説明

熱接着シート

【課題】本発明の目的は、優れた熱接着性を有し、特にポリオレフィン材料に対する熱接着性が向上された熱接着シートを提供する。
【解決手段】本発明の熱接着シートは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とを含み、かつ融点Tmが100〜150℃の共重合ポリエステルからなる長繊維から構成された不織布の表面に、ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を、不織布全体に対して、固形分付着量で1〜40質量%担持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な不織布や布からなる積層体が、自動車の天井材などにおいて多く使用されている。また、不織布とフィルムを貼り合わせて得られた積層体が、防護服などの用途で用いられている。このような積層体を得るに際し、不織布やフィルムなどを接着するために、ホットメルト系の接着剤が用いられている。また、積層体を構成する不織布やフィルムなどの間に熱接着性を有する繊維からなる不織布を介在させて積層し、その後熱処理を施すことにより、該不織布やフィルムなどを接着させて積層体を得る手法も採用されている。
【0003】
熱接着性を有する繊維からなる不織布として、長繊維からなる不織布であって、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする繊維と、バインダー繊維(つまり、ポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリマーで構成された繊維)とを混繊することにより構成された長繊維からなる不織布が挙げられる。しかしながら、このような長繊維からなる不織布においては、熱接着させる際に接着剤として機能するものは、不織布中に含まれるバインダー繊維のみであり、加えて、バインダー繊維の量が少ないものであった。そのため、この長繊維不織布を用いて得られた積層体は熱接着性が弱く、剥離しやすいものであった。
【0004】
上記問題を解決するための方法として、特許文献1には、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上とを含有し、かつ融点が100〜150℃である共重合ポリエステルから長繊維を得て、該長繊維を構成繊維とする長繊維不織布が提案されている。この不織布は熱接着処理の際の収縮が小さいものである。そのため、接着した積層体等の寸法安定性に優れており、また、接着後の積層体を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性も優れたものとなる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された長繊維不織布は、ポリエステル系長繊維からなる不織布であるため、ポリオレフィン系材料との熱接着性が不十分であるという問題があった。つまり、ポリプロピレンやポリエチレンからなるフィルムや不織布との熱接着性が乏しいものであった。
【0006】
このような問題点を解決する繊維として、特許文献2には、1〜5質量%のポリオレフィンおよび/または酸変性ポリオレフィンを含有する共重合ポリエステル組成物と、該共重合ポリエステルより高融点であり、かつ200℃以上の融点を有する高融点ポリエステルとからなる複合コンジュゲート長繊維からなり、かつカレンダーロールにより熱圧着されていることを特徴とする熱接着性長繊維不織布が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された不織布を構成する繊維は、高い融点を有するポリエステルを含み、この高融点ポリエステルは接着成分とはならず、接着に寄与しない。すなわち、特許文献2の不織布は、200℃以下の低温域では完全に融解しない。従って、不織布やフィルムなどを接着して積層体を得る際に、十分なアンカー効果を得ることができず、熱接着性不織布としては不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−13522号公報
【特許文献2】特開平9−279459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような問題に鑑み、本発明の目的は、優れた熱接着性を有し、特に、ポリエステル系材料に対する熱接着性に加え、ポリオレフィン系材料に対する熱接着性が向上された熱接着シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究の結果、共重合ポリエステルからなる長繊維から構成された不織布の表面に、ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を担持させることにより、優れた熱接着性を有し、特にポリオレフィン系材料に対する熱接着性が向上された熱接着シートが得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とを含み、かつ融点Tmが100〜150℃の共重合ポリエステルからなる長繊維から構成された不織布の表面に、ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を、不織布全体に対して、固形分付着量で1〜40質量%担持することを特徴とする熱接着シート。
