説明

熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物およびその製造方法、並びに、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム

【課題】通常の塩化ビニルフィルム製造工程に適用できる熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式WOで示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWOで示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、有機溶剤に分散して分散液を得る工程と、当該分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合して混合物を得る工程と、当該混合物から減圧蒸留法で上記有機溶剤を5重量%以下となる迄、除去して上記熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得る工程とにより、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好でかつ優れた熱線遮蔽機能を有する塩化ビニルフィルムの製造に適用される熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物とその製造方法に係り、さらには、前記熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物が適用された熱線遮蔽塩化ビニルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種建築物や車両の窓、ドア等のいわゆる開口部分から入射する太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれている。この太陽光線に含まれている赤外線のうち800〜2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から進入することにより室内の温度を上昇させる原因になる。これを解消するために、近年、各種建築物や車両の窓材等の分野では、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制する熱線遮蔽成形体の需要が急増しており、熱線遮蔽成形体に関する特許が多く提案されている。
【0003】
例えば、透明樹脂フィルムに金属、金属酸化物を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス、アクリル板、ポリカーボネート板等の透明成形体に接着した熱線遮蔽板が提案されている。
また、例えば、透明成形体表面に、金属若しくは金属酸化物を直接蒸着してなる熱線遮蔽板も数多く提案されている。
この他、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性透明樹脂にフタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物に代表される有機近赤外線吸収剤を練り込んだ熱線遮蔽板およびフィルム(特許文献1、2参照)が提案されている。
さらに、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に、熱線反射能を有する酸化チタンあるいは酸化チタンで被覆されたマイカ等の無機粒子を練り込んだ熱線遮蔽板(特許文献3、4参照)も提案されている。
【0004】
また、ポリ塩化ビニル系樹脂を用いた熱線遮蔽シートとして、特許文献5では、ポリ塩化ビニル系樹脂に、ガラスビーズ、中空ガラスバルーン、マイクロカプセルから選ばれる少なくとも1つと、酸化チタン系白色顔料を含み、特定の波長の光を反射させる「反射層」と、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1つを含み、この反射層を透過した光であって特に発熱に寄与する波長の光を吸収する「吸収層」との積層構造体とすることで、最外層の「反射層」により太陽光を反射させ、反射しきれない透過光を「吸収層」により有効に吸収させることにより、テントなどのシート状構造体内部の太陽光による温度上昇を防止する熱線遮蔽シートが提案されている。
【0005】
一方、本出願人は、熱線遮蔽効果を有する成分として自由電子を多量に保有する六ホウ化物微粒子に着目し、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂中に、六ホウ化物微粒子が分散され、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子及び/又はATO微粒子が分散されている熱線遮蔽樹脂シート材(特許文献6)を既に提案している。
【0006】
六ホウ化物微粒子単独、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が適用された熱線遮蔽樹脂シート材の光学特性は、可視光領域に可視光透過率の極大を有すると共に、近赤外線領域に強い吸収を発現して日射透過率の極小を有すること
から、可視光透過率が70%以上で日射透過率が50%台まで改善されている。
【0007】
また、本出願人は、特許文献7において、優れた可視光線透過能を維持しつつ高い熱線遮蔽機能を有する様々な形状の熱線遮蔽透明樹脂成形体について、これを高コストの物理成膜法などを用いることなく簡便な方法で作製することが可能な、熱可塑性樹脂と熱線遮蔽成分六ホウ化物(XB,但し、Xは、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、SrおよびCaから選択される少なくとも1種以上)とを主成分として含有するマスターバッチを提供し、併せてこのマスターバッチが適用された熱線遮蔽透明樹脂成形体並びに熱線遮蔽透明積層体を提案している。
【0008】
さらに、本出願人は、特許文献8において、可視光線領域を透過させ近赤外線領域を遮蔽する耐候性の良い無機材料微粒子を、平均分散粒子径が800nm以下のタングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子により構成することによって、近赤外線吸収力が大きく耐久性に優れ、安価に作製できるプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターを提案している。
【0009】
【特許文献1】特開平6−256541号公報
【特許文献2】特開平6−264050号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開平5−78544号公報
【特許文献5】特開2006−231869号公報
【特許文献6】特開2003−327717号公報
【特許文献7】特開2004−59875号公報
