説明

熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物並びにそれを含むゴム加硫用配合剤及びゴム組成物

【課題】ゴム組成物用の従来の配合剤より、加硫効率が高く、耐熱老化性に優れ、環境にやさしい化合物の提供。
【解決手段】式(I):


(式中、RはC1〜C20アルキル基、C3〜C10シクロアルキル基、C6〜C20アリール基及びC7〜C30アルカリール基からなる群より選ばれる有機基を示し、R1,R2及びR3は、独立に、水素又はヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基を示し、Xはヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数2〜20の有機基を示す)
で表される熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物並びにそれを含むゴム加硫用配合剤及びゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物並びにそれを含むゴム加硫用配合剤及びゴム組成物に関し、更に詳しくはゴム組成物に配合した場合に、加硫効率が高く、耐老化性に優れ、しかも環境にやさしい、熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ジエン系ゴムは、硫黄で架橋された場合には、架橋結合が熱により解離しやすいポリスルフィド結合から主に成り、耐熱老化性に劣ることが知られており、一方、ブチルゴムは、ジエン系ゴムに比べて耐熱老化性に優れるが、加硫反応に利用できる反応性部位が少ないためにジエン系ゴムに比べて加硫反応が遅く、他のジエン系ゴムと共加硫しにくいという問題があった。これらの問題に鑑み、加硫剤又は共加硫剤として、活性水素含有基を有するチオール/マレイミド付加体であって、加熱によってマレイミド化合物を遊離するとともにチオール基を生成する化合物を用いることが既に提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載の化合物は、ブチルゴムの加硫剤又は共加硫剤として用いた場合に、未加硫ゴムは高い貯蔵安定性を示すとともに、加硫によって得られるゴムは高い熱安定性を示す。しかしながら、未加硫ゴム組成物のスコーチを防止又は遅延しつつ、加硫ゴムの引張特性及び耐熱老化性をさらに改善することが依然として必要とされている。そこで、本発明者らは未加硫ゴム組成物のスコーチを防止又は遅延しつつ、得られる加硫ゴムの引張特性及び耐熱老化性を向上させる化合物であるN−置換スクシンイミドチオ基含有カルボン酸金属塩を見出し、先に特許出願した(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−277705号公報
【特許文献2】特願2005−296241号出願明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、亜鉛華を使用しないゴム配合系として使用でき、環境にやさしく、従来のゴム配合剤に比較して、加硫効率が高く、更に耐熱老化性に優れ、従来品以上の性能を示すゴム加硫用配合剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、式(I):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、RはC1〜C20アルキル基、C3〜C10シクロアルキル基、C6〜C20アリール基及びC7〜C30アルカリール基からなる群より選ばれる有機基を示し、R1,R2及びR3は、独立に、水素又はヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基を示し、Xはヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数2〜20の有機基を示す)
で表される熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物並びにそれを含むゴム加硫用配合剤及びゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記式(I)の新規化合物及びその合成法を見出し、その化合物をハロゲン系ゴムに配合することにより、従来の配合剤より加硫効率が高く、耐熱老化性に優れ、しかも亜鉛華を加えなくても従来と同等以上の性能を示すことを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に従えば、1つの分子に熱解離性部位を有する式(I)で表されるカルボン酸のアミン塩は、カルボン酸(II)とアミン(III)とを、以下の反応式で示すように、反応させることによって製造することができる。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは、C1〜C20アルキル基、C3〜C10シクロアルキル基、C6〜C20アリール基及びC7〜C30アルカリール基からなる群より選ばれる有機基であり;Xは、ヘテロ原子及び/又は置換基を有していてもよい、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルカリーレン基及び複素環基からなる群より選ばれる炭素数1〜20の有機基であり、Xのヘテロ原子としては、例えばS,N,Oがあげられ、置換基としては、例えばハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基があげられ、R1,R2及びR3は、独立に、水素又は炭素数1〜20のヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい有機基である。)
【0012】
上記反応は1つの分子に熱解離性部位(例えばN−置換スクシンイミドチオ基)を有するカルボン酸(II)とアミン(III)とを、適当な溶媒(例えば水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、ペンタンヘキサン)中で0℃〜130℃で反応させることにより、式(I)で表される前記カルボン酸のアミン塩化合物を製造することができる。
【0013】
有機基R,R1,R2及びR3について、かかる有機基のうち、アルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基及びステアリル基などが挙げられる。シクロアルキル基の具体例としては、例えばシクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基の具体例としては、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルカリール基の具体例としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基及びフェニルプロピル基などが挙げられる。有機基Xについて、アルキレン基の具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基及びオクチレン基などが挙げられる。シクロアルキレン基の具体例としては、例えば、シクロヘキシレン基が挙げられる。アリーレン基の具体例としては、例えば、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、ビフェニル−4,4’−ジイル基、ジフェニルメタン−4,4’−ジイル基、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイル基などが挙げられ、アルカリーレン基の具体例としては、例えば、o−キシリレン基、m−キシリレン基、p−キシリレン基などが挙げられ、複素環基の具体例としては、例えば、1,3,4−チアジアゾール基、テトラゾール基、ピリジレン基、1,3,5−トリアジン基などが挙げられる。基Xに更に存在していてもよい置換基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基などが挙げられる。
【0014】
本発明に係る式(I)の熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物はゴム加硫用配合剤、特に架橋剤、加硫促進剤、受酸剤として有用である。
【0015】
本発明に従ったゴム組成物は、ジエン系ゴム及びハロゲン化ゴムからなる群から選ばれる未加硫ゴム成分100重量部に対し式(I)の熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物を0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜5.0重量部配合することにより得ることができる。式(I)のカルボン酸のアミン塩化合物の配合量が少ないと架橋効率が悪くなったり、加硫速度がおそくなったりするので好ましくなく、逆に多いとスコーチし易くなるので好ましくない。
【0016】
本発明において使用するジエン系ゴムとしては、例えばイソプレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムなどを用いることができ、ハロゲン化ゴムとしては、例えば臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物(例えば臭素化物)、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン、塩素化アクリルゴム、フッ素ゴム、エポキシ化アクリルゴム、ハロゲン系モノマーを共重合させたアクリルゴムなどをあげることができる。これらのゴムは単独又は任意の混合物として使用することができる。
【0017】
本発明に係る式(I)のカルボン酸のアミン塩化合物の具体例としては、例えば以下の化合物をあげることができる。
【0018】
【化3】

