説明

熱線反射ガラス板、及び熱線反射ガラス板の曲げ成形方法

【課題】電磁波の透過特性を維持しつつ、曲げ成形時に歪みを抑制することのできる熱線反射ガラス板、及び熱線反射ガラス板の曲げ成形方法を提供すること。
【解決手段】熱線反射膜112と、該熱線反射膜112に少なくとも一辺114で隣接し、熱線反射膜のメッシュパターン130によりなり、複数の開口線を有する周波数選択表面111とをガラス板の少なくとも片面に設けた熱線反射ガラス板110において、メッシュパターン130の開口線に囲まれた熱線反射膜からなる網目は、一辺114のガラス板の中央に近い側から、ガラス板の周辺に向けて、漸次小さくなる、又は段階的に小さくなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線反射膜と、周波数選択表面とを有する熱線反射ガラス板、及び熱線反射ガラス板の曲げ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用や車両用の窓ガラスとして、熱線反射膜付きのガラス板が用いられることがある。熱線反射膜は、金属や金属酸化物等の薄膜で構成され、赤外線を反射すると共に、赤外線よりも波長の短い可視光線を透過する。これにより、室内からの室外の視認性を確保しつつ、太陽光の熱が室内へ流入するのを抑制することができる。
【0003】
しかし、熱線反射膜は、赤外線の他、赤外線よりも波長の長い電磁波も反射する傾向を有し、特に電気導電度が高い金属及び金属酸化物系の熱線反射膜では電磁波反射率が非常に高いため、FM放送、AM放送、UHF放送、VHF放送、携帯電話、GPS(1575MHz)、自動車用のキーレスエントリー(250〜400MHz)等といった放送、通信、機器制御等で使用される電磁波を反射する。
【0004】
これに対し、従来から、熱線反射膜のメッシュパターンからなり、熱線反射膜を線状に除去した複数の開口線を有する周波数選択表面(FSS:Frequency Selective Surface)が知られている(例えば、特許文献1参照)。周波数選択表面は、メッシュパターンに応じた周波数帯の電磁波を選択的に透過する。これにより、FM放送等の室外からの電磁波を室内のアンテナにて受信することが可能になる。また、周波数選択表面のメッシュパターンの大きさが小さいほど電波透過性は良好なことが知られている。
【0005】
ところで、一般的に、周波数選択表面を有する湾曲ガラス板を製造する場合、周波数選択表面を有する平板ガラスを加熱処理によって軟化し、製品形状に曲げ成形する。曲げ成形する際、平板ガラスの周縁部を支持して平板ガラスを自重曲げさせたり、平板ガラスをプレス曲げしたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−506904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、図11に示すように、熱線反射膜12と周波数選択表面11とが少なくとも一辺14で隣接して設けられる。周波数選択表面11は、熱線反射膜のメッシュパターン30からなり、熱線反射膜を線状に除去した複数の開口線32を有するので、熱線反射膜12に比べて、熱線反射率が低い。このため、巨視的に見ると、周波数選択表面11と熱線反射膜12との境界である一辺14付近で熱線反射率が急激に変化する。また、微視的に見ると、一辺14に沿う開口線が存在するので、一辺14付近での熱線反射率の急激な変化が助長されている。
【0008】
このような場合、加熱処理時に、一辺14付近での温度勾配が急激になる。その結果、加熱処理による曲げ成形時に、一辺14に沿って歪みが生じることがあった。この歪みは、ガラス板の中央に近い部分である、一辺14の中央部で顕著であった。
【0009】
この課題を解決するため、メッシュパターン30の開口線32に囲まれた熱線反射膜からなる網目31を全体的に大きくし、周波数選択表面11における熱線反射率を高めることが考えられるが、この場合、電磁波の透過特性に悪影響を与える。
【0010】
