説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】極めて優れた成形品外観、表面硬度、耐久性を有すると共に、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れ、特に外観、硬度に優れた水周り部品(特に浴室用製品、洗面所用製品、トイレ用製品、流し台用製品等の水周り部品)に適した熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)ポリトリメチレンテレフタレート50〜99重量部と(B)非晶性ポリエステル50〜1重量部を含む(X)樹脂組成物100重量部に対して、(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材を10〜300重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。熱可塑性樹脂組成物中の(A)成分+(B)成分の極限粘度は[η]が0.60〜1.50dl/gであることが好ましく、また、(A)成分+(B)成分100重量部に対して、さらに(D)スチレン系樹脂0.1〜20重量部を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳しくは、本発明は、極めて優れた成形品外観、表面硬度、耐久性を有すると共に、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
強化ポリエステル樹脂組成物は機械特性、耐薬品性、耐候性、電気的特性等に優れるため、自動車部品、電気・電子部品などの広い分野でその使用が期待されている。中でも、強化ポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略すことがある。)樹脂は特に優れた外観、表面硬度、機械物性および耐候性を有するため、自動車外装部品および工業部品用材料として期待されている。自動車用途においては、近年燃費向上の為の軽量化、低コスト化、部品のモジュ−ル化、一体化の観点から、従来金属や熱硬化性樹脂が使用されている自動車構造部品を熱可塑性樹脂に代替する動きが顕著である。その結果、樹脂成形品は大型化、厚肉化の傾向にあり、さらなる成形加工性の向上が求められている。また一方で、工業用途においても、オフィス家具や住宅用資材などにおいて、軽量化及び環境適合性の観点から金属や熱硬化性樹脂を代替する動きは加速しており、大型厚肉成形性、あるいは中空射出成形性に対する樹脂への要求特性はますます求められている。
【0003】
しかしながら、PTTは分子鎖の絡み合いが少ないため、樹脂として靭性が不足しているという問題があった。さらに、大型成形を行う場合には、溶融滞留時間が長くなる傾向にあるが、PTTは熱分解し易く、滞留安定性が低いという問題もあった。
上記問題を解決すべく、PTTと無機充填材の界面を強化した樹脂組成物が開示されている(特許文献1参照)。PTTと無機充填材を含む強化PTT樹脂組成物の靭性は確かに改善されるが、成形品が大型化し、加工時の溶融滞留時間が長くなるとその効果が小さくなる問題があった。
【0004】
また、PTTの靭性を改良すべく、PTTにガラス転移温度20℃以下のエラストマーを添加した樹脂組成物が開示されている(特許文献2参照)。上記手段により、PTTを含む成形体の靭性は確かに改良されるが、同時に表面硬度も低下する問題があった。
さらに、例えばPTTに第2成分としてポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂を添加し、結晶化速度を制御した樹脂組成物が開示されている。(特許文献3参照)上記手段により、厚肉成形性は確かに改善されるが、成形体が大型化した場合、シリンダー内で樹脂の滞留時間が長くなり、改善効果が小さくなる問題があった。
その他にもポリブチレンテレフタレートに共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂と無機充填材を添加する樹脂組成物が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、成形品の表面光沢及び表面硬度は依然として不十分である。
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/090435号パンフレット
【特許文献2】特開2003−020389号公報
【特許文献3】特開2004−285108号公報
【特許文献4】特開2002−088235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、極めて優れた成形品外観、表面硬度、耐久性を有すると共に、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れ、例えば、自動車部品材料、電気電子材料、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として好適に使用することができる熱可塑性樹脂組成物、中でも特に外観、硬度に優れた水周り部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)ポリトリメチレンテレフタレートと(B)非晶性ポリエステルと(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材を含む樹脂組成物が特定の組成比の場合に、該樹脂組成物から得られる成形体が成形品外観、表面硬度、耐久性に加え、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の通りの熱可塑性樹脂組成物及びこれを用いた樹脂成形体である。
【0008】
(1)(A)ポリトリメチレンテレフタレート99〜50重量部と(B)非晶性ポリエステル1〜50重量部を含む(X)樹脂組成物100重量部に対して、(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材を10〜300重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
(2)熱可塑性樹脂組成物中の(A)成分+(B)成分の極限粘度[η]が0.60〜1.50dl/gである、(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)(B)成分がネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸よりなる群から選ばれる1種以上の成分を10モル%以上含む共重合ポリエチレンテレフタレートである、(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)(X)成分が(A)成分98〜50重量部と(B)成分2〜50重量部を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)(X)樹脂組成物が(A)成分+(B)成分100重量部に対して、さらに(D)スチレン系樹脂0.1〜20重量部を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含んでなる樹脂成形体。
