配置される。
【0078】
ニップロール16Aの直径は、成型ロール13の直径、シート原反12の搬送速度などに応じて適宜選択されるが、例えば、100〜350mmの範囲内となっている。
【0079】
その他の変形例
また本実施の形態において、供給ダイ11から供給されるシート原反12を構成する熱可塑性樹脂が、例えばポリカーボネート系樹脂からなる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、シート原反12を構成する熱可塑性樹脂が、図8に示すように、成型ロール13のエンボスパターン内に押し込まれる賦形層42と、賦形層42よりも成型ロール13側に位置する第1保護層41と、賦形層42よりも挟圧機構15側に位置する第2保護層43と、を有していてもよい。若しくは、図示はしないが、シート原反12が賦形層42と第1保護層41とからなっていてもよく、または、シート原反12が賦形層42と第2保護層43とからなっていてもよい。また、シート原反12が上記の層以外の層をさらに有していてもよい。
【0080】
賦形層42は、成型ロール13の溝13b内に押し込まれて成形される層であり、例えばポリカーボネート系樹脂からなっている。第1保護層41および第2保護層43は、熱可塑性樹脂シート30の表面が傷つくのを防ぐための層であり、ハードコート性または復元性などの耐傷付性を有する層である。
【0081】
また本実施の形態において、成型ロール13上の第1境界部Bは、成型ロール13の直径をD〔mm〕とするとき、挟圧部14の上流側端部14aから第1境界部Bまでの成型ロール13上における長さSがπ×D/16〜π×D/2〔mm〕の範囲内となるよう定められる例を示した。すなわち、挟圧部14の上流側端部14aから第1境界部Bまでの成型ロール13上における長さSが、成型ロール13の直径に応じて定められる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、挟圧部14の上流側端部14aから第1境界部Bまでの成型ロール13上における長さSが、成型ロール13の周速度に応じて定められてもよい。例えば、第1境界部Bは、成型ロール13の周速度をV〔mm/s〕とするとき、挟圧部14の上流側端部14aから第1境界部Bまでの成型ロール13上における長さSが0.05〔s〕×V〔mm/s〕〜2〔s〕×V〔mm/s〕の範囲内となるよう定められてもよい。ここで、周速度Vは以下の式により定義される。
=π×D×R
このうちD〔mm〕は、成型ロール13の直径であり、R〔1/s〕は、成型ロール13の単位時間あたりの回転数である。このように成型ロール13の周速度に応じて第1境界部Bを定めることにより、成型ロール13の周速度に依らず、成型ロール13上の所定ポイントが第1境界部Bを通過してから挟圧部14の上流側端部14aに到達するまでの時間を、0.05〜2〔s〕の範囲内とすることができる。すなわち、挟圧部14の上流側端部14aに到達する前の成型ロール13の表面13aを、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御された挟圧部直前領域20内で0.05〜2秒間にわたって加熱することができる。これによって、挟圧部14の上流側端部14aに到達する際の成型ロール13の溝13bの温度を十分に高めることができ、このことにより、高い賦形率を実現することができる。
【0082】
また本実施の形態において、シート原反12上の第2境界部Bは、挟圧部14の上流側端部14aから第2境界部Bまでのシート原反12上における長さSが50〜200〔mm〕の範囲内となるよう定められる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、挟圧部14の上流側端部14aから第2境界部Bまでのシート原反12上における長さSが、シート原反12の搬送速度に応じて定められてもよい。例えば、シート原反12上の第2境界部Bは、シート原反12の搬送速度をV〔mm/s〕とするとき、挟圧部14の上流側端部14aから第2境界部Bまでのシート原反12上における長さSが0.01〔s〕×V〔mm/s〕〜0.5〔s〕×V〔mm/s〕の範囲内となるよう定められてもよい。このようにシート原反12の搬送速度に応じて第2境界部Bを定めることにより、シート原反12の搬送速度に依らず、シート原反12上の所定ポイントが第2境界部Bを通過してから挟圧部14の上流側端部14aに到達するまでの時間を、0.01〜0.5〔s〕の範囲内とすることができる。すなわち、挟圧部14の上流側端部14aに到達する前のシート原反12の表面12aを、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御された挟圧部直前領域20内で0.01〜0.5秒間にわたって加熱することができる。これによって、挟圧部14の上流側端部14aに到達する際のシート原反12の表面12aの温度を十分に高めることができ、このことにより、高い賦形率を実現することができる。
【0083】
