説明

燃料ガスステーション、燃料ガス充填システム、燃料ガス充填方法

【課題】燃料タンクにとって適切な充填が可能となるように、燃料タンク内の温度情報が正確であるか否かを確認することができる燃料ガスステーション、燃料ガス充填システム及び燃料ガス充填方法を課題とする。
【解決手段】本発明の燃料ガスステーション2は、外部の燃料タンク30内の実温度情報を取得する温度取得部6と、燃料ガスステーション2から燃料タンク30に放出された燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて燃料タンク30内の予測温度情報を予測する温度予測部62と、充填中に取得した実温度情報と充填中に予測した予測温度情報とを比較することで、実温度情報が正確であるか否かを判断する判断部63と、実温度情報が正確でないと判断された場合に燃料タンク30への燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減する運転制御部64と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載の燃料タンクに燃料ガスを充填する燃料ガスステーションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料ガスステーションとして、燃料電池車両の水素タンクに水素ガスを充填する水素ステーションが知られている。水素ステーションから放出される水素ガスは、その供給量がレギュレータによって調整されたり(例えば、特許文献1参照。)、その流量や圧力が調整されたりして(例えば、特許文献2参照。)、水素タンクに充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−232497号公報
【特許文献2】特開2009−127853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素タンクに温度センサを設けた場合、充填開始時に水素タンク内の温度を把握すれば、別途把握した水素タンク内の圧力から、その残量を算出することができる。また、充填に伴って上昇する水素タンク内の温度が限界温度を超えないように、水素タンク内の温度を管理することができる。
【0005】
ところが、温度センサにドリフト等による異常が生じている場合、水素タンク内の温度を正確に計測できず、残量を正しく把握できない。また、充填中に、実際の温度よりも低く計測されてしまうと、限界温度を超えて充填されるおそれがある。逆に、実際の温度よりも高く計測されてしまうと、限界温度に達したと誤判断されて、所定の充填量を充填する前に充填が終了するおそれがある。
【0006】
本発明は、燃料タンクにとって適切な充填が可能となるように、燃料タンク内の温度情報が正確であるか否かを確認することができる燃料ガスステーション、燃料ガス充填システム及び燃料ガス充填方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の燃料ガスステーションは、外部の燃料タンクに対して燃料ガスを充填するものにおいて、燃料タンク内の実温度情報を取得する温度取得部と、燃料ガスステーションから燃料タンクに放出された燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて燃料タンク内の予測温度情報を予測する温度予測部と、燃料タンクへの燃料ガスの充填中に温度取得部が取得した燃料タンク内の実温度情報と、当該充填中に温度予測部が予測した燃料タンク内の予測温度情報とを比較することで、実温度情報が正確であるか否かを判断する判断部と、判断部が実温度情報が正確でないと判断した場合に、それが正確である場合よりも、燃料タンクへの燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減する運転制御部と、を備えたものである。
【0008】
本発明によれば、充填中の実温度情報及び予測温度情報を比較するので、例えば実温度情報のみからその異常を判断しようとする場合に比べて、より精度良く判断することができる。しかも、燃料ガスステーションからの充填を利用して、その外部にある燃料タンク内の温度情報が正確であるか否かを確認することができる。したがって、例えば燃料タンクが車両に搭載されている場合には、定期点検等のために車両を店舗に持ち込まなくとも、燃料ガスステーションでの充填のたびに上記判断をすることも可能となる。燃料タンク内の温度情報が正確であることが確認されれば、その後の充填を適切に行うことが可能となる。一方、正確でないことが確認されれば、燃料ガスが必要以上に燃料タンクに充填されるのを抑制することができる。
