説明

燃料噴射ポンプ

【課題】ギヤケース内の潤滑油の飛沫が、潤滑油排出通路を介してカム室内に入り込んでプランジャの下端部にかかり、このプランジャにかかった潤滑油が、プランジャに沿って上方に移動して、加圧室内に入り込んで燃料中に混入し、これにより、燃料の黒色化、エンジン性能の低下等、という問題があった。
【解決手段】潤滑油排出通路37L(37R)は、第一潤滑油排出通路371L(371R)と、第二潤滑油排出通路372L(372R)と、第三潤滑油排出通路373L(373R)と、によって構成され、フランジ部34の一側面上には溝部342が設けられ、第一潤滑油排出通路371L(371R)の下流側端部は、溝部342内と連通してカバー35によって覆われており、第二潤滑油排出通路372L(372R)及び第三潤滑油排出通路373L(373R)の通路面積は、第一潤滑油排出通路371L(371R)の通路面積よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに搭載される燃料噴射装置の構成部品である燃料噴射ポンプの技術に関し、具体的には、燃料噴射ポンプの潤滑構造の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射ポンプにおいて、ポンプハウジングに形成されるカム室内は、潤滑油で満たされており、カム室内に収容されるカム等の駆動系部品は、潤滑油によって潤滑される(特許文献1参照)。そして、カム室内の潤滑油は、ポンプハウジングの一側部に取り付けられるギヤケース内に、潤滑油排出通路(例えばポンプハウジングの一側部を貫通する穴)を介して排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−106780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の燃料噴射ポンプでは、ギヤケース内の潤滑油の飛沫が、前記潤滑油排出通路を介してカム室内に入り込んで、前記カムによって上下往復動されるプランジャの下端部にかかり、このプランジャにかかった潤滑油が、プランジャに沿って上方に移動して、プランジャ上端部に形成される加圧室内に入り込んで燃料中に混入し、これにより、燃料の黒色化、エンジン性能の低下等、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上のとおりであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
すなわち、請求項1においては、ポンプハウジングの一側部にギヤケースが取り付けられ、当該ポンプハウジングの一側部から突出するカム軸が当該ギヤケース内に挿入されて、当該ギヤケース内のカム軸上にカムギヤが設けられ、当該ポンプハウジング内の潤滑油を当該ギヤケース内に排出する潤滑油排出通路が、前記ポンプハウジングの一側部に設けられる、燃料噴射ポンプにおいて、前記潤滑油排出通路は、略クランク状に折れ曲がるように形成され、第一潤滑油排出通路と、第二潤滑油排出通路と、第三潤滑油排出通路と、によって構成され、前記ポンプハウジングの一側面上に設けられる第二潤滑油排出通路の上流側に、当該第二潤滑油排出通路と略直交する第一潤滑油排出通路が連通し、第二潤滑油排出通路の下流側に、当該第二潤滑油排出通路と略直交する第三潤滑油排出通路が連通し、前記ポンプハウジングの一側面上には、前記潤滑油排出通路の一部を構成する溝部が設けられ、前記第一潤滑油排出通路は、前記溝部内において前記ポンプハウジングの一側部を貫通する穴であり、当該第一潤滑油排出通路の上流側端部は、前記ポンプハウジング内と連通する一方、当該第一潤滑油排出通路の下流側端部は、前記溝部内と連通してカバーによって覆われており、前記第二潤滑油排出通路は、前記溝部と前記カバーとによって構成されており、前記第三潤滑油排出通路は、前記カバーの端面に沿って構成されており、当該第二潤滑油排出通路及び当該第三潤滑油排出通路の通路面積は、前記第一潤滑油排出通路の通路面積よりも小さいものである。
【0007】
請求項2においては、前記第三潤滑油排出通路は、前記第二潤滑油排出通路よりも通路面積が小さいものである。
【0008】
