説明

熱間吹付け補修材

【課題】 速乾性に優れる熱間吹付け補修材を提供することにある。
【解決手段】 本発明に係る熱間吹付け補修材は、75μm以下の粒度を有する耐火原料を25〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄を主要成分とし、かつ、1.0mm以下の粒度を70wt%以上含有する金属粉または鉄合金粉を、上記耐火原料に対して、5〜50wt%添加してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉,電気炉,取鍋,RH等の製鋼設備の炉壁や炉底等に適用される熱間吹付け補修材(熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材)に関し、特に、速乾性に優れた熱間吹付け補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
生産効率向上のため、転炉,電気炉,取鍋,RH等の製鋼設備の熱間における炉修時間は短縮傾向にあり、操業に短時間で復帰できるように速乾性の吹付け材が求められている。吹付け施工体が乾燥する前に溶鋼に触れると、爆発的に水分が蒸発し、溶鋼が飛散するため危険である。
【0003】
ところで、RH浸漬管の補修では、耐火骨材に燐酸塩あるいは珪酸塩等の無機バインダーを3wt%〜10wt%の割合で添加した燐酸,珪酸ボンド系吹付け材が知られている。しかし、重ね吹きしつつ補修すると、乾燥するまでに時間がかかる。この対策として、本発明者等は、通気性の改善のために繊維を添加したり、また、ゲル化し難いバインダーの使用を試みたりしたが、いずれも乾燥時間短縮効果が得られなかった。
【0004】
一方、ピッチやフェノール樹脂を添加した、いわゆるカーボンボンド吹付け材も知られているが、バインダーのピッチが焼き付くまでの養生時間が、前記燐酸,珪酸ボンド系吹付け材に比較して長く、また、煙を発生する欠点がある。そのため、十分な熱量と集塵装置を備えた製鋼設備でなければ、カーボンボンド吹付け材の適用は困難であり、取鍋スラグライン部,RH浸漬管,放冷した電気炉のような比較的低温で冷めやすい条件では適用できない。
【0005】
また、金属粉を添加した補修材として、鉄粉を添加した転炉焼付け補修材も紹介されている(特許文献1参照)。これは、焼付け材に鉄粉を添加することで、施工面温度を下げ、接着性を改善することを目的としている。常温で粉末の焼付け材が熱間ではピッチの溶融によりスラリー化し、鉄粉が沈降して底の施工面との境界に鉄が偏在することで施工面温度が低下し、接着性が改善されるとしている。
しかし、接着界面に鉄が濃縮されるために、精錬処理中に溶鋼が施工体と施工面の界面に差し込み易く、焼付け施工体を剥離させるため、十分な耐用は得られない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−278948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記燐酸,珪酸ボンド系吹付け材は、カーボンボンド吹付け材に比較して硬化が早く、操業中の補修に向いている。しかし、更なる補修時間の短縮化を図るためには、施工体水分の乾燥時間の短縮が重要である。取鍋スラグライン部,RH浸漬管,放冷した電気炉のような比較的低温で冷めやすい条件では、特に施工体の乾燥時間が長くなり、補修時間を伸ばしている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み成されたものであって、製鋼炉操業に対して、短時間補修が可能な、特に、速乾性に優れた熱間吹付け補修材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱間吹付け補修材は、75μm以下の粒度を有する耐火原料を25wt〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄(Fe)を主要成分とする金属または鉄合金を、上記耐火原料に対して、5wt%〜50wt%添加してなることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
また、本発明に係る熱間吹付け補修材は、75μm以下の粒度を有する耐火原料を25wt〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄(Fe)を主要成分とし、かつ、1.0mm以下の粒度を70wt%以上含有する金属粉または鉄合金粉を、上記耐火原料に対して、5wt%〜50wt%添加してなることを特徴としている(請求項2)。