【0009】
ここで、温度情報とは、あるタイミングにおける温度それ自身だけではなく、複数のタイミング間の温度変化量や温度変化率を含む概念である。
【0010】
好ましい一態様によれば、運転制御部は、実温度情報が正確でないと判断された場合に、燃料タンクへの燃料ガスの充填を停止するとよい。
【0011】
好ましくは、運転制御部が燃料タンクへの燃料ガスの充填流量を一定となるように制御している充填中に、温度取得部は実温度情報を取得し、且つ、温度予測部は予測温度情報を予測するとよい。
こうすることで、可変の充填流量の際に取得・予測する場合に比べて、特に温度予測部での予測を簡素化することができる。
【0012】
より好ましくは、上記一定の充填流量は、実温度情報が正確であると判断された後において用いられる充填流量よりも小さいとよい。
こうすることで、実温度情報が正確であるか否かを判断する過程において、燃料タンク内の状態が限界値を超えることを抑制し易い。
【0013】
好ましくは、燃料タンク内の温度センサによって燃料タンク内の温度が検出されるようになっているとよい。この場合、温度取得部は、温度センサの検出結果を通信により燃料タンク内の温度情報として取得するものであるとよく、判断部は、実温度情報と予測温度情報とを比較することで、温度センサの異常の有無を判断するとよい。
これにより、燃料タンク内の温度センサの異常の有無を燃料ガスステーションにて判断することできる。また、通信を利用するので、例えば充填作業者が燃料ガスステーションに手動で入力しなくて済む。
【0014】
好ましくは、判断部は、燃料タンクへの燃料ガスの充填初期段階において、実温度情報が正確であるか否かを判断するとよい。
これにより、充填初期段階で判断されるため、その後の充填を適切に行い得る。
【0015】
好ましくは、温度予測部は、充填初期段階で燃料ガスステーションから燃料タンクに放出された燃料ガスの温度と、充填初期段階での燃料タンク内の圧力と、充填開始時の燃料タンク内の温度及び圧力と、に基づいて充填初期段階での燃料タンク内の予測温度情報を予測するとよい。
こうすることで、精度の高い予測温度情報を得ることができる。
【0016】
好ましくは、判断部が比較する実温度情報及び予測温度情報は、充填開始から所定時間が経過した時の燃料タンク内の温度であるとよい。
【0017】
本発明の燃料ガス充填システムは、上記した本発明の燃料ガスステーションと、燃料タンクを搭載した移動体と、を備える。
【0018】
また、本発明の燃料ガス充填方法は、燃料ガスステーションの外部にある燃料タンクに対して当該燃料ガスステーションから燃料ガスを充填するものにおいて、燃料タンクへの燃料ガスの充填中に、燃料タンク内の温度情報を取得するステップと、燃料タンクへの燃料ガスの充填中に、燃料ガスステーションが燃料タンクに放出した燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて、燃料タンク内の温度情報を予測するステップと、燃料タンクへの燃料ガスの充填中に取得した温度情報と予測した温度情報とを比較することで、取得した温度情報が正確であるか否かを判断するステップと、取得した温度情報が正確でないと判断した場合に、それが正確ある場合よりも、燃料タンクへの燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減するステップと、を備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る燃料ガス充填システムの概略図である。
【図2】実施形態に係る燃料ガス充填システムの構成図である。
【図3】実施形態に係る燃料ガスステーションの制御装置の機能ブロック図である。
【図4】実施形態に係る燃料ガス充填システムの充填フローを示すフローチャートである。
【図5】実施形態に係る充填フローにて充填した場合の時間と圧力との関係を示す図である。
【図6】実施形態に係る充填フローにて充填した場合の時間と実温度及び予測温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ここでは、燃料ガスステーション及び燃料ガス充填システムとして、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両に対して、水素ステーションから水素ガスを充填する例を説明する。なお、燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備える。
