説明

熱硬化性樹脂組成物、金属箔付き樹脂シート、及びフレキシブルプリント配線板

【課題】屈曲されても変色が生じにくいと共に、高い難燃性を発揮し、更に難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁層を形成し得る熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂、エポキシ基との反応性を有しない第一のホスファゼン化合物、エポキシ基との反応性を有する第二のホスファゼン化合物、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有し、且つ不溶性粒状フィラーを含有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、この熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される金属箔付き樹脂シート、及び前記熱硬化性樹脂組成物を用いて形成されるフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
小型・薄型の電子機器には多くのフレキシブルプリント配線板が使用されている。近年、電子機器への更なる高密度化・薄型の要求から、フレキシブルプリント配線板に多層化のニーズが高まると共に、その要求品質・コストが厳しいものとなっている。
【0003】
フレキシブルプリント配線板を多層化するためには、ポリイミドフィルム等からなる絶縁層(第一の絶縁層)と導体配線(第一の導体配線)とを備えるコア材に、更に絶縁層(第二の絶縁層)と導体配線(第二の導体配線)とを積層する必要がある。第二の絶縁層と第二の導体配線とを形成するための手法として、金属箔付き樹脂シートを使用する方法が挙げられる。
【0004】
例えば特許文献1には、樹脂付き金属箔及びフレキシブルプリント配線板を作製するためのエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有し、更にリン変性エポキシ樹脂、リン変性フェノキシ樹脂、リン系難燃剤のうちの少なくとも1種類が含有されている樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかし、フレキシブルプリント配線板に要求されている品質は益々厳しくなっており、フレキシブルプリント配線板の外観も重要視されるようになってきている。特に屈曲される機会の多い第二の絶縁層には、屈曲された部分に微細なクラックが生じることで部分的に白化などの変色が生じることがあり、このような変色が生じないことが要求されるようになってきている。
【0006】
更に、フレキシブルプリント配線板における絶縁層には、高い難燃性を発揮すると共に絶縁層から難燃剤がブリードアウトしにくいことも要求されている。
【0007】
このような各種の要求を高いレベルで達成しえるような絶縁層を形成することは困難であり、このためこのような絶縁層を形成するための樹脂組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2009/145224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、屈曲されても変色が生じにくく、且つ高い難燃性を発揮し、更に難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁層を形成し得る熱硬化性樹脂組成物、この熱硬化性樹脂組成物から形成されている樹脂層を備える金属箔付き樹脂シート、及びこの熱硬化性樹脂組成物から形成されている絶縁層を備えるフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂、エポキシ基との反応性を有しない第一のホスファゼン化合物、エポキシ基との反応性を有する第二のホスファゼン化合物、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有し、且つ不溶性粒状フィラーを含有しない。
【0011】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物において、第二のホスファゼン化合物が、フェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンを含有することが好ましい。
【0012】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、固形分比率で、前記リン含有エポキシ樹脂を25〜45質量%、前記第一のホスファゼン化合物を2〜12質量%、前記第二のホスファゼン化合物を5〜15質量%、前記カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを30〜60質量%の割合で含有することが好ましい。
【0013】
本発明に係る金属箔付き樹脂シートは、金属箔と、第一の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層が前記熱硬化性樹脂組成物から形成されている。
【0014】
本発明に係る金属箔付き樹脂シートは、前記金属箔と前記第一の樹脂層との間に介在する、前記第一の樹脂層とは異なる第二の樹脂層を更に備えてもよい。
【0015】
本発明に係るフレキシブルプリント配線板は、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物から形成されている絶縁層を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈曲されても変色が生じにくいと共に、高い難燃性を発揮し、更に難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁層を形成し得る熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0017】
更に、本発明によれば、フレキシブルプリント配線板に対して、屈曲されても変色が生じにくいと共に、高い難燃性を発揮し、更に難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁層するための金属箔付き樹脂シートが得られる。
【0018】
更に、本発明によれば、屈曲されても変色が生じにくいと共に、高い難燃性を発揮し、更に難燃剤のブリードアウトが抑制された絶縁層を備えるフレキシブルプリント配線板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)及び(b)は本発明の実施の形態に係る金属箔付き樹脂シートを示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線板を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線板の製造工程を示す概略の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線板製造用積層物を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の絶縁層を形成するために用いられ、特にフレキシブルプリント配線板の絶縁層を形成するための好適に用いられる。
【0021】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂、エポキシ基との反応性を有しない第一のホスファゼン化合物、エポキシ基との反応性を有する第二のホスファゼン化合物、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する。
【0022】
このように熱硬化性樹脂組成物がリン含有エポキシ樹脂、第一のホスファゼン化合物、及び第二のホスファゼン化合物を含有するため、熱硬化性樹脂組成物がハロゲン系の難燃剤や不溶性粒状フィラーからなる難燃剤を含有しなくても、絶縁層の難燃性が高くなる。更に、熱硬化性樹脂組成物中のリンを含有する化合物のうちリン含有エポキシ樹脂と第二のホスファゼン化合物は絶縁層内において樹脂骨格を構成するため、絶縁層が高い難燃性を有しながら、この絶縁層からのリンを含有する化合物のブリードアウトが抑制される。
【0023】
更に、熱硬化性樹脂組成物が第一のホスファゼン化合物及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有することで、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層の柔軟性が高くなり、このため絶縁層が屈曲されてもクラックが生じにくくなる。
【0024】