請求項3においては、前記第三潤滑油排出通路は、前記第一潤滑油排出通路よりも下方に設けられるものである。
【0009】
請求項4においては、前記カバーは、取付位置を位置決め可能に構成されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、潤滑油排出通路は、クランク状に折れ曲がるうえに、ギヤケース側の通路面積がポンプハウジング側の通路面積よりも小さくなっており、さらに潤滑油排出通路のギヤケース側は、カバーによって覆われているため、ギヤケース内の潤滑油の飛沫がポンプハウジング内に入りに難く、さらにエンジンのピストンの上下往復動に伴う脈動圧による、ポンプハウジング内への潤滑油の飛沫量を低減し、潤滑油の飛沫に起因して発生する潤滑油の燃料中への混入を防止できる。
【0012】
請求項2においては、カバーの端面に加工を施すだけで潤滑油排出通路の通路面積を容易に調整できる。これにより、潤滑油排出通路の加工コストを低減できて、燃料噴射ポンプの製造コストを低減できる。
【0013】
請求項3においては、ポンプハウジング内の潤滑油が、潤滑油排出通路内を上方から下方に流れ落ちてギヤケース内に排出される。これにより、潤滑油の流れが円滑になって、燃料噴射ポンプの潤滑性能を向上できる。
【0014】
請求項4においては、カバーの取付作業が容易となり、燃料噴射ポンプの組立作業を効率良くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ポンプを示す側面断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ポンプを示す正面断面図。
【図3】フランジ部及びカバーを示す正面図。
【図4】フランジ部及びカバーを示す分解斜視図。
【図5】フランジ部の溝部を示す正面図。
【図6】カバーを示す斜視図。
【図7】カバーを示す正面図。
【図8】図7におけるA矢視図。
【図9】第二潤滑油排出通路を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1について、図面に基づき説明する。なお、燃料噴射ポンプ1においては、図1の矢印Fで示す方向を「前方」、矢印Uで示す方向を「上方」とし、図2の矢印Rで示す方向を「右方」として、以下に述べる各部材の位置や方向等を説明する。
【0017】
図1及び図2に示す燃料噴射ポンプ1は、ディーゼルエンジンに搭載される燃料噴射装置の構成部品であり、燃料タンク内の燃料を高圧にして所定のタイミングで所定量の燃料を燃料噴射弁に圧送するものである。燃料噴射ポンプ1は、一本のプランジャ10によって複数の燃料噴射弁に燃料を分配・圧送する、分配型燃料噴射ポンプである。
【0018】
燃料噴射ポンプ1において、プランジャ10は、プランジャバレル11内に上下往復摺動可能に設けられる。プランジャバレル11は、ポンプハウジング12の上部に設けられるハイドロリックヘッド13に挿嵌される。そして、プランジャ10の上端部とプランジャバレル11との間には、加圧室14が形成される。また、ハイドロリックヘッド13においてプランジャバレル11の右方には、低温始動タイマ機構となるサーモエレメント15が設けられる一方、プランジャバレル11の左方には、アキュムレータ38(図2参照)が設けられる。
【0019】
そして、プランジャバレル11の下端部は、ポンプハウジング12の上部に上下方向に形成されるタペット室121に挿嵌される。タペット室121内においてプランジャバレル11の下端部からは、プランジャ10が下方に突出する。そして、プランジャバレル11の下端部外周には、上部バネ受け16が固設され、プランジャ10の下端部には、下部バネ受け17が固設され、これら上部バネ受け16と下部バネ受け17との上下間には、プランジャ10に下方への付勢力を付与するバネ18が介装される。また、プランジャ10の下端部には、タペット19がタペット室121内に上下往復摺動可能に設けられる。
【0020】
タペット19は、上方に開口する有底の略円筒状に形成される部材である。タペット19内には、下部バネ受け17が固設されており、この下部バネ受け17を介してバネ18によってタペット19がプランジャ10と共に下方へ付勢される。そして、タペット19の下部には、カム軸20上のカム21に当接するローラ191が、ローラ軸192を介して回動自在に軸支される。また、下部バネ受け17とタペット19との上下間には、カム21とタペット19との隙間を適正値に調整する、調整シム22が設けられる。