また本実施の形態において、挟圧部直前領域20を覆う保温カバー21が鉄板から構成される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度を略一定に保ちうる様々な材料から保温カバー21を構成することができる。
【0084】
また本実施の形態において、挟圧部直前領域20内に、成型ロール13の表面13aに向かって熱を放出するセラミックヒーター22と、シート原反12の成型ロール13側の表面12aに向かって熱を放出する赤外ヒーター23と、が設けられる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、セラミックヒーター22または赤外ヒーター23のどちらか一方のみが設けられていてもよい。若しくは、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23に加えて、その他のさらなるヒーターが設けられていてもよい。
また、挟圧部直前領域20内に設けられるヒーターのタイプが、セラミックヒーター22または赤外ヒーター23に限られることはなく、挟圧部直前領域20内の雰囲気温度を制御することができる様々なタイプのヒーターを用いることができる。
【0085】
また本実施の形態において、製造される熱可塑性樹脂シート30がプリズムシートであり、成型ロール13の表面13aに形成された複数の溝13bが、プリズムパターンに対応する三角形形状の断面を有する例を示した。しかしながら、製造される熱可塑性樹脂シート30の凹凸パターンが特に限られることはなく、本実施の形態による製造装置10により、様々な凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シート30が製造され得る。すなわち、成型ロール13の溝13bの断面形状が、三角形形状に変調、変形を加えた形状であってもよい。例えば、溝13bの断面形状が、三角形のいずれか一以上の辺が折れ曲がった(屈曲した)形状、三角形のいずれか一以上の辺が湾曲した形状(所謂扇形)、三角形の頂点近傍を湾曲させて丸みを帯びさせた形状、三角形のいずれか一以上の辺に微小凹凸を付与した形状であってもよい。また、溝13bの断面形状が、三角形形状以外の形状、例えば台形等の四角形、五角形、或は六角形等の種々の多角形形状を有するようにしてもよい。さらに、溝13bが、断面において、円または楕円形状の一部分に相当する形状を有するようにしてもよい。
【0086】
また本実施の形態において、成型ロール13の表面13aに形成された複数の溝13bがすべて同一の断面形状を有する例を示したが、これに限られない。断面形状が互いに異なる複数種類の溝が、成型ロール13の表面13aに形成されていてもよい。
【実施例】
【0087】
次に、上述した実施の形態の具体的実施例を、比較例とともに説明する。
【0088】
(実施例1)
溶融状態の熱可塑性樹脂を収納し、熱可塑性樹脂からなるシート原反12を供給する供給ダイ11を、挟圧部14の上流側端部14aまでの距離が200mmとなるよう上流側端部14aの略鉛直方向上方に配置した。熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂を用いた。
【0089】
成型ロール13として、その直径Dが250mmであり、その表面13aに複数の三角形形状の溝13bが形成された成型ロール13を用いた。各溝13bの深さLは32μmとなっていた。成型ロール13は、その表面13aの温度が全体的に135°となるよう、成型ロール13に取り付けられた温度制御手段(図示せず)により温度制御されていた。
【0090】
挟圧機構15として、ニップロール16と、調整ロール17と、ニップロール16および調整ロール17に巻きつけられたベルト18と、を有する挟圧機構15を用いた。ニップロール16および調整ロール17として、その直径が100mmおよび100mmであるニップロール16および調整ロール17を用いた。成型ロール13の場合と同様に、ニップロール16および調整ロール17の表面はそれぞれ全体的に90°および90°に温度制御されていた。
【0091】
シート原反12の搬送速度を、250mm/s(=15m/分)に設定した。また、ニップロール16がシート原反12を成型ロール13に対して押し付ける際の線圧が100kg/cmとなるよう、ニップロール16を成型ロール13に対して配置した。
【0092】
挟圧部直前領域20の雰囲気温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御するため、温度制御機構25を用いた。温度制御機構25としては、熱源と、挟圧部直前領域20を外部から覆う保温カバー21と、を有する温度制御機構25を用いた。熱源としては、成型ロール13の表面13aに向かって熱を放出するセラミックヒーター22と、シート原反12の近傍に設けられ、シート原反12の成型ロール13側の表面12aに向かって熱を放出する赤外ヒーター23と、を用いた。
【0093】
