説明

燃料ガス充填・供給システム

【課題】燃料ガス充填・供給システムにおいて、複数の燃料ガスタンクにそれぞれ逆止弁を用いることなく、逆流防止を行うことを可能にすることである。
【解決手段】水素ガス充填・供給システム10は、熱流束が大きい水素タンク50と熱流束が小さい水素タンク52と、水素タンク50,52を並列に接続する水素充填パイプ30と、水素タンク50,52の合流部を一方端として、他方端が燃料電池34に接続される水素供給パイプ32と、水素供給パイプ32の合流部に設けられる逆止弁60とを備える。逆止弁60は、水素タンク50の圧力よりも水素タンク52の圧力が小さいときは、水素タンク50から水素タンク52への流れを阻止し、水素タンク50の圧力よりも水素タンク52の圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧よりも小さい間は、水素タンク52から水素タンク50への流れを阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス充填・供給システムに係り、特に、複数の燃料ガスタンクを備える燃料ガス充填・供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤との電気化学反応で発電した電力を取り出すものであるので、燃料供給ラインと酸化剤供給ラインに開閉弁が設けられ、また逆流を防止するための逆止弁が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、直接型メタノール燃料電池(DMFC)システムとして、燃料タンク−バルブ−燃料供給ポンプ−バッファタンク−循環ポンプ−燃料入口−燃料電池スタック−燃料出口−燃料供給ポンプとバッファタンクの間とする循環路を形成し、発電終了時に燃料を抜くことができるように、逆止弁を燃料出口と、燃料供給ポンプとバッファタンクの間に配置する構成が開示されている。ここでは、通常の燃料電池運転のときには燃料供給ポンプと循環ポンプとを正回転させ、燃料を燃料供給ポンプで送り込むと共に、逆止弁が開いて燃料出口から燃料を含んで排出される液体を循環ポンプでバッファタンクに回収し、燃料電池の運転停止時には、バルブを閉じ、燃料供給ポンプを停止し、循環ポンプを逆回転させることで、燃料電池スタック内の燃料流路を減圧して、燃料出口から取り込まれる大気中の空気燃料電池スタック内の燃料を燃料入口側に押し出してバッファタンクに回収して液抜きが行われる。
【0004】
また、特許文献2には、DMFC燃料電池システムとして、高濃度燃料タンクと水タンクからそれぞれ送液ポンプを用いて濃度調整部に高濃度メタノールと水を送り込み、これらの送液量で濃度調整を行うときに、ポンプ停止時の逆流防止のための逆止弁を各送液ポンプの吐出口と濃度調整部との間に設けることが述べられている。ここで、逆止弁にバネ等の付勢手段を用いることで、この付勢手段が順方向に液を流すときには抵抗となり、ある一定の圧力がかかるまで液が流れない状態が続き、一定の圧力を超えて液が流れるようになるが、このような圧力をクラッキング圧力と呼ばれることが述べられている。
【0005】
また、特許文献3には、それぞれ減圧弁を備える複数のタンクが並列にされたタンク装置において、各減圧弁の2次圧力の設定が僅かにばらつくことによって、タンクから水素ガスを負荷機器に供給する際に、設定値の高い減圧弁を有する水素タンクから先に水素ガスが放出されてしまうことを指摘している。ここでは、各タンク同士を連結する連通路を設けることで、各タンクの圧力差が生じることを防ぐことができると述べられている。また、各タンクから連通路への所定流量以上の流れを防止するため、過剰流量防止バルブとして、圧縮バネと圧力を受ける円柱部分とを含む構成が示されている。
【0006】
また、特許文献4には、充填バルブと放出バルブと温度センサと圧力センサとをそれぞれ有する水素タンクが複数並列接続される車両用水素ガス供給装置とにおいて、水素供給時には、各水素タンクの圧力を見て、最も圧力の低い水素タンクの放出バルブのみを開放して、まずこの水素タンクの水素ガスを消費し、規定値の圧力以下になれば、その水素タンクの放出バルブを閉じて、他の水素タンクの放出バルブを全て開放することが述べられている。一方、水素充填時には、各水素タンクの圧力を見て、最も圧力の低い水素タンクの放出バルブのみを開放し、ついでその状態でさらに他の水素タンクの放出バルブを全て開放して、低圧の水素タンクに水素ガスを移送して、他の水素タンクの温度を下げる。移送が終ると、全ての放出バルブを閉じ、次に全ての充填バルブを開けることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−76258号公報
【特許文献2】特開2007−280821号公報
【特許文献3】特開2005−121173号公報
【特許文献4】特開2004−84808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両に燃料電池を搭載するときは、燃料タンクも搭載することになる。車両の航続距離を延ばすには、できるだけ大型の燃料タンクが望ましいが、車両の搭載スペースを考えると、複数のしかも形状の異なる燃料タンクを搭載することが生じる。例えば、水素ガスを燃料とする場合には、形状の異なる複数の水素タンクを車両に搭載し、これら複数の水素タンクに水素供給ステーション等において水素ガスを充填し、水素ガスが充填された複数の水素タンクから水素を放出し燃料電池に供給して発電を行い、車両を走行させる。
