説明

熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置

【課題】マイクロ波による誘電加熱効果によって熱硬化性プラスチック材料を硬化させた後に、好適な条件で冷却制御することが可能な熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置を提供すること。
【解決手段】熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置のキャビティ2内に熱硬化性プラスチック材料が注入された複数の母型が収容される。熱硬化性プラスチック材料はマイクロ波発振器15からのマイクロ波によって誘電加熱されて硬化する。一方、熱風発生器22から発生した熱風がキャビティ2内に供給されて外方からも熱硬化性プラスチック材料は加熱される。熱風の循環経路を構成する第2のダクト25には吸気口26と同吸気口26の上流側に配置された排気口29が形成されるとともに吸気口26及び排気口29に面してそれぞれ第1及び第2の絞り弁が設けられ、吸気口26及び排気口29の間には第3の絞り弁が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性プラスチック材料をマイクロ波によって誘電加熱して所定の形状に硬化させる熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から成型用のモールドを加熱し、この伝導熱で熱硬化性プラスチック材料を硬化させる成形方法がある。このような熱硬化性プラスチック材料の加熱手段の一例として特許文献1を示す。特許文献1では金型をヒータによって加熱し、熱硬化性プラスチック材料(特許文献1では半導体の樹脂モールド)を硬化させるというものである。
ところが、このように熱硬化性プラスチック材料を外部からの伝導熱で加熱する場合には、材料中で対流現象が生じやすくどうしても加熱ムラが生じてしまう。単に硬化させるだけであれば大きな問題はないが、特にレンズ、フィルター、計器カバー等の透明なプラスチックで光が透過することを前提とした光学的な要素のあるプラスチック製品では透過率や屈折率等について極力均一になることを求められる。そのため、従来からそのようなプラスチック製品では伝導熱で加熱する成形方法では対流を生じさせないように数十時間をかけて非常にゆっくりと加熱処理を行っている。
しかし、このように長時間をかけて製品を得る場合では容易に量産化に対応できず、製品当たりのプラント稼働時間が長くなることから高コスト化も招来していた。
【0003】
そのため、近年外部からの伝導熱で加熱するのではなく、熱硬化性プラスチック材料にマイクロ波を照射し、マイクロ波のエネルギーによって分子内部に極性のある熱硬化性プラスチック材料の振動を励起して発熱させ硬化を促すような成形方法が考えられている。そのような技術の一例として特許文献2を示す。このようなマイクロ波による誘電加熱では伝導熱で加熱する場合に比べて全体を均一に加熱できることから対流が生じにくく加熱時間の短縮化を図ることが可能となっている。
【特許文献1】特開平3−147812号公報
【特許文献2】特開平4−62110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように熱硬化させたプラスチック材料の所定の加熱処理が完了すると、次工程では冷却してプラスチック材料の温度を下げていく必要がある。しかしながら、例えばキャビティのような収容容器内で加熱していた場合にキャビティの扉を一挙に開放して外気を導入することは温度が急激に下がりすぎてしまうため好ましくない。急激な温度の低下はプラスチック材料にひびが入ったり変形したりする原因になるためである。しかしながら、扉を閉じたままで外気によるキャビティの自然な放熱を待つ場合ではあまりに時間がかかりすぎることとなる。また、外気による自然な放熱では外気温によって所望の温度に下がるまでの時間もまちまちになってしまう。