【特許文献8】特開2006−154516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した、透明樹脂フィルムに金属等を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス等の透明成形体に接着した熱線遮蔽板は、この熱線反射フィルム自体が非常に高価でかつ接着工程等の煩雑な工程を要するため高コストとなる。また透明成形体と反射フィルムの接着性が良くないので、経時変化によりフィルムの剥離が生じるといった欠点を有している。
【0011】
透明成形体表面に、金属等を直接蒸着してなる熱線遮蔽板は、製造に際して高真空で精度の高い雰囲気制御を要する装置が必要となるため、量産性が悪く、汎用性に乏しいという問題を有している。
【0012】
ポリエチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性透明樹脂に、有機近赤外線吸収剤を練り込んだ熱線遮蔽板等は、十分に熱線を遮蔽するためには多量の近赤外線吸収剤を配合しなければならない。そして、近赤外線吸収剤を多量に配合すると、今度は可視光線透過能が低下してしまうという課題が残る。さらに、近赤外線吸収剤として有機化合物を使用しているため、直射日光に常時曝される建築物や車両の窓材等への適用は耐侯性に難がある。
【0013】
アクリル樹脂等の透明樹脂に、熱線反射能を有する酸化チタン等の無機粒子を練り込んだ熱線遮蔽板は、熱線遮蔽能を高めるために熱線反射粒子を多量に添加する必要がある。ところが、熱線反射粒子の配合量の増加に伴って可視光線透過能が低下してしまうという、前記有機近赤外線吸収剤と同様の課題があった。そこで、熱線反射粒子の添加量を少なくすると可視光線透過能は高まるものの、今度は熱線遮蔽能が低下してしまう。結局、熱線遮蔽能と可視光線透過能を同時に満足させることが困難であるといった問題があった。さらに、熱線反射粒子を多量に配合すると、成形体である透明樹脂の物性、特に耐衝撃強度や靭性が低下するという強度面からの問題も有している。
【0014】
ポリ塩化ビニル系樹脂に、ガラスビーズ等と酸化チタン系白色顔料とを含み「反射層」とし、ポリ塩化ビニル系樹脂等を「吸収層」とする熱線遮蔽シートは、反射機能が主機能である。そして、酸化チタンを含有しているため、前記技術と同様の問題を有している。さらに、2層構造であり製造が容易でないという課題も有している。
【0015】
本発明者らは、上述した問題点の解決策として、機械的特性とコストパーフォマンスに優れた塩化ビニルフィルムに、当該特性を毀損することなく、且つ、低コストで熱線遮蔽機能を付与すること考えた。
そこで、本発明者らは、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子を塩化ビニルフィルム中へ直接添加し、均一に分散させることで、当該塩化ビニルフィルムに低コストで熱線遮蔽機能を付与することができると考えた。ところが、当該操作を行ってみると微粒子の凝集が起こり、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子を塩化ビニルフィルム中へ均一に分散させることは、困難であることが判明した。
【0016】
本発明は、上述した状況の下になされたもので、その課題とするところは、通常の塩化ビニルフィルム製造工程に適用できる熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物とその製造方法を提供することである。さらには、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を適用することで、優れた可視光線透過能を維持しつつ高い熱線遮蔽機能を有する塩化ビニルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者等は、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤中にタングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子を分散させた熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物という、全く新規な概念に想到した。これは、既に可塑剤の添加された塩化ビニル樹脂中へ、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物等の光学的特性を有する微粒子を投入した後、均一に分散させようとしたり、または、塩化ビニル樹脂中へ、可塑剤と同時期に当該光学的特性を有する微粒子を投入した後、均一に分散させようとした、従来の発想とは全く異なるものである。
つまり、上述した熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物という段階を経ることで、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子と塩化ビニルフィルム製造用可塑剤とを十分に分散させた状態で、塩化ビニル樹脂中へ投入するのである。この結果、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子は、当該可塑剤の作用である「樹脂の間隙に入り込むことで樹脂が規則正しく配向するのを阻害しガラス遷移点以下でもアモルファス状態を維持する」効果に助けられながら、塩化ビニル樹脂中へ均一に分散していくのではないかと考えられる。
【0018】
即ち、本発明者らは、一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子および/または一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuのうちの1種類以上の
元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、有機溶剤に分散して得られる分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合した後、減圧蒸留法等により上記有機溶剤を5重量%以下まで除去することで製造される熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を見出した。
そして、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を塩化ビニル樹脂と混練し、かつ、押出成形法、カレンダー成形法等公知の方法により、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもつような熱線遮蔽塩化ビニルフィルムの作製が可能となることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されたものである。
【0019】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
熱線遮蔽塩化ビニルフィルムを製造するために使用される熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法であって、
一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.
