説明

熱触媒素子を用いた積層型反応ユニット

【課題】本発明は、バインダ−などを用いず、しかも担持の際にTiO の反応性(分解能力)を低下させることのない反応システムにかかり、熱触媒の担持基体としてハニカム型のゼオライトなどに代わって、金属メッシュにて代表される多孔金属基材を担持体とした反応ユニットを提供する。
【解決手段】多孔金属基材と、金属基材の表面に形成した酸化被膜層と、この被膜層上に酸化物半導体を担持した熱触媒素子Aを複数枚用い、被分解物が含まれるガスの流れに対面し、かつ、所定の間隙を隔てて積層した積層型反応ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、TiO などの半導体の熱励起を使った(以下、熱触媒という)反応システムが開発され(特許文献1)、特に、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)除去並びに悪臭防止に適した開発が進められている。
【0002】
【特許文献1】特開2005−139440号
【0003】
本発明は、熱触媒を利用した反応システムに関するもので、更に詳しくは、TiO 粉末などの熱触媒をステンレス(以下、SUSと略記)メッシュにて代表される多孔金属基材上に担持し、これを積層構造とした反応ユニットに係るものである。
【背景技術】
【0004】
以下、本発明の熱触媒としてTiO をもって説明すると、TiO を基材に担持する方法として、塗装法、ディッピング法、電気泳動電着法などが採用されており、担持基材としてセラミックス、ゼオライトなどの無機物及びカ−ボン類、SUS、アルミニウムなどの金属類、又、その形状もプレ−ト、顆粒、球形、線材、ハニカムなどにして適用されている。
【0005】
TiO を基材に担持して用いる熱触媒反応システムは、近年特に注目されており、特にガス状とされたVOCの分解性が極めて顕著であるところからその開発が強く要請されている。即ち、TiO の高度な反応性を維持しつつ、小型で安価な分解システムの開発が強く望まれている。
【0006】
又、各種ごみ燃焼炉や、特に有機廃棄物などを燃料源として使った小型ガス化発電装置では、発生するタ−ルが触媒表面を被覆してしまって不活性化したり、フィルタ−などの目詰まりを引き起こすなど、連続運転の妨げとなっている。しかるに、タ−ルの除去の新しい反応ユニットをこの装置に適用する際には、既存のかかる装置に組み入れやすく、しかも着脱が容易なタ−ル除去ユニットの開発が要請される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、この種の担持基体としてはゼオライトハニカム型構造が理想とされている。しかるに、熱触媒として用いられるTiO は300〜500℃に加熱して用いられるために、これを担持するにはバインダ−などの使用はできるだけ避ける必要がある。ポリマ−に代表される有機物のバインダ−は上述の温度で生成する正孔により分解除去されるため、触媒の担持への付着力が極めて弱い。そのため、高温で安定な水ガラスなどの無機バインダ−も用いられるが、これらが触媒表面を被覆し、触媒効果が上がらないという欠点がある。更に、このハニカム型構造の担持基材は比較的脆い性質があり、交換時などにあって、細かい欠けが発生するとの指摘もある。
【0008】
本発明は、バインダ−などを用いず、しかも担持の際にTiO の反応性(分解能力)を低下させることのない反応ユニットを提供するものであり、熱触媒のハニカム型のゼオライトなどに代わって、金属メッシュにて代表される多孔金属基材を担持基材した反応ユニットである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱触媒素子を用いた積層型反応ユニットは、金属メッシュまたは多孔金属プレ−トにて代表される多孔金属基材上に化合物半導体層を形成させてなる熱触媒素子を、複数枚所定の間隙を隔てて積層してなることを特徴とするユニットである。
【0010】
そして、前記多孔金属基材が、酸化処理により表面に酸化被膜層を有することが好ましい。かかる酸化処理は、湿潤水素にて加熱酸化処理するか、空気中で加熱酸化処理するのがよく、この酸化被膜層は化合物半導体層を兼ねているが、この上に、更に酸化物半導体にて代表される化合物半導体層を担持させた熱触媒素子を用いれば、より効果的な反応ユニットとなる。
【0011】
