説明

燃料改質装置及び燃料改質方法

【課題】 装置構成が簡素で、かつ、水素の生成効率が良好な燃料改質装置及び燃料改質方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係る燃料改質装置は、メタノールの水蒸気改質を行うものであって、メタノール水溶液20及び微粉末状の改質触媒31とで構成される混合液21が貯留された反応槽14と、その反応槽14内部の混合液21中に微小気泡26を発生させる微小気泡発生手段23と、反応槽14を加熱する加熱手段15とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールの水蒸気改質を行い、水素ガスを生成させる燃料改質装置及び燃料改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題の高まりの中で、化石燃料に変わる新たなエネルギー源として、水素が注目されている。この水素を燃料とし、水素と酸素とを電気化学的に反応させることで、発電を行う固体高分子型燃料電池(以下、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)と記す)がある。
【0003】
PEFC向けの水素は、一般に、メタンを主成分とする都市ガスや天然ガス、液化石油ガス(LPG)、メタノールなどのアルコール、ナフサなどから製造される。これらの燃料ガスの内、メタノールは、化石燃料から容易に合成される安価な液体燃料であり、しかも触媒を用いることで比較的容易に水素を製造できるという特長を有していることから、PEFC向けの水素原料として有望視されている。メタノールを用いるPEFCとして、メタノール改質型PEFCと、直接メタノール型燃料電池(以下、DMFC(Direct Methanol Fuel Cell)と記す)がある。
【0004】
メタノール改質型燃料電池は、改質器を用いてメタノールを改質して水素を生成し、この水素を燃料として用いている。メタノール改質方法として代表的なものに、
a) 水蒸気改質、
b) 部分酸化改質、
c) オートサーマル(Autothermal)改質(酸化的水蒸気改質(Oxygen Steam Reforming)ともいう)、
が挙げられる。
【0005】
a)の水蒸気改質反応は、式(1)に示すように、メタノールと水蒸気を混合し、150〜300℃程度の温度で反応させ、メタノールを水素と二酸化炭素に分解するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
CH3OH+H2O→3H2+CO2 …式(1)
b)の部分酸化改質は、式(2)に示すように、メタノールを少量の空気(酸素)を用いて途中まで反応させ、メタノールを水素と二酸化炭素に分解するものである。
【0007】
CH3OH+1/2O2→CO2+2H2 …式(2)
c)のオートサーマル改質は、式(1)に示した水蒸気改質反応が比較的大きな吸熱反応であることから、反応熱を供給するために、上記式(2)、下記式(3),式(4)に示す少なくとも1つのメタノールの部分酸化反応を併用し、メタノールを水素と二酸化炭素に分解するものである。
【0008】
CH3OH+1/2O2→CO+H2+H2O …式(3)
CH3OH+O2→CO2+H2+H2O …式(4)
一方、DMFCは、改質器を用いることなく、燃料極においてメタノール分子(CH3OH)のHを一つずつ直接分離し、残ったCOを水(H2O)と反応させて二酸化炭素(CO2)とするものであり、メタノールを燃料として直接用いている。
【0009】
【特許文献1】特表2002−542143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
a)の水蒸気改質は、外部から熱を吸収して1個のメタノール分子から3個の水素分子を生成するため、もとのメタノールよりも生成した水素の方がエネルギー的に大きく、エネルギー効率が良好であるという利点がある。しかしながら、水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、始動時に、約150〜300℃まで電気ヒータやメタノールバーナで加熱する必要がある。このため、始動性や応答性に劣るという問題があった。また、定常時においても、反応温度を保つためにヒータやバーナで加熱する必要があり、その分、エネルギーの損失、エネルギー効率の低下となる。さらに、改質反応時に、燃料電池の性能低下を招く一酸化炭素(CO)が一部生成することから、COを選択酸化反応させてCO2とすべく、酸化器などが必要となる。つまり、メタノール及び水をガス化するための気化器、改質器、酸化器などの装置を必要とすることから、装置構成が複雑になるという問題があった。
【0011】
b)の部分酸化改質は、発熱反応であり、外部から熱供給しなくても、自発的に反応が進行するため、始動性や応答性が良好であるという利点がある。しかしながら、1個のメタノール分子から2個の水素分子しか生成されないことから、エネルギー効率があまり良好でないという問題があった。また、改質後の生成ガス中に、空気中の窒素が残存していることから、水素濃度が低いという問題があった。
【0012】
c)のオートサーマル改質は、始動時や負荷が大きくなる時には部分酸化改質の比率を上げ、定常時や熱供給が十分な時には水蒸気改質の比率を上げ、燃料電池の運転を行っている。つまり、a)のエネルギー効率が良好であるという利点と、b)の始動性や応答性が良好であるという利点の両方を兼ね備えている。しかしながら、定常時は、水蒸気改質反応が行われることから、反応温度を保つためにヒータやバーナで加熱する必要があり、その分、エネルギーの損失、エネルギー効率の低下となる。また、改質触媒を活性化させるためにエネルギーを必要とするため、エネルギーの損失となる。さらに、一酸化炭素(CO)を酸化する酸化器などが必要となる。また、改質後の生成ガス中に、空気中の窒素が残存していることから、水素濃度が低いという問題があった。
【0013】
