説明

熱変位式自動Tダイの制御方法

【課題】 温度制御ループと厚さフィードバック制御ループとからなる熱変位式自動Tダイのカスケード制御方法において、温度制御ループを過去のヒータ制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度とから、ダイボルトの温度すなわちヒータ制御出力値を予測する仮想温度制御ループとして構成し、簡便かつ適正にプラスチックシート等のプロファイル制御を行うことができる熱変位式自動Tダイの制御方法を提供する。
【解決手段】 成形品の厚さデータをプロファイル処理して目標プロファイルを修正して適正なリップ間隙を得るダイボルトの温度設定および変更を行う演算処理を行う厚さフィードバック制御ループに対し、ダイボルトに取付けたヒータの制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度とから適正なダイボルトの温度となるヒータ制御出力値を予測演算する仮想温度制御ループを設けるとともに、その仮想温度制御ループに任意の連続したダイボルトグループ区分毎に設けたダイボルト温度出力を補正演算して出力した後、カスケード制御する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックシートまたはプラスチックフィルムを成形する熱変位式自動Tダイの制御方法に係り、特に前記自動Tダイのリップ調整量を、熱変位式アクチュエータの制御データに基づいて予測する仮想温度制御ループと、成形品の厚さデータから算出する厚さフィードバック制御ループとのカスケード制御によって、簡便かつ適正にプラスチックシート等のプロファイル制御を行うことができる熱変位式自動Tダイの制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】この種のプラスチックシートまたはプラスチックフィルム(以下、単にシート等という)の成形に際して、出願人は特開平10−225973号公報に示すような熱変位式自動Tダイの制御方法を提案した。この方法について図5および図6により述べると、図5の制御系統図は目標プロファイルをプロファイル制御部50、ダイボルト・ヒータ温度制御部52、SSR(ソリッドステートリレー)等を用いたヒータ制御出力装置53、ダイボルト−リップ系54、成形プロセス56を順次経てシートのプロファイル制御がなされ、このプロファイル制御結果を、厚さプロファイル処理部58で処理して、プロファイル制御部50へフィードバックする制御演算を行う厚さフィードバック制御ループと、ヒータ制御出力装置53において出力されたヒータ制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度とから、ダイボルト・ヒータ温度予測演算部55を介して、ダイボルトの温度すなわちヒータ制御出力値を予測し、前記ダイボルト・ヒータ温度制御部52へフィードバックする制御演算を行う仮想温度制御ループを設けたものである。
【0003】前述のような制御系統となっており、つぎにプロファイル制御部50および厚さプロファイル処理部58によるシート等の成形時における厚さフィードバック制御における操作について、図6の(a)に示す制御フローチャートを参照して説明する。
【0004】最初に、STEP1では、プロファイル制御部50に対し、目標プロファイルの設定を行う。次いで、STEP2では、厚さプロファイル処理部58で処理された厚さプロファイルをフィードバック入力する。そこで、STEP3では、所定の時間が過ぎたか否かを判断し、YESならばSTEP4に行き、前記設定された目標プロファイルとフィードバック入力された厚さプロファイルとの偏差から、ダイボルト操作量を演算する。次いで、STEP5では、前記ダイボルト操作量に基づいて新たな設定温度を算出し、この算出値により前記ダイボルト・ヒータ温度制御部52に対する設定温度変更のための指令信号が出力される。その後、前記プロファイル制御部50は、次の制御タイミングとなるまで制御動作を待機し、再度前記制御動作が繰り返し行われる。
【0005】次に、仮想温度制御ループにおける操作について、図6の(b)に示す制御フローチャートを参照して説明する。まず、STEP6では、ダイボルト・ヒータ温度制御部52に対し、ダイボルトの初期設定温度が入力設定される。次に、STEP7で前述したような所要のタイミングで設定温度の変更が前記プロファイル制御部50より指令されると、STEP8で設定温度の変更が行われ、ヒータ制御出力装置53によりヒータを制御して各ダイボルトの温度制御を行う。