そのため、熱硬化後のプラスチック材料を自然な放熱ではなく、積極的に冷却するために温度コントロールをしやすい熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、マイクロ波による誘電加熱効果によって熱硬化性プラスチック材料を硬化させた後に、好適な条件で冷却制御することが可能な熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明では、調合した熱硬化性プラスチック材料が注入された複数の母型を収容するための周囲が包囲された収容部と、前記母型内の熱硬化性プラスチック材料を誘電加熱するためのマイクロ波を同収容部内部に供給するマイクロ波供給手段と、ヒータの入り切りによって加熱された空気と加熱されていない空気のいずれかをファンによって強制的に送風する送風装置と、前記送風装置と記収容部間に配設され、同送風装置によって循環させられる空気を同収容部に向かって送る供給ダクトと、前記送風装置と前記収容部間に配設され、同収容部の空気を同送風装置に向かって戻す回収ダクトとを備え、前記回収ダクトには吸気口と同吸気口の上流側に配置された排気口を形成するとともに同吸気口及び同排気口に面してそれぞれ第1及び第2の絞り弁を設ける一方、同吸気口及び同排気口の間には循環する空気の流速及び流量を調整するための第3の絞り弁を設けるようにしたことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1に記載の発明の構成に加え、前記収容部内には収容部内の雰囲気中の温度を検出する温度センサが配設され、同温度センサが検出した同加熱雰囲気中の温度情報に基づいて前記第1〜第3の絞り弁の絞り量を調整するようにしたことをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1に記載の発明の構成に加え、前記複数の母型のうち、少なくとも1つの母型内には熱硬化性プラスチック材料の温度を検出するための温度センサを配設し、同温度センサの検出した温度情報に基づいてマイクロ波の照射量を経時的に制御するようにしたことをその要旨とする。
また、請求項4の発明では請求項3に記載の発明の構成に加え、前記温度センサが検出した温度に同期させて前記収容部の加熱雰囲気中の温度を制御するようにしたことをその要旨とする。
【0006】
このような構成においては、複数用意された母型内に調合した熱硬化性プラスチック材料を注入し収容部に収容するようにする。そして、マイクロ波供給手段から供給されたマイクロ波を同収容部内部に導入して母型内の熱硬化性プラスチック材料を誘電加熱する。このような誘電加熱とは別個に収容部には供給ダクトと回収ダクトを接続しヒータが併設された送風装置によって加熱した空気を循環させるようにする。このようにヒータによって加熱された空気をファンによって循環させることで収容部内部の雰囲気も熱硬化性プラスチック材料の加熱に伴って加熱することが可能となる。このような熱風の循環経路における回収ダクトには吸気口と同吸気口の上流側に配置された排気口を形成し、それぞれに面して第1及び第2の絞り弁を設ける。更に、吸気口及び排気口の間に第3の絞り弁を設ける。
通常の加熱された空気(熱気)の循環状況においては吸気口は第1の絞り弁によって、そして排気口は第2の絞り弁によって閉鎖状態にある。また、第3の絞り弁は開放状態とされている。もちろん、熱気の循環速度を調整するために第3の絞り弁を絞ることは可能である。また、循環システムは理論的に循環状態においては外気は導入しなくとも熱気は循環することとなるが、実際は微量の空気漏れが想定される。そのため漏れ分の空気を補うために第1の絞り弁をわずかに開放状態として吸気口から外気を導入することも可能である。
【0007】
このような構成において、所定の熱硬化性プラスチック材料に対する加熱が終了して冷却する場合には、第3の絞り弁を非常に絞るかあるいは完全に閉鎖状態とする。これによって空気の循環が行われなくなる。また、同時に第2の絞り弁を開放状態とする。その際に全開放状態とするかある程度絞るかは適宜選択可能である。これによって循環経路内の熱気は回収ダクトを通じて排気口から排気されることとなる。但し、温度を急激に下げないようにするため全開放状態ではなくある程度絞ることも可能である。排気口は収容部から延びる回収ダクトの延長線上に配置されることが速やかな排気の点で好ましい。また、この際に吸気口からは外気が導入されるように第1の絞り弁は開放状態であることが必要である。但し、温度を急激に下げないようにするため全開放状態ではなくある程度絞ることも可能である。
【0008】