【0021】
カム21は、カム軸20上に固設されて、ポンプハウジング12の下部に形成されるカム室122内の前部に収容される。カム軸20は、カム室122内に前後方向に架設され、軸受け201を介してポンプハウジング12に回動可能に軸支される。カム室122内は、潤滑油によって満たされており、潤滑油によってカム21等の駆動系部品が潤滑される。
【0022】
また、ポンプハウジング12の前側部には、ギヤケース23が取り付けられるフランジ部34が形成される。フランジ部34の前側面からは、カム軸20の前端部が前方に突出し、この突出するカム軸20は、ギヤケース23内に挿入される。そして、ギヤケース23内のカム軸20上には、エンジンのクランク軸(図示省略)からの動力が伝達されるカムギヤ24が固設される。
【0023】
一方、ポンプハウジング12の後側部からは、カム軸20の後端部が後方に突出し、この突出するカム軸20上には、ガバナ機構(図示省略)を構成する部品である、ガバナスリーブ25及びガバナウエイト26が設けられる。これらガバナスリーブ25及びガバナウエイト26等のガバナ機構は、ポンプハウジング12の後側に形成されるガバナ室125内に内装される。そして、ガバナ室125内とカム室122内とは、気抜穴(図示省略)によって連通される。
【0024】
また、カム室122内の後部には、カム軸20上に固設されるベベルギヤ27が収容される。そして、カム室122後部の上側壁からは、伝達軸28の下端部が下方に突出する。伝達軸28の下端部には、カム軸20上のベベルギヤ27に噛合するベベルギヤ29が固設される。伝達軸28は、上下方向に架設され、ポンプハウジング12内の隔壁に回動可能に軸支される。伝達軸28の上下方向(軸方向)の位置は、ストッパ30によって固定される。
【0025】
そして、ポンプハウジング12において伝達軸28の上方には、燃料噴射ポンプ1の噴射量調節機構を構成する部品であるラック(図示省略)を内装するラック室124が形成される。ラック室124内とカム室122内とは、気抜穴(図示省略)によって連通される。
【0026】
また、伝達軸28の上端部には、分配軸31がジョイント32を介して伝達軸28と同一軸心上に固設される。そして、ハイドロリックヘッド13において分配軸31の後方には、燃料噴射ポンプ1の噴射終了時に逆止弁となって噴射管(図示省略)内の燃料が加圧室14内に流出することを防止するデリベリバルブ33が、ホルダ331を介して設けられる。
【0027】
このような構成により、燃料噴射ポンプ1ではカム21が回転されると、カム21の回転によってタペット19が上下往復動されると共に、このタペット19に固設された下部バネ受け17を介してプランジャ10も上下往復動される。そして、プランジャ10の上下往復動によって、加圧室14への燃料の吸入行程と、加圧室14からの燃料の吐出行程とが交互に行われる。つまり、吸入行程においてはプランジャ10がバネ18の付勢力によって押し下げられて下降すると、燃料タンクからの燃料が加圧室14に吸入される一方、吐出行程においてはプランジャ10がバネ18の付勢力によって押し上げられて上昇すると、加圧室14に吸入されている燃料が加圧されて油路を通って分配軸31に圧送される。その後、分配軸31に圧送された燃料は、分配軸31によってデリベリバルブ33へ分配されて噴射管を通って燃料噴射ノズルから噴射される。
【0028】
図3及び図4に示すフランジ部34は、正面視において略逆三角形状に形成される。フランジ部34の中心部には、カム軸20を軸支するボス部341が設けられる。そして、フランジ部34の前側面上においてボス部341の外周には、溝部342が設けられ、この溝部342上には、カバー35がボルト36・36によって取り付けられる。
【0029】
また、フランジ部34においてカバー35の外周には、ポンプハウジング12をギヤケース23に取り付けるためのボルト(図示省略)が挿入される、三つのボルト孔343・343・343が設けられる。これら三つのボルト孔343・343・343は、略逆三角形状に形成されるフランジ部34の三つの角部にそれぞれ配置され、ボス部341を中心に略等角度(略120度)の間隔で設けられる。
