説明

燃料改質装置

【課題】触媒の劣化を適切に判定する。
【解決手段】改質部20の触媒室26には改質触媒が収容されている。改質部20では、燃料および空気を受け入れて、燃料について部分酸化反応および水蒸気改質反応を生起させて、燃料改質を行う。熱伝導度計40は、改質部26から排出される改質ガスの熱伝導度を検出する。熱伝導時計40において検出した改質ガスの熱伝導度が所定の低下を示した場合に触媒の劣化を判定し、改質部26における燃料の改質を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料について部分酸化反応および水蒸気改質反応を生起させて、燃料改質を行う燃料改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンの高出力化を図るために、燃料のオクタン価を上昇させる燃料改質処理が知られている。
【0003】
この燃料改質を行う燃料改質装置では、改質の対象となる燃料(ベース燃料)について、部分酸化反応および水蒸気改質反応を生起して、燃料改質を行う。例えば、ベース燃料となるガソリンの分子式をC13とすると、部分酸化反応と、水蒸気改質反応は、次のような反応として表される(特許文献3参照)。
・部分酸化反応
13+3O→6.5H+7CO
・水蒸気酸化反応
13+7HO→13.5H+7CO
【0004】
ここで、上述の改質反応には、触媒の存在が必須であり、触媒が劣化すると十分な改質が行えなくなる。特に、燃料改質においては、触媒に炭素等が付着し、触媒が劣化する。そこで、特許文献1には、燃料の供給をやめ、空気を供給することで、付着物を燃焼させて触媒の回復処理を行うことが示されている。また、特許文献2には、触媒温度により触媒の劣化を検出することが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、高オクタン価触媒を備えた内燃機関が示されており、特許文献4には、触媒出ガス温度、CO,CO,アルデヒドの検出結果により改質反応の制御をすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−92520号公報
【特許文献2】特開2004−315320号公報
【特許文献3】特開2000−291499号公報
【特許文献4】特開2008−261330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、燃料改質およびその回復処理を効果的に行うためには、触媒の劣化を確実に検出したいという要求がある。また、触媒の回復は、上述のような燃焼反応を利用するため、温度が上がりすぎると、触媒がシンタリング(焼結)してしまう可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、改質触媒が収容され、燃料および空気を受け入れて、燃料について部分酸化反応および水蒸気改質反応を生起させて、燃料改質を行う燃料改質手段と、燃料改質手段から排出される改質ガスの熱伝導度を検出する熱伝導度検出手段と、前記熱伝導度検出手段において検出した改質ガスの熱伝導度が所定の低下を示した場合に触媒の劣化を検出する触媒劣化検出手段と、を有し、触媒が劣化した場合に、前記燃料改質手段における燃料の改質を停止することを特徴とする。
【0009】
さらに、前記燃料改質手段の触媒の温度を検出する温度検出手段と、前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記温度検出手段により検出した触媒温度について所定の低下を検出した際に触媒の回復処理の完了を検出する回復検出手段と、を有し、触媒が回復したことで、触媒の回復処理を終了することが好適である。
【0010】
さらに、前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記熱伝導度検出手段により検出した熱伝導度について所定の低下を検出した際に触媒の回復処理の完了を検出する回復検出手段と、を有し、触媒が回復したことで、触媒の回復処理を終了することが好適である。
【0011】
さらに、前記燃料改質手段に水を供給する水供給手段を有し、前記燃料改質手段の触媒の温度を検出する温度検出手段と、前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、を有し、前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記温度検出手段により検出した触媒温度が所定の高温に至った場合、前記水供給手段の水供給量を増加させることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、改質ガスの熱伝導度を検出することで、触媒の劣化を適切に判定することができる。これによって、燃料改質を適切に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る燃料改質装置の構成を示す図である。