更に、熱硬化性樹脂組成物が不溶性粒状フィラーを含有しないため、絶縁層が屈曲された場合に不溶性粒状フィラー表面での剥離や不溶性粒状フィラーを起点とするようなクラックが発生しなくなる。
【0025】
このため、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を備えるプリント配線板は、優れた難燃性を有すると共に難燃剤のブリードアウトが抑制される。更に絶縁層が屈曲されてもこの絶縁層に剥離やクラックが発生しにくくなり、この絶縁層が変色しにくくなる。従って、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、屈曲される機会の多いフレキシブルプリント配線板における絶縁層を形成するために好適に用いられる。
【0026】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物の組成の詳細について更に説明する。
【0027】
リン含有エポキシ樹脂は、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイドと1,4−ナフトキノンとを反応させ、さらにクレゾールノボラック樹脂を反応させることで得られる。これ以外にも、有機リン化合物およびキノン化合物の反応生成物と、エポキシ樹脂とを反応させて得られるリン変性エポキシ樹脂が用いられ得る。
【0028】
有機リン化合物としては、吸湿後のガラス転移温度を高めることができ、溶解性が良好で、リン含有量も高い点から、下記式(I)に示される有機リン化合物が好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
上記式(I)において、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を示す。nは0〜4の整数を示す。上記式(I)に示される有機リン化合物の好ましい具体例としては、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシドが挙げられる。
【0031】
有機リン化合物として、ジフェニルホスフィンオキシド等を用いることもできる。
【0032】
有機リン化合物と反応させるキノン化合物の具体例としては、1,4−ベンゾキノン、1,2−ベンゾキノン、トルキノン、1,4−ナフトキノン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
リン変性エポキシ樹脂の原料となるエポキシ樹脂として、硬化物の耐熱性確保、特にガラス転移温度を高める点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂が用いられる。ノボラック型エポキシ樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂全量の20質量%以上(上限は100質量%)の割合で配合される。
【0034】
リン変性エポキシ樹脂の原料となるエポキシ樹脂がノボラック型エポキシ樹脂を含む混合物である場合、ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂の具体例としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を持つもの、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
リン変性エポキシ樹脂は、例えば、トルエン等の溶媒中において上記の有機リン化合物およびキノン化合物を反応させた後、その反応生成物とエポキシ樹脂とを混合し反応させることにより得ることができる。
【0036】
例えば、上記式(I)の有機リン化合物を用いる場合、有機リン化合物とキノン化合物との反応は、キノン化合物1モルに対して有機リン化合物を1〜2モルの範囲で配合し、予め有機リン化合物をジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性溶媒に溶解したものにキノン化合物を添加し加熱攪拌することにより行うことができる。
【0037】
キノン化合物としては、予め粉末状にしたものや溶媒に溶解したものを用いることができる。有機リン化合物とキノン化合物との反応は発熱を伴うものであるため、急激な発熱が起きないように所定量のキノン化合物を滴下法により添加することが望ましい。キノン化合物の添加後、例えば50〜150℃で1〜4時間の間反応を進行させる。
【0038】
その後、有機リン化合物とキノン化合物との反応生成物と、エポキシ樹脂とを反応させてリン変性エポキシ樹脂を合成する際には、例えば、当該反応生成物にエポキシ樹脂を添加し、必要に応じてトリフェニルホスフィン等の触媒を添加し、反応温度を100〜200℃に設定し、攪拌しながら反応を進行させる。
【0039】
このようにして得られるリン変性エポキシ樹脂は、難燃性を確保しつつ耐熱性の低下も抑制する点からは、合成条件を適宜に変更することにより、リン含有量を1.2〜4質量%に調整すると共に、エポキシ当量を200〜600g/eqに調整することが好ましい。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物中のリン含有エポキシ樹脂の含有割合は、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が高い難燃性と優れた柔軟性を発揮するように適宜設定される。特に熱硬化性樹脂組成物中のリン含有エポキシ樹脂の含有割合が、固形分比率で25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であれば更に好ましい、またこの含有割合は、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であれば更に好ましい。固形分比率とは、熱硬化性樹脂組成物中の固形分(硬化物となる成分、すなわち硬化時に揮発する成分を除く成分)を基準とした比率のことである。
【0041】
エポキシ基との反応性を有しない第一のホスファゼン化合物は、エポキシ基との反応性を有するフェノール性水酸基などの官能基を有さない。第一のホスファゼン化合物としては、例えば下記[化2]に示される化合物が挙げられる。
【0042】
【化2】

【0043】
[化2]において、nは3〜25の整数であることが好ましい。
【0044】
熱硬化性樹脂組成物中の第一のホスファゼン化合物の含有割合は、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が高い難燃性と優れた柔軟性を発揮し、且つこの絶縁層からの第一のホスファゼン化合物のブリードアウトが充分に抑制されるように適宜設定される。特に熱硬化性樹脂組成物中の第一のホスファゼン化合物の含有割合が、固形分比率で2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であれば更に好ましい。またこの含有割合は12質量%以下であることが好ましく10質量%以下であれば更に好ましい。
【0045】
エポキシ基との反応性を有する第二のホスファゼン化合物は、エポキシ基との反応性を有するフェノール性水酸基などの官能基を有する。
【0046】
フェノール性水酸基を有するホスファゼン化合物としては、フェノール性水酸基を有するフェノキシホスファゼンが挙げられる。フェノキシホスファゼンとしては、下記の[化3]に示される化合物が挙げられる。
【0047】
【化3】

【0048】
[化3]中のnは3〜25の整数であることが好ましい。
【0049】
[化3]において、一分子中の複数のRの構造はそれぞれ独立に決定される。一分子中の複数のRのうち少なくとも一つは、下記[化4]に示す基から選択される構造を有することが好ましい。
【0050】
【化4】

【0051】
は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0052】
特に、フェノキシホスファゼンは、上記[化3]に示す構造を有し、一分子中の複数のRは互いに独立にフェニル基又はヒドロキシフェニル基であり、且つ一分子中の少なくとも1個のRはヒドロキシルフェニル基である化合物であることが好ましい。
【0053】
更に、フェノキシホスファゼンとしては、特にフェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンが用いられることが好ましい。このフェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンの特に好ましい例として、[化3]に示される構造を有し、式中nが3〜25の整数であり、一分子中の複数のR1は互いに独立にフェニル基又はヒドロキシフェニル基であって一分子中にのヒドロキシルフェニル基の個数は1個又は2個である構造を有する化合物が挙げられる。