そして、化合物半導体層の担持は、好ましくは、電気泳動電着法、塗装法、ディップ法、により行う反応ユニットであり、中でも、電気泳動電着法が最も好ましい。
【0012】
本発明は、以上述べた積層型反応ユニットの熱触媒素子を、被分解物が含まれるガスの流れに対面させて配置することを特徴とするガス処理システムでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の最も好ましい積層型反応ユニットによれば、一定の大きさに裁断した多孔金属基材に酸化処理を施し、好ましくは、酸化物半導体を担持した熱触媒素子を用い、この複数枚を、ガスの流れに対面して間隙を設けて積層配置したものであり、分解能力は極めて大きく、その取扱いが容易となり、実用性を高めたものである。
【0014】
そして、バインダ−を用いることなく、多孔金属基材と半導体層との担持が安定化し、本来の分解性能を阻害することのない熱触媒素子となり、ガス中の有機物成分を効果的に分解処理する反応ユニットが提供できることとなったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の熱触媒素子を用いた積層型反応ユニット及びガス処理システムは、熱触媒素子を複数枚用い、被分解物が含まれるガスの流れに対面し、かつ、所定の間隙を隔てて積層したことを特徴とするものであり、用いられる熱触媒素子は、多孔金属基材を酸化させて得られた酸化被膜層がそのまま用いられ、更に好ましくは、この酸化被膜層の表面に、酸化物半導体にて代表される化合物半導体層を担持させたものである。
【0016】
この酸化被膜層は、元来が金属基材を構成する元素を酸化したものであり、金属基材との間の剥離は基本的には生じない構成である。この酸化被膜層は、そのまま熱触媒素子となるが、これをより効果的にするために、更に、好ましくは酸化物半導体である化合物半導体を担持させるものである。酸化被膜層側から言えば、その熱膨張係数が、基材である金属基材と、化合物半導体との近似の数値にあることから、化合物半導体を担持するのに好適な中間層であるといえる。
【0017】
以下、酸化被膜層上にTiO を担持した熱触媒素子をもって更に説明すると、分解反応に寄与する熱励起による正孔の生成数(例えば350℃)は光触媒のそれに比べ10桁以上と圧倒的に多く、多くの応用が期待できる。しかるに、前記したように、更なる実用化を視野に入れると、反応ユニットの小型化・簡素化が必要であり、しかもTiO 粉末の担持基材への担持が重要な技術になる。しかるに、前記したように、有機物であるバインダ−(接着剤)は分解されてしまうため使用することができないという問題がある。
【0018】
本発明は、触媒の担持基材として知られているハニカム型構造に代えて、例えば、SUSメッシュを用いて反応ユニットを完成したのが最大の特徴である。そして、TiO などの半導体の熱励起を利用する熱触媒反応ユニットは、小型であること、更に比表面積が大きく、分解能力の高い半導体粉末を基材に強固に担持することが必須条件である。特に、担持の際には触媒の分解能力を損なわずに、担持することが求められ、バインダ−などの使用を避ける必要がある。
【0019】
本発明者等は、SUSメッシュ上に電気泳動電着法にてTiO を担持したシステムを開発し、従来のハニカム型構造の特徴を凌ぐ簡便なユニットを完成させた。
【0020】
本発明にて用いられる金属基材としては、好ましくは、所望の線径からなる金属メッシュであり、あるいは所望の大きさの穴を多数開けた金属プレ−トである。そして、金属基材の例としては、クロム鋼(各種SUS)が挙げられるが、アルミニウム、チタン、銅、亜鉛、ジルコニウム、鉄、スズ、ニッケル、マンガン、コバルトなどの金属材料、あるいはこれらの元素を成分とする合金が用いられ得る。
金属基材は、例えば円盤状に打ち抜いた金属メッシュに酸化チタンなどの粉末を担持した熱触媒素子を単位とし、これらを10〜30枚程度積層したカ−トリッジ型の反応ユニットを構築するものである。
【0021】
金属メッシュを例に取れば、用いられるメッシュは夫々の用途によって任意に選択されるものであり、線径も又同様である。例えば、ステンレス(Cr鋼:SUS)メッシュは網目の密なものから粗なものまで存在し、被分解気体の流量や濃度に応じて、網目の間隔、網線の直径を自由に選ぶことができる。このことは、金属プレ−トを用いる際、これに開ける穴の大きさや数も同様のことが言えることは勿論である。
