説明

熱可塑性粉末組成物と、この組成物の焼結で得られる3次元物体

下記(1)〜(3)を含むD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物:(1)溶融温度が180℃以下の少なくとも一種のブロック共重合体、(2)組成物の全重量の15〜50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、(3)組成物の全重量の0.1〜5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。本発明はさらに、可撓性立体物体の製造、特に溶融または焼結によりレーヤーバイレーヤーで粉末を凝集させる方法での上記組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性粉末組成物と、その溶融または焼結によって可撓性三次元物品を製造するための、レーヤーバイーレーヤー(一層毎、layer-by-layer)粉末アグロメレーション(凝集)プロセスでの使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
「可撓性物品」とは弾性係数(ISO規格527-2:93-1BAに従って測定)が1000 MPa以下の物品を意味する。
【0003】
溶融による粉末のアグロメレーショ(以下、焼結」という)は、照射、例えばレーザー光線(レーザー焼結)、赤外線、紫外線または任意の電磁放射線源の照射によって、粉体層を一層ずつ溶かすことによって物品を製造するものである。レーヤーバイーレーヤーによって物品を製造する方法は特許文献1(国際特許第WO 2009/138692号公報)の第1〜3頁に記載されている。この方法は一般に例えば自動車、船舶、航空機、宇宙、医学(人工器官、聴覚器官、細胞組織、その他)、テキスタイル、衣類、ファッション、装飾、電子ケーシング、電話通信、ホームオートメーション、情報テクノロジおよび照明分野で、部品のプロトタイプおよびひな型の製造(「ラピッドプロトタイプ」)または最終製品の少量製造(「ラピッド製造」)に使用される。
【0004】
本発明は特に、スポーツ分野に関するものであり、熱可塑性エラストマー・ポリマー(以下、TPEと略記)が一般にその可撓性、力学特性および物理化学的耐久性で選択される。このTPEは従来の射出成形、押出成形および/または接合プロセスで容易に整形できる。レーヤーバイーレーヤ焼結法はTPEを予め粉末の形にする必要がある。
【0005】
この粉末は焼結装置で使用するのに適していなければならず、満足な特性、特に密度を有する可撓性不品の製造ができるものでなければならない。粉末焼結で実際に製造される材料のいくつかは残留気孔を含んでいる。その場合の材料の真の密度は理論密度以下である。材料の表面密度が不充分であると物品の表面外観が不均一になり、物品の精度が不正確になる。最終物品の多くの特性(機械特性、温特性)は材料の気孔度に依存する。従って、焼結で得られた物品の材料の真密度を測定することで上記パラメータを定量化することが可能であり、重要である。
【0006】
本明細書では、粉末組成物を焼結して製造される物品の真密度(true density)は同じ組成物を射出成形法で製造した三次元物品の密度で定義される理論密度(100%に対応)と比較した百分比で表す。密度はISO規格1183に従って測定する。
【0007】
特許文献2(米国特許第US 6110411号明細書)にはレーザー焼結法で使用可能な熱可塑性粉末組成物が記載されている。この特許に記載の粉末組成物のガラス遷移温度(Tg)は50℃以下でなければならず、軟質ブロックに対する硬質ブロックの重量比は0.7〜20であり、粒径は200μm以下である。しかし、この組成物を焼結して得られる部品は解像度が不充分であり、密度も低いということは特許文献3(国際特許第WO 2005/025839号公報)に記載されている。事実、特許文献2(米国特許第US 6110411号明細書)で得られる部品は多くの「ボイド」を有し、その密度は一般に理論密度の60〜80%である。この値は本発明がターゲットとする用途では不充分である。
【0008】
TPE粉末を焼結させて得られる部品の密度を増加させるためには、部品はボイドまたはギャップ(残留気孔中に液体の形をしたポリマー、例えばポリウレタンオリゴマーをインフィルトレート(infiltration、溶浸)させ、部品中でポリマーを架橋する必要がある。これらの後処理段階(インフィルトレート段階)は部品の製造時間とコストを増加させる。これらの後処理段階を避け、TPE粉末を焼結させて得られる三次元物品の密度を改良するために特許文献4(国際特許第WO 2005/025839号公報)は溶融温度(Tm)が180℃以上のTPE-ベースの粉末組成物を提案している。
【0009】
しかし、現在のところ、180℃以下の溶融温度を有するTPE-ベースの粉末を焼結させて形成した可撓性物品の密度を増加させるための方法としてインフィルトレート方法以外の方法はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許第WO 2009/138692号公報
【特許文献2】米国特許第US 6110411号明細書
【特許文献3】国際特許第WO 2005/025839号公報