【0011】
さらに、本発明に係る熱間吹付け補修材は、バインダーが珪酸塩または燐酸塩であることを特徴としている(請求項3)。
【0012】
本発明に係る熱間吹付け補修材は、鉄を主要成分とする金属(金属粉)または鉄合金(鉄合金粉)を添加することにより、熱伝導性を高め施工体内部まで熱が伝わり易くなることで、施工体の乾燥を速め、補修時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、それに先立って、本発明について、従来技術との関連で更に詳細に説明する。
【0014】
カーボンを含むカーボンボンド吹付け材は、ピッチなどをバインダーとして含んでおり、吹き付けられて付着したあと熱が加わることでバインダーが溶融し、その後、硬化してカーボンボンドを形成して強固に接着する。施工体も、硬化した後の強度は十分高く、カーボンを含むことでスラグの浸潤も起き難く、高耐用な施工体を得ることができる。
しかし、ピッチを溶融させ固化させるだけの熱量が必要なことと有害なガスが発生することから、集塵設備が無い炉での適用は難しく、また、取鍋スラグライン部,RH浸漬管,放冷した電気炉のような比較的低温で冷めやすい条件では固化せず、十分な耐用も補修時間の短縮も期待出来ない。
【0015】
一方、カーボンボンドを含まない燐酸,珪酸ボンドは、ゲル化することで瞬間的に付着し、水分が蒸発し固化する。カーボンボンド吹付け材に比較して補修時間は短いものの、取鍋スラグライン部,RH浸漬管,放冷した電気炉のような比較的低温で冷めやすい条件では、燐酸,珪酸ボンド吹付け材においても更なる時間短縮が求められている。
また、施工厚みが厚くなると施工面は熱いが、吹付け材の熱伝導率が低いために表面まで熱が伝わりにくく乾燥が遅れる。
【0016】
これらの吹付け材の補修時間を、取鍋スラグライン部,RH浸漬管,放冷した電気炉のような比較的低温で冷めやすい条件においても短縮するためには、固化に時間のかかるピッチなどを含むカーボンボンドを使用せず、燐酸,珪酸ボンドを用いることが必要であり、かつ、施工厚みが厚くても、乾燥がスムーズに進むように施工体の熱伝導率を向上させることが重要である。
【0017】
熱伝導率を向上させるためには、鉄を主成分とする金属粉あるいは合金粉の添加が有効である。吹付け施工により鉄を主成分とする金属粉あるいは合金粉が施工体内に均一に分散され、施工体全体の熱伝導性が向上し、重ね吹きを行い、施工厚みが厚くても熱が背面から速く伝わることで、施工体全体の乾燥が進むことから、通常の燐酸,珪酸ボンド吹付け材に比較して、乾燥が非常に早くなり補修時間を短縮できる。
【0018】
金属粉を添加しても、前掲の特許文献1(特開平11−278948号公報)の焼付け施工方法のように、鉄粉が偏在すると、施工体全体の熱伝導性の向上が期待できず、補修時間の短縮は期待できないが、本発明に係る熱間吹付け補修材によれば、吹付け施工であることから、施工体内に均一に鉄を主成分とした金属あるいは合金を分散させることができるため、施工体の熱伝導率が向上し、施工体全体が均一に昇温する。
【0019】
以下、本発明の実施態様について説明すると、本発明に係る熱間吹付け補修材は、前記したとおり、75μm以下の粒度を有する耐火原料を25wt〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄を主要成分とする金属または鉄合金を、上記耐火原料に対して、5wt%〜50wt%添加してなることを特徴としている。
【0020】
本発明において、添加する鉄を主要成分とする金属あるいは鉄合金は、その粒度として、1.0mm以下の粒度が70wt%以上であることが望ましい。これは、1.0mmよりも粗い粒ばかりであると、偏在し易くなり、大量に添加しないと、熱伝導性が向上しないためである。
【0021】
また、鉄を主要成分とする金属あるいは鉄合金の添加量も5wt%未満の場合、熱伝導性が十分でなく、施工体の内部まで乾燥,固化がなかなか進まない。そのため、中央部は水分が残った状態となりやすく、溶鋼に触れると爆発的に蒸発し、溶鋼を飛散させるため危険である。5wt%以上添加することで熱伝導性が向上し、補修時間の短縮効果を得ることができる。また、逆に添加量が多すぎても、耐火物組織が分断され、耐用低下を招くことから、鉄を主成分とした金属あるいは鉄合金は、添加量として5wt%〜50wt%が望ましい。
