説明

燃料噴射装置および燃料噴射ノズル

【課題】内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる燃料噴射装置および燃料噴射ノズルを提供する。
【解決手段】燃料噴射装置10は、螺旋状の燃料案内溝107と、燃料貯留部108と、気体吸入孔109と、噴射燃料に撃力を付与する撃力付与部110と、を有するインジェクタ100を備えることにより、噴射前の燃料中に気泡を生成し、生成した気泡を含む噴射燃料に撃力を付与して噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置および燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃費や排気エミッションを改善するために、燃焼室内での噴射燃料と吸入空気との混合を促進することで燃焼性を向上させることが要求されている。噴射燃料と吸入空気との混合を促進する手段の一つとして、噴射燃料の噴霧粒径を微細化する手法が広く適用されている。噴霧粒径の微細化手法としては、従来、燃料に空気を混合して燃料中に気泡を発生させて、その気泡が崩壊する際のエネルギーによって噴霧粒径を微細化する手法が提案されている。
【0003】
このような噴霧粒径の微細化手法として、ノズルボディの弁座から噴射孔に至る流路部の形状が変化する部分(低圧発生部)に、外部空間から空気を導入する空気吸入通路を形成することにより、低圧発生部に外部空間から自動的に導入される空気によって流路部での燃料と空気の混合を促進し噴射燃料の微粒化を図る技術が特許文献1に開示されている。
【0004】
また、燃料噴射方向の側面からエア燃料混合通路にアシストエアを導入するエア通路を設けることにより、エア燃料混合通路内で燃料と空気を混合して噴霧粒径の微細化を図る技術が特許文献2に開示されている。
【0005】
そして、その他本発明と関連性があると考えられる技術が特許文献3〜5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−145767号公報
【特許文献2】特開2000−064929号公報
【特許文献3】特開平10−141183号公報
【特許文献4】特表2000−517030号公報
【特許文献5】特開2003−293907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料と空気を混合することにより燃料中に気泡を発生させることができるが、それら気泡のそれぞれ1つの崩壊エネルギーは微小である。そのため、燃料中の気泡の崩壊エネルギーによって噴霧粒径を充分に微細化するためには、噴射前の燃料中に多量の気泡を崩壊させずに残存させ、かつ、燃料の噴射後にそれら多量の気泡を速やかに崩壊させることが求められる。しかしながら、特許文献1、2の技術では、燃料の噴射後に多量の気泡を速やかに崩壊させるための手段を有していない。そのため、燃料中の気泡の崩壊エネルギーによる噴射燃料の微粒化効果が小さいことから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することが困難である、といった問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる燃料噴射装置および燃料噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の燃料噴射装置は、内燃機関に設置され、ノズルボディの先端部近傍に設けられた燃料噴射孔から燃料を噴射可能な燃料噴射ノズルを有する燃料噴射装置であって、前記燃料噴射孔から噴射される燃料に気泡を生成する気泡生成手段と、前記燃料噴射孔から噴射される燃料の全部または一部と衝突可能に設けられ、該燃料に撃力を付与して前記気泡を崩壊する撃力付与手段と、を備えることを特徴とする。
上記の構成により、噴射前の燃料中に気泡を生成し、生成した気泡を含む噴射燃料に撃力を付与して噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0010】
特に、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の衝突によって振動可能な片持梁である構成とすることができる。
上記の構成により、噴射燃料の衝突により生じる片持梁の振動によって、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0011】
また、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の衝突によって振動可能な片持梁を含み、前記片持梁が、前記燃料噴射孔に近い側に配置される第1層と、前記燃料噴射孔から遠い側に配置される第2層とを形成し、前記第1層を形成する片持梁が、隣接する片持梁と隙間を設けて並列配置され、前記第2層を形成する片持梁が、前記隙間の位置に対応させて並列配置される構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から噴射される燃料の一部が第1層の片持梁に衝突し、更に、第1層の片持梁に衝突しなかった燃料の一部が第2層の片持ち梁に衝突することから、噴射燃料が撃力付与手段に衝突する頻度をより高めることができる。よって、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0012】
そして、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、前記ノズルボディに設けられる構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から噴射される燃料を、ノズルボディに設けられる撃力付与手段に衝突させて、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0013】