【特許文献4】国際特許第WO 2005/025839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、焼結によって下記(1)〜(3)の特徴を有する三次元物品を得るための、180℃以下のTmを有する焼結可能な粉末の熱可塑性組成物を提供することにある:
(1)理論密度(ISO規格1183に従って測定される密度)の80%以上の密度を有し、従って、インフィルトレーション(溶浸)が不要。
(2)可撓性に優れ、弾性係数が1000MPa以下(ISO規格527-2:93-1BAに従って測定)、
(3)定義が良好、すなわち平滑かつ均一で平らな表面外観と正確なエッジを有する。
【0012】
本発明の他の目的は、可撓性で、高密度で、解像度に優れた物品を焼結によって直接製造するためのプロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの対象は、下記(1)〜(3)から成るD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物にある:
(1)溶融温度が180℃以下(以下、Tm<180℃と略記)の少なくとも一種のブロック共重合体、
(2)組成物の全重量の15〜50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、
(3)組成物の全重量の0.1〜5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。
【0014】
本発明の別の対象は、下記(a)工程を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の粉末組成物の製造方法にある:
(a) 上記の少なくとも一種のブロック共重合体と少なくとも一種の充填剤とをコンパウンディングで混合し、
(b)(a)で得られた混合物を低温ミリング(cryomilling)してD50が100μm以下の粉末を50%以上の収率で作り、
(c) (b)で得られた粉末に流動剤を加える。
【0015】
本発明のさらに他の対象は、レーヤバイレーヤ焼結法によって理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品を製造するための熱可塑性粉末組成物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0016】
D50は測定した粒子個体群を2で割った粒径値に対応する。換言すれば、本発明組成物では粒子の50%は100μm以下の粒径を有する。平滑かつ平らな表面外観の物品を得るためには本発明組成物は100μm以下のD50を有する必要がある。このD50はISO規格9276のパート1〜6:「粒度分析で得られたデータの表現方法」に記載の方法で測定する。本明細書ではレーザー粒径測定器(Sympatec Helos)およびソフトウェア(Fraunhofer)を用いて粉末の粒径分布を求め、それからD50を求める。
【0017】
「ブロック共重合体」とは熱可塑性エラストマーポリマー(TPE)を意味し、硬いまたはリジッドなブロックといわれるセグメント(熱可塑性の挙動を示す)と、軟いまたはフレクシブルなブロックなブロックといわれるセグメント(エラストマーの挙動を示す)とを交互に有する。ガラス遷移温度(T5)が低い場合、「軟らかい」ブロックといわれる。「ガラス遷移温度が低い」とはガラス遷移温度Tgが15℃以下、好ましくは0℃以下、有利には-15℃以下、より有利には-30℃以下、できれば-50℃以下であることを意味する。
【0018】
本発明のコポリマーで軟かいまたは可撓性のブロックはポリエーテル・ブロック、ポリエステル・ブロック、ポリシーロキサン・ブロック、例えばポリジメチルシロキサンまたはPDMSブロック、ポリオレフィン・ブロック、ポリカーボネート・ブロックおよびこれらの混合物の中から選択されるブロックにすることができる。軟らかいブロックは例えば特許文献5(フランス特許出願第0950637号公報)の第32頁第3行目〜第38頁第23行目に記載のものにすることができる。
【特許文献5】フランス特許出願第0950637号公報
【0019】
例えばポリエーテル・ブロックはポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(1,2- プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(1,3-プロピレングリコール)(PO3G)、ポリ(テトラメチレングリコール)(PTMG)およびこれらのコポリマーまたは混合物の中から選択される。本発明の軟かいブロックの数平均分子量Mnは250〜5000グラム/モル、好ましくは250〜3000グラム/モル、より好ましくは500〜2000グラム/モルの範囲にあるのが好ましい。
【0020】
硬いブロックはポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルまたはこれらポリマーの混合物をベースにすることができる。これらのブロックは特に特許文献6(フランス特許出願第0856752号公報)に記載されている。硬いブロックはポリアミドをベースにしたものであるのが好ましい。
【特許文献6】フランス特許出願第0856752号公報
【0021】