(7)成形体のバーコル硬度が20以上であり、且つ表面グロス(20°)が50以上である、(6)に記載の樹脂成形体。
(8)少なくとも一部が(7)に記載の樹脂成形体から構成されていることを特徴とする水周り部品。
(9)水周り部品が洗面カウンター、キッチンカウンター、キッチンシンク、浴槽、洗面ボール、手洗ボール、トイレカウンターまたはキャビネット天板である、(8)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、従来の熱可塑性樹脂組成物と比較し、極めて優れた成形品外観、硬度、耐久性を有すると共に、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れるという顕著な効果を有する。該熱可塑性樹脂組成物は、例えば、自動車部品材料、電気電子材料、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として好適に使用することができる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、従来の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体では達成し得なかった外観、硬度及び耐久性を保持しており、水周り部品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における(A)ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略称することがある。)とは、酸成分としてテレフタル酸を用い、グリコール成分としてトリメチレングリコールを用いたポリエステルポリマーを示している。本発明においてトリメチレングリコールとしては、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,1−プロパンジオール及び2,2−プロパンジオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる。それらの中でも安定性の観点から1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
【0011】
このほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、酸成分として、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸等;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;ε−オキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシジカルボン酸を一部用いて共重合することができる。また、グリコール成分として、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ハイドロキノンなどを一部用いて共重合することができる。
共重合する場合の共重合成分の量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限はないが、通常酸成分の20モル%以下、あるいはグリコール成分の20モル%以下であることが好ましい。
【0012】
また、上述のポリエステル成分に分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の、三官能または四官能のエステル形成能を持つ酸、またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリットなどの三官能または四官能のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよい。その場合にそれらは全ジカルボン酸成分の1.0モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、さらに好ましくは、0.3モル%以下であってもよい。
【0013】
本発明におけるPTTには、これら共重合成分を2種類以上組み合わせて使用する場合も含む。
本発明に用いられるPTTの製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、特開昭51−140992号公報、特開平5−262862号公報、特開平8−311177号公報等に記載されている方法によって製造することができる。一例として、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(例えばジメチルエステル、モノメチルエステル等の低級アルキルエステル)とトリメチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを、触媒の存在下、好適な温度・時間で加熱反応させ、更に得られるテレフタル酸のグリコールエステルを触媒の存在下、好適な温度・時間で所望の重合度まで重縮合反応させる方法が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられるPTTの極限粘度[η]は0.60dl/g〜1.50dl/gであることが組成物より得られる成形体の機械特性の面から好ましく、[η]が0.70dl/g〜1.40dl/gであることがより好ましい。さらに靭性及び耐薬品性の観点から[η]が0.80dl/g〜1.30dl/gであることが最も好ましい。
なお、PTTの極限粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ml)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式(1)により求めることが出来る。
【0015】
【数1】

【0016】
また、PTTはカルボキシル末端基濃度が0〜80eq/トンであることが、該樹脂組成物の滞留安定性の観点から好ましく、0〜50eq/トン以下がより好ましく、0〜30eq/トン以下が更に好ましく、0〜20eq/トンが特に好ましく、低ければ低いほど良い。
また、同様の理由よりPTTにはエーテル結合を介して結合したグリコール二量体成分であるビス(3−ヒドロキシプロピル)エーテル成分(構造式:−OCHCHCHOCHCHCHO−、以下「BPE」と略す)の含有率が0〜2重量%であることが好ましい。エーテル成分は0.1〜1.5重量%であることがより好ましく、0.15〜1.2重量%であることが更に好ましい。
【0017】
また、本発明はPTTに必要に応じて、各種の添加剤、例えば、pH調整剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、艶消し剤などを共重合、または混合する場合も含む。
【0018】