【0022】
熱触媒素子は熱履歴を繰り返し与えられることから、金属基材とTiO との間の剥離が生じたり、TiO 自体に亀裂が入ったりすることもあり、これらの改良がなされなくてはならない課題である。特に、金属基材上にTiO 層を担持形成した熱触媒素子にあって、熱履歴の繰り返しによる両者間の剥離が生じるが、この原因は各々の有する熱膨張係数の差によるものであり、事実、両者の間には一桁あるいはそれ以上の熱膨張係数の違いがある。
【0023】
本発明の好ましい態様においては、金属基材表面にTiO と近似の熱膨張係数を有する金属酸化物中間層を生成させることによってその解決を図ったものである。本発明によって形成した中間層は、金属基材中に含まれている元素が酸素と反応して得られた酸化被膜層であり、例えば、金属基材中に含まれる成分が酸素と反応し、例えば、Cr 、Fe 、Al 層などを形成するものであるため、金属基材と剥離することはなく、又、互いの熱膨張係数が近いため、担持されたTiO と剥離することもない。
【0024】
尚、かかる酸化被膜層は、それ自体が酸化物半導体である。このため、熱分解効率はやや下がるものの、これをそのまま酸化物半導体層として用いて、有機物の分解に供するこができ、本発明の請求項6を構成することとなる。
【0025】
かかる酸化被膜層を形成するための金属基材表面の処理は、勿論、熱膨張係数が両者に近似する酸化被膜層を形成するためのもので、好ましい方法として、湿潤水素にて約980〜1000℃で加熱酸化処理する方法、あるいは空気中で例えば約800〜850℃、1〜2時間程度加熱処理する方法がある。尚、湿潤水素によりステンレスを1000℃で直接酸化すると選択的にCr の層が形成され、その膜は約0.5μm程度の緻密なものである。一方、空気中800℃で直接酸化した場合には、主としてFe が生成し、膜厚は約2〜3μmで面は荒れている。
【0026】
前者の湿潤水素による酸化処理は、水蒸気を含んだ水素にて処理することであり、水素ガスを水中にてバブリングすることで得ることができる。この方法は、金属基材の表面を水素で還元処理して清浄な表面とし、次いで、この清浄な表面を、約1000℃の湿潤水素雰囲気下にて、水蒸気(H O)の熱分解により生じた酸素を用いて酸化する方法であり、膜厚が一様でかつ緻密な酸化膜を形成することができるという特徴がある。金属基材としてSUSをかかる手段にて処理することにより、Cr成分が選択的に酸化され、Cr 層が形成される。
【0027】
一般には、金属基材の表面に、金属基材中のクロム分、鉄分、アルミニウム分などが酸素と反応し、Cr 、Fe 、Al 層を形成することとなる。
【0028】
金属基材としてアルミニウムを用い、その表面にAl 層を形成し、担持する酸化物半導体層をルチル型のTiO とした場合、Al の熱膨張係数は8×10−6/℃、ルチル型のTiO の熱膨張係数は7.19×10−6/℃〜9.94×10−6/℃であるので、好適な組み合わせとして例示される。
【0029】
尚、金属基材、金属酸化物の熱膨張係数の例は以下の通りである。Ni−Cr:1.25×10−5/℃、SUS:1.72×10−5/℃、TiO :8.19×10−6/℃、Cr :9.6×10−6/℃(非特許文献2)であり、金属と酸化物はほぼ一桁異なることが分かる。
【0030】
【非特許文献2】G.V.Samsonov,”The Oxide Handbook”,IFI/Plenum Data Corp(1969)
【0031】
さて、熱触媒素子の最も好ましい構成とするため、TiO を金属基材面に形成した酸化被膜層上に担持するが、その担持手段としては、電気泳動電着法、塗布法、ディップ法などが用いられ得るが、中でも、TiO 粉末の金属基材上への担持手段として、電気泳動電着法による担持が特に好ましいことが判明した。即ち、かかる電気泳動電着法にあっては、短時間かつ低コストで、いかなる形状の金属基材上にも、所望の膜厚のTiO 層を担持できることが判明したものである。各担持方法は後段で更に詳しく説明する。
【0032】
熱触媒の主体をなす化合物半導体としてここまでTiO を中心に説明してきたが、これに限定されないことは勿論であり、化合物半導体は高温状態で酸素雰囲気下にあっても安定な物質で、例えば、次の化学式で示される化合物半導体などが挙げられる。酸化物半導体ではないがカドミウムカルコゲナイドも有効である。ただし、各半導体のバンドギャップが異なるため有機化合物の分解温度はそれに伴い変化する。
