説明

熱延鋼板の製造方法

【課題】高強度の熱延鋼板を安定して良好な品質で製造することができる熱延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間圧延を、粗圧延機によってスラブを粗圧延し、エンドレス圧延用設備11によって、粗圧延したシートバーを巻き取り、巻き戻した後、その先端部を先行シートバーの尾端部に接合し、仕上圧延機12によってシートバーを目標板厚(2.3mm以下)に仕上圧延するエンドレス圧延にて行い、仕上圧延後の巻き取りまでの冷却を、ランナウトテーブル13に設置された従来型冷却装置14と強冷却装置15で行って、600℃以下(必要により、400℃以下)の巻取り温度で巻取り装置(コイラ)16に巻取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化のため、鋼板の高強度化が必要になっている。そして、高強度の熱延鋼板を製造する際には、材質の安定化と加工性向上のために、600℃以下の低温巻き取りを行うことが多くなっている。
【0003】
しかし、鋼板の高強度化に伴い、熱間圧延機の負荷が高まると同時に、軽量化のため鋼板板厚は薄くなったことから、鋼板形状を安定させることが難しくなってきた。特に、この問題は、板厚2.3mm以下において顕著である。
【0004】
また、低温巻き取りでは、わずかな温度差が大きな材質の差となって現れ、鋼板をプレス加工に供する時に幅方向、長手方向の部位により割れが発生することがあり、従来よりも巻き取り温度を狭い許容範囲で制御する必要が出てきた。
【0005】
そのため、従来通りのスラブ単位のバッチ式の熱間圧延で高強度の熱延鋼板を製造しようとした場合は、鋼板形状および巻き取り温度が安定するまでに時間がかかり、その間に圧延された鋼板部分は、不適合品として切り捨てられていた。特に薄物製造時には切り捨て量が多かった。
【0006】
これに対して、エンドレス圧延と呼ばれる熱間圧延方法によって、高強度の熱延鋼板を製造することが考えられる。
【0007】
エンドレス圧延は、例えば特許文献1、2に記載のように、スラブを粗圧延し、粗圧延したシートバーを巻き取り、巻き戻した後、その先端部を先行シートバーの尾端部に接合し、仕上圧延する熱間圧延方法であり、鋼板の先端部および尾端部における不安定現象を抑制することが可能である。
【0008】
ただし、通常、高強度の熱延鋼板を製造する際には、高強度を実現するために、Si、Mnなどの添加元素を加える方法がとられるので、それによって溶接性を阻害し、エンドレス圧延の際のシートバーの溶接接合が不安定になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−211214号公報
【特許文献2】特開2006−239777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高強度の熱延鋼板を安定して良好な品質で製造することができる熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、エンドレス圧延と棒状冷却水による冷却とをコンビネーションした製造方法を着想した。
【0012】
すなわち、上記の着想に基づいて、本発明は以下の特徴を有している。
【0013】
[1]鋼素材を、板厚2.3mm以下に熱間圧延後、巻取り温度≦600℃で巻取り、熱延鋼板とするに際し、熱間圧延を、スラブを粗圧延し、粗圧延したシートバーを巻き取り、巻き戻した後、その先端部を先行シートバーの尾端部に接合し、仕上圧延するエンドレス圧延にて行い、仕上圧延後巻き取りまでの冷却を、ランナウトテーブル上を搬送される鋼板の上面側に、鋼板の進行方向に向けて傾斜させて棒状冷却水を噴射すると共に、その下流側に設けられた水切り手段により冷却水の水切りを行うことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【0014】
[2]巻取り温度を400℃以下とすることを特徴とする前記[1]に記載の熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、高強度の熱延鋼板を安定して良好な品質で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における熱間圧延設備を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における強冷却装置の上面冷却装置を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における強冷却装置の上面冷却装置本体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態における熱間圧延設備を示すものである。
【0019】