【0054】
フェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンが用いられると、熱硬化性樹脂組成物の加熱時の流動性が向上すると共に、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層の柔軟性が特に向上する。このフェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンとしては、特に[化3]に示される構造を有し、n=3であり、一分子中のヒドロキシフェニル基の数が1個の分子と2個の分子との混合物であることが好ましい。この混合物における一分子あたりのフェノール性水酸基の数の平均は1.3〜1.8個であることが好ましい。
【0055】
第二のホスファゼン化合物全体に対する、フェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンの割合は、1質量%以上であることが好ましく35質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は100質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることも好ましい。第二のホスファゼン化合物がフェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンのみであることも好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂組成物中の第二のホスファゼン化合物の含有割合は、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が高い難燃性と優れた柔軟性を発揮するように適宜設定される。特に熱硬化性樹脂組成物中の第二のホスファゼン化合物の含有割合が、固形分比率で5質量%以上であることが好ましい。また、この含有割合は15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であれば更に好ましい。
【0057】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応生成物である。可溶性ポリアミドが有するカルボキシル基やアミノ基等の反応性官能基と、これらと反応可能なカルボジイミド化合物のカルボジイミド基やイソシアネート基とが反応することにより、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドが生成する。
【0058】
可溶性ポリアミドとは、有機溶媒への溶解性を有するポリアミドである。可溶性ポリアミドは、アルコールと、芳香族系の有機溶媒及びケトン系有機溶媒のうちの少なくとも一方との混合物100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上が完全に溶解可能なポリアミドであることが好ましい。アルコールは、例えばメタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールから選ばれる少なくとも一種である。芳香族系の有機溶媒は、例えばベンゼン、トルエンから選ばれる少なくとも一種である。ケトン系の有機溶媒は、例えばシクロヘキサノン、2−ブタノン、シクロペンタノンから選ばれる少なくとも一種である。これらのアルコール、芳香族系溶媒及びケトン系溶媒の沸点は130℃以下であることが好ましい。
【0059】
可溶性ポリアミドは、例えば可溶性ポリアミド以外のポリアミド(可溶化前のポリアミド)に可溶化のための処理が施されることで得られる。この可溶化のための処理の方法としては、例えば、可溶化前のポリアミドのアミド基中の水素原子をメトキシメチル基で一部置換する方法が挙げられる。この方法によってポリアミドにメトキシ基が導入されるとアミド基から水素結合能力が失われることでポリアミドの結晶性が阻害され、これによりポリアミドの溶媒への溶解性が増大する。可溶化のための処理の方法として、可溶化される前のポリアミドの分子中にポリエーテルやポリエステルを導入して共重合体とする方法も挙げられる。可溶化前のポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等が挙げられる。
【0060】
可溶性ポリアミドの具体例としては、デュポン株式会社製のZytel 61(商品名)、ゼネラルミルズ社製のVersalon(商品名)、東レ株式会社製のアミランCM4000(商品名)、東レ株式会社製のアミランCM8000(商品名)、富士化成工業株式会社製のPA−100(商品名)、ナガセケムテックス株式会社製のトレジン(商品名)等が挙げられる。
【0061】
カルボジイミド化合物は、1分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物である。カルボジイミド化合物としてはモノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物は、例えば、触媒である有機リン系化合物又は有機金属化合物の存在下で、各種ポリイソシアネートが無溶媒又は不活性溶媒中で約70℃以上の温度で脱炭酸縮合反応することで合成される。
【0062】
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。これらの中では、工業的に入手が容易であるという観点からは、ジシクロヘキシルカルボジイミド、あるいはジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
【0063】
ポリカルボジイミド化合物は、種々の方法により製造される。例えばポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、J. Org. Chem. 28, 2069−2075 (1963)、Chemical Review 1981, Vol.81 No.4, p619−621を参照)により製造される。
【0064】
カルボジイミド化合物は、1分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するのであれば特に限定されないが、反応性や耐加水分解安定性の向上効果などの点から、4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド等の、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。特に脂肪族系又は脂環族系ポリカルボジイミド化合物が好ましい。ポリカルボジイミド化合物の重合度は2〜30の範囲であることが好ましく、2〜20の範囲であればより好ましい。この重合度が2以上であるとプリント配線板の耐熱性が更に向上する点で好ましく、重合度が20以下であると熱硬化性樹脂組成物中の成分間の相溶性が向上する点で好ましい。
【0065】
ポリカルボジイミド化合物の製造のために使用されるポリイソシアネートとしては、有機ジイソシアネートが挙げられる。有機ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物が挙げられる。具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、フレキシブルプリント配線板1の可撓性や耐湿性を向上する観点からは、脂肪族系(脂環族を含む)有機ジイソシアネートが好ましく、特にイロホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートやこれらの混合物がより好ましい。
【0066】
ポリカルボジイミド化合物の製造時には、ポリイソシアネートの重合反応時に反応系が冷却されるなどして重合反応が途中で停止されることでポリカルボジイミド化合物の重合度が適切に制御され得る。この場合、ポリカルボジイミド化合物の分子の末端はイソシアネート基となる。ポリカルボジイミド化合物の重合度が更に適切に制御されるためには、イソシアネート基と反応し得るモノイソシアネート化合物等の化合物(以下、末端封止剤という)がポリカルボジイミド化合物の分子の末端にあるイソシアネート基の全部又は一部と反応することで、ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基の全部又は一部が封止されてもよい。ポリカルボジイミド化合物の重合度が適切に制御されると、可溶性ポリアミドとポリカルボジイミド化合物との相溶性が向上すると共に第一の樹脂層7を備える部材の保存安定性が向上する。
【0067】
末端封止剤として使用され得るモノイソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0068】
