説明

熱接着シート

【課題】結晶性が高いため操業性に優れ、加えて融点が十分に低いため接着性に優れる熱接着シートを提供する。
【解決手段】本発明の熱接着シートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含有し、ジオール成分として1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールを含有する共重合ポリエステルからなる長繊維から構成されるスパンボンド不織布により構成され、前記共重合ポリエステルの融点Tmが130℃以下であり、該スパンボンド不織布の昇温速度10℃/分で示差熱分析した融点をTm1とし、融解後降温速度10℃/分で降温し50℃で5分間保持した後に、昇温速度10℃/分で再度昇温したときの示差熱分析した融点をTm2としたときに、(Tm1−Tm2)≧1℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な不織布や布からなる積層体が、自動車の天井材などにおいて多く使用されている。また、不織布とフィルムを貼り合わせて得られた積層体が、防護服などの用途で多く用いられている。
【0003】
このような積層体を構成するに際し、不織布やフィルムなどを接着するために、ホットメルト系の接着剤が用いられている。また、熱接着性を有する繊維からなる不織布を、積層体を形成する不織布やフィルムなどの間に介在させて積層し、その後熱処理を施す事により、不織布やフィルムなどを接着させて、積層体を得る手法も採用されている。
【0004】
このような熱により溶融し、接着剤としての機能を有する不織布として、例えば、長繊維からなる不織布であって、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする繊維とバインダー繊維(つまり、ポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリマーで構成された繊維)とを混繊することにより構成された不織布が挙げられる。しかし、このような長繊維から構成される不織布においては、接着剤として機能するのはバインダー繊維のみであり、加えてバインダー繊維の量が少ないものであった。そのため、この長繊維不織布を用いて得られた積層体は、接着性が弱く剥離しやすいものであった。
【0005】
上記問題点を解決するための方法として、特許文献1には、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とから、融点が100〜150℃である共重合ポリエステルを得て、これを構成繊維とする長繊維不織布が提案されている。この不織布は、熱接着処理の際の収縮が小さく、接着した不織布構造物等の寸法安定性は優れており、また、接着後の積層体を高温雰囲気下において使用した際の耐熱性にも優れたものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された長繊維不織布は、スパンボンド法のような冷却ゾーンが比較的短い方法を用いて不織布を製造されているため、ポリマーが十分に冷え固まらないという問題があった。そのため、スパンボンド化装置へポリマーが付着しやすく、不織布を連続生産することが困難である場合があった。
【0007】
また、上記共重合ポリエステルは、実質的にジカルボン酸成分としてテレフタル酸のみを用いているため、融点が130℃を超えるものとなっている。そのため、このような共重合ポリエステルを使用して製造したスパンボンド不織布を、熱接着シートとして用いる場合には、溶融させる温度が高くなり過ぎ、加工性や経済性に劣ったり、用途が限定されたりする可能性が高かった。また、熱劣化が起こるため、熱接着加工されることで得られる製品の品質や風合い等を損ねるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−13522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような問題に鑑み、本発明の目的は、結晶性が高いため操業性に優れ、加えて融点が十分に低いため接着性に優れる熱接着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含有し、ジオール成分として1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールを含有する共重合ポリエステルからなる長繊維から構成されるスパンボンド不織布により構成され、前記共重合ポリエステルの融点Tmが130℃以下であり、該スパンボンド不織布の昇温速度10℃/分で示差熱分析した融点をTm1とし、融解後降温速度10℃/分で降温し50℃で5分間保持した後に、昇温速度10℃/分で再度昇温したときの示差熱分析した融点をTm2としたときに、(Tm1−Tm2)≧1℃であることを特徴とする熱接着シート。
(2)ジカルボン酸成分がイソフタル酸を10モル%以上含有することを特徴とする(1)の熱接着シート。
(3)共重合ポリエステルのメルトインデックスが10〜120g/10minであることを特徴とする(1)または(2)の熱接着シート。
(4)共重合ポリエステルが、メルトインデックスが5〜100g/10minであるポリオレフィンおよび/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を1.0〜5.0質量%含有することを特徴とする(1)〜(3)いずれかの熱接着シート。
