説明

燃料噴射装置

【課題】燃料の後垂れ防止手段を備えた内燃機関の燃料噴射装置において、燃料噴射孔の位置や開閉タイミングを考慮することで、燃焼状態の改善を図る。
【解決手段】ニードル弁26の先端にスプール弁44Aが設けられ、スプール弁44Aは、ハウジング14の内面に摺接する大径円筒部位442及び444と、これらの間に位置する小径部位446とからなる。スプール弁44の中央に軸方向に燃料供給孔440が穿設され、小径部位446に半径方向に4個の貫通孔448が穿設されている。噴射孔列A及びBがハウジング14の軸方向に分かれて設けられている。ニードル弁26と共にスプール弁44Aが上昇すると、噴射孔列Aが噴射孔列Bより先に開口し、かつ噴射孔列Bより後に閉じる。なお、噴射孔列AとBの開閉タイミングを逆にしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、特に1つのシリンダに2つ以上の燃料噴射弁を配するディーゼル機関に適用されて好適な燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関等の内燃機関に設けられた燃料噴射装置は、シリンダヘッドに、燃料噴射孔を有する先端部位が燃焼室に突出したハウジングが設けられ、該ハウジングの内部にニードル弁が設けられている。該ニードル弁は、ハウジングの内部に供給される燃料油の油圧によって弁座から離れ、開弁することで、燃料噴射孔に燃料油が供給され、該燃料噴射孔から燃料油が噴射される。噴射された燃料油が空気と混合し着火することで、火炎が形成され、燃焼室内に火炎が拡大していく。
【0003】
しかし、ニードル弁が弁座に着座し、ハウジング内の燃料供給路が閉鎖された後で、ニードル弁の先端から燃料噴射孔までの容積に溜まった燃料油が後垂れする。この後垂れした燃料油が十分に空気と混合できず、不完全燃焼が生じる。また、不完全燃焼後のカーボン等からなる燃え残りが燃焼室の隔壁に付着し、これがディーゼル機関の排気中のHCやCO等を増加させる一因にもなっている。
【0004】
この後垂れを防止する手段が特許文献1に開示されている。特許文献1には、前記ニードル弁に相当する中空スライド弁の先端に、ハウジングの内面に摺接する円筒体が取り付けられ、中空スライド弁の閉止と同時に、該円筒体で燃料噴射孔を閉塞することで、後垂れを防止するようにした構成が開示されている。また、特許文献2及び特許文献3にも同様の後垂れ防止手段が開示されている。なお、特許文献2及び3には、燃料噴射口がハウジングの軸方向で異なる位置に2箇所配置された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平6−511064号公報
【特許文献2】特開2009−30605号公報
【特許文献3】特開2010−236536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のうち、特許文献2及び3には、複数の燃料噴射孔をハウジングの軸方向で異なる位置に配置することが開示されているが、特許文献2及び3では、これら複数の燃料噴射孔の開閉タイミングは常に同一である。従って、特許文献1〜3には、燃料噴射孔の位置や開閉タイミングを考慮することで、燃焼状態を改善することは開示されていない。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、内燃機関に設けられ、燃料の後垂れ防止手段を備えた燃料噴射装置において、燃料噴射孔の位置や開閉タイミングを考慮することで、燃焼状態の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の燃料噴射装置は、シリンダヘッドに設けられ、内部に燃料供給路が形成されると共に、先端部位に燃料噴射孔を有するハウジングと、該ハウジングの内部に配置され、燃料油圧により該燃料供給路を開放するニードル弁と、該ニードル弁の先端に設けられ、該ニードル弁の閉弁時に燃料噴射孔を閉鎖するスプール弁とを備えていることを前提とする。この構成では、燃料油が燃料供給路に供給され、ニードル弁が上昇すると同時に、スプール弁も上昇する。スプール弁の上昇によって、燃料噴射孔が開放される。
【0009】