【0021】
図1に示すように、燃料ガス充填システム1は、例えば燃料ガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ステーション2から水素ガスを供給される車両3と、を備える。
【0022】
図2に示すように、車両3は、燃料タンク30、レセプタクル32、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42、通信機44及び制御装置46を備える。
燃料タンク30は、燃料電池への燃料ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。燃料タンク30を複数搭載する場合には、燃料タンク30は燃料電池に対して並列に接続される。燃料タンク30内の水素ガスは、図示省略した供給管路を介して燃料電池に供給される。一方、燃料タンク30への水素ガスの補給は、水素ガスが水素ステーション2からレセプタクル32を介して充填流路34に放出されることで行われる。充填流路34は、燃料タンク30外にあるガス配管と、燃料タンク30の口部に取り付けられた図示省略のバルブアッセンブリ内にある流路部分と、からなる。また、充填流路34には、水素ガスの逆流を防止するための逆止弁35が設けられる。
【0023】
圧力センサ36は、水素ステーション2から放出された水素ガスの圧力を検出するものであり、充填流路34に設けられる。例えば、圧力センサ36は、逆止弁35よりも下流側であって且つ燃料タンク30の直前にある上記のガス配管に設けられ、実質的に燃料タンク30内の水素ガスの圧力(以下、「タンク圧力P2」という。)を反映する圧力を検出する。
温度センサ38は、上記バルブアッセンブリ内の流路部分に設けられ、燃料タンク30内に配置される。温度センサ38は、燃料タンク30内の水素ガスの温度(以下、「タンク温度T2」という。)を反映する温度を検出する。なお、他の実施態様では、圧力センサ36を燃料タンク30内に配置してもよい。また、燃料タンク30内における温度センサ38の配置位置は、タンク温度T2を実質的に検出できる位置であれば特に限定されるものではないが、燃料タンク30内への水素ガスの吹出し口の近傍にあることが好ましい。
【0024】
表示装置42は、例えばカーナビゲーションシステムの一部としても用いることが可能なものであり、各種情報を画面に表示する。通信機44は、車両3が水素ステーション2との間で通信するためのものであり、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信器44は、水素ステーション2の充填ノズル12をレセプタクル32に接続した状態で通信可能となるように、レセプタクル32に組み込まれるか、あるいは車両3のリッドボックス内に固定される。制御装置46は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成され、車両3を制御する。制御装置46は、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などと接続されており、車両3にて把握可能な情報、例えば圧力センサ36及び温度センサ38による検出情報を通信機44を用いて、水素ステーション2に送信する。
【0025】
水素ステーション2は、水素ステーション2にある各機器を制御する制御装置5と、車両3との間で通信するための通信機6と、各種情報を画面に表示する表示装置7と、水素ステーション2の設置場所の外気温を検出する外気温センサ8と、を備える。通信機6は、車両3の通信機44に対応した形式のものであり、通信機44との間で各種情報を送受信する。表示装置7は、充填中における充填流量(充填速度)及び充填量などの情報を表示する。表示装置7は、所望の充填量などを選択又は指定するための操作パネルを表示画面に具備するものであってもよい。
【0026】