【0022】
本発明において、75μm以下の粒度を有する耐火原料が50wt%よりも多すぎると、前記金属粉あるいは鉄合金粉の伝熱効果を阻害する。また、25wt%よりも少ないと、前記金属粉あるいは鉄合金粉の比率が高過ぎ熱間で施工体が柔らかくなり過ぎて、耐用が低下する。
【0023】
本発明における耐火原料としては、通常使用される耐火材料が使用でき、例えば溶融アルミナ,焼結アルミナ,焼結ムライト,カルシア部分安定化ジルコニア,イットリア部分安定化ジルコニア,シャモット,炭化珪素等の1種、また、それらの混合物も使用できるが、特に、粒度3mm以下に粒調されたMgO,MgO−CaO系骨材、例えば、電融マグネシア,焼結マグネシアクリンカー,天然マグネシアクリンカー,天然ドロマイトクリンカー,合成ドロマイトクリンカー,MgO−Cれんが屑,ドロマイト煉瓦屑等の塩基性骨材が好ましい。
【0024】
本発明において、カーボンボンドを含まないバインダーとしては、燐酸,珪酸等が挙げられる。特に、燐酸ソーダ,珪酸ソーダの1種または2種以上を組み合わせて適用することが好ましい。添加量としては、合計量として2wt%〜15wt%が好ましく、より好ましくは5wt%〜10wt%である。
【0025】
鉄を主要成分とする金属粉あるいは合金粉は、前掲の特許文献1(特開平11−278948号公報)のように、通常、カーボンボンドの酸化防止あるいは施工面の温度抑制を目的に添加されるが、本発明では、施工体の熱伝導性を向上させることにより吹付け施工体の乾燥時間の短縮を目的に添加するため、添加量は酸化防止目的よりも多く、外掛けで5wt%〜50wt%が必要となる。5wt%以下では十分な熱伝導性向上効果が無く、50wt%以上では施工体の耐用を低下させる。さらに、均一に分散し熱伝導性を向上させ、耐用を低下させないためには、15〜35wt%の添加量が好ましい。
【0026】
鉄を主要成分とする金属粉あるいは合金粉の種類としては、鉄粉の他、ミルスケール,Fe−Si,Fe−C,Fe−Cr,Fe−Cu,Fe−Ni,Fe−Co,Fe−Mn,Fe−Al等の粉末が挙げられる。特に、鉄が主成分のものは価格的にも多量の添加が可能であり有効である。1.0mmを超える金属粒あるいは合金粉が30wt%以上の粗い粒が含まれると、吹き付け施工体内で偏在し易く、大量に添加しないと熱伝導性が向上しないため、1.0mm以下が70wt%以上含むものが望ましい。
【0027】
このように、本発明の鉄を主要成分とする金属粉あるいは鉄合金粉を含む燐酸,珪酸ボンド熱間吹き付け補修材は、鉄を主要成分とする金属粉あるいは鉄合金粉の均一な分散による熱伝導率の向上により、従来にない補修時間の短縮を可能としている。
【0028】
これらの成分のほかに、本発明に係る熱間吹付け補修材は、必要に応じて、少量の解膠剤,繊維類,粘土,シリカフラワー等の添加剤が添加される。
【0029】
解膠剤は、施工体組織の緻密性を向上させるため、必要に応じて添加するものであり、例えば、ヘキサメタリン酸ソーダ,珪酸ソーダ等の無機質解膠剤、および、ポリアルキルアリルスルホン酸ソーダ,ポリアクリル酸塩等の有機質解膠剤が挙げられ、前記耐火物原料(耐火性骨材)に対して0wt%〜1wt%、好ましくは0.02wt%〜0.5wt%の割合で添加される。
【0030】
繊維類は、垂直壁での垂れ防止を目的として添加するもので、例えば、アルミナ繊維,カーボン繊維等の無機質繊維、あるいは、麻等の天然繊維,有機合成繊維等の有機質繊維が挙げられ、前記耐火物原料(耐火性骨材)に対して0wt%〜0.2wt%、好ましくは0.01wt%〜0.1wt%の割合で添加される。
【0031】
粘土あるいはシリカフラワーは、吹付け材の吹き付け直後の水がまだ乾いていない時の塑性流動性を増し、接着性を高めるために添加される。また、熱間では少量の融液を生成することから、金属の酸化抑制にも効果がある。この添加量が0.2wt%未満では、量が少ないために接着性の効果も融液の効果も期待できない。また、10wt%を超えると、融液生成量が多すぎて、焼結しやすく剥離しやすくなる。したがって、粘土あるいはシリカフラワーの添加量は、0.2wt%〜10wt%が望ましい。
【0032】
本発明に係る熱間吹付け補修材は、上述した各成分の混合物に水を添加し、常法により製鋼設備の炉壁,炉底等に吹付け施工された後、加熱硬化される。
水の添加量としては、外掛けで10wt%〜30wt%が好ましい。10wt%未満では、吹付け後の流動性が不足し、一方、30wt%を超えると、速乾性が損なわれるので、好ましくない。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明に係る熱間吹付け補修材を具体的に説明する。
