説明

熱水保持装置用セラミックスの製造方法

【課題】付加元素を水に溶出させることができ、かつ、付加元素が短期間に消尽することを抑制できるセラミックスを製造する方法を提供すること。
【解決手段】熱水保持装置用セラミックスの製造方法において、ケイ素酸化物とケイ素含有酸化物とから選ばれる少なくとも一種のケイ素材料粉末と、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種の付加元素と、を含む混合物を、付加元素が非酸化物状体で含まれるような雰囲気で焼成・冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱水保持装置に用いられるセラミックスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気ポット、電気ケトル、炊飯器等に代表される熱水保持装置には、近年、種々の付加的な機能が要求されている。例えば、水のpHを酸性からアルカリ性にすることや、水に有用な微量元素を添加すること、水道水に含まれている塩素を除去すること等である。一般には、水加熱装置に上述した付加的な機能を付与するため、水に作用したり、水に溶出したりすることで水に何らかの機能を付加する元素(以下、本明細書においては付加元素と呼ぶ)または当該付加元素の化合物を、熱水保持装置の水収容部に含有させておく方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、電気ポットの内面に付加元素としての酸化マグネシウムを含むコート層を形成し、コート層に含まれる酸化マグネシウムによって電気ポット中の水(湯)をアルカリ性にする技術が開示されている。
【0004】
しかし、酸化マグネシウムは熱水に容易に溶解するため、単にコート層に酸化マグネシウムを含有させるだけでは、コート層中の酸化マグネシウムが早期に消費されてしまう問題があった。酸化マグネシウムにかえて、酸化バナジウムや酸化カルシウム等の付加元素をコート層に含有させる場合にも、同様に、付加元素が早期に消費される。さらに、付加元素を酸化物の状態でセラミックスに練り込んだものをコート層に配合する場合にも同様に、付加元素の早期の消費を抑制できなかった。
【0005】
他方、付加元素の溶出を抑制するため、付加元素をセラミックスに複合化すると、付加元素の溶出速度が過小になり、付加元素による効果が充分に発揮されない問題があった。このため、必要に応じた速度で付加元素を熱水中に溶出することが可能な熱水保持装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−209741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、必要に応じた速度で付加元素を熱水中に溶出することが可能な熱水保持装置に適用可能なセラミックスを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の熱水保持装置用セラミックスの製造方法は、
熱水保持装置の熱水保持部に用いられるセラミックスを製造する方法であって、ケイ素酸化物とケイ素含有酸化物とから選ばれる少なくとも一種のケイ素材料粉末と、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種の付加元素をそのまま又は酸化物として含む付加元素粉末と、を含む混合物を焼成・冷却して焼成体を得る焼成冷却工程を含み、
該焼成冷却工程の少なくとも一部を還元雰囲気でおこなうこと特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する他の熱水保持装置用セラミックスの製造方法は、
熱水保持装置の熱水保持部に用いられるセラミックスを製造する方法であって、
ケイ素酸化物とケイ素含有酸化物とから選ばれる少なくとも一種のケイ素材料粉末と、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種の付加元素をそのまま含む付加元素粉末と、を含む混合物を焼成・冷却して焼成体を得る焼成冷却工程を含み、
該焼成冷却工程を非酸化雰囲気でおこなうことを特徴とする。
【0010】
本発明の熱水保持装置用セラミックスの製造方法は、下記の(1)〜(3)の何れかを備えるのが好ましく、(1)〜(3)の複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記焼成冷却工程において、焼成時の温度は1200℃以上であり、冷却時には、900〜1200℃の温度域を100℃/分以下の冷却速度で冷却する。
(2)(1)の場合、前記焼成冷却工程において、冷却時には、900〜1200℃の温度域を80〜100℃/分の冷却速度で冷却する。
(3)(1)の場合、前記焼成冷却工程において、冷却時には、900〜1200℃の温度域を30〜50℃/分の冷却速度で冷却する。
【発明の効果】
【0011】
以下、本発明の熱水保持装置用セラミックスの製造方法を、単に本発明の製造方法と略する。また、本発明の製造方法で製造された熱水保持装置用セラミックスを、単に本発明のセラミックスと略する。
【0012】
本発明の製造方法によると、付加元素を水に溶出させることができ、かつ、付加元素が短期間に消費することを抑制できるセラミックスを製造できる。すなわち、本発明の製造方法によると、耐久性に優れるセラミックスを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法により製造される熱水保持装置用セラミックスは、熱水を保持する装置の熱水を保持する部位に配設される。
【0014】
本明細書でいう水とは、純粋な意味の水に限らず、例えば食品や物品、雰囲気中に存在する水分を含む概念である。つまり、食品や物品、雰囲気が加熱されれば、これらに含まれる水分もまた熱水となる。
【0015】
熱水とは、室温(25℃)よりも高温の水を指し、液状、気体状のいずれの状態でも良く、更には食品中などに含まれる水分であっても良い。また、熱水を保持するとは、純粋な意味で熱水を収容保持するだけでなく、熱水に接触することをも含む概念である。
【0016】
具体的には、熱水保持装置とは、電気ポット、電気ケトル、炊飯器、風呂釜、ボイラー等のような水を加熱することを直接の目的にする装置、魔法瓶や保温容器、食器、調理用具(お玉、トングなど)、シャワーヘッド、車両用や住宅用のラジエータ、オイルパン、高温水洗浄機のヘッド等のように自身が水を加熱するのではないが熱水を収容保持するか又は熱水に触れる装置、調理用鍋、フライパン、天ぷら鍋、スチーマー、ホットプレート、焼き網、オーブン、焙煎機(コーヒー焙煎機、茶葉焙煎機など)、過熱水蒸気調理機器などのように食品に含まれる水分や雰囲気中に存在する水分を加熱する装置をいう。