モノイソシアネート化合物以外の末端封止剤が使用されてもよい。モノイソシアネート化合物以外の末端封止剤としては、イソシアネート基と反応し得る活性水素化合物が挙げられる。このような活性水素化合物としては、例えば、(i)脂肪族、芳香族又は脂環族の化合物であって、−OH基を有する、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の化合物;(ii)=NH基を有するジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の化合物;(iii)−NH基を有するブチルアミン、シクロヘキシルアミン;(iv)−COOH基を有するコハク酸、安息香酸、シクロヘキサン酸等の化合物;(v)−SH基を有するエチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等の化合物;(vi)エポキシ基を有する化合物;(vii)無水酢酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0069】
有機ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応は、適当なカルボジイミド化触媒の存在下で進行し得る。カルボジイミド化触媒としては、有機リン系化合物、有機金属化合物(一般式M−(OR)で表され、Mはチタン(Ti)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(ZR)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等の金属元素、Rは炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基、nはMの価数を示す。)が好適である。
【0070】
これらのカルボジイミド化触媒のうち、特に反応活性を向上する観点からは、有機リン系化合物のうちからフォスフォレンオキシド類が用いられること、並びに有機金属化合物のうちからチタン、ハフニウム、又はジルコニウムのアルコキシド類が用いられることが好ましい。フォスフォレンオキシド類の具体例としては、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、3−メチル−1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1,3−ジメチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−エチル−2−フォスフォレン−1−オキシド、1−メチル−2−フォスフォレン−1−オキシド又はこれらの二重結合異性体が挙げられる。これらのフォスフォレンオキシド類のうち、工業的に入手が容易である点では、3−メチル−1−フェニル−2−フォスフォレン−1−オキシドが用いられることが好ましい。
【0071】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドは、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが例えば溶媒の存在下又は不存在下で反応することで生成する。
【0072】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを溶媒の存在下で反応させる方法としては、例えば、可溶性ポリアミド及びカルボジイミド化合物を溶媒中に加え、これにより得られる溶液を加熱しながら攪拌することで反応を進行させる方法が挙げられる。特にまず可溶性ポリアミドを溶媒に加え、これにより得られる溶液に更にカルボジイミド化合物を添加し、続いてこの溶液をリフラックス(還流)下で加熱攪拌することで反応を進行させることが好ましい。この反応後の溶液から溶媒を常圧下又は減圧下で除去すると、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドが得られる。
【0073】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを溶媒の不存在下で反応させる方法としては、例えば、融点以上の温度に加熱されて溶融した可溶性ポリアミドにカルボジイミド化合物を混合することで反応を進行させる方法や、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物を二軸押出機により溶融混練すること混合しながら反応を進行させる方法などが挙げられる。
【0074】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが反応する際の、可溶性ポリアミド100質量部に対するカルボジイミド化合物の割合は0.5〜20質量部の範囲であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。この場合、フレキシブルプリント配線板の耐湿性及び耐熱性が十分に向上すると共に、フレキシブルプリント配線板の可塑性が高くなり過ぎたり耐衝撃性が損なわれたりしにくくなる。すなわち、カルボジイミド化合物の割合が0.5質量部以上であることでフレキシブルプリント配線板の耐湿性や耐熱性が十分に向上する。一方、この割合が20質量部以下であることでフレキシブルプリント配線板の可塑性が高くなり過ぎたり耐衝撃性が損なわれたりしにくくなる。
【0075】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応時には、反応系に可溶性ポリアミドの変性を阻害する化合物が存在しないことが好ましく、特に反応系にはカルボジイミド化合物、可溶性ポリアミド及び必要に応じて用いられる溶媒のみが存在することが好ましい。可溶性ポリアミドの変性を阻害する化合物の具体例としては、エポキシ樹脂、アミン系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0076】
可溶性ポリアミドをカルボジイミド化合物との反応時間は、可溶性ポリアミドやカルボジイミド化合物の種類、反応方法、反応温度等に応じて適宜設定されるが、1〜500分間の範囲であることが好ましく、5〜200分間の範囲であれば更に好ましい。
【0077】
可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応時の反応系の温度も、可溶性ポリアミドやカルボジイミド化合物の種類、反応方法、反応温度等に応じて適宜設定されるが、50〜250℃の範囲であることが好ましい。特に可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが溶媒の存在下で反応する場合には、反応系の温度は50〜150℃の範囲であることが好ましく、70〜130℃の範囲であればより好ましい。一方、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とが溶媒の不存在下で反応する場合、反応系の温度は130〜250℃の範囲であることが好ましく、150〜220℃であればより好ましい。この反応系の温度が50℃以上であると、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物との反応が充分に速くなって可溶性ポリアミドの変性が速やかに生じるため、工業的な面からは好ましい。更に、この反応系の温度が250℃以下であると、樹脂の分解などによる生成物の劣化が生じにくくなる点で好ましい。
【0078】
このように可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物が反応すると、可溶性ポリアミドが変性してカルボジイミド変性可溶性ポリアミドとなる。この反応が進行すると、それに伴ってカルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基が減少する。このため、原料と生成物をそれぞれ赤外分光法により測定すると、生成物について測定される赤外吸収スペクトル中ではカルボジイミド基に帰属されるピークが減少する。更に、原料と生成物の示差熱重量分析をおこなうと、原料ではアミド樹脂に起因する吸収ピークやカルボジイミド樹脂に起因する吸収ピークなどの複数の吸収ピークが観測されるが、生成物では吸熱ピークは1つに集約される。これらにより、可溶性ポリアミドが変性されたことが確認される。
【0079】
カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する組成物は、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを含む組成物と比較して、保存安定性に優れている。すなわち、可溶性ポリアミドとカルボジイミド化合物とを含む組成物は、溶液化すると増粘し、更にゲル化しやすくなるのに対し、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有する組成物は増粘などの変化が生じにくいため、長期間の保管が可能となる。
【0080】
熱硬化性樹脂組成物中のカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有割合は適宜設定されるが、固形分比率で30〜60質量%の範囲であることが好ましい。このカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの含有量が30質量%以上であるとフレキシブルプリント配線板の屈曲性が向上する。この含有量は更に35質量%以上であることが好ましい。また、この含有量が60質量%以下であるとフレキシブルプリント配線板の難燃性及び耐熱性が向上する。この含有量は更に45質量%以下であることが好ましい。
【0081】
熱硬化性樹脂組成物は、上記の通り不溶性粒状フィラーを含有しない。不溶性粒状フィラーとは、無機質粒子、並びに有機質粒子であって熱硬化性樹脂組成物中の成分と相溶しない粒子をいう。すなわち、熱硬化性樹脂組成物中で溶解せずに絶縁層内に残留する粒子をいう。一般に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機質粒子や、有機リン酸塩などの有機質粒子が難燃剤として用いられることがあるが、本実施形態ではこのような粒子は熱硬化性樹脂組成物に含有されない。このため、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が屈曲されても、絶縁層に不溶性粒状フィラーを起点とするクラックが生じなくなる。更に、本実施形態では、不溶性粒状フィラーを含有しなくとも、熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が優れた難燃性を発揮する。
【0082】
熱硬化性樹脂組成物は、リン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を更に含有してもよい。このエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、酸化型エポキシ樹脂等が含まれ得る。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂等が含まれ得る。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、芳香族アミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。酸化型エポキシ樹脂としては、脂環型エポキシ樹脂が挙げられる。ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール骨格とビフェニル骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂(ビフェニルノボラックエポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0083】
リン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂が使用される場合には、特にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂が用いられることが好ましい。この場合、フレキシブルプリント配線板の耐熱性、耐マイグレーション性、耐薬品性が向上する。ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、下記構造式(1)〜(3)で示される化合物のうちの少なくとも一種が用いられることが好ましく、この場合、フレキシブルプリント配線板の耐熱性、耐マイグレーション性、耐薬品性が更に向上する。
【0084】
【化5】

【0085】
熱硬化性樹脂組成物中の、リン含有エポキシ樹脂とそれ以外のエポキシ樹脂とを含めた全てのエポキシ樹脂は、ハロゲンを含有しないことが好ましい。
【0086】
熱硬化性樹脂組成物が更に硬化剤を含有することも好ましい。硬化剤としては、ポリアミン、変性ポリアミン、酸無水物、ヒドラジン誘導体、ポリフェノール等が含まれ得る。ポリアミンとしては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン等が挙げられる。このうち脂肪族ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。脂環式ポリアミンとしては、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。酸無水物としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、脂肪族二塩基酸ポリ無水物等が挙げられる。ポリフェノール系の硬化剤としては、フェノールノボラック、キシレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラック等が挙げられる。硬化剤はアミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等を含んでもよい。
【0087】
特に硬化剤は、下記構造式(4)で表されるアミノトリアジンノボラック樹脂とジシアンジアミドとのうち、少なくとも一種を含むことが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂組成物から形成されるBステージ状態の樹脂層が長期間に亘って安定してBステージ状態に保たれるようになる(保存安定性が向上する)と共に、フレキシブルプリント配線板の難燃性及び耐薬品性が向上する。
【0088】
【化6】

【0089】
熱硬化性樹脂組成物中の硬化剤の含有量は適宜設定されるが、特に熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂、硬化剤及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの合計量に対して、10〜45質量%の範囲であることが好ましい。
【0090】
熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じ、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の硬化促進剤を含有してもよい。
【0091】
熱硬化性樹脂組成物が更にフェノキシ樹脂を含有することも好ましい。この場合、フレキシブルプリント配線板の屈曲性が更に向上する。フェノキシ樹脂には、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA/ビスフェノールF型共重合型フェノキシ樹脂等が含まれ得る。熱硬化性樹脂組成物中のフェノキシ樹脂の含有量は固形分比率で5〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0092】
熱硬化性樹脂組成物は、上記の含有エポキシ樹脂、第一のホスファゼン化合物、及び反応性ホスファゼン化合物以外のリン化合物を、含まない方が耐熱性、絶縁信頼性の面から好ましい。
【0093】
熱硬化性樹脂組成物は、更に染料を含有してもよい。熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層が充分に高い柔軟性を有していても、この絶縁層が激しく屈曲されると、絶縁層に僅かなクラックが生じる可能性がある。このような僅かなクラックであっても、絶縁層が部分的に白化して絶縁層の外観が悪くなることがある。しかし、熱硬化性樹脂組成物が染料を含有すると、絶縁層の白化が目立たなくなり、絶縁層の外観が更に向上する。更に無機顔料が用いられると絶縁層に無機顔料の粒子を起点とするクラックが生じるおそれがあるが、染料はこのようなクラックの原因にはならないという利点もある。
【0094】
染料としては、特に制限されないが、C.I. Solvent Black 7、C.I. Solvent Black 3、C.I. Solvent Red、C.I.Solvent YelloW 14等が使用され得る。熱硬化性樹脂組成物中の染料の含有割合は、適宜設定されるが、例えば固形分比率で0.01〜1質量%の範囲であることが好ましい。
【0095】
熱硬化性樹脂組成物は、上記のような成分が配合されることで調製される。更に熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、粘度調整のために有機溶剤を含有してもよい。
