説明

熱電変換モジュールおよびその製造方法

【課題】高温における、熱電変換素子と電極との熱膨張量の差により生じる熱応力を緩和し、熱応力による熱電変換素子と電極の接合部もしくは接合部近傍での破断を防止できる熱電変換モジュールの提供。
【解決手段】多孔質金属層6をニッケルもしくは銀からなる密度比:50〜90%(気孔率を50%以下)の多孔質の金属層で構成して、熱電変換素子1と電極2とを多孔質金属層6を介して冶金的に接合して熱電変換モジュールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換モジュール及びその製造方法に係り、特に、熱電変換素子と電極との接合部における熱応力を緩和する機能をもつ熱電変換モジュールおよびその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子を用いた熱電変換モジュールによる直接発電システムは、構造が複雑でなく、しかも可動部分がないため、信頼性が高く保守点検が容易である。一方、このような発電システムは、出力密度及びエネルギー変換効率が低いため、宇宙用等の特殊な用途でしかも低い出力規模に限って開発が行われてきた。しかしながら、このような発電システムは、昨今の環境対策の観点から、ゴミ焼却炉やコージェネレーションシステム等の排熱源を利用した小規模分散型の発電システムや、自動車等の排気ガスの熱を利用した車載用発電システムとして用いられることが期待されており、発電単価の低減や熱電変換モジュールシステムの耐久性の向上等が望まれている。
【0003】
熱電変換モジュールは、図1に示すように、熱電変換素子1の両側に、銅等からなる電極2を積層し、電極の他方の面に雲母等からなる電気絶縁層3を介して冷却ダクト4及び加熱ダクト5をそれぞれ積層して構成される。このような熱電変換モジュールでは、冷却ダクト4に送風するとともに、加熱ダクト5に高温の排ガス等を供給することにより、熱電変換素子1の両端に温度差を設け、この温度差によって熱電変換素子1の内部で熱起電力を発生させて直流電流を電極2から取り出すことができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−293906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような熱電変換モジュールは、一般に、熱電変換素子と電極を加圧、圧着して接合、あるいは両者をハンダ等のロウ材を用いて接合して製造される。ところで、熱電変換モジュールは、上記のように熱電変換素子の両端の温度差による熱起電力を利用して発電することから、熱電変換素子の両端の温度差が大きいほど、熱起電力が大きくなり、発電量を多くすることができる。この場合に、冷却側温度を低下させることは特殊な装置等が必要となるため好ましくなく、一般的には、熱電変換素子の耐熱温度以下の温度で、加熱側温度を高めて熱電変換素子の両端の温度差を大きくすることが行われている。
【0006】
しかしながら、熱電変換モジュールの加熱側の熱電変換素子と電極との接合部では、熱膨張量の少ない熱電変換素子と、熱膨張量の大きい電極との熱膨張量の差が生じ、この熱膨張量の差により接合部は応力を受ける。このため、発電量を多くしようとして、熱電変換素子の加熱側温度を高くすると、その分、熱電変換素子と電極との接合部で熱膨張量の差により発生する応力は大きくなり、この熱応力によって熱電変換素子と電極の接合部もしくは接合部近傍で破断が生じ易い。
【0007】
また、ハンダ等の軟ロウ材により熱電変換素子と電極とを接合した場合に、加熱側温度を軟ロウ材の溶融温度以上の温度に設定すると、軟ロウ材が溶融して流出する。このため、この種の熱電変換モジュールにおいては、加熱側温度が限定され、発電量が限定されてしまう。
【0008】
このような状況の下、本発明は、使用時の熱応力を緩和することにより、熱電変換素子と電極の接合部もしくは接合部近傍での破断を防止するとともに、高温においても使用できる熱電変換モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱電変換モジュールは、熱電変換素子と電極が、ニッケルもしくは銀からなる密度比:50〜90%の多孔質金属層を介して冶金的に接合されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の熱電変換モジュールにおいては、多孔質金属層の厚さが10〜100μmであること、多孔質金属層が、平均粒径0.1〜10μmであるニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を焼結したものであることを好ましい態様とする。また、熱電変換素子の接合される端面が金属で被覆されており、金属で被覆された熱電変換素子の端面が多孔質金属層を介して電極に接合されていてもよい。