ポリアミド(PAと略語)ブロックはホモポリアミドまたはコポリアミドにすることができる。本発明組成物でのポリアミド・ブロックは、特に特許文献5(フランス特許出願第0950637号公報)の第27頁第18行〜第31頁第14行目に定義のものである。このポリアミド・ブロックの数平均分子量Mnは400〜20000 g/モル、好ましくは500〜10000 g/モル、好ましくは600〜3000グラム/モルの範囲にあるのが好ましい。ポリアミド・ブロックの例としてはPA-12、PA-11、PA-1010、PA-610、PA-6、PA-6/12の少なくとも一つの分子から成るもの、下記モノマーの少なくとも一つから成るコポリアミドが挙げられる:11、5,4、5,9、5,10、5,12、5,13、5,14、5,16、5,18、5,36、6,4、6,9、6,10、6,12、6,13、6,14、6,16、6,18、6,36、10,4、10,9、10,10、10,12、10,13、10,14、10,16、10,18、10,36、10,T、12,4、12,9、12,10、12,12、12,13、12,14、12,16、12,18、12,36、12,Tおよびこれらの混合物またはコポリマー。
【0022】
上記の少なくとも一種のブロック共重合体はポリエーテル・ブロック、ポリエステル・ブロック、ポリアミド・ブロック、ポリウレタン・ブロックおよびこれらの混合物の中から選択をされる少なくとも一つのブロックを有するのが有利である。硬いブロックと軟いブロックとを有するコポリマーの例としては(a)ポリエステル・ブロックとポリエーテル・ブロックを有するコポリマー(COPEまたはコポリエーテルエステルともよばれる)、(b)ポリウレタン・ブロックとポリエーテル・ブロックとを有するコポリマー(TPU、熱可塑性ポリウレタンの省略として知られている)、(c)ポリアミド・ブロックとポリエーテル・ブロックとを有するコポリマー(IUPACではPEBAとよばれ、ポリエーテル-ブロック・アミドともよばれる)が挙げられる。
【0023】
上記の少なくとも一種のコポリマーはポリアミド・ブロックとポリエーテル・ブロックとを有するコポリマー(PEBA)から成るのが好ましい。このPEBAはPA-12/PEG、PA-6/PEG、PA-6/12/PEG、PA-11/PEG、PA-12/PTMG、PA-6/PTMG、PA-6/12/PTMG、PA-11/PTMG、PA-12/PEG/PPG、PA-6/PEG/PPG、PA-6/12/PEG/PPG、PA-11/PEG/PPG、PA-11/PO3G(PA-610/PO3Gおよび/またはPA-1010/PO3Gから成るのが有利である。
【0024】
粉末の溶融によるアグロメレーションによって三次元物品の製造する分野の一般概念から、本明細書でポリマー粉末の溶融温度(Tm)はISO規格11357-3 「プラスチック−走査熱量計(DSC)パート3)に従って測定した時の、粉末の最初の加熱時の溶融温度(Tm1)に対応する。本発明のブロック共重合体は180℃以下の溶融温度Tm(最初の加熱時の:Tm1)を有する。本発明組成物でTm < 180℃のコポリマーを使用することで、特に焼結によって、例えばポリアミドPA-12またはPA-11粉末を焼結して得られる場合と比較して、可撓性に優れた(モジュラスが1000 MPa以下)三次元物品を得ることができる。
【0025】
本発明の一つの特定実施例では、本発明コポリマーの軟かいブロックに対する硬いブロックの重量比は0.7以下である。そうすることで例えばISO規格527-2:93-1BAに一致することを測定した弾性係数が100 MPa以下で、破断伸びが100%以上である可撓性に優れた三次元物品を得ることができる。
【0026】
本発明組成物での粉末充填剤はモーズ硬度が6以下である。これはモーズ硬度が6以上の粉末状充填剤は本発明では使用が難しく、特に、低温(cryogenic)粉砕が不可能であり、粉砕装置を破損させるということを意味する。モーズ硬度(Mohs hardness)スケールは容易に入手可能な10種類の無機材料をベースにしたものである。これは順番スケールで、硬度が既に公知である2つの他の無機材料と比較したもの(一方が他方に傷を付ける能力)である。
【0027】
本発明で使用する粉末充填剤はさらに、D50が20μm以下である。D50が20μmを超える充填剤は標準的なレーザー焼結条件下で粉末の流動性にネガティブなインパクトを与える。
【0028】
本発明の粉末充填剤は無機または有機の起源の物質にすることができ、単独または混合物として使うことができる。本発明組成物で使われる充填剤はラメラ(lamellae)、小球(globule)、球、繊維またはこれら定義の形の中間の他の任意の形にすることができる。充填剤は表面被覆を有していてもよい。特に、シリコーン、アミノ酸、フッ素化誘導体、組成物中の充填剤の分散および相容性を促進するその他任意の物質で表面処理されていてもよい。
【0029】
上記の少なくとも一種の充填剤は炭酸塩ベースの無機充填剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、方解石、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、カオリン、タルク、ミクロマイカ、アルミナ水化物、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、真珠岩、ナノフィラー(ナノメータスケールの充填剤)、例えばナノクレー(nanoclays)またはカーボンナノチューブ、顔料、例えば酸化チタン(IV)、特にルチルまたはアナターゼ酸化チタン(IV)、遷移金属酸化物、グラファイト、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、ホスフェート、ボレート、シリケートの無機充填剤、ポリマー粉末、特にモジュラスが1000 MPa以上のポリマー粉末のような有機の充填剤を選択するのが有利である。粉末有機充填剤はポリマー、コポリマー、エラストマー、熱可塑性プラスチックまたは熱硬化性樹脂の粉末の中から選択し、単独または混合物として使用するのが好ましい。