【0096】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物が熱硬化することで、絶縁層が形成され得る。この絶縁層は上述のとおり柔軟性が高いため屈曲されてもクラックが生じにくく、難燃性が高く、更に難燃剤のブリードアウトが生じにくい。
【0097】
特に、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の引っ張り弾性率が1.5GPa以下であること、すなわち熱硬化性樹脂組成物から形成される絶縁層の引っ張り弾性率が1.5GPa以下であることが好ましい。この場合、絶縁層の柔軟性が特に高くなり、このため絶縁層が屈曲された場合のクラックの発生が更に抑制される。引っ張り弾性率の下限は特に制限されないが、実用上は0.1GPa以上であることが好ましい。この引っ張り弾性率は、30℃の温度下において、粘弾性スペクトロメータにより測定される。クラックの発生抑制のためには、この引っ張り弾性率は1.2GPa以下であれば更に好ましい。
【0098】
本実施形態に係る金属箔付き樹脂シート9は、図1(a)に示されるように、金属箔10と、半硬化状態(Bステージ状態)にある第一の樹脂層7とを備える。第一の樹脂層7は、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物から形成される。この金属箔付き樹脂シート9は、プリント配線板の多層化のために好適に用いられ、特にフレキシブルプリント配線板の多層化のために好適に用いられる。
【0099】
金属箔付き樹脂シート9は、銅箔等の金属箔10上に熱硬化性樹脂組成物が塗布され、更にこの熱硬化性樹脂組成物が加熱・乾燥されて半硬化することで作製され得る。この場合、金属箔10上に熱硬化性樹脂組成物の半硬化物からなる第一の樹脂層7が形成され、これにより金属箔10と、この金属箔10に直接積層している第一の樹脂層7とからなる金属箔付き樹脂シート9が得られる。この場合の熱硬化性樹脂組成物の加熱・乾燥時の加熱条件は適宜設定されるが、加熱温度は130℃〜160℃の範囲、加熱時間は2〜10分間の範囲であることが好ましい。
【0100】
金属箔付き樹脂シート9が、図1(b)に示されるように、金属箔10と第一の樹脂層7との間に介在する第二の樹脂層8を備えることも好ましい。この場合、第二の樹脂層8があることにより、金属箔付き樹脂シート9から形成されるフレキシブルプリント配線板の絶縁性信頼性が向上する。すなわち、金属箔付き樹脂シート9を用いてフレキシブルプリント配を作成する際に、第一の樹脂層7が流動しても、第二の樹脂層8が存在することで絶縁層の厚みが確保され、これにより絶縁信頼性が向上する。第二の樹脂層8は、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物とは異なる組成を有する樹脂又は樹脂組成物の硬化物又は半硬化物から形成される。
【0101】
第二の樹脂層8は、例えば塗工物、シート状物から選択される少なくとも一種から形成される。塗工物とは、金属箔10上で塗布成膜されることで第二の樹脂層8を形成する液状の樹脂又は樹脂組成物である。シート状物とはシート状に成形された樹脂又は樹脂組成物である。
【0102】
第二の樹脂層8は、例えば金属箔10上に液状のポリイミド樹脂などの液状樹脂が塗布され、この液状樹脂が硬化又は半硬化することで形成される。この場合、液状樹脂の硬化物又は半硬化物からなる第二の樹脂層8が形成される。第二の樹脂層8は、金属箔10上に液状のポリイミド樹脂などの液状樹脂が塗布され、更にこの液状樹脂にポリイミドフィルム等の樹脂フィルムが重ねられることで形成されてもよい。この場合、液状樹脂の硬化物又は半硬化物と樹脂フィルムとからなる第二の樹脂層8が形成される。金属箔10上に第二の樹脂層8が形成されてから、この第二の樹脂層8上に本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物が塗布され、更にこの熱硬化性樹脂組成物が加熱・乾燥されて半硬化することで、熱硬化性樹脂組成物の半硬化物からなる第一の樹脂層7が形成される。これにより、金属箔、第一の樹脂層7、及び第二の樹脂層8を備える金属箔付き樹脂シート9が得られる。
【0103】
本実施形態に係るフレキシブルプリント配線板は、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物の硬化物から形成される絶縁層を備える。
【0104】
図2に示されるように、本実施形態においては、フレキシブルプリント配線板1は、屈曲可能な第一の絶縁層2と、この第一の絶縁層2上に積層されている第一の導体配線3と、第一の絶縁層2に積層され第一の導体配線3を覆う第二の絶縁層4とを備える。この第二の絶縁層4が、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物の硬化物から形成される。更に本実施形態では、フレキシブルプリント配線板は、第二の絶縁層4上に積層されている第二の導体配線5を備える。
【0105】
本実施形態では、第一の絶縁層2の厚み方向の第一の面上に第一の導体配線3が積層され、第一の絶縁層2の厚み方向の第二の面上に第一の導体配線3が積層されている。更に、第一の絶縁層2の第一の面上に第一の導体配線3を覆うように第二の絶縁層4が積層されていると共に、第一の絶縁層2の第二の面上に第一の導体配線3を覆うように第二の絶縁層4が積層されている。更に、各第二の絶縁層4上に第二の導体配線5が積層されている。
【0106】
第一の絶縁層2は屈曲性を有する。この第一の絶縁層2はポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等の種々の可撓性の高い絶縁性材料から形成される。第一の絶縁層2の厚みは適宜設定されるが、5μm以上であることが好ましい。また厚みは50μm以下であることが好ましく25μm以下であれば更に好ましい。
【0107】
第一の導体配線3は銅などの金属から形成され得る。第一の導体配線3の厚みは適宜設定されるが、9〜70μmの範囲であることが好ましく、9〜35μmの範囲であれば更に好ましく、9〜12μmの範囲であれば特に好ましい。
【0108】
フレキシブルプリント配線板1における第一の絶縁層2及び第一の導体配線3は、例えばフレキシブル積層板から形成される。フレキシブル積層板は、第一の絶縁層と、第一の絶縁層に積層されている金属箔とを備える。フレキシブルプリント配線板1における第一の絶縁層2とフレキシブル積層板における第一の絶縁層とは、同じものである。フレキシブル積層板は、例えば第一の絶縁層のみからなる部材に銅箔などの金属箔が接着或いは熱融着されることで形成される。本実施形態では、第一の絶縁層の厚み方向の第一面上に金属箔が積層され、更に第一の絶縁層の厚み方向の第二面上に金属箔が積層している。
【0109】
このフレキシブル積層板の各金属箔にエッチング処理等の処理が施されることで、第一の導体配線3が形成される。更に第一の絶縁層2に開口が形成されると共にこの開口内にホールめっきが施されることでスルーホール6が形成されてもよい。これにより、第一の絶縁層2と第一の導体配線3とを備えるコア材11(図3参照)が得られる。本実施形態におけるコア材11では、第一の絶縁層2の厚み方向の第一面上に第一の導体配線3が形成され、更に第一の絶縁層2の厚み方向の第二面上に第一の導体配線3が形成されている。
【0110】
フレキシブルプリント配線板における第二の絶縁層4及び第二の導体配線5は、本実施形態における金属箔付き樹脂シート9から形成される。コア材11と金属箔付き樹脂シート9からフレキシブルプリント配線板1が作製される場合、例えば図3に示されるように、金属箔付き樹脂シート9がコア材11に、第一の樹脂層7によって第一の導体配線3が覆われるように重ねられる。本実施形態では、コア材11の厚み方向の第一の面上に金属箔付き樹脂シート9が重ねられると共に、コア材11の厚み方向の第二の面に金属箔付き樹脂シート9が重ねられる。この状態で、熱盤12により、金属箔付き樹脂シート9とコア材11とがこれらの積層する方向に加圧されると共に加熱される。この際、金属箔付き樹脂シート9と熱盤12との間に必要に応じて成形用の硬質なプレート、軟質な或いは弾性を有する部材(クッション材、例えば三井化学社製のTPXフィルム(商品名オピュラン)などの部材13が介在してもよい。これにより、まず各金属箔付き樹脂シート9の第一の樹脂層7が軟化して第一の導体配線3のライン間に充填され、更に第一の絶縁層2にスルーホール6が形成されている場合にはスルーホール6内にも充填される。続いて各第一の樹脂層7が熱硬化する。これにより、各第一の樹脂層7の硬化物が第二の絶縁層4となる。金属箔付き樹脂シート9が第一の樹脂層7と第二の樹脂層8とを備える場合には、第一の樹脂層7の硬化物と、第二の樹脂層8又はその硬化物とが一体となって、第二の絶縁層4となる。