【0017】
熱水に接触する部位に配設するとは、例えば、熱水に接触するライニングを本セラミックスで形成したり、そのライニング内に本セラミックスを粉末状として含有させたりすることができる。熱水保持装置への本セラミックスの含有量は特に限定されず、付加元素が必要な期間だけ溶出可能な量を配設する。
【0018】
本発明の製造方法によると、セラミックスに付加元素を配合することで、付加元素が溶出するセラミックスを得ることができる。
【0019】
付加元素の種類は、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種であれば良く、セラミックスに付加したい機能に応じて適宜選択できる。例えば、マグネシウムは酸化され易い物質であるため、セラミックスに配合する付加元素としてマグネシウムを選択することで、セラミックスから溶出したマグネシウムによって水を還元できる。すなわちこの場合には、セラミックスに抗酸化性能を付与できる。付加元素に用いられるアルカリ金属としては、リチウム・ナトリウム・カリウム・ルビジウム・セシウム・フランシウムが挙げられる。付加元素に用いられるアルカリ土類金属としては、カルシウム・ストロンチウム・バリウム・ラジウム・ベリリウム・マグネシウムが挙げられる。付加元素としては、バナジウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンから選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0020】
これらの付加元素は、一般的な焼成方法(酸化焼成)により焼成すると、酸化してしまう。酸化した付加元素は水に溶出し易く、短期間のうちに消費される。
【0021】
本発明のセラミックスの製造方法によると、焼成・冷却時における付加元素の状態と焼成・冷却時の雰囲気とを特定の組み合わせにすることで、付加元素が水に長期間にわたって溶出されるセラミックスを製造できる。すなわち、付加元素をそのまま又は酸化物の状態で含む付加元素粉末を用いる場合には、焼成冷却工程の少なくとも一部を水素雰囲気等の還元雰囲気でおこなうことで、焼成体中に付加元素をそのままの状態で残留させることができる。また、付加元素をそのままの状態で含む付加元素粉末を用いる場合には、焼成冷却工程を窒素、希ガスなどの非酸化雰囲気でおこなうことで、焼成体中に付加元素をそのまま残留させることができる。何れの場合にも、付加元素が水に長期間にわたって溶出されるセラミックスを製造できる。
【0022】
これは、混合物を還元焼成または非酸化雰囲気で焼成することで、付加元素が非酸化物の状態でもセラミックス中に存在するため、付加元素の水への過剰な溶出が抑制されたためと考えられる。すなわち焼成冷却工程は、原料たる付加元素の状態に応じて、付加元素を非酸化物の状態で焼成体(セラミックス)中に存在させ得る雰囲気でおこなえば良い。なお、付加元素をそのまま又は酸化物の状態で含む付加元素粉末を用いる場合、焼成冷却工程の後半すなわち冷却工程を還元雰囲気でおこなうことが好ましい。
【0023】
焼成条件としてはケイ素材料粉末間が焼成されて、その少なくとも一部がガラス状になるまで加熱することが望ましい。特に、ケイ素材料粉末間が溶融して一部が一体化する条件を選択することが望ましい。
【0024】
例えば、混合物の焼成温度は1200℃以上であれば望ましく、1200〜1400℃であるのが好ましい。焼成温度が低すぎると、セラミックスがガラス化し難くなる。
【0025】
付加元素の水への溶出をより抑制するためには、焼成冷却工程における冷却速度を遅くするのが効果的である。冷却速度が速いと、焼成体に含まれるケイ素材料がガラス(アモルファス)化し、付加元素を密に取り囲むために、付加元素の溶出速度が遅くなる。冷却速度が遅いと、ケイ素材料の粒径が大きくなり、ケイ素材料のマトリクスが粗になるために、付加元素の溶出速度を早めることができる。以下、本発明の製造方法で製造されるこの種のセラミックスをガラスセラミックスと呼ぶ。
【0026】
具体的には、900〜1200℃の温度域を100℃/分以下となる冷却速度で冷却するのが好ましい。ここで、当該温度域における冷却速度が80〜100℃/分であれば、ケイ素材料が充分にガラス化する。したがってこの場合には、付加元素の溶出速度が非常に遅いセラミックスを製造できる。このようなセラミックスは、例えば電気ポットや電気ケトル等、水との接触時間の長い熱水保持装置に好ましく用いられる。より好ましくは、焼成温度〜550℃までの温度域を80〜100℃/分で冷却し、550℃未満の温度域を30〜40℃/分で冷却するのがよい。
【0027】
また、900〜1200℃の温度域における冷却速度が30〜100℃/分であれば、付加元素の溶出速度が高められる。したがってこのようなセラミックスは、例えば炊飯器等、水との接触時間の比較的短い熱水保持装置に好ましく用いられる。以下、本発明の製造方法で製造されるこの種のセラミックスを溶岩セラミックスと呼ぶ。炊飯器等に用いるセラミックスを製造する場合、付加元素の溶出速度を考慮すると、当該温度域における冷却速度が30〜50℃/分であるのがより好ましい。
【0028】
本発明の製造法における混合物には、上述した付加元素の酸化物粉末およびケイ素材料粉末以外に、アルミナ粉末、ムライト粉末、ジルコニア粉末等の副材料を配合しても良い。これらの副材料を配合することで、セラミックスに優れた耐熱性や強度、耐スポーリング性、高熱伝導率等を付与できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の製造方法、セラミックス、コート材料および熱水保持装置を具体的に説明する。
【0030】
〔セラミックスの製造〕
(試料1)
〈準備工程〉
粉末状の珪石40質量部、粉末状の珪酸アルミニウム40質量部、粉末状の炭酸カルシウム8質量部および粉末状の炭酸ナトリウム12質量部を混合し、混合物を得た。なお、珪石、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム及び炭酸ナトリウムの体積平均粒径は100μmであった。
【0031】
〈焼成冷却工程〉
準備工程で得た混合物を、電気炉にて1250℃、酸化雰囲気で3時間加熱焼成した。焼成後、電気炉内を還元雰囲気(水素雰囲気)にし、1250℃〜550℃までの温度域を80〜100℃/分で冷却し、それ以下の温度域を30〜40℃/分で冷却して、焼成体を得た。なお、混合物を酸化雰囲気で焼成したのは、還元焼成するとケイ素材料がガラス化し難いためである。
【0032】