更に、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、前記内燃機関の吸気弁に設けられる構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から吸気ポートに噴射される燃料を、内燃機関の吸気弁に設けられる撃力付与手段に衝突させて、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0014】
また、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、前記内燃機関のピストン頂面に設けられる構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から燃焼室に噴射される燃料を、内燃機関のピストン頂面に設けられる撃力付与手段に衝突させて、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0015】
そして、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、前記燃料噴射孔側に向かって配置される凹凸部である構成とすることができる。
上記の構成により、噴射燃料が、壁面との衝突エネルギー及び凹凸部との衝突時のせん断力からなる撃力を付与されることで、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0016】
更に、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、前記内燃機関のピストン頂面に設けられる構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から燃焼室に噴射される燃料を、内燃機関のピストン頂面に設けられる凹凸部に衝突させて、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0017】
また、本発明の燃料噴射装置は、前記撃力付与手段が、振動可能な超音波振動子である構成とすることができる。
上記の構成により、燃料噴射孔から噴射される燃料の衝突部分に設けられる超音波振動子の振動によって、噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0018】
そして、本発明の燃料噴射装置は、前記気泡生成手段が、前記燃料噴射ノズルに供給される燃料を前記燃料噴射孔へと導く燃料通路と、前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、前記ノズルボディの壁面と前記ニードルとの摺動部のいずれかに1または複数形成され、前記燃料通路側と前記燃料噴射孔側とを螺旋状に連通する燃料案内溝と、前記ニードルと前記燃料噴射孔との間に設けられ、前記燃料案内溝を通過する燃料を貯留可能な燃料貯留部と、前記ノズルボディの外部から前記燃料貯留部に気体を吸入可能な気体吸入孔と、を有する構成とすることができる。
上記の構成により、螺旋状の燃料案内溝を通過して燃料通路側から燃料噴射孔側に向かう燃料に旋回力(回転成分)が付与され、それによって燃料貯留部に燃料の旋回流が発生する。これによって、気体吸入孔を通じて外部から燃料貯留部に気体が吸入されつつ、外部から吸入された気体と燃料とが混合されるために、燃料中に微細な気泡を多量に、かつ略均一に発生させることができる。
【0019】
更に、本発明の燃料噴射ノズルは、ノズルボディの先端部近傍に設けられた燃料噴射孔から燃料を噴射可能な燃料噴射ノズルであって、前記燃料噴射孔から噴射される燃料中に気泡を生成する気泡生成手段と、一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の全部または一部と衝突可能に前記ノズルボディに設けられ、該燃料の衝突によって振動可能な片持梁と、を備えることを特徴とする。
このような燃料噴射ノズルを備える燃料噴射装置によって、噴射前の燃料中に気泡を生成し、生成した気泡を含む噴射燃料に撃力を付与して噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料噴射装置および燃料噴射ノズルによれば、噴射前の燃料中に気泡を生成し、生成した気泡を含む噴射燃料に撃力を付与して噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、より高い気泡の崩壊エネルギーを得ることができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の燃料噴射装置の一構成例を示した図である。
【図2】水溶液の気泡の破裂観察を示している。
【図3】気泡径と気泡圧壊時間との相関を示している。
【図4】実施例の燃料噴射装置の一構成例を示した図である。
【図5】実施例の燃料噴射装置の一構成例を示した図である。
【図6】実施例の燃料噴射装置の一構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の燃料噴射ノズルを備える燃料噴射装置10の一構成例を示した図である。なお、図1にはインジェクタの一部の構成のみ(ノズルボディの先端部分近傍)を示している。
【0024】