【0030】
一般に、無機充填剤は本発明組成物を補強する役目をするので好ましい。さらに、無機充填剤は低温ミリング(cryomilling)することで、有機充填剤より容易に、本発明組成物に要求される粒径(D50 <100μm)にすることができる。
【0031】
上記の少なくとも一種の粉末充填剤はD50が10μm以下の無機充填剤であるのが有利である。上記の少なくとも一種の粉末充填剤は炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムから成るのが有利である。本発明組成物はドロマイトを含むのが好ましい。
【0032】
上記粉末充填剤は本発明組成物の15〜50重量%を占める。充填剤含有量が15重量%以下の場合には低温ミリングで粉末のD50を十分に小さくできない。
【0033】
逆に、充填剤含有量を高くし、組成物の50重量%を超えると、組成物を焼結して得られる最終材料の弾性機械特性が低下し、特に、材料の破断伸びが100%以下になる。少なくとも一種の粉末充填剤は組成物の総重量の15〜35重量%、好ましくは20〜30重量%であるのが好ましい。以下の実施例で示すように、上記の好ましい充填剤含有量にすることで焼結加工時の本発明粉末組成物のD50を最適化でき、さらに最終物品の密度および定義を最適化することができる。
【0034】
本発明組成物は、組成物を流動させ、平滑な層を形成させるために(特にレーヤーバイレーヤー焼結時に)、充分な量の流動剤(組成物の0.1〜5重量%)を含む。この流動剤はポリマー粉末焼結の分野で一般的に使用されているものの中から選択される。この流動剤は実質的に球面であるのが好ましく、例えばシリカ、沈殿シリカ、水和シリカ、石英ガラス、ヒュームドシリカ、火成シリカ、ガラス質ホスフェート、ガラス質ボレート、ガラス質オキサイド、非晶質アルミナ、酸化チタン(IV)、タルク、マイカ、カオリン、アタパルジャイト、珪酸カルシウム、アルミナおよび珪酸マグネシウムの中から選択される。
【0035】
本発明組成物はさらに、焼結で使用されるポリマー粉末に適した任意タイプの添加剤、特に、アグロメレーション用粉末の性質を改良するための添加剤および/または溶融で得られる物品の機械特性(引張強度および破断伸び)または風合(色)を改良するための添加剤を含むことができる。本発明組成物は特に、染料、着色顔料、TiO2、赤外吸収顔料、カーボンブラック、難燃剤、ガラス繊維、炭素繊維、その他を含むことができる。
【0036】
また、本発明組成物は抗酸化剤、光安定剤、衝撃緩衝剤、静電防止剤、難燃剤およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つの添加剤を含むことができる。これらの添加剤はD50が20μm以下の粉末の形である。これらの添加剤を本発明の粉末組成物を製造するプロセス中に導入することで粉末組成物の分散および効率を改良することができる。本発明組成物を使用した焼結方法では、直接着色した部品を後コーティングまたは塗装なしに得ることができる。
【0037】
本発明の一つの対象は、レーヤ−バイ−レーヤ焼結法によって理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品を製造するための上記熱可塑性粉末組成物の使用にある。
【0038】
本発明のさらに他の対象は、上記の熱可塑性粉末組成物のレーヤ−バイ−レーヤ焼結法を含む、理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品の製造方法であって、焼結で製造した上記物品に材料をインフィルトレート(溶浸)する段階を有しない方法にある。
【0039】
上記プロセスはレーザー焼結法を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明は上記方法で製造可能な、理論値の80%以上の密度を有する三次元物品にも関するものである。この物品は、物品中に存在する可能のあるチラックまたは気孔にインフィルトレート(溶浸)する材料を含まないのが有利である。本発明物品はISO規格527-2:93-1BAに従って測定した弾性係数が1000 MPa以下であるのが有利である。
【0041】
上記三次元物品はスポーツ機器、靴、装飾品、靴底、スポーツ靴、カバン、自動車または航空機、コンピュータ、視聴覚機器、家具、眼鏡の部材および/または医療器具の部品にするのが有利である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。特に断らないかぎり、全ての百分比および部は重量で表される。
以下のテスト(実施例および比較例)で使用する組成物のコポリマー(アルケマ (Arkema) 社のペバックス(Pebax)、登録商標)は下記のものである:
ペバックス(Pebax)1:
Mn =600グラム/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000グラム/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロックの比:0.6。