【0009】
形状の異なる複数の水素タンクは、その放熱性が異なり、これらを並列接続させて水素ガスを充填すると、充填に伴う温度上昇が水素タンクによって異なる。充填が終って時間が経過すると、この温度差はなくなるが、その代わり、タンク内圧力に差が生じてくる。同様に、並列接続された水素タンクから水素ガスを放出し燃料電池に供給するときも、供給に伴う温度低下が水素タンクによって異なる。これによって生じる温度差も時間が経過するとなくなるが、やはりタンク内圧力の差が生じる。
【0010】
このときに、水素ガスの充填のときと水素ガスを放出して供給するときとで温度変化が逆方向であるので、充填のときの圧力差の生じ方と、供給のときの圧力差の生じ方が逆になる。つまり、仮に逆流が生じ得るとすると、逆流の方向が充填のときと供給のときとで反対になる。
【0011】
このように複数の水素タンクに水素ガスを充填し、また複数の水素タンクから水素ガスを放出して燃料電池に供給するときには、複数の水素タンクの間にタンク内圧力差が生じるので、場合によって水素タンク間の逆流が問題となる。そして、逆流が生じ得るときは、上記のように水素ガスの充填のときと供給のときとで逆流の方向が反対になる。このような逆流防止には各水素タンクにそれぞれ逆止弁を用いることが考えられるが、特許文献3に述べられているように、複数の逆止弁を用いると、それらの設定逆止圧の相違により逆流が生じることがある。
【0012】
本発明の目的は、複数の燃料ガスタンクにそれぞれ逆止弁を用いることなく、逆流防止を行うことができる燃料ガス充填・供給システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る燃料ガス充填・供給システムは、単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる少なくとも2つの燃料ガスタンクと、燃料ガス充填源から分岐部を介して少なくとも2つの燃料ガスタンクを並列に接続する充填流路と、複数の燃料ガスタンクの合流部を一方端として、他方端が負荷装置に接続される供給流路と、供給流路の合流部において、熱流束が異なる2つの燃料ガスタンクの間に設けられる逆止弁であって、熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が小さいときは、熱流束が大きい燃料ガスタンクから熱流束が小さい燃料ガスタンクへの流れを阻止し、かつ、熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧よりも小さい間は、熱流束が小さい燃料ガスタンクから熱流束が大きい燃料ガスタンクへの流れを阻止し、熱流束の大きい燃料ガスタンク側の接続部に供給流路の一方端が接続される逆止弁と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料ガス充填・供給システムにおいて、逆止弁は、負荷装置に燃料ガスを供給したときに、熱流束の小さい燃料ガスタンクのタンク内圧力と、熱流束の大きい燃料ガスタンクのタンク内圧力との差である供給時差圧に基いて設定されるクラッキング圧を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る燃料ガス充填システムにおいて、複数の燃料ガスタンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい燃料ガスタンクは、熱流束の小さい燃料ガスタンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、燃料ガス充填・供給システムは、供給流路の合流部において、2つの燃料ガスタンクの間に逆止弁が設けられるが、その逆止弁は、熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が小さいときは、熱流束が大きい燃料ガスタンクから熱流束が小さい燃料ガスタンクへの流れを阻止し、かつ、熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧よりも小さい間は、熱流束が小さい燃料ガスタンクから熱流束が大きい燃料ガスタンクへの流れを阻止するものであって、その逆止弁の熱流束の大きい燃料ガスタンク側の接続部に供給流路の一方端が接続される。
【0017】
ここで、熱流束の大小は、他の条件が同じであれば、放熱性の大小と同じことを意味する。燃料ガスの充填時には、熱流束の大きい燃料ガスタンクの方が熱流束の小さい燃料ガスタンクに比べ温度上昇が少ないので、充填後に温度差がなくなったときのタンク内圧の下がり方も少ない。したがって、熱流束の大きい燃料ガスタンクの方のタンク内圧が熱流束の小さい燃料ガスタンクの内圧よりも高くなる。
【0018】
これに対し、燃料ガスを放出して供給を行うときには、熱流束の大きい燃料ガスタンクの方が熱流束の小さい燃料ガスタンクに比べ温度低下が少ないので、その後に温度差がなくなったときのタンク内圧の上がり方も少ない。したがって、熱流束の大きい燃料ガスタンクの方のタンク内圧が熱流束の小さい燃料ガスタンクの内圧よりも低くなる。
【0019】
このように、燃料ガス充填後には、熱流束の大きい燃料ガスタンクから熱流束の小さい燃料ガスタンクに向けて圧力差が生じ、逆に燃料ガスを放出して供給するときには、熱流束の小さい燃料ガスタンクから熱流束の大きい燃料ガスタンクに向けて圧力差が生じる。ここで、燃料ガス充填直後のタンク内圧の方が、燃料ガスを放出して供給が行われた後のタンク内圧よりも高圧であるので、圧力差の絶対値としては前者の方が大きい。