【0111】
特に熱硬化性樹脂組成物がフェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンを含有する場合、第一の樹脂層7が本実施形態に係る熱硬化性樹脂で形成されていると、第一の樹脂層7が加熱されて軟化した際にこの第一の樹脂層7の流動性が非常に高くなる。このため、上記工程において軟化した第一の樹脂層7が第一の導体配線3のライン間に充填される際には、ライン間への第一の樹脂層7の充填性、すなわちライン間への第二の絶縁層4の充填性が、非常に高くなる。
【0112】
コア材11と金属箔付き樹脂シート9が上記手法により積層一体化すると、図4に示されるような、第一の絶縁層2上に第一の導体配線3、第二の絶縁層4、金属箔10が順次積層している構造を有する、フレキシブルプリント配線板製造用積層物14が得られる。本実施形態におけるフレキシブルプリント配線板製造用積層物14は、第一の絶縁層2の厚み方向の第一の面上に第一の導体配線3、第二の絶縁層4、金属箔10が順次積層し、第一の絶縁層2の厚み方向の第二の面上に第一の導体配線3、第二の絶縁層4、金属箔10が順次積層している構造を有する。
【0113】
フレキシブルプリント配線板製造用積層物14における最外層の各金属箔10にエッチング処理などの配線形成のための公知の処理が施されることで、第二の導体配線5が形成される。第二の導体配線5を形成する方法としては、例えば金属箔10上に第二の導体配線5のパターンに応じたエッチングレジストを形成し、続いてエッチング処理により金属箔10におけるエッチングレジストで被覆されていない部分を除去し、続いてエッチングレジストを除去する方法が挙げられる。
【0114】
本実施形態において、第二の絶縁層4の厚みは、特に制限されないが、5〜50μmの範囲であることが好ましい。この場合、第二の絶縁層4が充分に高い絶縁性能を発揮すると共に、第二の絶縁層4が充分に屈曲されやすくなり、更にこの第二の絶縁層4が屈曲された場合のクラックの発生が充分に抑制される。この第二の絶縁層4の厚みは更に5〜40μmの範囲であることが好ましく、特に5〜30μmの範囲であることが好ましい。本実施形態において、第二の導体配線5の厚みは、特に制限されないが、9〜70μmの範囲であることが好ましく、9〜35μmであれば更に好ましく、9〜12μmであれば特に好ましい。
【0115】
本実施形態において、第二の絶縁層4及び第二の導体層5に重ねて、更に別の絶縁層及び導体配線が積層されることで、フレキシブルプリント配線板1が更に多層化されてもよい。フレキシブルプリント配線板1の更なる多層化にあたっては、本実施形態に係る金属箔付き樹脂シート9が用いられることが好ましい。
【0116】
本態様ではフレキシブルプリント配線板1は第二の導体配線5を備えているが、フレキシブルプリント配線板1は、第二の絶縁層4を備えていれば、第二の導体配線5を備えていなくてもよい。
【0117】
更に、本実施形態では第二の絶縁層4は金属箔付き樹脂シート9における第一の樹脂層7から形成されているが、第二の絶縁層4の形成方法はこれに限られない。例えば、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物から形成される半硬化状態の樹脂シートを第一の絶縁層2及び第一の導体配線3に重ねて加熱・加圧する方法により、樹脂シートの硬化物からなる第二の絶縁層4が形成されてもよい。
【実施例】
【0118】
[カルボジイミド化合物の合成]
4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート590g、シクロヘキシルイソシアネート62.6g、及びカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)6.12gを混合することで,混合物を得た。この混合物を180℃で48時間加熱することにより反応させた。これにより、カルボジイミド化合物である4,4'−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド樹脂(重合度=10)を得た。
【0119】
[カルボジイミド変性可溶性ポリアミドの合成]
1リットルのセパラブルフラスコにエステル共重合アミド樹脂(商品名CM8000、東レ株式会社製)50.0gとイソプロピルアルコールとトルエンとの混合溶媒(質量混合比4:6)450.0gとを加えて撹拌することにより溶解させた。こうして得られた溶液に上記カルボジイミド化合物(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド樹脂)5.0gを加え、フラスコを120℃のオイルバスに浸漬させてリフラックス下で3時間加熱撹拌した後に、減圧乾燥して溶媒を除去することにより、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを得た。
【0120】
このカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの赤外分光光度測定を行ったところ、2120cm−1にカルボジイミド基の存在を示す吸収ピークが認められた。さらにカルボジイミド変性可溶性ポリアミドの示差走査熱量測定を行ったところ、1つの吸熱ピークが観測された。更に、カルボジイミド変性可溶性ポリアミドのガラス転移温度(Tg)は120℃、5%重量減温度は320℃、溶液の粘度は860mPa・sであった。
【0121】
[熱硬化性樹脂組成物の調製]
表1に示される配合組成に従って原料を配合することで、実施例及び比較例の熱硬化性樹脂組成物(固形分量30質量%)を調製した。なお、表1に示される配合組成は全て固形分比である。
【0122】
下記表1に示す各成分は以下の通りである。
・(a)ナフタレン骨格エポキシ:ハロゲンを含有せず、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、品番NC−7000L)。
・(b)リン含有エポキシ:リン変性エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製、品番FX−305EK70)。固形分濃度70質量%のメチルエチルケトン溶液を使用。
・(c)カルボジイミド変性可溶性ポリアミド:上記[カルボジイミド化合物の合成]により合成したカルボジイミド変性可溶性ポリアミド。固形分濃度11質量%の混合溶媒溶液を使用。混合溶媒はイソプロピルアルコールとトルエンを質量混合比4:6で混合して得られた溶媒である。
・(d)フェノキシ:フェノキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製、品番YP−40ASM40)。樹脂固形分濃度40質量%の溶液。
・(e)添加型ホスファゼン:ホスファゼン(大塚化学株式会社製、品番SPB−100)。
・(f)難燃性フィラー:有機リン酸塩(クラリアントジャパン社製、品番OP935)。
・(g)反応型ホスファゼン:[化3]に示される構造を有し、一分子中に3個のヒドロキシフェニル基を含むホスファゼン化合物(大塚化学株式会社製、品番SPH−100)。
・(h)反応型ホスファゼン:[化3]に示される構造を有し、式中nが3であり、一分子中に1個のヒドロキシフェニル基を含む化合物と一分子中に2個のヒドロキシフェニル基を含む化合物との混合物。
・(i)硬化剤:ジシアンジアミド。
・(j)硬化促進剤:2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、品番2E4MZ)。
・(k)染料:中央合成化学株式会社製、品番OIL BLACK SF。
【0123】
[評価試験]
コンマコーター及びこれに接続された乾燥機を用いて、厚み12μmの銅箔の片面に各実施例及び比較例における熱可塑性樹脂組成物を塗工し、これを加熱することで乾燥した。これにより、厚み40μmの半硬化状態の樹脂層を有する金属箔付き樹脂シートを得た。これらの金属箔付き樹脂シートに対して、次のような評価試験をおこなった。
【0124】
(引張り弾性率)
二つの金属箔付き樹脂シートを、樹脂層同士が接触するように重ねた。この二つの金属箔付き樹脂シートを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、積層物を得た。この積層物の最外層にある銅箔をエッチングにより全て除去することで、評価用のサンプルを得た。
【0125】
このサンプルの30℃での引張り弾性率を、粘弾性スペクトロメータ(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、品番DMS6100)を用いて測定した。