【0030】
そして、フランジ部34には、二つの潤滑油排出通路37L・37Rが設けられ、ポンプハウジング12内の潤滑油が各潤滑油排出通路37L・37Rを介して、ギヤケース23(図1参照)内に排出されるように構成される。なお、潤滑油排出通路37L・37Rに係る以下の説明では、潤滑油の流れ方向において、ポンプハウジング12側のことを「上流側」といい、ギヤケース23側のことを「下流側」という。
【0031】
二つの潤滑油排出通路37L・37Rは、いずれも側面断面視において略クランク状に折れ曲がるように形成される。二つの潤滑油排出通路37L・37Rは、正面視(図3参照)においてそれぞれカム軸20を挟んで左・右に配置される。つまり、カム軸20の左方に潤滑油排出通路37L(以下単に「左方の潤滑油排出通路37L」という。)が配置され、カム軸20の右方に潤滑油排出通路37R(以下単に「右方の潤滑油排出通路37R」という。)が配置される。
【0032】
左方の潤滑油排出通路37Lは、第一潤滑油排出通路371Lと、第二潤滑油排出通路372Lと、第三潤滑油排出通路373Lと、によって構成される。左方の潤滑油排出通路37Lにおいて、フランジ部34の前側面上に設けられる第二潤滑油排出通路372Lの上流側に、この第二潤滑油排出通路372Lと略直交する第一潤滑油排出通路371Lが連通し、第二潤滑油排出通路372Lの下流側に、この第二潤滑油排出通路372Lと略直交する第三潤滑油排出通路373Lが連通する。
【0033】
一方、右方の潤滑排出通路37Rは、第一潤滑油排出通路371Rと、第二潤滑油排出通路372Rと、第三潤滑油排出通路373Rと、によって構成される。右方の潤滑油排出通路37Rにおいて、フランジ部34の前側面上に設けられる第二潤滑油排出通路372Rの上流側に、この第二潤滑油排出通路372Rと略直交する第一潤滑油排出通路371Rが連通し、第二潤滑油排出通路372Rの下流側に、この第二潤滑油排出通路372Rと略直交する第三潤滑油排出通路373Rが連通する。
【0034】
また、図5に示すように、溝部342は、ボス部341の外周に沿い正面視において左方に開口する略C字形状に形成される。溝部342内は、隔壁によって、第一溝部342A、第二溝部342B、及び第三溝部342Cに仕切られる。これら第一から第三の各溝部342A、342B、342Cについて、溝部342における位置関係は次の通りである。
【0035】
具体的には、略C字形状に形成される溝部342において、溝部342の開口一端部(上端部)に第一溝部342Aが位置する一方、溝部342の開口他端部(下端部)に第三溝部342Cが位置し、第一溝部342Aと第二溝部342Bとの間に第二溝部342Bが位置する。換言すると、第一溝部342Aは、ボス部341外周の上部に位置し、第二溝部342Bは、ボス部341外周の側部、本実施形態ではボス部341外周の右側部に位置し、第三溝部342Cは、ボス部341の下部外周に位置する。
【0036】
また、溝部342内には、一対のボルト孔344・345が設けられる。一対のボルト孔344・345は、いずれもカバー35を取り付けるためのボルト36・36(図3及び図4参照)が挿入される孔であり、フランジ部34を貫通するように設けられる。一対のボルト孔344・345の内、一方のボルト孔344は、第一溝部342A内、具体的には、第一溝部342A内の左右略中央部に設けられ、他方のボルト孔345は、第三溝部342C内に設けられる。そして、一対のボルト孔344・345は、ボス部341の中心を基準に略対称(線対称)に配置される。
【0037】
そして、溝部342の外縁には、一対の凹部342D・342Eが設けられる。一対の凹部342D・342Eは、溝部342の外縁が切り欠かれるように形成される。一対の凹部342D・342Eは、例えば溝部342の外縁を削ることにより、容易に加工することができる。一対の凹部342D・342Eの内、一方の凹部342Dは、第一溝部342Aの外縁に設けられ、他方の凹部342Eは、第三溝部342Cの外縁に設けられる。そして、一対の凹部342D・は、ボス部341の中心を基準に略対称(線対称)に配置される。さらに、一対の凹部342D・と一対のボルト孔344・345は、ボス部341の中心を通る一の線(直径)上に配置される。