1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、
分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して分散液を得る工程と、
当該分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合して混合物を得る工程と、
減圧蒸留法を用いて、当該混合物から上記有機溶剤を5重量%以下となる迄、除去して上記熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得る工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法である。
【0020】
第2の発明は、
上記有機溶剤が、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする第1の発明に記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法である。
【0021】
第3の発明は、
上記塩化ビニルフィルム製造用可塑剤が、ジオクチルフタレート、または、ジイソノニルフタレートであることを特徴とする第1または第2の発明に記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法である。
【0022】
第4の発明は、
上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子が、平均粒径800nm以下の微粒子であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム用製造可塑剤の製造方法である。
【0023】
第5の発明は、
上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物によって表面処理されていることを特徴とする第1〜第4の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法である。
【0024】
第6の発明は、
一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.
1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、
分散剤と、
塩化ビニルフィルム製造用可塑剤と、
5重量%以下の有機溶剤とを、有することを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物。
【0025】
第7の発明は、
第6の発明に記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を塩化ビニル樹脂と混練し、フィルム状に成形することにより製造されたことを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフ
ィルムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱線遮蔽機能を有する組成物として、一般式WOで示されるタングステン酸化物微粒子、および/または一般式MWOで示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤と、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤と、5重量%以下の有機溶剤と、を含む熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得ることが出来る。そして、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を、塩化ビニル樹脂と混練し、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもつような熱線遮蔽塩化ビニルフィルムの作製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物は、熱線遮蔽機能を有する微粒子として、一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素
、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を用いている。そして、当該熱線遮蔽機能を有する微粒子と、分散剤とを、有機溶剤に分散して分散液を得、得られた分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合した後、減圧蒸留法を用いて、上記有機溶剤を5重量%以下まで除去することで得られたものである。
以下、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物について、詳細に説明する。
【0028】
(1)熱線遮蔽機能を有する微粒子
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物に用いられる熱線遮蔽機能を有する微粒子は、タングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子である。
タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に1000nm以上の光を大きく吸収するため、その透過色調はブルー系の色調となるものが多い。
【0029】
当該タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の粒子径は、その使用目的によって適宜選定することができる。
例えば、透明性を保持した応用に使用する場合は、当該タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子は、800nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。800nmよりも小さい分散粒子径であれば、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。
【0030】
特に、可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。そして、この粒子による散乱の低減を重視するときには、当該タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。
この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視光線領域における光の散乱が低減されるからである。当該光の散乱が低減されれば、熱線遮蔽膜が曇りガラスのようになってしまい、鮮明な透明性が得られなくなることを回避できる。これは、分散粒子の径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる為である。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴
い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径は小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0031】
(a)タングステン酸化物微粒子
一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子としては、例えばW1849、W2058、W11などを挙げることができる。xの値が2.45以上であれば、当該熱線遮蔽材料中に目的外であるWOの結晶相が現れるのを完全に回避することが出来ると共に、材料の化学的安定性を得ることが出来る。一方、xの値が2.999以下であれば、十分な量の自由電子が生成され効率よい熱線遮蔽材料となる。xの値が、2.95以下であれば熱線遮蔽材料として、さらに好ましい
。尚、xの範囲が2.45≦x≦2.999であるようなWO化合物は、いわゆるマグネリ相と呼ばれる化合物に含まれる。
【0032】
(b)複合タングステン酸化物微粒子
一般式MyWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2
.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、Cs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、y、zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。添加元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、Zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MyWOで表記される複合タングステン酸化物材料においても、上述したWOで表記されるタングステン酸化物材料と同様の機構が働くのに加え、z≦3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。尤も、光学特性の観点から、より好ましくは、2.2≦z≦2.99、さらに好ましくは、2.45≦z≦2.99である。