(5)共重合ポリエステルが、不活性微粒子を0.1〜5.0質量%含有することを特徴する(1)〜(4)いずれかの熱接着シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱接着シートは、該シートを構成する長繊維を形成する共重合ポリエステルが、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸を主成分として含有し、ジオール成分として1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを主成分として含有しているため、その融点が130℃以下と低いものであり、良好なヒートシール性を有することができる。また、本発明の熱接着シートは、上記のような構成を有することにより、融解後降温速度10℃/分で降温し50℃で5分間保持した後に、昇温速度10℃/分で再度昇温したときの示差熱分析した融点をTm2としたときに、(Tm1−Tm2)≧1℃とすることができ、溶融紡糸や延伸工程で結晶化しやすいため、結晶性が高く、シート製造時の操業性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱接着シート(以下、単に「シート」と称する場合がある)は、共重合ポリエステルからなる長繊維から構成されるスパンボンド不織布により構成されるものである。
【0013】
該共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸およびイソフタル酸を主成分とすることが必要である。テレフタル酸およびイソフタル酸以外のジカルボン酸成分を主成分として用いた場合は、結晶性が向上せず、加えて融点が低い共重合ポリエステルとなる。なお、本発明において、主成分とするとは、用いられるテレフタル酸、イソフタル酸の合計含有量が、ジカルボン酸成分中において、60モル%以上であることをいう。また、本発明においては、ジカルボン酸成分中において、テレフタル酸とイソフタル酸の合計含有量は90モル%以上であることが好ましい。
【0014】
共重合ポリエステルのジカルボン酸成分においては、イソフタル酸が5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましい。イソフタル酸が5モル%未満であると、融点が130℃を超える場合があり、熱接着性に劣るという問題がある。なお、カルボン酸成分中のイソフタル酸の含有量の上限は、20モル%程度とする。20モル%を超えると、結晶性が低下する場合があるためである。
【0015】
ジカルボン酸成分においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、テレフタル酸、イソフタル酸以外のジカルボン酸成分(共重合成分)を含有してもよい。共重合成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体;5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0016】
共重合ポリエステルは、ジオール成分が1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールを主成分とすることが必要である。なお、主成分とするとは、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの含有量が、ジオール成分中、それぞれ25モル%以上であることをいう。1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオール以外のジオール成分を主成分として用いた場合は、結晶性が向上せず、加えて融点が低い共重合ポリエステルとなる。つまり、本発明においては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールを主成分とする共重合ポリエステルを用いることで、結晶性に優れ、融点が十分に高い熱接着性スパンボンド不織布を得ることができる。
【0017】
ジオール成分においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール以外のジオール成分(共重合成分)を含有してもよい。共重合成分としては、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール;ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0018】
共重合ポリエステルの融点Tmは、130℃以下である必要があり、125℃以下であることが好ましい。融点Tmが130℃を超えると、熱接着する際の加工温度を高くする必要があるため、加工性、経済性に劣ったり、用途が限定されたりする場合がある。また、熱劣化が起こるため、熱接着加工されることで得られる製品の品質や風合い等を損ねるという問題がある。
【0019】
共重合ポリエステルのメルトインデックス(MI)は、10〜120g/10minであることが好ましく、より好ましくは5〜100g/10minであり、20〜80g/10minであることがより好ましい。MIが120g/10minを超えるとスパンボンド法により不織布を得る場合に、紡糸時に糸切れが起きやすく好ましくない。また、MIが10g/10min未満であると、流動性に乏しくなり、接着シートとしての使用時に、熱により溶融または軟化した共重合ポリエステルと被接着物とが良好に接合されず、また、アンカー効果を十分に発揮出来ない場合がある。なお、本発明において、MIは、ASTM D 1238(E)に従って、温度190℃、荷重2160gfで測定されるものである。
【0020】
本発明のシートは、上述のような共重合ポリエステルから構成される長繊維から得られるものであり、高い結晶性を有するものである。本発明において、結晶性を示す指標は以下のようにして求められる。すなわち、本発明の熱接着シートについて示差熱分析を行った時に、以下のような熱特性を有する必要がある。
【0021】
本発明のシートの昇温速度10℃/分で示差熱分析した融点をTm1とする。そして、融解後に降温速度10℃/分で降温し、50℃で5分間保持する。その後、再び昇温速度10℃/分で昇温し、示差熱分析した融点をTm2とする。このとき、(Tm1−Tm2)≧1℃であることが必要である。より好ましくは(Tm1−Tm2)≧3℃、さらに好ましくは(Tm1−Tm2)≧5℃であることが好ましい。上記の(Tm1−Tm2)が1℃より小さい場合は、紡糸工程での共重合ポリエステルの結晶化が不十分となり、スパンボンド不織布の製造工程において開繊時に糸条間が密着したり、また連続操業時に装置の各部位に共重合ポリエステルポリマーの一部が付着しやすくなったりするため、連続操業性に劣るという問題がある。
【0022】