(2)共重合ポリエステルがポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有することを特徴とする(1)の熱接着シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱接着性シートは、長繊維を形成する共重合ポリエステルが、ジカルボン酸成分中においてテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分中にヘキサンジオールを50モル%以上含有しているため、低融点でありながら結晶性に優れ、そのため操業性に優れるものである。そして、該長繊維の表面にポリオレフィンおよび/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を1〜40質量%担持させているため、ポリエステル系材料のみならずポリオレフィン系材料に対しても、良好な熱接着性を発現することができる。したがって、本発明の熱接着シートは、150℃程度の温度で熱処理することで、シート全体が溶融または軟化して、被接着体に接着し、十分なアンカー効果を発揮して良好に接着剤として機能する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱接着性シートは、テレフタル酸(以下、「TPA」と称する場合がある)を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とからなる共重合ポリエステルを含む長繊維からなる不織布の表面に、ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を、不織布全体に対して、固形分付着量で1〜40質量%担持させたものである。
【0013】
前記の長繊維を構成する共重合ポリエステルの融点Tmは、100〜150℃であることが必要であり、110〜140℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、得られた長繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、熱接着加工温度を高くする必要があるため、加工性や経済性に劣ったり、用途が限定されたりする場合がある。また、熱接着加工されることで得られる製品(積層体)を構成するフィルムや不織布の材料によっては、熱劣化が起こり品質や風合い等を損ねるという問題がある。
【0014】
共重合ポリエステル中のジカルボン酸成分は、TPAを主成分とするものである。ジカルボン酸成分中のTPAの共重合割合は60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。TPAが60モル%未満であると、得られる共重合ポリエステルの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなったりするため好ましくない。
【0015】
なお、ジカルボン酸成分としては、その効果を損なわない範囲で、TPA以外のジカルボン酸成分が共重合されていてもよい。TPA以外のジカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0016】
共重合ポリエステルのジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、「HD」と称する場合がある)が50モル%以上であることが必要であり、HDが60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満であると、共重合ポリエステルの融点が150℃を超えるものとなる。ジオール成分として、その効果を損なわない範囲で、HD以外のジオール成分が共重合されていてもよい。HD以外のジオール成分としては、エチレングリコール(以下、「EG」と称する場合がある)や1,4−ブタンジオール(以下、「BD」と称する場合がある)などが挙げられる。
【0017】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDのジオール成分中の割合を、5〜50モル%とすることが好ましく、5〜40モル%とすることがより好ましい。
【0018】
さらに、ジオール成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、HD、EGやBD以外のジオール成分が共重合されていてもよい。HD、EGやBD以外のジオール成分としては、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族グリコール;ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0019】
上記の共重合ポリエステルは、上記のような組成に起因して結晶性を有するものであるため、長繊維不織布を製造する際の糸条の密着等の操業性が向上されている。さらに結晶性を向上させるために、結晶核剤、滑剤を含有させることが好ましい。
【0020】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、アマイドワックス、ポリエチレンワックス等を使用することが好ましい。これらの結晶核剤には、結晶核剤としての効果のみならず、いわゆる滑剤に似た作用があるため、繊維間のブロッキングを防止するという利点がある。なお、アマイドワックスとポリエチレンワックスは、併用されてもよい。
【0021】
無機系微粒子としては、酸化チタン、シリカ、タルクなどが挙げられる。なかでも、酸化チタンが好ましい。無機系微粒子として、酸化チタンを用いる場合、その体積平均粒子径は、0.04〜2μmであることが好ましく、0.04〜1μmであることがより好ましい。体積平均粒子径が0.04μm未満であると、二次凝集を起こしやすく、フィルターや紡糸ノズルの目詰まりが発生したり、糸切れが発生したりして、操業性が低下する場合がある。また、酸化チタンの体積平均粒子径が2μmを超えると、酸化チタン粉末の分散性が低下し、フィルターや紡糸ノズルの目詰まり発生や、糸切れが発生して操業性が低下する場合がある。
【0022】
共重合ポリエステル中の無機系微粒子の含有量は、0.2〜4.0質量%であることが好ましい。0.2質量%未満であると、含有させる効果を十分に奏しにくく、4.0質量%を超えると、溶融紡糸において糸切れが発生しやすい。
【0023】
結晶核剤としてのポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体;プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができる。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが、炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。共重合ポリエステル中のポリオレフィンの含有量は、1〜5質量%であることが好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。1質量%未満であると、結晶核剤としての機能を十分に発現することができず、5質量%を超えると、共重合ポリエステル中に均一に分散した状態で含有しにくいため糸切れが発生する。