【図2】改質の悪化と熱伝導度の関係を示す図である。
【図3】改質、回復処理の際の各部の温度を示す図である。
【図4】改質、回復処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、燃料改質装置の構成を示す図であり、オクタン価の低いガソリンなどの改質の対象となる炭化水素系の燃料、空気、水は、それぞれ独立した燃料ポンプ10、空気ポンプ12、水ポンプ14を介し、改質部20に供給される。なお、燃料、空気、水の流量は、流量計測をしながら流量調整弁を調整することなどで、それぞれ個別に制御される。
【0016】
改質部20には、噴射ノズル22が備えられ、燃料、空気、水は、この噴射ノズル22において混合されて、混合室24に噴射され、燃料、水が気化される。なお、改質を行う際に、水は必ずしも必要とされない。また、1つの噴射ノズル22において、燃料、空気、水の混合物を噴射するように記載したが、燃料をノズルから噴射し、気体(空気)は別に供給してもよく、すべて気体として混合してもよい。
【0017】
混合室24において、所定の空燃比(適宜水を混合)に調整された混合ガスは、触媒室26に導入される
【0018】
この触媒室26には、ロジウムなどを含む触媒が充填されており、混合ガスは、ここで触媒と接触して、上述した部分酸化反応および水蒸気改質反応が生起される。
【0019】
触媒室26において、改質された改質燃料ガスは、配管28を介し、エンジン吸気管を介し、エンジンに供給される。
【0020】
このように、本実施形態では、改質対象となる燃料を改質部20において、改質してオクタン価を上昇させ、これをエンジンへ供給する。従って、エンジン出力を向上することが可能となる。
【0021】
ここで、配管28には、配管28内の改質燃料ガスの一部を分岐して、配管28の下流側に戻すバイパス管30が設けられている。
【0022】
また、触媒室26の入口のガス温度を計測する温度計32、触媒室26の触媒温度を計測する温度計34、触媒室26の出口のガス温度を計測する温度計36、バイパス管30内のガス温度を計測する温度計38、およびバイパス管30内のガスの熱伝導度(熱伝導率)を検出する熱伝導度計40が配置されており、その検出結果が制御部42に送られる。バイパス管30には、保温ヒータ44が取り付けられており、温度計38の検出結果に基づき制御部42が保温ヒータ44を制御することによって、熱伝導度計40によって熱伝導度を検出するガスの温度を一定値に制御している。温度が一定であることによって、熱伝導度によるガス組成の変化を正確に検出することが可能になる。
【0023】
なお、改質処理中の触媒室26の触媒温度は所定の温度(例えば600℃程度)に維持されるのが好ましい。そこで、入口ガス温度を所定の高温(例えば700℃)に維持するように、ヒータなどを設け混合室の温度を制御することも好適である。また、触媒室26の温度も制御するとよい。
【0024】
温度計32,34,36,38は、各種のものが使用可能であり、熱電対などが利用される。また、熱伝導度計40も各種のものが利用可能であり、基準ガスであるヘリウムガス中と、ヘリウムガスへ対象ガスの混入したガス中で加熱フィラメントの電気抵抗の差を検出することによる形式のものなどが採用可能である。
【0025】
制御部42は、供給される情報に基づいて、触媒の劣化を検出したり、回復処理の完了を検出して、この検出結果に従って改質、回復処理を制御する。すなわち、触媒室26内に充填している触媒は、改質処理の継続によりその機能が劣化する。そして、劣化した場合には、燃料の供給を停止して、空気を供給することで、触媒に付着した炭素などを燃焼させて回復処理を行う。
【0026】
「劣化判定」
ここで、触媒の劣化の判定について説明する。制御部42は、熱伝導度計40の計測値を監視しており、熱伝導度が所定値を下回ったことで改質ガス中の改質悪化、すなわち触媒の劣化を検出する。
【0027】
ここで、改質ガスの改質開始時と、改質悪化時における各ガス成分は、表1の通りである。
【0028】
【表1】

【0029】
一方、各ガスの熱伝導度は、表2の通りである。
【0030】
【表2】

【0031】
そして、これらに基づき上記改質ガスの改質開始時と改質悪化時の熱伝導度を計算すると、改質開始時が99.2mW/m・K、改質悪化時が65.3mW/m・Kとなる(Kはケルビン)。