【0038】
そして、第一溝部342A内においてボルト孔344の左方には、左方の潤滑油排出通路37Lの上流側通路を構成する、第一潤滑油排出通路371Lが設けられる。また、第二溝部342B内において第一溝部342A側の端部には、右方の潤滑油排出通路37Rの上流側通路を構成する、第一潤滑油排出通路371Rが設けられる。
【0039】
第一潤滑油排出通路371Lは、フランジ部34を貫通する穴である。第一潤滑油排出通路371Lの上流側端部は、ポンプハウジング12のカム室122(図1及び図2参照)内と連通し、第一潤滑油排出通路371Lの下流側端部は、第一溝部342A内と連通する。また、第一潤滑油排出通路371Lの穴形状は、略楕円形状とされる。第一潤滑油排出通路371Lの穴幅(楕円短辺方向の長さ)は、第一溝部342Aの溝幅と略一致する。なお、以下では第一潤滑油排出通路371Lの通路面積(潤滑油の流れ方向に直交する方向の断面積。以下、同様。)を、AL1で表す。
【0040】
また、第一潤滑油排出通路371Rは、フランジ部34を貫通する穴である。第一潤滑油排出通路371Rの上流側端部は、ポンプハウジング12のカム室122(図1及び図2参照)内と連通し、第一潤滑油排出通路371Rの下流側端部は、第二溝部342B内と連通する。また、第一潤滑油排出通路371Rの穴形状は、略楕円形状とされる。第一潤滑油排出通路371Rの穴幅(楕円短辺方向の長さ)は、第一溝部342Aの溝幅と略一致する。なお、以下では第一潤滑油排出通路371Rの通路面積を、AR1で表す。
【0041】
また、図6から図8に示すように、カバー35は、略C字形状の板状部材であり、フランジ部34の溝部342上に取り付けられた状態で左方に開口する形状とされる(図3参照)。カバー35は、第一取付板351、第二取付板352、左方通路板353、及び右方通路板354からなる板状構造であり、カバー35には、一対のボルト孔351A・352A、一対の凸部351B・352Bが設けられる。
【0042】
略C字形状に形成されるカバー35において、カバー35の開口一端部(上端部)は、左方通路板353とされ、この左方通路板353に第一取付板351が連接する一方、カバー35の開口他端部(下端部)は、第二取付板352とされ、この第二取付板352に右方通路板354が連接する。そして、カバー35において、第一取付板351と第二取付板352とは同一平面(図8に示すZ1)上に形成され、左方通路板353と右方通路板354とは、平面Z1と略平行で平面Z1とは高さの異なる同一平面(図8に示すZ2)上に形成される。
【0043】
そして、図3にも示すように、第一取付板351の幅は、第一溝部342A内の溝幅よりも若干狭く構成される。つまり、第一取付板351は、第一溝部342A内に嵌合するように構成される。そして、第一取付板351の後側面(フランジ部34側の面)は、第一溝部342Aの底面(フランジ部34の前側面)に沿うように構成される。また、第一取付板351には、一対のボルト孔351A・352Aの内、一方のボルト孔351Aが設けられる。このボルト孔351Aは、第一取付板351を貫通する孔であり、第一溝部342A内のボルト孔344と共に、ボルト36が挿入される。また、第一取付板351の外縁端には、一対の凸部351B・352Bの内、一方の凸部351Bが設けられる。この凸部351Bは、第一取付板351の外縁端から外側に突出する部分であり、第一溝部342Aの凹部342Dに嵌合するように構成される。
【0044】
そして、第二取付板352の幅は、第三溝部342C内側の溝幅よりも若干狭く構成される。つまり、第二取付板352は、第三溝部342C内に嵌合するように構成される。そして、第二取付板352の後側面(フランジ部34側の面)は、第二溝部342Bの底面(フランジ部34の前側面)に沿うように構成される。また、第二取付板352には、一対のボルト孔351A・352Aの内、他方のボルト孔352Aが設けられる。このボルト孔352Aは、第二取付板352を貫通する孔であり、第三溝部342C内のボルト孔345と共に、ボルト36が挿入される。また、第二取付板352の外縁端には、一対の凸部351B・352Bの内、他方の凸部352Bが設けられる。この凸部352Bは、第二取付板352の外縁端から外側に突出する部分であり、第三溝部342Cの凹部342Eに嵌合するように構成される。