【0024】
アマイドワックスとしては、脂肪族モノカルボン酸アミド、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスステアリン酸アミド、N−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド、N-置換尿素類などの脂肪族カルボン酸アミド、芳香族カルボン酸アミド、あるいは水酸基をさらに有するヒドロキシアミドなどが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基は1個でも2個以上でもよい。
【0025】
これらの中でも、N,N−エチレン−ビス−オレイルアミド、N,N−エチレン−ビス−リシノレイルアミド、N,N−エチレン―ビス―ラウリン酸アミド、N,N−エチレン−ビス−ステアリン酸アミド、N,N−エチレン−ビス−12−ビドロキシステアリン酸アミド、N,N−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N−エチレン−ビス−ステアリルアミド、エチレン−ビス−ステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等のビスアミドは、滑剤として活性効果が高いため好ましい。
【0026】
共重合ポリエステル中のアマイドワックスおよび/またはポリエチレンワックスの含有量は、0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜1.0質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることが特に好ましい。含有量が0.1質量%未満では、結晶核剤としての効果も少ないうえ、繊維同士のブロッキング防止効果が不十分となる場合がある。また、2.0質量%を超えると、アマイドワックスやポリエチレンワックスが繊維からブリードアウトしてしまうため、操業上好ましくない場合がある。
【0027】
これらの結晶核剤を共重合ポリエステル中に含有させるには、粉体のまま、あるいはジオールスラリー形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加することができる。また、高濃度のマスターバッチを調製し、該マスターバッチを、紡糸時に適宜、希釈しながら添加しても良い。
【0028】
また、共重合ポリエステル中には、本発明の効果を損なわない範囲でリン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、艶消剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤が、1種類または2種類以上含有されていてもよい。
【0029】
上述のような共重合ポリエステルを、公知の方法で紡糸することにより、本発明の熱接着シートに含まれる長繊維を得ることができる。長繊維の断面形状は、特に制限されるものではなく、例えば、丸型のみならず、トリローバル型、ヘキサローバル型、三角型、四角型、六角型、扁平型、Y字型、T字型、W型、H型、C字型など種々の異形断面、または中空形状のものでもよい。異形断面であると、単位ポリマー質量当たりの表面積が大きくなることから、溶融紡糸の際の紡出糸条の冷却性、開繊性に優れるという利点がある。
【0030】
本発明における不織布を構成する長繊維の単糸繊度は、1〜15デシテックスであることが好ましく、2〜10デシテックスであることがより好ましい。単糸繊度が1デシテックス未満であると、紡糸工程において、紡出される糸条が延伸張力に耐えきれず糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化する場合がある。一方、単糸繊度が15デシテックスを超えると、紡出糸条の冷却性に劣るため、糸条が熱により密着した状態で開繊装置から出てくるようになり、得られる不織布の品位に非常に劣る場合がある。
【0031】
本発明における不織布は、上述の長繊維によって構成され、構成繊維同士が熱接着により一体化したものであることが好ましく、特に熱エンボス加工により熱接着していることが好ましい。熱エンボス加工により熱接着している不織布は、熱接着部(不織布に形成された凹部)では熱と圧力が付与されており、非熱接着部は熱や圧力の影響をほとんど受けないものであるため、機械的物性も良好であり、形態安定性にも優れている。
【0032】
本発明に使用する不織布は、公知の製造方法により製造することができるが、なかでも、スパンボンド法によって効率よく製造することができる。すなわち、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とを含み、かつ融点Tmが100〜150℃の共重合ポリエステルを用意する。そして、紡糸口金を介して溶融紡糸し、紡出糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。このときの牽引速度は、1000〜4000m/分と設定することが好ましい。牽引速度が1000m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる長繊維不織布の寸法安定性や熱安定性に劣る場合がある。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣る場合がある。
【0033】
牽引細化した長繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて、構成繊維がランダムに堆積した不織ウエブを形成する。
【0034】
次いで、このウエブを熱圧接装置にて熱圧接することで、本発明における不織布を得ることができる。熱圧接装置としては、エンボスロールとフラットロールとからなるものや、一対のエンボスロールからなるものや一対のフラットロールからなるもの等が挙げられ、複数の熱圧接装置を用いてもよい。
【0035】
エンボスロールの凸部の先端部の形状は、熱圧接部の形状となるが、この形状は、特に限定されない。例えば、丸形、楕円形、菱形、三角形、T字形、井形、長方形、正方形等の種々の形状を採用できる。この凸部の先端部面積は、0.1〜1.0mm程度であればよい。