一方、DMFCは、改質器を必要としないため、装置構成が簡素であり、また、ほぼ常温、常圧で作動することから、始動性や応答性が良好である。しかしながら、燃料極におけるメタノールの反応速度が遅く、電極活性が低いことから、未反応のメタノールの一部がそのまま高分子膜を通過してしまい、所謂“メタノールクロスオーバー”が生じるという問題があった。また、燃料極の電極表面に担持させる触媒が非常に高価であるという問題があった。さらに、燃料極における一酸化炭素(CO)と水(H2O)との反応が遅いという問題があった。この反応が遅いと、メタノール分子からHを分離させる反応が遅くなってしまう。よって、燃料極の触媒を活性化させる必要があるが、そのためにエネルギーを必要とするため、エネルギーの損失となる。
【0014】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、装置構成が簡素で、かつ、水素の生成効率が良好な燃料改質装置及び燃料改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく本発明に係る燃料改質装置は、メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質装置であって、
メタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液が貯留された反応槽と、
その反応槽内部の混合液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生手段と、
反応槽を加熱する加熱手段と、
を備えたものである。
【0016】
ここで、微小気泡発生手段は、超音波発振装置であってもよい。加熱手段は、水素ガスを燃料とする燃料電池であることが好ましい。反応槽底部に多孔質の粒体を配置することが好ましい。多孔質の粒体は、タブレット状の改質触媒であってもよい。反応槽の加熱、伝熱面内壁を、凹凸面に形成してもよい。
【0017】
また、本発明に係る燃料改質装置は、メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質装置であって、
メタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液が貯留された反応槽と、
その反応槽内部の混合液を循環させる循環手段と、
その循環手段の少なくとも一部を加熱し、循環手段内部を循環する混合液を加熱する加熱手段と、
その加熱された混合液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生手段と、
を備えたものである。
【0018】
ここで、循環手段は、その最後流側端に、反応槽内部の混合液溜まりに混合液を吐出、落下させるヘッド部を有し、そのヘッド部に微小気泡発生手段を設けてもよい。微小気泡発生手段は、超音波発振装置であってもよい。微小気泡発生手段は、ヘッド部の混合液吐出口に設けた泡沫形成用メッシュ部材であってもよい。加熱手段は、水素ガスを燃料とする燃料電池であることが好ましい。循環手段は、加熱熱交換器を備えていることが好ましい。循環手段の加熱、伝熱面内壁を、凹凸面に形成してもよい。
【0019】
一方、本発明に係る固体高分子型燃料電池システムは、
上述した燃料改質装置と、
その燃料改質装置の反応槽内にメタノール水溶液を供給する供給手段と、
反応槽内部で生成した水素ガスとメタノールミストの混合気を抜き出し、その混合気を熱交換、気液分離し、水素ガスのみを燃料電池に供給する水素ラインと、
を備えたものである。
【0020】
また一方、本発明に係る燃料改質方法は、メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質方法であって、
超音波発振装置を用いて、反応槽内部に貯留されたメタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液を超音波加振すると共に、混合液中にキャビテーションを生成させるステップと、
上記反応槽内部の混合液を沸騰熱伝達により加熱し、混合液中にキャビテーションを核とした微小気泡を形成するステップと、
周りに改質触媒が付着してなる上記微小気泡の内部でメタノールの改質を行い、水素ガスを生成させるステップと、
を含むものである。
【0021】
ここで、混合液の液温が60〜85℃となるように反応槽を加熱することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る燃料改質方法は、メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質方法であって、
反応槽内部に貯留されたメタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液の一部を、循環手段を用いて抜き出すステップと、
その循環手段内部を流れる混合液を加熱して混合液をサブクール沸騰させるステップと、
サブクール沸騰後の混合液を反応槽内部に再供給するステップと、
微小気泡発生手段を用いて、混合液中に微小気泡を形成するステップと、
周りに改質触媒が付着してなる上記微小気泡の内部でメタノールの改質を行い、水素ガスを生成させるステップと、
を含むものである。
【0023】
ここで、循環手段内部を流れる混合液の液温が60〜85℃となるように循環手段を加熱することが好ましい。サブクール沸騰後の混合液を反応槽内部に戻す際、超音波発振装置を用いてその混合液を超音波加振すると共に、混合液中にキャビテーションを生成させ、その混合液を混合液溜まりに吐出、落下させてもよい。サブクール沸騰後の混合液を反応槽内部に戻す際、その戻し口に設けた泡沫形成用メッシュ部材を介して、その混合液を混合液溜まりに吐出、落下させ、その混合液中にキャビテーションを生成させてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、装置構成が簡素で、安価な燃料改質装置を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
(第1の実施の形態)
本発明の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図を図1に示す。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態に係る燃料改質装置は、