また、水素ステーション2は、水素ガスを貯蔵するカードル(ガス供給源)11と、水素ガスを車載の燃料タンク30に向けて放出する充填ノズル12と、これらを結ぶガス流路13と、を有する。充填ノズル12は、充填カップリングとも称される部品であり、水素ガスの充填に際して、車両3のレセプタクル32に接続される。充填ノズル12とレセプタクル32によって、水素ステーション2と燃料タンク32とを接続する接続ユニットが構成される。また、充填ノズル12には、水素ステーション2から燃料タンク30に放出された水素ガスの圧力及び温度(以下、それぞれ、「供給圧力P1」及び「供給温度T1」という。)を検出する圧力センサ9及び温度センサ10が設けられる。なお、圧力センサ9及び温度センサ10の配置位置は、供給圧力P1及び供給温度T1を実質的に検出できる位置であれば特に限定されるものではなく、例えばノズル12の直前のホース部分(ガス流路13の一部)であってもよい。
【0027】
ガス流路13には、圧縮機14、蓄圧器15、プレクーラ16、流量制御弁17、流量計18及びディスペンサ19が設けられる。圧縮機14は、カードル11からの水素ガスを圧縮して吐出する。蓄圧器15は、圧縮機14によって所定圧力まで昇圧された水素ガスを蓄える。プレクーラ16は、蓄圧器15からの室温程度の水素ガスを所定の低温(例えば−20℃)に冷却する。流量制御弁17は、電気的に駆動される弁であり、制御装置5からの指令に従って、蓄圧器15からの水素ガスの流量を調整する。これにより、燃料タンク30への水素ガスの充填流量が制御される。この制御された充填流量が流量計18によって計測され、その計測結果を受けて所望の充填流量となるように、制御装置5が流量制御弁17をフィードバック制御する。なお、流量制御弁17以外の流量制御装置を用いることも可能である。ディスペンサ19は、水素ガスを充填ノズル12へと送り出すものである。例えば、充填ノズル12のトリガーレバーを引くとディスペンサ19が作動し、充填ノズル12から燃料タンク30に向けて水素ガスの放出が可能となる。なお、図示省略したが、蓄圧器14又はその下流側には、充填時にガス流路13を開く遮断弁が設けられる。
【0028】
制御装置5は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置5は、図2において一点鎖線で示した制御線にて接続されている通信機6、表示装置7、外気温センサ8、圧力センサ9、温度センサ10、流量制御弁17及び流量計18のほか、蓄圧器15等とも電気的に接続される。例えば、制御装置5は、圧力センサ36及び温度センサ38が検出した圧力及び温度を、燃料タンク30内の圧力及び温度(すなわち、タンク圧力P2及びタンク温度T2)として認識して、水素ガスの充填を制御する。詳細には、制御装置5は、通信機6から受け取った車両3側のタンク圧力P2及びタンク温度T2の情報をもとに流量制御弁17の開度を制御する。また、制御装置5は、水素ステーション2にて把握可能な情報を通信機6を用いて、車両3に送信する。
【0029】
図3に示すように、制御装置5は、車両3側の圧力センサ36及び温度センサ38の異常の有無を判断するための機能ブロックとして、記憶部61、温度予測部62、判断部63及び運転制御部64を備える。記憶部61は、上記のROMやRAMなどからなり、例えば、充填時に使用する充填流量マップを予め記憶する。温度予測部62は、詳細は後述するように、充填中の情報に基づいて燃料タンク30内の温度情報を予測するものである。判断部63は、圧力センサ36及び温度センサ38の異常の有無を判断する。運転制御部64は、燃料タンク30への水素ガスの充填を制御するものであり、例えば、記憶部61から読み出した充填流量マップに基づいて、各種機器に制御指令を送信し、水素ガス充填を行うように各種機器を制御する。
【0030】
以上の燃料ガス充填システム1において、車両3に水素ガスを充填する場合、先ず、充填ノズル12をレセプタクル32に接続し、この状態にて、ディスペンサ19を作動させる。すると、充填ノズル12から燃料タンク30に向けて水素ガスが放出され、燃料タンク30に充填される。
本実施形態の燃料ガス充填システム1及び燃料ガス充填方法では、充填の初期段階で水素ステーション2が圧力センサ36及び温度センサ38の異常の有無を判断することで、燃料タンク30に適した充填を行っている。
【0031】
次に、図4を参照して、燃料ガス充填システム1における充填フローを説明する。なお、本充填フローは、水素ステーション2側の圧力センサ9及び温度センサ10が正常であることを前提としたものである。水素ステーション2側の圧力センサ9及び温度センサ10の異常については、別途、水素ステーション2側で確認することができるからである。
【0032】
充填作業者によって、充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされ、水素ステーション2から燃料タンク30への水素ガスの放出を許可する充填開始操作がなされると、水素ガスの充填が開始される(ステップS1)。
