説明

燃料状態推定装置

【課題】メイン通路から分岐する分岐通路に設けられた燃圧センサおよび燃温センサの検出値に基づいて、メイン通路内の燃料温度または燃料の性状を推定する燃料状態推定装置を提供する。
【解決手段】燃圧センサにより検出された燃圧波形P0から、メイン通路内を伝播する圧力の振動に起因したメイン波形成分WLと、分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した分岐波形成分WSとを抽出する。そして、両波形成分WL,WSに基づき、各々の伝播速度CL,CSを算出する。そして、燃温センサの検出値(分岐通路内温度TS)、分岐伝播速度CS、メイン伝播速度CLおよび前記燃圧波形P0の平均圧力P0aveに基づき、メイン通路内温度TLを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁から噴射する燃料の温度や燃料の性状を推定する燃料状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜5等には、燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力を燃圧センサで検出することで、燃料噴射に伴い生じた圧力の変化(燃圧波形)を検出し、その燃圧波形に基づき燃料の噴射状態を算出する発明が開示されている。例えば、燃料の噴射開始に伴い燃圧波形は圧力降下を開始するので、その圧力降下開始時期を検出すれば、燃料の噴射開始時期(噴射状態)を算出することができる。これによれば、算出した噴射状態に基づき燃料噴射弁の作動をフィードバック制御することで、噴射状態が所望の状態になるように高精度で噴射制御できる。
【0003】
特許文献1〜5記載の燃料噴射弁のボデーには、コモンレール(蓄圧容器)から分配されてくる燃料の供給口、燃料を噴射する噴孔、供給口から噴孔に至るまでの燃料の通路(メイン通路)、およびメイン通路から分岐する分岐通路が形成されている。そして、先述した燃圧センサは分岐通路内の燃圧を検出するように配置されている。したがって、例えば噴孔からの燃料噴射を開始させると、メイン通路のうち噴孔近傍部分で燃圧が低下し、その燃圧変化がメイン通路および分岐通路を伝播して燃圧センサに達し、燃圧センサはその伝播された燃圧変化を燃圧波形として検出することとなる。
【0004】
しかし、燃料の温度が変化すると、メイン通路内および分岐通路内を燃圧変化が伝播していく速度(伝播速度)が変化するため、燃圧波形と噴射状態との相関が変化する。例えば、噴射開始時期から先述した圧力降下開始時期までの遅れ時間は、燃温変化に伴い変化する。
【0005】
そこで、特許文献1〜5記載の燃料噴射弁では、分岐通路内の燃料の温度を検出する燃温センサを搭載している。そして、燃温センサで検出した燃料温度に応じて、燃圧波形から算出した噴射状態を補正することで、噴射状態を精度よく算出することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−285887号公報
【特許文献2】特開2010−285889号公報
【特許文献3】特開2010−286280号公報
【特許文献4】特開2011−1842号公報
【特許文献5】特開2011−1915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、メイン通路のうち噴孔の近傍部分における燃料は、内燃機関の熱を受けて高温になっている。そのため、燃温センサにより検出される分岐通路内の燃料温度と、噴孔近傍部分の燃料温度とに乖離が生じる。したがって、メイン通路内の燃料温度(燃料状態)を燃温センサは高精度で検出しているとは言えず、燃温センサで検出した燃料温度に基づいて燃圧波形から算出した噴射状態を補正すると、温度の乖離が生じている場合には前記補正の精度が悪くなってしまい、噴射状態を精度よく算出できなくなる。
【0008】
さらに、燃料の種類(性状)が変化することによっても、通路内を燃圧変化が伝播していく伝播速度は変化する。そのため、想定していた性状と異なる性状の燃料を給油した場合にも、燃圧波形と噴射状態との相関が変化してしまい、噴射状態を精度よく算出できなくなる。なお、燃料の性状を検出する専用の性状センサを搭載させることは、大幅なコストアップを招くため望ましくない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、メイン通路から分岐する分岐通路に設けられた燃圧センサおよび燃温センサの検出値に基づいて、メイン通路内の燃料温度や燃料性状を推定する燃料状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0011】
請求項1記載の発明では、内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、燃料を蓄圧して前記燃料噴射弁へ供給する蓄圧容器と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでのメイン通路から分岐する分岐通路に設けられ、前記分岐通路内の燃料の圧力を検出する燃圧センサと、前記分岐通路内の燃料の温度を検出する燃温センサと、を備える燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0012】
そして、前記燃圧センサにより検出された圧力の変化を表した燃圧波形を取得する燃圧波形取得手段と、前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記メイン通路内を伝播する圧力の振動に起因したメイン波形成分を前記燃圧波形から抽出するメイン波形抽出手段と、前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した分岐波形成分を前記燃圧波形から抽出する分岐波形抽出手段と、前記分岐波形成分に基づき、前記分岐通路内の圧力伝播速度である分岐伝播速度を算出する分岐伝播速度算出手段と、前記メイン波形成分に基づき、前記メイン通路内の圧力伝播速度であるメイン伝播速度を算出するメイン伝播速度算出手段と、前記燃圧波形に基づき、前記燃料噴射弁へ供給される燃料の平均圧力を算出する平均圧力算出手段と、前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、前記メイン伝播速度および前記平均圧力に基づき、前記メイン通路内の温度を推定するメイン温度推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明者らが得た知見を、図6等を用いて以下に説明する。図6は、蓄圧容器(コモンレール42)の吐出口42aから燃料噴射弁の噴孔11bに至るまでのメイン通路11a,42b、および分岐通路15をモデル化した模式図であり、メイン通路11a,42bは、燃料噴射弁内部に形成されている高圧通路11aと、燃料噴射弁と蓄圧容器とを接続する高圧配管42b内の通路とから構成されている。