【0033】
(c)タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
上述した一般式WOで表記されるタングステン酸化物微粒子、一般式MWO表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0034】
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
タングステン化合物出発原料には、三酸化タングステン粉末、ニ酸化タングステン粉末、または酸化タングステンの水和物、または、六塩化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。
【0035】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、三酸化タングステン、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましい。
一方、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液である各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、六塩化
タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。
これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0036】
さらに、上記元素Mを含む一般式MWOで表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する熱線遮蔽材料微粒子は、上述した一般式WOで表されるタングステン酸化物微粒子を含有する熱線遮蔽材料微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形態で含有するタングステン化合物を出発原料とする。
【0037】
ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0038】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。
まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることがよい。
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を、まず還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。Hが体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
水素で還元された出発原料粉末は、マグネリ相を含み、良好な熱線遮蔽特性を示す。従って、この状態でも熱線遮蔽微粒子として使用可能である。
【0039】
本発明に係るタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物、好ましくは、酸化物で被覆され表面処理されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。
【0040】
また、所望とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得るには、前記タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の粉体色が、国際照明委員会(CIE)が推奨しているL表色系(JIS Z 8729)における粉体色において、Lが25〜80、aが−10〜10、bが−15〜15である条件を満たすことが望ましい。
当該粉体色を有するタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を用いることで、優れた光学特性を有する熱線遮蔽塩化ビニルフィルムを得ることが出来る。
【0041】
(2)分散剤
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物に用いられる分散剤は、示差熱熱重量同時測定装置(以下、TG−DTAと記載する場合がある。)で測定される熱分解温度が200℃以上あって、アクリル、スチレン主鎖を有する分散剤が好ましい。
熱分解温度が200℃以上あれば、塩化ビニル樹脂との混練時に当該分散剤が分解することがないからである。これによって、分散剤の分解に起因した熱線遮蔽塩化ビニルフィルムの褐色着色、可視光透過率の低下、本来の光学特性が得られない事態を回避出来るか
らである。
【0042】
また、当該分散剤は、水酸基、カルボキシル基、或いはエポキシ基を官能基として有する分散剤が好ましい。これらの官能基は、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤、或いは得られた塩化ビニルフィルム中でこれらの微粒子を均一に分散させる効果を持つ。具体的には、水酸基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤、カルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤が例として挙げられる。
【0043】
さらに、当該分散剤の添加量は、タングステン酸化物微粒子および/または、複合タングステン酸化物微粒子に対する重量割合において0.1〜4倍の範囲であることが望ましく、より好ましくは0.3〜2.5倍の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子が、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤中で均一に分散すると伴に、得られる塩化ビニル樹脂の物性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0044】
(3)有機溶剤
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物に用いられる有機溶剤は、120℃以下の沸点を持つものが好ましく使用される。
沸点が120℃以下であれば、減圧蒸留で除去することが容易である。この結果、減圧蒸留の工程で除去することが迅速に進み、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の生産性に寄与するからである。さらに、減圧蒸留の工程が容易かつ十分に進行するので、本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物中に過剰な有機溶剤が残留するのを回避できる。この結果、塩化ビニルフィルム成形時に気泡の発生などの不具合が発生することを回避できる。具体的には、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられるが、沸点が120℃以下で熱線遮蔽機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
【0045】
(4)塩化ビニルフィルム製造用可塑剤
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物に用いられる可塑剤は、酸とアルコールとから合成されたエステル化合物であることが好ましい。前記酸としては、フタル酸、トリメリット酸、アジピン酸、リン酸、クエン酸などが挙げられる。また、前記アルコールとしては、オクタノール、ブタノール、ノナノール、高級混合アルコールなどが挙げられる。
特に、フタル酸エステルは、塩化ビニルとの相溶性や耐寒性など様々な性質をバランスよく備えており、加工性、経済性にも優れていることから好ましい。代表的なフタル酸エステルとしてジオクチルフタレート、または、ジイソノニルフタレートをあげることが出来る。
【0046】
(5)熱線遮蔽機能を有する微粒子の有機溶剤への分散方法
上述したタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を、有機溶剤へ分散する方法について説明する。
タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の有機溶剤への分散方法は、当該微粒子が均一に有機溶剤に分散する方法であれば任意に選択できる。例としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることが出来る。