【0033】
BeO,MgO,CaO,SrO,BaO,CeO ,ThO ,UO ,U ,TiO ,ZrO ,V ,Y ,Y S,Nb ,Ta ,MoO ,WO ,MnO ,Fe ,MgFe ,NiFe ,ZnFe ,ZnCo ,ZnO,CdO,Al ,MgAl ,ZnAl ,Tl ,In ,SiO ,SnO ,PbO ,UO ,Cr ,MgCr ,FeCrO ,CoCrO ,ZnCr ,WO ,MnO,Mn ,Mn ,FeO,NiO,CoO,Co ,PdO,CuO,Cu O,Ag O,CoAl ,NiAl ,Tl O,GeO,PbO,TiO,Ti ,VO,MoO ,IrO ,RuO ,CdS、CdSe,CdTe。
【0034】
中でも、酸化物半導体が好ましく、特にTiO 、ZnO、SnO 、Cr は活性が高く、無害であるため安全性が優れるので好ましく、特に、TiO の結晶形がアナターゼ型のものは活性が高いが、ルチル型のものでも良い。上記半導体は、熱が加えられると大量の正孔が生成して活性化し、接触する有機物を酸化分解する機能を有する。粒径は特に限定されないが、表面反応であるので比表面積が大きく、かつ、結晶性の高いものが好ましい。この化合物半導体の膜厚は、機械的強度を保ちつつ触媒としての機能を発揮することができる膜厚であればよく、例えば、膜厚は1〜10μmが好ましく、より好ましくは1〜5μmである。
【0035】
上記したように、化合物半導体層を形成するには、電気泳動電着法が好んで用いられるが、金属酸化物微粒子の粒径及び表面積を保つため、金属酸化物微粒子を有機溶媒中に分散した分散液を作製し、この分散液中に、金属基材を浸漬し、電気泳動電着法により金属基材の表面に金属酸化物微粒子を担持させ、化合物半導体層とする方法である。この手法は様々な形状の担体に短時間かつ低コストで電着が可能であり、分解能力の高い最適なTiO 粉末を電着できる。
電気泳動電着法の場合、TiO 、ZnO、ZrO 、Fe 、SnO 、NiO、MnO 、CoOなどの金属酸化物、あるいはこれらを成分とする複合酸化物が好適に用いられる。
【0036】
このようにして得られた特に好ましい熱触媒素子構成の具体例は、SUS/Cr /TiO 、SUS/Fe /TiO であり、酸化物半導体本来の熱分解性能を阻害することなく、ガス中の有機物成分を効果的に分解処理する。従って、この熱触媒素子を用いて反応システムを構成すれば、気体中の有機物成分を効果的に分解処理することができ、VOC分解、悪臭(NH 、メルカプタンなど)防止、有機廃棄物を原料として用いる小型ガス化発電装置における管内のタ−ルの分解、ダイオキシンなどの有害物質の分解処理、ディ−ゼル廃棄ガスの処理が比較的容易に行うことができる、極めて効果的な形状と性能を持つTiO 触媒を作製することができたものである。
【0037】
ここで、熱触媒素子の特徴を更に明確にするために、従来のハニカム構造の担持体との比較を行うと、担持が強固でTiO の粉がこぼれ落ちないこと、製造がシンプルで安価なこと、様々なガスの流量に対処できる熱触媒素子ができること、即ち、メッシュや穴の粗密が任意に選択できること、取扱いに便利なカ−トリッジ化が容易であること、などの優れた特徴を有している。
【0038】
そして、本発明の反応ユニットは熱触媒素子を積層し、いわゆるカ−トリッジ型に構成したものである。この反応ユニットは、各種の分解装置内の所定位置にそのままセットして使用し、かつ、取り出すことを容易とした、いわゆるカ−トリッジ型に構成したものである。
【0039】
かかる反応ユニットの詳細は後述するが、筒体内に複数のプレ−ト状の熱触媒素子を納める構造や、熱触媒素子をスペ−サ−で挟んで積層し綴じ込む構造などが例示できる。尚、積層の際には、必ずしも同じ素材の熱触媒素子を用いる必要はなく、場合によっては、複数の異なる熱触媒素子を適宜選択して積層することができることは言うまでもない。
【実施例】
【0040】
「熱触媒素子A1」
金属基材として、ステンレスメッシュ(SUS304:100メッシュ、φ28円盤)を用い、これをアセトンで脱脂処理後、湿潤水素酸化雰囲気下で980℃で30分処理を行い、選択的にCr成分が反応し、表面にCr 被膜層(膜厚:0.5μm)を形成した。
尚、空気中で800℃×30分の酸化では主としてFe 被膜層が形成される。
【0041】
「熱触媒素子A2:電気泳動電着法」