図1に示すインジェクタ100は、例えば、図示しない内燃機関の燃焼室に装着され、フューエルポンプから燃料流路を通じて高圧供給された燃料をノズルボディ101先端部の円周方向に等間隔で設けられた燃料噴射孔102より燃焼室内へ噴射する直接噴射式である。噴射された燃料は、燃焼室内で霧化し、吸気弁の開弁に伴って気筒内へ流入する吸入空気と混合気を形成する。インジェクタ100のリーク燃料は、リリーフ弁からリリーフ配管を通じて燃料タンクへと戻される。
この場合、インジェクタ100は、内燃機関の燃焼室に限られず吸気ポートに設けてもよいし、燃焼室と吸気ポートとの両方に設けてもよい。
なお、インジェクタ100は、本発明の燃料噴射装置の一構成例である。
【0025】
インジェクタ100は、内部に燃料通路103を備えたノズルボディ101、ノズルボディ101の先端部に形成された燃料噴射孔102、燃料通路103内に配置され軸偏芯を抑制するための第1ガイド部104aおよび第2ガイド部104bを有するニードル104、ニードル104を燃料噴射孔102側へ付勢するスプリング105、燃料噴射孔102からの燃料噴射を調整するためにニードル104の先端部が着座する弁座106、ノズルボディ101と第1ガイド部104aとの摺動部を燃料通路103から燃料噴射孔102に向かって螺旋状に連通する燃料案内溝107、燃料噴射孔102とニードル104との間に燃料を貯留可能な燃料貯留部108、ノズルボディ101の外部と燃料貯留部108とを連通させる気体吸入孔109、および燃料噴射孔102から噴射される燃料が衝突可能な撃力付与部110を備えるノズル部(本発明の燃料噴射ノズルの一構成である)を有している。
【0026】
ノズルボディ101は、インジェクタ100の先端部側に設けられており、その先端部分が内燃機関の燃焼室内に突出している。図示しないフューエルポンプより圧送されて、ノズルボディ101内部の燃料通路103に蓄積された高圧燃料は、後述する燃料案内溝107、燃料貯留部108を通じて燃料噴射孔102より内燃機関の燃焼室内に噴射される。
【0027】
ニードル104は、ノズルボディ101内部(燃料通路103)にニードル軸方向に移動可能に設けられている。ニードル104は、その先端部が鋭角な針形状の内開弁であり、燃料通路103内に設けられた図示しない制御室内の燃料圧力の変化やスプリング105の付勢力によって、燃料噴射孔102の開弁方向または閉弁方向に移動する。
ニードル104の先端部側には、第1ガイド部104aが設けられており、基端部側には第2ガイド部104bが設けられている。第1ガイド部104aおよび第2ガイド部104bは、燃料通路103(ノズルボディ101内部の壁面)に摺動自在に嵌挿される構成であって、ニードル104軸と直交する水平軸方向への偏芯を抑制する。これらガイド部は、2つに限られず1または複数設けてもよい。
【0028】
ノズルボディ101の先端部側には、ニードル104の先端部と嵌合する弁座106が設けられている。この弁座106にニードル104の先端部が着座することで燃料通路103と燃料貯留部108の連通が遮断され、それにより燃料噴射孔102からの燃料噴射が停止する。また、弁座106からニードル104の先端部が離座することで燃料通路103と燃料貯留部108が連通し、それにより燃料噴射孔102からの燃料噴射が開始される。
【0029】
燃料噴射孔102は、ノズルボディ101先端部近傍の円周方向に90°間隔で設けられた4孔の連通孔である。燃料噴射孔102は、燃料貯留部108とノズルボディ101の外部とを連通し、燃料通路103から供給される燃料の圧力によって燃料貯留部108の燃料を撃力付与部110の方向へと噴射可能に構成されている。燃料噴射孔102は、ニードル104軸の中心部からオフセットされた任意の位置で燃料貯留部108と連通する。この構成により、燃料貯留部108に生じる高速旋回流によってニードル104軸の中心部から燃料貯留部108の半径方向に移動した微細気泡を含む燃料を適切に噴射することができる。
この場合、燃料噴射孔102の孔数は4孔に限られず、仕様に応じて任意の孔数を等間隔で設けることができる。そして、燃料噴射孔102より噴射される燃料は、すべて一定の噴射角度に設定されるが、各々の噴射角度を変えてもよい。更に、燃料噴射孔102は、燃料貯留部108からノズルボディ101の外部までの間の角度、孔径が一定であってもよいし、途中で変化させてもよい。
【0030】
第1ガイド部104aの外周部には、燃料案内溝107が設けられている。燃料案内溝107は、ノズルボディ101内部(燃料通路103)の壁面と第1ガイド部104aとの摺動部を、燃料通路103内の燃料が燃料噴射孔102(燃料貯留部108)に向かって流通可能に連通する溝である。燃料案内溝107は、ニードル104軸を中心として対向する位置の2ヶ所に設けられており、ニードル104の基端部側から先端部側、すなわち、燃料通路103から燃料噴射孔102(燃料貯留部108)方向に向かって第1ガイド部104aの外周部を螺旋状に数回転している。この構成により、燃料通路103内の燃料が、燃料案内溝107を流通して燃料貯留部108に到達するまでの間に回転成分が付与されて、それによって燃料貯留部108の燃料に旋回流が生じる。燃料案内溝107の回転数は、要求される燃料貯留部108の旋回流に応じて任意に設定することができる。
この場合、燃料案内溝107は、上記の2ヶ所に限られず、要求される燃料貯留部108の旋回流に応じて任意の位置に1または複数形成することができる。また、本実施例の燃料案内溝107は、燃料通路103から燃料噴射孔102(燃料貯留部108)に向かって溝の幅および深さが等しい構成であるが、これらが変化する構成であってもよい。
なお、燃料案内溝107は、本発明の気泡生成手段の一構成例である。
【0031】