【0011】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、平均粒径0.1〜10μmであるニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子が分散するペーストを熱電変換素子の端面に塗布し、熱電変換素子の塗布された端面を電極に当接させて、熱電変換素子と電極を一体化した後、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気中で加熱して金属粉末粒子以外のペースト成分を消失させて除去し、さらに、ニッケル粉末粒子を用いた場合に650〜850℃まで、もしくは銀粉末粒子を用いた場合に450〜750℃まで、加熱して金属粉末粒子を焼結して多孔質金属層を形成すると同時に、多孔質金属層を熱電変換素子の端面および電極に拡散接合して冶金的に一体化することを特徴とする。
【0012】
本発明の熱電変換モジュールの製造方法においては、ペースト中に分散する金属粉末粒子の量が30〜50体積%であること、ペーストの粘度が10〜100Pa・sであること、ペーストの剪断強さが0.1N/cm以上であることを好ましい態様とする。また、熱電変換素子の端面に金属を被覆するとともに、金属を被覆した該端面にペーストを塗布してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱電変換モジュールによれば、熱電変換素子と電極の間に設けた、ニッケルもしくは銀からなる密度比:50〜90%の多孔質金属層が熱電変換素子と電極のそれぞれの熱膨張を緩和するので、熱電変換素子と電極の接合部もしくは接合部近傍での破断を防止することができる。また、上記の多孔質金属層は、熱電変換素子と電極の両者に冶金的に結合しているため、熱電変換素子と電極との間の熱伝達および電気伝導が良好に行われる。さらに、ニッケルもしくは銀からなる多孔質金属層は融点が高いため、高温においても溶融や流出が生じない熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の熱電変換モジュールを説明する模式図である。
【図3】本発明の熱電変換モジュールの接合部のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の熱電変換モジュールは、図2に示すように、熱電変換素子1と電極2とをニッケルもしくは銀からなる多孔質の金属層6を介して接合される。多孔質金属層6は気孔61を有し、多孔質であるため弾性変形し易く、熱電変換素子1の熱膨張量と、電極2の熱膨張量の差を自らが変形することで緩和する。この効果を得るため、多孔質金属層6の密度比を90%以下(気孔率を10%以上)とする。この多孔質金属層6は、密度比が小さくなるほど変形能は増加するが、密度比が小さくなると熱伝達性および電気伝導性が低下する。このため、上記の多孔質金属層6は、密度比を50%以上(気孔率を50%以下)とする。したがって、多孔質金属層6は、密度比を50〜90%とする。
【0016】
上記の多孔質金属層6の成分であるニッケルは融点が1455℃、銀は融点が962℃と融点の高い元素である。上記の多孔質金属層6をこのようなニッケルもしくは銀で構成したことにより、熱電変換モジュールの使用温度を熱電変換素子1の耐熱温度近くまで上昇させても、ハンダ等の融点の低い軟ロウ材を用いた場合のような接合材の溶融や流出を生ずることなく、熱電変換モジュールを使用することができる。そして、熱電変換モジュールの使用温度を、熱電変換素子1の使用可能温度を上限として、効率よく発電することが可能となる。
【0017】
また、上記の多孔質金属層6は、熱電変換素子1と電極2の各々に冶金的に接合しているため、熱電変換素子1と多孔質金属層6の間、および多孔質金属層6と電極2の間の熱伝達および電気伝導が効率良く行える。
【0018】
上記の多孔質金属層6は、薄すぎると変形し難くなるため、多孔質金属層6の厚さを10μm以上とすることが好ましい。一方、多孔質金属層6は、多孔質であるが故に、気孔61を有さない真密度の金属層に比して、熱伝達性および電気伝導性が低下するので、多孔質金属層6が厚くなると、熱電変換素子1と電極2の間の熱伝達性および電気伝導性が低下する。このため、多孔質金属層6の厚さを100μm以下にすることが好ましい。