メタノール水溶液20及び微粉末状の改質触媒31(図3参照)とで構成される混合液21が貯留された反応槽14と、
反応槽14内部の混合液21中に微小気泡25を発生させる超音波発振装置(微小気泡発生手段)23と、
反応槽14を加熱し、混合液21を加熱、沸騰させるPEFC(加熱手段)15と、
を備えたものである。
【0028】
PEFC15は、水素ガスGHが導入される燃料極(アノード)15aと、空気GAが導入される空気極(カソード)15bと、燃料極15aと空気極15bとの間に介設される電解質膜(イオン交換膜)15cとで構成される。燃料極15a及び空気極15bは負荷15dを介して電気的に接続される。また、燃料極15aには後述する水素ライン17が、空気極15bの一端(図1中では左端)には空気供給ライン18が、空気極15bの他端(図1中では右端)には排出ライン19が接続される。このような構成を有するPEFC15は、空気極15b側を反応槽14の底面に接触させた状態で設けられる。
【0029】
超音波発振装置23は、発振器24aと振動子(本体部)24bとで構成される。超音波発振装置23は、振動子24bの加振面(図1中では左面)を反応槽14の側壁に接触させた状態で設けられる。
【0030】
反応槽14の底部には、多孔質の粒体が配置される。この多孔質の粒体は、タブレット状の改質触媒22(又は沸騰石)で構成される。ここで、反応槽14の底部に多孔質の粒体を配置する代わりに、反応槽14の加熱、伝熱面内壁(図1中では底面内壁)を、凹凸面(表面粗さが粗い面)に形成してもよい。例えば、加熱、伝熱面内壁の平均粗さRaが1〜100μmとなるように、表面粗さの調整がなされる。
【0031】
微粉末状の改質触媒31は、燃料改質に伴ってその量が減少することはない。このため、改質触媒31の供給手段は特に必要としないが、必要とあれば、反応槽14に接続した触媒供給ライン(図示せず)を介して反応槽14内に供給するようにしてもよい。
【0032】
ここで、改質触媒22,31の構成材としては、特に限定するものではなく、慣用のメタノール改質触媒が全て適用可能であり、例えば、Cu/Zn系、Pd/Zn系などが挙げられる。
【0033】
混合液21を構成する微粉末状の改質触媒31の平均粒径は、1000〜1nm、好ましくは10〜1nmとされる。
【0034】
反応槽14の底部に配置されるタブレット状の改質触媒22の平均サイズは、直径が50〜5mm、高さが10〜1mm、好ましくは直径が10〜5mm、高さが5〜1mmとされる。
【0035】
反応槽14における超音波加振方向(図1中では左右方向)の長さは、波長(λ(=c/f)、c:音速、f:周波数)よりも長くする必要がある。これは、後述するキャビテーションの生成が、超音波の波の節の部分で起こるためである。また、反応槽14における超音波加振方向と直角な方向(図1の図面と垂直な方向)の長さは、反応槽14の容積に応じて適宜決定されるものであり、特に限定するものではない。
【0036】
本実施の形態に係る燃料改質装置においては、反応槽14の底部にPEFC15を取付け、反応槽14の側壁に超音波発振装置23を取付けた場合について説明を行ったが、それぞれの取付け位置は特に限定するものではない。例えば、図4に示すように、反応槽14の底部に超音波発振装置23を取付け、反応槽14の側壁にPEFC15を取付けてもよい。この場合、反応槽14の側壁におけるPEFC15の取付け位置は、できるだけ反応槽14の下方であることが好ましい。
【0037】
前述した構成を有する本実施の形態に係る燃料改質装置に、その燃料改質装置の反応槽14内にメタノール水溶液20を供給する供給手段、反応槽14の内部で生成した水素とメタノールミスト(メタノール蒸気+水蒸気)の混合気GMを抜き出し、PEFC15の燃料極15aに水素ガスGHを供給する水素ライン17、及びメタノールミストを凝縮回収する回収熱交換器13を接続したものが、本実施の形態に係るPEFCシステム10とされる。
【0038】
供給手段は、メタノール水溶液20を一旦貯留すると共に気液分離を行うメタノールタンク12と、メタノールタンク12にメタノール水溶液20を供給する供給装置11と、メタノールタンク12及び反応槽14を接続し、メタノール水溶液20が流れる供給ライン16とで構成される。ここで、供給装置11は、メタノールタンク12内の水素ガスGHが大気開放されないように、逆流防止手段(例えば、逆止弁など)を備えていることが好ましい。
【0039】
水素ライン17は、メタノールタンク12及び反応槽14を接続し、混合気GMが流れるライン17aと、メタノールタンク12及びPEFC15の燃料極15aを接続し、水素ガスGHが流れるライン17bとで構成される。
【0040】
回収熱交換器13は、供給ライン16及びライン17aの途中に設けられる。この回収熱交換器により、ライン17aを流れる混合気GMの顕熱が回収され、供給ライン16を流れるメタノール水溶液20が加熱される。
【0041】
次に、本実施の形態に係るPEFCシステム10を用いた燃料改質方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0042】
代表的な水蒸気改質の反応環境は、反応温度が150〜250℃、反応圧力(大気圧(=約0.1MPa)との差圧)が0.3MPaである。本発明者らが鋭意研究した結果、直径が数μm程度の微小気泡内部では表面張力によって圧力上昇及び温度上昇が生じることを利用し、反応槽14内の混合液21の反応環境が水蒸気改質の反応環境を満足していなくても、混合液21中に生成させた微小気泡内において局部的に水蒸気改質を生じさせることができることを見出した。
【0043】
本実施の形態に係る燃料改質方法は、先ず、メタノールタンク12からメタノール水溶液20を供給し、反応槽14内に、メタノール水溶液20及び微粉末状の改質触媒31とで構成される混合液21を貯留する。ここで、メタノール水溶液20におけるメタノールの混合比率は、メタノールと水の各分子が同数集まって安定なクラスターを生成することができる範囲であれば、特に限定するものではなく、例えば、20〜90wt%、好ましくは35〜60wt%とされる。また、メタノールタンク12からメタノール水溶液20を供給する際、例えば、メタノールタンク12と反応槽14との高低差を利用することで、電力を使用せずに供給することができる。