本発明に用いられる(B)非晶性ポリエステルとは、示差走査熱量測定器(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を使用して、(B)成分を280℃の溶融状態で3分間保持した後、20℃/分で降温した際の結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以下である熱可塑性ポリエステル樹脂を指す。非晶性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルに、1,6−へキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、イソフタル酸、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の異種モノマーを共重合させたものが挙げられる。中でも、非晶性ポリエステルがネオペンチルグリコール、1−4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸よりなる群から選ばれる1種以上の成分を10モル%以上含む共重合ポリエチレンテレフタレートが、成形品の外観及び表面硬度の観点から好ましく用いられる。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリトリメチレンテレフタレート50〜99重量部に対して、(B)非晶性ポリエステル50〜1重量部であり、成形品外観、表面硬度、耐久性の観点から、(A)成分70〜98重量部に対して、(B)成分30〜2重量部であることがより好ましく、(A)成分80〜97重量部に対して、(B)成分20〜3重量部であることがさらに好ましく、(A)成分85〜95重量部に対して、(B)成分15〜5重量部であることが最も好ましい。
【0020】
(B)非晶性ポリエステルの分子量に特に制限はないが、o−クロロフェノール溶媒を用いて35℃で測定した極限粘度[η](dl/g)が0.40〜2.00のものが機械的特性の面から好ましく、0.50〜1.50のものがさらに好ましく、0.60〜1.20のものが最も好ましい。
極限粘度[η]についてはオストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ml)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式(1)により求めることが出来る。
【0021】
【数1】

【0022】
本発明における(C)繊維状無機充填材は平均繊維アスペクト比(L/D)が2以上の形状を有する無機フィラ−を示す。この場合、Lは繊維長、Dは繊維径を指す。特に表面硬度、大型成形性の観点から、平均繊維アスペクト比(L/D)が5以上であることが好ましく、10以上であることが最も好ましい。又、外観及び表面硬度の観点から繊維径は10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが最も好ましい。平均繊維径及び平均繊維アスペクト比(L/D)は、レーザー顕微鏡を用いて、該繊維状フィラ−を100本以上観察し、繊維径(D)及び繊維長(L)を実測の上、それぞれの平均値を計算により算出することができる。
【0023】
繊維状無機充填材の具体例としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、繊維状アパタイト、アタバルジャイト、セピオライト、ゾノトライト、硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ウォラストナイト、テトラポッド型酸化チタン、硫酸バリウムさらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の繊維状フィラ−が挙げられる。
本発明における繊維状無機充填材としては、外観、表面硬度及び大型成形性の観点から、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムフィスカー、テトラポット型酸化亜鉛の群から選ばれる一種以上の無機フィラ−が好ましい。最も好ましくはウォラストナイトである。
【0024】
本発明における(C)板状無機充填材は、平面状に広がりを持った無機フィラ−であり、平均アスペクト比(L/D)が2以上の形状を有するものである。この場合、Lは板平面の対角線の長さ、Dは板の厚みを指す。平均繊維アスペクト比(L/D)は、レーザー顕微鏡を用いて、該板状フィラ−を100本以上観察し、板厚(D)及び板平面の対角線長(L)を実測の上、それぞれの平均値を計算により算出することができる。(C)板状無機充填材の具体例としては、タルク、マイカ、カオリン、焼成カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、セリサイト、ベントナイト、ベーマイト、アルミナ、アパタイト、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ガラスフレーク、金属粉粒体等が挙げられる。
【0025】
(C)板状無機充填材は、成形品外観、表面硬度、寸法安定性、及び大型成形性の観点から、その最大粒子径(板平面の対角線長)が好ましくは0.1〜30μm、さらに好ましくは0.25〜20μm以上、最も好ましくは0.5〜10μmであることが好ましい。そのアスペクト比(L/D)は、好ましくは2〜50であり、より好ましくは2〜35であり、最も好ましくは2〜20である。上記観点より、好ましい板状フィラーとしては、硫酸バリウム、焼成カオリン、マイカ、セリサイト、タルク、ベーマイトであり、最も好ましくは硫酸バリウムと焼成カオリンである。
上記繊維状充填材及び板状無機充填材は一種又は二種以上併用することができる。また繊維状無機充填材と板状無機充填材の併用は、機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。
【0026】
(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材の樹脂組成物への添加量は、(A)成分+(B)成分100重量部に対して、(C)成分10〜300重量部であり、剛性及び成形品外観の観点から25〜150重量部であることがより好ましく、50〜100重量部であることが最も好ましい。
【0027】
(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材は、特に表面処理を施したものが好ましく用いられる。表面処理としては公知のカップリング剤やフィルム形成剤を用いて行う。好ましく用いられるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤が挙げられる。これ等の化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製の際同時に添加してもよい。
【0028】