【0014】
そして、メイン通路内を伝播していく圧力変化の脈動は、流量が制限される箇所である吐出口42aと噴孔11bとで反射を繰り返す。そのため、メイン通路内を振動する波形成分(メイン波形成分WL(図7(a)参照))は、メイン通路内の燃料温度TLやメイン通路長LL等に起因した周波数FLの波形となる。
【0015】
一方、分岐通路内を伝播していく圧力変化の脈動は、分岐通路15の流入口(分岐口15a)と分岐通路15の最下流部15bとで反射を繰り返す。そのため、分岐通路内を振動する波形成分(分岐波形成分WS(図7(b)参照))は、分岐通路内の燃料温度TSや分岐通路長LS等に起因した周波数FSの波形となる。
【0016】
さらに、袋小路となっている分岐通路内の燃料には、メイン波形成分WLの加振力が分岐口15aから伝達される。そのため、分岐通路内の燃料は、分岐波形成分WSとメイン波形成分WLとが重畳した波形で振動することとなる。したがって、燃圧センサ22で検出される燃圧波形には、これらの分岐波形成分WSとメイン波形成分WLとが含まれることとなる。
【0017】
ここで、燃料の体積弾性係数Eおよび燃料の密度ρは、燃料の性状に起因して特定される物理量であり、これら体積弾性係数Eと密度ρの比率E/ρは、通路内の圧力伝播速度、通路内の圧力、および燃料温度をパラメータとして理論上算出できる。つまり、これらのパラメータを取得できれば、燃料の性状を特定することができる。
【0018】
そして、分岐通路内の状態について言えば、分岐通路内の燃料温度TSは燃温センサ23により取得でき、分岐通路内の伝播速度(分岐伝播速度CS)は分岐波形成分WSの周波数FSおよび分岐通路長LSから算出でき、分岐通路内の圧力P0は燃圧波形の平均圧力P0aveで代用できる。したがって、これらのパラメータTS,CS,P0aveに基づけば燃料性状を特定できる。要するに、分岐波形成分WSは、燃温センサ23で検出した温度TSに起因した波形になっているため、分岐波形成分WSから求められる分岐伝播速度CS、検出温度(分岐通路内温度TS)、および平均圧力P0aveに基づけば、燃料性状E/ρを特定できる(図5中の符号54参照)。
【0019】
次に、メイン通路内の状態について言えば、メイン通路内の伝播速度(メイン伝播速度CL)はメイン波形成分WLの周波数FLおよびメイン通路長LLから算出でき、燃料性状E/ρは先述したパラメータP0ave,TS,CSに基づき特定でき、メイン通路内の圧力P0は燃圧波形の平均圧力P0aveで代用できる。したがって、これらのパラメータCL,E/ρ,P0aveに基づけば、メイン通路内の燃料温度TLを算出できる。要するに、メイン波形成分WLは、燃温センサ23で検出した温度TSとは異なるメイン通路内温度TLに起因した波形になっているものの、先述したように分岐伝播速度CSや検出温度TS等から燃料性状E/ρを特定できるので、その燃料性状E/ρを用いれば、メイン波形成分WLから求められるメイン伝播速度CL、および平均圧力P0aveに基づきメイン通路内温度TLを算出できる(図5中の符号55参照)。
【0020】
以上により、結局、燃温センサにより検出された分岐通路内の温度TS、分岐伝播速度CS、メイン伝播速度CLおよび平均圧力P0aveを取得できれば、これらの値TS,CS,CL,P0aveをパラメータとしてメイン通路内の温度TLを算出(推定)できると言える(図15中の符号56および図5中の符号55参照)。
【0021】
上記発明は、以上に説明した知見に鑑みて想起されたものであり、要するに、分岐波形成分WSおよびメイン波形成分WLを燃圧波形から抽出し、抽出したこれらの波形成分から分岐伝播速度CSおよびメイン伝播速度CLを算出し、燃温センサにより検出された温度TS、分岐伝播速度CS、メイン伝播速度CLおよび平均圧力P0aveに基づき、メイン通路内の温度TLを推定する。そのため、燃料の性状を検出する専用のセンサを必要とすることなく、メイン通路の温度TL(燃料状態)を推定できる。
【0022】
請求項2記載の発明では、前記メイン温度推定手段は、前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、および前記平均圧力に基づき、燃料の性状を推定する性状推定手段を有しており、前記性状推定手段により推定された燃料性状、前記メイン伝播速度および前記平均圧力に基づき、前記メイン通路内の温度を算出することを特徴とする。
【0023】
燃温センサによる検出温度TS、分岐伝播速度CSおよび平均圧力P0aveに基づけば、燃料性状E/ρを推定できることは先述した通りである。この点を鑑みた上記発明では、これらの値TS,CS,P0aveに基づき燃料性状E/ρを推定する性状推定手段を有する。そのため、メイン通路内温度TLの算出過程で燃料性状E/ρを推定するので、メイン通路内温度TLのみならず、燃料性状を検出する専用のセンサを必要とすることなく燃料性状E/ρの値も取得できる。
【0024】
よって、例えば燃料性状E/ρの値を用いて燃料噴射弁の作動を制御する等、各種制御に燃料性状E/ρの値を用いることができる。特に、燃料性状が変化するとメイン伝播速度および分岐伝播速度も変化するため、燃圧波形と噴射状態との相関が変化する。よって、上記発明により取得した燃料性状を用いて燃圧波形から噴射状態を推定すれば、その推定精度を向上できる。
【0025】
請求項3記載の発明では、内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、燃料を蓄圧して前記燃料噴射弁へ供給する蓄圧容器と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでのメイン通路から分岐する分岐通路に設けられ、前記分岐通路内の燃料の圧力を検出する燃圧センサと、前記分岐通路内の燃料の温度を検出する燃温センサと、を備える燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0026】
そして、前記燃圧センサにより検出された圧力の変化を表した燃圧波形を取得する燃圧波形取得手段と、前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した分岐波形成分を前記燃圧波形から抽出する分岐波形抽出手段と、前記分岐波形成分に基づき、前記分岐通路内の圧力伝播速度である分岐伝播速度を算出する分岐伝播速度算出手段と、前記燃圧波形に基づき、前記燃料噴射弁へ供給される燃料の平均圧力を算出する平均圧力算出手段と、前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、および前記平均圧力に基づき、燃料の性状を推定する性状推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0027】