【0126】
(折り曲げ耐変色性)
二つの金属箔付き樹脂シートを樹脂層同士が対向するように配置すると共に、この二つの金属箔付き樹脂シートの間に厚み25μmのポリイミドフィルムを配置し、この状態で二つの金属箔付き樹脂シートとポリイミドフィルムとを重ねた。この状態で金属箔付き樹脂シートとポイミドフィルムを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、積層物を得た。この積層物の最外層にある銅箔をエッチングにより全て除去することで、評価用のサンプルを得た。
【0127】
このサンプルを180°折り曲げた後、サンプルにおける山折り部分の変色の様子を目視により観察し、次の基準により評価した。
◎ 変色がほとんど認められない。
○ 僅かに変色が認められる。
△ 部分的に変色が認められる。
× 山折り部分に全体的に変色が認められる。
【0128】
(難燃性)
金属箔付き樹脂シートとの樹脂面に厚み18μmの銅箔を重ねた。この金属箔付き樹脂シートと銅箔を、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、積層物を得た。この積層物の最外層にある銅箔をエッチングにより全て除去することで、評価用のサンプルを得た。
【0129】
このサンプルの難燃性をUL94に準じて測定し、94VTMの難燃性の判定基準により、VTM−0を満たすものを「合格」、VTM−0を満たさないものを「不合格」と評価した。
【0130】
(回路充填性)
厚み35μm、線幅100μm、線間100μmの櫛形パターン状の導体配線を備えるフレキシブルプリント配線板を用意し、このフレキシブルプリント配線板の導体配線が形成されている面に、金属箔付き樹脂シートの樹脂層を重ねた。この状態で、フレキシブルプリント配線板と金属箔付き樹脂シートとを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、サンプルを作製した。このサンプルにおける樹脂層の硬化物の厚みは導体表面から絶縁層の表面まで20μmであった。
【0131】
このサンプルの外観を目視にて観察し、導体配線の線間が樹脂層の硬化物で全て満たされている場合を合格、線間に樹脂層の硬化物で満たされていない部分が認められる場合を不合格と評価した。
【0132】
(銅箔引き剥がし強度)
二つの金属箔付き樹脂シートを樹脂層同士が対向するように配置すると共に、この二つの金属箔付き樹脂シートの間に厚み25μmのポリイミドフィルムを配置し、この状態で二つの金属箔付き樹脂シートとポリイミドフィルムとを重ねた。この状態で金属箔付き樹脂シートとポイミドフィルムを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、評価用のサンプルを得た。
【0133】
このサンプルから銅箔を90°方向に引き剥がす際の引き剥がし強度を測定し、引き剥がし強度が0.6kN/m以上の場合を合格、それ以外を不合格と評価した。
【0134】
(半田耐熱性)
二つの金属箔付き樹脂シートを樹脂層同士が対向するように配置すると共に、この二つの金属箔付き樹脂シートの間に厚み25μmのポリイミドフィルムを配置し、この状態で二つの金属箔付き樹脂シートとポリイミドフィルムとを重ねた。この状態で金属箔付き樹脂シートとポイミドフィルムを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形することで、評価用のサンプルを得た。このサンプルにおける樹脂層の硬化物の総厚みは105μmであった。
【0135】
このサンプルを、288℃の半田浴に60秒間浸漬し、続いて半田浴から引き出した。この処理後のサンプルの外観を目視で観察し、膨れやはがれ等の外観異常が認められない場合を合格、外観異常が認められる場合を不合格と評価した。
【0136】
(屈曲性)
厚み25μmのポリイミドフィルムと、このポリイミドフィルムの片面上に厚み18μmの銅箔とを備えるフレキシブル基板における前記銅箔をパターニングすることで、ポリイミドフィルムと導体配線とを備えるフレキシブルプリント配線板を得た。このフレキシブル配線板の両面に金属箔付き樹脂シートを配置した。この状態で金属箔付き樹脂シートとフレキシブル配線板を、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形し、両面の銅箔をエッチングすることにより、サンプルを得た。このサンプルの屈曲性を測定した。
【0137】
屈曲性は、MIT法によって試験を行い、測定条件をR=0.38mm、荷重500g、毎分175回の割合で折り曲げるように設定し、導体配線の端部間で導通が取れなくなるまでの折り曲げ回数により評価した。
【0138】
(耐マイグレーション性)
厚み25μmのポリイミドフィルムと、このポリイミドフィルム上の厚み12μm、線幅100μm、線間100μmの櫛形パターン状の導体配線とを備えるフレキシブルプリント配線板を用意した。このフレキシブルプリント配線板の導体配線が形成されている面に、金属箔付き樹脂シートの樹脂層を重ねた。この状態でフレキシブルプリント配線板と金属は箔付き樹脂シートを180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形し、最外層の銅箔をエッチングにより除去し、評価用のサンプルを得た。このサンプルにおける樹脂層の硬化物の外面と導体配線の表面との間の厚みは34μmであった。
【0139】
85℃/85%RHの環境下で、サンプルの導体配線の両端間に10Vの電圧を250時間印加した。続いて、このサンプルを目視で観察することでマイグレーション度合いを確認した。マイグレーションの発生が認められない場合を合格、マイグレーションの発生が認められた場合を不合格と、評価した。
【0140】
(ブリードアウト評価)
二つの金属箔付き樹脂シートを樹脂層同士が対向するように配置すると共に、この二つの金属箔付き樹脂シートの間に厚み25μmのポリイミドフィルムを配置し、この状態で二つの金属箔付き樹脂シートとポリイミドフィルムとを重ねた。この状態で金属箔付き樹脂シートとポイミドフィルムを、180℃、1MPaの条件で1時間加熱加圧成形し、両面の銅箔をエッチングすることにより、評価用のサンプルを得た。このサンプルを85℃/85%RHの環境下に250hr放置し、続いてこのサンプルを目視で観察することで、ブリードアウトの有無を判定した。その結果、サンプルの表面に異物が認められた場合を不合格、表面に異物が認められない場合を合格と評価した。
【0141】
【表1】

【符号の説明】
【0142】
1 フレキシブルプリント配線板
7 第一の樹脂層
8 第二の樹脂層
9 金属箔付き樹脂シート
10 金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有エポキシ樹脂、エポキシ基との反応性を有しない第一のホスファゼン化合物、エポキシ基との反応性を有する第二のホスファゼン化合物、及びカルボジイミド変性可溶性ポリアミドを含有し、且つ不溶性粒状フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第二のホスファゼン化合物が、フェノール性水酸基を一分子中に1〜2個有するフェノキシホスファゼンを含有する請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
固形分量比率で、前記リン含有エポキシ樹脂を25〜45質量%、前記第一のホスファゼン化合物を2〜12質量%、前記第二のホスファゼン化合物を5〜15質量%、前記カルボジイミド変性可溶性ポリアミドを30〜60質量%の割合で含有する請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
金属箔と、第一の樹脂層とを備え、前記第一の樹脂層が請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成されている半硬化状態の層である金属箔付き樹脂シート。
【請求項5】
前記金属箔と前記第一の樹脂層との間に介在する、前記第一の樹脂層とは異なる第二の樹脂層を更に備える請求項4に記載の金属箔付き樹脂シート。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物から形成されている絶縁層を備えるフレキシブルプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188633(P2012−188633A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55774(P2011−55774)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】