このような構成とすることによって、熱硬化性プラスチック材料を誘電加熱によって硬化させることができるとともに熱硬化性プラスチック材料の母型が収容された収容部の雰囲気を加熱するようにしているため、熱硬化性プラスチック材料に対してその外側からも加熱が可能となり、結果として高品質の熱硬化性プラスチック材料の成形が可能となる。そして加熱完了後に冷却するに際して少なくとも第3の絞り弁を閉じる方向に調整し、第1及び第2の絞り弁を開く方向に調整することで循環経路内の熱気を排気することが可能となる。これによって収容部の扉を開放させることなく回収ダクトから排気するため一気に収容部内の温度が下がることが防止される。また、第1〜第3の絞り弁の絞り量(開閉量)を適宜調整することによって排気量や排気速度を最適なものに設定することが可能となる。
【0009】
ここに、第1〜第3の絞り弁の絞り量(開閉量)は収容部内の雰囲気中の温度を検出する温度センサが検出した雰囲気中の温度情報を指標として前記第1〜第3の絞り弁の絞り量を調整するようにすることが好ましい。これによって第1〜第3の絞り弁の絞り量(開閉量)を収容部内の雰囲気中の温度に併せて最適なものに設定することが可能となる。
また、収容部内に収容される調合した熱硬化性プラスチック材料が注入された母型のうち、少なくとも1つの母型内には熱硬化性プラスチック材料の温度を検出するための温度センサを配設するようにして誘電加熱を行うことが好ましい。
つまり、複数用意された母型は実際に製品を製造するための製品用母型と製品用母型と同様の条件で温度センサが配設されたダミー母型の2種類が用意されることとなる。そして、これらの母型に対してマイクロ波を照射する。するとマイクロ波の出力に応じて熱硬化性プラスチック材料が振動して発熱するため(誘電加熱)その熱によって硬化が促される。温度センサはダミー母型内に配設されているため、正確に熱硬化性プラスチック材料の温度上昇履歴を検出することができる。製品用母型とダミー母型とは基本的に同様の条件であるため温度履歴もほぼ同様のものが得られることとなる。温度センサの検出した温度情報に基づいてマイクロ波の照射量を経時的に制御(調整)するようにする。
【0010】
製品用母型とダミー母型は全く同型であることが計測結果の誤差を極力解消する点から好ましいが、完全に同型である必要は必ずしもない。また、ダミー母型は理論上では1つあれば足るが、複数設置することを排除するものではない。
ここに、温度センサは直接熱硬化性プラスチック材料中に浸漬するようにしてもよいが、温度センサを保護部材によって包囲して温度センサ自身は熱硬化性プラスチック材料と直接接することがないように保護部材によって包囲するようにしてもよい。例えば、温度センサを比較的融点の高い熱可塑性プラスチック製薄膜(例えばナイロン製薄膜)で包囲したり、硬質の鞘部材に挿入し、この鞘部材を熱硬化性プラスチック材料中に浸漬させるようにしてもよい。このようにすれば温度センサは熱硬化性プラスチック材料が硬化しても容易に取り出すことができ、何度も使い回すことが可能となる。
【0011】
保護部材は当該熱硬化性プラスチック材料又は当該熱硬化性プラスチック材料に類似する材料で構成することも可能である。このような材料で構成すればより正確な検出が可能となる。
母型は複数の型枠と同型枠を連結する連結部材とによって内部に熱硬化性プラスチック材料が充填されるキャビティが形成されることが多い。例えば、レンズの製造においては第1及び第2の型枠を連結部材としてのガスケットで連結し、内部に熱硬化性プラスチック材料が充填されるキャビティが形成される。このような連結部材には熱硬化性プラスチック材料を充填するための充填口が開口されるが、その際に充填口からキャビティ内に熱硬化性プラスチック材料が充填された後に前記保護部材を充填口からキャビティ内に挿入して保護部材の基部寄りで充填口を塞ぐようにすることが好ましい。
これによって保護部材は温度センサを保護するのみならず熱硬化性プラスチック材料をキャビティ内に封入する蓋の役割も果たすこととなり、作業効率の向上と部品の削減を図ることが可能となる。
【0012】
更に、収容部の加熱雰囲気中の温度を前記温度センサが検出した温度情報に基づいて同温度センサの検出した温度に同期させて制御することが好ましい。
具体的な制御手段としては例えばダミー母型内に配設された温度センサを第1の温度センサとし、加熱雰囲気中に第2の温度センサを配設する。そして、第1の温度センサと第2の温度センサで検出される値の差を所定の目標設定値として制御することが挙げられる。
ここに「同期させる」とは温度センサの検出した温度が経時的に上がっていくようであれば加熱雰囲気中の温度も上げていき、温度センサの検出した温度が経時的に一定を保つのであれば加熱雰囲気中の温度も一定を保ち、温度センサの検出した温度が経時的に下がっていくのであれば加熱雰囲気中の温度も下げるような制御をいう。