【0045】
そして、左方通路板353は、カバー35の開口一端部(上端部)が第一取付板351に対して略平行となるように折れ曲がるように形成される(図8参照)。左方通路板353の幅は、第一溝部342A内側の溝幅よりも若干広く、つまり、左方通路板353は、第一溝部342Aを蓋できるように構成される。これにより、第一溝部342Aと左方通路板353とによって、所定の断面積を有する通路、すなわち、左方の第二潤滑油排出通路372Lが構成される(図9参照)。
【0046】
なお、以下では第二潤滑油排出通路372Lの通路面積を、AL2で表す。そして、第二潤滑油排出通路372Lの通路面積AL2は、第一潤滑油排出通路371Lの通路面積AL1よりも小さい(AL2<AL1)。
【0047】
そして、第二潤滑油排出通路372Lの上流側端部は、第一潤滑油排出通路371Lと連通し、第二潤滑油排出通路372Lの下流側端部は、第三潤滑油排出通路373Lと連通する。また、第二潤滑油排出通路372Lの通路幅は、上流側端部において第一潤滑油排出通路371Lの開口幅(楕円短辺)と略一致し、第二潤滑油排出通路372Lの下流側端部には、通路幅(第一溝部342A内側の溝幅)が狭くなる狭小部372Laが形成される。
【0048】
第三潤滑油排出通路373Lは、カバー35の左方通路板353の外縁端面353Aに沿って構成される。具体的には、第三潤滑油排出通路373Lは、左方通路板353の外縁端面353Aと第一溝部342A(狭小部372La)の内周面とによって構成される。外縁端面353Aは、カバー35の開口先端部の端面であり、第一溝部342Aを横断(潤滑油の流れ方向に交差する方向)するように構成される。そして、第三潤滑油排出通路373Lの上流側端部は、第二潤滑油排出通路372Lと連通し、第三潤滑油排出通路373Lの下流側端部は、フランジ部34の正面側に開放してギヤケース23(図1参照)内と連通する。また、第三潤滑油排出通路373Lは、第一潤滑油排出通路371Lよりも下方に設けられる。
【0049】
なお、以下では第三潤滑油排出通路373Lの通路面積を、AL3で表す。そして、第三潤滑油排出通路373Lの通路面積AL3は、第一潤滑油排出通路371Lの通路面積AL1よりも小さく、さらに第二潤滑油排出通路372Lの通路面積AL2よりも小さい(AL3<AL2<AL1)。つまり、第三潤滑油排出通路373Lは、三本の潤滑油排出通路371L、372L、373Lの面積が、上流側から下流側に連れて小さくなるように構成される。
【0050】
そして、右方通路板354は、カバー35において第一取付板351と第二取付板352との間の部分が、第一取付板351及び第二取付板352に対して略平行に折れ曲がるように形成される(図8参照)。右方通路板354の幅は、第二溝部342Bの溝幅よりも若干広く、つまり、右方通路板354は、第二溝部342Bを蓋できるように構成される。これにより、第二溝部342Bと右方通路板354とによって、所定の断面積を有する通路、すなわち、右方の第二潤滑油排出通路372Rが構成される(図9参照)。
【0051】
なお、以下では第二潤滑油排出通路372Rの通路面積を、AR2で表す。そして、第二潤滑油排出通路372Rの通路面積AR2は、第一潤滑油排出通路371Rの通路面積AR1よりも小さい(AR2<AR1)。
【0052】
そして、第二潤滑油排出通路372Rの上流側端部は、第一潤滑油排出通路371と連通し、第二潤滑油排出通路372Rの下流側端部は、第三潤滑油排出通路373Rと連通する。また、第二潤滑油排出通路372Rの通路幅は、上流側端部において第一潤滑油排出通路371Rの開口幅(楕円短辺)と略一致し、第二潤滑油排出通路372Rの中流部には、通路幅(第二溝部342B内側の溝幅)が狭くなる狭小部372Raが形成される。
【0053】
第三潤滑油排出通路373Rは、カバー35の右方通路板354を貫通する穴である。第三潤滑油排出通路373Rの穴形状は、略円形状とされる。第三潤滑油排出通路373Rは、第一潤滑油排出通路371Lよりも下方に設けられる。換言すると、第三潤滑油排出通路373Rは、右方通路板354において第一潤滑油排出通路371を覆う側とは反対側の端部に設けられる。