ペバックス(Pebax)2:
Mn =1000 g/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000 g/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1.
ペバックス(Pebax)3:
Mn =1000 g/モルのPA-12ブロックと、Mn =の1000グラム/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1.
【0043】
下記のテストはPEBA(ペバックス(Pebax)、登録商標)をベースにした組成物であるが、本発明組成物がこの実施例に限定されず、任意タイプのブロック共重合体の単独または混合物にできるということは理解できよう。
【0044】
使用した粉末充填剤はドロマイト(メーカ:Imerys)で、化学組成CaMg(CO3)2を有するカルシウムとマグネシウムの複炭酸塩で、そのモーズ硬度は3で、そのD50は10μm以下である。使用した充填剤の量(重量%)は実施例および比較例の組成に応じて変えた(0〜30%)。[表2]を参照。
【0045】
全てのテストで使用した流動剤はヒュームドシリカCabOSil TS610である(メーカー:カボート(Cabot)社)で、各組成物の0.2重量%にした。そのD50は20μgm以下である。
【0046】
実施例1〜4、比較例1〜3
[表2]に示すテスト組成物を製造した。
コンパウンディング:
[表2]のテストでは、粉末充填剤(比較例3、実施例1、2、3、4)、ペバックス(Pebax)1、2または3の顆粒を押出機(ウエルナー(Werner)40)を用いて所定量の充填剤(それぞれ10%、20%、30%および22%のドロマイト)とコンパウンディングした。
【0047】
低温ミリング
ペバックス(Pebax)(比較例1または2)またはペバックス(Pebax)2(比較例4)または予め得た化合物(比較例3および実施例1〜4)を低温ミリング(cryomilled)してD50が<100μmの粉末を製造した。低温ミリングは下記特数を有するMikropul D2H低温ミル(ハンマーミル)である:モーター速度:2930回転数/分、ミルプーリー直径:115mm、駆動プーリ直径:270mm、空のときの粉砕速度:6870回転数/分、ツインスクリューモーター速度:1360回転数/分、ツインスクリュー減速比:1/10、ツインスクリュー直径:78mm、ツインスクリューピッチ:50mm。低温ミリング後に必要に応じて粉末を8時間の回転ドラム乾燥器(Heraeus、Jouanin)で60℃の温度、20-25 mbarの圧力下で乾燥できる。
【0048】
スクリーニング(篩分け):
低温ミリング後に、粉末をスクリーニング(濾別)して大きな粒子を除去し、粒子の平均粒径およびD50を下げた。使用したPerfluxスクリーンはステンレス鋼の金網製で、全てのテストでメッシュは200μmであるが、比較例2の追加のスクリーニングでは145μmメッシュ、実施例4では110μmメッシュである。
【0049】
篩分け効率の測定
この効率は導入した粉末の量に対するスクリーンのメッシュを通過した低温ミリング済み粉末の量の比(重量百分比)を表す。低温ミリングおよびスクリーニング後に得られた粉末には0.2重量%のヒュームドシリカ(Cab-O-Sil TS610)を加えた。
【0050】
得られた組成物を焼結機へ送る:
Formiga P100(EOS)レーザー焼結機を使用した。このレーザー機械へ送る条件は一定であり、全ての組成物に共通で、以下の通りである:輪郭(contour)速度=1500mm/秒、ハッチング(hatching)速度=2500mm/秒、「ビームオフセット」ハッチング(hatching)=0.15mm。
[表2]のテストで変えた条件は[表1]に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
全てのテストで、各組成物を焼結させて製造した部品の引張試験用試験片は亜鈴型(寸法150×25×3mm)である。
【0053】
得られた3D物品の表面外観:
[表2]の「表面外観」の欄で「OK」は平ら、平滑かつ均一な表面外観で、正確なエッジを有することに対応する。「KO」はそれとは逆の外観に対応し、表面外観のグレードが低いことに対応する。
【0054】
得られた三次元物品(試験片)の密度の測定:
レーザー焼結で形成した各試験片の真密度をISO規格1183に従って測定し、射出成形で製造した同じ形の対応する試験片の同じ組成物の理論密度と比較した。[表2]の真密度/理論密度比はレーザー焼結で得られた不品が理論密度の80%以上の密度か否かを示す。
【0055】
焼結で得た亜鈴型試験片の弾性係数(縦弾性係数)の測定:
縦弾性係数はISO規格527-2:93-1Bに従って測定した。全てのテストで1000 MPa以下のモジュラスを得た。篩分け効率、焼結処理した粉末の粒径、得られた3D物品の表面外観、真密度/理論密度比およびモジュラスは[表2]にまとめて示した。
【0056】
【表2】

【0057】
比較例1
ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を低温ミリングし、200μmに濾別した。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は105μmで、それをレーザー焼結して(Formiga P100レーザー機械)、三次元部品(引張試験試験片)を作った。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均等で、エッジの定義は不正確であった。
【0058】
比較例2
ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を低温ミリングし、145μmに濾別した。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は80μmで、それをレーザー焼結して(Formiga P100レーザー機械)、三次元部品(引張試験試験片)を作った。
【0059】
得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一な表面外観で、エッジの定義も正確であったが、D50が100μm以下の粉末を低温ミリングで収率(50%以下)で工業的に得られなかった。すなわち、低温ミリングした比較例2の粉末組成物は2回のスクリーニング段階を必要とする。これは低温ミリングで得られた粉末の(50%を超える「スクリーン篩上」)の50%以上をロスすることを意味する。
【0060】
比較例3
ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を1重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は104μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均質で、エッジの定義も不正確であった。
【0061】
実施例1
ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を20重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は84μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。
【0062】
実施例2
ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を30重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は69μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。
【0063】
比較例4
ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は114μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均質で、エッジの定義も不正確であった。
【0064】
実施例3
ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は61μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。
【0065】
実施例4
ペバックス(Pebax)3のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:147℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。を低温ミリングし、スクリーニングして110μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。さらに、無機顔料(0.3重量%のMonarch 120 Black)も加えた。粉末組成物のD50は70μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の90%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。
【0066】
実施例1〜4の本発明粉末組成物は、レーザー焼結法で加工することで理論値の80%以上の密度を有し、正確な定義の可撓性部品を後処理(インフィルトレート)なしに直接得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)から成るD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物:
(1)溶融温度が180℃以下の少なくとも一種のブロック共重合体、
(2)組成物の全重量の15〜50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、
(3)組成物の全重量の0.1〜5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。
【請求項2】
上記の少なくとも一種のブロック共重合体がポリエーテルブロック、ポリエステルブロック、ポリアミドブロック、ポリウレタンブロックおよびこれらの混合物の中から選択ささる少なくとも一つのブロックを有する請求項2に記載の組成物。
【請求項3】
上記の少なくとも一種のブロック共重合体がポリアミド・ブロックとポリエーテル・ブロックとを有するコポリマーから成る請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