〈粉体化工程〉
冷却後の焼成体を電気炉から取り出し、ジルコニア製ボールミルを用いて湿式粉砕することで、試料1のセラミックス粉末を得た。試料1のセラミックス粉末は、付加元素としてカルシウムおよびマグネシウムを含む。試料1のセラミックス粉末の体積平均粒径は約40〜70μmであった。
【0033】
(試料2)
試料2のセラミックス粉末の製造方法は、混合物として粉末状の珪石20質量部、粉末状の珪酸アルミニウム50質量部、粉末状の五酸化バナジウム10質量部および粉末状の炭酸ナトリウム20質量部の混合物を用いたこと、焼成冷却工程において還元焼成しかつ900℃〜1200℃の温度域を30〜50℃/分で通過するよう冷却したこと以外は、試料1のセラミックス粉末の製造方法と同様の方法である。試料2のセラミックス粉末は、付加元素としてカルシウム、マグネシウム、バナジウム、および亜鉛を含む。なお、珪石、珪酸アルミニウムの体積平均粒径は100μmであり、五酸化バナジウムおよび炭酸ナトリウムの体積平均粒径は44μmであった。
【0034】
(試料3)
試料3のセラミックス粉末の製造方法は、混合物として粉末状の珪石のみを用いたこと、焼成冷却工程において酸化焼成しかつ900℃〜1200℃の温度域を30〜50℃/分で通過するよう冷却したこと以外は、試料1のセラミックス粉末の製造方法と同様の方法である。試料3のセラミックス粉末は付加元素を含まない。なお、珪石の体積平均粒径は20〜30μmであった。
【0035】
(試料4)
試料4のセラミックス粉末の製造方法は、以下の通りである。シリカ(SiO)が35.5%、HOが64.5%の組成に配合されたコロイダルシリカと、体積平均粒子径5nm程度の白金ナノコロイド分散液(アプト社製、白金含有量20μg/0.1g:白金微粒子の体積平均粒径5μm、コロイド化剤:クエン酸)とを50:50(質量比)で加えて混合したものに、平均粒子径1μm程度のシリカ(若しくはアルミナ)からなる基材を質量比(分散液:セラミックス粉末)が70:30となるように混合して基材の表面に白金ナノコロイド微粒子が付着した付着物(分散液)を得た。
【0036】
次いで、噴霧乾燥機を用いてこの付着物を噴霧乾燥した。噴霧乾燥の条件は180℃〜250℃程度の温度の槽内に付着物を噴霧することにより行った。得られた粉末を回収し、その後、セラミックス質の容器(鞘)に入れて、電気炉にて約900〜1000℃、1時間加熱した。加熱後、コロイド化剤としてのクエン酸は酸化・揮散して、体積平均粒径5nm程度の白金ナノ微粒子が1μm程度のシリカ(若しくはアルミナ)表面に固着し、耐水性のある微粉末状のシリカ複合体(試料4のセラミックス粉末)が得られた。
【0037】
(試料5)
試料5のセラミックス粉末の製造方法は、白金ナノコロイド分散液にかえて体積平均粒子径10μm程度のパラジウムコロイド分散液を用いたこと以外は試料4と同じ方法である。
【0038】
(試料6)
試料6のセラミックス粉末の製造方法は、白金ナノコロイド分散液にかえて体積平均粒子径15μm程度のパラジウムコロイド分散液を用いたこと以外は試料4と同じ方法である。
【0039】
〔セラミックスの分析〕
試料1のセラミックス粉末および試料2のセラミックス粉末の成分を、蛍光X線分析した。試料1の分析結果を表1に示し、試料2の分析結果を表2に示す。なお、試料1のセラミックスはガラスセラミックスであり、その外観はガラスのようであった。また、試料2のセラミックスは溶岩セラミックスであり、表2に示される試料2のセラミックスの組成は、溶岩のようであった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1、2に示すように、ガラスセラミックス(試料1)および溶岩セラミックス(試料2)は、それぞれ、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、亜鉛等の付加元素を含んでいる。なお、これらの付加元素は分析時に酸化物として検出されているが、実際には、後述するように非酸化物の状態でセラミックス粉末に含まれていると考えられる。
【0043】
〔ガラスセラミックスの評価1〕
ガラスセラミックス粉末を含むコート層をSUSプレートに形成した。このプレートを用いてガラスセラミックスを評価した。
【0044】
〈コート層の形成〉
ポリエーテルサルホン(PES)と、フッ素樹脂と、ガラスセラミックス粉末と、の混合物からなる4種のコート材料(配合1〜4)を準備した。
【0045】
配合1のコート材料は、PES:フッ素:ガラスセラミックス粉末を72.3:27.2:0(質量比)で混合したものである。配合1のコート材料から得られるコート層は、ガラスセラミックス粉末を含まない(0%)。配合2のコート材料は、PES:フッ素:ガラスセラミックス粉末を66.6:25.4:8.0(質量比)で混合したものである。配合2のコート材料から得られるコート層はガラスセラミックス粉末を5質量%含む。配合3のコート材料は、PES:フッ素:ガラスセラミックス粉末を64.1:24.5:11.4(質量比)で混合したものである。配合3のコート材料から得られるコート層は、ガラスセラミックス粉末を7.5質量%含む。配合4のコート材料は、PES:フッ素:ガラスセラミックス粉末を61.8:23.5:14.7(質量比)で混合したものである。配合4のコート材料から得られるコート層は、ガラスセラミックス粉末を10質量%含む。
【0046】
この4種のコート材料をコートしたプレートを製作した。先ず、約50mm×約80mm×約0.4mmのSUS430母材を4個準備し、各々の母材の表面にブラスト処理を施した。ブラスト処理を施した各母材表面に、上記4種のコート材料の何れかをエアスプレーにて塗装した。塗装後のプレートを、80℃で10分間加熱し、その後に380℃で20分間加熱することで、母材の表面に膜厚15〜20μmのコート層を形成した。上記の手順で、配合1のコート層が形成されたプレート、配合2のコート層が形成されたプレート、配合3のコート層が形成されたプレート、配合4のコート層が形成されたプレート製作した。
【0047】
〈評価〉
各プレートを水とともに電気ポットに入れ、ORP、pHおよび残留塩素濃度の経時変化を測定した。詳しくは、各プレートを3枚ずつそれぞれ別の電気ポットに入れた。プレートを入れた各電気ポットに水道水を1リットル入れ、約12時間放置した。12時間後、電気ポットから100mLの水を採取し、その後ポット内の水を沸騰させた。電気ポットから100mLの沸騰した湯を採取した。採取した湯は速やかに水冷した。水冷後、各サンプルのORP、pHおよび残留塩素濃度を測定した。なお、ORPおよびpHは、HORIBA製のpH/ION METER D−23を用いて測定した。