【0054】
なお、以下では第三潤滑油排出通路373Rの通路面積を、AR3で表す。そして、第三潤滑油排出通路373Rの通路面積AR3は、第一潤滑油排出通路371Rの通路面積AR1よりも小さく、さらに第二潤滑油排出通路372Rの通路面積AR2よりも小さい(AR3<AR2<AR1)。つまり、第三潤滑油排出通路373Rは、三本の潤滑油排出通路371R、372R、373Rの面積が、上流側から下流側に連れて小さくなるように構成される。
【0055】
以上のように、燃料噴射ポンプ1は、ポンプハウジング12のフランジ部34にギヤケース23が取り付けられ、ポンプハウジング12のフランジ部34から突出するカム軸20がギヤケース23内に挿入されて、ギヤケース23内のカム軸20上にカムギヤ24が設けられ、ポンプハウジング12内の潤滑油をギヤケース23内に排出する潤滑油排出通路37L(37R)が、ポンプハウジング12のフランジ部34に設けられる、燃料噴射ポンプ1において、潤滑油排出通路37L(37R)は、略クランク状に折れ曲がるように形成され、第一潤滑油排出通路371L(371R)と、第二潤滑油排出通路372L(372R)と、第三潤滑油排出通路373L(373R)と、によって構成され、ポンプハウジング12のフランジ部34の一側面上に設けられる第二潤滑油排出通路372L(372R)の上流側に、第二潤滑油排出通路372L(372R)と略直交する第一潤滑油排出通路371L(371R)が連通し、第二潤滑油排出通路372L(372R)の下流側に、第二潤滑油排出通路372L(372R)と略直交する第三潤滑油排出通路373L(373R)が連通し、ポンプハウジング12のフランジ部34の一側面上には、潤滑油排出通路37L(37R)の一部を構成する溝部342が設けられ、第一潤滑油排出通路371L(371R)は、溝部342内においてポンプハウジング12のフランジ部34を貫通する穴であり、第一潤滑油排出通路の上流側端部は、ポンプハウジング12内と連通する一方、第一潤滑油排出通路371L(371R)の下流側端部は、溝部342内と連通してカバー35によって覆われており、第二潤滑油排出通路372L(372R)は、溝部342とカバー35とによって構成されており、第三潤滑油排出通路373L(373R)は、カバー35の端面に沿って構成されており、第二潤滑油排出通路372L(372R)及び第三潤滑油排出通路373L(373R)の通路面積は、第一潤滑油排出通路371L(371R)の通路面積よりも小さいものである。
【0056】
このような構成により、潤滑油排出通路37L(37R)は、クランク状に折れ曲がるうえに、ギヤケース23側の通路面積がポンプハウジング12側の通路面積よりも小さくなっており、さらに潤滑油排出通路37L(37R)のギヤケース23側は、カバー35によって覆われているため、ギヤケース23内の潤滑油の飛沫がポンプハウジング12内に入りに難く、さらにエンジンのピストンの上下往復動による脈動圧も減衰できる。これにより、ポンプハウジング12内の潤滑油の飛沫量を低減し、潤滑油の飛沫に起因して発生する潤滑油の燃料中への混入を防止できる。
【0057】
そして、第三潤滑油排出通路373L(373R)は、第二潤滑油排出通路372L(372R)よりも通路面積が小さいものである。
【0058】
このような構成により、カバー35の端面に加工を施すだけで潤滑油排出通路37L(37R)の通路面積を容易に調整できる。これにより、潤滑油排出通路37L(37R)の加工コストを低減できて、燃料噴射ポンプ1の製造コストを低減できる。
【0059】
また、第三潤滑油排出通路373L(373R)は、第一潤滑油排出通路371L(371R)よりも下方に設けられるものである。
【0060】
このような構成により、ポンプハウジング12内の潤滑油が、潤滑油排出通路37L(37R)内を上方から下方に流れ落ちてギヤケース23内に排出される。これにより、潤滑油の流れが円滑になって、燃料噴射ポンプ1の潤滑性能を向上できる。
【0061】
さらに、カバー35は、取付位置を位置決め可能に構成されるものである。
【0062】
