説明

燃料タンク製造方法及び燃料タンク

【課題】本発明は自動車用の燃料タンク製造方法及び燃料タンクに関し、厳密な隙間管理を要することなく、溶接欠陥も生ずること無く、錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板の溶接により自動車用の燃料タンクの製造を実現することを目的とする。
【解決手段】自動車用燃料タンクは錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板を素材とする。錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板は絞り加工に付され、その結果、外周に沿ってフランジ部を形成した一対の半体10, 12が形成される。この一対の半体10, 12は夫々の凹部が内面側で対向するようにフランジ部10-1, 12-1にて突き当て密着せしめられ、このフランジ突当部10-1, 12-1に沿ってレーザビーム及びアークビームが当てられ、レーザ・アークハイブリッド溶接が行われる。燃料タンク面に取り付けられる燃料インレット管やブラケットなどの付属品についてもレーザ・アークハイブリッド溶接することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車用の燃料タンク製造方法及び燃料タンクに関し、鉛フリー化及びクロムフリー化の要求に適したものである。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクは大抵めっき鋼板を素材とし、絞り加工により上下のフランジ付半体を形成し、上下の半体のフランジ部を溶接により一体化している。溶接方法としてはシーム溶接によるものが従来最も一般的で、この方法においては、一対の電板輪によりフランジ部を挟着しつつフランジ部に沿って一対の電板輪を移動させ、溶接を行っている。燃料タンクは自動車ボディにおける狭い空間部に設置され、多くの部品が入り組んでいるため、他部品との干渉を回避しつつ、所望の容積をもたせるような形状設計をしていることが多い。他方、電板輪は上下のフランジ部を挟着しつつフランジ部に沿って移動するため、ストレートに近い形状に妥協せざるを得ず、所望の燃料タンク容量が得られない問題点があった。そこで、シーム溶接の代わりにレーザ溶接を行うことにより、シーム溶接では電板輪の干渉によって不可能であった形状の燃料タンクであっても溶接を可能とする技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
他方、環境汚染対策として鉛フリー及びクロム(6価)フリーの要求が出てきている。即ち、燃料タンクの素材としては鋼板に耐食性皮膜をめっきして使用されるが、めっき液として鉛や6価クロムを含むものが使用されていたが、めっき層からの鉛イオンや6価クロムイオンの溶出による環境汚染の懸念からこれらのイオンの溶出を起こさない表面処理層を備えたものとして錫−亜鉛(Sn-Zn)クロムフリーめっき鋼板が注目されている。
【特許文献1】特開2003−21012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料タンクのフランジ部の溶接手段としてのレーザ溶接はシーム溶接のような機械的な干渉による制限が少ない利点があること上述の通りであるが、鉛フリー及びクロムフリーのため、素材として錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板を使用した場合、次のような問題点があった。即ち、レーザ溶接では鋼板の重ね溶接の場合に鋼板間の隙間の厳密管理が必要であり、隙間が少しでも大きいと溶け落ちが生じ、逆に密着させてしまうと、亜鉛の蒸発により溶接金属の吹き飛ばしや溶接金属に残置によるブローホールやポロシティの発生があり、溶接欠陥となりやすかった。そのため、レーザ溶接による燃料タンク製造は工程コストが高く、これが結果的に製品コスト高につながる問題点があった。
【0005】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされてものであり、あまり厳密な隙間管理を要することなく、溶接欠陥も生ずること無く、錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板の溶接により自動車用の燃料タンクの製造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板よりの自動車用燃料タンクの製造の際に溶接をレーザ・アークハイブリッド溶接にて行うことにより上記問題点を解決するものである。自動車用燃料タンクの製造に際しては、錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板は絞り加工に付され、その結果、外周に沿ってフランジ部を形成した一対の半体が形成される。この一対の半体は夫々の凹部が内面側で対向するようにフランジ部にて突き当て密着せしめられ、このフランジ突当部に沿ってレーザ・アークハイブリッド溶接が行われる。