流動剤がシリカ、水和シリカ、非晶質アルミナ、石英ガラス、ガラス質ホスフェート、ガラス質ボレート、ガラス質オキサイド、酸化チタン(IV)、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、火成シリカ、カオリン、アタパルジャイト、珪酸カルシウム、アルミナおよび珪酸マグネシウムの中から選択をされる請求項1〜31のいずれか一項に記載のも組成物。
【請求項5】
少なくとも一種の粉末充填剤が炭酸塩をベースにした無機充填剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、方解石、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、カオリン、タルク、ミクロ−マイカ、アルミナ水化物、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、パーライト、ナノフィラー、ナノクレー、カーボンナノチューブ、顔料、例えば酸化チタン(IV)、特にルチルまたはアナターゼ酸化チタン(IV)、遷移金属酸化物、グラファイト、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、ホスフェート、ボレート、シリケート、有機充填剤、ポリマ粉末、1000 MPa以上のモジュラスを有するポリマ粉末の中から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも一種の粉末充填剤がD50が10μm以下の無機充填剤である請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも一種の粉末充填剤が炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムから成る請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも一種の充填剤が組成物の総重量の15〜35重量%、好ましくは20〜30重量%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも一種のブロック共重合体が軟かいブロックと硬いブロックとから成るか、軟かいブロックに対する硬いブロックの重量比が0.7以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
下記(a)工程を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の粉末組成物の製造方法:
(a) 上記の少なくとも一種のブロック共重合体と少なくとも一種の充填剤とをコンパウンディングで混合し、
(b)(a)で得られた混合物を低温ミリング(cryomilling)してD50が100μm以下の粉末を50%以上の収率で作り、
(c) (b)で得られた粉末に流動剤を加える。
【請求項11】
レーヤバイレーヤ焼結法によって理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品を製造するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性粉末組成物の使用。
【請求項12】
熱可塑性粉末組成物を焼結して、理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品を製造する方法での、少なくとも一種のブロック共重合体を含むD50が100μm以下の熱可塑性粉末組成物中での、D50が10μm以下でモーズ硬度が6以下の充填剤の15〜50重量%の使用。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物を有する粉末のレーヤバイレーヤ焼結法によって、理論密度(この理論密度とは同じ組成物を射出成形方法を用いて成形した時の同じ形の物品の密度と定義される)の80%以上の密度を有する3次元物品を製造する方法であって、焼結で製造した物品に材料をインフィルトレート(溶浸)する段階を有しないことを特徴とする方法。
【請求項14】
理論密度の80%以上の密度を有する請求項13に記載の方法で製造された可撓性の3次元物品。
【請求項15】
物品に生じる可能径のあるギャップ中に材料をインフィルトレート(溶浸)しないことを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
ISO規格527-2:93-1BAに従って測定した弾性係数が1000 MPa以下である請求項14または15に記載の物品。
【請求項17】
物品がスポーツ器具、靴、スポーツ靴、靴底、装飾品、カバン、眼鏡、家具、視聴覚機器、コンピュータ、自動車両、航空機器および/または医療器具の部品である請求項14〜16のいずれか一項に記載の物品。

【公表番号】特表2013−517344(P2013−517344A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548470(P2012−548470)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050089
【国際公開番号】WO2011/089352
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】