燃料案内溝107は、ニードル104の基端部側において燃料通路103と連通するよう、第1ガイド部104aの基端部まで形成されている。一方、ニードル104の先端部側においては、弁座106に着座するニードル104の先端部(着座部)に達しない位置まで燃料案内溝107が形成されている。すなわち、燃料案内溝107は、ニードル104が弁座106から離座しているときに燃料貯留部108への燃料の流通が可能となり、ニードル104の先端部が弁座106に着座しているときに燃料貯留部108への燃料の流通が不可となる。
【0032】
第1ガイド部104aが摺動するノズルボディ101内部(燃料通路103)の壁面、および燃料案内溝107は、流通する燃料と接する面がミクロンオーダーの凹凸(または突起している)形状となっている。この面の凹凸形状によって、燃料案内溝107を通過する際の燃料の流動抵抗を低減することができ、それによりポンプ圧力を低減することができることから、フューエルポンプの小規模化,小容量化が可能になる。
この場合、燃料案内溝107を流通する燃料の流動抵抗を低減するために、ノズルボディ101内部の壁面、および燃料案内溝107の面に周知の界面活性剤を塗布する構成であってもよいし、界面活性剤を塗布した薄肉円筒を接合する構成であってもよい。
【0033】
燃料貯留部108は、ニードル104が着座する弁座106と燃料噴射孔102との間に燃料を貯留可能に設けられた空間である。燃料貯留部108は、ニードル104と対向する壁面(底面)が平坦であって、ニードル104軸と直交する方向の壁面(側面)と曲面によって連続している。燃料貯留部108は、燃料通路103と連続して設けられており、ニードル104が弁座106から離座しているときに燃料通路103と連通し、燃料通路103内の燃料が燃料案内溝107を通じて導入される。燃料貯留部108は、ニードル104軸を中心とする円筒形状であって、燃料通路103よりも小径となっている。この構成により、燃料通路103内の燃料が燃料案内溝107を通じて燃料貯留部108に導入される際にその流速が増加し、燃料貯留部108でニードル104軸付近を中心とする高速旋回流が生じる。
この場合、燃料貯留部108は、その底面の中心部分、すなわち、気体吸入孔109が開口する部分の位置が、ニードル104軸方向に向かってニードル104側に突起する構成とすることもできる。これによって、燃料貯留部108に発生した燃料の旋回流が、突起部を回転の中心としてより安定化するために、旋回流の高速化を図ることができる。よって、燃料貯留部108の燃料中に生成させる気泡をより微細化、均一化することができる。また、燃料貯留部108に生成する旋回流の回転中心付近のより低圧の位置に気体吸入孔109を開口することができることから、ノズルボディ101の外部から気体がより吸入され易くなる。よって、燃料貯留部108の燃料中に生成する微細気泡をより多量化することができる。
なお、燃料貯留部108は、本発明の気泡生成手段の一構成例である。
【0034】
気体吸入孔109は、ノズルボディ101の外部と燃料貯留部108とをニードル104の軸方向沿って連通する孔である。気体吸入孔109は、一定の孔径であって、ノズルボディ101の先端部と燃料貯留部108底面の中心(または中心付近)で連通する。この構成により、ノズルボディ101先端部近傍の外部から燃料貯留部108の中心部(高速旋回流の回転中心)方向に向かって多量の気体(空気)が導入されるために、燃料貯留部108の燃料に多量の空気を混合させることができる。
この場合、気体吸入孔109は、ノズルボディ101の先端部から燃料貯留部108に向かう途中までの全部または一部分の孔径が燃料貯留部108側に向かって連続的に縮小する構成であってもよい。これによって、吸入される気体が気体吸入孔109の連続的な孔径の縮小に沿って縮流されるために、高速旋回流のより回転中心付近に、すなわち、より低圧の部分に向かって集中的に導入される。それによって、吸入された気体が高速旋回流の回転中心から燃料貯留部108の燃料に満遍なく混合されるために、燃料中に発生する微細気泡をより均一化することができる。
なお、気体吸入孔109は、本発明の気泡生成手段の一構成例である。
【0035】
ノズルボディ101の外部には、撃力付与部110が設けられている。撃力付与部110は、一端部側がノズルボディ101外部の壁面に固定され、他端部側が噴射燃料と衝突可能な位置まで延伸した片持梁が、ニードル104軸を中心とした円周上に複数配置される構成である。撃力付与部110を構成する片持梁は、矩形の面部を有する薄肉板であって、その面部がニードル104軸側に向かって配置されており、要求される噴射燃料の噴霧軸線にほぼ平行するよう傾斜している。撃力付与部110は、燃料噴射孔102から噴射された燃料が面部に衝突すると、その衝突力によって片持梁の他端部側が所定の周波数で振動し、片持梁の周辺の気体へ振動(衝撃波)を伝達させる構成である。これにより、撃力付与部110に衝突した噴射燃料は、片持梁への衝突および片持梁周辺の気体の振動からなる撃力を付与される。また、撃力付与部110に衝突しない噴射燃料については、撃力付与部110近辺を飛散する際に片持梁周辺の気体の振動からなる撃力を付与される。噴射燃料が撃力付与部110から撃力を付与されると、付与された撃力が噴射燃料中の気泡を崩壊させるトリガとなり、噴射燃料中の気泡の崩壊が促進する。よって、燃料中の気泡の崩壊エネルギーによる噴射燃料の微粒化効果を高めることができる。
この場合、撃力付与部110を構成する片持梁は、噴射燃料の衝突によって気泡の崩壊に効果的な周波数で振動できる任意の大きさ及び材質に設定することができるが、例えば長さ10[mm]、厚さ0.5[mm]の銅板とすることができる。また、各片持梁の傾斜角は、噴射燃料に要求される噴霧軸線に基づいて任意の角度に設定することができる。そして、各片持梁の面部の形状は、矩形に限られずに任意の形状を採用することができる。
【0036】