シラン系カップリング剤としては、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(1,1-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-α-(アミノエチル)-α-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-α-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピル-トリス(2-メトキシ-エトキシ)シラン、N-メチル-α-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-α-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-4,5ジヒドロイミダゾールプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O-(ビストリメチルシリル)アミド、N,N-ビス(トリメチルシリル)ウレア等が挙げられる。
この中でも、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-α-(アミノエチル)-α-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(1,1-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のアミノシランおよびエポキシシランが好ましく用いられる。
【0029】
チタン系カップリング剤は、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェイト)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスフェイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(1,1-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェイト)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミドエチル、アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。
【0030】
フィルム形成剤としては、ウレタン系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、無水マレイン酸とエチレン、スチレン、α-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3-ジクロロブタジエン、1,3-ペンタジエン、シクロオクタジエンなどの不飽和単量体とのコポリマー、エポキシ系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、酢酸ビニル系ポリマー、ポリエーテル系ポリマーなどの重合体を挙げることが出来る。これらの中でも、エポキシ系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、ブタジエン無水マレイン酸コポリマー、エチレン無水マレイン酸コポリマー、スチレン無水マレイン酸コポリマー、及び、これらの混合物が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂組成物中の(A)成分+(B)成分の極限粘度[η]が0.60〜1.50dl/gであることが、大型成形性の観点から好ましく、0.70〜1.40dl/gであることがより好ましく、0.80〜1.30dl/gであることさらに好ましく、0.90〜1.20dl/gであることが最も好ましい。
(A)成分+(B)成分の極限粘度[η]についてはオストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ml)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、前記式(1)により求めることが出来る。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は大型成形性の観点から、さらに(D)スチレン系樹脂を配合することが好ましい。(D)スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、スチレン系エラストマー等が挙げられる。
【0033】
スチレン系エラストマーとしては、スチレンを必須成分として、ブタジエン、ブタジエンの水添物、エチレン、プロピレン、ブテン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、オレフィンからなる群から少なくとも1つ以上物質とのブロック共重合体が挙げられる。
本発明における(D)スチレン系樹脂の配合量は、(A)成分+(B)成分100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが大型成形性の観点から好ましく、0.3〜10重量部であることがより好ましく、0.5〜5重量部であることが最も好ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は280℃の溶融状態から20℃/分の条件で降温した時に得られる結晶化温度Tcが160℃以上190℃以下であることが外観、表面硬度及び大型成形性の観点から好ましく、170℃以上190℃以下であることがより好ましく、175℃以上190℃以下であることが最も好ましい。
上記結晶化温度Tcは、示差走査熱量測定器(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を使用して求めることができる。具体的には、120℃、5時間、10Pa以下の真空乾燥を行った本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、DSCで室温から20℃/分の条件で280℃まで昇温し、280℃で2分間保持した後、20℃/分で20℃まで降温した際に得られる結晶化ピーク温度を結晶化温度Tcとする。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は上記結晶化温度Tcを達成するため、さらに(E)結晶核剤を併用することが好ましい。結晶核剤としては、結晶化促進効果の大きさから結晶性ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。特にポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートが結晶核剤としての効果が大きい。結晶核剤の添加量は、耐熱性および熱時剛性の観点から、(A)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.01〜100重量部であることが好ましく、0.1〜50重量部であることがより好ましく、0.5〜30重量部であることが最も好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物あるいは樹脂成形体に、さらに(F)成形性改良剤を添加するとより本発明の目的に合致した樹脂組成物あるいは樹脂成形体が得られる。(F)成形性改良剤としては、高級脂肪酸類、高級脂肪酸金属塩類、高級脂肪酸エステル類、高級脂肪酸アミド化合物類、ポリアルキレングリコールあるいはその末端変性物類、低分子量ポリエチレンあるいは酸化低分子量ポリエチレン類、置換ベンジリデンソルビトール類、ポリシロキサン類、カプロラクトン類が挙げられる。特に好ましいのは、(x)高級脂肪酸類、(y)高級脂肪酸金属塩類、(z)高級脂肪酸エステル類である。以下これら(F)成形性改良剤について詳細に説明する。