【0020】
このような状況の下で、上記構成による逆止弁は、熱流束が大きい燃料ガスタンクから熱流束が小さい燃料ガスタンクへの流れを阻止するので、燃料ガス充填後の圧力差による逆流が防止される。また、熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧よりも小さい間は、熱流束が小さい燃料ガスタンクから熱流束が大きい燃料ガスタンクへの流れを阻止するので、燃料ガスを放出して供給するときの圧力差による逆流を防止できる。そして、逆止弁の熱流束の大きい燃料ガスタンク側の接続部に供給流路の一方端が接続されるので、逆流を防止しながら、負荷装置である燃料電池へ燃料ガスを供給できる。このように、1つの逆止弁で、2つの燃料ガスタンクの間の逆流を効果的に防止できる。
【0021】
また、燃料ガス充填・供給システムにおいて、逆止弁のクラッキング圧は、負荷装置に燃料ガスを供給したときに、熱流束の小さい燃料ガスタンクのタンク内圧力と、熱流束の大きい燃料ガスタンクのタンク内圧力との差である供給時差圧に基いて設定される。これによって、2つの燃料ガスタンクの間において、燃料ガス充填後の逆流と、燃料ガスを放出して供給するときに逆流と、方向の異なる2つの逆流を、1つの逆止弁で効果的に防止できる。
【0022】
また、燃料ガス充填システムにおいて、複数の燃料ガスタンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい燃料ガスタンクは、熱流束の小さい燃料ガスタンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクである。このように、形状等が異なるのみならず、同じ形状でも搭載位置の相違で熱流束が異なりえるが、これらの場合でも、1つの逆止弁で、2つの燃料ガスタンクの間の逆流を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の水素ガス充填・供給システムを搭載する車両が水素ガスの充填を受け、その後充填された水素ガスを用いて走行する様子を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の水素ガス充填・供給システムの構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の逆止弁の作用を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、水素ガス充填のときの様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、水素ガス充填の後の逆止弁の作用を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、水素ガスを放出して供給するときの様子を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、水素ガス充填後の圧力差と、水素ガスを放出して供給するときの圧力差とを比べて説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、水素ガスを放出して供給するときの逆止弁の作用を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態の水素ガス充填・供給システムにおいて、熱流束の異なるタンクの内容をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、燃料ガスを水素ガスとし、燃料ガス充填・供給システムとして、水素ガス充填・供給システムを説明するが、充填と放出のときに温度変化が生じ得る気体燃料であればよく、例えば、CNGと呼ばれる圧縮天然ガスであってもよい。また、水素ガス充填・供給システムとしては、電気自動車に搭載される形状の異なる2つの水素タンクに水素ガスを充填し、この2つの水素タンクから燃料電池に水素ガスの供給を受ける場合を説明するが、電気自動車に搭載されるものでなくても、複数の水素タンクに水素ガスを充填し、この充填された水素ガスを負荷装置に供給する場合を広く含む。例えば、据え置き型燃料電池の燃料タンクが複数ある場合であってもよい。電気自動車の場合は負荷装置が車両搭載型燃料電池であるが、据え置き型の場合は、負荷装置が据え置き型燃料電池となる。
【0025】
以下では、水素タンクの数を2つとし、逆止弁を1つとして説明するが、水素タンクの数は3つ以上であっても構わない。この場合には、圧力差が生じ得る2つの水素タンクの間にそれぞれ1つずつ逆止弁が設けられる。複数の水素タンクは、形状の異なる場合に限られず、熱流束の異なる水素タンクであればよい。熱流束の相違は、搭載位置あるいは配置位置によって、各水素タンクの熱流束が異なる場合を含む。
【0026】
以下で述べる温度、圧力等は、説明のための例示であり、電気自動車の仕様、水素タンクの使用状況、水素充填機の仕様等に応じ、適宜変更が可能である。
【0027】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0028】
図1は、車両6に搭載される水素ガス充填・供給システム10の様子を説明する図である。図1の左側の図は、車両6に搭載された2つの水素タンク50,52に水素充填機12から水素充填が行われる様子を示す図で、右側の図は、その後、充填された水素タンク50,52から燃料電池34が水素ガスの供給を受けて発電し、その電力で車両6が走行する様子を示す図である。
【0029】