【0048】
詳しい測定方法は以下の通りである。先ず、上記の測定器にORP測定用電極(型式9300)を取り付けた。100mL容カップにサンプル約80mLをとり、カップ中のサンプルに電極を3cm以上差し込んで、ORPを測定した。なお、このときサンプルは攪拌せず、電極を差し込んでから5分後の表示値を測定値とした。ORP測定後、ORP測定用電極をpH測定用電極(型式承認 第S8721 6366)に取り替え、サンプルのpHを自動測定した。残留塩素濃度はDPD法(diethyl−p−phenylenediamine)により分光光度計を用いて測定した。なお、測定時のサンプル温度は21.8〜22.4℃であった。プレート浸漬前の水道水のORPは731mVであり、pHは8.40であり、残留塩素濃度は0.531ppmであった。ORP測定結果を表3に示し、pH測定結果を表4に示し、残留塩素濃度測定結果を表5に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
ORPの大きさは酸化力の大きさに比例する。すなわち、ORPが小さければ、コート層の抗酸化力が大きいといえる。表3に示すように、コート層に配合されているガラスセラミックス粉末の量が多い程、ORPは小さくなっている。この結果から、ガラスセラミックス粉末の量が多い程、抗酸化力が大きくなることがわかる。これは、ガラスセラミックスから溶出した付加元素(マグネシウム)の作用によると考えられる。
【0053】
表4に示すように、コート層に配合されているガラスセラミックス粉末の量が多い程、pHは高くなっている。この結果から、ガラスセラミックス粉末の量が多い程、水のpHを酸性からアルカリ性に変化させる能力が高まることがわかる。これは、ガラスセラミックスから溶出した付加元素(マグネシウム)の作用によると考えられる。また、沸騰後のpHが沸騰前(12時間浸漬後)のpHよりも高いことから、水温を高くするとガラスセラミックスからの付加元素(マグネシウム)の溶出量が大きくなることがわかる。
【0054】
表5に示すように、コート層に配合されているガラスセラミックス粉末の量が多い程、残留塩素濃度が低くなっている。この結果から、ガラスセラミックス粉末の量が多い程、水中の残留塩素の分解量を多くできることがわかる。これは、ガラスセラミックスから溶出した付加元素(カルシウム、マグネシウム)の作用によると考えられる。
【0055】
〔ガラスセラミックスの評価2〕
ガラスセラミックス粉末を含むコート層を電気ケトルに形成した。この電気ケトルを用いてガラスセラミックスを評価した。
【0056】
〈コート層の形成〉
PES:フッ素:試料3のセラミックス粉末を66.6:25.4:8.0(質量比)で混合したもの(配合5のコート材料)を準備した。配合5のコート材料は、試料3のセラミックス粉末を5質量%含む。なお、上述したようにガラスセラミックス粉末は付加元素を含むが、試料3のセラミックス粉末は付加元素を含まない。
【0057】
このコート材料を、上記の〔ガラスセラミックスの評価1〕の〈コート層の形成〉と同様の方法で、上記のSUSプレートにコートした。プレートの表面には膜厚15〜20μmのコート層が形成された。以上の工程で、配合5のコート層が形成されたプレートを得た。
【0058】
このプレートにプラチナ粒子を固着させた。詳しくは、配合5のコート層が形成されたプレートの表面をエチルアルコールにより脱脂した。100ppmのナノプラチナセラミックス−水懸濁液またはナノプラチナコロイド−水懸濁液を準備し、このナノプラチナ−水懸濁液にプレートを浸漬し、コート層の表面にプラチナ粒子を固着させた。5〜10分間静置し、コート層の表面にプラチナ粒子を充分に結合させた後、プラチナ粒子の固着したプレートを乾燥機に入れ、約150〜180℃で8時間、または、約250〜300℃で1時間加熱乾燥させた。乾燥後、プレートを常温にまで冷却し、冷却後のプレートを純水またはイオン交換水により洗浄した。洗浄後のプレートを再度乾燥させた。このときの乾燥温度は約110℃であった。なお、プラチナ懸濁液にプレートを浸漬するかわりに、スプレー、イオンプレーティング、スピンコーティング等の既知の方法でプラチナ粒子をコート層に固着させても良い。以上の工程で、配合5のコート層にプラチナ粒子が固着したプレート(配合5のプレートと呼ぶ)を得た。
【0059】
〈評価1〉
各プレートを水とともに電気ケトルに入れ、ORPおよびpHの経時変化、および、抗酸化性能を測定した。詳しくは、各プレートを3枚ずつそれぞれ別の電気ケトルに入れた。プレートを入れた各電気ケトルに水道水を500mL入れ、電源を入れて加熱開始した。沸騰後(詳しくは電源を入れた5分後)に、100mLの湯を採取した。詳しくは、注ぎ口からはじめに出た湯約100mLを回収し、次に出た100mLの湯を採取した。回収した湯(はじめの100mL)はケトルに戻した。サンプル採取後、電気ケトルの電源を切った。サンプルは採取後速やかに水冷した。
【0060】
5時間後、電気ケトルの電源を再度入れ、上記と同様の手順で100mLの湯を採取した。
【0061】
採取した各サンプルのORPおよびpHを上記と同様の方法で測定した。ORP測定結果を表6に示し、pH測定結果を表7に示す。なお、このときのサンプルの温度は24.7〜26.1℃であった。電気ケトルに入れる前の水道水のORPは674mVであり、pHは8.44であった。
【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
プラチナはORPおよびpHの変化に関与しないことがわかっている。このため、配合5のプレートと配合2のプレートとの違いは、単にガラスセラミックスの有無とみなすことができる。
【0065】
表6によると、配合2のプレートにより水の抗酸化が高められることがわかる。また、配合2のプレートを入れた電気ケトルにおいて、沸騰直後から5時間後に至るまでのORPの変化はほとんどない。表7によると、配合2のプレートにより水のpHが高くなる(アルカリ性)ことがわかる。また、配合2のプレートを入れた電気ケトルにおいて、沸騰直後から5時間後に至るまでのpHの変化はほとんどない。この結果から、本発明のガラスセラミックスにおいては、付加元素の溶出が抑制されて耐久性が向上していることがわかる。
【0066】
〈評価2〉
各プレートをアスコルビン酸水溶液とともに電気ケトルに入れ、各プレートの抗酸化性能を測定した。詳しくは、各プレートを3枚ずつそれぞれ別の電気ケトルに入れた。プレートを入れた各電気ケトルに5ppmのアスコルビン酸水溶液500mLを入れ、沸騰させた。沸騰直後および5時間後の水溶液を上述した方法で採取し、サンプル中のアスコルビン酸濃度をDPPH法で測定した。アスコルビン酸はラジカルと反応して減少する。アスコルビン酸の減少が少ないと、プレートに抗酸化力があるとみなすことができる。