挟圧部直前領域20内の雰囲気温度が300°となるよう、制御部24により、セラミックヒーター22および赤外ヒーター23の温度を制御した。このとき、セラミックヒーター22の設定温度は400°となっており、赤外ヒーター23の設定温度は600°となっていた。
【0094】
上述の各構成要素からなる製造装置10を用いて、賦形により熱可塑性樹脂シート30を作製した。
【0095】
(実施例2)
温度制御機構25の熱源として、成型ロール13の表面13aに向かって熱を放出するセラミックヒーター22のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0096】
(実施例3)
温度制御機構25の熱源として、シート原反12の近傍に設けられ、シート原反12の成型ロール13側の表面12aに向かって熱を放出する赤外ヒーター23のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0097】
(比較例1)
保温カバー21を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0098】
(比較例2)
保温カバー21を設けなかったこと以外は、実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0099】
(比較例3)
保温カバー21を設けなかったこと以外は、実施例3と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0100】
(比較例4)
温度制御機構25を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂シート30を製造した。
【0101】
(評価)
実施例1乃至3および比較例1乃至4で得られた熱可塑性樹脂シート30に対して、以下の評価を行った。
【0102】
(評価方法1 賦形率)
実施例1乃至3または比較例1乃至4に係る熱可塑性樹脂シート30の単位形状要素32の高さLを測定した。次に、測定された高さLに基づいて、熱可塑性樹脂シート30における賦形率を算出した。
【0103】
(評価方法2 正面輝度)
はじめに、実施例1乃至3または比較例1乃至4に係る熱可塑性樹脂シート30(A4サイズ)と、光源と、を組み合わせて、透過型表示装置をそれぞれ準備した。次に、透過型表示装置によって白色を表示した状態で、正面方向輝度(cd/m2)の測定を行った。輝度の測定には、トプコン製のBM−7(2度視野)を用いた。
光源としては、約300mm×300mmの領域に渡って6本の蛍光灯が配列された光源を用いた。
【0104】
実施例1乃至3または比較例1乃至4における、賦形率および正面輝度の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0105】
実施例1乃至3と比較例1乃至4との比較から、保温カバー21を設けることにより、高い賦形率および正面輝度が実現されることがわかる。すなわち本実施例によれば、挟圧部直前領域20の雰囲気温度を高くし、これによって成型ロール13の表面13aおよびシート原反12の表面12aを万遍なく加熱することにより、高い賦形率および正面輝度を実現することができたと言える。
【0106】
また、実施例1と実施例2との比較から、成型ロール13の表面13aだけでなく、シート原反12の表面12aを加熱することにより、より高い賦形率および正面輝度が実現されたことがわかる。
【符号の説明】
【0107】
10 熱可塑性樹脂シートの製造装置
11 供給ダイ
11a 供給ダイの開口
12 シート原反
12a シート原反の成型ロール側の表面
13 成型ロール
13a 成型ロールの表面
13b 成型ロールの溝
13c 隙間
13b 最深部
14 挟圧部
14a 上流側端部
15 挟圧機構
16 ニップロール
17 調整ロール
18 ベルト
19 冷却ロール
20 挟圧部直前領域
21 保温カバー
22 セラミックヒーター
23 赤外ヒーター
24 制御部
25 温度制御機構
30 熱可塑性樹脂シート
31 本体部
32 単位形状要素
41 第1保護層
42 賦形層
43 第2保護層
50 表示装置
55 透過型表示部(表示パネル)
60 面光源装置
62 反射板
65 光源
65a 発光部
68 拡散板
70 下拡散シート
75 上拡散シート
100 熱可塑性樹脂シートの製造装置
101 赤外ヒーター
CA 成型ロールの中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シートを賦形により製造する製造装置において、
熱可塑性樹脂からなるシート原反を供給する供給ダイと、
供給ダイの下方に設けられ、熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンに対応するエンボスパターンが表面に形成された成型ロールと、
成型ロールとの間でシート原反を挟圧部において挟圧する挟圧機構と、
挟圧部の上流側近傍の挟圧部直前領域の雰囲気温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高い温度に制御する温度制御機構と、を備え、