特に誘電加熱の安定期において前記温度センサの検出した温度と一定の温度差で同期させて制御することが製品の品質向上の点から好ましい。但し、温度の昇降時においては必ずしも一定の温度差でなくともよく、例えば安定期における加熱初期においては温度差を小さく設定し、加熱終期に至るほど温度差を大きく設定する等の制御も可能である。
また、前記加熱雰囲気中の温度は前記温度センサの検出した温度以上に上がらないように制御することが好ましい。加熱雰囲気中の温度を温度センサの検出した温度以上に上げてしまうと温度センサが加熱雰囲気中の温度を検出してこれに影響を受けることとなってマイクロ波の照射量の正確な制御ができなくなってしまうからである。
【0013】
ここに「マイクロ波の照射量の経時的な制御」とは具体的には現段階の温度データに基づいて例えば所定の時間をかけて徐々に温度が上がっていくように、マイクロ波発生装置の出力を昇降させたり入り切りしたりして調整することが挙げられる。また、低温時に急激に大出力でマイクロ波を照射することは硬化後の製品の品質に影響があるので、加熱当初は比較的低出力でマイクロ波を照射し、温度上昇に伴って出力を上げることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記各請求項の発明では、熱硬化性プラスチック材料を誘電加熱によって硬化させることができるとともに熱硬化性プラスチック材料の母型が収容された収容部の雰囲気を加熱するようにしているため、熱硬化性プラスチック材料に対してその外側からも加熱が可能となり、結果として高品質の熱硬化性プラスチック材料の成形が可能となる。そして加熱完了後の冷却に際しては少なくとも第3の絞り弁を閉じる方向に調整し、第1及び第2の絞り弁を開く方向に調整することで循環経路内の熱気を排気量や排気速度を制御しながら排気することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施の形態として熱硬化性プラスチック材料から成形されるプラスチックレンズの成形方法について図面に基づいて説明する。
まず、プラスチックレンズの成形に使用される誘電加熱装置について説明する。
図1に示すように、架台1の天板部1a上に誘電加熱装置の一部をなすキャビティ2が設置され、同キャビティ2に対してマイクロ波供給ユニット3と熱風循環ユニット4が接続されている。キャビティ2に隣接する位置にはコントロールボックス5が設置されている。
キャビティ2は上下左右及び背面の各壁面から構成された本体7と同本体7の前面に配置される前面扉8から構成されている。前面扉8は図示しないヒンジによって開閉可能に支持されている。キャビティ2の上部には前面扉8の閉鎖状態で唯一キャビティ2内部とキャビティ2外部とを連通する3本の第1及び第2のシールドパイプ11a,11bが配設されている。キャビティ2の左右側面にはキャビティ2内部の照明装置12が配設されている。キャビティ2の側面であって前面扉8側のドグ9と干渉する位置には前面扉8の閉鎖状態を検出するリミットスイッチ10が配設されている。
図2に示すようにキャビティ2の底部13は二重構造となっており、設置床面13aの下部には床下空間Sが形成されている。図7に示すように、設置床面13aの四隅位置にはキャビティ2内部と空間Sとを連通するパンチングメタルで覆われた空気流通孔14が形成されている。
【0016】
次に、マイクロ波供給ユニット3について説明する。マイクロ波供給ユニット3は架台1の底板部1b上に設置された所定出力のマイクロ波発振器15と同マイクロ波発振器15から発振されたマイクロ波を導く導波管16を備えている。マイクロ波発振器15から延出された導波管16は天板部1a上方に導かれ、90度屈曲させられてキャビティ2の側面に接続されている。導波管16にはマイクロ波発振器15側から順にアイソレータ17、パワーメーター18、スリースタブチューナー19が配設されている。スリースタブチューナー19の背後にはパワーメーター18からの入力を受けてマイクロ波電力の計測値を表示するモニター装置20が設置されている。
【0017】
次に、熱風循環ユニット4について説明する。図1に示すように、熱風循環ユニット4は補助架台21上に設置された熱風発生器22と第1及び第2のダクト24,25から構成されている。熱風発生器22内部にはモータ23で回転させられるファン27と電熱ヒータ28が配設されている。供給ダクトとしての第1のダクト24は熱風発生器22とキャビティ2の上面との間に接続され、回収ダクトとしての第2のダクト25は底部13の側面と熱風発生器22との間に接続されている。これによって熱風発生器22とキャビティ2との間を空気が循環する循環経路が形成されることとなる。