【0006】そして、STEP9では、前記設定温度の変更のあるなしにかかわらず、前記ヒータ制御出力装置53のヒータ制御出力値に基づき、ダイボルト・ヒータ温度予測演算部55において、ダイボルト温度の予測演算が行われる。次いで、STEP10では、算出された予測温度と設定温度との差から、PID演算によりヒータ制御出力値を演算する。
【0007】このようにして算出されたヒータ制御出力値は、STEP11でダイボルト・ヒータ温度制御部52を介してヒータ制御出力装置53より出力されて、ヒータを制御して各ダイボルトの温度制御を行う。そして、STEP12では、前記ヒータ制御出力値を演算する温度制御タイミングが、適宜設定されて、再度前記制御動作が繰り返し行われる。
【0008】ここで、前述したダイボルト・ヒータ温度予測演算部55おけるヒータ制御出力値の予測演算について詳細に説明すると、ダイボルトの温度は、ヒータの発熱量Q1 と周囲への放熱量Q0 により決定される。この場合、ダイボルトは多数並列配置されるため、近接するダイボルトからの熱QB も伝熱される。
【0009】一般に、i 番目のヒータの発熱量Qi は次式Qi =C1 (θh −θ) … (1)但し、C1 :伝熱に係るコンダクタンスθh :ヒータ自体の温度θ :ダイボルトの温度
【0010】一方、近接するダイボルトからの熱QB は次式 QB =C2i(θ(i-1) −θi )+C2i(θ(i+1) −θi ) … (2) 但し、C2 :伝熱に係るコンダクタンスθi :該当するダイボルトの温度θ(i+1),(i-1) :近接するダイボルトの温度
【0011】また、ヒータの周囲への放熱量Q0 は次式Q0 =C3 (θi −θa ) … (3)但し、C3 :伝熱に係るコンダクタンスθa :ヒータで加熱するダイボルト付近の周囲温度(解析を容易にするためθa =0とする)、従って、定常熱伝導において、前記放熱量Q0 は次式Q0 =Qi +QB … (4)
【0012】そこで、前記式(4) に前記式(1),(2),(3) を代入して整理すると、次式が得られる。
【0013】
【数1】


【0014】前記式(5) は簡略化すると、 θi =G1 ・θh +G2 〔θ(i+1) +θ(i-1) 〕 … (6) 前記定数G1 、G2 は、実験によって同定し、数値化することができる。
【0015】このようにして、該当するダイボルトの温度を予測し、設定温度との偏差からPID制御によって、新しいヒータへの制御出力値を演算し、ヒータ制御出力装置53に出力することにより、ダイボルトの温度制御を適正に行うことができる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】そこで、この従来の制御方法により30本のダイボルト(a1〜a15〜a30)に対して予測演算し仮想温度制御ループをかけてカスケード制御したテスト結果を図4に示す。このテストでは、各ダイボルト(a1〜a15〜a30)毎に温度センサを設け、目標値300℃に対する実測温度を検出して表示したものである。そして、目標値の温度をかえて複数回テストを行ったが、図4のように仮想温度と実測温度との偏差が大きくなってしまった。その主な原因は、近接するダイボルトからの受熱量がTダイの中央部(a15)と両端部(a1、a2、a29、a30)では大きく異なることであった。
【0017】そこで、本発明の目的は、温度制御ループと厚さフィードバック制御ループとからなる熱変位式自動Tダイのカスケード制御方法において、温度制御ループを過去のヒータ制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度とから、ダイボルトの温度すなわちヒータ制御出力値を予測する仮想温度制御ループを構成し、簡便かつ適正にシートのプロファイル制御を行うことができる熱変位式自動Tダイの制御方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明に係る熱変位式自動Tダイの制御方法は、それぞれにヒータを取付けたダイボルトをTダイリップ幅方向に複数個設け、そのヒータを通電或いは遮電して前記ダイボルトを膨脹および収縮させることによりTダイリップの隙間を調整して予め設定したプロファイルとなるようにプラスチックシート等を成形し、それによる成形品の厚さデータから各ダイボルトの温度設定および変更を行う厚さフィードバック制御ループに対し、前記各ヒータの制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度から適正なダイボルト温度となるヒータ制御出力値を予測演算する仮想温度制御ループを設けた熱変位式自動Tダイの制御方法において、前記複数個のTダイリップ幅方向の前記ダイボルトを任意の連続したダイボルトグループに区分し、同区分毎のヒータ実測温度とその仮想温度との偏差を前記ヒータ制御出力値の予測演算する際の補正係数として前記仮想温度制御ループに出力することを特徴とする熱変位式自動Tダイの制御方法とした。。