【0037】
(x)高級脂肪酸類
高級脂肪酸類としては、高級飽和脂肪酸類、高級不飽和脂肪酸類あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
(x−1)高級飽和脂肪酸類
高級飽和肪酸類は、例えばカプリン酸、ウラデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
(x−2)高級不飽和脂肪酸類
高級不飽和脂肪酸類としては、炭素数が6〜22の不飽和脂肪酸が好ましく用いられ、中でも、より好ましいものとしては、例えばウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビル酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸、2−ヘキサデセン酸、7−ヘキサデセン酸、9−ヘキサデセン酸、ガドレイン酸、ガドエライジン酸、11−エイコセン酸など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0039】
(y)高級脂肪酸金属塩類
高級脂肪酸金属塩類としては、高級飽和脂肪酸金属塩類、高級不飽和脂肪酸金属塩類あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
(y−1)高級飽和脂肪酸金属塩類
高級飽和肪酸金属塩類は、下記一般式で示される。
CH(CHCOO(M)
ここで、n=8〜30であり、金属元素(M)が、元素周期律表の1A、2A、3A族元素、亜鉛、アルミニウムなどが好ましく用いられる。
中でも、より好ましいものとしては、例えばカプリン酸、ウラデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸のリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
(y−2)高級不飽和脂肪酸金属塩類
高級不飽和脂肪酸金属塩類としては、炭素数が6〜22の不飽和脂肪酸と、元素周期律表の1A、2A、3A族元素、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩が好ましく用いられ、中でも、より好ましいものとしては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビル酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸、2−ヘキサデセン酸、7−ヘキサデセン酸、9−ヘキサデセン酸、ガドレイン酸、ガドエライジン酸、11−エイコセン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0041】
(z)高級脂肪酸エステル類
本発明における高級脂肪酸エステル類は、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、あるいは多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
(z−1)高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル類
高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル類として、好ましいのは、炭素数8以上の脂肪族アルコールと炭素数8以上の高級脂肪酸とのエステル類である。好ましい高級脂肪酸エステル類としては、例えばラウリルラウレート、ラウリルミリステート、ラウリルパルミテート、ラウリルステアレート、ラウリルベヘネート、ラウリルリグノセレート、ラウリルメリセート、ミリスチルラウレート、ミリスチルミリステート、ミリスチルステアレート、ミリスチルベヘネート、ミリスチルリグノセレート、ミリスチルメリセート、パルミチルラウレート、パルミチルミリステート、パルミチルステアレート、パルミチルベヘネート、パルミチルリグノセレート、パルミチルメリセート、ステアリルラウレート、ステアリルミリステート、ステアリルパルミテート、ステアリルステアレート、ステアリルベヘネート、ステアリルアラキネート、ステアリルリグノセレート、ステアリルメリセート、アイコシルラウレート、アイコシルパルミテート、アイコシルステアレート、アイコシルベヘネート、アイコシルリグノセレート、アイコシルメリセート、ベヘニルラウレート、ベヘニルミリステート、ベヘニルパルミテート、ベヘニルステアレート、ベヘニルベヘネート、ベヘニルアラキネート、ベヘニルメリセート、テトラコサニルラウレート、テトラコサパルミテート、テトラコサニルステアレート、テトラコサニルベヘネート、テトラコサニルリグノセレート、テトラコサニルセロテート、セロチニルステアレート、セロチニルベヘネート、セロチニルセロチネート、メリシルラウレート、メリシルステアレート、メリシルベヘネート、メリシルメリセートなど、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0042】
(z−2)多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル類
多価アルコールと高級脂肪酸の部分エステル類は、多価アルコールとして、例えばグリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、エリスリット、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、マニトール、ソルビトールなどが好ましく用いられる。
また高級脂肪酸としては、例えばカプリン酸、ウラデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などが好ましく用いられる。
【0043】
これら多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル類は、モノエステル類、ジエステル類またはトリエステルのいずれであってもかまわない。