【0067】
0.125mmol/lのDPPH(和光純薬製 1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)エタノール溶液にサンプルを加え、DPPH溶液中のラジカルの減少を分光光度計(515nm)で測定した。検量線は4種の異なる濃度のアスコルビン酸を用いて作成した。抗酸化性能評価結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
表8に示すように、ガラスセラミックスを含む配合2のプレートを入れた電気ケトルにおいて、アスコルビン酸濃度の減少は抑制されている。これは、配合2のプレートから溶出した付加元素の作用によると考えられる。また、配合2のプレートを入れた電気ケトルにおいて、沸騰直後から5時間後に至るまでのアスコルビン酸濃度の変化はほとんどない。この結果からも、本発明のガラスセラミックスにおいては、付加元素の溶出が抑制されて耐久性が向上していることがわかる。なお、配合5のプレートを入れた電気ケトルにおいても、アスコルビン酸濃度の減少は抑制されている。これは、プラチナの抗酸化作用にするものと考えられる。
【0070】
〔ガラスセラミックスの評価3〕
ガラスセラミックス粉末を含むコート層を炊飯釜に形成した。この炊飯釜を用いてガラスセラミックスを評価した。
【0071】
〈コート層の形成〉
配合5のコート材料および配合2のコート材料を準備した。各コート材料を、上記の〔ガラスセラミックスの評価1〕の〈コート層の形成〉と同様の方法で、それぞれ別の炊飯釜にコートした。炊飯釜の表面には膜厚15〜20μmのコート層が形成された。以上の工程で、配合2のコート層が形成された炊飯釜(配合2の炊飯釜と呼ぶ)、および配合5のコート層が形成された炊飯釜を得た。
【0072】
配合5のコート層が形成された炊飯釜に、プラチナ粒子を固着させた。詳しくは、先ず、配合5のコート層が形成された炊飯釜をエタノールにより脱脂した。100ppmのナノプラチナセラミックス−水懸濁液またはナノプラチナコロイド−水懸濁液を準備し、このナノプラチナ−水懸濁液に炊飯釜を完全に浸漬し、コート層の表面にプラチナ粒子を固着させた。5〜10分間静置し、コート層の表面にプラチナ粒子を充分に結合させた後、プラチナ粒子の固着炊飯釜を乾燥機に入れ、約150〜180℃で8時間、または、約250〜300℃で1時間加熱乾燥させた。乾燥後、常温にまで冷却した。冷却後、純水またはイオン交換水により、常温まで冷えた炊飯釜の表面を洗浄し、再度乾燥させた。このときの乾燥温度は約110℃であった。なお、プラチナ懸濁液に浸漬するかわりに、スプレー、イオンプレーティング、スピンコーティング等の既知の方法でプラチナ粒子をコート層に固着させても良い。以上の工程で、配合5のコート層にプラチナ粒子が固着した炊飯釜(配合5の炊飯釜と呼ぶ)を得た。
【0073】
〈評価〉
配合2の炊飯釜および配合5の炊飯釜に水を入れ、ORPおよびpHの経時変化を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0074】
先ず、各炊飯釜に1リットルの水を入れ、炊飯器にセットした。炊飯器の蓋をして約12時間放置した。これは、家庭で炊飯する際の状況、すなわち、前夜から炊飯釜内で吸水させた米を翌朝炊飯する状況を再現するためである。12時間後、各炊飯釜から100mLの水を採取し、その後炊飯スタートボタンを押した。
【0075】
炊飯器としては、象印 NP−LS10型(7段圧力)を用いた。この炊飯器は、炊飯開始(炊飯スタートボタンが押された時点から)約12分後に予熱工程を開始し、炊飯開始約27分後に予熱工程を終了し、炊飯開始約31分後に沸騰開始するよう、プログラムされている。つまりこの炊飯器を用いて炊飯する場合、炊飯開始約12分後〜27分後までが予熱工程(常温〜100℃に加熱する工程)であり、炊飯開始約31分後〜が沸騰工程(100〜110℃に加熱する工程)である。炊飯開始約20分後に予熱工程の水を採取した。炊飯開始約35分後に沸騰工程の水を採取した。採取した各サンプルは、採取後速やかに水冷した。
【0076】
水冷後のサンプルのORPおよびpHを測定した。ORPおよびpHは上述した方法で測定した。このときのサンプルの温度は22.7〜22.9℃であった。なお、炊飯器に入れる前の水道水のORPは700mVであり、pHは7.6であった。
【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
表9に示すように、ガラスセラミックスを含む配合2の炊飯釜によると、水に抗酸化性能を付与できる。また、表10に示すように、ガラスセラミックスを含む配合2の炊飯釜によると、水のpHを高く(アルカリ性に)にできる。また、浸漬開始後12時間以上経過しても、配合2の炊飯釜によるORPの低下およびpHの上昇は過大ではない。この結果から、本発明のガラスセラミックスにおいては、付加元素の溶出が抑制されて耐久性が向上していることがわかる。
【0080】
〔溶岩セラミックスの評価1〕
溶岩セラミックス粉末を含むコート層を炊飯釜に形成した。この炊飯釜を用いて溶岩セラミックスを評価した。
【0081】
〈コート層の形成〉
PES:フッ素:試料2のセラミックス粉末を66.6:25.4:8.0(質量比)で混合したもの(配合6のコート材料)を準備した。配合6のコート材料は、試料2のセラミックス粉末を5質量%含む。
【0082】
配合6のコート材料および上記の配合5のコート材料を、上記の〔ガラスセラミックスの評価1〕の〈コート層の形成〉と同様の方法で、炊飯釜にコートした。炊飯釜の表面には膜厚15〜20μmのコート層が形成された。以上の工程で、配合5のコート層が形成された炊飯釜および配合6のコート層が形成された炊飯釜(配合6の炊飯釜と呼ぶ)を得た。
【0083】
配合5のコート層が形成された炊飯釜にプラチナ粒子を固着させた。固着方法は、上記の〔ガラスセラミックスの評価2〕の〈コート層の形成〉と同様の方法であった。この工程で、配合5のコート層にプラチナ粒子が固着した炊飯釜(配合5の炊飯釜と呼ぶ)を得た。
【0084】
〈評価〉
各炊飯釜に水を入れ、ORPおよびpHの経時変化を測定した。サンプルの採取は上述したガラスセラミックスの評価3と同様におこない、各サンプルのORPおよびpHを測定した。ORPおよびpHは上述した方法で測定した。このときのサンプルの温度は22.7〜22.9℃であった。なお、炊飯器に入れる前の水道水のORPは674mVであり、pHは8.27であった。
【0085】
【表11】