【0019】さらに、前記補正係数Ki は各区分毎の仮想温度をθi とし、実測温度をθRとしたとき、(θi −θR )の演算を行い、その差とある一定の温度差tを比較し、(θi −θR )の絶対値<tであればKi =1、(θi −θR )の絶対値>tであれば、仮想温度θi が実測温度θR より高いときはKi を1より小さい値で逆算し、仮想温度θi が実測温度θR より低いときはKi を1より大きい値で逆算し、常に(θi −θR )の絶対値<tの範囲内になるように適正なKi 値を検索して出力することを特徴とする熱変位式自動Tダイの制御方法とした。
【0020】このように、Tダイの全ボルト毎ではなく、区分毎のダイボルト温度センサからダイボルト実測温度を検出することから、数少ないダイボルト温度センサで仮想温度制御ループに出力し、簡便かつ適正なシート等のプロファイル制御を確実に達成することが出来る。
【0021】
【発明の実施の形態】次に、本発明に係る熱変位式自動Tダイの制御方法の実施例につき、図1により説明する。説明に当たり、本発明は従来の制御系統に加え複数個のTダイリップ幅方向のダイボルトを任意の連続したダイボルトグループに区分し、同区分毎のヒータ実測温度とその仮想温度との偏差を前記ヒータ制御出力値の予測演算する際の補正係数として前記仮想温度制御ループに出力するダイボルト温度補正係数演算部100を設けたものである。そしてその仮想温度制御ループのフローチャートは図2の(b)に示すように従来のフローチャートにダイボルト温度補正係数Ki を求めるためのフローを加えたものである。従って、従来例と同一部は同一番号を付し、その説明を省き、新たに追加された部材のみ新番号を付してその説明をする。
【0022】ダイボルト温度補正係数演算部100は前記式(6) の第1項にダイボルト温度補正係数Ki をかけた式 θi =Ki ・G1 ・θh +G2 〔θ(i+1) +θ(i-1) 〕 … (6) 但し、G1 、G2 は、実験によって同定し、簡素化することができ、Ki は後述する方法により数値化することができる。本式によりダイボルト温度補正係数を算出し、シート等の成形に先立ってダイボルト・ヒータ温度予測演算部55へ作用するものである。
【0023】次ぎに、図2に示すフローチャートについて説明すると、STEP20では先ず仮にKi =1を設定する。次いで、STEP21で定常状態まで温度制御を行う。定常状態に達したならば、STEP22では各区分毎の仮想温度θi を取り込み、STEP23では実測温度θR の測定を行い各区分毎の実測温度θR の入力を行い、次ぎにSTEP24に行き、(θi −θR )の演算を行い、その差とある一定の温度差tを比較し、(θi −θR )の絶対値<tであれば即ちYESであればKi =1としてSTEP26に行き、(θi −θR )の絶対値>tであれば即ちNOであればSTEP25に行き、仮想温度θi が実測温度θR より高いときはKi を1より小さい値で逆算し、適正なKi 値を検索し、逆に仮想温度θi が実測温度θR より低いときはKi を1より大きい値で逆算し、常に(θi−θR )の絶対値<tの範囲内になるように適正なKi 値を検索して出力する。Ki の更新を行う。
【0024】以上説明したようにダイボルト温度補正係数Ki を算出した後、シート等の成形を行い前述の従来例のフローチャートSTEP1ないしSTEP12で説明したような操作が行われる。
【0025】図3は前述した本発明の制御方法により、シート成形したテスト結果を示す。ここで、区分毎のヒータボルト温度センサを区分b1(a1)、b2(a4[a2〜a5]を代表する)、b3(a8[a6〜a9])、b4(a15[a10〜a21])、b5(a22[a21〜a25)、b6(a27[a26〜a29])、b7(a30)の7箇所に設けた。そして、目標値温度300℃に対する実測温度を検出し、前述の式により演算した温度補正係数を前記ダイボルト・ヒータ温度予測演算部55に出力した後、シート成形を行い仮想温度制御ループによりカスケード制御した。従来の図4R>4における仮想温度と実測温度の偏差が区分毎の全体に渡って極めて小さくなった。ここで、任意の連続したダイボルトグループは大略、中央部と両端部の3グループの他にそれらの間を2つないし3つに区分できる。