【0032】
従って、改質処理中において、熱伝導度は、図2に示すように、徐々に減少する。そこで、改質ガスの熱伝導度を計測しておき、これが所定値、例えば70mW/m・Kを割った時に、劣化と判定したり、初期値より30%低下した時に劣化と判定したりすることができる。
【0033】
ここで、図3には、改質処理中における上記温度計32,34,36によって計測した温度が示されている。このように、入口ガス温度は、改質期間中大体同じ温度である。触媒温度は、改質期間中若干上昇傾向を示す。そして、出口ガス温度は、改質期間中徐々に上昇する。このように、出口ガス温度が徐々に上昇するのは、触媒に炭素等が付着することによって、触媒が劣化した場合に吸熱反応である水蒸気改質反応が阻害され、発熱反応である部分酸化反応がメインになるからである。
【0034】
従って、触媒の悪化は、出口ガス温度によっても検出することが可能である。そこで、前述した熱伝導度にあわせて、出口ガス温度も検出しておき、いずれか一方または両方が触媒劣化を示した場合に、触媒の劣化、すなわち回復が必要と判定してもよい。
【0035】
「回復の判定」
触媒が劣化した場合には、回復処理を行う。この回復処理は、燃料の供給を停止して、空気の供給のみを行う。これによって、触媒に付着した炭素、炭化水素などが燃焼除去されて触媒が回復する。
【0036】
図3には、回復処理中における上記温度計32,34,36によって計測した温度も示されている。このように、触媒温度は、改質中はあまり変化がないが、回復処理に入ると大きく上昇する。そして、回復の終了の際には、ほぼ上昇前の温度に戻る。これは、回復処理においては触媒に付着した炭素、炭化水素などが燃焼され、その燃焼によって熱が発生し、燃焼するものが無くなった場合に、温度が下がるためである。従って、一旦上がった温度が低下したことをもって、回復の終了を判定することができる。
【0037】
この場合、温度の絶対値が、回復開始時の温度とほぼ同等となった場合としてもよいし、温度低下が所定値となった時、温度低下の傾きが所定以下となった時、ピークからの温度低下が開始からの温度上昇の80%〜95%(例えば、90%)となった時などが採用可能である。例えば、回復開始時の温度をTr0とし、温度Tの変化が+から−に変わったことを確認した後、温度TがTr0+α(数10〜50度程度の余裕)となった場合に回復の終了を判定するとよい。
【0038】
「回復時の温度制御」
図3に示すように、回復処理において、触媒温度はかなりの高温(例えば、1000℃以上)になる。触媒温度があまり高くなるとシンタリング(焼結)が起こり、触媒が劣化する。そこで、本実施形態では、回復処理の際に、触媒温度に応じて水を供給して温度を制御する。すなわち、水ポンプ14を駆動して適切な量の水を混合室24に供給する。水の蒸発潜熱を温度低下に利用することが好適であり、液体の水を別のノズルから混合室24に噴射することが好適であるが、ガスの供給管内において、水を混合し混合室24に至る前のガスの温度を低下させてもよい。なお、空気量を絞ることによっても温度の上昇を抑えることができるので、空気量の調整もあわせて行う。
【0039】
これによって、図3に破線で示すように、回復処理における最高温度を900℃程度に抑えることができ、触媒のシンタリングを防止できる。この場合、回復処理に掛かる時間が長くなるが、触媒温度の低下により回復処理の終了を判定すれば問題はない。
【0040】
「処理フロー」
図4には、制御部42における改質、回復処理についての処理フローの一例が示されている。
【0041】
まず、改質が必要な運転状態か否かを判定する(S11)。これは、エンジン出力トルク指令を監視し、これが所定以上かを判定することなど、オクタン価の高い燃料を使用すべきかの判定によって行う。このS11の判定においてYESの場合には、改質の際の燃料、空気、水の流量、各部温度などの改質処理の条件を設定する(S12)。そして、設定された条件で改質部20を制御して、改質処理を行う(S13)。
【0042】
この改質処理の際に、熱伝導度計40により検出した出口ガス熱伝導度の低下と、温度計36で検出した出口ガス温度上昇に応じて、触媒の劣化を検出する(S14)。このS14の判定でNOであれば、S12に戻り、改質処理を続行する。
【0043】
S14の判定でYESであれば、回復処理に入り、回復処理条件の決定(S15)に移行する。ここで、S11の判定でNOの場合には、回復処理が必要かを判定し(S16)、この判定でYESの場合には、S15に移行する。なお、S16では、その前の改質処理における熱伝導度の状態などから、触媒劣化の程度を検出しておき、回復処理の意味があるかを判定する。従って、S16により回復が必要と判断された場合、回復処理の時間は通常より短く、回復処理における触媒温度上昇も少なくなる。ナビゲーション装置により経路設定がなされている場合や、走行道路の状況などから、この先エンジンに高出力が求められる可能性が低いかも回復処理を行うかの判定の基準に加えてもよい。