本発明の特徴的構成は、燃料噴射孔がハウジングの先端部でハウジングの軸方向に複数列に設けられ、燃料供給路と各燃料噴射孔列とをニードル弁の昇降に応じて燃料噴射孔列毎に連通する連通路がスプール弁に設けられ、該連通路は燃料噴射孔列毎に開閉タイミングを変えるように形成されている点にある。
【0010】
本発明では、スプール弁が上昇する時、燃料噴射孔列毎に開閉タイミングを変えることで、燃焼室内に形成される火炎の長さや火炎による加熱温度の分布を調整できる。これによって、燃料状態を改善して不完全燃焼を回避し、燃焼過程で生じるHCやCO等の発生を抑制できる。前記構成に加えて、燃料噴射孔は、ハウジングの中心軸に対して放射方向に形成され、かつハウジングの周方向の任意の位置に配設するようにすれば、燃焼室の燃焼状態をさらに精密に制御できるようになり、排気中のHCやCO等の発生をさらに抑制できる。
【0011】
本発明において、スプール弁は、ハウジングの内面に摺接して摺接領域にある燃料噴射孔を閉じると共に、各燃料噴射孔列に対応して燃料噴射孔列数と同数だけ形成された大径部位と、大径部位の間に形成され、ハウジング内面との間で燃料油導入空間を形成する小径部位とで構成され、スプール弁に設けられた連通路及び燃料油導入空間を介して燃料油を各燃料噴射孔に供給し、各燃料噴射孔列の開閉タイミングを変えるようにするとよい。スプール弁に前記燃料油導入空間を設けることで、燃料噴射孔列の配置位置の制約を受けることなく、燃料噴射孔の開閉タイミングを任意に変更できるようになる。そのため、各燃料噴射孔列間の間隔を十分取ることができ、燃料噴射孔の穿設によるハウジング先端部壁の強度低下を抑制できる。
【0012】
また、各噴射孔列の開閉タイミングを変えることによって。各燃料噴射孔列毎に燃料噴射孔の開放時間を変えるようにすれば、開放時間に応じて燃料噴射孔を基点として形成される火炎の長さを調整できる。即ち、燃料噴射孔の開放時間が長いほど火炎を長くでき、開放時間が短いほど火炎を短くできる。このように、火炎の長さを燃焼室の各領域で調整することで、燃焼室の燃焼状態を調整できる。
【0013】
本発明を、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散して配置されたディーゼル機関に適用することができる。この場合、開放時間が長い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔をシリンダ中央領域に向けて配置し、開放時間が短い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔をシリンダ周辺領域に向けて配置するとよい。これによって、シリンダライナ近傍で形成される火炎の火炎長を短くできるので、シリンダライナの温度上昇を抑制でき、シリンダライナの焼付きを抑制できる。また、シリンダ中央領域に形成される火炎の火炎長を長くすることで、不完全燃焼をなくし、HCやCO等の発生を抑制できる。
【0014】
本発明を、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散して配置されたディーゼル機関に適用するときの別な構成として、開放時間が短い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔をシリンダ中央領域及びシリンダ周辺領域に向けて配置し、開放時間が長い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔をシリンダ中央領域とシリンダ周辺領域との間の領域に向けて配置するとよい。
【0015】
これによって、シリンダライナの焼付きを抑制できると共に、シリンダ中央領域で形成される火炎の火炎長を短くできる。そのため、シリンダ中央領域で互いに対向する燃料噴射孔から発生する火炎同士の干渉を抑制でき、これによって、シリンダ中央領域への空気の導入を促進し、完全燃焼させることができる。
【0016】