【0044】
水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、反応を進行させるには、混合液21を加熱する必要がある。本実施の形態に係る燃料改質方法においては、PEFC15における化学反応熱を利用して、混合液21の加熱を行う。始動時においては、PEFC15の化学反応熱を利用できないため、メタノールバーナなどを用いて反応槽14内の混合液21を加熱する。始動開始後、PEFC15において、十分な化学反応熱が生成されるようになれば、メタノールバーナなどによる加熱は不要となる。ここで、混合液21の液温は、60〜85℃、好ましくは後述する超音波によるキャビテーションの発生率が高い35〜75℃の範囲で、かつ、メタノールの沸点(64.65℃)以上、つまり64.65〜75℃とされ、より好ましくはメタノールの沸騰が生じやすい70〜75℃とされる。
【0045】
この加熱と並行して、超音波発振装置23を用いて反応槽14を超音波加振することで、混合液21中にキャビテーションが生成する(キャビテーション生成ステップ)。ここで、超音波発振装置23から発振される周波数は、キャビテーションの発生率が高い20〜40kHzが好ましい。
【0046】
このキャビテーションを“沸騰の核”として、核沸騰による気泡が生じ、メタノールの沸騰気泡(微小気泡26)が生じる(微小気泡形成ステップ)。この時、微小気泡26内に、水蒸気及びメタノール蒸気が封入され、また、微小気泡26の周りに、微粉末状の改質触媒31が界面力によって吸着、付着される。
【0047】
混合液21中に生成した微小気泡26内の圧力及び温度は、表面張力によってそれぞれ上昇される。この時、図2に示すように、微小気泡26の気泡径が5μm以下(図2中の斜線領域A)であれば、大気圧との間に0.05MPa以上の差圧が生じる。改質触媒31との接触下であれば、混合液21の反応環境が、反応温度が80℃以下、反応圧力が0.05MPaと小さくても、微小気泡26の内部で式(1)に示す水蒸気改質反応が進行する。
【0048】
CH3OH+H2O→3H2+CO2 …式(1)
よって、図3に示すように、混合液21中を上昇、浮上する微小気泡26内で、水素ガスGHが改質、生成される(水素ガス生成ステップ)。以後、“微小気泡26”といった場合、特に断らない限り、気泡径が5μm以下のマイクロバブルを指すものとする。
【0049】
微小気泡26は、上昇、浮上するにつれて内部温度が徐々に下がり、収縮する。上昇、浮上により、混合液21の液面へと達した微小気泡26は、更にいくつかが集合、合体する。これによって、表面張力が小さくなって微小気泡26が弾け、生成された水素ガスGHが開放される。この時、水素ガスGHと共に、反応に寄与しなかった未反応のメタノール蒸気及び水蒸気も開放される。つまり、反応槽14内部における混合液21の液面上には、水素ガスGHとメタノールミスト(メタノール蒸気+水蒸気)の混合気GMが存在する。
【0050】
反応槽14内の混合気GMは、水素ライン17を介して抜き出される。混合気GMは、先ず、水素ライン17における前段側のライン17aを流れ、回収熱交換器13において、供給ライン16を流れるメタノール水溶液20と熱交換される。この熱交換によって混合気GMの顕熱が回収されて冷却され、メタノール及び水はそれぞれ露点以下となって凝結する。供給ライン16を流れるメタノール水溶液20は、混合気GMの顕熱を利用して80℃近くまで加熱された後、反応槽14に供給される。
【0051】
その後、この混合気GMは、メタノールタンク12に導入され、水素ガスGHと液体(メタノール水溶液)とに分離される。この分離は気液分離であるため、特別な分離装置、例えばガス分離装置などを用いることなく、容易に分離することができる。分離されたメタノール水溶液はメタノールタンク12に回収される。分離後の水素ガスGHは、水素ライン17における後段側のライン17bを流れ、PEFC15の燃料極15aに供給される。
【0052】
燃料極15aに供給された水素ガスGHは、式(5)に示すように電離される。電子(e-)を失った水素原子(プロトン)は、電解質膜15cを通って空気極15bに供給される。また、電子は、負荷15dを通って空気極15bに供給される。空気極15bにおいて、先ず、プロトンと空気供給ライン18を介して供給された空気GAとが反応して電子のない水を形成し、続いて電子と反応して式(6)に示すように水Wが得られる。生成された水Wは、未反応の剰余空気GAと共に、排出ライン19から排出される。
【0053】
2H2→4H++4e- …式(5)
O2+4H++4e-→2H2O …式(6)
【0054】
混合液21中における微粉末状の改質触媒31は、超音波振動により攪拌されるため、凝集されることなく、混合液21中に均一に分散される。また、タブレット状を呈した多孔質の改質触媒22の表面に生じた核沸騰による気泡は、超音波振動により揺動されることで、改質触媒22から効率よく分離される。
【0055】
生成した微小気泡26があまりにも微小であると、その微小気泡26は、混合液21中をなかなか上昇、浮上できない。しかし、核沸騰によって生じた気泡は、超音波加振されることにより、そのいくつかがすぐに集合、合体される。その結果、生成される微小気泡26は、ある程度の大きさ(例えば5μm以下)を有したものとなり、混合液21中における微小気泡26の滞留時間(水蒸気改質反応時間)を十分に確保しつつ、効率よく微小気泡26を上昇、浮上させることができる。
【0056】
始動開始から時間の経過に伴って、混合液21の温度は徐々に上昇し、最終的には70〜75℃、場合によっては80℃近くになることもある。混合液21とPEFC15との温度差が小さくなると、伝熱が生じにくくなる。よって、PEFC15により混合液21を加熱する際、PEFC15の熱を反応槽14内の混合液21にいかに伝熱させるかが重要となる。
【0057】