【0086】
【表12】

【0087】
表11に示すように、溶岩セラミックスを含む配合6の炊飯釜によると、水に抗酸化性能を付与できる。また、表12に示すように、溶岩セラミックスを含む配合6の炊飯釜によると、水のpHを高く(アルカリ性に)にできる。また、浸漬開始後12時間以上経過しても、配合6の炊飯釜によるORPの低下およびpHの上昇は過大ではない。この結果から、本発明の溶岩セラミックスにおいては、付加元素の溶出が抑制されて耐久性が向上していることがわかる。さらに、溶岩セラミックスによるORPの低下およびPHの上昇は、ガラスセラミックスによるORPの低下およびPHの上昇よりも大きい。この結果から、溶岩セラミックスはガラスセラミックスに比べて付加元素の溶出速度が大きいことがわかる。
【0088】
〔溶岩セラミックスの評価2〕
上記の配合5の炊飯釜にプラチナ粒子を固着させなかったもの(配合7の炊飯釜と呼ぶ)を準備した。配合7の炊飯釜におけるコート層は、付加元素およびプラチナを含まない。この配合7の炊飯釜と、上記配合5の炊飯釜と、上記配合6の炊飯釜とを用いて、溶岩セラミックスを評価した。
【0089】
〈評価1〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯の臭気の経時変化を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0090】
先ず、各炊飯釜に650mlの水と540mLの米とを入れ、上記の炊飯器にセットした。炊飯器の蓋をして約12時間放置した。12時間後炊飯ボタンを押し、炊飯を開始した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、30分静置した。30分後のご飯の臭気をニオイセンサー(新コスモス電機株式会社製)により測定した。この測定値を臭気の初期値とした。その後、一定時間毎に臭気濃度の測定をおこなった。この試験を3回繰り返した。
【0091】
【表13】