【0007】
燃料タンクでは上下の半体の突合せフランジ面以外に燃料インレット管やブラケットなどの付属品が溶接取り付けられるがこれらの溶接取り付け部についてもレーザ・アークハイブリッド溶接することができる。
【発明の効果】
【0008】
レーザ・アークハイブリッド溶接の採用により厳密な隙間管理を伴うことなく、例えば、フランジ部の密着状態においてもブローホールやポロシティの発生を見ることなく錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板よりの燃料タンクの製造が可能となる。そのため、工程コストを節約し、結果的に燃料タンクのコストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明において、燃料タンクは錫−亜鉛(Sn-Zn)めっき鋼板にて形成される。錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板は0.8〜0.9mmといった厚みの冷延鋼板に錫−亜鉛合金めっきを施してなるものある。
【0010】
図1は燃料タンクの構造を模式的に示しており、上下の半体10, 12を備えている。半体10, 12は錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板をプレス機によって絞ることにより窪ませ(絞りにより形成された窪み部を図2において10A, 12Aにて示す)、全外周に沿ってフランジ部10-1, 12-1(図2)を形成している。組み立て時に図2に示すように窪み部10A, 12Aは対向せしめられ、フランジ部10-1, 12-1は突き当てられ、この突当部の全周に沿ってレーザ・アークハイブリッド溶接が行われる。図2において13はレーザ・アークハイブリッド溶接による溶接部を示し、溶接部13はフランジ部10-1, 12-1の全周に沿って位置している。
【0011】
また、図1において14は燃料インレット管であり、この実施形態では燃料インレット管14はパイプ材の外周部に溶接されたフランジ付スリーブ状の取付具16を備え、クロムフリー錫−亜鉛めっきを施したものである。他方、上部半体10は開口部18を形成しており、この開口部18に燃料インレット管14が挿入され、取付具16のフランジ部16-1が開口部18の内周縁に沿った燃料タンク上部半体10の対抗面に突き当て密着せしめられ、この突当面についても溶接部13にてレーザ・アークハイブリッド溶接される。
【0012】
また、図4及び図5は図1には示されないが燃料タンクの上部半体10若しくは下部半体12の適当な部位に取り付けられたブラケット部20を示しており、ブラケット部20は燃料タンクを車体の適当な部位に固定のためのものを想定しているが、燃料タンクに自動車の別部品を取り付けるためのものでもありうる。そして、ブラケット部20についても錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板にて形成或いは成形後クロムフリー錫−亜鉛めっきを施したものであり、両端部20-1と燃料タンク(上部半体10若しくは下部半体12)の対向面に当接され、溶接部13にてレーザ・アークハイブリッド溶接される。
【0013】
溶接部に対する溶接ビームの当て方としては図2の矢印fに示すような突当られたフランジ部に上から当てるものに限らず、図6のように端面側から矢印gのように当てることで溶接部13を形成する手法もある。また、図7のようにフランジ部10-1, 12-1の端縁10-1A, 12-1Aを曲折することでその間に窪み部を形成し、ここにレーザ・アークハイブリッド溶接hを当て、溶接部13を形成するようにしてもよい。また、図8ではフランジ部の幅を10-1', 12-1'のように幾分違わせて段差部とし、この段差部に溶接ビームiを当て溶接部13を形成している。
【0014】
図9はレーザ・アークハイブリッド溶接の概略構成を示し、22はレーザヘッドであり、内部にはレーザ光のための集光レンズ24が設けられ、レーザビーム26が被溶接面に直交方向で当てられる。他方、28はMIGトーチであり、そのアーク溶接ワイヤ30は、レーザビーム26に対して幾分傾斜して設けられ、この実施形態では矢印kに示す溶接方向に対してレーザビーム26が最初に当てられ、それから微小距離遅れてアークビームが当てられるようになっている。しかしながら、この発明においてはアークビームを最初当て、それに後行してレーザビームを当てる方式も包含される。
【0015】
この発明によれば、レーザ・アークハイブリッド溶接の採用により厳密な隙間管理を伴うことなく、例えば、フランジ部の密着状態においてもブローホールやポロシティの発生を見ることなく錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板よりの燃料タンクの効率的な製造が可能となる。
【実施例】
【0016】