そこで、本実施の形態に係る燃料改質装置においては、伝熱面にタブレット状を呈した多孔質の改質触媒22を配置している。これにより、この改質触媒22が、改質作用と共に沸騰石の作用も有することから、混合液21の過熱が生じることはなく、伝熱面において確実に核沸騰が生じる。その結果、混合液21とPEFC15との温度差に関係なく、伝熱面で沸騰伝熱が行われるので、PEFC15からの伝熱効果が高まり、つまりPEFC15の除熱・冷却効果が高まる。よって、PEFC15の空気極15bにおける化学反応の進行速度の低下を、抑制することができる。
【0058】
反応槽14の混合液21内で生成される微小気泡26は、気泡径が5μm以下のマイクロバブルであることから、微小気泡26の単位体積当たりの表面積は非常に大きくなる。このため、改質触媒31が微小気泡26に吸着される際、微小気泡26と改質触媒31の接触面積が非常に大きくなり、水蒸気改質反応がより促進される。その結果、前述した式(1)の化学反応を完全に進行させることができるため、中間生成物のCOは生成せず、CO2が生成する。よって、COを選択酸化反応させる酸化器などを必要とせず、装置構成が簡易となる。
【0059】
混合液21の改質触媒31は、微小気泡26に吸着されて浮上分離されると共に、メタノールの沸騰に伴う自然対流に乗って沈降されるため、反応槽14内に均一に分布する。よって、反応槽14内部において、均一に水蒸気改質反応が生じる。
【0060】
本実施の形態に係る燃料改質装置を用いたPEFCシステム10は、携帯型情報端末、例えばノートパソコンやPDA等の燃料電池、燃料電池自動車、及び家庭用・ポータブル用及び分散電源用の発電装置などに適したシステムとなる。
【0061】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0062】
(第2の実施の形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図を図5に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0063】
図5に示すように、本実施の形態に係る燃料改質装置は、
混合液21が貯留された反応槽14と、
反応槽14内部の混合液21を循環させる循環手段51と、
循環手段51の少なくとも一部を加熱し、循環手段51の内部を循環する混合液21を加熱、沸騰させるPEFC(加熱手段)15と、
その加熱された混合液21中に微小気泡を発生させる超音波発振装置(微小気泡発生手段)23と、
を備えたものである。
【0064】
循環手段51は、反応槽14から混合液21を抜き出し、再び反応槽14へと戻す循環ライン52と、循環ライン52の中途に設けられ、混合液21を加圧、循環させるポンプ53と、循環ライン52の中途に設けられ、PEFC15と混合液21との熱交換を行う加熱熱交換器54とで構成される。
【0065】
加熱熱交換器54における伝熱面内壁(PEFC15と当接される面)54aは、凹凸面(表面粗さが粗い面)に形成してもよい。この凹凸面は、例えば、伝熱面内壁54aの平均粗さRaが1〜100μmとなるように、表面粗さの調整がなされる。
【0066】
本実施の形態に係る燃料改質装置においては、反応槽14の側壁に超音波発振装置23を取付けた場合について説明を行ったが、その取付け位置は特に限定するものではない。例えば、循環ライン52における加熱熱交換器54の後流側に超音波発振装置23を取付けてもよい。
【0067】
本実施の形態に係る燃料改質装置に、供給手段(メタノールタンク12、供給装置11、及び供給ライン16)、水素ライン17、及び回収熱交換器13を接続したものが、本実施の形態に係るPEFCシステム50とされる。
【0068】
次に、本実施の形態に係るPEFCシステム50を用いた燃料改質方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0069】
第1の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、先ず、メタノールタンク12からメタノール水溶液20を供給し、反応槽14内に混合液21を貯留する。
【0070】
本実施の形態に係る燃料改質方法においては、反応槽14内部に貯留された混合液21を、循環ライン52を介して一旦抜き出し(混合液抜き出しステップ)、この抜き出した混合液21を加熱する。具体的には、混合液21は、循環ライン52を介して抜き出され、循環ライン52内部を流れ、循環される。この循環される混合液21は、加熱熱交換器54において、PEFC15の化学反応熱が顕熱として伝熱され、加熱される。始動時においては、PEFC15の化学反応熱を利用できないため、メタノールバーナなどを用いて循環する混合液21を加熱する。始動開始後、PEFC15において、十分な化学反応熱が生成されるようになれば、メタノールバーナなどによる加熱は不要となる。
【0071】
この時、加熱熱交換器54の伝熱面内壁54aでは、混合液21を構成するメタノール水溶液20が核沸騰して沸騰気泡が生じる。しかし、その沸騰気泡は、伝熱面内壁54a近傍を次々に流れて行く混合液21によってすぐに冷却され、消失される。つまり、伝熱面内壁54aで、伝熱面内壁54a近傍にのみ沸騰気泡が生じる“サブクール沸騰”が生じる(サブクール沸騰ステップ)。これによって、伝熱面内壁54aでは、強制対流熱伝達と比べて数倍の効率で、熱伝達がなされる。ポンプ53による混合液21の循環速度は、伝熱面内壁54aでサブクール沸騰が良好に生じるように、適宜調整される。
【0072】
その後、熱交換された混合液21は反応槽14に再び供給され(混合液再供給ステップ)、超音波発振装置23により超音波加振される。この時、サブクール沸騰時に消失した沸騰気泡は、実際は、極微小な気泡として混合液21中に存在している。よって、この超音波加振により、極微小な気泡を核として、メタノールの微小気泡26が生じる(微小気泡形成ステップ)。この時、微小気泡26内に、水蒸気及びメタノール蒸気が封入され、また、微小気泡26の周りに、微粉末状の改質触媒31が吸着、付着される。
【0073】
その後は、第1の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、微小気泡26の内部で水蒸気改質反応が生じ、水素ガスGHが生成される(水素ガス生成ステップ)。反応槽14内における水素ガスGHとメタノールミスト(メタノール蒸気+水蒸気)の混合気GMは、ライン17aを介して抜き出され、熱交換、気液分離された後、ライン17bを介してPEFC15の燃料極15aに供給される。