【0092】
表13に示すように、1回目の試験、2回目の試験および3回目の試験全てにおいて、配合6の炊飯釜で炊飯・保温したご飯は配合5の炊飯釜で炊飯・保温したご飯よりも、24時間後の臭気が少なかった。この結果から、溶岩セラミックスによってご飯の臭気を低減できることがわかる。
【0093】
〈評価2〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯の水分量の経時変化を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0094】
上記と同様に、各炊飯釜でご飯を炊飯した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、30分静置した。30分後、ご飯を採取し、その水分量を測定した。詳しくは、先ず、採取したご飯の質量を測定した。測定後のご飯の水分を乾燥機によってほぼ完全に除去し、再度質量を測定した。乾燥前のご飯の質量と乾燥後のご飯の質量とを基に、乾燥前のご飯の水分量(質量%)を算出した。この試験を3回繰り返した。
【0095】
【表14】

【0096】
表14に示すように、1回目の試験、2回目の試験および3回目の試験全てにおいて、配合6の炊飯釜で炊飯・保温したご飯は配合5の炊飯釜で炊飯・保温したご飯よりも、初期の水分量および24時間後の水分量が多かった。この結果から、溶岩セラミックスによってご飯の水分量減少を低減できることがわかる。
【0097】
〈評価3〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯の経時変化を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0098】
上記と同様に、各炊飯釜でご飯を炊飯した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、3時間静置した。3時間後にご飯を採取して4名が試食した。24時間後に再度ご飯を採取して3名が試食した。この試験を3回繰り返した。その結果、配合5の炊飯釜で炊飯したご飯と、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯と、の両方が、3時間後および24時間後に殆ど違いなくおいしく食べられる、という評価を得た。すなわち、溶岩セラミックスの炊飯釜によると、プラチナコートの炊飯釜と同程度においしいご飯を炊くことができる。
【0099】
〈評価4〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合7の炊飯釜で炊飯したご飯の炊飯直後における食味を官能評価した。詳しくは以下の通りである。
【0100】
上記と同様に、各炊飯釜でご飯を炊飯した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、3時間静置した。3時間後にご飯を採取して4名が試食した。官能試験による配合7の炊飯釜で炊飯したご飯の食味(香り、外観、硬さ、粘り、味、および総合)と、配合5の炊飯釜および配合6の炊飯釜の食味とを比較評価した。配合7の炊飯釜で炊飯したご飯を基準(0)として、これよりも優れる場合には+、劣る場合に−と評価した。
【0101】
【表15】

【0102】
表15に示すように、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯は配合7の炊飯釜で炊飯したご飯を総合点で上回った。この結果から、溶岩セラミックスはご飯の食味を向上させ得ることがわかる。
【0103】
〈評価5〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合7の炊飯釜で炊飯したご飯の物性を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0104】
上記と同様に、各炊飯釜でご飯を炊飯した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、3時間静置した。3時間後にご飯を採取し、テクスチュロメータを用いて各ご飯の硬さ(H5)および付着性の粘り(−H5)を測定した。一般に、ご飯のH5が小さく−H5が大きいほど、食味性に優れるとされている。
【0105】
【表16】

【0106】
表16に示すように、配合5の炊飯釜で炊飯したご飯は、配合6、7の炊飯釜で炊飯したご飯に比べてH5が小さく、−H5が大きかった。この結果からも、溶岩セラミックスによってご飯の食味を向上させ得ることがわかる。
【0107】
〈評価6〉
配合5の炊飯釜で炊飯したご飯、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯、および、配合7の炊飯釜で炊飯したご飯に含まれる糖(全糖、還元糖)を測定した。詳しくは以下の通りである。
【0108】
上記と同様に、各炊飯釜でご飯を炊飯した。炊飯後、炊飯器の蓋を開け、ご飯を速やかにかつ良くかき混ぜて蓋をし、3時間静置した。3時間後にご飯を採取した。このご飯の水溶性画分およびアルコール(70%エタノール)可溶性画分を得、フェノール硫酸法(ソモギ−ネルソン法)により各画分の全糖および還元糖を測定した。
【0109】
【表17】

【0110】
表17に示すように、配合6の炊飯釜で炊飯したご飯は、配合5、7の炊飯釜で炊飯したご飯に比べて還元糖および全糖を多く含む。この結果からも、溶岩セラミックスによってご飯の食味を向上させ得ることがわかる。
【0111】
〔ガラスセラミックスの評価4〕
ガラスセラミックス粉末を含むコート層を炊飯釜に形成した。この炊飯釜を用いてガラスセラミックスを評価した。
【0112】
〈コート層の形成〉
試料4のセラミックス粉末(Ptセラミックス):試料1のセラミックス粉末(ガラスセラミックス)を6:4(質量比)で混合した。このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P5標準タイプ)とを5:95(質量比)で混合したもの(配合8)、このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P5標準タイプ)とを10:90(質量比)で混合したもの(配合9)、このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P7高分子タイプ)とを5:95(質量比)で混合したもの(配合10)、このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P7高分子タイプ)とを10:90(質量比)で混合したもの(配合11)を準備した。
【0113】
試料4のセラミックス粉末(Ptセラミックス):試料1のセラミックス粉末(ガラスセラミックス)を3:7(質量比)で混合した。このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P5標準タイプ)とを5:95(質量比)で混合したもの(配合12)、このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P5標準タイプ)とを10:90(質量比)で混合したもの(配合13)、このセラミックス混合物とフッ素樹脂(PFA、P5標準タイプ)とを15:85(質量比)で混合したもの(配合14)を準備した。
【0114】
配合8〜14のコート材料を、上記の〔ガラスセラミックスの評価1〕の〈コート層の形成〉と同様の方法で、炊飯釜にコートした。炊飯釜の表面には膜厚15〜20μmのコート層が形成された。以上の工程で、配合8のコート層が形成された炊飯釜(配合8の炊飯釜と呼ぶ)、配合9のコート層が形成された炊飯釜(配合9の炊飯釜と呼ぶ)、配合10のコート層が形成された炊飯釜(配合10の炊飯釜と呼ぶ)、配合11のコート層が形成された炊飯釜(配合11の炊飯釜と呼ぶ)、配合12のコート層が形成された炊飯釜(配合12の炊飯釜と呼ぶ)、配合13のコート層が形成された炊飯釜(配合13の炊飯釜と呼ぶ)および、配合14のコート層が形成された炊飯釜(配合14の炊飯釜と呼ぶ)を得た。
【0115】
〈評価〉
配合8〜14の炊飯釜および配合7の炊飯釜に、それぞれ水を入れ、ORPおよびpHの経時変化を測定した。サンプルの採取は上述したガラスセラミックスの評価3と同様におこない、各サンプルのORPおよびpHを測定した。ORPおよびpHは上述した方法で測定した。
【0116】
【表18】