第2のダクト25のうち、上方に配置された水平に延びる部分を第1の水平ダクト25aとし、下方に配置された水平に延びる部分を第2の水平ダクト25bとし、両ダクト25a,25bの間で垂直に延びる部分を垂直ダクト25cとする。
図1における第1の水平ダクト25aの右端には吸気口26が形成されている。同図における第2の水平ダクト25aの右端には排気口29が形成されている。図3に示すように、吸気口26、排気口29に面した位置及び垂直ダクト25cの上部寄り位置にはそれぞれ第1〜第3の絞り弁30a〜30cが併設されている。各絞り弁30a〜30cはハンドルHを操作して第1〜第3の絞り弁30a〜30cを回動させ熱風循環ユニット4を循環する空気の流通状態の制御を行う。
【0018】
次に、キャビティ2内部に収容される母型31の構成について説明する。
図4に示すように、プラスチックレンズ用の母型31は第1の型枠32、第2の型枠33及び連結部材としてのガスケット34から構成されている。第1の型枠32及び第2の型枠33は表裏とも同じ曲率の球面又はメニスカス形状のガラス製の円形板状体とされている。
第1の型枠32の裏面は成形されるプラスチックレンズの表面(物体側)を成形するための曲面とされ、第2の型枠33の表面は成形されるプラスチックレンズの裏面(眼球側)を成形するための曲面とされている。ガスケット34はエラストマー製の可撓性リング体であって、図5及び図6に示すように、ガスケット34内周には径方向の断面において内方に突起した形状の支持突条35が形成されている。ガスケット34には内外を連通させる充填口36が開口されている。
【0019】
第1及び第2の型枠32,33はガスケット34の支持突条35をスペーサとしてその前後に配置されている。第1の型枠32の裏面周縁及び第2の型枠33の表面周縁はそれぞれ突起した支持突条35の側面に密着されている。ガスケット34と第1及び第2の型枠32,33によって包囲される内部空間は熱硬化性プラスチック材料が充填されるキャビティ37とされている。第1及び第2の型枠32,33はクリップ38にて締結されている。
【0020】
このような構成の母型31に対して調合された熱硬化性プラスチック材料Mを減圧下で脱気処理した後充填口36から充填する(図5及び図6の状態)。
熱硬化性プラスチック材料Mが充填された母型31は基本的に製品としてプラスチックレンズを成形するための製品用母型31Aと、温度履歴を計測するためのダミー母型31Bとに分かれる。本実施の形態では複数の製品用母型31Aに対し1つのダミー母型31Bが用意される。図5に示すように製品用母型31Aの充填口36には栓39が取り付けられ、図6に示すようにダミー母型31Bには試験管形状のセンサ保護管40が取り付けられる。センサ保護管40は熱硬化性プラスチック材料中に進出し、装着状態でその下端がほぼ上下方向の中央位置に配置される。
【0021】
このような母型31(製品用母型31A及びダミー母型31B)は図7及び図8に示す母型ホルダー41にセットされる。母型ホルダー41はキャビティ2の設置床面13a上に設置される。以下、母型ホルダー41について説明する。
母型ホルダー41は脚部42と脚部42の中央に立設された支柱43を備えている。支柱43の下端寄りは脚部42に固着された軸受けスリーブ44によって支持されており、支柱43は軸心回りに自転可能とされている。支柱43の上半身には雄ネジ部43aが形成されている。
支柱43には上下2枚のターンテーブル45,46が装着されている。両ターンテーブル45,46は中央に支柱43に挿通させるための軸受け孔47が中央位置に形成された円盤形状のプラスチック製の板体であって、同軸受け孔47を中心に台形形状の透孔48が放射状に形成されている。
両ターンテーブル45,46の対向面45a,46a側であって透孔48に面した内側角部及び外側角部には母型31の外周曲率と同じ曲率に形成された当接面50が形成されている。上側の第1のターンテーブル45は下側の第2のターンテーブル46に対して支柱43の軸方向に沿って接離可能とされている。第1のターンテーブル45の下部位置にはネジ部材49が配設されている。ネジ部材49は雄ネジ部43aに螺合されており、雄ネジ部43aが形成された支柱43の所定位置に停止配置させることが可能である。第1のターンテーブル45は所定位置に配置されたネジ部材49によって下方から支持される。