本発明を、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散して配置されたディーゼル機関に適用するときのさらに別な構成として、開放時間が長い噴射孔列を構成する燃料噴射孔と開放時間が短い噴射孔列を構成する燃料噴射孔とをハウジングの周方向に交互に位置するように配置するとよい。これによって、各燃料噴射孔列の燃料噴射孔間の間隔を広げることができる。そのため、火炎長が異なる火炎が形成時間に差をもって平面視で交互に配置されるので、各火炎が燃焼室内で時間差をもって分散する。そのため、燃料空間を有効利用できると共に、各火炎が相互に干渉し合うことがなくなり、火炎が安定するので、燃焼室の燃焼状態を安定させ、完全燃焼を促進できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スプール弁が上昇する時、燃料噴射孔列毎に開閉タイミングを変更するようにしたので、燃料噴射孔から噴射される燃料油によって燃焼室内に形成される火炎の長さや火炎による加熱温度の分布を調整できるようになる。これによって、不完全燃焼をなくし、燃焼過程で生じるHCやCO等の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を2サイクル型の船舶用ディーゼル機関に適用した第1実施形態に係る燃料噴射装置の全体構成図である。
【図2】図1中のA―A線に沿う断面図である。
【図3】図1中のB―B線に沿う断面図である。
【図4】第1実施形態の燃料噴射孔の開放タイミングを示す図である。
【図5】第1実施形態でシリンダ内の火炎分布を示す平面視説明図である。
【図6】本発明装置の第2実施形態に係る部分断面図である。
【図7】図6中のC―C線に沿う断面図である。
【図8】図6中のD―D線に沿う断面図である。
【図9】本発明装置の第3実施形態に係る部分断面図である。
【図10】図9中のE―E線に沿う断面図である。
【図11】図9中のF―F線に沿う断面図である。
【図12】図9中のG―G線に沿う断面図である。
【図13】本発明を2サイクル型の船舶用ディーゼル機関に適用した第4実施形態に係るシリンダ内の火炎分布を示す平面視説明図である。
【図14】本発明を2サイクル型の船舶用ディーゼル機関に適用した第5実施形態に係るシリンダ内の火炎分布を示す平面視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0020】
(実施形態1)
本発明を2サイクル型の船舶用大型ディーゼル機関に適用した第1実施形態に係る燃料噴射装置10を図1〜図5に基づいて説明する。図1は本実施形態の燃料噴射装置10の全体構成を示す。図1において、円筒形状をしたハウジング14がシリンダヘッド12に装着されている。ハウジング14の先端部位14aには、4個の燃料噴射孔16a〜dが設けられ、該先端部位14aは、シリンダヘッド12の下面12aから燃焼室11内に突出している。ハウジング14の内部に設けられた円筒状の空間にニードル弁26が収納されている。
【0021】
ハウジング14の上部から下部へ向けて燃料供給路18が形成され、燃料供給路18はチャンバー20に連通している。チャンバー20の下面は弁座22を形成し、弁座22の内側に燃料供給路24が形成されている。ニードル弁26の上方にコイルバネ30が設けられ、コイルバネ30のバネ力がニードル弁26の上面に付勢されている。これによって、燃料供給路18に燃料油が供給されない時は、ニードル弁26の円錐面28が弁座22に押し付けられ、チャンバー20の下方に設けられた燃料供給路24を閉鎖している。
【0022】
燃料供給路18には油路32が接続され、油路32の他端はシリンダ34に接続されている。シリンダ34は油路36を介して油ポンプ38に接続されている。シリンダ34の内部に、カム42によって往復動するピストン40が設けられている。油ポンプ38からシリンダ34に燃料油が供給され、シリンダ34内の燃料油は、ピストン40の上昇によって燃料供給路18に供給される。燃料供給路18に供給される燃料油の油圧によってニードル弁26が上方へ後退し、燃料供給路18及び24が連通する。
【0023】
ニードル弁26の先端には、スプール弁44Aが取り付けられている。スプール弁44Aの軸方向に、燃料供給路24とスプール弁44Aより下方の空間25とを連通する燃料供給孔440が設けられている。スプール弁44Aは、上下端に円筒形状の上部大径部位442及び下部大径部位444が形成され、これら大径部位の間に円筒形状の小径部位446が形成されている。上部大径部位442及び下部大径部位444はハウジング14の内面に摺接し、燃料噴射孔を覆う位置にきたとき、燃料噴射孔を閉鎖する。小径部位446には90°ずつ位相をずらせて4個の同一径の貫通孔448が半径方向に設けられている。