厚み0.9mmの錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板よりプレス機による絞りにて図1同様の半体10, 12を形成し、そのくぼみ部10A, 12Aを対向させつつフランジ部10-1, 12-1を突き当て密着させ、レーザ・MIGアークハイブリッド溶接によってフランジ部10-1, 12-1に沿って全周溶接し、密閉状態を生成するため燃料インレット管14の接続部は盲状である点が相違するがその他は図1の燃料タンクと同様な試験品を製造した。溶接条件は以下の通りであった。
レンズ焦点:222mm
レーザ出力:4ワット
アーク電流:180アンペア
先行順はレーザ先行Mig後行
レーザ・アーク間距離:0mm
【比較例】
【0017】
厚み0.9mmの錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板(スーパーエスコート)よりプレス機による絞りにて図1同様の半体10, 12を形成し、そのくぼみ部10A, 12Aを対向させつつフランジ部10-1, 12-1を0.2mmの間隙に保持させ、YAGレーザ単独によってフランジ部10-1, 12-1に沿って全周溶接し、実施例と同様な外部密閉構造の燃料タンクを製造した。溶接条件は以下の通りであった。
レンズ焦点:200mm
レーザ出力:3Kワット
【0018】
実施例及び比較例の夫々の試験品2個につき、試験基準に従い29.4パスカルの空気圧を30秒間印加し、その時点での燃料タンク内圧を計測することによる気密試験を行った。計測値(平均値)は
実施例:0.3g/cm2
比較例:0.3g/cm2
であった。
【0019】
試験結果から明らかなように、本実施例では比較例のような隙間管理を要することなく単に密着溶接することで比較例同等若しくは勝る気密性を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は燃料タンクの概略斜視図である。
【図2】図2は燃料タンクのフランジ溶接部の断面図(図1のII−II線に沿った矢視断面図)である。
【図3】図3は燃料タンクにおける燃料インレット接続部位の断面図である。
【図4】図4は燃料タンクにおけるブラケット接続部位の概略的斜視図である。
【図5】図5は図4のブラケット接続部位の断面図(図4のV−V線に沿った矢視断面図)である。
【図6】図6は別実施形態における溶接部の断面図である。
【図7】図7は別実施形態における溶接部の断面図である。
【図8】図8は別実施形態における溶接部の断面図である。
【図9】図9はレーザ・アークハイブリッド溶接の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0021】
10, 12…燃料タンクの上下の半体
10A, 12A…絞りによる窪み部
10-1, 12-1…フランジ部
13…レーザ・アークハイブリッド溶接による溶接部
14…燃料インレット管
16…取付具
18…開口部
20…ブラケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板を絞り加工に付し、絞りによる凹部の外周に沿ってフランジ部を形成した半体を一対形成し、この一対の半体を夫々の凹部を内側に対向させ、かつ夫々のフランジ部を突き当て、この突き当てられたフランジ部に沿ってレーザ・アークハイブリッド溶接することを特徴とする燃料タンク製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、燃料インレット管やブラケットなどの燃料タンク付属品も錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板より形成され、燃料タンクに形成された夫々の取付け部分にレーザ・アークハイブリッド溶接されることを特徴とする燃料タンク製造方法。
【請求項3】
錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板を絞り加工に付すことにより形成され、絞りによる凹部の外周に沿ってフランジ部を形成した一対の半体を備え、この一対の半体を夫々の凹部を内側に対向させ、かつ夫々のフランジ部を突き当てるように配置され、かつこの突き当てられたフランジ部に沿ったレーザ・アークハイブリッド溶接部を備えたことを特徴とする燃料タンク。
【請求項4】
請求項3に記載の発明において、錫−亜鉛クロムフリーめっき鋼板より形成された燃料インレット管やブラケットなどの燃料タンク付属品を備え、これらの燃料タンク付属品を燃料タンクにおける夫々の取付け部分に接合するレーザ・アークハイブリッド溶接部を備えたことを特徴とする燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−302366(P2008−302366A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148846(P2007−148846)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
【Fターム(参考)】