最初に、水素充填が行われる様子を図1の左側の図を用いて説明する。図1の左側の図
には、水素ガス充填・供給システム10の構成要件に含まれないが、水素充填機12が設置される水素供給ステーション4と、水素充填の対象となる車両6が図示されている。図1の左側の図には、車両6が水素充填のために水素供給ステーション4に立ち寄って、ちょうど水素充填を受けている様子が示されている。
【0030】
水素供給ステーション4は、車両6に水素充填サービスを提供するもので、水素充填機12を備えて、ガソリンスタンドのように、車両6の立ち寄りやすい道路の傍の適当な箇所に設けられる。
【0031】
車両6は、燃料電池34を搭載する電気自動車である。燃料電池34は、燃料ガスである水素ガスと、酸化ガスである空気を供給し、電気化学反応によって発電して電力を取り出す電源装置で、車両6は、燃料電池34の電力を用いて回転電機を駆動して走行する車両である。酸化ガスは大気を利用するので、特に酸素タンク等を必要としないが、燃料ガスは水素ガスを用いるので、そのために、車両6は、高圧で水素ガスを充填することができる水素タンク50,52を搭載している。
【0032】
水素充填部8は、車両6の車体の後部側面に設けられる蓋付の凹部である。蓋を開けると、水素充填口20であるレセプタクルが露出する。このレセプタクルは、水素充填機12から引き出される水素充填チューブ14の先端の充填先部を気密に差し込むことができる。
【0033】
水素充填機12は、上記のように水素供給ステーション4に備えられる燃料ガス充填機で、ここでは高圧の大容量水素タンクである。一例をあげると、約100MPaの高圧の水素ガスが収容されている。なお、液体水素タンクを備える水素供給ステーション4もあるが、その場合には、気化器を用いて、やはり上記の程度の高圧水素ガスに変換して、水素充填サービスが行われる。したがって、その場合には、液体水素タンクと気化器が、水素充填機12に相当することになる。水素充填機12は、安全に確実に水素充填を行うように、充填時の圧力、温度等を監視して、水素供給を制御する充填制御部を備えている。
【0034】
水素充填チューブ14は、上記のように、水素充填機12から引き出される水素導入チューブで、先端に充填先部を有する。充填先部は、車両の水素充填口20のレセプタクルと協働して、水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成する。また、レセプタクルと正常に組合せ構造を構成したことを検出する検出構造と、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を受け取って、水素充填機12の充填制御部に伝送する信号伝達構造を有している。
【0035】
ここで、車両6に搭載される水素ガス充填・供給システム10は、水素充填部8に設けられる水素充填口20と、水素充填パイプ30と、プラグ46,48と、水素タンク50,52と、水素供給パイプ32と、逆止弁60を含んで構成される。
【0036】
水素充填口20は、上記のように車両6の水素充填部8に設けられ、水素充填機12の充填先部を受け入れるレセプタクルを有する部分である。レセプタクルは、水素供給穴を有する他に、上記のように、充填先部と協働して水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成し、また、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を充填先部に伝達する信号伝達構造を有している。
【0037】
水素充填パイプ30は、車両の水素充填口20から2つの水素タンク50,52へ延びる水素導入管で、水素ガスの充填流路である。水素充填パイプ30は、一方端が1つの水素充填口20で、途中に分岐部を有し、他方端が2つの水素タンク50,52である分岐付パイプである。すなわち、水素充填口20から2つの水素タンク50,52に同時に並列的に水素充填がされるように、水素充填パイプ30が設けられる。
【0038】
水素供給パイプ32は、2つの水素タンク50,52から燃料電池34へ延びる水素供給管で、水素ガスの供給流路である。水素供給パイプ32は、一方端が2つの水素タンク50,52で、途中に合流部を有し、他方端が燃料電池34のガス入口部である分岐付パイプである。すなわち、2つの水素タンク50,52から燃料電池34に、同時に並列的に水素供給がされるように、水素供給パイプ32が設けられる。
【0039】
プラグ46,48は、水素タンク50,52に接続口で、水素充填パイプ30の他方端、水素供給パイプ32の一方端が互いに分離して設けられる。プラグ46,48には、後述するようにタンク内圧力を検出する圧力計、タンク内温度を検出する温度計等が設けられる。圧力計、温度計の検出データは、適当な信号線で、水素充填口20の信号伝達構造まで伝達される。
【0040】
水素タンク50,52は、車両に搭載される高圧燃料ガスタンクである。水素タンク50,52の外形は円筒形で、ライナと呼ばれる容器体の外周を炭素繊維強化プラスチックで周囲を覆って高圧に耐える強度を持たせたものである。タンク内圧は、例えば約70MPa程度である。ライナの材質としては、アルミニウム等の金属材料、適当な強度を有するプラスチック材料等を用いることができる。以下では、水素タンク50,52は、共にアルミニウム製のライナを用い、その長さも共に同じで、外径のみが相違するものとして、説明を続ける。
【0041】