図1に示すように、この実施形態における熱間圧延設備10は、粗圧延機(図示せず)と、エンドレス圧延用設備11と、仕上圧延機12と、ランナウトテーブル13に設置された従来型冷却装置14および強冷却装置15と、巻取り装置(コイラ)16とを備えている。
【0020】
ここで、エンドレス圧延用設備11は、先行するシートバーの尾端部と後行するシートバーの先端部を接合するために、接合装置、コイルボックス、接合用クロップシャーを備えている。更に、バリ取り装置、シートバーヒータ、エッジヒータ、接合部冷却装置、高速通板装置などを適宜設置してもよい。
【0021】
また、従来型冷却装置14は、ランナウトテーブル13上を搬送される鋼板1の上面に対して冷却水を自由落下流として供給する複数の円管ラミナーノズルを有する上面冷却装置14aと、その鋼板1の下面に対してスプレー状の冷却水を供給する複数のスプレーノズルを有する下面冷却装置14bを備えている。
【0022】
そして、強冷却装置15は、ランナウトテーブル13上を搬送される鋼板1の上面に対して冷却水を供給する上面冷却装置15aと、その鋼板1の下面に対して冷却水を供給する下面冷却装置15bを備えている。
【0023】
まず、強冷却装置15の上面冷却装置15aは、図2に示すように、ランナウトテーブル13上を搬送される鋼板1の上面側に、鋼板1の進行方向に向けて傾斜させて棒状冷却水を噴射する上面冷却装置本体21と、その下流側に設けられた水切り手段25とからなっている。
【0024】
上面冷却装置本体21には、図3に示すように、冷却ヘッダ22に鋼板幅方向に所定のピッチ(例えば、60mmピッチ)で一列に配置された円管ノズル23が、鋼板進行方向に所定のピッチ(例えば、100mmピッチ)で所定の列数(例えば、100列)設けられている。なお、円管ノズル23は各列毎に1本の冷却ヘッダ22を経由して冷却水供給管24に接続されており、各冷却水供給管24は独立にオン−オフ制御可能となっている。
【0025】
円管ノズル23は、所定の内径(例えば、8mmφ)を備えた内面が滑らかな直管ノズルで、円管ノズル23から供給される冷却水は棒状冷却水である。そして、この円管ノズル23は、棒状冷却水を鋼板1の進行方向に向けて所定の噴射角度θ(例えば、θ=50°)で噴射するように傾斜して配置されている。
【0026】
ここで、本発明における棒状冷却水とは、円形状(楕円や多角の形状も含む)のノズル噴出口からある程度加圧された状態で噴射される冷却水であって、ノズル噴出口からの冷却水の噴射速度が7m/s以上であり、ノズル噴出口から鋼板に衝突するまでの水流の断面がほぼ円形に保たれた連続性と直進性のある水流の冷却水のことをいう。すなわち、円管ラミナーノズルからの自由落下流や、スプレーのような液滴状態で噴射されるものとは異なる。
【0027】
また、水切り手段25としては、水切り用流体を噴射するノズル(ここでは、棒状冷却水を噴射するノズル)26が設置されている。この水切り用の棒状冷却水は、冷却を目的とするものではないが、上面冷却装置本体21の円管ノズル23からの棒状冷却水と同様に、冷却水を用い、加圧状態で噴射され、ノズル噴出口から鋼板1に衝突するまでの水流の断面がほぼ円形に保たれた連続性と直進性のある水流を用いるので、ここでは棒状冷却水と呼ぶこととする。
【0028】
この棒状冷却水噴射ノズル26は、所定のノズル径(例えば、内径5mm)、ノズルピッチ(例えば、30mm)、列数(例えば、3列)で、上面冷却装置本体21の下流側に配置されており、上面冷却装置本体21からの棒状冷却水に対向するように、上面冷却装置本体21側に向けて傾斜した棒状冷却水を噴射する。棒状冷却水噴射ノズル26から噴射される棒状冷却水と鋼板1との成す角度ηは、上面冷却装置本体21からの棒状冷却水の噴射角度θと同程度であり、60°以下が好ましく、55°以下が一層好ましい。
【0029】
なお、水切り手段25としては、上記の棒状冷却水噴射ノズル26に替えて、ピンチロール方式の水切りロールを用いることでもよい。
【0030】
一方、強冷却装置15の下面冷却装置15bは、従来型冷却装置14の下面冷却装置14bと同様のものであり、鋼板1の下面に対してスプレー状の冷却水を供給する複数のスプレーノズルを有している。
【0031】
このように、強冷却装置15が、棒状冷却水を鋼板1の進行方向に向けて噴射角度θで噴射する複数の円管ノズル23と、上面冷却装置本体21からの棒状冷却水に対向するように棒状冷却水を噴射する水切り用棒状冷却水噴射ノズル26を備えていることから、円管ノズル23から鋼板1上面に供給された後の冷却水(滞留水)が鋼板1の進行方向に向けて流動するとともに、流動した滞留水が水切り用棒状冷却水噴射ノズル26からの棒状冷却水によって堰き止められるようになるので、冷却水による冷却領域が一定になる。そして、円管ノズル23から棒状冷却水が噴射されるので、鋼板1上面の滞留水の水膜を破って鋼板1まで新鮮な冷却水を到達させることができる。これによって、均一で冷却速度の速い強冷却を行うことが可能となる。
【0032】