【0024】
4個の燃料噴射孔16a〜dは、ハウジング14の軸方向の異なる位置に設けられた2つの噴射孔列A及びBに分けて配置されている。上方の噴射孔列Aは、燃料噴射孔16a及び16bで構成され、下方の噴射孔列Bは、燃料噴射孔16c及び16dで構成されている。図2及び図3に示すように、各燃料噴射孔16a〜dは、ハウジング14の中心軸Oに対して放射方向に向けて形成されている。また、燃料噴射孔16a及び16bは、ハウジング14の周方向で、シリンダ内の中央領域に向けて配置され、燃料噴射孔16c及び16dは、シリンダ内の周辺領域に向けて配置されている。
【0025】
かかる構成において、油路32から燃料供給路18に燃料油が供給されないとき、ニードル弁26は弁座22に着座し、燃料供給路24を閉鎖している。油路32から燃料供給路18に燃料油が供給されると、燃料油の油圧によって、コイルバネ30のバネ力に抗してニードル弁26が上昇し、燃料供給路24を開放する。これによって、燃料油は燃料供給路18及び24から燃料供給孔440を通り、下方空間25に達すると共に、4個の貫通孔448を経て小径部位446の外側空間sに供給される。油路32から燃料油の供給がなくなると、ニードル弁26は下降して弁座22に着座し、燃料供給路24を閉鎖する。
【0026】
また、ニードル弁26の上昇及び下降と同時に、ニードル弁26と一体のスプール弁44Aが上昇及び下降する。スプール弁44Aの上昇及び下降によって、噴射孔列A及びBは、図4に示す開閉動作を行う。即ち、ニードル弁26が弁座22に着座している時、噴射孔列A及びBの全燃料噴射孔16a〜dは上部大径部位442及び下部大径部位444によって閉塞されている。スプール弁44Aが上昇すると、先に噴射孔列Aの燃料噴射孔16a、16bが開く。スプール弁44Aがさらに上昇すると、全燃料噴射孔16a〜dが開く。スプール弁44Aが下降を開始すると、先に噴射孔列Bの燃料噴射孔16c、16dが閉じられ、スプール弁44Aが弁座22に着座すると、全燃料噴射孔16a〜dが閉じられる。
【0027】
図5はシリンダ内の火炎分布を示す平面視説明図である。図において、シリンダヘッド12の中央に掃気口48が設けられている。掃気口48から排出する排気によって、燃焼室11に時計方向向きのスワールaが生起する。燃料噴射装置10は、シリンダヘッド12の中心を挟んで周辺部の互いに相対する位置(180°位相が異なる位置)に2個設けられている。図中、噴射孔列Aの燃料噴射孔16a、16bから噴射された燃料油から火炎Fa、Fbが形成され、噴射孔列Bの燃料噴射孔16a、16bから噴射された燃料油から火炎Fc、Fdが形成される。
【0028】
燃料噴射孔16a〜dはいずれもスワールaの方向に沿うように向けられ、これらの燃料噴射孔から形成される火炎はいずれもスワールaの方向に沿って形成されている。また、噴射孔列Aの燃料噴射孔16a、16bの開放時間が噴射孔列Bの燃料噴射孔16c、16dの開放時間より長いため、火炎Fa、Fbは火炎Fc、Fdより長い火炎を形成できる。
【0029】
本実施形態によれば、ハウジング14の先端部位14aに軸方向に異なる位置に噴射孔列A及びBを設け、噴射孔列Bに対しては、燃料供給孔440から下方空間25を介して燃料油が供給されるのに対し、噴射孔列Aに対しては、燃料供給孔440から貫通孔448及び小径部位446の外側空間sを介して燃料油が供給される。これによって、噴射孔列Aの開放タイミングを噴射孔列Bより早くすることができる。そのため、噴射孔列A及びBの位置による制約を受けることなく、各噴射孔列の開放タイミングの設定に自由度を持たすことができる。従って、噴射孔列A及びBの位置を互いに離れた位置に設定できるので、ハウジング14の先端部位14aの強度を低下させるおそれがない。
【0030】