【0036】
本発明における不織布の目付けは、特に限定されないが、一般的には10〜300g/mの範囲が好ましく、15〜200g/mであることがより好ましい。目付が10g/m未満では、地合および機械的強力に劣り、実用的ではない場合がある。一方、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0037】
本発明の熱接着シートは、上記のようにして得られた不織布の表面にポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と称する場合がある)が担持されている。ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物は、接着剤としての役割を有するポリオレフィン樹脂および/または酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に分散させたものから、乾燥や揮発などの手法により水性媒体を除去して固形分のみを残存させてなるものである。そのため、該樹脂組成物を不織布表面に担持させると、ポリオレフィン樹脂および/または酸変性ポリオレフィン樹脂が微粒子状で不織布表面に付着する。このような樹脂が付着した不織布を熱接着に付すると、該微粒子状の樹脂が加熱により溶融し被膜状態で不織布表面に担持される。その結果、面接着の状態となるため、被接着体であるポリオレフィン系材料に対する熱接着性が向上するのである。なお、水性媒体とは、水を主成分とする液体であり、後述する水溶性の有機溶剤や塩基性化合物を含有していてもよい。
【0038】
まず、ポリオレフィン樹脂について説明する。本発明におけるポリオレフィン樹脂は、炭素数3〜6の不飽和炭化水素の含有量が好ましくは50〜98質量%、より好ましくは60〜98質量%である非塩素系のポリオレフィン樹脂である。含有量が50質量%未満では、ポリオレフィン系材料に対する熱接着性が低下し、98質量%を超えると、後述する不飽和カルボン酸単位の含有量が相対的に低下してしまうために樹脂の水性化が困難になる。
【0039】
炭素数3〜6の不飽和炭化水素としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等のアルケン類や、ブタジエンやイソプレン等のジエン類が挙げられる。なかでも、樹脂の製造のし易さ、水性化のし易さ、各種材料に対する熱接着性、ブロッキング性等の点から、プロピレン成分またはブテン成分(1−ブテン、イソブテンなど)であることが好ましく、両者を併用することもできる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂は、水性化の観点から、上記した炭素数3〜6の不飽和炭化水素以外に、エチレン成分を2〜50質量%含有していることが好ましい。ポリオレフィン樹脂として特に好ましい構成は、プロピレン成分、ブテン成分、エチレン成分の3成分を含有するものであって、その構成比率は、この3成分の総和を100質量部としたとき、プロピレン成分8〜90質量部、ブテン成分8〜90質量部、エチレン成分2〜50質量部である。
【0041】
上記のポリオレフィン樹脂において、各成分の共重合形態は限定されない。さらに、上記成分以外に他の成分をポリオレフィン樹脂全体の20質量%以下程度含有していてもよい。中でも、水性化がし易くなる点や、様々な材料に対する熱接着性が向上する点から、(メタ)アクリル酸エステルを含有していることが好ましい。
【0042】
また、分散性向上の観点から、ポリオレフィン樹脂の代わりに、ポリオレフィン樹脂の構造中に不飽和カルボン酸単位を0.5〜20質量%有する酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができる。この不飽和カルボン酸単位は0.5〜15質量%であることが好ましく、0.5〜12質量%であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸単位が0.5質量%を超えると、ポリオレフィン樹脂の水性化をより良好にすることができる。一方、20質量%以下である場合は、ポリオレフィン系材料への熱接着性がより向上する。
【0043】
不飽和カルボン酸単位は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入され、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等のように、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物を用いることができる。中でもポリオレフィン樹脂への導入のし易さの点から無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。ポリオレフィン樹脂に導入された酸無水物単位は、乾燥状態では酸無水物構造を取りやすい傾向にある。不飽和カルボン酸単位は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではない。
【0044】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、熱接着性の向上や樹脂の水性化の観点から、5,000〜150,000であることが好ましく、20,000〜120,000であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は、不織布および不織布を構成する繊維に均一に付着できることを考慮して、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0045】
ポリオレフィン樹脂組成物、酸変性ポリオレフィン樹脂組成物中の樹脂含有率は、特に限定されるものではないが、樹脂組成物の粘性を適度に保つ観点から、1〜60質量%であることが好ましい。
【0046】