【0019】
上記の多孔質金属層6は、ニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を焼結することで形成されるが、金属粉末粒子が一層のみの単分散であると弾性変形し難くなるため、金属粉末粒子が積層した状態で焼結されていることが好ましい。この観点から、多孔質金属層6は、平均粒径10μm以下の微細な金属粉末粒子を焼結して形成することが好ましい。ここで、平均粒径とはメジアン径(積算分布の50%に対する粒子径)である。ただし、過度に微細な金属粉末粒子を使用すると、焼結過程で緻密化が進行しすぎて多孔質金属層6の密度比が90%を超え易くなるため、金属粉末粒子としては平均粒径が0.1μm以上のものを用いることが好ましい。なお、多孔質金属層6の厚さを10μmとする場合には、金属粉末粒子が複数積層できるような粒径とすることが好ましい。なお、平均粒径が0.1〜10μmの範囲であっても、過大な粉末粒子を含むと、多孔質金属層6の厚みを制御し難くなる。このため、最大粒子径が30μm以下のものを用いることが好ましい。
【0020】
熱応力を緩和するため、多孔質金属層6に分散する気孔61は略球状であることが好ましい。本発明においては、上記のように微細な金属粉末粒子を用いるため、焼結が活性に進行して、気孔61は略球状に形成される。
【0021】
多孔質金属層6は、ニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を焼結した焼結体を予め用意し、熱電変換素子1と電極2の間に挟んで配置し、これを加圧しながら加熱して拡散接合してもよいが、一旦焼結された焼結体は、熱電変換素子1あるいは電極6に拡散し難い。このため、多孔質金属層6の形成にあたっては、熱電変換素子1の端部あるいは電極2の熱電変換素子1が配置される箇所に、ニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかを金属粉末粒子の形態で配置し、金属粉末粒子の焼結と、熱電変換素子1および電極2への拡散接合を同時に行うことが好ましい。
【0022】
また、ニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を熱電変換素子1の端部あるいは電極2の熱電変換素子が配置される箇所に配置するにあたっては、上記の粒径の金属粉末粒子が分散するペーストを用いると、容易に金属粉末粒子を熱電変換素子1の端部あるいは電極2の熱電変換素子1が配置される箇所に配置することができるので好ましい。すなわち、上記の粒径の金属粉末粒子が分散するペーストを用意し、この金属粉末粒子分散ペーストを熱電変換素子1の端面に塗布した後、この端面を電極2に当接させることで、金属粉末粒子分散ペーストを熱電変換素子1と電極2の間に挟んで配置する。このようにして熱電変換素子1と電極2の間に金属粉末粒子分散ペーストを配置した後、これらを一体にして、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気中で加熱し、金属粉末粒子以外のペースト成分を消失させて除去を行う。これにより、ニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を熱電変換素子1と電極2の間に配置することができる。
【0023】
金属粉末粒子分散ペーストを電極2の熱電変換素子1が配置される箇所に塗布した後、ここに熱電変換素子1を当接させ、上記のように一体に加熱して、金属粉末粒子以外のペースト成分を消失させて除去してもよい。
【0024】
また、熱電変換素子1と電極2の間に金属粉末粒子分散ペーストを配置した後、ペーストから溶媒成分を揮発もしくは乾燥させて、金属粉末粒子分散ペーストを固化させた状態とし、その後、加熱してペースト成分の消失除去を行ってもよい。
【0025】
上記のように加熱してペースト成分を消失させて除去を行った後は、一旦冷却して、別途焼結を行ってもよいが、この状態で金属粉末粒子は焼結されておらず、崩れ易い。このため、そのまま引き続き加熱して金属粉末粒子を焼結して多孔質金属層6を形成すると同時に、多孔質金属層6を熱電変換素子1の端面および電極2に拡散接合して冶金的に一体化すると、金属粉末粒子の崩れが生じず、また、再加熱のエネルギーが節約できるので好ましい。
【0026】