より好ましいものとしては、例えばグリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノリグノセレート、グリセリンモノメリセートなどの高級脂肪酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−ラウレ−ト、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−ラウレ−ト、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−ミリステ−ト、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−パルミテート、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−ステアレート、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−ベヘネート、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−リグノセレート、ペンタエリスリトール−モノまたはジ−メリセートなどのペンタエリスリトールのモノまたはジ高級脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−ラウレート、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−ミリステート、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−パルミテート、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−ステアレート、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−ベヘネート、トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−リグノセレート、 トリメチロールプロパン−モノ−またはジ−メリセートなどのトリメチロールプロパンのモノ−またはジ−高級脂肪酸エステルが挙げられる。
【0044】
また、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−ラウレート、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−ミリステート、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−ステアレート、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−ベヘネート、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−リグノセレート、ソルビタン−モノ、ジまたはトリ−メリセートなどのソルビタン−モノ、ジ、またはトリ高級脂肪酸エステル、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−ラウレート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−ミリステート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−パルミテート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−ステアレート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−ベヘネート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−リグノセレート、マンニタン−モノ、ジまたはトリ−メリセレートなどのマンニタン−モノ、ジまたはトリ−高級脂肪酸エステルなど、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0045】
これら(x)高級脂肪酸類、(y)高級脂肪酸金属塩類、(z)高級脂肪酸エステル類の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のPTT100重量部に対して、0.001〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜3重量部である。前記の成形性改良剤の配合量が、0.001重量部未満の場合には、成形加工性が本発明の目的を達成するまでに向上せず好ましくない。また5重量部を超える場合には、成形品表面に、銀ぶくれを発生させたり、成形品の機械的物性を低下させたりする傾向にあるので好ましくない。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、溶融滞留安定性及び大型成形性をさらに向上させるため、(G)エポキシ樹脂を添加することが好ましい。(G)エポキシ樹脂とは、分子中にエポキシ基(オキシラン環)を2個以上持つ熱硬化性の化合物を示す。具体的には、ビルフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるいわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラックや線状高分子量クレゾールノボラックをグリシジル化した多官能エポキシであるノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ポリグリシジルアミン型エポキシなどが挙げられる。
【0047】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、耐薬品と樹脂への分散の観点からエポキシ当量150〜280(/eq.)のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000(/eq.)のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。より好ましくはエポキシ当量180〜250(/eq.)で分子量1000〜6000のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000(/eq.)で分子量1200〜6000のビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0048】
(G)エポキシ樹脂の配合量は、(A)+(B)成分の合計を100重量部とした場合、0〜20重量部であることが溶融滞留安定性及び大型成形性の観点から好ましく、0.1〜10重量%であることがより好ましく、0.3〜5重量%であることが最も好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の樹脂または添加剤、例えば、衝撃改良剤、pH調整剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、スリップ剤、各種着色剤等を添加してもかまわない。
【0049】
本発明の成形体とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を、各種成形加工方法、例えばプレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、発泡成形等により成形加工した成形体である。
特に、該成形体の表面硬度は、バーコル硬度20以上、且つ表面グロス(20°)60以上であることが好ましく、バーコル硬度25以上、且つ表面グロス(20°)65以上であることがより好ましく、バーコル硬度30以上、且つ表面グロス(20°)70以上であることが最も好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、外観が極めて良好であり、表面硬度、耐久性、滞留安定性及び大型成形性に優れるため、浴室用製品、洗面所用製品、トイレ用製品、流し台用製品等の水周り部品の少なくとも一部として用いることができる。中でも特に、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボール(洗面器)、手洗ボール(手洗器)、各種流し、トイレカウンター、キャビネット天板として、好適に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例になんら限定されるものではない。なお、使用した熱可塑性樹脂およびその配合剤は下記のとおりである。