ポリオレフィン樹脂組成物、酸変性ポリオレフィン樹脂組成物は、樹脂組成物の安定化の観点から、アンモニア、トリエチルアミンなどの塩基性化合物を含有していてもよい。塩基性化合物の添加量は、樹脂組成物の安定化の観点から、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際にメタノールなどの有機溶剤を添加することが好ましい。使用する有機溶剤量は、水性媒体中の50質量%以下であることが好ましい。また、性能をさらに向上させるため、他の重合体の水性分散体、粘着付与剤、無機粒子、架橋剤、顔料、染料などの添加剤を添加することができる。
【0047】
ポリオレフィン樹脂組成物、酸変性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を適宜選択して用いることができる。
【0048】
上記のようにして得られた樹脂組成物は、浸漬コーティングなどの公知の方法で不織布の表面に担持されるものであり、その担持割合は、不織布全体に対して、固形分付着量で1〜40質量%であることが必要である。1質量%未満であると被接着体であるポリオレフィン系材料への接着性に劣り、一方、40質量%を超えると被接着体であるポリエステル系材料への接着性に劣る傾向となる。なお、ポリオレフィン樹脂組成物と酸変性ポリオレフィン樹脂組成物が併用される場合の布帛への担持量は、両者の合計が上述の範囲を満たせばよい。
【0049】
該樹脂組成物の担持量は、0.01〜100g/mが好ましく、0.1〜50g/mがより好ましく、0.2〜30g/mが特に好ましい。0.01〜100g/mの範囲であれば、均一に担持させることが可能である。
【0050】
上記の樹脂組成物の担持方法は特に限定されるものではないが、上記不織布に塗工、乾燥させる方法が好適である。塗工する方法は特に限定されるものではないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。なかでも、含浸コート法、もしくはキスロールにてエマルジョンを不織布に転写するキスロールコート法が好ましい。
【0051】
乾燥温度は、特に限定されず、不織布の耐熱温度等によって適宜決定すればよいが、通常、50〜150℃であればよく、60〜140℃がより好ましく、70〜130℃がさらに好ましい。乾燥温度が50℃未満の場合、水性媒体を十分、揮発させることができない、あるいは揮発させるのに時間を要するため、良好な熱接着性を発現しない場合があり、一方、乾燥温度が150℃を超えると不織布が融解する場合がある。
【0052】
不織布に上記の樹脂組成物を担持させる場合、作業者や作業環境への配慮の観点から、水系エマルジョンを用いることが好ましい。特に好ましくは、水系エマルジョン中に不飽和カルボン酸を含有しているものである。これは、不織布がポリエステルを含有するため、カルボキシル基末端が存在するエマルジョンを使用することで不織布とエマルジョンの相容性が高まり、ポリオレフィン樹脂を繊維表面に担持しやすくなり、同時に、担持後、不織布表面よりポリオレフィン樹脂が脱落することを防止する効果がある。不織布にポリオレフィン系エマルジョンを含浸させた後、あるいはエマルジョンをスプレー等の手法で付与させた後などに、乾燥処理をおこなってもよい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0054】
なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、以下の方法により測定した。
(1)メルトインデックス(g/10分)
ASTM−D−1238(E)に記載の方法に従って、温度190℃、荷重2160gfで測定した。以降、メルトインデックスを「MI」と記す。
【0055】
(2)融点(℃)
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、「DSC−2型」)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0056】
(3)繊度(デシテックス:以下、「dtex」と記す)
不織布より20本の繊維を採取した。該繊維の繊維径を光学顕微鏡で測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0057】
(4)目付(g/m
標準状態の試料から試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成した。各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0058】
(5)剥離強力
巾10cm×長さ15cmの接着対象となるシートを二枚ずつ用意した。接着対象となるシートは、ポリプロピレン系スパンボンド不織布、ポリエチレンテレフタレート系スパンボンド不織布、ポリプロピレン系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルムの4種類とした。これらを一対として、実施例および比較例で得られた熱接着シートを挟み、ヒートシール機を用いて、温度を変えて(130℃、135℃、140℃、145℃、150℃)、シール巾1cm、面圧2.0kgf/cm、圧接時間2秒の条件で熱接着して積層体を得た。
【0059】
この積層体を3cm巾に切断し、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製、「テンシロンUTM−4−1−100」)を用い、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸張し、接着したシートのT型剥離強さの測定を行い、接着部分が剥離するまでの最大荷重(N/3cm幅)の平均値を剥離強力とした。
【0060】
(ポリオレフィン樹脂「P−1」の調製)
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、「ベストプラスト708」)(プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3、質量比)280gを、攪拌機、冷却管、適下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を165℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gのヘプタン20g溶液をそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。この樹脂を、さらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂「P−1」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