【0044】
S15においては、回復処理を行う際の燃料量、空気量、触媒温度などの条件が決定される。そして、燃料の噴射を停止し(S17)、回復処理を開始する。この回復処理中は、空気量の調整や、水量の調整を行い(S18)、これによって触媒温度が上限温度(例えば1000℃)以上にならないように制御する。そして、出口ガス温度が所定の低下を示したかを判定する(S19)。S19の判定でNOの場合には、S15に戻り、回復処理を継続する。なお、S19の判定は、熱伝導度が所定の低下を示したことで検出して行ってもよい。
【0045】
S19の判定でYES、またはS16の判定でNOの場合には、この改質・回復の処理を終了する。
【0046】
このような処理によって、改質処理、回復処理を適切に制御することができる。ここで、定期点検の際には、S15〜S19の回復処理を行うことが好適である。また、走行距離が所定距離に達した場合も同様である。
【符号の説明】
【0047】
10 燃料ポンプ、12 空気ポンプ、14 水ポンプ、20 改質部、22 噴射ノズル、24 混合室、26 触媒室、28 配管、30 バイパス管、32,34,36,38 温度計、40 熱伝導度計、42 制御部、44 保温ヒータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質触媒が収容され、燃料および空気を受け入れて、燃料について部分酸化反応および水蒸気改質反応を生起させて、燃料改質を行う燃料改質手段と、
燃料改質手段から排出される改質ガスの熱伝導度を検出する熱伝導度検出手段と、
前記熱伝導度検出手段において検出した改質ガスの熱伝導度が所定の低下を示した場合に触媒の劣化を検出する触媒劣化検出手段と、
を有し、
触媒が劣化した場合に、前記燃料改質手段における燃料の改質を停止することを特徴とする燃料改質装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料改質装置において、
さらに、
前記燃料改質手段の触媒の温度を検出する温度検出手段と、
前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、
前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記温度検出手段により検出した触媒温度について所定の低下を検出した際に触媒の回復処理の完了を検出する回復検出手段と、
を有し、
触媒が回復したことで、触媒の回復処理を終了することを特徴とする燃料改質装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料改質装置において、
さらに、
前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、
前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記熱伝導度検出手段により検出した熱伝導度について所定の低下を検出した際に触媒の回復処理の完了を検出する回復検出手段と、
を有し、
触媒が回復したことで、触媒の回復処理を終了することを特徴とする燃料改質装置。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料改質装置において、
さらに、
前記燃料改質手段に水を供給する水供給手段を有し、
前記燃料改質手段の触媒の温度を検出する温度検出手段と、
前記触媒劣化検出手段において、触媒の劣化を検出した際に、前記燃料改質手段への前記燃料の供給を停止し、触媒に付着している燃料およびその組成物を燃焼させて、触媒の回復処理を行う触媒回復手段と、
を有し、
前記触媒回復手段により触媒の回復処理を行っている際に、前記温度検出手段により検出した触媒温度が所定の高温に至った場合、前記水供給手段の水供給量を増加させることを特徴とする燃料改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−189028(P2012−189028A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54383(P2011−54383)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】