母型31は両ターンテーブル45,46の透孔48が上下方向において正対する位置において透孔48位置にセットされる。図8に示すようにセット状態において母型31は上下4箇所の当接面50によって支持されることとなる。母型31は当接面50以外の部分はキャビティ2内の空間に露出することとなる。
【0022】
上記のような構成において、図2及び図7に示すように熱電対からなる第1のセンサ51がセンサ保護管40内に挿入されている。第1のセンサ51にはケーブルとしての光ファイバー37が接続されており、光ファイバー37は透孔48から第1のシールドパイプ11aを通って外部に延出されコントロールボックス5に接続されている。同様に熱電対からなる第2のセンサ51が第2のシールドパイプ11bに挿通されキャビティ2内に吊り下げ支持されている。第2のセンサ52にはケーブルとしての光ファイバー37が接続されており、コントロールボックス5に接続されている
コントロールボックス5には各センサ51,52によって検出された温度を表示するモニター53と操作部54が配設されている。操作部54は誘電加熱装置全体のメインスイッチ、熱風発生器22のメインスイッチを含み、マイクロ波発振器15の出力設定、制御すべき温度の目標値の設定等の操作を行う。架台1の図1における右側方にはシグナル55が配設されている。
【0023】
次に、誘電加熱装置の特に本発明に関する電気的構成について説明する。
誘電加熱装置はコントロールボックス5に内蔵されたコントローラ61によって制御されている。コントローラ61は図示しないメモリやマイクロプロセッサ(MPU)、タイマ等から構成されている。図9に示すように、コントローラ61にはリミットスイッチ10、マイクロ波発振器15、モータ23、電熱ヒータ28、センサ51,52、モニター53、操作部54、シグナル55が接続されている。また、コントローラ61には経時的な温度履歴をグラフ化して表示するとともにデータ化して保存することが可能なコンピュータ端末装置57が接続されている。
コントローラ61は操作部54の操作によって以下のように設定された加熱履歴に従ってマイクロ波発振器15の入り切りの制御をする。尚2)〜6)が加熱安定期に相当する。
1)予備段階:50℃に達するまで予熱。50℃に達した時間が以下のステージでの計測時間の始期(加熱スタートタイム)とされる。
2)第1のステージ: 80℃を目標上限温度として60分加熱
3)第2のステージ:100℃を目標上限温度として60分加熱
4)第3のステージ:110℃を目標上限温度として10分加熱
5)第4のステージ:120℃を目標上限温度として10分加熱
6)第5のステージ:130℃を目標上限温度として40分加熱
また、コントローラ61は第1のセンサ51に加え第2のセンサ52からの温度情報に基づいてモータ23及び電熱ヒータ28を駆動制御する。コントローラ61はファン27のモータ23を駆動させて循環経路の空気を循環させるとともに、電熱ヒータ28の入り切りの制御をする。
【0024】
上記のような構成の誘電加熱装置によって、上記ステージに従ってマイクロ波発振器15を制御しながら母型31内の熱硬化性プラスチック材料Mを硬化させていく。同時に電熱ヒータ28を入り切りしながら第1のセンサ51によって検出された温度(熱硬化性プラスチック材料M自体の温度に近似した温度)Δ1に同期させながらキャビティ2内の温度をその温度Δ1よりも若干低い温度となるように制御していく。つまりコントローラ61は第2のセンサ52によって検出される温度Δ2が温度Δ1よりも所定値(例えば本実施の形態では15℃)低くなるように電熱ヒータ28の入り切りする。
【0025】
作業者はハンドルHを操作して加熱された空気が循環経路を循環できるように図3に示すように第3の絞り弁30cを全開放の状態に配置する。また、吸気口26の第1の絞り弁30aはわずかに開放し、排気口29の第2の絞り弁30bを全閉鎖の状態に配置する。
ここで第1の絞り弁30aを開放するのは吸気口26から外気を循環経路内に若干導入させるためである。理論的には循環経路は閉じられた空間であるのでファン27の駆動状態において特に外気を導入する必要はないともいえるが、実際には循環経路内を空気が循環することから部分的な内外の圧力差等の原因で部材の隙間を通じて内気と外部との交換が行われることとなってしまう。このような交換がキャビティ2の前面扉8を介して行われてしまうと熱が逃げることとなって効率が悪くなる。そのため、電熱ヒータ28の上流位置で外気を一元的に導入させるようにしている。