【0047】
有機溶剤中のタングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子の濃度は、5〜50重量%が望ましい。5重量%以上であれば、除去すべき有機溶剤量が多くなり過ぎて製造コストが高くなってしまう事態を回避出来る。また、50重量%
以下であれば、微粒子の凝集が起こり易くなり微粒子の分散が困難になる事態や、液の粘性も著しく増加し、取り扱いが困難となる事態を回避出来るからである。
【0048】
(6)塩化ビニルフィルム製造用可塑剤添加方法
タングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを有機溶剤に分散させた後、該分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を添加し一般的な攪拌混合装置を用いて混合する。
【0049】
(7)有機溶剤除去方法
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得るための有機溶剤除去方法としては、得られた混合物を減圧蒸留する方法が好ましい。具体的には、減圧蒸留法では、上記混合物を攪拌しながら減圧蒸留して、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物と有機溶剤成分とを分離する。減圧蒸留に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機があげられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。
当該減圧蒸留法を用いることで、溶剤の除去効率が向上すると伴に、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物が長時間高温に曝されることがないので、分散している微粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0050】
(8)その他の添加剤
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物へは、さらに、一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、必要に応じて任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料、顔料を添加しても良い。また、ヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の有機紫外線吸収剤、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等を添加剤として使用することができる。
【0051】
(9)熱線遮蔽塩化ビニルフィルム
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルムについて説明する。
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルムは、上述した熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を塩化ビニル樹脂と混練した後、押出成形法、カレンダー成形法等の、公知の方法によりフィルム状に成形することによって得られる。
【0052】
本発明に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルムは、窓ガラス、アーケード等の構造材に張り合わせて使用することが出来る他、無機ガラス、樹脂ガラス、樹脂フィルム等の透明成形体に適宜な方法で張り合わせ、一体化した熱線遮蔽透明積層体として、構造材に使用することもできる。例えば、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルムを無機ガラスに貼り合わせることで、熱線遮蔽機能、飛散防止機能を有する熱線遮蔽透明積層体を得ることができる。上記熱線遮蔽透明積層体は、相互の成形体の持つ利点を有効に発揮させつつ、相互の欠点を補完することで、より有用な構造材として使用することができる。
【0053】
以上、詳細に説明したように、熱線遮蔽成分としてタングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子と分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して得られる分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合した後、減圧蒸留法を用いて該有機溶剤を5重量%以下まで除去することにより、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得ることが出来た。そして、当該熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物と、塩化ビニル樹脂とを混練し、かつ、公知の方法により、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもつような熱
線遮蔽塩化ビニルフィルムの作製が可能となった。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。
但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、各実施例における、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の粉体色(10°視野、光源D65)、および、熱線遮蔽塩化ビニルフィルムの可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。
尚、当該日射透過率は、熱線遮蔽塩化ビニルフィルムの熱線遮蔽性能を示す指標である。
また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
【0055】
[実施例1]
WO50gを入れた石英ボートを石英管状炉にセットし、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下800℃で30分焼成して微粒子(以下、微粒子aと略称する。)を得た。この微粒子aの粉体色は、Lが36.9288、aが1.2573、bが−9.1526であり、粉末X線回折による結晶相の同定の結果、W1849の結晶相が観察された。
次に、微粒子a6重量%、官能基として水酸基を有するアクリル系分散剤12重量%、トルエン82重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカー
で6時間粉砕・分散処理することによってタングステン酸化物微粒子分散液(以下、A液と略称する。)を調製した。
さらに、A液100重量%にジオクチルフタレート(以下、DOPと記載する。)82重量%を添加混合し、それを攪拌型真空乾燥機(月島機械製ユニバーサルミキサー)を使用して80℃で1時間加熱乾燥することで減圧蒸留を行い、トルエンを除去し、実施例1に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物(以下、組成物Aと略称する。)を得た。
ここで、組成物Aの残留トルエン量を乾量式水分計で測定したところ、3.5重量%であった。また、組成物A内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ77nmであった。
【0056】
次に、得られた組成物A6.7重量%、DOP33.3重量%、塩化ビニル樹脂60重量%を混合し、2本ロールを使用して150℃で15分混練し、カレンダーロール法で0.3mm厚の実施例1に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム(以下、フィルムAと略称する。)を得た。
【0057】
フィルムAの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率60.1%のときの日射透過率は40.5%で、ヘイズ値は2.3%であった。この結果を表1に示した。
【0058】
[実施例2]
有機溶剤としてメチルエチルケトンを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物(以下、組成物Bと略称する。)を得た。ここで、組成物Bの残留メチルエチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ、3.7重量%であった。また、組成物B内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ、83nmであった。