本発明においては、上述のような構成を採ることで、(Tm1−Tm2)≧1℃であるという熱特性を有するスパンボンド不織布を構成する長繊維を得ることができる。さらに、結晶性がより向上された長繊維を得るために肝要な点は、以下の3点である。つまり、(i)溶融紡糸工程において的確な冷却ゾーンを確保すること、(ii)ノズルより紡出した糸条を急冷すること、(iii)結晶核剤を含有させることである。このようにすることにより、より結晶性が向上されたスパンボンド不織布を得やすくなる。
【0023】
上記(i)に関して、溶融紡糸工程における冷却ゾーンが短すぎると、結晶化しにくくなるため、所望の結晶性を発現させることができず、加えて、ノズルより紡出された糸条の冷却が不十分となり、繊維化できないためポリマーの塊が糸条に混入しやすくなる。また、冷却ゾーンが長すぎると過冷却状態となり糸切れが多くなる場合がある。
【0024】
上記(ii)に関して、ノズルより紡出した糸条を急冷させるために、冷却開始位置をノズル面下70cm以内とし、冷却温度、冷却風量などを適宜選択することができる。
【0025】
上記(iii)に関して、結晶核剤を含有させることで、結晶性をより向上させ、所望の熱特性を発現させることができる。結晶核剤としては、特に制限されず、不活性微粒子を添加してもよいし、ポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン等の樹脂組成物を添加してもよい。特にポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン等の樹脂組成物を用いると、繊維間のブロッキングを防止する離形剤としての効果も期待できるため、より好ましい。
【0026】
不活性微粒子としては、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタンが挙げられる。不活性微粒子の含有量は、0.1〜5.0質量%が好ましい。不活性微粒子の含有量が0.1質量%未満であると結晶化を十分に促進することができず、一方、不活性微粒子の含有量が5.0質量%を超えると糸切れの原因になることがある。
【0027】
また、不活性微粒子の粒径は、体積平均粒子径で、5.0μm以下であることが好ましい。5.0μmを超えると糸条中にクラックが発生する場合がある。
【0028】
ポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン樹脂組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができる。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が好ましく、特にポリエチレンが好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0029】
ポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン等の樹脂組成物の含有量は、1.0〜5.0質量%であることが好ましく、1.0〜3.0質量%であることがより好ましい。1.0質量%未満であると、操業性、開繊性を十分に向上させる効果が乏しい。また、5.0質量%を超えた場合、本発明に用いた共重合ポリエステルへのポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン樹脂組成物の分散が不十分なものになってしまい、紡糸時に糸切れが多発する場合がある。
【0030】
ポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン樹脂組成物のMIは、5〜100g/10minであることが好ましく、10〜50g/10minであることがより好ましい。MIが5g/10min未満であると、共重合ポリエステル中への分散性に劣る場合がある。また、100g/10minを超えると、ポリオレフィン及び/又は酸変性ポリオレフィン樹脂組成物の多くが繊維表面にブリードアウトしてしまい、長期間紡糸した場合、開繊性、操業性が低下する場合がある。
【0031】
上記のような結晶核剤を添加する方法としては、粉体、ペレットのまま、あるいはスラリー状にし、共重合ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加する方法や、高濃度のマスターバッチを試作しそれを紡糸時に適宜、希釈しながら共重合ポリエステルに添加する方法などが挙げられる。
【0032】
また、共重合ポリエステル中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、艶消剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0033】
本発明の熱接着シートは、上記のような共重合ポリエステルからなる長繊維から構成される。この長繊維の断面形状は、特に制限されず、丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W字型、H字型、Y字型、T字型、C字型等の異形断面;四角形、三角形、六角形等の多角形状;中空形状などが挙げられる。
【0034】
なかでも、本発明の熱接着シートを構成する長繊維の断面が異形断面であると、単位ポリマー質量当たりの表面積が大きくなることから、溶融紡糸の際の紡出糸条の冷却性、開繊性に優れるという利点がある。
【0035】
本発明の熱接着シートを構成する繊維の単糸繊度は、1〜20デシテックスであることが好ましく、2〜15デシテックスであることがより好ましい。単糸繊度が1デシテックス未満になると、紡糸工程において紡出糸条が延伸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化する場合がある。一方、単糸繊度が20デシテックスを超えると、紡出糸条の冷却性に劣る傾向となり、糸条が熱により密着した状態で開繊装置から出てくるようになり、得られるスパンボンド不織布の品位に劣る場合がある。
【0036】