また、燃料噴射孔16a〜dの方向をスワールaに沿わせ、火炎Fa〜Fdをスワールaに沿う方向に向けて生起させているので、火炎がスワールaによって乱されず、火炎を安定形成できる。そのため、安定した燃焼状態を維持できる。また、シリンダ周辺領域に短い火炎Fc、Fdを形成するようにしているので、シリンダ周辺領域の温度上昇を抑制し、シリンダライナの焼付きを抑制できる。また、シリンダ中央領域に長い火炎Fa、Fbを形成するようにしているので、燃焼室11の中央領域で不完全燃焼を抑制し、HCやCO等の発生を抑制できる。
【0031】
なお、図1中、2点鎖線bで示すように、噴射孔列Aの燃料噴射孔16a、16bの軸方向角度θを小さくし、燃料油の噴射角度をより下方へ向ければ、発生する火炎はスワールaの影響をうけにくくなる。そのため、火炎を安定形成でき、燃焼室11内での燃焼状態を安定させることができる。
【0032】
また、噴射孔列をハウジング14の軸方向に3段に配置し、これら3段の噴射孔列に対応して、スプール弁44Aの大径円筒部位を3個形成し、該大径円筒部位の間に小径円筒部位を配置し、これら3段の噴射孔列の開閉タイミングを夫々異なるように制御してもよい。例えば、上段の噴射孔列の開放時間を最も長くし、下段の噴射孔列の開放時間を最も短くし、中段の噴射孔列の開放時間を上下段噴射孔列の中間の長さとする。これによって、燃焼室11の燃焼状態をさらに精密に制御できる。
【0033】
第1実施形態では、噴射孔列Aの開放時間を噴射孔列Bの開放時間より長くするように構成したが、逆に、噴射孔列Bの開放時間を噴射孔列Aの開放時間より長くするように構成してもよい。これによっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
(実施形態2)
次に、本発明装置の第2実施形態を図6〜図8により説明する。本実施形態のスプール弁44Bは、前記第1実施形態のスプール弁44Aの構成と比べて、燃料供給孔440及び小径部位446に設けられた貫通孔448をなくし、代わりに、上部大径部位442の周辺領域に、8個の同一径の貫通孔450をスプール弁44Bの軸方向に等間隔に穿設している。また、下部大径部位444に貫通孔450と同様の構成で、スプール弁44Bの軸方向に8個の貫通孔452を設けている。その他の構成は第1実施形態と同一であり、同一の部位又は機器には同一符号を付し、それらの説明は省略する。
【0035】
これによって、燃料油は、スプール弁44Bの上昇時に、燃料供給路24から貫通孔450及び外側空間sを通して噴射孔列Aに供給される。また、燃料油は外側空間s及び貫通孔452を通して噴射孔列Bに供給される。本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、噴射孔列Aの開放タイミングを噴射孔列Bより早くすることができる。即ち、噴射孔列A及びBの位置による制約を受けることなく、各噴射孔列の開放タイミングの設定に自由度を持たすことができる。さらに加えて、同一径の貫通孔450、452を穿設するだけで済むので、スプール弁44Bの加工が容易になる。
【0036】
(実施形態3)
次に、本発明装置の第3実施形態を図9〜図12により説明する。本実施形態のスプール弁44Cは、上部大径部位442に4個の同一径の貫通孔454が軸方向に90°間隔で設けられている。また、下部大径部位444に貫通孔454と同一の構成で4個の貫通孔456が設けられている。また、上部大径部位442の上方に、貫通孔454の内側半円に連なる面を有する4個の半円状断面の凹溝458が、スプール弁44Cの軸方向に90°間隔で刻設されている。さらに、小径部位446に、貫通孔454、456の内側半円に連なる面を有する4個の半円状断面の凹溝460が、スプール弁44Cの軸方向に90°間隔で刻設されている。その他の構成は第1実施形態と同一である。
【0037】
これによって、スプール弁44Cの上昇時に、燃料油は、燃料供給路24から凹溝458、貫通孔454及び外側空間sを通して噴射孔列Aに供給されると共に、燃料供給路24から凹溝458、貫通孔454、凹溝460、貫通孔456及び下方空間25を通して噴射孔列Bに供給される。本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、噴射孔列Aの開放タイミングを噴射孔列Bより早くすることができる。即ち、噴射孔列A及びBの位置による制約を受けることなく、各噴射孔列の開放タイミングの設定に自由度を持たすことができる。