【0033】
この充填開始からの所定時間(t秒)までの充填初期段階では、一定の流量で充填が行われる(ステップS2)。
この所定時間(t秒)の長さは、充填に起因して起きるタンク温度T2及びタンク圧力P2の変化を把握できる長さであればよく、好ましくは、できるだけ短時間である。所定時間(t秒)が長いと、後述するタンク温度の予測の際に、燃料タンク30の放熱を考慮する必要が生じるからである。このような点を踏まえると、所定時間(t秒)の長さは、タンク温度T2及びタンク圧力P2の変化を検出可能な時間と、燃料タンク30の放熱を無視できる時間とのバランスを勘案して決めることが好ましく、好ましい一例を挙げると、30秒である。
【0034】
また、充填初期段階における一定の流量は、少なくとも、本充填(ステップS8)を行う場合の充填流量よりも小さい。好ましい一例を挙げると、一定の流量は、本充填の場合の充填流量の1/10又は1/20程度の小流量である。なお、充填初期段階の充填流量を可変流量とすることも可能であるが、一定の流量とした方が後述するタンク温度の予測を簡素化することができる。
【0035】
充填初期段階では、供給圧力P1及びタンク圧力P2に関する各圧力情報が比較されて、圧力センサ36の異常の有無が判断される(ステップS3)。これは、制御装置5の判断部63によって実行される。
【0036】
図5に示すように、供給圧力P1及びタンク圧力P2は、ともに充填に伴って上昇する。しかし、供給圧力P1は、タンク圧力P2よりも圧力Pdだけ大きい。これは、供給圧力P1を検出する圧力センサ9と供給圧力P2を検出する圧力センサ36との間では、逆止弁35などによって圧損が生じるからである。圧力センサ36が正常である場合には、充填初期段階において、供給圧力P1とタンク圧力P2との差は圧力Pdで一定である。しかし、圧力センサ36にドリフト等の異常が起きている場合、供給圧力P1とタンク圧力P2との差は本来の圧力Pdよりも乖離する。そこで、両者の差の絶対値が閾値Pthを超えた場合には(ステップS3;No)、圧力センサ36が異常であると判断する(ステップS4)。この閾値Pthの値としては、例えば、圧力Pdに余裕を持たせた値(Pd+α)を用いればよい。
【0037】
ここで、ステップS3で比較する供給圧力P1及びタンク圧力P2の各圧力情報としては、以下の少なくとも一つを用いればよい。
・充填初期段階(t秒間)の任意のタイミングにおける供給圧力、タンク圧力そのもの
・充填初期段階の終期(t秒後)における供給圧力、タンク圧力そのもの
・充填開始時と充填初期段階の終期との間の供給圧力、タンク圧力の各変化量(上昇量)
・充填開始時と充填初期段階の終期との間の供給圧力、タンク圧力の各変化率(上昇率)
一例を挙げると、充填初期段階の終期における供給圧力P1とタンク圧力P2とを比較し、両者の差が閾値Pth以内であるか否かを確認する(ステップS3)。
【0038】
また、ステップS3で比較する供給圧力P1及びタンク圧力P2の各圧力情報は、次のようにして制御装置5に送られる。先ず、供給圧力P1の圧力情報は、圧力センサ9によって取得されて制御装置5に送られる。次に、タンク圧力P2の圧力情報は、圧力センサ36によって検出されたものが制御装置46、通信機44及び通信機6の順で伝えられた後、通信機6から制御装置5に送られる。すなわち、通信機6が、圧力センサ36の検出結果を通信によりタンク圧力P2の圧力情報として取得する。このようにして取得した供給圧力P1及びタンク圧力P2の各圧力情報が比較された結果、圧力センサ36が正常であると判断された場合には(ステップS3;Yes)、ステップS5へと進む。
【0039】
ステップS5では、充填初期段階で水素ステーション2から燃料タンク30に放出された水素ガスの物理情報等に基づいて、燃料タンク30内の温度情報が予測される。これは、制御装置5の温度予測部62によって実行される。具体的には、温度予測部62は、次の式(1)を用いて、燃料タンク30内の温度情報として、燃料タンク30内の予測温度Tsimを算出する。
【数1】

【0040】
この式(1)は、エネルギー保存則に基づくものであり、燃料タンク30への流入初期のエネルギー散逸が小さい時間帯に適用可能なものである。つまり、式(1)は燃料タンク30の放熱を考慮しないものである。式(1)における各パラメータは、以下のとおりである。
sim(t):t秒後における燃料タンク30内の予測温度
2(0):充填開始時のタンク圧力(初期タンク圧力)