また、第3の絞り弁30cは全開放の状態がもっとも循環経路内の空気の速度が速くなる位置であるが、電熱ヒータ28の出力や外気温の関係で左右される循環経路内の温度上昇速度を考慮して循環速度を低速とするように図10に示すように若干絞るような調整も可能である。
【0026】
次に、上記ステージの一連の加熱工程が終了すると、母型30内の熱硬化性プラスチック材料Mへの誘電加熱はなくなるためキャビティ2の加熱雰囲気中の温度のみが熱硬化性プラスチック材料Mの温度を決定する要因となる。。熱硬化性プラスチック材料Mは誘電加熱がなくなることから徐々に温度が下がることとなり、第1のセンサ51は以後は低下する温度を計測することとなる。また、電熱ヒータ28は上記ステージ終了に伴って以後入力されないよう制御されるため第2のセンサ52も以後は低下する温度を計測することとなる。
作業者はモニター53によって第1及び第2のセンサ51,52が検出する温度情報に基づいて両センサ51,52の温度差が所定値内に収まるように第1〜第3の絞り弁30a〜30cを調整していく。
具体的には図11に示すように、第1の絞り弁30aを上記加熱時よりも大きく開放し吸気口26からの外気導入量を増すようにする。一方、第3の絞り弁30は全閉鎖状態とし循環経路内の空気の循環を阻止する。そして、第2の絞り弁30bを全開放の状態とする。これによってキャビティ2内部の熱気は第2のダクト25の第2の水平ダクト25bからストレートに排気口29に導かれ排気されることとなる。
この際に、作業者は第2の絞り弁30bを全開放するのではなく、モニター53をチェックして温度降下速度をゆっくり目にするために第2の絞り弁30bをある程度絞って熱気の排気速度や排気量を調整することが可能である。この際には排気量に応じて第1の絞り弁30aを絞って外気導入量も調整する必要がある。
また、一気に第3の絞り弁30を全閉鎖状態とせずに、冷却当初は温度降下速度をゆっくりとするために循環経路内の空気の循環を許容することも可能である。
冷却完了後にキャビティ2の前面扉8を開放して母型ホルダー41を取り出すようにする。
【0027】
このように構成することにより本実施の形態の誘電加熱装置は次のような効果を奏する。
(1)マイクロ波によって熱硬化性プラスチック材料M内部から最適な温度履歴で加熱できるとともに、これと同期して外部からも加熱するようにしているため、対流現象が生じにくく非常に高品質の製品を作ることができる。そして、外部加熱のための循環経路には第1〜第3の絞り弁30a〜30cを設けているおり、誘電加熱処理が完了すると作業者の制御下で冷却させていくことが可能であるため冷却に伴う製品への不具合が生ずることがない。
(2)作業者はモニター53によって第1及び第2のセンサ51,52が検出する温度情報に基づいて両センサ51,52の温度差が所定値内に収まるように第1〜第3の絞り弁30a〜30cを調整するようにしているため、最適な冷却履歴での冷却が可能となっている。
【0028】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・第1〜第3の絞り弁30a〜30cの形状や配置位置等は適宜変更可能である。また、回収ダクトに形成される吸気口26及び排気口29の位置は吸気口26の上流に排気口29があり、それらの中間位置に第3の絞り弁があれば適宜設計変更することは自由である。また、吸気口26及び排気口29を開閉する第1及び第2の絞り弁は近接した位置に配設される必要はない。
・循環経路を構成する第1及び第2のダクト24,25の形状は適宜変更可能である。
・上記実施の形態では第1〜第3の絞り弁30a〜30cを作業者が直接調整したが、例えばモータ駆動で弁30a〜30cを回動させロータリーエンコーダによってそれらの回転量を検出するような機械的な手段によって調整するようにすることも自由である。
・上記実施の形態ではコントローラ61によって一元的に制御したが、一部の機器について他の制御手段で制御するようにしても構わない。
・収容部としては上記実施の形態のキャビティ2のように密閉性のよいもの以外の他の比較的外気との流通がある収容部であっても構わない。
・上記では導波管型のマイクロ波発振器15を使用したが、その他のマイクロ波発生装置でもよい。例えば、超音波併用型のマイクロ波発生装置であればマイクロ波との相乗効果が期待される。
・その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【0029】