段落0039にて得られた熱触媒素子A1に、電気泳動電着を行った。即ち、前記の熱触媒素子A1を陽極、Al板を陰極に配置し、電源は直流電源を用いて、120V、0.01秒間電着を行った。
得られたTiO の被膜は3μmの厚さであり、亀裂は見られなかった。そして、被膜の熱耐久性を見るため、空気中で500℃、1時間加熱、室温まで冷却という熱サイクル処理を繰り返し行ったが、被膜とステンレスメッシュ1との間の剥離は見られず、かつ、新たな亀裂を生じることもなかった。
【0042】
用いられた電着液は、アセトンを主成分とした非水溶媒系を用いるもので、TiO 粉末ST−10(石原産業、比表面積278m /g、粒径7nm)を10g、アセトンを100ml、分散剤としてのニトロセルロ−スを0.30gを混合した懸濁液をボ−ルミルにより小粒子化処理を施し、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH:10%水溶液)を12μl、濃硫酸40μlを導入して調製した。
【0043】
「熱触媒素子A3:ディップ法」
段落0040にて得られた熱触媒素子A1のCr 層の表面に、ディップ法にてTiO 被膜を形成した。懸濁液の組成は段落40のTiO 粉末量を20g、ニトロセルロース量を0.6gとしたものを用いた。ディップ・コーティングを3回繰り返して、約3〜5μmのTiO 被膜を作製した。
【0044】
「熱触媒素子A4:吹き付け法」
段落0039にて得られた熱触媒素子A1のCr 層の表面に、吹き付け法にてTiO 被膜を形成した。懸濁液の組成は段落0040と同じものを用いた。約3〜5μmのTiO 被膜を塗布した。
【0045】
「積層型反応ユニットB1」
熱触媒素子A1を10〜30枚用い、カートリッジ内に積層しフィルター状の反応ユニットB1を構築した。図1はこの反応ユニットBの第1例(B1)を示す半裁図及び正面分解図であって、熱触媒素子A1(各図で、熱触媒素子を共通してAにて示す)の10枚を、間隔(1mm)を隔てて筒体11の内部に配置したものである。縦方向に二つ割りのステンレス製の二分割筒体11a、11bの内側に1mmの間隔をもって多数の内溝12が彫られており、この内溝12内に複数の熱触媒素子A1をセットし、二分割筒体11a、11bの外周側に刻設した外溝13内に割りリング14を嵌め込んでなるものである。この積層型反応ユニットB1にあって、ガス分解装置にそのままセットされる。尚、二分割筒体11a、11bの合体にあっては、割りリング以外の他の公知手段によって行えることは勿論である。更に、符号15は反応装置の管材などへセットするための凹みであるが、この部位を逆に凸部としてセットに供することができることは言うまでもない。
【0046】
「積層型反応ユニットB1」にあって、熱触媒素子はA1に限定されるものではなく、前記した各熱触媒素子A2〜A4も同様に利用可能であることは言うまでもない。
【0047】
「積層型反応ユニットB2」
図2は反応ユニットBの第2例(B2)を示す半裁図である。筒体21には一方に外向きのフランジ21aを、他方に内向きのフランジ21bを形成したものであり、筒体21の内部に熱触媒素子Aとスペ−スリング22とを交互に積層し、ねじ込みリング23にて固定したものである。外向きフランジ21aは、炉側のガス排出管24のフランジ24a、及び次工程配管25のフランジ25aがガスケット26を挟んでボルト・ナット27にて固定したものである。このボルト・ナット27をもって反応システムCの着脱が自在となる。尚、熱触媒素子Aは前記した全てのものが適用できることは言うまでもない。矢印はガスの流れを示すものである。
【0048】
「積層型反応ユニットB3」
図3は反応ユニットBの第3例(B3)を示す半裁図及び用いられた熱触媒素子Aを示すものである。この例では熱触媒素子Aの周囲をZ字状に折り曲げしたものであり、折り曲げた部位zを突き合わせて熱触媒素子Aを積層状態とするものである。図3の反応ユニットB3は、例えば、図示するように次工程配管25の内側に突出させたストッパ−sと、フランジfの間に挟んでなるものである。尚、この例でも、熱触媒素子Aは前記した全てのものが適用できる。勿論、上記の図2に示すと同様な筒体21内に嵌め込んで反応ユニットとすることも可能である。
【0049】
「積層型反応ユニットB4」
