説明

燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法

【課題】ドライバが感ずる不快な振動を低減することができる燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法を提供する。
【解決手段】車両に搭載されるエンジン11への燃料供給を制御する燃料噴射制御装置であって、走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されたときに、エンジン11の動力を車輪13に伝達する動力伝達機構12が揺り返し始めるタイミングで燃料噴射を停止する燃料カット手段70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載されるエンジンに供給する燃料の噴射を制御する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されると、エンジンへの燃料供給が停止する。このようにすることで燃費が向上する。しかしながらアクセルペダルの踏み戻しと同時に燃料カットしてはトルクが急減してショックが生じてしまう。そこで燃料噴射量や点火時期などを調整してエンジントルクが十分に低下してから燃料をカットしている。
【特許文献1】特開2005−163762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが上述の方法では、アクセルペダルを踏み戻してから燃料カットするまでの時間が長い。そのため燃料カットするまでに車両が前後に揺り返してしまい、ドライバが不快な振動(ユサユサ感)を覚えることがある、ということが本件発明者によって知見された。
【0004】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、ドライバが感ずる不快な振動を低減することができる燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0006】
本発明は、車両に搭載されるエンジン(11)への燃料供給を制御する燃料噴射制御装置であって、走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されたときに、前記エンジン(11)の動力を車輪(13)に伝達する動力伝達機構(12)が揺り返し始めるタイミングで燃料噴射を停止する燃料カット手段(70)を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されたときに、エンジンの動力を車輪に伝達する動力伝達機構が揺り返し始めるタイミングで燃料噴射を停止するようにした。このようにしたのでドライブシャフトの揺り返しを低減でき、動力伝達機構のガタの揺り返しを防止できるようになった。そのためドライバが感ずる不快な振動(ユサユサ感)を低減することができるようになったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0009】
図1は、本発明による燃料噴射制御装置の一実施形態を使用する車両の基本構成を示す図である。
【0010】
車両1は、エンジン11と、動力伝達機構12と、車輪13と、を含む。
【0011】
動力伝達機構12は、エンジン11の動力を車輪13に伝達する。動力伝達機構12は、トランスミッション121と、プロペラシャフト122と、ディファレンシャル123と、ドライブシャフト124と、を含む。
【0012】
ここで図5を参照して本発明の理解を容易にするために、本件発明者の知見について説明する。なお図5の横軸が時間を示し、左縦軸がドライブシャフトトルクを示し、右縦軸がエンジン発生トルクを示す。
【0013】
車両走行中の時刻t1でドライバがアクセルペダルを踏み戻した場合に、踏み戻しと同時に燃料カットしてはトルク急減によってショックが生じてしまう。そこでエンジントルクが十分に低下した時刻t4で燃料をカットしている。
【0014】
ところで動力伝達機構を構成する部品は、ギヤの組み合わせを含んでいるのでバックラッシュなどの微小ガタがある。特にトランスミッションが、トルクコンバータを持たないマニュアルタイプの場合にはガタの揺り返しを吸収しにくい。
【0015】
時刻t1以前では、エンジン発生トルクが十分に大きい。この状態ではエンジン発生トルクがドライブシャフトに伝達し、エンジン発生トルクがドライブシャフトに作用して駆動している。このとき動力伝達機構のガタは、エンジン発生トルクがドライブシャフトを回転駆動するように詰められる。
【0016】
時刻t1でアクセルペダルが踏み戻されると、燃料噴射量が減りエンジン発生トルクが低下する。するとドライブシャフトトルクも低下する。ただし時刻t2までは、エンジン発生トルクもドライブシャフトトルクも正である。この状態はエンジン発生トルクがドライブシャフトに力を作用して駆動している状態である。このとき動力伝達機構のガタは、エンジン発生トルクがドライブシャフトを回転駆動するように詰められたままである。
【0017】