また、この課題を解決するため、熱線反射膜付きの平板ガラスを熱処理によって軟化し、製品形状に曲げ成形した後、湾曲した熱線反射膜の一部を線状に除去してメッシュパターンに加工して周波数選択表面を形成することが考えられる。しかしながら、この場合、平坦な熱線反射膜を加工する場合に比べて、加工が難しいので、メッシュパターンの寸法精度が悪くなる。このため、電磁波の透過特性に悪影響を与えることがある。また、曲面を加工するため、加工装置が複雑になる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、電磁波の透過特性を維持しつつ、曲げ成形時に歪みを抑制することのできる熱線反射ガラス板、及び熱線反射ガラス板の曲げ成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を解決するため、本発明の熱線反射ガラス板は、
熱線反射膜と、該熱線反射膜に少なくとも一辺で隣接し、熱線反射膜のメッシュパターンによりなり、複数の開口線を有する周波数選択表面とをガラス板の少なくとも片面に設けた熱線反射ガラス板において、
前記メッシュパターンの前記開口線に囲まれた熱線反射膜からなる網目は、前記一辺の前記ガラス板の中央に近い側から、前記ガラス板の周辺に向けて、漸次小さくなる、又は段階的に小さくなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の熱線反射ガラス板の曲げ成形方法は、
上記記載の熱線反射ガラス板を、加熱処理によって軟化し、曲げ成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁波の透過特性を維持しつつ、曲げ成形時に歪みを抑制することのできる熱線反射ガラス板、及び熱線反射ガラス板の曲げ成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【図6】本発明の一実施形態における熱線反射ガラス板の曲げ成形方法のフロー図である。
【図7】本発明の一実施形態における合わせガラスの曲げ成形の説明図(1)である。
【図8】本発明の一実施形態における合わせガラスの曲げ成形の説明図(2)である。
【図9】本発明の一実施形態における合わせガラスの曲げ成形の説明図(3)である。
【図10】実施例1〜2、比較例1における電磁波の透過特性図である。
【図11】従来のメッシュパターンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。尚、各図において、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【0018】
図1は、矩形状の平板ガラスの片面の全域に熱線反射膜を成膜し、この熱線反射膜の一部に帯状の周波数選択表面111を設けた熱線反射ガラス板である。この熱線反射ガラス板は、周波数選択表面111と熱線反射膜112とが、長辺(一辺)114を境界として隣接している。長辺(一辺)114は直線状になっている。長辺114の中央部が、長辺114における平板ガラスの中央に近い部分になっている。
【0019】
周波数選択表面111は、所定周波数帯の電磁波を選択的に透過する。周波数選択表面111は、熱線反射膜のメッシュパターン130からなり、熱線反射膜を線状に除去した複数の開口線132を有する。言い換えると、周波数選択表面111は、開口線132に囲まれた複数の熱線反射膜のパッチが網目状に配列されたものである。各パッチは、矩形状であることがレーザ加工装置やカッター等の熱線反射膜の除去方法に対しては加工時間が短時間であるので望ましい。しかし、矩形状に限らず平行四辺形、台形、円形などであってもよい。
【0020】
メッシュパターン130の網目131は、熱線反射膜のパッチからなる。網目131の各辺の長さは、周波数選択表面111が選択的に透過すべき電磁波(以下、「所望の電磁波」という)の波長の1/20以下に設定され、例えば、0.2〜20mmに設定される。
【0021】
複数の開口線132は、長辺114に対して垂直な複数の垂直線133と、長辺114に対して平行な複数の平行線134とにより構成されている。垂直線133や平行線134の線幅は、所望の電磁波の波長等に応じて設定され、例えば、10〜1000μmに設定される。
【0022】
平行線134の間隔Y1は、長辺114付近から周波数選択表面111の内方に向けて漸次小さくなるように設定されている。一方、垂直線133の間隔X1は、等間隔に設定されている。
【0023】
ここで、平行線134の間隔Y1とは、所定の線幅(例えば、500μm)を有する平行線134の中心線の間隔をいい、垂直線133の間隔X1とは、所定の線幅(例えば、500μm)を有する垂直線133の中心線の間隔をいう。
【0024】