図4は反応ユニットBの第4例(B4)を示す斜視図、半裁図及びスペ−サ−と熱触媒素子Aとの関係のみを示す部分図である。この例では熱触媒素子Aの中心に穴31を形成し、ここに固定用のねじ32を挿通して全体として熱触媒素子Aの積層体を得るものである。図にあって、放射状リブ33cを備えた33a、33bはサイドクランパ−、34aは熱触媒素子Aの周囲に適用されたスペ−サ−である。かかるスペ−サ−34aはこの例では断面コ字状、L字状をなしているが、この形状に限定されるものではなく、上記のサイドクランパ−と類似の形状のもの(Z字状の断面)、単なるリング状のもの(34b)を中心部に挟み込むものなどが例示できる。この例でも、熱触媒素子Aは前記した全てのものが適用できることは勿論である。
【0050】
「トルエン並びにベンゼンの分解実験」
図5はトルエンの分解に供する反応装置の一例を示す概念図である。図中、51は空気ボンベ、52は酸素ボンベ、53はトルエンあるいはベンゼン気化管である。又、54は熱源を示し、この熱源54に対応して本発明の反応ユニットB1を管内にセットしたものである。55は反応後の気体を分析する四重極質量分析器(Q−MS)である。尚、上記の反応装置中、バルブ等の説明は省略する。
【0051】
空気ボンベ51からの空気(流量50ml/min)で気化管53中のトルエンをバブリングして、飽和蒸気量(25℃、2.28%)でガス化した。そして、加熱した反応系、即ち酸化物半導体を加熱した反応ユニットB1に導いてガスの分解に供し、その後のガスを四重極質量分析器55により気体成分の質量分析を行うものである。
【0052】
前記の熱触媒素子A1を30枚用いて積層型反応ユニットB1を構成し、トルエンの分解実験を行った。トルエン分解実験での各温度におけるガス成分量と温度の関係を測定した。その結果、トルエンは350℃あたりから急激に減少し、これと同時に炭酸ガスが増加し、又酸素が減少した。始状態で約2.28%のトルエンは500℃で炭酸ガスと水に完全分解された。
これらの結果から、TiO 粉末は担持前のいわゆる中間層のままでも、大きな分解能力を持っており、VOC分解の反応ユニットとして有効であることが分かった。
【0053】
熱触媒素子A2を用いた積層型反応ユニットB1にてトルエンの分解実験を同様に行った。この結果、始状態で約2.28%のトルエンは500℃で完全に炭酸ガスと水に分解された。
これらの結果から、TiO 粉末は担持後でも大きな分解能力を持っており、VOC分解の反応システムとして非常に有効であることが分かった。
【0054】
熱触媒素子A2を用いた積層型反応ユニットB1にてベンゼンの分解実験を行った。即ち、前記実施例と同じ条件で飽和蒸気量のベンゼン(25℃、約3.03%)の分解実験を行った。ベンゼンの分解は250℃あたりから始まり、450℃で炭酸ガスと水に完全分解された。
【0055】
熱触媒素子A2の枚数を20枚とし、更に空気量を100ml/minとしてトルエンの分解実験を行った。実験の結果、500℃で完全に炭酸ガスと水に分解されることを確認した。
【0056】
熱触媒素子A2の枚数を20枚とし、更に空気量を100ml/minとしてベンゼンの分解実験を行った。実験の結果、460℃で完全に炭酸ガスと水に分解されることを確認した。
【0057】
熱触媒素子A3の枚数を10枚とし、段落0053と同様の条件でトルエンの分解実験を行った。実験の結果、500℃で完全に炭酸ガスと水に分解されることを確認した。
【0058】
熱触媒素子A3の枚数を20枚とし、段落0054と同様の条件でベンゼンの分解実験を行った。実験の結果、480℃で完全に炭酸ガスと水に分解された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は以上の通りの積層型反応ユニット及びガス処理システムであって、積層型ユニットとハニカム型構造との比較にあっては、熱触媒素子を製造する面では、安価であること、製造法がシンプルであること、熱触媒素子の面から言えば、バインダ−を不要とすること、担持の表面を100%被覆できること、担持が強固で酸化物半導体の粉がこぼれ落ちることがないこと、などが特徴として挙げられ、これらはハニカム構造にはない特徴点である。又、担持基材の面から言えば、ガスの様々な流量に対処できること、担持基材のメッシュや穴の疎密の調整が容易であること、担持体が金属であるので、熱伝導率が高いこと(即ち、温度むらが少ないこと)が挙げられ、ハニカム構造より優れている面であり、特に、使用に供されている際の温度にむらがないことは、分解反応がそれだけ効率よく行われることになる。更に、カートリッジ化が容易であり、反応ユニットが既存の装置の配管内に組み込みやすいこと、も大きな特徴の一つである。