【0038】
(実施形態4)
次に、第1実施形態の変形例を図13に基づいて説明する。本変形例は、噴射孔列Aを構成する燃料噴射孔を図2及び図3中の燃料噴射孔16b及び16cとし、噴射孔列Bを構成する燃料噴射孔を燃料噴射孔16a及び16dとするものである。その他の構成は第1実施形態と同一である。本実施形態では、図13に示すような火炎分布となる。即ち、噴射孔列Bの燃料噴射孔から発生する火炎は、燃焼室11の中央領域に向かう火炎Fcと燃焼室11の周辺領域に向かう火炎Fdとで構成される。噴射孔列Aの燃料噴射孔から発生する火炎は、中間領域に向かう火炎Fa及びFbとで構成される。
【0039】
噴射孔列Bから発生する火炎Fc、Fdは、燃料噴射孔の開放時間が短いため、火炎長が短くなり、噴射孔列Aから発生する火炎Fa、Fbは、燃料噴射孔の開放時間が噴射孔列Bと比べて長いため、火炎長は長くなる。
【0040】
本実施形態によれば、火炎Fa〜Fdがスワールaに沿った方向に形成するので、火炎がスワールaで乱されず、火炎を安定形成できる。そのため、安定した燃焼状態を維持できる。また、燃焼室11の周辺領域に短い火炎Fdが形成されるため、シリンダライナの温度上昇を抑制でき、シリンダライナの焼付きを防止できる。また、燃焼室11の中央領域に短い火炎Fcを形成するため、他方の燃料噴射装置10から発生する火炎Fcとの干渉をなくし、両火炎Fc間への空気の流入を促進できるので、燃焼状態を向上できる。また、火炎Fcと火炎Fdとの中間に火炎長の長い火炎Fa及びFbを形成するので、中間領域で完全燃焼を達成できる。
【0041】
(実施形態5)
次に、第1実施形態のさらに別な変形例を図14に基づいて説明する。本変形例は、噴射孔列Aを構成する燃料噴射孔16a及び16bと、噴射孔列Bを構成する燃料噴射孔16c及び16dとが、ハウジング14の周方向で交互に位置するように配設されている。即ち、燃料噴射孔16aが燃焼室11の中央領域に向けて配置され、燃料噴射孔16aの外側に向けて燃料噴射孔16cが配置されている。また、燃料噴射孔16cの外側に向けて燃料噴射孔16bが配置され、燃料噴射孔16bの外側で燃焼室11の周辺領域に向けて燃料噴射孔16dが配置されている。
【0042】
これによって、各燃料噴射孔16a〜dから発生する火炎Fa〜dは、シリンダ上方から視て図14に図示されるように形成される。即ち、火炎長が長い火炎Fa、Fbと火炎長が短い火炎Fc、Fdとがシリンダ上方から視て交互に並ぶように配置される。
【0043】
本実施形態によれば、火炎Fa〜Fdがスワールaに沿った方向に形成するので、火炎がスワールaで乱されず、火炎を安定形成できる。そのため、安定した燃焼状態を維持できる。また、シリンダ周辺領域に火炎長が短いFdが形成されるので、シリンダ周辺領域の温度上昇を抑制し、シリンダライナの焼付きを抑制できる。また、噴射孔列A及びBの夫々において、火炎間の間隔を広くでき、かつ噴射孔列A及びBで火炎の発達に時間差をもたせることができる。そのため、燃料空間を有効利用できると共に、火炎が相互に干渉し合うことがなくなる。従って、火炎が安定するので、燃焼室11の燃焼状態が安定し、完全燃焼を促進できる。
【0044】
前記第1実施形態及び第1実施形態の各変形例では、燃料噴射装置10がシリンダヘッド12の中心を挟んで周辺部の互いに相対する位置(180°位相が異なる位置)に2個設けられた例であるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、燃料噴射装置がシリンダヘッドの周辺領域に120°の等間隔で3個又はそれ以上配置された構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、複数列に設けた燃料噴射孔の開閉タイミングを制御することで、シリンダ内の燃焼状態を改善し、排気中のHCやCO等の発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0046】
10 燃料噴射装置
12 シリンダヘッド
14 ハウジング
14a 先端部位
16a〜d 燃料噴射孔
18、24 燃料供給路
20 チャンバー
22 弁座
25 下方空間
26 ニードル弁
28 円錐面
30 コイルバネ
32、36 油路