燃温センサによる検出温度TS、分岐伝播速度CSおよび平均圧力P0aveに基づけば、燃料性状E/ρを推定できることは先述した通りである。この点を鑑みた上記発明では、これらの値TS,CS,P0aveに基づき燃料性状E/ρを推定する性状推定手段を有するので、燃料性状を検出する専用のセンサを必要とすることなく燃料性状を取得できる。よって、例えば、燃料性状E/ρの値を用いて燃料噴射弁の作動を制御する等、各種制御に燃料性状E/ρの値を用いることができる。
【0028】
特に、燃料性状が変化すると燃圧波形と噴射状態との相関が変化するので、上記発明により取得した燃料性状を用いて燃圧波形から噴射状態を推定すれば、その推定精度を向上できる。
【0029】
請求項4記載の発明では、前記燃料噴射弁は、前記メイン通路の一部および前記噴孔が形成された下流側ボデーと、前記分岐通路が形成された上流側ボデーとを有して構成されており、前記下流側ボデーが前記内燃機関のシリンダヘッドに挿入配置されているのに対し、前記上流側ボデーは前記シリンダヘッドの外部に位置していることを特徴とする。
【0030】
このように、分岐通路が形成された上流側ボデーがシリンダヘッドの外部に位置している場合には、燃温センサによる検出温度TSとメイン通路内温度TLとの乖離が大きくなっている。そのため、燃圧波形から算出した噴射状態を検出温度TSに基づいて補正すると前記補正の精度が悪くなる、といった課題が顕著となる。したがって、メイン温度推定手段によりメイン通路内温度TLを推定できる、といった先述の効果が好適に発揮される。
【0031】
請求項5記載の発明では、前記分岐波形抽出手段は、前記燃圧波形取得手段により取得された燃圧波形のうち、燃料の噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間における燃圧波形の中から前記抽出を実施することを特徴とする。
【0032】
ここで、燃料の噴射期間中に検出した燃圧波形には、噴射に伴い生じた波形成分(噴射波形成分)が含まれているので、このような噴射期間中の燃圧波形から抽出した分岐波形成分に基づき分岐伝播速度を算出しようとすると、その算出精度が悪くなる。この点を鑑みた上記発明によれば、燃料噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間における燃圧波形から分岐波形成分を抽出するので、噴射波形成分が含まれていない燃圧波形から抽出することとなり、分岐伝播速度の算出精度悪化を抑制できる。
【0033】
また、燃料噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間であれば、メイン通路および分岐通路内を伝播する圧力の振動強度が大きくなっているので、分岐波形成分の抽出精度を向上でき、分岐伝播速度の算出精度を向上できる。
【0034】
請求項6記載の発明では、前記燃料噴射弁には、前記内燃機関の第1気筒に備えられた第1燃料噴射弁、および第2気筒に備えられた第2燃料噴射弁があり、前記燃圧センサには、前記第1燃料噴射弁に対して設けられた第1燃圧センサ、および前記第2燃料噴射弁に対して設けられた第2燃圧センサがあり、前記第1燃料噴射弁での燃料噴射時に前記第1燃圧センサにより検出される燃圧波形を噴射気筒波形とし、前記第1燃料噴射弁での燃料噴射時に前記第2燃圧センサにより検出される燃圧波形を非噴射気筒波形とした場合において、前記分岐波形抽出手段は、前記噴射気筒波形から前記非噴射気筒波形を差し引いて得られた燃圧波形を用いて、前記抽出を実施することを特徴とする。
【0035】
ここで、噴射気筒波形には、メイン通路および分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した成分の他にも、各種成分(例えば燃料ポンプから蓄圧容器へ燃料を圧送したことにより圧力が上昇していくポンプ圧送成分)が重畳している。ただし、このようなポンプ圧送成分は、噴射気筒波形および非噴射気筒波形にも同様に重畳するものであるため、噴射気筒波形から非噴射気筒波形を差し引けば、ポンプ圧送成分等の各種成分が除去された燃圧波形を取得できる。この点を鑑みた上記発明では、噴射気筒波形から非噴射気筒波形を差し引いて得られた燃圧波形から、分岐波形成分を抽出するので、その抽出精度を向上でき、ひいては分岐伝播速度の算出精度を向上できる。
【0036】
請求項7記載の発明では、前記分岐波形抽出手段は、特定の周波数帯域の波形成分を抽出するバンドパスフィルタであり、前記燃温センサにより検出された温度および前記平均圧力の少なくとも一方に基づき、前記特定の周波数帯域を可変設定することを特徴とする。
【0037】
図8〜図10の試験結果に示されるように、燃料温度が変化すれば、分岐波形成分の周波数帯域も変化する。また、燃料の圧力によっても分岐波形成分の周波数帯域も変化する。この点を鑑みた上記発明では、燃温センサにより検出された温度および平均圧力の少なくとも一方に基づき、バンドパスフィルタによる特定の周波数帯域を可変設定するので、分岐波形成分を高精度で抽出できるようになる。
【0038】
ちなみに、前記バンドパスフィルタは、デジタル信号に変換された燃圧波形から分岐波形成分を抽出するデジタル式のフィルタであってもよいし、アナログ信号の燃圧波形から分岐波形成分を抽出するアナログ式のフィルタであってもよい。
【0039】
請求項8記載の発明では、前記分岐波形抽出手段は、前記内燃機関の運転状態が特定の運転状態になっている時に取得された燃圧波形を用いて、前記抽出を実施することを特徴とする。
【0040】
これによれば、抽出に用いる燃圧波形は、燃料の温度や圧力が所定範囲内である時に取得したものとなるため、特定の周波数帯域の可変設定範囲を小さくできる。或いは、その可変設定を不要にできる。よって、分岐波形抽出手段のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料状態推定装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図である。
【図2】噴射指令信号に対応する噴射率および燃圧の変化を示す図である。
【図3】第1実施形態において、噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図である。
【図4】噴射気筒波形Wa、非噴射気筒波形Wu、噴射波形Wbを示す図である。