上記の焼結および拡散接合は、金属粉末粒子としてニッケル粉末粒子を用いた場合に650〜850℃、金属粉末粒子として銀粉末粒子を用いた場合に450〜750℃の間で行う。この焼結および拡散接合は、無加圧で行う。すなわち、上記のようにニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子は、粒径が0.1〜10μmのものを用いるが、このように微細な粉末は、表面積が大きく、焼結が進行し易い。このことから、無加圧であっても、金属粉末粒子の焼結と、熱電変換素子1および電極2への拡散接合が果たされる。この焼結および拡散接合において、加熱温度をニッケル粉末粒子を用いた場合に650℃以上、銀粉末粒子を用いた場合に450℃以上とすることで、多孔質金属層6の密度比が50%以上となる。そして、熱電変換モジュールとして使用した際に、十分な応力緩和を行うことができる多孔質金属層6を得られる。一方、微細な粉末は焼結が進行し易いため、ニッケル粉末粒子を用いた場合に850℃、銀粉末粒子を用いた場合に750℃を超えて加熱すると、多孔質金属層6の緻密化が進行して、密度比が90%を超える。
【0027】
上記のとおり、焼結および拡散接合は無加圧で行うが、1MPa以下の圧力であれば加圧しながら焼結を行ってもよい。加圧しながら焼結を行うと、熱電変換素子1および電極2と、これらの間に配置された金属粉末粒子が密着して拡散接合が行い易くなる。また、熱電変換モジュールは、複数の熱電変換素子1を用いるが、加圧しながら焼結することで、これらの熱電変換素子1の高さにバラツキがあっても、金属粉末粒子がこのバラツキを吸収して多孔質金属層6を形成する。これにより、電極2間の距離を揃えて熱電変換モジュールを製造することができる。しかしながら、一方、金属粉末粒子どうしも密着して焼結が進行し易くなるため、多孔質金属層6の密度比が増加する。このため、加圧焼結を行う場合には、加圧圧力を1MPa以下に止めるべきである。
【0028】
上記の金属粉末粒子分散ペーストは、金属粉末粒子の量が少ないものを用いると、一回の塗布で配置される金属粉末粒子の量が少なくなる。このため、必要な量の金属粉末粒子を熱電変換素子1と電極2の間に配置するためには、複数回の塗布を行う必要がある。一方、ペースト中に分散する金属粉末粒子の量が過多となると、相対的にペースト成分が乏しくなって、ペーストの流動性が低下するとともに、付着し難くなり、取扱いが難しくなる。この観点から、金属粉末粒子分散ペースト中に分散するニッケル粉末粒子の量は30〜50体積%が好ましく、このような金属粉末粒子分散ペーストを用いると、一回の塗布で必要な量の金属粉末粒子を、容易に配置できる。
【0029】
また、多孔質金属層6の厚さを所望の厚さに調整するにあたって、粘度が低い金属粉末粒子分散ペーストを用いると、一回に塗布されるペーストの量が少なくなるため複数回の塗布が必要となったり、粘度が低すぎると、ペーストが所望の部位から流出してダレが生じる。一方、粘度が高すぎると、取扱いが難しくなるとともに、一回に塗布されるペーストの量が多くなり、塗布後に、不要分の除去作業が必要となる。この観点から、金属粉末粒子分散ペーストの粘度を10〜100Pa・sに調整しておくことが好ましい。
【0030】
さらに、金属粉末粒子分散ペーストが接着性を有すると、熱電変換素子1と電極2を一体に組み立てた後の、各部のズレが防止でき、焼結までのハンドリングが容易となるため好適である。ここで、ペーストによる接着は、焼結工程における拡散接合までの仮止めであり、ハンドリングの際にズレが生じない程度のものでよく、剪断強さ0.1N/cm以上程度で十分である。
【0031】
また、金属粉末粒子分散ペーストに接着剤成分を含有させ、塗布後にペーストを硬化させてもよい。この場合、硬化した金属粉末粒子分散ペーストにより、熱電変換素子1と電極2を強固に固着(接着)できるため、ハンドリングが極めて容易となる。
【0032】
以上のようにして製造すれば、本発明の熱電変換素子1と電極2が、密度比:50〜90%の多孔質金属層6を介して冶金的に接合された熱電変換モジュールを、簡便かつ、少ない工程および小さいエネルギーで得ることができる。
【0033】
なお、上記の多孔質金属層6は、少なくとも加熱ダクト5側の熱電変換素子1と電極2の間に設けられる。多孔質金属層6を熱電変換素子1の両端部に設けてもよいが、冷却ダクト4側の熱電変換素子1の端部の温度が、ロウ材の流出が生じない低い温度である場合には、従来のハンダ等のロウ材を用いて接合しても問題ない。
【0034】