時刻t2を過ぎるとエンジン発生トルクが正から負に転じる。またドライブシャフトトルクも正から負に転じる。エンジン発生トルクが負の状態とは、エンジンが自ら発生するトルクよりも、車両の慣性走行によって生じるトルクのほうが大きくなっており、車両の慣性走行力によってエンジンのクランクシャフトが回されている状態である。そしてドライブシャフトに作用するトルクも動力伝達機構を介して伝達するエンジン発生トルクよりも、車両の慣性走行力によって作用するトルクのほうが大きくなっている。この状態では動力伝達機構のガタは、ドライブシャフトからのトルクがクランクシャフトを回転駆動するように詰められる。
【0018】
なおこの状態でも、燃料噴射は継続されている。すなわち車両の慣性走行によって生じるトルクよりも小さいながらも、エンジン発生トルクがある。
【0019】
そのため時刻t3を過ぎると、ドライブシャフトトルクの絶対値が小さくなる。この現象は、小さいながらも発生しているエンジン発生トルクの作用によって、ドライブシャフトから伝達しクランクシャフトを回転駆動するトルクの大きさが一時的に小さくなるためであると考えられる。この状態では動力伝達機構のガタは、エンジン発生トルクがドライブシャフトを回転駆動するように詰められる。
【0020】
このようなドライブシャフトトルクの揺り返しによって動力伝達機構のガタの揺り返しが発生し、ドライバが不快な振動(ユサユサ感)を覚えることとなっていたのである。
【0021】
以上の知見に基づいて、本願発明者は、動力伝達機構のガタの詰まり方向が反転し始めるタイミング、すなわち動力伝達機構が揺り返し始めるタイミングである時刻t3で燃料噴射を停止することで、エンジン発生トルクを低下させるようにした。そしてこのようにすることで動力伝達機構のガタの詰まり方向の反転を低減でき、ドライバに与えていた不快な振動(ユサユサ感)を防止できるようになったのである。なお動力伝達機構のガタの詰まり方向が反転し始めるタイミングは、エンジン回転速度Neに基づいて判定できる。すなわち動力伝達機構のガタの詰まり方向の反転するタイミングでは、エンジンのクランクシャフトに作用するトルクが一瞬小さくなるので、エンジン回転速度の変化量ΔNeが急増する。したがってエンジン回転速度Neを常に検出しておくことで、動力伝達機構のガタの詰まり方向が反転し始めるタイミングを判定できるのである。
【0022】
以下では、このような技術思想を実現する発明の一実施形態の具体的な内容について説明する。
【0023】
図2は、コントローラの燃料カットにかかる機能をブロック図として表したものである。
【0024】
コントローラ70は、クランク角信号(#101)及びアクセルペダル踏込量信号(#102)を入力する。
【0025】
そしてコントローラ70は、以下の3つの条件がすべて成立したらΔNeに基づく燃料カットタイミングであると判定する。
【0026】
条件1:エンジン回転速度Neが再始動可能回転速度(閾値1)よりも大であること。すなわちエンジン回転速度Neが小さすぎるときは(たとえば車両が停止しておりエンジンがアイドル回転中である)、再始動するためにクランキングを要することとなってしまう。そこでこのようなときには燃料をカットしないことが望ましいので、この条件1が成立したら燃料カット制御を許可する。
【0027】
条件2:エンジン回転速度Neの変化量ΔNeが急上昇閾値(閾値2)よりも大であること。すなわち上述のように動力伝達機構のガタの詰まり方向が反転を繰り返すと、ドライバが不快な振動(ユサユサ感)を覚えてしまう。動力伝達機構のガタの詰まり方向の反転するタイミングでは、エンジンのクランクシャフトに作用するトルクが一瞬小さくなるので、エンジン回転速度の変化量ΔNeが急増する。したがってエンジン回転速度の変化量ΔNeが急増して条件2が成立したら燃料をカットする。
【0028】
条件3:アクセルペダルの踏み戻しから判定禁止期間(閾値3)が経過していること。すなわちアクセルペダル踏み戻し直後はトルク段差によるエンジン回転変動を誤検出してしまう可能性がある。そこでこの期間が経過して条件3が成立するまでは燃料カット制御を禁止しておき、条件3が成立したら燃料カット制御を許可する。なお本実施形態では、判定禁止期間としてエンジン発生トルクが正から負に転じるまでの期間とした。この間に誤検出する可能性があるからである。
【0029】
以上の3つの条件がすべて成立したらΔNeに基づく燃料カットタイミングであると判定する。
【0030】
またアクセルペダルの踏み戻しから燃料カット禁止時間(閾値4)を経過したらタイマに基づく燃料カットタイミングであると判定する。このようにしたのは、ΔNeに基づいて燃料カットタイミングを判定しようとしても判定できない場合があるので、その場合をカバーするためである。
【0031】
図3は、コントローラの燃料カットにかかる制御を実行したときの信号のタイムチャートである。
【0032】
時刻t1でアクセルペダルが踏み戻されると(図3(A))、エンジンの回転速度(図3(B))及び発生トルク(図3(D))が低下する。そして時刻t2でエンジン発生トルクが正から負に転じる(図3(D))。すなわち時刻t2を過ぎると、車両の慣性走行によって車輪が駆動される。そしてそのトルクが動力伝達機構12を介してエンジンに伝達する。そのため時刻t2を過ぎると、エンジンの発生トルクが負に転じている。このタイミングまでは、トルク段差によるエンジン回転変動を誤検出してしまう可能性があるので、燃料カット制御が禁止されている。
【0033】
そして時刻t3でエンジン回転速度が急上昇し(図3(B))、エンジン回転速度の変化量ΔNeが閾値を越えた時刻t3で(図3(C))、燃料をカットする(図3(E))。するとエンジン発生トルクが急減する(図3(D))。