【図5】図3に示す燃料状態推定装置を示すブロック図である。
【図6】図1に示すメイン通路および分岐通路をモデル化した模式図である。
【図7】図5に示すフィルタにより抽出された、メイン波形成分WLおよび分岐波形成分WSを示す図である。
【図8】本発明者らが実施した試験結果を示す図である。
【図9】本発明者らが実施した試験結果を示す図である。
【図10】本発明者らが実施した試験結果を示す図である。
【図11】第1実施形態において、燃料性状E/ρの算出に用いるマップを示す図である。
【図12】第1実施形態において、高圧通路内温度TLの算出に用いるマップを示す図である。
【図13】第1実施形態において、燃料性状E/ρの算出処理手順を示すフローチャートである。
【図14】第1実施形態において、高圧通路内温度TLの算出処理手順を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第2実施形態にかかる燃料状態推定装置を示すブロック図である。
【図16】本発明の第3実施形態において、燃料状態推定装置が適用される燃料噴射弁の各種変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する燃料状態推定装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0043】
(第1実施形態)
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載されたセンサ装置20、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を示す模式図である。
【0044】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。燃料タンク40内の燃料は、燃料ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して燃料は圧送される。
【0045】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
【0046】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13へ通電して制御弁14を図1の下方へ押し下げ作動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力は低下する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が低下して弁体12はリフトアップ(開弁作動)する。一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方へ作動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力は上昇する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁作動)する。
【0047】
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、弁体12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。
【0048】
高圧通路11aには、インジェクタボデー4の反噴孔側に分岐する分岐通路15が形成されている。この分岐通路15により、高圧通路11a内の燃料はセンサ装置20に導入される。なお、コモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料通路が「メイン通路」に相当する。具体的には、コモンレール42と燃料噴射弁10とを接続する高圧配管42b内の通路、およびボデー11内部に形成された高圧通路11aがメイン通路に相当する。
【0049】
また、ボデー11の噴孔側部分は、エンジンのシリンダヘッドE1に形成された挿入穴E2に挿入配置されており、噴孔11bが燃焼室に露出するように配置されている。ボデー11のうちシリンダヘッドE1に挿入されている部分が「下流側ボデー」に相当し、ボデー11のうちシリンダヘッドE1の外部に位置する部分が「上流側ボデー」に相当する。そして、分岐通路15は上流側ボデーの部分に位置している。
【0050】
センサ装置20は、各々の燃料噴射弁10に搭載されており、以下に説明するステム21(起歪体)、燃圧センサ22、燃温センサ23及びモールドIC24等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子により構成される燃圧センサ22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号をECU30へ出力する。
【0051】
また、ダイヤフラム部21aには、温度センサ素子により構成される燃温センサ23が取り付けられている。この燃温センサ23により検出された温度は、分岐通路内の燃料の温度とみなすことができる。つまり、センサ装置20は燃温センサの機能を備えていると言える。
【0052】
モールドIC24は、燃圧センサ22や燃温センサ23から出力された検出信号を増幅する増幅回路や、検出信号を送信する送信回路等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。モールドIC24はECU30と電気接続されており、増幅された検出信号はECU30に送信される。
【0053】
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tq(図2(a)参照)を、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき設定し、燃料噴射弁10へ出力することで燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0054】
また、燃圧センサ22の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(図2(c)参照)として検出し、検出した燃圧波形に基づき、燃料の単位時間当たりの噴射量変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)を演算して噴射状態を検出する。そして、検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータRα,Rβ,Rmaxを学習するとともに、噴射指令信号(パルスオン時期t1、パルスオフ時期t2及びパルスオン期間Tq)と噴射状態との相関関係を特定する噴射率パラメータtd,teを学習する。