【0026】以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されることなく、その精神を逸脱しない範囲内において多くの設計変更が可能である。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る熱変位式自動Tダイの制御方法は、それぞれにヒータを取付けたダイボルトをTダイリップ幅方向に複数個設け、そのヒータを通電或いは遮電して前記ダイボルトを膨脹および収縮させることによりTダイリップの隙間を調整して予め設定したプロファイルとなるようにプラスチックシート等を成形し、それによる成形品の厚さデータから各ダイボルトの温度設定および変更を行う厚さフィードバック制御ループに対し、前記各ヒータの制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度から適正なダイボルト温度となるヒータ制御出力値を予測演算する仮想温度制御ループを設けた熱変位式自動Tダイの制御方法において、前記複数個のTダイリップ幅方向の前記ダイボルトを任意の連続したダイボルトグループに区分し、同区分毎のヒータ実測温度とその仮想温度との偏差を前記ヒータ制御出力値の予測演算する際の補正係数として前記仮想温度制御ループに出力するよう構成することにより、簡便かつ適正にプラスチックシート等のプロファイル制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る熱変位式自動Tダイの制御方法の一実施例を示す制御系統図である。
【図2】図1に示す熱変位式自動Tダイの制御方法を実施するための制御フローチャートであって、(a)は厚さのプロファイル制御のためのフローチャート図であり、(b)はダイボルト温度制御のためのフローチャート図である。
【図3】図1に示す熱変位式自動Tダイの制御方法におけるプラスチックシートのプロファイル処理およびダイボルト設定温度との関係を示すモニタ表示例の説明図である。
【図4】従来の熱変位式自動Tダイの制御方法におけるプラスチックシートのプロファイル処理およびダイボルト設定温度との関係を示すモニタ表示例の説明図である。
【図5】従来の熱変位式自動Tダイにおけるカスケード制御方式を示す制御系統図である。
【図6】図5に示す従来の熱変位式自動Tダイの制御方法を実施するための制御フローチャートであって、(a)は厚さのプロファイル制御のためのフローチャート図であり、(b)はダイボルト温度制御のためのフローチャート図である。
【符号の説明】
50 プロファイル制御部
52 ダイボルト・ヒータ温度制御部
53 ヒータ制御出力装置(SSR)
54 ダイボルト−リップ系
55 ダイボルト・ヒータ温度予測演算部
56 成形プロセス
58 厚さプロファイル処理部
100 ダイボルト温度補正係数演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 それぞれにヒータを取付けたダイボルトをTダイリップ幅方向に複数個設け、そのヒータを通電或いは遮電して前記ダイボルトを膨脹および収縮させることによりTダイリップの隙間を調整して予め設定したプロファイルとなるようにプラスチックシート等を成形し、それによる成形品の厚さデータから各ダイボルトの温度設定および変更を行う厚さフィードバック制御ループに対し、前記各ヒータの制御出力値とこれに基づく周囲への放熱温度から適正なダイボルト温度となるヒータ制御出力値を予測演算する仮想温度制御ループを設けた熱変位式自動Tダイの制御方法において、前記複数個のTダイリップ幅方向の前記ダイボルトを任意の連続したダイボルトグループに区分し、同区分毎のヒータ実測温度とその仮想温度との偏差を前記ヒータ制御出力値の予測演算する際の補正係数として前記仮想温度制御ループに出力することを特徴とする熱変位式自動Tダイの制御方法。
【請求項2】 前記補正係数Ki は各区分毎の仮想温度をθi とし、実測温度をθR としたとき、(θi −θR )の演算を行い、その差とある一定の温度差tを比較し、(θi −θR )の絶対値<tであればKi =1、(θi −θR )の絶対値>tであれば、仮想温度θi が実測温度θR より高いときはKi を1より小さい値で逆算し、仮想温度θi が実測温度θR より低いときはKi を1より大きい値で逆算し、常に(θi −θR )の絶対値<tの範囲内になるように適正なKi 値を検索して出力することを特徴とする請求項1記載の熱変位式自動Tダイの制御方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−102961(P2000−102961A)
【公開日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−291559
【出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】