撃力付与部110は、燃料噴射孔102から近い側(内側)の同一円周上に、隣接する片持梁と隙間をもって複数の片持梁が配置される第1層と、燃料噴射孔102から遠い側(外側)の同一円周上に、第1層の隙間の位置に対応させて複数の片持梁が配置される第2層と、からなる二層構造である。これにより、第1層に配置された片持梁に衝突せずに通過する噴射燃料を第2層に配置された片持梁に衝突させることができることから、噴射燃料が撃力付与部110に衝突する頻度をより高めることができる。
この場合、第1層における隣り合う片持梁との隙間は、第2層に配置される片持梁の幅以下とすることが望ましい。また、撃力付与部110は、二層構造に限られずに、三層以上からなる多層構造であってもよい
なお、撃力付与部110は、本発明の撃力付与手段の一構成例である。
【0037】
以下に、本実施例のインジェクタ100の燃料噴射の過程について説明する。
フューエルポンプから燃料流路を通じて高圧供給された燃料は、ニードル104が開弁されると燃料通路103から燃料貯留部108へ向かって燃料案内溝107を流通する。燃料は、燃料貯留部108に到達するまでの間に螺旋状の燃料案内溝107を流通することで旋回力(回転成分)が付与される。また、燃料は、より大径の燃料通路103から燃料案内溝107を通じてより小径の燃料貯留部108へ流入する際に流速が増加される。
【0038】
燃料案内溝107を通じて燃料貯留部108に到達した燃料は、回転成分の付与および流速の増加により、燃料貯留部108で高速の旋回流を生じさせる。燃料貯留部108に発生した高速旋回流は、燃料貯留部108の円筒形状によってニードル104軸付近を回転の中心として安定する。そして、次々に燃料案内溝107を通じて導入される燃料によって旋回流が更に高速化し、その回転中心付近が極めて低圧となって吸引力が生じる。その吸引力によって気体吸入孔109を通じてノズルボディ101先端部近傍の外部から燃料貯留部108の低圧部分に向かって多量の空気が吸入される。
【0039】
気体吸入孔109を通じて燃料貯留部108に空気が吸入されると、吸入された空気と高速旋回する燃料と間に極めて大きなせん断力が生じる。このせん断力によって、燃料貯留部108の燃料中に微細な気泡が生成される。燃料中に生成した微細気泡は、ニードル104軸付近を中心とする高速旋回流によって、ニードル104軸方向から燃料貯留部108の半径方向に移動して略均一化される。そして、燃料通路103から供給される燃料の圧力によって燃料と共に燃料噴射孔102から噴射される。
【0040】
燃料噴射孔102から噴射された燃料は、その一部または全部が撃力付与部110に衝突し、撃力を付与されて微細気泡が崩壊する。微細気泡が崩壊すると、その崩壊の衝撃波が噴射後の燃料に伝達して微細気泡を崩壊するトリガとなる。そして、噴射燃料は、内燃機関の燃焼室内を飛散する間に空気とのせん断力により細分化して微細気泡を含んだ液滴となり、トリガによって液滴中の微細気泡が崩壊し、その際の崩壊エネルギーによって超微細化する。このように、本実施例のインジェクタ100は、燃料中の微細気泡の崩壊を促進し、気泡の崩壊エネルギーを充分に活用することができることから、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0041】
ここで、燃料中の微細気泡の崩壊エネルギーによる噴射燃料の微粒化メカニズムについて説明する。図2は、水溶液の気泡の破裂観察を示している。水溶液の気泡は、時間と共に表面張力による自己加圧効果で気泡内圧および気液界面における電荷量の上昇と気泡径の収縮が進み、やがて崩壊(圧壊)して消滅する。この時、気泡内圧および気液界面における電荷量が一気に解き放たれるエネルギーによってラジカルの発生を伴う小爆発が起こり、気泡の液膜が粉砕されて液滴が超微細化される(図2下段参照)。
このように、液中の微細気泡の崩壊エネルギーによって液滴が超微細化される。よって、燃料中の微細気泡の崩壊エネルギーを活用することで、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0042】
つづいて、燃料中の気泡径について説明する。燃料中の微細気泡(例えば、気泡径が50μm以下の気泡)は、表面張力による自己加圧効果によって徐々にその径が小さくなりやがて消滅(すなわち、圧壊)する。微細気泡は、その径がより小さいほどより短時間で圧壊するため(図3参照)、燃料中の微細気泡の圧壊によって噴霧粒径の微細化を促進するためには、微細気泡の発生から圧壊までの時間を考慮することが求められる。
この場合、一般的な燃料噴射弁において燃料溜まり部(本実施例の燃料貯留部108に相当する)の燃料が噴射されるまでの時間を考慮すると、微細気泡はその発生後にmsオーダーで圧壊することが求められる。そのため、微細気泡の圧壊タイミングを燃料噴射の直後とするためには、燃料中の気泡径を数μm以下まで微細化することが望まれる。
【0043】
本発明によれば、噴射前の燃料中に気泡を生成しつつ、燃料の噴射後に撃力を付与することで、撃力をトリガとして噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。そのため、例えば燃料中の気泡径が数μmを超える場合でも、気泡径に基づく圧壊タイミングによらずに噴射燃料中の気泡を崩壊させることができる。よって、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【0044】