【0060】
従って、本発明にて提供された熱触媒素子を用いた積層型反応ユニットは、各種のガス処理システムに利用可能であり、ガスの分解能が高く、小型、安価であり、トルエン、ベンゼンなどのVOC分解装置、アンモニア、メルカプタンなどの悪臭分解、ごみなどを原料として用いる小型ガス化発電装置における管内に発生するタ−ルの分解装置、ダイオキシンなどの有害物質の分解処理、ディ−ゼル廃棄ガスの処理が比較的容易に行うことができることとなったもので、しかもこの反応ユニットは着脱も容易であり、適用する技術範囲も広範である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は積層型反応ユニットの第1例を示す半裁図及び正面分解図である。
【図2】図2は積層型反応ユニットの第2例を示す半裁図である。
【図3】図3は積層型反応ユニットの第3例を示す半裁図及び熱触媒素子である。
【図4】図4は積層型反応ユニットの第4例を示す斜視図、半裁図及びスペ−サ−と熱触媒素子Aとの関係のみを示す部分図である。
【図5】図5はトルエンの分解に供する反応装置の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
A‥熱触媒素子、
B1、B2、B3、B4‥積層型反応ユニット、
11‥筒体、
11a、11b‥二分割筒体、
12‥内溝、
13‥外溝、
14‥割りリング、
15‥結合部位、
21‥筒体、
21a、21b‥内外フランジ、
22‥スペ−スリング、
23‥ねじ込みリング、
24‥炉側のガス排出管、
24a‥炉側のガス排出管のフランジ、
25‥次工程配管、
25a‥次工程配管のフランジ、
26‥ガスケット、
27‥ボルト・ナット、
31‥熱触媒素子の中心の穴、
32‥固定用ねじ、
33a、33b‥サイドクランパ−、
33c‥サイドクランパ−のリブ、
34a、34b‥スペ−サ−、
51‥空気ボンベ、
52‥酸素ボンベ、
53‥トルエンあるいはベンゼン気化管、
54‥熱源、
55‥質量分析器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔金属基材上に化合物半導体層を形成させてなる熱触媒素子を、複数枚所定の間隙を隔てて積層してなることを特徴とする積層型反応ユニット。
【請求項2】
多孔金属基材が金属メッシュまたは多孔金属プレ−トである請求項1記載の積層型反応ユニット。
【請求項3】
多孔金属基材が酸化処理により表面に酸化被膜層を有する請求項1又は2記載の積層型反応ユニット。
【請求項4】
前記酸化処理は湿潤水素にて加熱酸化処理する請求項3記載の積層型反応ユニット。
【請求項5】
前記酸化処理は空気中で加熱酸化処理する請求項3記載の積層型反応ユニット。
【請求項6】
前記酸化被膜層が前記化合物半導体層を兼ねている請求項3乃至5いずれか1に記載の積層型反応ユニット。
【請求項7】
多孔金属基材上に化合物半導体層を担持させて化合物半導体層を形成させた請求項1乃至5いずれか1に記載の積層型反応ユニット。
【請求項8】
前記化合物半導体が酸化物半導体である請求項1乃至7いずれか1に記載の積層型反応ユニット。
【請求項9】
前記化合物半導体層の担持は、電気泳動電着法、塗装法、ディップ法から選ばれた方法により行う請求項7記載の積層型反応ユニット。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか1項記載の積層型反応ユニットの熱触媒素子を、被分解物が含まれるガスの流れに対面させて配置することを特徴とするガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−220009(P2009−220009A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66719(P2008−66719)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年2月17日 化学工学会発行の「第73年会(2008)化学工学会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】