前記挟圧部直前領域は、成型ロールの表面上の第1境界部と、挟圧部と、シート原反の成型ロール側の表面上の第2境界部と、を含む
ことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
前記温度制御機構は、前記挟圧部直前領域を外部から覆う保温カバーと、保温カバーの内側に設けられた熱源と、挟圧部直前領域の雰囲気温度が熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなるよう熱源を制御する制御部と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
前記熱源が、前記成型ロールの表面に向かって熱を放出する第1熱源と、前記シート原反の成型ロール側の表面に向かって熱を放出する第2熱源と、を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
前記成型ロール上の前記第1境界部は、成型ロールの直径をD〔mm〕とするとき、挟圧部から第1境界部までの成型ロール上における長さがπ×D/16〜π×D/2〔mm〕の範囲内となるよう定められる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
前記シート原反上の前記第2境界部は、挟圧部から第2境界部までのシート原反上における長さが50〜200〔mm〕の範囲内となるよう定められる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記成型ロール上の前記第1境界部は、成型ロール上の所定ポイントが第1境界部を通過してから挟圧部に到達するまでの時間が0.05〜2〔s〕の範囲内となるよう定められる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
前記シート原反上の前記第2境界部は、シート原反上の所定ポイントが第2境界部を通過してから挟圧部に到達するまでの時間が0.01〜0.5〔s〕の範囲内となるよう定められる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンは、三角形形状の断面を有する複数の単位形状要素から形成されるプリズムパターンであり、
前記成型ロールの表面に、熱可塑性樹脂シートのプリズムパターンに対応する三角形形状の断面を有する複数の溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項9】
前記シート原反を構成する熱可塑性樹脂は、前記成型ロールのエンボスパターンに押し付けられる賦形層を有し、
当該賦形層は、ポリカーボネート系樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂は、前記賦形層よりも前記成型ロール側に位置する第1保護層をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂は、前記賦形層よりも前記挟圧機構側に位置する第2保護層をさらに有する
ことを特徴とする請求項9または10に記載の熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項12】
所定の凹凸パターンを有する熱可塑性樹脂シートを賦形により製造する製造方法において、
熱可塑性樹脂を収納する供給ダイを準備する工程と、
供給ダイ下方に設けられた成型ロールと挟圧機構との間に形成される挟圧部に向けて、供給ダイから、熱可塑性樹脂からなるシート原反を押し出す工程と、
挟圧部において成型ロールと挟圧機構とによりシート原反を挟圧する工程と、を備え、
前記成型ロールの表面には、熱可塑性樹脂シートの凹凸パターンに対応するエンボスパターンが形成されており、
挟圧部に到達する際の成型ロールの表面の温度およびシート原反の成型ロール側の表面の温度が、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも高くなるよう、挟圧部の上流側近傍における雰囲気温度が制御される
ことを特徴とする熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項13】
光源と、
請求項12に記載の製造方法により得られた熱可塑性樹脂シートであって、前記光源からの光を受ける熱可塑性樹脂シートと、を備えた
ことを特徴とする面光源装置。
【請求項14】
請求項13に記載の面光源装置と、
前記面光源装置に対向して配置された透過型表示部と、を備えた
ことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−25016(P2012−25016A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165201(P2010−165201)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】