【0052】
(A)ポリトリメチレンテレフタレート
(A1)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂;下記重合品
極限粘度[η]=0.70(dl/g)
なお、PTTの極限粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ml)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、前記式(1)により求めた。
<重合方法>
反応容器にテレフタル酸ジメチル(以下DMTと略記する)と1,3−プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、DMTの0.05重量%に相当するチタンテトラブトキシドを加え、常圧下ヒーター温度235℃で4時間のエステル交換反応を行った。次に、エステル交換反応生成物に対して0.03重量%/DMTのトリメチルホスフェート、0.05重量%/DMTのチタンテトラブトキシドを添加し、250℃、0.2torr下で攪拌しながら3時間反応させた。得られたポリマーを窒素雰囲気下、215℃の条件で固相重合し、極限粘度[η]=0.73(dl/g)のポリマーを得た。
(A2)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂;CP509201(SHELL社製)
極限粘度[η]=0.89(dl/g)
(A3)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂;SORONA(DuPont社製)
極限粘度[η]=1.00(dl/g)
【0053】
(B)非晶性ポリエステル樹脂
(B1)ネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート;下記重合品
組成モル比(TPA:EG:NPG:DEG=100:67:32:1)
極限粘度[η]=0.75(dl/g)
TPA:テレフタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
DEG:ジエチレングリコール
<重合方法>
反応容器にテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとネオペンチルグリコールを上記ポリマーB1組成比になるように仕込み、DMTの0.05重量%に相当する二酸化マンガンを加え、常圧下ヒーター温度250℃設定で130℃から250℃まで昇温し、4時間エステル交換反応を行った。次に、エステル交換反応生成物に対して0.02重量%/DMTのトリメチルホスフェート、0.05重量%/DMTの三酸化アンチモンを添加し、ヒーター温度280℃設定で、常圧から0.2torrまで減圧し、攪拌しながら3時間反応させ、B1ポリマーを得た。
【0054】
(B2)1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート;下記重合品
組成モル比(TPA:EG:CHG:DEG=100:68:31:1)
極限粘度[η]=0.75(dl/g)
CHG:1,4−シクロヘキサンジメタノール
<重合方法>
反応容器にテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールを上記ポリマーB1組成比になるように仕込み、DMTの0.05重量%に相当する二酸化マンガンを加え、常圧下ヒーター温度250℃設定で130℃から250℃まで昇温し、4時間エステル交換反応を行った。次に、エステル交換反応生成物に対して0.02重量%/DMTのトリメチルホスフェート、0.05重量%/DMTの三酸化アンチモンを添加し、ヒーター温度280℃設定で、常圧から0.2torrまで減圧し、攪拌しながら3時間反応させ、B2ポリマーを得た。
【0055】
(B3)イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート;下記重合品
組成モル比(TPA:IPA:EG:DEG=70:30:99:1)
極限粘度[η]=0.73(dl/g)
IPA:イソフタル酸
<重合方法>
反応容器にテレフタル酸ジメチル(以下DMTと略記する)とイソフタル酸とエチレングリコールを上記ポリマーB3組成比になるように仕込み、DMTの0.05重量%に相当する二酸化マンガンを加え、常圧下ヒーター温度250℃設定で130℃から250℃まで昇温し、4時間エステル交換反応を行った。次に、エステル交換反応生成物に対して0.02重量%/DMTのトリメチルホスフェート、0.05重量%/DMTの三酸化アンチモンを添加し、ヒーター温度280℃設定で、常圧から0.2torrまで減圧し、攪拌しながら3時間反応させ、B3ポリマーを得た。
【0056】
(B)非晶性ポリエステル樹脂+(D)スチレン樹脂
(BD1)ネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート+ポリスチレン;バイロンRF100−C01(東洋紡績社製)
【0057】
(C)無機充填材
(C1)ガラス繊維;T−187(日本電気硝子社製)
(C2)ウォラストナイト;NYGLOS8 10013(巴工業社製)
(C3)硫酸Ba;板状A(堺化学工業社製)
(E)結晶核剤
(E1) ポリブチレンテレフタレート樹脂;ジュラネックス2002(ウィンテック社製)
【0058】
(G)エポキシ樹脂
(G1) ビスフェノールA型エポキシ樹脂;AER ECN6097(旭化成ケミカルズ社製)/エポキシ当量約2000(/eq.)、
(H)その他添加剤(エラストマー)
(H1) MBS;パラロイド EXL2602(呉羽化学社製)
なお、以下の実施例、比較例において記載した樹脂成形品の物性評価は、以下のようにして行った。
【0059】
[樹脂成形品の作製および物性の評価]
(1)結晶化速度
示差走査熱量測定器(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を使用して、0℃から280℃まで20℃/分の条件で昇温させ、280℃(溶融状態)で2分保持した後、20℃/分の条件で降温させた時に発現する結晶化ピーク温度を測定し、結晶化温度(Tc)とした
【0060】
(2)(A)成分+(B)成分の極限粘度
オストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中に樹脂組成物を溶質((A)成分+(B)成分)/溶液=濃度C(g/dl)になるように溶解させ、不溶分(無機質強化材等)が沈殿した後、その上澄み液を用いて比粘度ηspと濃度Cの比ηsp/Cを求め、濃度Cをゼロに外挿し、前記式(1)により求めることが出来る。
【0061】