図1の例では、車両の後部座席の床下近傍に外径の小さい小型の水素タンク50が配置され、後部トランクの近傍に外径の大きい大型の水素タンク52が配置される。配置は、円筒形の長手方向を車両の幅方向に沿うようにして行われる。
【0042】
このように、水素タンク50,52が、その長さが同じで、水素タンク50の外径が水素タンク52の外径よりも小さいときは、水素タンク50の(表面積/体積)が、水素タンク52の(表面積/体積)よりも大きくなる。したがって、水素タンク50,52の材質が同じで、車両搭載位置における放熱性が同じとすると、単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束は、水素タンク50の方が水素タンク52よりも大きくなる。つまり、他の条件を同じとして、水素タンク50の方が水素タンク52よりも放熱性がよいことになる。
【0043】
逆止弁60は、後述するように、水素供給パイプ32の合流部において、2つの水素タンク50,52の間に設けられる気体弁であって、水素タンク50の圧力よりも水素タンク52の圧力が小さいときは、水素タンク50から水素タンク52への流れを阻止し、かつ、水素タンク50の圧力よりも水素タンク52の圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧PCRよりも小さい間は、水素タンク52から水素タンク50への流れを阻止する機能を有する。逆止弁60の両端のうち、水素タンク50側の接続部に水素供給パイプ32の一方端が接続される。すなわち、燃料電池34と、逆止弁60の水素タンク50側の接続部とが接続される。
【0044】
水素充填は、図1の左側の図に示されるように、車両6の水素充填部8を開けて、水素充填口20を露出させ、そのレセプタクルに水素充填機12の充填先部を差し込み、水素充填チューブ14を介して水素充填機12から水素ガスを流すことで行われる。水素充填の間、水素タンク50,52のタンク内圧とタンク温度が水素充填機12の制御部にデータとして送られ、これらを監視しながら、目標とするタンク内圧となったときに、水素充填機12からの水素ガスの流れが止められて、水素充填が終了する。
【0045】
水素充填が終了すると、水素充填パイプ30に設けられる開閉弁が閉じられ、水素充填チューブ14の充填先部が水素充填口20のレセプタクルから取り外され、水素充填部8が閉じられる。なお、開閉弁の代わりに、充填用逆止弁を用いることもできる。この後は、図1の右側の図に示されるように、車両6は、燃料電池34の発電によって走行を行うことができる。
【0046】
すなわち、水素タンク50,52には十分な水素ガスが充填されているので、車両6に搭載された燃料電池制御装置の制御の下で、燃料電池34に対する要求出力に応じて、水素タンク50,52から燃料電池34に水素ガスが供給される。これによって燃料電池34は、大気から酸化ガスとしての空気を取り込み、水素ガスを燃料ガスとして、電気化学反応によって発電を行い、発電された電力で車両6に搭載された回転電機が駆動される。回転電機は、車両6の駆動輪に接続される駆動軸を回転させるので、これによって車両6は走行を行うことができる。図1の右側の図は、その燃料電池34の発電電力によって車両6が走行する様子を示す図である。
【0047】
図2は、車両6に搭載される水素ガス充填・供給システム10の構成を説明する図である。図2において、開閉弁22は、水素充填パイプ30の途中に設けられ、水素充填を行うときに開き、水素充填が終了したときに閉じられる弁である。上記のように、開閉弁22に代えて、充填用逆止弁を用いてもよい。その場合には、水素充填口20が大気圧になると、自動的に水素タンク50,52から水素充填口20側への逆流が防止されるような向きに充填用逆止弁が配置される。
【0048】
分岐部24は、水素充填パイプ30を、水素充填口20から各水素タンク50,52に分岐させる部材である。分岐部24としては、T字型継手を用いることができる。なお、分岐部24のところに圧力計を設け、水素充填口20から供給される水素ガスの圧力を検出するものとしてもよい。
【0049】
温度計36は、水素タンク50のタンク内温度θ1を検出し、温度計38は、水素タンク52のタンク内温度θ2を検出する温度検出手段である。圧力計40は、水素タンク50のタンク内圧力P1を検出し、圧力計42は、水素タンク52のタンク内圧力P2を検出する圧力検出手段である。充填時には、温度計36,38の検出データと、圧力計40,42の検出データとは、水素充填口20の信号伝達構造を経由して、水素充填機12の充填制御部に伝送される。水素ガスの充填は、これらの信号を用い、各水素タンク50,52のタンク内温度θ1,θ2と、タンク内圧力P1,P2を監視しながら行われる。
【0050】
水素供給パイプ32は、水素充填パイプ30と同様に、燃料電池34側は1つのパイプで、水素タンク50,52の側で2つに分岐する分岐付パイプである。水素供給パイプ32は、水素タンク50,52の側から供給される水素ガスを合流させて一本化して燃料電池34の側に供給するので、分岐するところは、合流部としての機能を有する。
【0051】
逆止弁60は、上記のように、水素供給パイプ32の合流部において、2つの水素タンク50,52の間に設けられる気体弁である。逆止弁60は、模式的に説明すると、両端に一方側開口部と他方側開口部とを有する筒部の中に、可動部と、可動部を筒部の他方側の開口部に付勢させる付勢手段を有する構造を有する。図2では、可動部がボール62で示され、付勢手段がバネ64として模式的に示されている。逆止弁60の一方側開口部は水素タンク50側に、他方側開口部は水素タンク52側に、それぞれ水素供給パイプ32を介して接続される。そして、逆止弁60の一方側開口部と、水素タンク50との間の合流点から水素供給パイプ32が延ばされて、燃料電池34に接続される。