【0019】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で、例えばロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどで混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0021】
調製例1:化合物1の合成
メタノール150mL中に、N−置換スクシンイミドチオ基含有カルボン酸80g(0.245mol)とシクロヘキシルアミン27.9mL(0.245mol)を装入し、室温で10分反応させた。反応終了後、減圧下でメタノールを除去してからろ過し、アセトンで2回洗浄・乾燥後、下記式で示される反応により、白色粉末の化合物1を103g(収率99%)得た。
【0022】
【化4】

【0023】
1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ in ppm:1.0−1.3,1.5,1.7,1.9,2.7,2.9,4.6,7.1,7.2,7.5
元素分析値(%):C232624
計算値(%)
C:66.77;H:6.14;N:6.57;O:15.00;S:7.52
測定値(%)
C:64.37;H:5.86;N:6.16;O:15.82;S:7.75
【0024】
調製例2:化合物2の合成
メタノール150mL中に、N−置換スクシンイミドチオ基含有カルボン酸130g(0.397mol)とt−ブチルアミン41.5mL(0.397mol)を装入し、室温で10分反応させた。反応終了後、減圧下でメタノールを除去してろ過し、アセトンで2回洗浄・乾燥後、下記式で示される反応により、白色粉末の化合物2を157g(収率99%)得た。
【0025】
【化5】

【0026】
1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ in ppm:1.0−1.3,1.5,2.7,2.9,4.6,7.1,7.2,7.5
元素分析値(%):C232624
計算値(%)
C:62.98;H:6.04;N:6.99;O:15.98;S:8.01
測定値(%)
C:62.44;H:6.07;N:6.77;O:16.23;S:8.14
【0027】
実施例1〜5及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.8リットルのバンバリーミキサーで5分間混練し、140℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0028】
次に得られた未加硫ゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で148℃で30分間(又は180℃で10分間)加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの引張特性を測定した。結果は表Iに示す。
【0029】
ゴム物性評価試験法(引張特性)
上記加硫シートからJIS3号ダンベル形状の試験片を打ち抜き、JIS K6251に従って、伸び100%時のモジュラス(M100)を求め、それらの値を初期値とした。さらに、上記の各未加硫ゴム組成物の別の加硫シートの試料を、JIS K6257に従って、100℃で96時間老化した後のM100を測定した。結果を表Iに示す。なおそれらの初期値を基準として老化後の各値の変化率(%)を下記式:
[(老化後のM100)−(老化前のM100)]×100/(老化前のM100)
に従って求めた。変化率の値が小さいほど、耐熱老化性に優れていることを表す。
【0030】
【表1】

【0031】
表I脚注
*1:Bayer Polysar B.N.Y.社製臭化ブチルゴム
*2:三菱化学(株)製GPF カーボンブラック
*3:日本油脂(株)製
*4:昭和シェル石油(株)製パラフィンオイル
*5:鶴見化学工業(株)製微粉硫黄
*6:大内新興化学(株)製ノクセラーDM
*7:正同化学(株)製
*8:協和化学工業(株)製
【0032】
以上の結果から、本発明の新規な加硫剤兼加硫促進剤は既存の加硫系に比べ、加硫効率が高く、耐熱老化性に優れていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上の通り、本発明の新規なカルボン酸のアミン塩化合物は、ゴム組成物に配合した場合に、従来の配合剤に比較して加硫効率が高く、耐熱老化性に優れていることを確認した。しかも亜鉛華を加えなくても亜鉛華配合のゴム組成物と同等以上の性能を示している。しかも、本発明によれば亜鉛華フリーの配合系として使用することができ、環境にやさしい配合剤となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、RはC1〜C20アルキル基、C3〜C10シクロアルキル基、C6〜C20アリール基及びC7〜C30アルカリール基からなる群より選ばれる有機基を示し、R1,R2及びR3は、独立に、水素又はヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の有機基を示し、Xはヘテロ原子及び/又は置換基を有してもよい炭素数2〜20の有機基を示す)
で表される熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物。
【請求項2】
カルボン酸(II)とアミン(III)とを以下の反応式で反応させることによって、請求項1に記載の式(I)の熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物を製造する方法。
【化2】

(式中、R,R1,R2及びR3並びにXは前記定義の通りである。)
【請求項3】
請求項1に記載の式(I)の熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物からなるゴム加硫用配合剤。
【請求項4】
ジエン系ゴム及びハロゲン化ゴムからなる群から選ばれる未加硫ゴム成分100重量部並びに請求項1に記載の式(I)の熱解離性部位を有するカルボン酸のアミン塩化合物0.5〜10重量部を含んでなるゴム組成物。

【公開番号】特開2008−150295(P2008−150295A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336747(P2006−336747)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】