(3)機械的強度
〈成形条件〉
ISO短冊片(4mm厚)4本取り金型を用いて、射出成形を行った。装置としては日精樹脂(株)製PS40Eを用い、金型温度95℃及びシリンダー温度260℃に設定し、射出30秒、冷却20秒の射出成形条件で、樹脂成形品を得た。
〈評価〉:曲げ弾性率(GPa)
ASTM D790に準じて行った。
【0062】
(4)成形品外観
〈成形条件〉
150mm×150mm×2mm厚(100mm×1mmのフィルムゲート)の平板金型を用いて、射出成形を行った。装置は日精樹脂(株)製FN3000を用い、シリンダー温度260℃、金型温度95℃に設定し、射出30秒、冷却20秒の射出成形条件で、成形品を得た。その際の成形品の充填時間は4.2秒であった。
〈評価〉:表面グロス(20°)
堀場製ハンディ光沢計IG320を用いて、JIS−K7150に準じて、上記平板のグロス(20°)を測定した。
【0063】
(5)大型成形性
単重が3kgを超えるような大型成形体の場合、流動性の問題から、成形品の厚みが増す傾向にあり、成形直後に割れが発生する場合がある。大型成形性を示す評価方法として、下記成形条件で成形して得た厚肉試験片の金型温度付近における引張伸度測定を行った。
〈成形条件〉
120mm×80mm×10mm厚(10mm×8mmのサイドゲート)の平板金型を用いて、射出成形を行った。装置は日精樹脂(株)製FN3000を用い、シリンダー温度260℃、金型温度95℃に設定し、射出30秒、冷却75秒の射出成形条件で、成形品を得た。その際の成形品の充填時間は5.0秒であった。
〈評価〉:高温厚肉引張伸度(TD方向)(%)
上記射出成形により得られた平板を、図1に示すように流動方向と直角方向(TD方向)に切削し、120℃における引張伸度測定をASTM D638に準拠して行った。 その際の引張試験速度は5mm/分とした。
【0064】
(6)表面硬度
〈評価〉:バーコル硬度
上記(5)の成形条件によって得た120×80×10mm厚試験片を用いて、JIS K7060に準じ成形品表面のバーコル硬度を測定した。
【0065】
(7)溶融滞留安定性
〈成形条件〉
ISOダンベル片(4mm厚)2本取り金型を用いて、射出成形を行った。装置としては日精樹脂(株)製PS40Eを用い、金型温度95℃に設定し、射出40秒、冷却20秒の射出成形条件で、樹脂成形品を得た。シリンダー温度はホッパー側からノズル側まですべて260℃に設定した。上記条件で連続成形した場合の滞留時間を0分とし、溶融滞留時間0分、20分の成形品をそれぞれ得た。下記評価には、溶融滞留後2ショット目の成形品を用いた。
〈評価〉
<強度保持率>
上記滞留時間0分と20分のダンベル片を用いて、下記式(2)により、高温下で滞留することによる引張強度保持率(%)を求めた。
引張強度保持率が60%以上であるものを○、60%未満であるものを×とした。
【0066】
【数2】

【0067】
<外観変化(ふくれ)>
上記滞留時間20分の成形品の外観を目視で確認し、成形品にフクレ、気泡が発生するものを×、全く発生しないものを○として評価した。
【0068】
[実施例1〜12および比較例1〜4]
A1〜A3、B1〜B3、BD1、E1、G1、H1を下記表1に示した配合比でドライブレンドした。
なお、表中のD成分(PS:ポリスチレン)についてはB成分として配合したBD1中の含有量を示した。
そのブレンド物を2軸押出機(東芝機械(株)製:TEX−54)を用いて溶融混練し、サイドフィーダーからC1〜3を表1に示した配合比で添加した。スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度250℃(先端ノズル付近のポリマー温度は、285℃であった)、押出速度150kg/Hr(滞留時間1分)、減圧度は0.05MPaで押出を行った。先端ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行いペレットとした。該ペレットを120℃で5時間、除湿型乾燥機で乾燥した後、上記に示す射出成形方法で試験片を作成し、この試験片を上記測定方法に従って、解析および諸特性の測定を行った。結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、極めて優れた成形品外観、表面硬度、耐久性を有すると共に、溶融滞留安定性及び大型成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することが可能となり、特に浴室用製品、洗面所用製品、トイレ用製品、流し台用製品等の水周り部品として、好適に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例において引張伸度測定に用いたサンプルの作製方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリトリメチレンテレフタレート99〜50重量部と(B)非晶性ポリエステル1〜50重量部を含む(X)樹脂組成物100重量部に対して、(C)繊維状無機充填材及び/又は板状無機充填材を10〜300重量部配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物中の(A)成分+(B)成分の極限粘度[η]が0.60〜1.50dl/gである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分がネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸よりなる群から選ばれる1種以上の成分を10モル%以上含む共重合ポリエチレンテレフタレートである、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(X)成分が(A)成分98〜50重量部と(B)成分2〜50重量部を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(X)樹脂組成物が(A)成分+(B)成分100重量部に対して、さらに(D)スチレン系樹脂0.1〜20重量部を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含んでなる樹脂成形体。
【請求項7】
成形体のバーコル硬度が20以上であり、且つ表面グロス(20°)が50以上である、請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
少なくとも一部が請求項7に記載の樹脂成形体から構成されていることを特徴とする水周り部品。
【請求項9】
水周り部品が洗面カウンター、キッチンカウンター、キッチンシンク、浴槽、洗面ボール、手洗ボール、トイレカウンター又はキャビネット天板である、請求項8に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−154079(P2007−154079A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352809(P2005−352809)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】