【0055】
具体的には、燃圧波形のうち、噴射開始に伴い燃圧降下を開始する変曲点P1から降下が終了する変曲点P2までの降下波形を、最小二乗法等により直線に近似した降下近似直線Lαを算出する。そして、降下近似直線Lαのうち基準値Bαとなる時期(LαとBαの交点時期LBα)を算出する。この交点時期LBαと噴射開始時期R1とは相関が高いことに着目し、交点時期LBαに基づき噴射開始時期R1を算出する。例えば、交点時期LBαよりも所定の遅れ時間Cαだけ前の時期を噴射開始時期R1として算出すればよい。
【0056】
また、燃圧波形のうち、噴射終了に伴い燃圧上昇を開始する変曲点P3から降下が終了する変曲点P5までの上昇波形を、最小二乗法等により直線に近似した上昇近似直線Lβを算出する。そして、上昇近似直線Lβのうち基準値Bβとなる時期(LβとBβの交点時期LBβ)を算出する。この交点時期LBβと噴射終了時期R4とは相関が高いことに着目し、交点時期LBβに基づき噴射終了時期R4を算出する。例えば、交点時期LBβよりも所定の遅れ時間Cβだけ前の時期を噴射終了時期R4として算出すればよい。
【0057】
次に、降下近似直線Lαの傾きと噴射率増加の傾きとは相関が高いことに着目し、図2(b)に示す噴射率波形のうち噴射増加を示す直線Rαの傾きを、降下近似直線Lαの傾きに基づき算出する。例えば、Lαの傾きに所定の係数Cα1を掛けてRαの傾きを算出すればよい。同様にして、上昇近似直線Lβの傾きと噴射率減少の傾きとは相関が高いので、噴射率波形のうち噴射減少を示す直線Rβの傾きを、上昇近似直線Lβの傾きに所定の係数Cβ2を掛けて算出する。
【0058】
次に、噴射率波形の直線Rα,Rβに基づき、噴射終了を指令したことに伴い弁体12がリフトダウンを開始する時期(閉弁作動開始時期R23)を算出する。具体的には、両直線Rα,Rβの交点を算出し、その交点時期を閉弁作動開始時期R23として算出する。また、噴射開始時期R1の噴射開始指令時期t1に対する遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)を算出する。また、閉弁作動開始時期R23の噴射終了指令時期t2に対する遅れ時間(噴射終了遅れ時間te)を算出する。
【0059】
また、降下近似直線Lα及び上昇近似直線Lβの交点に対応した圧力を交点圧力Pαβとして算出し、後に詳述する基準圧力Pbaseと交点圧力Pαβとの圧力差ΔPγを算出し、この圧力差ΔPγと最大噴射率Rmaxとは相関が高いことに着目し、圧力差ΔPγに基づき最大噴射率Rmaxを算出する。
【0060】
具体的には、圧力差ΔPγに相関係数Cγを掛けることで最大噴射率Rmaxを算出する。但し、圧力差ΔPγが所定値ΔPγth未満である小噴射の場合には、上述の如くRmax=ΔPγ×Cγとする一方で、ΔPγ≧ΔPγthである大噴射の場合には、予め設定しておいた値(設定値Rγ)を最大噴射率Rmaxとして算出する。また、燃圧波形のうち、噴射開始に伴い燃圧が降下を開始するまでの期間に対応する部分の波形(基準波形)に基づき、その基準波形の平均燃圧を基準圧力Pbaseとして算出する。
【0061】
なお、上記「小噴射」とは、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させる場合の噴射であり、噴射率波形は三角形となる(図2(b)中の点線参照)。一方、上記「大噴射」とは、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した以降も開弁状態を継続させる場合の噴射であり、噴射率波形は台形となる(図2(b)中の実線参照)。
【0062】
大噴射時の最大噴射率Rmaxである上記設定値Rγは、燃料噴射弁10の経年変化に伴い変化していく。例えば、噴孔11bにデポジット等の異物が堆積して噴射量が減少するといった経年劣化が進行すると、図2(c)に示す圧力降下量ΔPは小さくなっていく。なお、圧力降下量ΔPとは、噴射率上昇に伴い生じた検出圧力の降下量のことであり、例えば、基準圧力Pbaseから変曲点P2までの圧力降下量、又は、変曲点P1から変曲点P2までの圧力降下量のことである。
【0063】
そこで本実施形態では、大噴射時の最大噴射率Rmax(設定値Rγ)と圧力降下量ΔPとは相関が高いことに着目し、圧力降下量ΔPの検出結果から設定値Rγを算出して学習する。つまり、大噴射時における最大噴射率Rmaxの学習値は、圧力降下量ΔPに基づく設定値Rγの学習値に相当する。
【0064】
以上により、燃圧波形から噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出することができる。そして、これらの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの学習値に基づき、噴射指令信号(図2(a)参照)に対応した噴射率波形(図2(b)参照)を算出することができる。なお、このように算出した噴射率波形の面積(図2(b)中の網点ハッチ参照)は噴射量に相当するので、噴射率パラメータに基づき噴射量を算出することもできる。
【0065】
図3は、これら噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図であり、ECU30により機能する各手段31,32,33,34について以下に説明する。噴射率パラメータ算出手段31は、燃圧センサ22により検出された燃圧波形に基づき、図2を用いて先述したように噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0066】
ここで、燃料の性状や燃料の温度が変化すれば、燃圧波形と噴射率波形(噴射状態)との相関が変化する。具体的には、先述した所定の遅れ時間Cα,Cβや係数Cα1,Cβ2、相関係数Cγが変化する。そこで、後に詳述する燃料状態推定装置50は、燃圧センサ22による検出圧力および燃温センサ23による検出温度に基づいて、燃料性状および燃料温度(燃料状態)を推定する。そして、噴射率パラメータ算出手段31は、燃料状態推定装置50により推定した燃料性状および燃料温度に基づいて、各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,Cγを補正した上で、噴射率パラメータを算出している。
【0067】
学習手段32は、算出した噴射率パラメータをECU30のメモリに記憶更新して学習する。なお、噴射率パラメータは、その時の供給燃圧(コモンレール42内の圧力)に応じて異なる値となるため、供給燃圧又は基準圧力Pbase(図2(c)参照)と関連付けて学習させることが望ましい。図3の例では、燃圧に対応する噴射率パラメータの値を噴射率パラメータマップMに記憶させている。