2(t):t秒後におけるタンク圧力
2(0):充填開始時のタンク温度(初期タンク温度)
in:供給温度T1の平均値
γ:水素ガスの比熱比
【0041】
ここで、充填初期段階でのタンク圧力P2(0)及びP2(t)は、上記のとおり、圧力センサ36の検出結果を通信により取得したものである。タンク温度T2(0)は、充填開始時に温度センサ38の検出結果から取得されるものであり、圧力センサ36の場合と同様に、通信を利用して制御装置5に入力される。なお、タンク温度T2(0)は、充填開始時に外気温センサ8の検出結果から取得したものであってもよい。供給温度Tinは、水素ステーション2から燃料タンク30に放出された水素ガスの温度(物理情報)であり、温度センサ10によって検出されるものである。充填初期段階では、小流量の充填あるため、供給温度Tinは実質的に一定となる。したがって、式(1)では、その一定の温度を供給温度Tinとして用いればよい。なお、式(1)では、タンク圧力P2(0)及びP2(t)に代えて、上記物理情報の一つである供給圧力P1(0)及びP1(t)を用いることもできるが、タンク圧力P2(0)及びP2(t)を用いる方がより正確な予測温度Tsimを算出することができる。
【0042】
充填初期段階では、予測温度Tsimに関する予測温度情報と、実際のタンク温度T2に関する実温度情報とが比較されて、温度センサ38の異常の有無が判断される(ステップS6)。これは、制御装置5の判断部63によって実行される。なお、水素ステーション2の通信機6は、タンク圧力P2の圧力情報を取得する圧力取得部として機能するのみならず、温度センサ38の検出結果を通信によりタンク温度T2の実温度情報として取得する温度取得部としても機能する。
【0043】
図6に示すように、予測温度Tsim及び実際のタンク温度T2は、ともに充填に伴って上昇する。充填初期段階の終期では、予測温度Tsimは実際のタンク温度T2よりも僅かに温度Tdだけ大きくなる。これは、充填に伴って実際には燃料タンク30からの放熱があるが、式(1)では燃料タンク30の放熱を考慮していないからである。温度センサ38にドリフト等の異常が起きている場合、予測温度Tsimとタンク温度T2との差が本来の温度Tdよりも乖離する。そこで、両者の差が閾値Tthを超えた場合には(ステップS6;No)、温度センサ38が異常であると判断する(ステップS7)。この閾値Tthの値としては、充填初期段階の終期を基準にする場合には温度Tdに余裕を持たせた値(Td+β)を用いればよく、好ましい一例としては10℃である。
【0044】
ここで、ステップS6で比較する予測温度Tsim及び実際のタンク温度T2の予測温度情報及び実温度情報としては、以下の少なくとも一つを用いればよい。
・充填初期段階(t秒間)の任意のタイミングにおける予測温度、実際のタンク温度その もの
・充填初期段階の終期(t秒後)における予測温度、実際のタンク温度そのもの
・充填開始時と充填初期段階の終期との間の予測温度、実際のタンク温度の各変化量(上 昇量)
・充填開始時と充填初期段階の終期との間の予測温度、実際のタンク温度の各変化率(上 昇率)
好ましい一例を挙げると、充填初期段階の終期における予測温度Tsimと実際のタンク温度T2とを比較し、両者の差が閾値Tth以内であるか否かを確認する(ステップS6)。
【0045】
ステップS6の判断の結果、予測温度Tsimと実際のタンク温度T2との差が閾値Tth以内である場合には(ステップS6;Yes)、温度センサ38が正常であると判断できるので、本格的な充填を開始する(ステップS8)。具体的には、制御装置5の運転制御部64は、車両3側から受け取った充填初期段階の始期又は終期におけるタンク圧力P2及びタンク温度T2などの情報を、記憶部61に保存している充填流量マップに参照して、燃料タンク30への最適な充填流量を選択し、流量制御弁17の開度を制御する。
【0046】
一方、予測温度Tsimと実際のタンク温度T2との差が閾値Tth以内でない場合には(ステップS6;No)、温度センサ38が異常であると判断する(ステップS7)。特に、予測温度Tsimが実際のタンク温度T2よりも低い場合には、温度センサ38が異常であると判断することができる。上記のとおり、予測温度Tsimでは燃料タンク30の放熱を考慮していない分、温度センサ38が正常である場合には、予測温度Tsimは実際のタンク温度T2よりも大きくなるはずだからである。
【0047】