このような構成により、カバー35の取付作業が容易となり、燃料噴射ポンプ1の組立作業を効率良くできる。
【0063】
つまり、カバー35をポンプハウジング12のフランジ部34に取り付けるに際して、カバー35の一対の凸部351B・352Bを、それぞれフランジ部34の一対の凹部342D・342Eに嵌合させることにより、カバー35をフランジ部34(溝部342)上に容易に位置決めすることができる。
【0064】
そして、凸部351Bは、第一取付板351の中途部外縁に設けられる一方、凸部352Bは、第二取付板352の先端部外縁に設けられる(換言すると、凸部351Bと凸部352Bとは、ボス部341の中心を基準に非対称に設けられる)ため、組立時においてカバー35の取付位置を容易に認識できる。これにより、一対の凸部351B・352Bを一対の凹部342D・342Eに、それぞれ間違わずに容易に嵌合することができ、カバー35の取付作業がさらに容易となる。
【符号の説明】
【0065】
1 燃料噴射ポンプ
12 ポンプハウジング
20 カム軸
23 ギヤケース
24 カムギヤ
34 フランジ部
35 カバー
37L 左方の潤滑油排出通路
37R 右方の潤滑油排出通路
342 溝部
342D 凹部
342E 凹部
351B 凸部
352B 凸部
371L 左方の第一潤滑油排出通路
371R 右方の第一潤滑油排出通路
372L 左方の第二潤滑油排出通路
372R 右方の第二潤滑油排出通路
373L 左方の第三潤滑油排出通路
373R 右方の第三潤滑油排出通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングの一側部にギヤケースが取り付けられ、当該ポンプハウジングの一側部から突出するカム軸が当該ギヤケース内に挿入されて、当該ギヤケース内のカム軸上にカムギヤが設けられ、当該ポンプハウジング内の潤滑油を当該ギヤケース内に排出する潤滑油排出通路が、前記ポンプハウジングの一側部に設けられる、燃料噴射ポンプにおいて、前記潤滑油排出通路は、略クランク状に折れ曲がるように形成され、第一潤滑油排出通路と、第二潤滑油排出通路と、第三潤滑油排出通路と、によって構成され、前記ポンプハウジングの一側面上に設けられる第二潤滑油排出通路の上流側に、当該第二潤滑油排出通路と略直交する第一潤滑油排出通路が連通し、第二潤滑油排出通路の下流側に、当該第二潤滑油排出通路と略直交する第三潤滑油排出通路が連通し、前記ポンプハウジングの一側面上には、前記潤滑油排出通路の一部を構成する溝部が設けられ、前記第一潤滑油排出通路は、前記溝部内において前記ポンプハウジングの一側部を貫通する穴であり、当該第一潤滑油排出通路の上流側端部は、前記ポンプハウジング内と連通する一方、当該第一潤滑油排出通路の下流側端部は、前記溝部内と連通してカバーによって覆われており、前記第二潤滑油排出通路は、前記溝部と前記カバーとによって構成されており、前記第三潤滑油排出通路は、前記カバーの端面に沿って構成されており、当該第二潤滑油排出通路及び当該第三潤滑油排出通路の通路面積は、前記第一潤滑油排出通路の通路面積よりも小さいことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記第三潤滑油排出通路は、前記第二潤滑油排出通路よりも通路面積が小さいことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
前記第三潤滑油排出通路は、前記第一潤滑油排出通路よりも下方に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項4】
前記カバーは、取付位置を位置決め可能に構成されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の燃料噴射ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−64174(P2011−64174A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217565(P2009−217565)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】