本発明の熱接着シートの目付は、その不織布の用途によって適宜選択すればよく、特に限定されないが、一般的には10〜300g/mの範囲が好ましく、より好ましくは15〜200g/mの範囲である。目付が10g/m未満では、地合および機械的強力に劣り、実用的でない場合がある。一方、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利となる。
【0037】
本発明の熱接着シートは、上記のような繊維によって構成されるものであるが、なかでも、構成繊維同士が熱接着により一体化した不織布であることが好ましく、特に熱エンボス加工により熱接着していることが好ましい。熱エンボス加工により熱接着している不織布であると、熱接着部(不織布に形成された凹部)では熱と圧力が付与されているが、非熱接着部は熱や圧力の影響をほとんど受けないため、機械的物性が良好であり、かつ形態安定性に優れるという利点がある。
【0038】
本発明の熱接着シートには、本発明の効果を損なわない範囲で、バインダーが付着していてもよい。バインダーの種類は特に限定されないが、ポリオレフィン系バインダーは、被接着物としてポリオレフィン系の材料に対する接着性を高める上で好適である。
【0039】
本発明に使用する熱接着シートは、スパンボンド法によって効率よく製造することができる。その製造方法について以下に述べる。まず、ジカルボン酸成分がテレフタル酸及びイソフタル酸を主成分とし、ジオール成分が1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを主成分とし、融点が130℃以下である共重合ポリエステルを、公知の重合法で調製する。
【0040】
この共重合ポリエステルを溶融させ、紡糸口金を介して溶融紡糸し、紡出糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。このときの牽引速度は、1000〜6000m/分と設定することが好ましい。牽引速度が1000m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる長繊維不織布の寸法安定性や熱安定性に劣る場合がある。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣る場合がある。
【0041】
牽引細化した長繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて、構成繊維がランダムに堆積した不織ウエブを形成する。
次いで、このウエブを熱圧接装置にて熱圧接することで不織布とし、本発明の熱接着シートを得ることができる。
【0042】
熱圧接装置としては、エンボスロールとフラットロールとからなるもの、一対のエンボスロールからなるもの、一対のフラットロールからなるものなどが挙げられ、複数の熱圧接装置を用いてもよい。エンボスロールの凸部の先端部の形状は、熱圧接部の形状となるが、この形状は、特に限定されない。例えば、丸形、楕円形、菱形、三角形、T字形、井形、長方形、正方形等の種々の形状を採用できる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、以下の方法により測定した。
【0044】
(1)メルトインデックス(MI)(g/10min)
ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重2160gfで測定した。
【0045】
(2)融点(Tm1、Tm2)(℃)
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点Tm1(℃)とした。また、融解後、降温速度10℃/分で降温し、50℃で5分間保持した後に、再び昇温速度10℃/分で昇温し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を示差熱分析した融点をTm2とした。
【0046】
(3)繊度(デシテックス)
得られた不織布より50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡で測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0047】
(4)目付(g/m
標準状態の試料から試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量した。その秤量を得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0048】
(5)操業性
スパンボンド不織布製造装置を24時間連続操業させ、操業する間の糸切れ発生などにより、装置へのポリマー付着等に伴うトラブル発生に基づき、以下の基準で評価した。
◎:トラブルが発生しなかった。
○:トラブルが発生したが、その回数が少なく3回未満であった。
×:トラブルが多発した。
【0049】
(6)接着性
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称する)からなるスパンボンド不織布(目付け:50g/m)を2枚用意した。この2枚の間に、実施例および比較例で得られたスパンボンド不織布(50g/m)を挟み込み、150mm×150mmのサイズのシートを得た。このシートの端より20mmのところを、ヒートシール機を用いて、130℃、2.0秒、2.0kgf/cm、の条件で、10mm幅をヒートシールした。
このシート剥離し、その状態を以下の3段階で評価した。
◎:シートの剥離を行う際、抵抗が大きく剥離が難しい。もしくは、接着部分よりシートが破断する。
○:少しの力で容易に剥離する。
×:接着していない。
【0050】
(実施例1)
ジカルボン酸成分(テレフタル酸:84モル%、イソフタル酸:16モル%)およびジオール成分(1,6-ヘキサンジオール:58モル%、1,4-ブタンジオール:42モル%)とからなり、MIが80g/10minの共重合ポリエステル(以下「P1」)を用意した。これを、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
【0051】