本発明の熱電変換モジュールは、耐熱温度が高い熱電変換素子に好適なものであり、例えば、シリコン−ゲルマニウム系、マグネシウム−シリコン系、マンガン−シリコン系、および珪化鉄系等の熱電変換素子が挙げられる。一方、ビスマス−テルル系、鉛−テルル系および鉄−バナジウム−アルミニウム系等の耐熱温度が低い熱電変換素子は、上記の焼結および拡散接合の温度よりも素子の耐熱性が低いため、不向きである。
【0035】
上記の耐熱温度が高い熱電変換素子の内、例えば、珪化鉄は、銅電極に直接接合すると、銅電極から銅が珪化鉄中に拡散し、エロージョンが生じるとともに、珪化鉄が変質して発電不能となることが知られている。しかしながら、本発明の多孔質金属層6を熱電変換素子と電極との間に介在させると、ニッケルもしくは銀の金属層が銅電極からの銅の拡散を防止する効果も得られる。
【0036】
上記の本発明の熱電変換モジュールにおいては、熱電変換素子1の端面に金属を予め被覆し、この金属を被覆した端面に金属粉末粒子分散ペーストを塗布して、上記のように、ペースト成分の除去、金属粉末粒子の焼結および多孔質金属層6と熱電変換素子1および電極2の拡散接合を行うことができる。
【0037】
熱電変換素子1の端面への金属の被覆は、メッキ、蒸着、スパッタリング、溶射等の方法により行うことができる。これらの方法により熱電変換素子1の端面へ金属を被覆すると、熱電変換素子1の端面が平滑となるため、上記の金属粉末粒子の焼結および熱電変換素子1への拡散接合において、金属粉末粒子との接触面積が増大して、多孔質金属層6の熱電変換素子1の端面への拡散接合が進行し易くなる。
【0038】
この形態において、熱電変換素子1の端面に被覆する金属として、ニッケル、鉄、銀、コバルト等のニッケルもしくは銀と良好に拡散接合が行うことができる金属を用いると、多孔質金属層6と熱電変換素子1との拡散接合がよりいっそう強固になるため好ましい。
【0039】
また、熱電変換素子1としてニッケルと著しく反応するものを用いる場合、熱電変換素子1の端面に被覆する金属として、鉄、銀、コバルト等の金属を用いると、多孔質金属層6から熱電変換素子1へのニッケルの拡散を防止するバリア層として機能し、熱電変換素子の変質を防止できるため、熱電変換素子1の選択の自由度を拡張することができる。
【実施例】
【0040】
[第1実施例]
金属粉末粒子として、平均粒径が1μmであり、最大粒径が10μm以下のニッケル粉末粒子を用意し、ヒドロキシプロピルセルロースを8体積%添加したノルマルメチルピロリドンに、ニッケル粉末粒子を35体積%分散させて、金属粉末粒子分散ペーストを作製した。この金属粒子分散ペーストの粘度は約40Pa・sである。この金属粉末粒子分散ペーストをSiGe熱電変換素子の両端部に塗布し、熱電変換素子の両端面にモリブデン製の電極を当接して、熱電変換素子と電極の間に金属粉末粒子分散ペーストを配置して熱電変換モジュールを組み立てた。組み立てた熱電変換モジュールに50g(1kPa相当)の錘を載せて焼結炉に投入し、水素ガス雰囲気中で500℃に加熱して、金属粉末粒子以外のペースト成分を消失させて除去した。さらに、表1に示す温度まで昇温して金属粉末粒子の焼結と拡散接合を行い、試料番号01〜07の熱電変換モジュールの試料を各々2セット作製した。
【0041】
得られた熱電変換モジュールについて、1セットを接合面と直交する方向に切断し、断面金属組織を顕微鏡観察して、多孔質金属層と熱電変換素子および多孔質金属層と電極の接合具合について調査を行った。また、金属組織を倍率500倍で撮影した画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製Win ROOF)を用いて画像解析し、多孔質金属層の密度比を測定した。これらの結果を表1に併せて示す。なお、表1の加熱試験前の接合状態の評価において、多孔質金属層と熱電変換素子および多孔質金属層と電極の界面において、冶金的に結合している接合部が50%以上の試料については「○」と記し、接合部が50%に満たない試料については「×」と記した。
【0042】