次に表示する表1は、各例で使用する“耐火原料(耐火骨材)及びその粒度”である。なお、最も細かい耐火原料は、ボールミルした原料を使用した(表1の“Ball Milled”参照)。また、表2は、各例で使用する“金属粉ないし合金粉及びその粒度”である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(実施例1〜16,比較例1〜4)
実施例1〜8および比較例1〜3を表3に示し、実施例9〜16および比較例4を表4に示す。また、各例で得られた熱間吹付け補修材について、次の試験を行い、その試験結果を表3,表4に併記した。
【0037】
(800℃での吹付け試験)
ラボでの耐用比較を行うために、800℃の熱間で吹付け試験を行った。すなわち、25kgの材料をガンに入れ、水を外掛けで16wt%添加し、800℃に加熱した吹付けパネルに吹き付けた。このときの接着率と施工体の乾燥時間を測定し、また、冷却時の亀裂状況も観察し、それらを表3,表4に表示した。
(侵食試験)
各例のサンプルを採取し、回転ドラム法により転炉スラグを用いて耐食試験を行い、“耐食性指数”として表3,表4に表示した。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
上記表3,4から、次の事項を確認することができた。
実施例1〜16は、鉄を主要成分とする金属粉または鉄合金粉を検討した結果であり、該金属粉,鉄合金粉を添加していない比較例3に対して、乾燥時間が格段に向上している。また、鉄を主要成分とする金属粉,鉄合金粉を使用しない比較例4(Al;−1.5mmを添加した例)では、金属(Al)の酸化が進み、乾燥促進効果は得られていない。また、冷却時に亀裂が認められた。
【0041】
実施例1,5〜8は、Fe添加量の効果を示している。また、実施例9〜15は、「耐火原料種・添加量」「バインダー種・添加量」「可塑剤種・添加量」「解膠剤種・添加量」「繊維種・添加量」を変化させているが、鉄を主要成分とする金属粉あるいは鉄合金粉の添加により、どれも乾燥時間が短い。実施例16(Fe−Crの鉄合金粉をを添加した例)も、同様に乾燥時間が短い。
一方、比較例1(バインダーがピッチであって、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有する例)は、乾燥時間,硬化時間が遅れ、硬化していない。また、比較例2(75μm以下の粒度を有する耐火原料(耐火骨材)を本発明で特定する範囲(25〜50wt%)外の“16wt%”含有する例)では、耐火骨材の微粉が少なく、金属の比率が多すぎて耐食性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る熱間吹付け補修材は、鉄を主要成分とする金属(金属粉)または鉄合金(鉄合金粉)を添加することにより、熱伝導性を高め、施工体内部まで熱が伝わり易くなることで、施工体の乾燥を速め、従来にない“補修時間の短縮”を可能としているものであり、その利用可能性が極めて顕著である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
75μm以下の粒度を有する耐火原料を25wt〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄(Fe)を主要成分とする金属または鉄合金を、上記耐火原料に対して、5wt%〜50wt%添加してなることを特徴とする熱間吹付け補修材。
【請求項2】
75μm以下の粒度を有する耐火原料を25wt〜50wt%含有する、熱間でカーボンボンドを形成するバインダーを含有しない熱間吹付け補修材において、鉄(Fe)を主要成分とし、かつ、1.0mm以下の粒度を70wt%以上含有する金属粉または鉄合金粉を、上記耐火原料に対して、5wt%〜50wt%添加してなることを特徴とする熱間吹付け補修材。
【請求項3】
バインダーが珪酸塩または燐酸塩である請求項1または請求項2に記載の熱間吹付け補修材。


【公開番号】特開2008−120635(P2008−120635A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307136(P2006−307136)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】