【0068】
設定手段33(制御手段)は、現状の燃圧に対応する噴射率パラメータ(学習値)を、噴射率パラメータマップMから取得する。そして、取得した噴射率パラメータに基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tqを設定する。そして、このように設定した噴射指令信号にしたがって燃料噴射弁10を作動させた時の燃圧波形を燃圧センサ22で検出し、検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータ算出手段31は噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0069】
要するに、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(つまり噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax)を検出して学習し、その学習値に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、実際の噴射状態に基づき噴射指令信号がフィードバック制御されることとなり、先述した経年劣化が進行しても、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう燃料噴射状態を高精度で制御できる。特に、実噴射量が目標噴射量となるように、噴射率パラメータに基づき噴射指令期間Tqを設定するようフィードバック制御することで、実噴射量が目標噴射量となるように補償している。
【0070】
以下の説明では、燃料噴射弁10から燃料を噴射させている気筒を噴射気筒(表気筒)、この噴射気筒が燃料を噴射している時に燃料噴射させていない気筒を非噴射気筒(裏気筒)とし、かつ、噴射気筒に対応する燃圧センサ22を噴射時燃圧センサ、非噴射気筒に対応する燃圧センサ22を非噴射時燃圧センサと呼ぶ。なお、噴射時燃圧センサは第1燃圧センサに相当し、非噴射時燃圧センサは第2燃圧センサに相当する。また、噴射気筒の燃料噴射弁10は第1燃料噴射弁に相当し、非噴射気筒の燃料噴射弁10は第2燃料噴射弁に相当する。
【0071】
噴射時燃圧センサにより検出された燃圧波形である噴射気筒波形Wa(図4(a)参照)は、噴射による影響のみを表しているわけではなく、以下に例示する噴射以外の影響で生じた波形成分をも含んでいる。すなわち、燃料タンク40の燃料をコモンレール42へ圧送する燃料ポンプ41がプランジャポンプの如く間欠的に燃料を圧送するものである場合には、燃料噴射中にポンプ圧送が行われると、そのポンプ圧送期間中における噴射気筒波形Waは全体的に圧力が高くなった波形となる。つまり、噴射気筒波形Wa(図4(a)参照)には、噴射による燃圧変化を表した燃圧波形である噴射波形Wb(図4(c)参照)と、ポンプ圧送による燃圧上昇を表した燃圧波形(図4(b)中の実線Wu参照)とが含まれていると言える。
【0072】
また、このようなポンプ圧送が燃料噴射中に行われなかった場合であっても、燃料を噴射した直後は、その噴射分だけ噴射システム内全体の燃圧が低下する。そのため、噴射気筒波形Waは全体的に圧力が低くなった波形となる。つまり、噴射気筒波形Waには、噴射による燃圧変化を表した噴射波形Wbの成分と、噴射システム内全体の燃圧低下を表した燃圧波形(図4(b)中の点線Wu’参照)の成分とが含まれていると言える。
【0073】
そこで本実施形態では、非噴射気筒センサにより検出される非噴射気筒波形Wu(Wu’)はコモンレール内の燃圧(噴射システム内全体の燃圧)の変化を表していることに着目し、噴射気筒センサにより検出された噴射気筒波形Waから、非噴射気筒センサによる非噴射気筒波形Wu(Wu’)を差し引く処理(裏消し処理)を実施して、噴射波形Wbを演算している。なお、図2(c)に示す燃圧波形は噴射波形Wbである。
【0074】
また、多段噴射を実施する場合には、前段噴射にかかる燃圧波形の脈動Wc(図2(c)参照)が燃圧波形Waに重畳する。特に、前段噴射とのインターバルが短い場合には、燃圧波形Waは脈動Wcの影響を大きく受ける。そこで、非噴射気筒波形Wu(Wu’)に加えて脈動Wcを燃圧波形Waから差し引く処理(うねり消し処理)を実施して、噴射波形Wbを算出することが望ましい。
【0075】
次に、図3にて先述した燃料状態推定装置50について、図5を用いて詳細に説明する。この推定装置50は、ECU30に備えられた各種の入力処理回路、出力処理回路、マイクロコンピュータ等から構成されており、図5は推定装置50の機能ブロック図である。
【0076】
推定装置50は、燃圧センサ22により検出された燃圧波形P0を取得する。ここで取得する燃圧波形P0は、先述した裏消し処理(噴射気筒波形Wa−非噴射気筒波形Wu)や、うねり消し処理(噴射気筒波形Wa−脈動Wc)を実施して得られた噴射波形Wb(図4(c)参照)であることが望ましい。また、噴射波形Wbのうち、燃料の噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間における燃圧波形、つまり変曲点P5以降の期間における波形であることが望ましい。例えば、先述したうねり消し処理で用いる脈動Wc(図2(c)参照)を燃圧波形P0として用いればよい。なお、このように燃圧波形P0を取得するよう機能しているときのECU30は、「燃圧波形取得手段」に相当する。
【0077】
図6は、コモンレール42の吐出口42aから燃料噴射弁の噴孔11bに至るまでのメイン通路11a,42b、および分岐通路15をモデル化した模式図である。ちなみに、高圧配管42b内の通路の直径は、高圧通路11aの直径よりも大きい。
【0078】
この模式図に示す全通路のうち、噴孔11b、分岐口15aおよび吐出口42aの箇所が、圧力振動が伝播されにくい箇所であり、伝播してきた圧力振動の多くがこれらの箇所で反射する。そのため、先に説明したメイン波形成分WL(図7(a)参照)は、メイン通路11aの通路長LLおよび通路容積等に起因した振動周期CycleL(=1/周波数FL)で振動する波形となる。また、先に説明した分岐波形成分WS(図7(b)参照)は、分岐通路15の通路長LSおよび通路容積等に起因した振動周期CycleS(=1/周波数FS)で振動する波形となる。但し、燃料温度や燃料性状が変化すると、これらの周波数FL,FSも変化する。
【0079】
なお、噴孔11b、分岐口15aおよび吐出口42aの他にも、例えば高圧配管42bと燃料噴射弁10との接続部等の箇所において、伝播してきた圧力振動が反射する。したがって、上述したメイン波形成分WLおよび分岐波形成分WSの他にも、種々の波形成分が通路内では発生している。しかし、種々の波形成分のうち、メイン波形成分WLおよび分岐波形成分WSが主要な波形成分であると言える。