次に、上記の顕微鏡観察において、接合性が「○」の評価の試料について、残りの1セットを用いて加熱試験を行った。加熱試験は、一方の電極を550℃に保つとともに、他方の電極を20℃に加熱して24時間保持して行った。そして、接合面と直交する方向に試料を切断して断面金属組織を顕微鏡観察し、多孔質金属層と熱電変換素子および多孔質金属層と電極の接合部を調査した。この結果を表1に併せて示す。なお、加熱試験後の接合状態の評価は、加熱試験前の接合状態の評価と同様にして行った。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、焼結温度が650℃に満たない試料番号01の試料は、焼結が進行せず、多孔質金属層の密度比が50%を下回るとともに、熱電変換素子と多孔質金属層および電極と多孔質金属層の接合が不充分となっている。一方、焼結温度の増加にしたがい、焼結が促進され、多孔質金属層の密度比が増加する傾向を示している。ここで、焼結温度が650℃の試料番号02の試料では、焼結が進行して多孔質金属層の密度比が50%となり、熱電変換素子と多孔質金属層および電極と多孔質金属層の接合が充分に行われている。また、加熱試験後においても、気孔が熱応力を緩和し、熱電変換素子と多孔質金属層および電極と多孔質金属層の接合状態が維持されている。
【0045】
図3は、試料番号04の試料の接合部のSEM像である。図3から分かるように、金属粉末粒子分散ペーストの形態で熱電変換素子と電極の間に配置されたニッケル粉末粒子は、焼結されて多孔質金属層を形成している。また、多孔質金属層は、熱電変換素子および電極の双方に冶金的に接合している。このような多孔質金属層を形成することで、熱電変換素子と電極の接合面に熱応力が加わった場合に、多孔質金属層の気孔が熱応力を緩和して、良好な接合状態を維持することができる。
【0046】
一方、焼結温度が850℃を超える試料番号07の試料は、焼結が過度に進行して多孔質金属層の密度比が90%を超えている。この試料は、焼結後の接合状態は良好であるが、加熱試験において接合面で破断が生じており、気孔が少ないため熱応力の緩和が不充分となっていることがわかる。
【0047】
これらの結果より、多孔質金属層の密度比が50〜90%の範囲で、熱応力緩和の作用が得られ、良好な接合状態を維持できることが確認された。また、焼結を650〜850℃の範囲で行うことで、上記の密度比を得られることが確認された。
【0048】
[第2実施例]
第1実施例において、熱電変換素子を、両端面にニッケルを被覆したMgSi熱電変換素子に換えて、第1実施例と同様にして熱電変換モジュールを作製した。なお、両端面にニッケルを被覆したMgSi熱電変換素子は、MgSiのバルク焼結体にニッケルメッキを施した後、熱電変換素子の形状に切り出して作製したものである。このようにして作製した熱電変換モジュールについて、第1実施例と同様の評価を行ったところ、熱電変換素子を換えても、多孔質金属層の密度比が50〜90%の範囲で、熱応力緩和の作用が得られ、良好な接合状態を維持できること、また、焼結を650〜850℃の範囲で行うことで、上記の密度比を得られることが確認された。
【0049】
[第3実施例]
表2に示す平均粒径のニッケル粉末粒子を用意し、第1実施例と同様にして金属粉末粒子分散ペーストを作製した。この金属粉末粒子分散ペーストを用いて第1実施例と同様にして熱電変換モジュールを組み立てた。そして、焼結温度を800℃とし、第1実施例と同様にして金属粉末粒子以外のペースト成分の除去および金属粉末粒子の焼結と拡散接合を行い、試料番号08〜13の熱電変換モジュールの試料を各々2セット作製した。これらの試料につき、第1実施例と同様にして、多孔質金属層の密度比を測定するとともに、加熱試験前後の接合部の評価を行った。これらの結果を表2に併せて示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、金属粉末粒子の平均粒径が小さいものほど、表面積が大きくなるため焼結が活性に進行し、多孔質金属層が緻密化して密度比が増加している。逆に、金属粉末粒子の平均粒径が大きくなるにしたがい、焼結における緻密化が進行し難くなり、多孔質金属層の密度比が小さくなることがわかる。
【0052】
ここで、金属粉末粒子の平均粒径が0.1μmを下回る試料番号08の試料では、微粉が過多であり、表面積が大き過ぎることから、焼結が極めて活性に進行し、その結果、多孔質金属層の密度比が90%を超え、気孔率が10%未満と少なくなっている。このため、加熱試験における熱電変換素子と電極の熱応力で界面に破断が生じ、加熱試験後の接合状態が悪化している。一方、金属粉末粒子の平均粒径が0.1μmの試料番号09の試料では、多孔質金属層の密度比が90%となり、充分な気孔が分散することから、加熱試験時に気孔が熱応力を緩和して、試験後にも良好な接合状態が維持できている。しかしながら、金属粉末粒子の平均粒径が10μmを超える試料番号13の試料では、焼結が進行せず、多孔質金属層の密度比が50%を下回るとともに、熱電変換素子と多孔質金属層および電極と多孔質金属層の接合が不充分となっている。