【0052】
逆止弁60のバネ64は、いわゆるクラッキング圧PCRを逆止弁60に与える機能を有する。クラッキング圧とは、逆止弁60にバネ64の付勢手段を用いることで、この付勢手段が順方向に気体を流すときには抵抗となり、ある一定の圧力がかかるまで気体が流れない状態が続き、一定の圧力を超えて気体が流れるようになるが、このような圧力をさす。図2の例でいえば、水素タンク50の圧力よりも水素タンク52の圧力が大きくても、その差圧がクラッキング圧PCRよりも小さい間は、水素タンク52から水素タンク50への流れが生じない。
【0053】
図3に、クラッキング圧PCRを有する逆止弁60の作用を示す。図3の横軸は、水素タンク50のタンク内圧力P1と水素タンク52のタンク内圧力P2との間の圧力差ΔP12で、縦軸は、逆止弁60において水素タンク50側から水素タンク52側に流れる水素ガスの流量Q12である。図3では、水素タンク52のタンク内圧力P2が水素タンク50のタンク内圧力P1より高いときの圧力差ΔP21と、逆止弁60において水素タンク52側から水素タンク50側に水素ガスが流れるときの流量Q21も示されているが、ΔP21=−ΔP12であり、Q21=−Q12である。
【0054】
図3に示されるように、ΔP12>0のときは、Q12=0である。つまり、水素タンク50の圧力P1よりも水素タンク52の圧力P2が小さく、ΔP12>0のときは、水素タンク50から水素タンク52への流れQ12が阻止される。
【0055】
また、図3に示されるように、0≦ΔP21<PCRのときもQ21=0である。ΔP21≧PCRのときに、Q21≧0となる。つまり、水素タンク50の圧力P1よりも水素タンク52の圧力P2が大きいがクラッキング圧PCRよりも小さい間である0≦ΔP21<PCRのときも、水素タンク52から水素タンク50への流れQ21が阻止される。
【0056】
上記構成の作用、特に逆止弁60の作用を、図4から図8を用いて詳細に説明する。図4と図5は、水素ガス充填・供給システム10において水素ガスが充填されるときの逆止弁60の作用を説明する図で、図6から図8は、水素ガス充填・供給システム10において水素ガスが放出されて燃料電池34に供給されるときにおける逆止弁60の作用を説明する図である。
【0057】
図4は、水素ガス充填・供給システム10において水素ガスが充填されるときの水素タンク50のタンク内温度θ1と水素タンク52のタンク内温度θ2の時間変化と、水素タンク50のタンク内圧力P1と水素タンク52のタンク内圧力P2の時間変化とを対応付けて示す図である。横軸には時間が、縦軸にはタンク内圧力Pとタンク内温度θとがとられている。
【0058】
時間tC0は、充填開始時、時間tC1は充填終了時、時間tC2は充填終了時の後放置して水素タンク50,52のタンク内温度θ1,θ2の間の温度差がほとんどなくなった時である。
【0059】
時間tC0において、タンク内温度θ1,θ2は初期温度θ0である。初期温度θ0は、例えば室温である。タンク内圧力P1,P2は初期圧力P0である。初期圧力P0は、例えば大気圧である。
【0060】
水素ガスの充填が水素タンク50,52に同時並行的に行われると、タンク内圧力P1,P2は同じ圧力を維持しながら時間経過と共に上昇する。タンク内温度θ1,θ2も、水素充填機12から水素タンク50,52に至る経路で水素ガスが減圧され、そのために外気から吸熱するので、充填と共に温度が上昇する。その温度上昇は、水素タンク50,52の熱流束の値の違いで差が生じる。図1に関連して説明したように、水素タンク50の熱流束の値は水素タンク52の熱流束の値より大きいので、水素タンク50の方が水素タンク52に比べ放熱性がよく、したがって、水素タンク50の温度上昇の程度が水素タンク52の温度上昇の程度よりも小さい。
【0061】
したがって、充填終了時の時間tC1において、タンク内圧力はP1=P2=PCであるが、タンク内温度は、Δθ21=θ2−θ1が生じる。一例をあげると、tC0からtC1を数分とし、PCを約70MPaとして、Δθ21は、約10℃程度となることがある。
【0062】
このように、短時間で水素充填を行うと、充填終了時間tC1においてタンク内温度差Δθ21=θ2−θ1が生じるが、そのまま放置することで、水素タンク50,52が環境温度に応じて放熱し、このタンク内温度差Δθ21=θ2−θ1は次第に小さくなる。図4では、時間tC2でΔθ21がほぼゼロとなるものとして示されている。時間tC2と時間tC1の間は、一例をあげると、20分から30分の程度である。
【0063】
このように、タンク内温度が低下すると、タンク内圧力P1,P2も低下する。タンク内温度θ1,θ2との関係は、水素タンク50,52は閉ざされた空間であるので、圧力をP、体積をV、温度をT、気体定数をnRとして、いわゆるPV=nRTの関係で与えられる。したがって、図4に示されるように、温度低下が大きいθ2に対応するP2の低下の方が、温度低下が小さいθ1に対応するP1の低下よりも大きい。つまり、時間tC2においては、タンク内圧力P1の方がタンク内圧力P2よりも大きく、圧力差ΔP12=P1−P2が生じる。
【0064】