【0080】
さらに、袋小路となっている分岐通路内の燃料には、メイン波形成分WLの加振力が分岐口15aから伝達される。そのため、分岐通路内の燃料は、分岐波形成分WSとメイン波形成分WLとが重畳した波形で振動することとなる。したがって、取得した燃圧波形P0には、これらの分岐波形成分WSとメイン波形成分WLとが含まれることとなる。
【0081】
図5の説明に戻り、推定装置50は、取得した燃圧波形P0からメイン波形成分WLを抽出するローパスフィルタ51(メイン波形抽出手段)と、取得した燃圧波形P0から分岐波形成分WSを抽出するバンドパスフィルタ52(分岐波形抽出手段)とを有している。これらのフィルタ51,52は、デジタル信号に変換された燃圧波形P0から波形成分WL,WSを抽出するデジタル式のフィルタである。
【0082】
図8は、燃圧波形P0の強度(圧力)の周波数分布を示した試験結果である。メイン波形成分WLに起因するピーク強度PeakLは、図中の符号F1以下の周波数領域に現れる。分岐波形成分WSに起因するピーク強度PeakSは、図中の符号F2〜F3の周波数帯に現れる。したがって、ローパスフィルタ51のフィルタリング周波数は、この試験結果から得られる周波数F1(例えば1000Hz)に設定すればよい。また、バンドパスフィルタ52のフィルタリング周波数帯は、この試験結果から得られるF2〜F3の周波数帯(例えば6000Hz〜7500Hz)に設定すればよい。
【0083】
ちなみに、メイン通路内では、メイン波形成分WLの振動にともない、メイン波形成分WLの周波数を基本波とした高次波の波形成分の振動も生じている。したがって、図8中に現れるピーク強度Peak1,Peak2は、前記高次波の波形成分に起因するものである。
【0084】
図5の説明に戻り、推定装置50は、抽出したメイン波形成分WLに基づき、メイン通路内の圧力伝播速度であるメイン伝播速度CLを算出するメイン伝播速度算出手段51aを有している。例えば、抽出したメイン波形成分WLの振動周期CycleLを算出し、その振動周期CycleLから周波数FLを算出し(FL=1/CycleL)、その周波数FLに所定の係数KLを乗算してメイン伝播速度CLを算出すればよい。前記係数KLは、メイン通路長LLやその通路容積に基づき決定されるものである。
【0085】
また、推定装置50は、抽出した分岐波形成分WSに基づき、分岐通路内の圧力伝播速度である分岐伝播速度CSを算出する分岐伝播速度算出手段52aを有している。例えば、抽出した分岐波形成分WSの振動周期CycleSを算出し、その振動周期CycleSから周波数FSを算出し(FS=1/CycleS)、その周波数FSに所定の係数KSを乗算して分岐伝播速度CSを算出すればよい。前記係数KSは、分岐通路長LSやその通路容積に基づき決定されるものである。
【0086】
推定装置50は、取得した燃圧波形P0の平均圧力P0aveを算出する平均圧力算出手段53。例えば、燃圧波形P0を形成する複数の圧力サンプリング値の平均値を平均圧力P0aveとすればよい。
【0087】
ここで、ボデー11のうち、シリンダヘッドE1に挿入されている下流側ボデーは、シリンダヘッドE1や燃焼室からの受熱により高温になっているのに対し、シリンダヘッドE1の外部に位置して分岐通路15を形成する上流側ボデーは、下流側ボデーに比べて低温になっている。そのため、分岐通路内の燃料は高圧通路内の燃料に比べて低温になっている。しかも、分岐通路15は袋小路の形状であるため高圧通路内の燃料が分岐通路15に流入する量は少ないので、分岐通路内の燃料と高圧通路内の燃料とでは温度の乖離が大きくなっている。
【0088】
図9(a)(b)は、これらのフィルタ51,52により抽出したメイン波形成分WLおよび分岐波形成分WSに対する、強度(圧力)の周波数分布を示した試験結果である。そして、図8および図9中の実線は、このような温度の乖離を想定して実施した試験の結果であり、分岐通路内温度TS(70℃)をメイン通路内温度TL(30℃)よりも高くした場合の試験結果を示す。一方、図中の点線は、メイン通路内の燃料温度(メイン通路内温度TL)と分岐通路内の燃料温度(分岐通路内温度TS)を同じ温度(30℃)にした場合の試験結果を示す。
【0089】
図示されるように、メイン通路内温度TLを30℃から70℃に上昇させると、分岐波形成分WSに起因するピーク強度PeakSの周波数帯域が変化するのに対し、メイン波形成分WLに起因するピーク強度PeakLの周波数帯域は変化しない、との知見が得られる。
【0090】
図10は、上記知見を裏付ける試験の結果であり、メイン通路内温度TLを一定温度(30℃)に維持させつつ、分岐通路内温度TSを基準温度(70℃)に対して変化させる試験の結果である。図中の横軸は、分岐通路内温度TSの基準温度に対する差分を示し、図中の縦軸は、図8中の6000Hz〜7000Hzの範囲に現れるピーク強度の周波数の変化率を示す。この試験結果によれば、メイン通路内温度TLを変化させた場合に、分岐波形成分WSに起因するピーク強度PeakSの周波数が変化するのに対し、メイン波形成分WLに起因するピーク強度PeakLの周波数帯域は変化しない、といった上記知見が確認される。
【0091】
なお、バンドパスフィルタ52のフィルタリング周波数帯は、図10の試験結果に基づいて、分岐波形成分WSに起因するピーク強度PeakSの周波数が変化する周波数範囲を含むように、F2〜F3の周波数帯を設定することが望ましい。
【0092】
図5の説明に戻り、推定装置50は燃料の性状を算出して推定する性状推定手段54を有しており、この性状推定手段54は、算出した分岐伝播速度CSおよび平均圧力P0aveと、燃温センサ23による検出温度である分岐通路内温度TSとに基づき、図11に示すマップを用いて燃料の性状を算出する。
【0093】
図11のマップ中に示す実線は、平均圧力P0aveと分岐伝播速度CSとの関係を示す特性線であり、この特性線は、燃料の種類(性状)および燃料温度に応じて異なる特性線になる。図11の例では、燃料種の違いによる複数本の特性線を示したマップが、燃料温度毎に設けられている。
【0094】
したがって、性状推定手段54は、先ず、燃温センサ23の検出温度TSに基づき複数のマップの中から該当するマップを選択する。次に、選択したマップにおける、分岐伝播速度CSと平均圧力P0aveとの交点を算出し、その交点に最も近い特性線の燃種(燃料性状)を、使用燃料の種類であると特定する。
【0095】
なお、燃料の体積弾性率Eおよび密度ρは、燃料の種類によって特定される。本実施形態では、体積弾性率Eと密度ρの比率E/ρを、燃料性状を定量的に表す値として用いている。
【0096】