このようにして、メッシュパターン130の網目131が長辺114から周波数選択表面111の内方に向けて漸次小さくなっているので、巨視的に見ると、熱線反射率が長辺114付近から周波数選択表面111の内方に向けて漸次小さくなっている。よって、長辺114付近での熱線反射率の変化を緩やかにすることができる。
【0025】
ところで、図11に示すように、メッシュパターン30の網目31の大きさが一定である場合、巨視的に見ると、周波数選択表面11と熱線反射膜12との境界である一辺14付近から周波数選択表面11の内方に向けて熱線反射率は変化しない。従って、巨視的に見ると、一辺14付近で熱線反射率が急激に変化する。
【0026】
このような場合、一辺14付近での熱線反射率の急激な変化に起因して、加熱処理時に、一辺14付近での温度勾配が急激になる。その結果、加熱処理による曲げ成形時に、一辺14に沿って歪みが生じやすい。
【0027】
本実施形態では、メッシュパターン130の網目131が長辺114付近から周波数選択表面111の内方に向けて漸次小さくなるので、メッシュパターン130の網目131の大きさの平均値を維持することができる。網目131の大きさの平均値を維持することができれば、網目131の各辺の長さに比べて所望の電磁波の波長は十分に長いので、電磁波の透過特性を維持することができる。
【0028】
また、本実施形態では、長辺114付近での熱線反射率の変化を緩やかにすることができるため、加熱処理時に、長辺114付近での温度勾配を緩やかにすることができる。これにより、加熱処理による曲げ成形時に、長辺114に沿って歪みが生じるのを抑制することができる。
【0029】
このメッシュパターン130が設けられた熱線反射ガラス板は、後述する方法により、加熱処理によって軟化され、製品形状に曲げ成形される。製品形状に曲げ成形された熱線反射ガラス板は、メッシュパターンの平行線が地面に対し水平になるように、且つ、メッシュパターンの垂直線が地面に対し垂直又は傾斜するように車両や建物等の対象物に設置されて良い。これにより、垂直偏波、水平偏波、円偏波や楕円偏波等の偏波の透過性を高めることができる。
【0030】
尚、本実施形態では、メッシュパターン130の網目131が、長辺114から周波数選択表面の内方に向けて漸次小さくなるとしたが、本発明はこれに限定されない。要は、メッシュパターン130の網目131が、歪みが発生しやすい部分、即ち長辺114におけるガラス板の中央に近い部分付近から、ガラス板の周辺に向けて漸次小さくなっていれば良い。
【0031】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【0032】
図2は、図1とメッシュパターン230以外は同じで、周波数選択表面211と熱線反射膜212とが長辺(一辺)214を境界として隣接している熱線反射ガラス板である。
【0033】
メッシュパターン230の複数の開口線232は、長辺214に対して垂直な複数の垂直線233と、長辺214に対して平行な複数の平行線234とにより構成されている。
【0034】
平行線234の間隔Y2は、長辺214から周波数選択表面211の内方に向けて段階的に小さくなるよう設定されている。一方、垂直線233の間隔X2は、等間隔に設定されている。
【0035】
このようにして、メッシュパターン230の網目231が長辺214から周波数選択表面211の内方に向けて段階的に小さくなっているので、メッシュパターン230の網目231の大きさの平均値を維持することができる。よって、電磁波の透過特性を維持することができる。
【0036】
また、メッシュパターン230の網目231が長辺214から周波数選択表面211の内方に向けて段階的に小さくなっているので、巨視的に見ると、長辺214付近での熱線反射率の変化を緩やかにすることができる。これにより、加熱処理時に、長辺214付近での温度勾配を緩やかにすることができる。その結果、加熱処理による曲げ成形時に、長辺214に沿って歪みが生じるのを抑制することができる。
【0037】
加えて、本実施形態では、上記第1の実施形態に比べて、開口線232のピッチ間隔が同じものが多いので、メッシュパターン230の加工の設定が容易である。
【0038】
一方、上記第1の実施形態では、メッシュパターンの網目が漸次小さくなるので、本実施形態に比べて、境界付近での温度勾配をより緩やかにすることができ、加熱処理による曲げ成形時に、境界に沿って歪みが生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0039】