そして、上記のように構成された熱間圧延設備10において、板厚2.3mm以下の高強度熱延鋼板を製造する際には、以下のようにして行う。
【0033】
すなわち、まず、熱間圧延を、粗圧延機によってスラブ(鋼素材)を粗圧延し、エンドレス圧延用設備11によって、粗圧延したシートバーを巻き取り、巻き戻した後、その先端部を先行シートバーの尾端部に接合し、仕上圧延機12によってシートバーを目標板厚(2.3mm以下)に仕上圧延するエンドレス圧延にて行い、仕上圧延後の巻き取りまでの冷却を、ランナウトテーブル13に設置された従来型冷却装置14と強冷却装置15で行って、600℃以下(必要により、400℃以下)の巻取り温度で巻取り装置(コイラ)16に巻取る。
【0034】
これによって、この実施形態においては、板厚2.3mm以下の高強度熱延鋼板を安定して良好な品質で製造することができる。
【0035】
すなわち、低温巻取りを行うための冷却に、均一で冷却速度の速い強冷却を行うことが可能な強冷却装置15(棒状冷却水を傾斜して噴射する複数の円管ノズル23、水切り用棒状冷却水噴射ノズル26)を用いていることによって、上記したような低温巻取りにおいても鋼板1の冷却を均一化できるとともに、Si、Mnなどの添加元素を増すことなく高強度化を実現できるようになり、溶接性を阻害することが回避されて、鋼板1の先端部および尾端部における不安定現象を抑制することが可能であるエンドレス圧延を行うことが容易になることから、鋼板1の先尾端の形状バラツキおよび材質バラツキを改善することができるようになる。
【0036】
また、強冷却装置15の使用・不使用あるいは使用ノズル本数の変更により、冷却温度と巻取り温度を変更することができ、同一成分で複数の機械的特性(例えば、同一引張強度で高伸びと高伸びフランジや、引張強度370MPaと440MPaの造り分け)を実現できるという効果もある。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例として、板厚1.6mmの高強度熱延鋼板を製造した。
【0038】
その際に、本発明例1として、上記の実施形態に基づいて、熱間圧延をエンドレス圧延にて行った後、仕上圧延機12の出口での鋼板温度850℃から従来型冷却装置14を使用して700℃まで冷却し、強冷却装置15によって400℃まで冷却した。その結果、このときの鋼板1の全幅全長での温度バラツキは±10℃以内を実現可能であった。
【0039】
これに対して、比較例1として、熱間圧延を従来通りのスラブ単位のバッチ式圧延で行った。その結果、このときの鋼板1の全幅全長での温度バラツキは±30℃であった。
【0040】
また、比較例2として、熱間圧延を従来通りのスラブ単位のバッチ式圧延で行うとともに、従来型冷却装置14のみを使用して400℃まで冷却した。その結果、巻取り温度は300〜420℃であった。
【0041】
また、本発明例1では、鋼板1の引張強度は440MPa相当であったが、本発明例2として、強冷却装置15を半分の冷却能力とすることにより巻取り温度を550℃とした場合には、鋼板1の引張強度は370MPa相当となった。
【0042】
さらに、本発明例3として、別の成分系で、強冷却装置15を使用した場合は、鋼板1の引張強度は590MPa相当であったが、伸び25%、伸びフランジ性100%であったのに対して、本発明例4として、従来型冷却装置14で550℃まで冷却し、強冷却装置14で400℃まで冷却した場合は、伸び28%、伸びフランジ性80%となった。
【符号の説明】
【0043】
1 鋼板
10 熱間圧延設備
11 エンドレス圧延用設備
12 仕上圧延機
13 ランナウトテーブル
14 従来型冷却装置
14a 従来型冷却装置の上面冷却装置
14b 従来型冷却装置の下面冷却装置
15 強冷却装置
15a 強冷却装置の上面冷却装置
15b 強冷却装置の下面冷却装置
16 巻取り装置
21 上面冷却装置本体
22 冷却ヘッダ
23 円管ノズル
24 冷却水供給管
25 水切り手段
26 水切り用棒状冷却水噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼素材を、板厚2.3mm以下に熱間圧延後、巻取り温度≦600℃で巻取り、熱延鋼板とするに際し、熱間圧延を、スラブを粗圧延し、粗圧延したシートバーを巻き取り、巻き戻した後、その先端部を先行シートバーの尾端部に接合し、仕上圧延するエンドレス圧延にて行い、仕上圧延後巻き取りまでの冷却を、ランナウトテーブル上を搬送される鋼板の上面側に、鋼板の進行方向に向けて傾斜させて棒状冷却水を噴射すると共に、その下流側に設けられた水切り手段により冷却水の水切りを行うことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
巻取り温度を400℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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