図5は、このような圧力差ΔP12=P1−P2が生じても、逆止弁60の作用によって、水素タンク50から水素タンク52へ水素ガスが流れない様子を説明する図である。すなわち、逆止弁60は、水素タンク50側の圧力P1が水素タンク52側の圧力P2より高いときは、ボール62が水素タンク52側の他方側開口部を閉じるように働く。この作用は逆止弁60の通常の機能である。これによって、水素タンク50側から水素タンク52側への流れが阻止される。そのことは、図3で述べたように、ΔP12>0のときにQ12=0であることと同じことである。
【0065】
次に、図6は、水素ガス充填・供給システム10において水素ガスが放出されて燃料電池34に供給されるときの水素タンク50のタンク内温度θ1と水素タンク52のタンク内温度θ2の時間変化と、水素タンク50のタンク内圧力P1と水素タンク52のタンク内圧力P2の時間変化とを対応付けて示す図である。図4と同様に、横軸には時間が、縦軸にはタンク内圧力Pとタンク内温度θとがとられている。
【0066】
時間tS0は、供給開始時、時間tS1はかなり供給が行われて一段落した時、時間tS2はその後放置して水素タンク50,52のタンク内温度θ1,θ2の間の温度差がほとんどなくなった時である。
【0067】
時間tS0において、タンク内温度θ1,θ2は供給初期温度θS0である。初期温度θS0は、例えば図4の時間tC2のときの温度である。タンク内圧力P1,P2は初期圧力PS0である。初期圧力PS0は、例えば、図4の時間tC2のときのタンク内圧力である。図4で説明したように、P1とP2とは異なる圧力であるが、その差は、約70MPaであるPS0に比べれば小さいので、ここでは、同じとして示されている。
【0068】
水素ガスが水素タンク50,52から同時並行的に放出されて燃料電池34に供給されると、タンク内圧力P1,P2は同じ圧力を維持しながら時間経過と共に低下する。タンク内温度θ1,θ2も、それと共に低下する。その温度低下は、水素タンク50,52の熱流束の値の違いで差が生じる。図1に関連して説明したように、水素タンク50の熱流束の値は水素タンク52の熱流束の値より大きいので、水素タンク50の方が水素タンク52に比べ環境温度に対する順応性がよく、したがって、水素タンク50の温度低下の程度が水素タンク52の温度低下の程度よりも小さい。
【0069】
したがって、燃料電池34に対する供給が一段落した時間tS1において、タンク内圧力はP1=P2=PS1であるが、タンク内温度は、Δθ12=θ1−θ2が生じる。一例をあげると、tS0からtS1を数時間とし、PS1を約7MPaとして、Δθ21は、約10℃程度となることがある。
【0070】
このように、水素ガスの放出によって燃料電池34に供給が行われると、供給が一段落した時間tS1においてタンク内温度差Δθ12=θ1−θ2が生じるが、そのまま放置することで、水素タンク50,52が環境温度に応じて吸熱し、このタンク内温度差Δθ12=θ1−θ2は次第に小さくなる。図6では、時間tS2でΔθ12がほぼゼロとなるものとして示されている。時間tS2と時間tS1の間は、一例をあげると、20分から30分の程度である。
【0071】
このように、タンク内温度が上昇すると、タンク内圧力P1,P2も上昇する。図4に関連して説明したように、タンク内温度θ1,θ2との関係は、いわゆるPV=nRTの関係で与えられる。したがって、図6に示されるように、温度上昇が大きいθ2に対応するP2の上昇の方が、温度上昇が小さいθ1に対応するP1の上昇よりも大きい。つまり、時間tS2においては、タンク内圧力P2の方がタンク内圧力P1よりも大きく、圧力差ΔP21=P2−P1が生じる。
【0072】
このように、図4でも図6でも、差圧が生じるが、その差圧の符号が逆である。すなわち、図4の水素充填のときは、圧力差ΔP12=P1−P2が生じるが、図6の水素供給のときは、圧力差ΔP21=P2−P1が生じる。ところで、図4の時間tC1において充填終了のときのタンク内圧力PCは、例えば、約70MPaであるのに対し、図6の時間tS1において供給が一段落したときのタンク内圧力PS1は、例えば、約7MPa程度で、PCに比べればかなり低い。したがって、図6の水素供給のときに生じる圧力差ΔP21=P2−P1は、図4の水素充填のときに生じる圧力差ΔP12=P1−P2よりもかなり小さい。
【0073】
図7に、その一例を示す。図7の第1象限の横軸は、時間tC1における水素タンク52のタンク内温度θ2と水素タンク50のタンク内温度θ1との間の温度差であるΔθ21で、縦軸は、時間tC2における水素タンク50のタンク内圧力P1と水素タンク52のタンク内圧力P2の間の圧力差ΔP12である。ここに示されるように、例えば、時間tC1における温度差Δθ21=10℃とすると、時間tC2における圧力差ΔP12=1.8MPaである。
【0074】
一方、図7の第3象限の横軸は、時間tS1における水素タンク50のタンク内温度θ1と水素タンク52のタンク内温度θ2との間の温度差であるΔθ12で、縦軸は、時間tS2における水素タンク52のタンク内圧力P2と水素タンク50のタンク内圧力P1の間の圧力差ΔP21である。ここに示されるように、例えば、時間tS1における温度差Δθ12を第1象限のΔθ21=10℃と同じとすると、時間tS2における圧力差ΔP21=0.1MPaと、先ほどのΔP12=1.8MPaに比べかなり小さい。
【0075】
そこで、このΔP21=0.1MPaを、逆止弁60のクラッキング圧PCRよりも小さく設定することで、水素タンク52のタンク内圧力P2が水素タンク50のタンク内圧力P1より高くても、水素タンク52から水素タンク50への水素ガスの流れを阻止することができる。
【0076】