次に、得られた組成物Bを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム(以下、フィルムBと略称する。)を得た。
フィルムBの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率60.8%のときの日射透過率は41.1%で、ヘイズ値は2.2%であった。この結果を表1に示した。
【0059】
[実施例3]
WO50gとCs(OH)17.0g(Cs/W=0.3相当)をメノウ乳鉢で十分混合した粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下で800℃で30分焼成して微粒子(以下、微粒子bと略称する。)を得た。微粒子bの組成式は、Cs0.3WOであり、粉体色のLが35.2745、aが1.4918、bが−5.3118であった。
次に、微粒子bを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るタングステン酸化物微粒子分散液(以下、C液と略称する。)を調製した。そして、C液を使用した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物(以下、組成物Cと略称する。)を得た。ここで、組成物Cの残留トルエン量を乾量式水分計で測定したところ、3.2重量%であった。また、組成物C内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ、90nmであった。
次に、得られた組成物Cを使用した以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム(以下、フィルムCと略称する。)を得た。
フィルムCの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率69.9%のときの日射透過率は34.8%で、ヘイズ値は2.2%であった。この結果を表1に示した。
【0060】
[実施例4]
上記C液にメチルトリメトキシシランを添加し、メカニカルスターラーで1時間攪拌し混合した後、スプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、シラン化合物にて表面処理を施した複合タングステン酸化物微粒子(微粒子c)を得た。そして微粒子cを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物(以下、組成物Dと略称する。)を得た。ここで、組成物Dの残留トルエン量を乾量式水分計で測定したところ、3.5重量%であった。また、組成物D内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ85nmであった。
次に、得られた組成物Dを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム(以下、フィルムDと略称する。)を得た。
フィルムDの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率68.8%のときの日射透過率は33.1%で、ヘイズ値は2.9%であった。この結果を表1に示した。
【0061】
[比較例1]
減圧蒸留が行える真空攪拌型乾燥機を使用せず、常圧80℃で12時間攪拌してトルエンを除去した以外は実施例1と同様にして比較例1に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物(以下、組成物Eと略称する。)を得た。ここで、組成物Eの残留トルエン量を乾量式水分計で測定したところ、8.1重量%であった。また、組成物E内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ、180nmであった。次に、得られた組成物Eを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る熱線遮蔽塩化ビニルフィルム(以下、フィルムEと略称する。)を得た。
使用した組成物Eの残留トルエンが8.1重量%と多いため、塩化ビニル樹脂との混練時に残留トルエンが十分に取り除けず、フィルムE内に気泡が見られ、外観が良くなかった。
フィルムEの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率68.8%のときの日射透過率は36.2%で、ヘイズ値は10.2%であった。これは、真空攪拌型乾燥機を使用せずに、常圧で長時間加熱してトルエンを除去したため、微粒子の凝集が起こり、ヘイズが高くなり透明性が損なわれたものと考えられる。この結果を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
[実施例1〜4および比較例1の評価]
実施例1〜4においては、真空型攪拌乾燥機を使用することで、有機溶剤残留量を5重量%以下の範囲にしているため、フィルム内に気泡なく外観が良いフィルムA〜Dが得られている。また、真空型攪拌乾燥機を使用することで、短時間で有機溶剤を除去することが可能となり、長時間過熱することによる微粒子の凝集を防ぐことが出来、ヘイズの低い透明なフィルムA〜Dが得られている。一方、比較例1は、常圧で加熱攪拌することで、有機溶剤を除去しているために、有機溶剤残留量が5重量%よりも多くなっている。そのため、混練時に残留トルエンが十分に取り除けず、フィルムE内に気泡が見られ、外観が良くない。また、有機溶剤を除去するために、乾燥機を用せず長時間加熱したため、微粒子の凝集が起こり、得られるフィルムEのヘイズが高くなり透明性が損なわれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽塩化ビニルフィルムを製造するために使用される熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法であって、
一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.
1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、
分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して分散液を得る工程と、
当該分散液に、塩化ビニルフィルム製造用可塑剤を混合して混合物を得る工程と、
減圧蒸留法を用いて、当該混合物から上記有機溶剤を5重量%以下となる迄、除去して上記熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を得る工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法。
【請求項2】
上記有機溶剤が、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法。
【請求項3】
上記塩化ビニルフィルム製造用可塑剤が、ジオクチルフタレート、または、ジイソノニルフタレートであることを特徴とする請求項1または2記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法。
【請求項4】
上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子が、平均粒径800nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム用製造可塑剤の製造方法。
【請求項5】
上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物によって表面処理されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物の製造方法。
【請求項6】
一般式WO(但し、2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.
1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、
分散剤と、
塩化ビニルフィルム製造用可塑剤と、
5重量%以下の有機溶剤とを、有することを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物。
【請求項7】
請求項6記載の熱線遮蔽塩化ビニルフィルム製造用組成物を塩化ビニル樹脂と混練し、フィルム状に成形することにより製造されたことを特徴とする熱線遮蔽塩化ビニルフィルム。

【公開番号】特開2008−274047(P2008−274047A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117019(P2007−117019)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】