この紡出糸条を公知の冷却装置にて急冷却した。その後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。次いで、このウエブをロール温度90℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付30g/mの熱接着性スパンボンド不織布を得た。得られた熱接着性スパンボンド不織布の評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例2)
「P1」と不活性微粒子である二酸化チタン(富士チタン社製、「TA−300」、レーザー回折散乱法により測定した体積平均粒子径:0.59μm)を用意した。二酸化チタンが溶融重合体中に0.8質量%となるように、個別に計量した後、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
【0054】
この紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した。その後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。次いで、このウエブをロール温度90℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付30g/mの熱接着性スパンボンド不織布を得た。得られた熱接着性スパンボンド不織布の評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
「P1」とMIが25g/minのポリエチレンを用意した。ポリエチレンが溶融重合体中に2.5質量%となるように、個別に計量した後、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
【0056】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した。その後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。次いで、このウエブをロール温度90℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付30g/mの熱接着性スパンボンド不織布を得た。得られた熱接着性スパンボンド不織布の評価結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
テレフタル酸成分と、ジオール成分(1,6−ヘキサンジオール:89モル%、1,4−ブタンジオール:11モル%)とからなり、MIが20g/10minである共重合ポリエステル(以下、「P2」とする)を用意した。共重合ポリエステルP2を,エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
【0058】
紡出した糸条を公知の冷却装置にて冷却した。その後、引き続いて紡糸公口の下方に設けたエアサッカーに牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、異動するスクリーンコンベア上に長繊維群をウエブとして堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。次いで、このウエブをロール温度115℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付30g/mのポリエステル系長繊維不織布を得た。
【0059】
実施例1、2で得られた熱接着シートは、(Tm1−Tm2)が5℃以上の差があるため、操業性に優れおり、トラブルが少なかった。また、融点が十分に低く、ポリエステル系基材に対して優れた接着性能を示した。
実施例3で得られた熱接着シートは、(Tm1−Tm2)が10℃近くあるため結晶性が十分に高く、操業上のトラブルが無かった。また、ポリエステル系基材に対して優れた接着性能を示した。
比較例1は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分のみを用いたため、Tm1とTm2の差が無く操業性に劣っており、スパンボンド不織布を連続製造することが困難であった。また、融点が130℃以上であり、十分な接着性を発現させることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含有し、ジオール成分として1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールを含有する共重合ポリエステルからなる長繊維から構成されるスパンボンド不織布により構成され、前記共重合ポリエステルの融点Tmが130℃以下であり、該スパンボンド不織布の昇温速度10℃/分で示差熱分析した融点をTm1とし、融解後降温速度10℃/分で降温し50℃で5分間保持した後に、昇温速度10℃/分で再度昇温したときの示差熱分析した融点をTm2としたときに、(Tm1−Tm2)≧1℃であることを特徴とする熱接着シート。
【請求項2】
ジカルボン酸成分がイソフタル酸を10モル%以上含有することを特徴とする請求項1記載の熱接着シート。
【請求項3】
共重合ポリエステルのメルトインデックスが10〜120g/10minであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱接着シート。
【請求項4】
共重合ポリエステルが、メルトインデックスが5〜100g/10minであるポリオレフィンおよび/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を1.0〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の熱接着シート。
【請求項5】
共重合ポリエステルが、不活性微粒子を0.1〜5.0質量%含有することを特徴する請求項1〜4いずれか1項に記載の熱接着シート。


【公開番号】特開2012−180433(P2012−180433A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43429(P2011−43429)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】