温度センサ38が異常であると判断された場合、燃料ガス充填システム1では、必要な対策処理が実行される(ステップS9)。例えば、運転制御部64は、本充填(ステップS8)を行う場合よりも、充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減する。一例を挙げると、運転制御部64は、本充填(ステップS8)の際に充填流量マップから選択する充填流量よりも小さい充填流量を選択して、燃料タンク30に対して負担とならないような充填を行う。別の対策処理の例では、運転制御部64は、燃料タンク30への充填を停止してもよい。
【0048】
また、充填に関する上記対策処理とは別個に又はこれと併せて、異常判断の旨を報知する対策処理を実行してもよい。例えば、表示装置7及び表示装置42の少なくとも一つに、異常と判断されたセンサ(温度センサ38又は圧力センサ36)についてその旨又は修理等を促す旨を表示する。また、判断部63が異常判断した旨の履歴を制御装置5,46の記憶部に保存する対策処理も併せて行うことが好ましい。
【0049】
以上説明した本実施形態によれば、水素ステーション2からの充填を利用して、車両3側の圧力センサ36及び温度センサ38の異常の有無を水素ステーション2側で判断することができる。特に、温度センサ38の異常の有無の判断については、充填中の実温度情報を充填中の予測温度情報と比較することで行っているので、実温度情報のみから判断する場合に比べて、その判断の正確性を向上することができる。このようにして、燃料タンク30内の温度情報が正確であるか否かを確認することができるので、燃料タンク30の限界温度を超えないような適切な充填を行うことができる。例えば、温度センサ38が異常であると判断された場合にも、必要以上の充填流量及び充填量が燃料タンク30に充填されないように充填を継続することができる。
【0050】
<変形例>
上記実施形態では、温度センサ38等の異常判断を充填初期段階に行ったが、これに代えて、充填開始からしばらくたった後の所定時間の充填中に、温度センサ38等の異常判断(図4に示すステップS2〜S7)のフローを実行してもよい。ただし、本実施形態のように、充填初期段階で燃料タンク30内の温度情報が正確であるか否かを確認する方が望ましい。
【0051】
また、圧力センサ36による異常判断(図4に示すステップS3及びS4)は省略することが可能である。さらに、水素ステーション2の外部にある温度センサ38の検出結果を通信によりタンク温度の情報として取得する温度取得部は、通信機6以外のものを用いることも可能である。例えば、そのような温度取得部として、充填作業者が、温度センサ38の検出結果を水素ステーション2に手動で入力するための入力装置を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の燃料ガスステーション、燃料ガス充填システム及び燃料ガス充填方法は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他の燃料ガスにも適用することができる。また、車両に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からの燃料ガスの充填先として燃料タンクを搭載した移動体に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:燃料ガス充填システム、2:燃料ガスステーション、3:車両、5:制御装置、6:通信機(圧力取得部、温度取得部)、9:圧力センサ(圧力検出部)、10:温度センサ、30:燃料タンク、36:圧力センサ、38:温度センサ、62:温度予測部、63:判断部、64:運転制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の燃料タンクに対して燃料ガスを充填する燃料ガスステーションにおいて、
前記燃料タンク内の実温度情報を取得する温度取得部と、
当該燃料ガスステーションから前記燃料タンクに放出された燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて、前記燃料タンク内の予測温度情報を予測する温度予測部と、
前記燃料タンクへの燃料ガスの充填中に前記温度取得部が取得した前記燃料タンク内の実温度情報と、当該充填中に前記温度予測部が予測した前記燃料タンク内の予測温度情報とを比較することで、前記実温度情報が正確であるか否かを判断する判断部と、
前記判断部が前記実温度情報が正確でないと判断した場合に、それが正確である場合よりも、前記燃料タンクへの燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減する運転制御部と、を備えた、燃料ガスステーション。