34 シリンダ
38 油ポンプ
40 ピストン
42 カム
44A、44B、44C スプール弁
440 燃料供給孔
442 上部大径部位
444 下部大径部位
446 小径部位
448、450,452,454、456 貫通孔
458,460 凹溝
48 掃気口
A、B 噴射孔列
Fa、Fb、Fc、Fd 火炎
O 中心軸
a スワール
s 外側空間(燃料油導入空間)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに設けられ、内部に燃料供給路が形成されると共に、先端部位に燃料噴射孔を有するハウジングと、該ハウジングの内部に配置され、燃料油圧により該燃料供給路を開放するニードル弁と、該ニードル弁の先端に設けられ、該ニードル弁の閉弁時に前記燃料噴射孔を閉鎖するスプール弁とを備えた燃料噴射装置において、
前記燃料噴射孔が前記ハウジングの先端部でハウジングの軸方向に複数列に設けられ、
前記燃料供給路と各燃料噴射孔列とを前記ニードル弁の昇降に応じて燃料噴射孔列毎に連通する連通路が前記スプール弁に設けられ、該連通路は燃料噴射孔列毎に開閉タイミングを変えるように形成されていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔は、前記ハウジングの中心軸に対して放射方向に形成され、かつ前記ハウジングの周方向の任意の位置に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記スプール弁は、前記ハウジングの内面に摺接して摺接領域にある燃料噴射孔を閉じると共に、前記各燃料噴射孔列に対応して該燃料噴射孔列数と同数だけ形成された大径部位と、該大径部位の間に形成され、ハウジング内面との間で燃料油導入空間を形成する小径部位とで構成され、
前記連通路及び前記燃料油導入空間を介して燃料油を各燃料噴射孔列に供給し、前記開閉タイミングを変えるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記開閉タイミングを変えることによって、各燃料噴射孔列毎に燃料噴射孔の開放時間を変えるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
ディーゼル機関に適用され、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散してに配置され、
開放時間が長い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔がシリンダ中央領域に向けて配置され、開放時間が短い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔がシリンダ周辺領域に向けて配置されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
ディーゼル機関に適用され、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散してに配置され、
開放時間が短い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔がシリンダ中央領域及びシリンダ周辺領域に向けて配置され、開放時間が長い燃料噴射孔列を構成する燃料噴射孔が前記シリンダ中央領域とシリンダ周辺領域との間の領域に向けて配置されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
ディーゼル機関に適用され、複数の燃料噴射装置がシリンダヘッドの周縁部に分散して配置され、
開放時間が長い噴射孔列を構成する燃料噴射孔と開放時間が短い噴射孔列を構成する燃料噴射孔とが前記ハウジングの周方向に交互に位置するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−113096(P2013−113096A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256784(P2011−256784)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】