このメッシュパターン230が設けられた熱線反射ガラス板は、第1の実施形態と同様に、加熱処理によって軟化され、製品形状に曲げ成形された後、車両や建物等の対象物に設置されて良い。
【0040】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【0041】
図3は、矩形状のガラス板の片面の全域に熱線反射膜を成膜し、この熱線反射膜の一部に矩形状の周波数選択表面311を設けた熱線反射ガラス板である。この熱線反射ガラス板は、周波数選択表面311と熱線反射膜312とが、長辺(一辺)314及び短辺(他辺)315とでL字状の境界を形成して隣接している。長辺314と短辺315との角部が、長辺314及び短辺315のそれぞれにおける平板ガラスの中央に近い部分になっている。
【0042】
周波数選択表面311は、熱線反射膜のメッシュパターン330からなり、メッシュパターン330の網目331は、熱線反射膜のパッチからなる。
【0043】
メッシュパターン330の複数の開口線332は、長辺314に対して垂直な複数の垂直線333と、長辺314に対して平行な複数の平行線334とにより構成されている。
【0044】
平行線334の間隔Y3は、長辺314から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるよう設定されている。一方、垂直線333の間隔X3は、短辺315から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるよう設定されている。
【0045】
このようにして、メッシュパターン330の網目331が、長辺314付近から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるので、第1の実施形態と同様に、電磁波の透過特性を維持しつつ、加熱処理による曲げ成形時に、長辺314に沿って歪みが生じるのを抑制することができる。
【0046】
また、メッシュパターン330の網目331が、短辺315から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるので、同様に、電磁波の透過特性を維持しつつ、加熱処理による曲げ成形時に、短辺315に沿って歪みが生じるのを抑制することができる。
【0047】
尚、本実施形態では、メッシュパターン330の網目331が、長辺314及び短辺315のそれぞれにおける平板ガラスの中央に近い側から、周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなっている。
【0048】
このメッシュパターン330が設けられた熱線反射ガラス板は、第1の実施形態と同様に、加熱処理によって軟化され、製品形状に曲げ成形された後、車両や建物等の対象物に設置されて良い。
【0049】
尚、本実施形態では、メッシュパターン330の網目331が、周波数選択表面311と熱線反射膜312との境界である長辺314及び短辺315から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、メッシュパターン330の網目331が、長辺314と短辺315のどちらか一方から周波数選択表面311の内方に向けて漸次小さくなるとしても良い。また、メッシュパターン330の網目331が、長辺314及び/又は短辺315から周波数選択表面311の内方に向けて段階的に小さくなるとしても良い。
【0050】
(第4の実施形態)
図4は、本発明の第4の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【0051】
図4は、図1とメッシュパターン430以外は同じで、周波数選択表面411と熱線反射膜412とが長辺(一辺)414を境界として隣接している熱線反射ガラス板である。
【0052】
メッシュパターン430の複数の開口線432は、長辺414に対して垂直な複数の垂直線433と、長辺414に対して平行な複数の平行線434とにより構成されている。
【0053】
平行線434の間隔Y4は、長辺414付近から周波数選択表面411の内方に向けて漸次小さくなるよう設定されている。一方、垂直線433の間隔X4は、長辺414のガラス板の中央に近い中央部付近から、ガラス板の周辺に向けて漸次小さくなるよう設定されている。