【0074】
本実施の形態に係るPEFCシステム50においても、第1の実施の形態に係るPEFCシステム10と同様の作用効果が得られる。
【0075】
また、本実施の形態に係るPEFCシステム50においては、循環手段51を用いて混合液21をサブクール沸騰させ、PEFC15の除熱・冷却を行っていることから、第1の実施の形態に係るPEFCシステム10と比較して、PEFC15の冷却能力(PEFC15と混合液21との伝熱効率)がより高くなる。その結果、本実施の形態に係るPEFCシステム50においては、第1の実施の形態に係るPEFCシステム10と比較して、PEFC15の空気極15bにおける化学反応の進行速度の低下を、ほぼ最小限に抑制することができる。
【0076】
(第3の実施の形態)
本発明の別の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図を図6に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0077】
第1及び第2の実施の形態に係る燃料改質装置は、混合液21中で発生した微小気泡26を、単に上昇、浮上させるものであった。
【0078】
図6に示すように、本実施の形態に係る燃料改質装置は、
混合液21が貯留された反応槽14と、
反応槽14内部の混合液21を循環させる循環手段51と、
循環手段51を加熱し、循環手段51の内部を循環する混合液21を加熱、沸騰させるPEFC(加熱手段)15と、
を備え、
循環手段51が、その最後流側端に、反応槽14内部の混合液溜まりに混合液21を吐出、落下させるヘッド部61を有し、
そのヘッド部61に、ヘッド部61内を流れる混合液21中に微小気泡を発生させる超音波発振装置(微小気泡発生手段)23を設け、
たものである。
【0079】
本実施の形態に係る燃料改質装置に、供給手段(メタノールタンク12、供給装置11、及び供給ライン16)、水素ライン17、及び回収熱交換器13を接続したものが、本実施の形態に係るPEFCシステム60とされる。
【0080】
次に、本実施の形態に係るPEFCシステム60を用いた燃料改質方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0081】
第2の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、メタノールタンク12から混合液21を抜き出し、循環させ、PEFC15からの伝熱で混合液21を加熱する。
【0082】
伝熱面内壁54aで、“サブクール沸騰”し、熱交換された混合液21は、循環手段51の最後流側端に設けられたヘッド部61に導入される。ヘッド部61において、その混合液21は、超音波発振装置23により超音波加振される。この時、サブクール沸騰時に消失した沸騰気泡は、実際は、極微小な気泡として混合液21中に存在している。よって、この超音波加振により、極微小な気泡を核としてキャビテーションが生成される。このキャビテーションを含む混合液21が、ヘッド部61の混合液吐出口(戻し口)62から吐出される際、減圧されて(圧力が開放されて)、メタノールの微小気泡26が生じる(微小気泡形成ステップ)。この時、微小気泡26内に、水蒸気及びメタノール蒸気が封入され、また、微小気泡26の周りに、微粉末状の改質触媒31が吸着、付着される。
【0083】
その後、多数の微小気泡26を含んだ混合液21は、ヘッド部61の混合液吐出口(戻し口)62から反応槽14内部の混合液溜まりに落下される。ここで、微小気泡26は、流体の流れに乗るという性質を有している。よって、混合液21と共に混合液吐出口62から吐出、落下された微小気泡26は、混合液溜まりの液面で弾けることなく、混合液21の流れに乗って、一旦、反応槽14の底部まで沈み、それから、上昇、浮上される。
【0084】
その後は、第1の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、微小気泡26の内部で水蒸気改質反応が生じ、水素ガスGHが生成される(水素ガス生成ステップ)。反応槽14内における水素ガスGHとメタノールミスト(メタノール蒸気+水蒸気)の混合気GMは、ライン17aを介して抜き出され、熱交換、気液分離された後、ライン17bを介してPEFC15の燃料極15aに供給される。
【0085】
本実施の形態に係るPEFCシステム60においても、第2の実施の形態に係るPEFCシステム50と同様の作用効果が得られる。
【0086】
また、本実施の形態に係るPEFCシステム60においては、混合液21と共に微小気泡26を混合液吐出口62から吐出、落下させているため、微小気泡26は、一旦、反応槽14の底部まで沈んだ後、上昇、浮上する。このため、第1及び第2の実施の形態に係るPEFCシステム10,50と比較して、反応槽14内での微小気泡26の滞留時間を長くすることができる。その結果、水蒸気改質反応の反応可能な時間がより長くなるため、より確実に燃料改質を行うことができるようになり、延いては混合気GM中に占める水素ガスGHの純度が更に高くなる。
【0087】
(第4の実施の形態)
本発明の更に別の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図を図7に、図7の要部拡大図を図8(a)、図8(b)に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0088】
第1〜第3の実施の形態に係る燃料改質装置は、超音波発振装置23を用いて混合液21中に微小気泡26を発生させるものであった。
【0089】
図7に示すように、本実施の形態に係る燃料改質装置は、
混合液21が貯留された反応槽14と、
反応槽14内部の混合液21を循環させる循環手段51と、
循環手段51を加熱し、循環手段51の内部を循環する混合液21を加熱、沸騰させるPEFC(加熱手段)15と、
を備え、
循環手段51が、その最後流側端に、反応槽14内部の混合液溜まりに混合液21を吐出、落下させるヘッド部61を有し、