【請求項2】
前記運転制御部は、前記判断部が前記実温度情報が正確でないと判断した場合に、前記燃料タンクへの燃料ガスの充填を停止する、請求項1に記載の燃料ガスステーション。
【請求項3】
前記運転制御部が前記燃料タンクへの燃料ガスの充填流量を一定となるように制御している充填中に、前記温度取得部は前記実温度情報を取得し、且つ、前記温度予測部は前記予測温度情報を予測する、請求項1又は2に記載の燃料ガスステーション。
【請求項4】
前記一定の充填流量は、前記実温度情報が正確であると判断された後において用いられる充填流量よりも小さい、請求項3に記載の燃料ガスステーション。
【請求項5】
前記燃料タンク内の温度センサによって当該燃料タンク内の温度が検出されるようになっており、
前記温度取得部は、前記温度センサの検出結果を通信により前記燃料タンク内の温度情報として取得するものであり、
前記判断部は、前記実温度情報と前記予測温度情報とを比較することで、前記温度センサの異常の有無を判断する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の燃料ガスステーション。
【請求項6】
前記判断部は、前記燃料タンクへの燃料ガスの充填初期段階において、前記実温度情報が正確であるか否かを判断する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の燃料ガスステーション。
【請求項7】
前記温度予測部は、前記充填初期段階で当該燃料ガスステーションから前記燃料タンクに放出された燃料ガスの温度と、前記充填初期段階での前記燃料タンク内の圧力と、充填開始時の前記燃料タンク内の温度及び圧力と、に基づいて前記充填初期段階での前記燃料タンク内の予測温度情報を予測する、請求項6に記載の燃料ガスステーション。
【請求項8】
前記判断部が比較する前記実温度情報及び前記予測温度情報は、充填開始から所定時間が経過した時の前記燃料タンク内の温度である、請求項6又は7に記載の燃料ガスステーション。
【請求項9】
燃料タンクを搭載した移動体と、
外部の燃料タンクに対して燃料ガスを充填する燃料ガスステーションと、を備えた燃料充填システムにおいて、
前記燃料ガスステーションは、
前記燃料タンク内の実温度情報を取得する温度取得部と、
当該燃料ガスステーションから前記燃料タンクに放出された燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて、前記燃料タンク内の予測温度情報を予測する温度予測部と、
前記燃料タンクへの燃料ガスの充填中に前記温度取得部が取得した前記燃料タンク内の実温度情報と、当該充填中に前記温度予測部が予測した前記燃料タンク内の予測温度情報とを比較することで、前記実温度情報が正確であるか否かを判断する判断部と、
前記判断部が前記実温度情報が正確でないと判断した場合に、それが正確である場合よりも、前記燃料タンクへの燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減する運転制御部と、を備えた、燃料ガス充填システム。
【請求項10】
燃料ガスステーションの外部にある燃料タンクに対して当該燃料ガスステーションから燃料ガスを充填する燃料ガス充填方法において、
前記燃料タンクへの燃料ガスの充填中に、前記燃料タンク内の温度情報を取得するステップと、
前記燃料タンクへの燃料ガスの充填中に、前記燃料ガスステーションが前記燃料タンクに放出した燃料ガスの物理情報に少なくとも基づいて、前記燃料タンク内の温度情報を予測するステップと、
前記燃料タンクへの燃料ガスの充填中に取得した温度情報と予測した温度情報とを比較することで、当該取得した温度情報が正確であるか否かを判断するステップと、
前記取得した温度情報が正確でないと判断した場合に、それが正確ある場合よりも、前記燃料タンクへの燃料ガスの充填流量及び充填量の少なくとも一つを低減するステップと、を備えた、燃料ガス充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122657(P2011−122657A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280604(P2009−280604)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】