【0034】
図4は、コントローラの燃料カットにかかる制御を実行したときのドライブシャフトトルク及びエンジン発生トルクの変化を示す図である。
なおこの図4も図5と同様に、横軸が時間を示し、左縦軸がドライブシャフトトルクを示し、右縦軸がエンジン発生トルクを示す。
【0035】
上述のように時刻t3になっても燃料カットしなかった図5では、時刻t3を過ぎてからドライブシャフトトルクの絶対値が小さくなってしまってドライブシャフトの揺り返しが発生していた。
【0036】
これに対して本実施形態では、時刻t3で燃料カットするようにしたので、図4に示すようにドライブシャフトの揺り返しを大幅に低減することができた。このため動力伝達機構のガタの揺り返し(ガタの詰まり方向の反転)を防止でき、ドライバが覚える不快な振動(ユサユサ感)を低減できるのである。
【0037】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0038】
たとえば、燃料カット制御の許可条件として以下を加えてもよい。
1)イグニッションスイッチがオンであること。
2)アイドルスイッチがオンであること。
3)水温が暖機完了判定温度(閾値)よりも高温であること。すなわち水温が低く暖機が完了していないときには燃料カットしない。
【0039】
また上記実施形態においては、アクセルペダルが踏み戻されたタイミングからエンジンの発生トルクが正から負に転じるタイミングまでの期間を判定禁止期間としたが、これには限られない。あらかじめ実験等によって設定しておいてもよい。またそのような期間をエンジンの運転状態に応じて複数設定しておき、マップとして記憶しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による燃料噴射制御装置の一実施形態を使用する車両の基本構成を示す図である。
【図2】コントローラの燃料カットにかかる機能をブロック図として表したものである。
【図3】コントローラの燃料カットにかかる制御を実行したときの信号のタイムチャートである。
【図4】コントローラの燃料カットにかかる制御を実行したときのドライブシャフトトルク及びエンジン発生トルクの変化を示す図である。
【図5】本件発明者の知見について説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
11 エンジン
12 動力伝達機構
121 トランスミッション
122 プロペラシャフト
123 ディファレンシャル
124 ドライブシャフト
13 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジンへの燃料供給を制御する燃料噴射制御装置であって、
走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されたときに、前記エンジンの動力を車輪に伝達する動力伝達機構が揺り返し始めるタイミングで燃料噴射を停止する燃料カット手段を備える、
ことを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記ドライブシャフトが揺り返し始めるタイミングをエンジン回転速度の変化量に基づいて検出する揺り返しタイミング検出手段を備え、
前記燃料カット手段は、前記揺り返しタイミング検出手段で検出したタイミングに基づいて燃料噴射を停止する、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記燃料カット手段は、アクセルペダルが踏み戻さたタイミングから所定期間が経過するまでは燃料噴射の停止を禁止する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記所定期間は、アクセルペダルが踏み戻されたタイミングからエンジンの発生トルクが正から負に転じるタイミングまでの期間である、
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記所定期間は、アクセルペダルが踏み戻されたタイミングから予め設定されたタイミングが経過するまでの期間である、
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記燃料カット手段は、ドライブシャフトが揺り返さなくても、アクセルペダルが踏み戻されてから所定期間を経過したら燃料噴射を停止する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
車両に搭載されるエンジンへの燃料供給を制御する燃料噴射制御方法であって、
走行中にドライバによってアクセルペダルが踏み戻されたときに、前記エンジンの動力を車輪に伝達する動力伝達機構が揺り返し始めるタイミングで燃料噴射を停止する燃料カット工程を備える、
ことを特徴とする燃料噴射制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−127135(P2010−127135A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300841(P2008−300841)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】