なお、本実施例のようにインジェクタ100を内燃機関の燃焼室に装着する場合、燃焼室内の高温気体(既燃ガス)を吸入して燃料と混合する際の既燃ガスの体積収縮によって、燃料中に発生させる気泡の粒径をより微細化することが可能である。更に、燃焼室内の既燃ガスを燃料に混合することで、燃料中の微細気が圧壊する際にCH,OHラジカルを発生させることができるために、内燃機関の燃焼性をより促進することができる。この場合、インジェクタ100の燃料噴射タイミング(すなわち、ニードル104の開弁タイミング)を、内燃機関の排気弁が閉弁する直前に設定することで、既燃ガスが弁座106から逆流することを防止しつつ、高濃度の既燃ガスを適切に燃料貯留部108に取り込むことができる。
【0045】
以上のように、本実施例の燃料噴射装置は、螺旋状の燃料案内溝と、燃料貯留部と、気体吸入孔と、噴射燃料に撃力を付与する撃力付与部と、を有するインジェクタを備えることで、噴射前の燃料中に気泡を生成し、生成した気泡を含む噴射燃料に撃力を付与して噴射燃料中の気泡の崩壊を促進することができる。よって、内燃機関の噴射燃料の微粒化を促進することができる。
【実施例2】
【0046】
つづいて、本発明の実施例2について説明する。本実施例の燃料噴射装置20は、燃料噴射孔102および撃力付与部110に代えて、燃料噴射孔202および撃力付与部210を備える点で燃料噴射装置10と相違している。
【0047】
本実施例の燃料噴射装置20は、実施例1と同様に、ノズルボディ101、燃料通路103、第1ガイド部104aおよび第2ガイド部104bを有するニードル104、スプリング105、弁座106、燃料案内溝107、燃料貯留部108、気体吸入孔109を有するインジェクタ200を備えている。これにより、噴射される燃料中に微細気泡を多量に、かつ略均一に発生させることができる。
更に、燃料噴射装置20は、吸気弁22方向に燃料を噴射可能な燃料噴射孔202と、吸気弁22の軸部に撃力付与部210と、を備えている。
【0048】
燃料噴射装置20について詳細に説明する。図4は、燃料噴射装置20の概略構成を示した構成図である。なお、実施例1と同様の構成要素については、図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0049】
図4に示すインジェクタ200は、噴霧軸線が吸気弁22方向に向かうように内燃機関の吸気ポートに装着され、フューエルポンプから燃料流路を通じて高圧供給された燃料を燃料噴射孔202より吸気ポート21内へ噴射するポート噴射式である。噴射された燃料は、吸気ポート21内で霧化して吸入空気と混合気を形成し、吸気弁22の開弁に伴って気筒内へ流入する。
なお、インジェクタ200は、本発明の燃料噴射装置の一構成例である。
【0050】
燃料噴射孔202は、ノズルボディ101先端部近傍に設けられた1孔の連通孔である。燃料噴射孔202は、吸気弁22に設けられた撃力付与部210の方向に向かって燃料貯留部108とノズルボディ101の外部とを連通し、燃料貯留部108の燃料を撃力付与部210の方向へと噴射可能に構成されている。
この場合、燃料噴射孔202の孔数は1孔に限られず、仕様に応じて任意の孔数を設けることができる。
【0051】
撃力付与部210は、一端部側が吸気弁22の軸部に固定され、他端部側が噴射燃料と衝突可能な位置まで延伸した片持梁が、吸気弁22の軸部の円周上に複数配置される構成である。撃力付与部210を構成する片持梁は、実施例1と同様な矩形の面部を有する薄肉板であって、その面部が燃料噴射孔202方向に向かって配置されている。撃力付与部210は、実施例1と同様に、燃料噴射孔202から噴射された燃料が面部に衝突すると、その衝突力によって片持梁の他端部側が所定の周波数で振動し、片持梁の周辺の気体へ振動(衝撃波)を伝達させる構成である。また、撃力付与部210は、燃料噴射孔202から近い側(上側)の同一円周上に、隣接する片持梁と隙間をもって複数の片持梁が配置される第1層と、燃料噴射孔202から遠い側(下側)の同一円周上に、第1層の隙間の位置に対応させて複数の片持梁が配置される第2層と、からなる二層構造である。
【0052】
このように、吸気弁22の軸部に撃力付与部210を設けることで、吸気ポート21に噴射された燃料に適切に撃力を付与することができる。これによって付与された撃力が、噴射燃料中の気泡を崩壊させるトリガとなり、噴射燃料中の気泡の崩壊が促進して噴霧粒径が微細化されるために、吸気ポート21での燃料と空気の混合を促進することができる。
この場合、実施例1と同様に、撃力付与部210を構成する片持梁の大きさ、材質、形状および軸部への取付角度は任意に設定することができる。また、撃力付与部210は二層構造に限られずに、単層構造、または三層以上からなる多層構造であってもよい。そして、撃力付与部210は、吸気弁22軸のインジェクタ200に対向する側にのみ、複数の片持梁を設ける構成であってもよい。
なお、撃力付与部210は、本発明の燃料噴射装置および撃力付与手段の一構成例である。
【実施例3】
【0053】
つづいて、本発明の実施例3について説明する。本実施例の燃料噴射装置30は、燃料噴射孔102および撃力付与部110に代えて、燃料噴射孔302および撃力付与部310を備える点で燃料噴射装置10と相違している。
【0054】
本実施例の燃料噴射装置30は、実施例1と同様に、ノズルボディ101、燃料通路103、第1ガイド部104aおよび第2ガイド部104bを有するニードル104、スプリング105、弁座106、燃料案内溝107、燃料貯留部108、気体吸入孔109を有するインジェクタ300を備えている。これにより、噴射される燃料中に微細気泡を多量に、かつ略均一に発生させることができる。
更に、燃料噴射装置30は、ピストン23方向に燃料を噴射可能な燃料噴射孔302と、ピストン23の頂面中央部に撃力付与部310を備えている。
【0055】