【0054】
このようにして、メッシュパターン430の網目431が、長辺414の中央部付近から周辺に向けて漸次小さくなるので、第1の実施形態と同様に、電磁波の透過特性を維持しつつ、加熱処理による曲げ成形時に、長辺414に沿って歪みが生じるのを抑制することができる。
【0055】
加えて、本実施形態では、第1〜第3の実施形態に比べて、長辺414の中央部付近におけるメッシュパターン430の網目431を大きくすることができるので、巨視的に見て、歪みが生じやすい部分における熱線反射率を高めることができる。従って、歪みを効果的に抑制することができる。
【0056】
このメッシュパターン430が設けられた熱線反射ガラス板は、第1の実施形態と同様に、加熱処理によって軟化され、製品形状に曲げ成形された後、車両や建物等の対象物に設置されて良い。
【0057】
(第5の実施形態)
図5は、本発明の第5の実施形態におけるメッシュパターンの平面図である。
【0058】
図5は、図1とメッシュパターン530以外は同じで、周波数選択表面511と熱線反射膜512とが長辺(一辺)514を境界として隣接している熱線反射ガラス板である。境界は、メッシュパターン530の開口線532の先端を結んだ線で定義し、図5の場合、長辺514は直線状になっている。
【0059】
メッシュパターン530の複数の開口線532は、長辺514に対して垂直な複数の垂直線533と、長辺514に対して平行な複数の平行線534とにより構成されている。
【0060】
平行線534の間隔Y5は、長辺514から周波数選択表面511の内方に向けて漸次小さくなるよう設定されている。一方、垂直線533の間隔X5は、等間隔に設定されている。
【0061】
このようにして、メッシュパターン530の網目531が長辺514から周波数選択表面511の内方に向けて段階的に小さくなっているので、メッシュパターン530の網目531の大きさの平均値を維持することができる。よって、電磁波の透過特性を維持することができる。
【0062】
平行線534は、長辺514に最も近い平行線534が長辺514から所定距離L1離れるように配列されている。ここで、所定距離L1とは、所定の線幅(例えば、50μm)を有する平行線534の外縁と長辺514との間隔を意味する。
【0063】
所定距離L1は、周波数選択表面511の寸法形状等に応じて適宜設定されるが、3〜100mmであることが好ましく、5〜100mmであることがより好ましい。
【0064】
所定距離L1が3mm未満であると、平行線534を長辺514から離間した効果が十分に得られない。一方、所定距離L1が100mmを超えると、メッシュパターン530の変化が大きすぎるので、電磁波の透過特性に悪影響を与える。
【0065】
このようにして、平行線534が長辺514から離間しているので、図1に示すように、長辺514に沿う開口線が存在しない。
【0066】
ところで、図13に示すように、一辺14に沿う開口線が存在する場合、一辺14付近での熱線反射率の急激な変化が助長される。このため、加熱処理時に、一辺14付近での温度勾配が急激になる。その結果、加熱処理による曲げ成形時に、一辺14に沿って歪みが生じやすい。
【0067】
本実施形態では、長辺514に沿う開口線が存在しないので、加熱処理時に、長辺514付近での温度勾配を効果的に緩やかにすることができる。よって、加熱処理による曲げ成形時に、長辺514に沿って歪みが生じるのを効果的に抑制することができる。
【0068】
このメッシュパターン530が設けられた熱線反射ガラス板は、第1の実施形態と同様に、加熱処理によって軟化され、製品形状に曲げ成形された後、車両や建物等の対象物に設置されて良い。
【0069】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0070】
例えば、第1〜第5の実施形態において、熱線反射ガラス板は矩形状であるとしたが、熱線反射ガラス板の形状に制限はなく、例えば扇状であっても良い。
【0071】
また、第1〜第5の実施形態において、開口線は、熱線反射膜を線状に除去したものであるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、開口線は、メッシュパターンを略反転させたマスクを利用して形成されたものであっても良い。
【0072】