【0053】
これらの結果より、平均粒径が0.1〜10μmの金属粉末粒子を用いることで、多孔質金属層の密度比を50〜90%とすることができ、良好な接合状態を得られることが確認された。
【0054】
[第4実施例]
第3実施例において、熱電変換素子を第2実施例で用いたニッケル被覆MgSi熱電変換素子に換え、第3実施例と同様にして熱電変換モジュールを作製し、第3実施例と同様にして評価を行った。その結果、熱電変換素子を換えても、平均粒径が0.1〜10μmの金属粉末粒子を用いることで、多孔質金属層の密度比を50〜90%とすることができ、良好な接合状態を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の熱電変換モジュールは、高温における熱応力を緩和する多孔質金属層を有しており、熱電変換素子の能力を最大限発揮できる高温での使用を可能にして発電量を増加させることができる。したがって、本発明の熱電変換モジュールは、ゴミ焼却炉やコージェネレーションシステム等の排熱源を利用した小規模分散型の発電システムや、自動車等の排気ガスの熱を利用した車載用発電システムに好適である。
【符号の説明】
【0056】
1…熱電変換素子、2…電極、3…電気絶縁層、4…冷却ダクト、5…加熱ダクト、6…多孔質金属層、61…気孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換素子と電極が、ニッケルもしくは銀からなる密度比:50〜90%の多孔質金属層を介して冶金的に接合されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記多孔質金属層の厚さが10〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記多孔質金属層が、平均粒径0.1〜10μmであるニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子を焼結したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記熱電変換素子の接合される端面が金属で被覆されており、金属で被覆された熱電変換素子の端面が前記多孔質金属層を介して前記電極に接合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
平均粒径0.1〜10μmであるニッケル粉末粒子もしくは銀粉末粒子のいずれかの金属粉末粒子が分散するペーストを熱電変換素子の端面に塗布し、熱電変換素子の塗布された端面を電極に当接させて、熱電変換素子と電極を一体化した後、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気中で加熱して金属粉末粒子以外のペースト成分を消失させて除去し、さらに、ニッケル粉末粒子を用いた場合に650〜850℃まで、もしくは銀粉末粒子を用いた場合に450〜750℃まで、加熱して金属粉末粒子を焼結して多孔質金属層を形成すると同時に、多孔質金属層を熱電変換素子の端面および電極に拡散接合して冶金的に一体化することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記ペースト中に分散する金属粉末粒子の量が30〜50体積%であることを特徴とする請求項5に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記ペーストの粘度が10〜100Pa・sであることを特徴とする請求項5または6に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記ペーストの剪断強さが0.1N/cm以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記熱電変換素子の端面に金属を被覆するとともに、金属を被覆した該端面に前記ペーストを塗布することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−134410(P2012−134410A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286930(P2010−286930)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】