燃料噴射装置30について詳細に説明する。図5は、燃料噴射装置30の概略構成を示した構成図である。なお、実施例1と同様の構成要素については、図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図5に示すインジェクタ300は、実施例1と同様に、内燃機関の燃焼室に装着され、フューエルポンプから燃料流路を通じて高圧供給された燃料を燃料噴射孔302よりピストン23へ向けて噴射する直接噴射式である。インジェクタ300は、ニードル104軸をピストン23の摺動軸と一致させて、かつノズルボディ101先端部を燃焼室(ピストン23)の中央部と一致させて設置される。
この場合、インジェクタ300の取付位置および角度は上記に限定されずに、内燃機関の仕様に応じて任意の取付位置および角度で装着することができる。
なお、インジェクタ300は、本発明の燃料噴射装置の一構成例である。
【0057】
燃料噴射孔302は、ノズルボディ101先端部近傍の円周方向に90°間隔で設けられた4孔の連通孔である。燃料噴射孔302は、ピストン23頂面に設けられた撃力付与部310の方向に向かって燃料貯留部108とノズルボディ101の外部とを連通し、燃料貯留部108の燃料を撃力付与部310の方向へと噴射可能に構成されている。
この場合、燃料噴射孔302の孔数は4孔に限られず、仕様に応じて任意の孔数を設けることができる。
【0058】
撃力付与部310は、ピストン23頂面の中央部に円柱状に設けられた固定部310aと、一端部側が固定部310aの円柱側面に固定され、他端部側が噴射燃料と衝突可能な位置まで延伸した複数の片持梁と、から構成される。撃力付与部310を構成する片持梁は、固定部310aを中心とする扇形の面部を有する薄肉板であって、その面部がシリンダヘッド方向(上側)に向かって配置されている。撃力付与部310は、実施例1と同様に、燃料噴射孔302から噴射された燃料が面部に衝突すると、その衝突力によって片持梁の他端部側が所定の周波数で振動し、片持梁の周辺の気体へ振動(衝撃波)を伝達させる構成である。また、撃力付与部310は、燃料噴射孔302から近い側(上側)の円柱側面の同一円周上に、隣接する片持梁と隙間をもって複数の片持梁が配置される第1層と、燃料噴射孔102から遠い側(下側)の円柱側面の同一円周上に、第1層の隙間の位置に対応させて複数の片持梁が配置される第2層と、からなる二層構造である。
【0059】
このように、ピストン23の頂面に撃力付与部310を設けることで、燃焼室に噴射された燃料に適切に撃力を付与することができる。これによって付与された撃力が、噴射燃料中の気泡を崩壊させるトリガとなり、噴射燃料中の気泡の崩壊が促進して噴霧粒径が微細化されるために、燃焼室での燃料と空気の混合を促進することができる。
この場合、実施例1と同様に、撃力付与部310を構成する片持梁の大きさ、材質、形状および固定部310aへの取付角度は任意に設定することができる。また、撃力付与部310は二層構造に限られずに、単層構造、または三層以上からなる多層構造であってもよい。そして、例えばピストン23が頂面に凹状の燃焼室(キャビティ)を有するリエントラント型燃焼室を構成する場合、ピストン23のキャビティ中央部に撃力付与部310を設けてもよい。
なお、撃力付与部310は、本発明の燃料噴射装置および撃力付与手段の一構成例である。
【0060】
また、本実施例において、例えばインジェクタ300の燃料噴射タイミング(すなわち、ニードル104の開弁タイミング)をピストン23の上死点(TDC)近傍に設定することで、より噴射燃料中の気泡崩壊を促進することが可能である。
【実施例4】
【0061】
つづいて、本発明の実施例4について説明する。本実施例の燃料噴射装置40は、撃力付与部310に代えて、撃力付与部410を備える点で燃料噴射装置30と相違している。
【0062】
本実施例の燃料噴射装置40は、実施例3と同様に、ノズルボディ101、燃料噴射孔302、燃料通路103、第1ガイド部104aおよび第2ガイド部104bを有するニードル104、スプリング105、弁座106、燃料案内溝107、燃料貯留部108、気体吸入孔109を有するインジェクタ300を備えている。これにより、噴射される燃料中に微細気泡を多量に、かつ略均一に発生させることができる。
更に、燃料噴射装置40は、ピストン23の頂面中央部に撃力付与部410を備えている。
【0063】
燃料噴射装置40について詳細に説明する。図6は、燃料噴射装置40の概略構成を示した構成図である。なお、実施例3と同様の構成要素については、図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0064】
撃力付与部410は、ピストン23の頂面に噴射燃料と衝突可能に設けられた円盤状の壁板であって、その中心軸がピストン23の中心軸と一致するよう固定されている。撃力付与部410は、噴射燃料が衝突する面(上面)が微小(ミクロンオーダー)の凹凸(または突起している)形状である凹凸部を有している。燃料噴射孔302から噴射された燃料は、撃力付与部410の凹凸部と所定の角度を持って衝突するため、衝突時のエネルギーに加えて大きなせん断力を受ける。
【0065】
このように、噴射された燃料は、撃力付与部410に衝突すると、壁板への衝突力およびせん断力からなる撃力を付与される。これによって付与された撃力が、噴射燃料中の気泡を崩壊させるトリガとなり、噴射燃料中の気泡の崩壊が促進して噴霧粒径が微細化されるために、燃焼室での燃料と空気の混合を促進することができる。また、撃力付与部410の微小凹凸形状によって、噴射燃料の液滴の粉砕効果が向上することから、燃焼室での燃料と空気の混合をより促進することができる。
この場合、撃力付与部410の材質、凹凸部の大きさ及び形状は、予め台上試験等にて求めた噴射燃料中の気泡の崩壊促進に有効な任意の材質、大きさ及び形状に設定することができるが、凹凸部の形状は鋭角であることが好ましい。また。撃力付与部410は、その設置場所がピストン頂面に限定されず、噴射燃料と衝突可能なあらゆる位置に設けることができる。