(ポリオレフィン樹脂組成物の調製)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂「P−1」、45.0gのエチレングリコール−n−ブチルエーテル(和光純薬社製)、6.9gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)および188.1gの蒸留水をガラス容器に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌したところ、容器底部には樹脂の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間攪拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径:0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧:0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂組成物を「E−1」を得た。この物性を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
(比較例1)
エステル化反応缶に、TPA、HDおよびBDを供給し、結晶核剤としてポリエチレンワックスを仕上がりチップ中の含有量0.1質量%となるよう添加した。その後、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った。その後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出しチップ化して、共重合ポリエステルを得た。この共重合ポリエステルチップは相対粘度1.57、融点133℃であり、ジカルボン酸成分としてTPA100モル%、ジオール成分としてBD15モル%、HD85モル%からなるものであった。
【0065】
得られた共重合ポリエステルチップに結晶核剤としてMIが25g/10分のポリエチレンを、共重合ポリエステの溶融重合体中に2.0質量%となるように混合したものを溶融紡糸装置に供給し、円形の紡糸口金より、紡糸温度190℃、単孔吐出量3.33g/分で溶融紡糸した。ノズルより紡出した糸条を冷却空気流にて冷却した後、牽引ジェットにて3400m/分で牽引し、これを公知の開繊器により開繊させて、移動するコンベアの捕集面上に堆積してウエブを形成した。次いで、このウエブをエンボスロールとフラットロールとからなる熱エンボス装置に通し、ロール温度を115℃に設定し、六角形柄、圧着面積率14.6%、圧着点密度21.9個/cm、線圧60kg/cmの条件にて部分的に熱圧着し、単糸繊度8.8デシテックスの長繊維からなる目付50g/mの長繊維不織布を得た。この長繊維不織布を熱接着シートとして剥離強力の評価に供した。評価結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
なお、表3中、△および×は、以下のことを示す。
△:剥離強力評価に際し、接着が認められるが、わずかな力で剥離してしまう。
×:剥離強力評価に際し、接着が認められない。
【0068】
(実施例1)
比較例1で得られた長繊維不織布を、固形分付着量が12%になるように(E−1)に含浸した。その後、70℃×5分間で乾燥を行い、最終的に、目付け57g/mの熱接着シートを得た。
【0069】
(比較例2)
ポリプロピレン(融点:160℃、MFR:55g/min)(以下、「PP」と称する)を温度200℃、単孔吐出0.83g/minで溶融紡糸した。紡出された糸条を公知の冷却装置にて冷却し、エアーサッカーを用いて、牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊装置にて開繊した。開繊した糸条を移動しているスクリーンコンベア上に捕集し、単糸繊度2.0デシテックスの長繊維からなるウエブを得た。
【0070】
得られた長繊維ウエブを、表面温度が135℃とされたエンボス装置で熱圧接し、長繊維不織布を得た。この長繊維不織布を各種評価に供した。評価結果を表3に示す。
【0071】
実施例1で得られた本発明の熱接着シートは、ポリエステル系材料、ポリオレフィン系材料の両材料に対して良好な熱接着性を有し、かつ低い温度から接着した。
【0072】
比較例1においては、ポリオレフィン樹脂組成物または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物が担持されていない長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、ポリエステル系材料に対しては熱接着性を有するものの、ポリオレフィン系材料に対しては熱接着性に乏しいものであった。
【0073】
比較例2においては、融点が150℃を超えるポリプロピレン系の長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は、熱接着性に乏しいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上含有するジオール成分とを含み、かつ融点Tmが100〜150℃の共重合ポリエステルからなる長繊維から構成された不織布の表面に、ポリオレフィン樹脂組成物および/または酸変性ポリオレフィン樹脂組成物を、不織布全体に対して、固形分付着量で1〜40質量%担持することを特徴とする熱接着シート。
【請求項2】
共重合ポリエステルがポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1記載の熱接着シート。

【公開番号】特開2012−188604(P2012−188604A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54923(P2011−54923)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】