【0117】
【表19】

【表20】

【0118】
【表21】

【0119】
表18、19に示すように、ガラスセラミックスを含む配合8〜14の炊飯釜によると、水に抗酸化性能を付与できる。また、表20、21に示すように、ガラスセラミックスを含む配合8〜14の炊飯釜によると、水のpHを高く(アルカリ性に)にできる。水に付与する抗酸化性能を高めるため、および、水のpHをより高くするためには、ガラスセラミックスの配合量は多い方が好ましいことがわかる。さらに、水に付与する抗酸化性能を高めるため、および、水のpHをより高くするためには、フッ素樹脂(PFA)としてP7すなわち高分子タイプのものを用いるのがより好ましいこともわかる。
【0120】
〔その他〕
パラジウムを含むセラミックス粉末でコート層を構成し、このコート層を炊飯釜に形成した。この炊飯釜を用いてパラジウムを含むセラミックスを評価した。
【0121】
〈コート層の形成〉
試料5のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を5:95(質量比)で混合したもの(配合15)、試料5のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を10:90(質量比)で混合したもの(配合16)、試料5のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を15:85(質量比)で混合したもの(配合17)、試料6のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を5:95(質量比)で混合したもの(配合18)、試料6のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を10:90(質量比)で混合したもの(配合19)、および、試料6のセラミックス粉末(Pdセラミックス):PFA(P5)を15:85(質量比)で混合したもの(配合20)を準備した。
【0122】
配合15〜20のコート材料を、上記の〔ガラスセラミックスの評価1〕の〈コート層の形成〉と同様の方法で、炊飯釜にコートした。炊飯釜の表面には膜厚15〜20μmのコート層が形成された。以上の工程で、配合15のコート層が形成された炊飯釜(配合15の炊飯釜と呼ぶ)、配合16のコート層が形成された炊飯釜(配合16の炊飯釜と呼ぶ)、配合17のコート層が形成された炊飯釜(配合17の炊飯釜と呼ぶ)、配合18のコート層が形成された炊飯釜(配合18の炊飯釜と呼ぶ)、配合19のコート層が形成された炊飯釜(配合19の炊飯釜と呼ぶ)、および、配合20のコート層が形成された炊飯釜(配合20の炊飯釜と呼ぶ)を得た。
【0123】
〈評価〉
配合15〜20の炊飯釜および配合7の炊飯釜に、それぞれ水を入れ、ORPおよびpHの経時変化を測定した。サンプルの採取は上述したガラスセラミックスの評価3と同様におこない、各サンプルのORPおよびpHを測定した。ORPおよびpHは上述した方法で測定した。
【0124】
【表22】

【0125】
【表23】

【0126】
【表24】

【0127】
【表25】

【0128】
表22、23に示すように、コート層にパラジウムを含む配合15〜20の炊飯釜によっても水に抗酸化性能を付与できる。また、表24、25に示すように、コート層にパラジウムを含む配合15〜20の炊飯釜によっても、水のpHを高く(アルカリ性に)にできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水保持装置の熱水保持部に用いられるセラミックスを製造する方法であって、
ケイ素酸化物とケイ素含有酸化物とから選ばれる少なくとも一種のケイ素材料粉末と、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種の付加元素をそのまま又は酸化物として含む付加元素粉末と、を含む混合物を焼成・冷却して焼成体を得る焼成冷却工程を含み、
該焼成冷却工程の少なくとも一部を還元雰囲気でおこなうこと特徴とする熱水保持装置用セラミックスの製造方法。
【請求項2】
熱水保持装置の熱水保持部に用いられるセラミックスを製造する方法であって、
ケイ素酸化物とケイ素含有酸化物とから選ばれる少なくとも一種のケイ素材料粉末と、アルカリ土類金属、アルカリ金属、バナジウム、亜鉛、セレン、リン、硫黄、塩素、鉄、ホウ素、フッ素、アルミニウム、ケイ素、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、モリブデン、ヨウ素、炭素から選ばれる少なくとも一種の付加元素をそのまま含む付加元素粉末と、を含む混合物を焼成・冷却して焼成体を得る焼成冷却工程を含み、
該焼成冷却工程を非酸化雰囲気でおこなうことを特徴とする熱水保持装置用セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記焼成冷却工程において、
焼成時の温度は1200℃以上であり、
冷却時には、900〜1200℃の温度域を100℃/分以下の冷却速度で冷却する請求項1又は2に記載の熱水保持装置用セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記焼成冷却工程において、
冷却時には、900〜1200℃の温度域を80〜100℃/分の冷却速度で冷却する請求項3に記載の熱水保持装置用セラミックスの製造方法。
の製造方法。
【請求項5】
前記焼成冷却工程において、
冷却時には、900〜1200℃の温度域を30〜50℃/分の冷却速度で冷却する請求項3に記載の熱水保持装置用セラミックスの製造方法。

【公開番号】特開2012−131666(P2012−131666A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285333(P2010−285333)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(596087812)株式会社エルブ (15)
【Fターム(参考)】