また、第1〜第5の実施形態において、周波数選択表面と熱線反射膜との境界である一辺は、直線状であるとしたが、弧状であっても良い。弧状の場合、メッシュパターンの複数の開口線は、一辺のガラス板の中央に近い中央部に対して略垂直な複数の垂直線と、一辺の中央部に対して略平行な複数の平行線とにより構成されて良く、この場合、平行線は、一辺に最も近い平行線が一辺の中央部から所定距離離れるように配列されても良い。また、弧状の場合、メッシュパターンの複数の開口線は、一辺に対して略直交する複数の直交線と、一辺と同心の複数の弧状線とにより構成されても良く、この場合、弧状線は、一辺に最も近い弧状線が一辺から所定距離離れるように配列されても良い。
【0073】
次に、熱線反射ガラス板の曲げ成形について説明する。
【0074】
図6は、本発明の一実施形態における熱線反射ガラス板の曲げ成形方法のフロー図である。
【0075】
熱線反射ガラス板の曲げ成形方法は、例えば、図6に示すように、熱線反射膜と、熱線反射膜に少なくとも一辺で隣接する、所定周波数帯の電磁波を選択的に透過する周波数選択表面とを平板ガラスの片面に形成する工程(ステップS100)と、熱線反射膜と周波数選択表面とが設けられた平板ガラスを加熱処理によって軟化し、製品形状に曲げ成形する工程(ステップS102)とを有する。
【0076】
図6のステップS100では、先ず、平板ガラスの片面に熱線反射膜を成膜する。
【0077】
平板ガラスは、例えばフロート法等により製造される。平板ガラスは、製造後に熱処理された強化ガラスであっても良い。また、平板ガラスは、無色透明であって良いし、着色されていても良い。平板ガラスのガラスは、特に限定されないが、例えば、ソーダライムガラスやホウ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0078】
熱線反射膜は、赤外線を反射するものである。この熱線反射膜付きの窓ガラスは、太陽光の熱が室内へ流入するのを抑制することができ、室内の冷房効果を高めることができる。熱線反射膜は、室内からの室外の視認性を確保するため、赤外線よりも波長の短い可視光線を透過するものであることが好ましい。
【0079】
熱線反射膜は、赤外線の他、赤外線よりも波長の長い電磁波を反射するので、FM放送、AM放送、UHF放送、VHF放送、携帯電話、GPS(1575MHz)、自動車用のキーレスエントリーシステム(250〜400MHz)等の電磁波を反射する。
【0080】
熱線反射膜としては、金属膜や金属酸化膜、非金属膜、誘電体膜等が単独で又は組み合わせて用いられる。熱線反射膜は、単一層からなっても良いし、複数層からなっても良い。
【0081】
熱線反射膜の成膜には、一般的な方法が用いられ、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD(化学的気相成長)法等が用いられる。スパッタ法は、大面積の成膜に適している。
【0082】
熱線反射膜は、平板ガラスの片面の全域に成膜されても良いし、一部の領域に成膜されても良いが、赤外線の反射効率を高めるため、全域に成膜されることが好ましい。
【0083】
次に、レーザ加工装置やカッター等を用いて、成膜された熱線反射膜の一部をメッシュパターンに加工して周波数選択表面を形成する。周波数選択表面は、メッシュパターンに応じた周波数帯の電磁波を選択的に透過する。
【0084】
以上により、熱線反射膜に少なくとも一辺で隣接する周波数選択表面が形成される。熱線反射膜は、開口のない熱線反射膜からなるので、周波数選択表面に比べて、赤外線を効果的に反射することができる。
【0085】
このようにして、平坦な熱線反射膜の一部をメッシュパターンに加工するので、製品形状に曲げ成形した熱線反射膜を加工する場合に比べて、加工が容易である。よって、メッシュパターンの寸法精度を高めることができ、電磁波の透過特性を高めることができる。
【0086】
尚、本実施形態では、成膜された熱線反射膜の一部をメッシュパターンに加工して周波数選択表面を形成するとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、メッシュパターンを略反転させたマスクを利用して、平板ガラスの片面に熱線反射膜のメッシュパターンを形成しても良い。この場合も、平坦な面にメッシュパターンを形成するので、メッシュパターンの寸法精度を高めることができ、電磁波の透過特性を高めることができる。
【0087】