図8は、このような圧力差ΔP21=P2−P1が生じても、逆止弁60のクラッキング圧PCRの作用によって、水素タンク52から水素タンク50へ水素ガスが流れない様子を説明する図である。すなわち、逆止弁60は、バネ64によって、ボール62が水素タンク50側から水素タンク52側へ押し付けられている。この付勢力に相当する圧力がクラッキング圧PCRであるので、圧力差ΔP21=P2−P1がPCRよりも小さいときは、ボール62が水素タンク52側の開口部を閉じている。
【0077】
したがって、水素タンク52のタンク内圧力P2が水素タンク50のタンク内圧力より高くても、逆止弁60のクラッキング圧PCRの作用によって、水素タンク52側から水素タンク50側への水素ガスの流れが阻止される。そのことは、図3で述べたように、0≦ΔP21<PCRのときにQ21=0であることと同じことである。
【0078】
このように、時間tS2におけるΔP21に応じて逆止弁60のクラッキング圧PCRを設定することで、1つの逆止弁60で、方向の異なる水素ガスの流れを共に阻止することができる。すなわち、複数の水素タンク50,52にそれぞれ逆止弁を用いることなく、1つの逆止弁60によって、複数の水素タンク50,52の間の逆流防止を行うことができる。
【0079】
上記のように、水素タンク50,51は、形状が異なることで、熱流束が異なる。これ以外の要素でも、複数の水素タンクの間で熱流束が異なることがある。図9は、熱流束の値の異なる水素タンクの内容をまとめた図である。熱流束の値が相違するものとしては、上記のように、水素タンクの(表面積/体積)の相違がある。図9でまとめたように、(表面積/体積)が大きい方が、熱流束の値が大きい。また、水素タンクの材質の相違でも熱流束の値が相違する。例えば、ライナがアルミニウムと樹脂では、前者の方が、熱伝導率が大きく、熱流束の値が大きい。ライナの厚さの差でも熱流束が相違する。ライナの厚さが薄くなると、熱流束の値が大きくなる。
【0080】
形状が同一で、材質も同一の複数の水素タンクの間でも、その他に、車両における搭載位置によって、水素タンクの内部の水素ガスからライナに向かう熱流束の値が異なってくる。例えば、車両の走行風を受ける位置に搭載される水素タンクと、密閉空間に搭載される水素タンクとは、前者の方が、放熱性がよく、熱流束の値が大きくなる。このように、図9にまとめたように、放熱に有利な位置に搭載される水素タンクの方が、熱流束の値が大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る燃料ガス充填・供給システムは、車両に搭載される燃料ガスタンクの充填・供給に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
4 水素供給ステーション、6 車両、8 水素充填部、10 水素ガス充填・供給システム、12 水素充填機、14 水素充填チューブ、20 水素充填口、22 開閉弁、24 分岐部、30 水素充填パイプ、32 水素供給パイプ、34 燃料電池、36 温度計、40,42 圧力計、46,48 プラグ、50,52 水素タンク、60 逆止弁、62 ボール、64 バネ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる少なくとも2つの燃料ガスタンクと、
燃料ガス充填源から分岐部を介して少なくとも2つの燃料ガスタンクを並列に接続する充填流路と、
複数の燃料ガスタンクの合流部を一方端として、他方端が負荷装置に接続される供給流路と、
供給流路の合流部において、熱流束が異なる2つの燃料ガスタンクの間に設けられる逆止弁であって、
熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が小さいときは、熱流束が大きい燃料ガスタンクから熱流束が小さい燃料ガスタンクへの流れを阻止し、かつ、
熱流束が大きい燃料ガスタンクの圧力よりも熱流束が小さい燃料ガスタンクの圧力が大きいが予め定めたクラッキング圧よりも小さい間は、熱流束が小さい燃料ガスタンクから熱流束が大きい燃料ガスタンクへの流れを阻止し、熱流束の大きい燃料ガスタンク側の接続部に供給流路の一方端が接続される逆止弁と、
を備えることを特徴とする燃料ガス充填・供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料ガス充填・供給システムにおいて、
逆止弁は、
負荷装置に燃料ガスを供給したときに、熱流束の小さい燃料ガスタンクのタンク内圧力と、熱流束の大きい燃料ガスタンクのタンク内圧力との差である供給時差圧に基いて設定されるクラッキング圧を有することを特徴とする燃料ガス充填・供給システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料ガス充填システムにおいて、
複数の燃料ガスタンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、
熱流束の大きい燃料ガスタンクは、熱流束の小さい燃料ガスタンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることを特徴とする燃料ガス充填・供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−241940(P2011−241940A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116187(P2010−116187)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】