そのヘッド部61の混合液吐出口62(図8(a)参照)に、ヘッド部61内を流れる混合液21中に微小気泡を発生させる泡沫形成用メッシュ部材(微小気泡発生手段;図8(b)参照)81を設け、
たものである。
【0090】
本実施の形態に係る燃料改質装置に、供給手段(メタノールタンク12、供給装置11、及び供給ライン16)、水素ライン17、及び回収熱交換器13を接続したものが、本実施の形態に係るPEFCシステム70とされる。
【0091】
泡沫形成用メッシュ部材81は、単なるメッシュ部材ではなく、短尺のオリフィスを面状に多数本束ねて配置したような形状を呈している。オリフィスのサイズ及び形状は、目的とする微小気泡26の気泡径に応じて適宜選択されるものであり、特に限定するものではない。
【0092】
次に、本実施の形態に係るPEFCシステム70を用いた燃料改質方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0093】
第3の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、メタノールタンク12から混合液21を抜き出し、循環させ、PEFC15からの伝熱で混合液21を加熱する。
【0094】
伝熱面内壁54aで、“サブクール沸騰”し、熱交換された混合液21は、循環手段51の最後流側端に設けられたヘッド部61に導入される。その後、この混合液21は、混合液吐出口62に設けた泡沫形成用メッシュ部材81を介して、反応槽14内部の混合液溜まりに吐出、落下される。
【0095】
この時、サブクール沸騰時に消失した沸騰気泡は、実際は、極微小な気泡として混合液21中に存在している。よって、この混合液21を泡沫形成用メッシュ部材81を介して吐出させることで、混合液21が減圧され、微小な気泡が再び現れる(微小気泡形成ステップ)。その結果、メタノールの微小気泡26が生じる。この時、微小気泡26内に、水蒸気及びメタノール蒸気が封入され、また、微小気泡26の周りに、微粉末状の改質触媒31が吸着、付着される。
【0096】
その後、多数の微小気泡26を含んだ混合液21は、反応槽14内部の混合液溜まりに吐出、落下される。混合液21と共に混合液吐出口62から吐出、落下された微小気泡26は、混合液溜まりの液面で弾けることなく、混合液21の流れに乗って、一旦、反応槽14の底部まで沈み、それから、上昇、浮上される。
【0097】
その後は、第1の実施の形態に係る燃料改質方法と同様に、微小気泡26の内部で水蒸気改質反応が生じ、水素ガスGHが生成される(水素ガス生成ステップ)。反応槽14内における水素ガスGHとメタノールミスト(メタノール蒸気+水蒸気)の混合気GMは、ライン17aを介して抜き出され、熱交換、気液分離された後、ライン17bを介してPEFC15の燃料極15aに供給される。
【0098】
本実施の形態に係るPEFCシステム70においても、第3の実施の形態に係るPEFCシステム60と同様の作用効果が得られる。
【0099】
本実施の形態に係るPEFCシステム70においては、混合液21を、混合液吐出口62に設けた泡沫形成用メッシュ部材81を介して吐出させるだけで、微小気泡26を形成しているため、微小気泡26を形成するために電力を必要としない。また、微小気泡26を形成するための特別な駆動装置を必要としないことから、故障などが発生しにくく、システムの信頼性が高くなる。このため、第1〜第3の実施の形態に係るPEFCシステム10,50,60と比較して、省電力化、信頼性の向上、及びコストダウンを図ることができる。
【0100】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0101】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0102】
燃料改質試験で用いた燃料改質装置の概略図を図9に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0103】
図9に示すように、超音波洗浄器90の容器91内に、フラスコ92を配置する。このフラスコ92内には、メタノール水溶液と微粉末状のCu-Zn系改質触媒とで構成される混合液21が入れられ、その底部にはペレット状のCu-Zn系改質触媒22が配置される。フラスコ92はゴム栓95で封止されており、連結管95を介してフラスコ92内の空間部と注射器97とが連通している。容器91内には混合液21の液面近くまで水93が入れられ、この水93は加熱ヒータ94により温度調節が可能である。また、容器91の底面には超音波発振装置23が設けられる。
【0104】
上記のような構成の燃料改質装置を用い、燃料改質試験を行った。ここで、メタノール水溶液のメタノール濃度は約37.5%とした。また、水93の水温は73℃に調節した。さらに、加振する超音波の周波数は32.5kHzとした。
【0105】
フラスコ92内で生成され、注射器97に回収された気体について、ガスクロマトグラフィーを用いてガス分析を行った。その結果、その気体のモル比は、
H2:90.0、N2:56.6、CO2:29.9、O2:12.6、CO:0、
であった。このガス分析結果からわかるように、燃料改質により生成したガス中にCOは含まれていなかった。このことから、図9に示した燃料改質装置を用いて燃料改質を行った場合、水蒸気改質反応が完全に進行するため、COではなくCO2が生成されることが確認できた。
【0106】
また、超音波加振ありで燃料改質を行うと、気体生成量は10ml/hであった。これに対して、超音波加振なしで燃料改質を行うと、気体生成量は1ml/hとなった。このことから、図9に示した燃料改質装置を用いて燃料改質を行う場合、超音波加振して微小気泡26を形成することで、燃料改質効率、すなわち水素ガス生成効率を著しく向上させることができることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図である。
【図2】微小気泡の気泡径と、気泡内部と大気圧の差圧との関係を示す図である。
【図3】微小気泡のモデル図である。
【図4】図1の変形例である。