図6のステップS102では、熱線反射膜と周波数選択表面とが設けられた平板ガラスを加熱処理によって軟化し、製品形状に曲げ成形する。
【0088】
本実施形態では、自動車用の窓ガラスの曲げ成形について説明するが、その前に、自動車用の窓ガラスの構成について説明する。
【0089】
自動車用の窓ガラスには合わせガラスと強化ガラスが用いられ、通常、フロントガラスには合わせガラスを使用し、リアガラスやサイドガラスには強化ガラスが使用されることが多い。合わせガラスは、2枚の湾曲ガラス板の間にPVB(ポリビニルブチラール)等の中間膜を介在したものである。中間膜は、湾曲ガラス板が外部からの衝撃によって割れたときに、ガラスの破片が飛散するのを防止する役割を果たす。強化ガラスは、表面に圧縮応力層、内部に引張応力層を有する物理強化されたものである。強化ガラスは、圧縮応力層により強度が高くなっており、さらに割れたときに、粉々になって鋭利な破片ができないので、切創を防止する役割を果たす。
【0090】
図7〜図9は、本発明の一実施形態における合わせガラスの曲げ成形の説明図である。図7は、一方の平板ガラスの片面に設けた熱線反射膜及び周波数選択表面上に別の平板ガラスを重ね合わせた状態を示す側面図である。図8は、図7で重ね合わせた2枚の平板ガラスを加熱処理によって製品形状に曲げ成形した状態を示す側面図である。図9は、図8で曲げ成形した2枚の湾曲ガラス板の間に中間膜を介在させた状態を示す側面図である。
【0091】
先ず、図7に示すように、一方の平板ガラス110の片面に設けた周波数選択表面111及び熱線反射膜112上に、離型剤(不図示)を塗布したうえで、別の平板ガラス120を重ね合わせた状態で成形型140に載置する。成形型140は、製品形状の周縁部の形状を有している。この状態では、周波数選択表面111及び熱線反射膜112は、平坦になっている。尚、周波数選択表面111及び熱線反射膜112は、別のガラス板120のどちらかの面に設けても良いし、複数の面に設けても良い。
【0092】
次いで、図8に示すように、成形型140で、下側の平板ガラス110の周縁部を支持した状態で、重ね合わせた2枚の平板ガラス110、120を加熱して軟化させ、重ね合わせた状態で2枚の平板ガラス110、120を自重曲げする。尚、自重曲げの代わりに、プレス曲げしても良い。
【0093】
その結果、2枚の平板ガラス110、120が、製品形状に湾曲した湾曲ガラス板110A、120Aとなる。また、平坦な周波数選択表面111及び熱線反射膜112が、製品形状に湾曲した周波数選択表面111A及び熱線反射膜112Aとなる。
【0094】
続いて、湾曲ガラス板110A、120Aを冷却し、分離する。その後、湾曲ガラス板110A、120Aや周波数選択表面111A及び熱線反射膜112Aを洗浄して、離型剤を除去する。
【0095】
次いで、図9に示すように、一方の湾曲ガラス板110Aの片面に設けた周波数選択表面111A及び熱線反射膜112A上に、可撓性のPVBシートの中間膜113を載せたうえで、他方の湾曲ガラス板120Aを重ね合わせ、熱圧着を行う。このようにして、自動車用の合わせガラスを製造する。
【0096】
また、強化ガラスの場合、単板で曲げ成形する。軟化点付近までガラス板を加熱処理し、自重曲げやプレス曲げによって曲げ成形する。次いで、例えばガラス板の両面にエアを吹きつけることで急冷する。製品形状に湾曲した周波数選択表面及び熱線反射膜とを有する強化ガラスとなる。
【0097】
尚、本実施形態では、自動車用の窓ガラスの曲げ成形について説明したが、本発明は、建築用や航空機用、鉄道車両用の窓ガラス等の一般的な窓ガラスに適用されても良い。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0099】
実施例1〜2、比較例1について、有限積分法を利用したコンピュータシミュレーションによって電磁波の透過特性の解析を行った。詳細には、メッシュパターンの平行線を透過する垂直偏波の透過特性について解析を行った。ここで、垂直偏波とは、メッシュパターンの垂直線と平行な方向に電界が振動する偏波をいう。
【0100】
実施例1では図1のメッシュパターンと略同一のパターンとし、実施例2では図2のメッシュパターンと略同一のパターンとし、比較例1では図11のメッシュパターンと略同一のパターンとして、熱線反射膜と周波数選択表面とを設定した。メッシュパターンの平行線の間隔を表1に示す。表中、間隔番号は、熱線反射膜と周波数選択表面との境界付近からの位置を表し、間隔番号が小さいほど境界に近い位置を意味する。尚、実施例1〜2、比較例1において、メッシュパターンの垂直線のピッチ間隔を9.95mmに設定し、各線の線幅(即ち、開口線の線幅)を500μmに設定した。