本発明について上記実施の形態から把握できる技術的思想について以下に付記として記載する。
(1)前記加熱雰囲気中の温度は前記温度センサの検出した温度以上に上がらないように制御すること。
(2)前記加熱雰囲気中の温度はマイクロ波による誘電加熱の安定期において前記温度センサの検出した温度と一定の温度差で同期させて制御すること。
(3)前記熱硬化性プラスチック材料の温度を検出するための第1の温度センサと収容部内の温度を検出するための第2の温度センサを設け、冷却時に両温度センサによって検出される温度の差が所定範囲に収まるように第1〜第3の絞り弁を調整すること。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に使用する誘電加熱装置の正面図。
【図2】キャビティの付近の概略縦断面図。
【図3】第2のダクトの加熱時における要部縦断面図。
【図4】本発明の実施の形態に使用する母型の分解斜視図。
【図5】同じ母型(製品用)の縦断面図。
【図6】同じ母型(ダミー用)の縦断面図並びにセンサ本体、光ファイバー及びセンサ保護管の側面図。
【図7】キャビティ内に母型ホルダーを配置した状態の斜視図。
【図8】母型ホルダーの縦断面図。
【図9】成形装置の電気的構成を説明するブロック図。
【図10】第2のダクトの加熱時における要部縦断面図。
【図11】第2のダクトの冷却時における要部縦断面図。
【符号の説明】
【0031】
2…収容部としてのキャビティ、15…マイクロ波供給手段としてのマイクロ波発振器、22…送風装置としての熱風発生器、24…供給ダクトとしての第1のダクト、25…回収ダクトとしての第2のダクト、26…吸気口、29…排気口、28…加熱手段としてのヒータ、30a〜30c…第1〜第3の絞り弁、M…熱硬化性プラスチック材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調合した熱硬化性プラスチック材料が注入された複数の母型を収容するための周囲が包囲された収容部と、
前記母型内の熱硬化性プラスチック材料を誘電加熱するためのマイクロ波を同収容部内部に供給するマイクロ波供給手段と、
ヒータの入り切りによって加熱された空気と加熱されていない空気のいずれかをファンによって強制的に送風する送風装置と、
前記送風装置と記収容部間に配設され、同送風装置によって循環させられる空気を同収容部に向かって送る供給ダクトと、
前記送風装置と前記収容部間に配設され、同収容部の空気を同送風装置に向かって戻す回収ダクトとを備え、
前記回収ダクトには吸気口と同吸気口の上流側に配置された排気口を形成するとともに同吸気口及び同排気口に対してそれぞれ第1及び第2の絞り弁を設ける一方、同吸気口及び同排気口の間には循環する空気の流速及び流量を調整するための第3の絞り弁を設けるようにしたことを特徴とする熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置。
【請求項2】
前記収容部内には収容部内の雰囲気中の温度を検出する温度センサが配設され、同温度センサが検出した同雰囲気中の温度情報に基づいて前記第1〜第3の絞り弁の絞り量を調整するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置。
【請求項3】
前記複数の母型のうち、少なくとも1つの母型内には熱硬化性プラスチック材料の温度を検出するための温度センサを配設し、同温度センサの検出した温度情報に基づいてマイクロ波の照射量を経時的に制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置。
【請求項4】
前記温度センサが検出した温度に同期させて前記収容部の加熱雰囲気中の温度を制御するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の熱硬化性プラスチック材料の誘電加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−181962(P2007−181962A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1053(P2006−1053)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(301074388)株式会社 サンルックス (12)
【Fターム(参考)】