【図5】本発明の他の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図である。
【図6】本発明の別の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図である。
【図7】本発明の更に別の好適一実施の形態に係る燃料改質装置の概略図である。
【図8】図7の要部拡大図であり、図8(b)は図8(a)の8b−8b線矢視図である。
【図9】[実施例]の燃料改質試験で用いた燃料改質装置の概略図である。
【符号の説明】
【0108】
14 反応槽
15 PEFC(加熱手段)
20 メタノール水溶液
21 混合液
23 超音波発振装置(微小気泡発生手段)
26 微小気泡
31 粉末状の改質触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質装置であって、
メタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液が貯留された反応槽と、
その反応槽内部の混合液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生手段と、
反応槽を加熱する加熱手段と、
を備えたことを特徴とする燃料改質装置。
【請求項2】
上記微小気泡発生手段が超音波発振装置である請求項1記載の燃料改質装置。
【請求項3】
上記加熱手段が水素ガスを燃料とする燃料電池である請求項1又は2記載の燃料改質装置。
【請求項4】
上記反応槽底部に多孔質の粒体を配置した請求項1から3いずれかに記載の燃料改質装置。
【請求項5】
上記多孔質の粒体がタブレット状の改質触媒である請求項4記載の燃料改質装置。
【請求項6】
上記反応槽の加熱、伝熱面内壁を、凹凸面に形成した請求項1から5いずれかに記載の燃料改質装置。
【請求項7】
メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質装置であって、
メタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液が貯留された反応槽と、
その反応槽内部の混合液を循環させる循環手段と、
その循環手段の少なくとも一部を加熱し、循環手段内部を循環する混合液を加熱する加熱手段と、
その加熱された混合液中に微小気泡を発生させる微小気泡発生手段と、
を備えたことを特徴とする燃料改質装置。
【請求項8】
上記循環手段は、その最後流側端に、上記反応槽内部の混合液溜まりに混合液を吐出、落下させるヘッド部を有し、そのヘッド部に微小気泡発生手段を設けた請求項7記載の燃料改質装置。
【請求項9】
上記微小気泡発生手段が超音波発振装置である請求項7又は8記載の燃料改質装置。
【請求項10】
上記微小気泡発生手段が、上記ヘッド部の混合液吐出口に設けた泡沫形成用メッシュ部材である請求項8記載の燃料改質装置。
【請求項11】
上記加熱手段が水素ガスを燃料とする燃料電池である請求項7から10いずれかに記載の燃料改質装置。
【請求項12】
上記循環手段が加熱熱交換器を備えた請求項7から11いずれかに記載の燃料改質装置。
【請求項13】
上記循環手段の加熱、伝熱面内壁を、凹凸面に形成した請求項7から12いずれかに記載の燃料改質装置。
【請求項14】
請求項1から13いずれかに記載の燃料改質装置と、
その燃料改質装置の反応槽内にメタノール水溶液を供給する供給手段と、
反応槽内部で生成した水素ガスとメタノールミストの混合気を抜き出し、その混合気を熱交換、気液分離し、水素ガスのみを燃料電池に供給する水素ラインと、
を備えたことを特徴とする固体高分子型燃料電池システム。
【請求項15】
メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質方法であって、
超音波発振装置を用いて、反応槽内部に貯留されたメタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液を超音波加振すると共に、混合液中にキャビテーションを生成させるステップと、
上記反応槽内部の混合液を沸騰熱伝達により加熱し、混合液中にキャビテーションを核とした微小気泡を形成するステップと、
周りに改質触媒が付着してなる上記微小気泡の内部でメタノールの改質を行い、水素ガスを生成させるステップと、
を含むことを特徴とする燃料改質方法。
【請求項16】
上記混合液の液温が60〜85℃となるように上記反応槽を加熱する請求項15記載の燃料改質方法。
【請求項17】
メタノールの水蒸気改質を行う燃料改質方法であって、
反応槽内部に貯留されたメタノール水溶液及び微粉末状の改質触媒とで構成される混合液の一部を、循環手段を用いて抜き出すステップと、
その循環手段内部を流れる混合液を加熱して混合液をサブクール沸騰させるステップと、
サブクール沸騰後の混合液を反応槽内部に再供給するステップと、
微小気泡発生手段を用いて、混合液中に微小気泡を形成するステップと、
周りに改質触媒が付着してなる上記微小気泡の内部でメタノールの改質を行い、水素ガスを生成させるステップと、
を含むことを特徴とする燃料改質方法。
【請求項18】
上記循環手段内部を流れる混合液の液温が60〜85℃となるように循環手段を加熱する請求項17記載の燃料改質方法。
【請求項19】
サブクール沸騰後の上記混合液を上記反応槽内部に戻す際、超音波発振装置を用いてその混合液を超音波加振すると共に、混合液中にキャビテーションを生成させ、その混合液を混合液溜まりに吐出、落下させる請求項17又は18記載の燃料改質方法。
【請求項20】
サブクール沸騰後の上記混合液を上記反応槽内部に戻す際、その戻し口に設けた泡沫形成用メッシュ部材を介して、その混合液を混合液溜まりに吐出、落下させ、その混合液中にキャビテーションを生成させる請求項17又は18記載の燃料改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−62884(P2006−62884A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243762(P2004−243762)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】