【0101】
【表1】

実際の解析では、解析を容易にするため、図1〜図2、図11と異なり、メッシュパターンの垂直線の数を平行線の数と同じ11本に設定し、略正方形状の周波数選択表面が熱線反射膜で囲繞されているものとし、且つ、ガラスによる電磁波の反射等の影響を排除した。解析結果を図10に示す。
【0102】
図10は、実施例1〜2、比較例1における電磁波の透過特性図である。図10では、実施例1の結果を実線で示し、実施例2の結果を一点鎖線で示し、比較例1の結果を破線で示した。また、図10では、各例において、周波数選択表面領域の熱線反射膜をすべて除去した場合の電磁波の透過率を0dBとした。
【0103】
図10から明らかなように、メッシュパターンの平行線の間隔が漸次小さくなる又は段階的に小さくなる場合、平行線の間隔が一定である場合と比較して、平行線の間隔の平均値が略同一であれば、垂直偏波の透過特性が略同一になることが分かる。
【符号の説明】
【0104】
110 平板ガラス
110A 湾曲ガラス板
111 周波数選択表面
112 熱線反射膜
114 長辺(一辺)
130 メッシュパターン
131 網目
132 開口線
133 垂直線
134 平行線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線反射膜と、該熱線反射膜に少なくとも一辺で隣接し、熱線反射膜のメッシュパターンによりなり、複数の開口線を有する周波数選択表面とをガラス板の少なくとも片面に設けた熱線反射ガラス板において、
前記メッシュパターンの前記開口線に囲まれた熱線反射膜からなる網目は、前記一辺の前記ガラス板の中央に近い側から、前記ガラス板の周辺に向けて、漸次小さくなる、又は段階的に小さくなることを特徴とする熱線反射ガラス板。
【請求項2】
前記複数の開口線は、前記一辺の前記ガラス板の中央に近い部分である前記一辺の中央部に対して略垂直な複数の垂直線と、前記一辺の前記中央部に対して略平行な複数の平行線とにより構成される請求項1に記載の熱線反射ガラス板。
【請求項3】
前記平行線の間隔は、前記一辺から前記周波数選択表面の内方に向けて、漸次小さくなる、又は、段階的に小さくなる請求項2に記載の熱線反射ガラス板。
【請求項4】
前記平行線は、前記一辺に最も近い前記平行線が前記一辺から所定距離離れるように配列されている請求項2又は3に記載の熱線反射ガラス板。
【請求項5】
前記垂直線の間隔は、前記一辺の前記中央部から、前記ガラス板の周辺に向けて、漸次小さくなる、又は、段階的に小さくなる請求項2〜4のいずれかに記載の熱線反射ガラス板。
【請求項6】
前記周波数選択表面は、前記熱線反射膜と前記一辺及び他辺で隣接し、
前記網目は、前記他辺から前記周波数選択表面の内方に向けて、漸次小さくなる、又は段階的に小さくなる請求項1〜5のいずれかに記載の熱線反射ガラス板。
【請求項7】
前記熱線反射膜と前記周波数選択表面とを備えた平板ガラスを、加熱処理によって軟化し、曲げ成形して湾曲させた請求項1〜6のいずれかに記載の熱線反射ガラス板。
【請求項8】
前記熱線反射膜と前記周波数選択表面とを備えたガラス板を少なくとも1枚含む、複数枚のガラス板を中間膜を介して接着された合わせガラスである請求項1〜7のいずれかに記載の熱線反射ガラス板。
【請求項9】
前記熱線反射膜と前記周波数選択表面とを備えたガラス板を加熱処理後に急冷強化した強化ガラスである請求項1〜7のいずれかに記載の熱線反射ガラス板。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱線反射ガラス板を、加熱処理によって軟化し、曲げ成形することを特徴とする熱線反射ガラス板の曲げ成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−102217(P2011−102217A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258320(P2009−258320)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】