なお、撃力付与部410は、本発明の燃料噴射装置および撃力付与手段の一構成例である。
【0066】
また、本実施例においても、実施例3と同様に、例えばインジェクタ300の燃料噴射タイミング(すなわち、ニードル104の開弁タイミング)をピストン23の上死点(TDC)近傍に設定することで、より噴射燃料中の気泡崩壊を促進することが可能である。
【0067】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0068】
例えば、実施例1〜3の撃力付与部において、噴射燃料との衝突部分を微小凹凸形状とすることで、噴射燃料により大きな撃力を付与し、それによって燃料中の気泡の崩壊をより促進することもできる。
【0069】
また、燃料噴射孔から噴射される燃料が衝突する任意の位置に、膨張・収縮方向に振動可能な超音波振動子を備えて、この超音波振動子の振動によって噴射燃料に撃力を付与する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10,20,30,40 燃料噴射装置
22 吸気弁
23 ピストン
100,200,300 インジェクタ(燃料噴射装置)
101 ノズルボディ
102,202,302 燃料噴射孔
103 燃料通路
104 ニードル
104a 第1ガイド部
106 弁座
107 燃料案内溝(気泡生成手段)
108 燃料貯留部(気泡生成手段)
109 気体吸入孔(気泡生成手段)
110,210,310,410 撃力付与部(撃力付与手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設置され、ノズルボディの先端部近傍に設けられた燃料噴射孔から燃料を噴射可能な燃料噴射ノズルを有する燃料噴射装置であって、
前記燃料噴射孔から噴射される燃料に気泡を生成する気泡生成手段と、
前記燃料噴射孔から噴射される燃料の全部または一部と衝突可能に設けられ、該燃料に撃力を付与して前記気泡を崩壊する撃力付与手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記撃力付与手段は、一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の衝突によって振動可能な片持梁であることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記撃力付与手段は、一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の衝突によって振動可能な片持梁を含み、
前記片持梁は、前記燃料噴射孔に近い側に配置される第1層と、前記燃料噴射孔から遠い側に配置される第2層とを形成し、
前記第1層を形成する片持梁は、隣接する片持梁と隙間を設けて並列配置され、
前記第2層を形成する片持梁は、前記隙間の位置に対応させて並列配置されることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記撃力付与手段は、前記ノズルボディに設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記撃力付与手段は、前記内燃機関の吸気弁に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記撃力付与手段は、前記内燃機関のピストン頂面に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記撃力付与手段は、前記燃料噴射孔側に向かって配置される凹凸部であることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記撃力付与手段は、前記内燃機関のピストン頂面に設けられることを特徴とする請求項7記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記撃力付与手段は、振動可能な超音波振動子であることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
前記気泡生成手段は、前記燃料噴射ノズルに供給される燃料を前記燃料噴射孔へと導く燃料通路と、
前記ノズルボディに摺動自在に収容されるニードルと、
前記ノズルボディの壁面と前記ニードルとの摺動部のいずれかに1または複数形成され、前記燃料通路側と前記燃料噴射孔側とを螺旋状に連通する燃料案内溝と、
前記ニードルと前記燃料噴射孔との間に設けられ、前記燃料案内溝を通過する燃料を貯留可能な燃料貯留部と、
前記ノズルボディの外部から前記燃料貯留部に気体を吸入可能な気体吸入孔と、
を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
ノズルボディの先端部近傍に設けられた燃料噴射孔から燃料を噴射可能な燃料噴射ノズルであって、
前記燃料噴射孔から噴射される燃料中に気泡を生成する気泡生成手段と、
一端部側が前記燃料噴射孔から噴射される燃料の全部または一部と衝突可能に前記ノズルボディに設けられ、該燃料の衝突によって振動可能な片持梁と、
を備えることを特徴とする燃料噴射ノズル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−220210(P2011−220210A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89707(P2010−89707)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】