図5の説明に戻り、推定装置50はメイン通路内温度TLを算出して推定するメイン温度推定手段55を有しており、このメイン温度推定手段55は、算出したメイン伝播速度CLおよび平均圧力P0aveと、性状推定手段54により特定した燃料性状E/ρとに基づき、図12に示すマップを用いてメイン通路内温度TLを算出する。
【0097】
図12のマップ中に示す実線は、メイン通路内温度TLとメイン伝播速度CLとの関係を示す特性線であり、この特性線は、平均圧力P0aveおよび燃料性状E/ρに応じて異なる特性線になる。図12の例では、燃料種の違いによる複数本の特性線を示したマップが、燃種毎に設けられている。
【0098】
したがって、メイン温度推定手段55は、先ず、特定した燃料性状E/ρに基づき複数のマップの中から該当するマップを選択する。次に、選択したマップ中に記憶されている複数本の特性線のうち、平均圧力P0aveに該当する特性線を選択する。そして、選択した特性線のうちメイン伝播速度CLに該当する温度を、メイン通路内温度TLであると特定する。
【0099】
以上により、推定装置50は、燃圧センサ22の検出値である燃圧波形P0と、燃温センサ23お検出値である分岐通路内温度TSとに基づいて、燃料性状E/ρとおよびメイン通路内温度TLを燃料状態として推定する。
【0100】
図13は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより実施される、燃料性状の推定手順を示すフローチャートであり、当該処理は、所定周期で繰り返し実行される。
【0101】
先ず、図13に示すステップS10において、バンドパスフィルタ52から分岐波形成分WSを取得する。続くステップS11では、分岐伝播速度算出手段52aによる処理を実施する。つまり、取得した分岐波形成分WSから分岐伝播速度CSを算出する。続くステップS12では、平均圧力算出手段53による処理を実施する。つまり、燃圧波形P0から平均圧力P0aveを算出する。続くステップS13では、燃温センサ23の検出値(分岐通路内温度TS)を取得する。続くステップS14では、性状推定手段54による処理を実施する。つまり、分岐伝播速度CS、平均圧力P0ave、および分岐通路内温度TSに基づき燃料性状E/ρを算出する。
【0102】
図14は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより実施される、メイン通路内温度の推定手順を示すフローチャートであり、当該処理は、所定周期で繰り返し実行される。
【0103】
先ず、図14に示すステップS20において、ローパスフィルタ51からメイン波形成分WLを取得する。続くステップS21では、メイン伝播速度算出手段51aによる処理を実施する。つまり、取得したメイン波形成分WLからメイン伝播速度CLを算出する。続くステップS22では、平均圧力算出手段53による処理を実施する。つまり、燃圧波形P0から平均圧力P0aveを算出する。続くステップS23では、図13の処理で得られた燃料性状E/ρを取得する。続くステップS244では、メイン温度推定手段55による処理を実施する。つまり、メイン伝播速度CL、平均圧力P0ave、および燃料性状E/ρに基づきメイン通路内温度TLを算出する。
【0104】
以上により、本実施形態によれば、燃料状態推定装置50により推定した燃料性状E/ρおよびメイン通路内温度TLに基づいて、各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,Cγを補正した上で、噴射波形Wbから噴射率パラメータを算出する。そのため、想定していた性状と異なる性状の燃料を給油した場合であっても、或いは、燃温センサ23による検出温度(分岐通路内温度TS)とメイン通路内温度TLとの乖離が大きくなっている場合であっても、噴射率パラメータを高精度で算出できる。よって、燃料噴射状態を目標の状態にすることを高精度で実現できる。
【0105】
しかも、本実施形態によれば、燃圧センサ22により検出した燃圧波形P0から、分岐波形成分WSおよびメイン波形成分WLを抽出し、抽出したこれらの波形成分から分岐伝播速度CSおよびメイン伝播速度CLを算出し、これらの速度CS,CL、燃温センサ23の検出値、および燃圧波形P0の平均圧力P0aveに基づいて、燃料性状E/ρおよびメイン通路内温度TLを推定する。そのため、各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,Cγの補正に用いるE/ρ,TLを、専用のセンサを必要とすることなく取得できるので、コストダウンを図ることができる。
【0106】
また、燃料の噴射終了に伴い圧力上昇が終了したP5時点の直後の期間における燃圧波形を、分岐波形成分WSおよびメイン波形成分WLの抽出に用いる燃圧波形P0として用いるので、メイン伝播速度CLおよび分岐伝播速度CSを高精度で算出できる。
【0107】
また、裏消し処理やうねり消し処理が為された燃圧波形を、分岐波形成分WSおよびメイン波形成分WLの抽出に用いる燃圧波形P0として用いるので、メイン伝播速度CLおよび分岐伝播速度CSを高精度で算出できる。
【0108】
(第2実施形態)
上記第1実施形態に係る推定装置50では、図5に示す性状推定手段54およびメイン温度推定手段55を備えており、メイン温度推定手段55は、性状推定手段54により算出された燃料性状E/ρを用いてメイン通路内温度TLを算出している。これに対し、本実施形態に係る推定装置50A(図15参照)では、性状推定手段54を廃止している。
【0109】
より詳細に説明すると、図5の推定装置50では、CS,P0ave,TSをパラメータとして性状推定手段54がE/ρを算出し、メイン温度推定手段55では、CL,P0ave,E/ρをパラメータとしてTLを算出している。このことは、CS,P0ave,TSおよびCLをパラメータとすれば、TLを算出できることを意味する。
【0110】
この点に着目し、図15に示す本実施形態の推定装置50Aが有するメイン温度推定手段56では、メイン伝播速度算出手段51aで算出したメイン伝播速度CL、分岐伝播速度算出手段52aで算出した分岐伝播速度CS、平均圧力算出手段53で算出した平均圧力P0ave、燃温センサ23の検出値(分岐通路内温度TS)に基づき、メイン通路内温度TLを算出する。
【0111】
なお、上記第1実施形態では、図11および図12に示すマップを用いてE/ρ,TLを算出しているが、先述したCS,P0ave,TS,CLをパラメータとしてTLを算出する演算式をマイクロコンピュータのメモリに予め記憶させておき、当該演算式にパラメータCS,P0ave,TS,CLを代入してTLを算出してもよい。或いは、パラメータCS,P0ave,TS,CLとTLとが関連付けされたマップを予め記憶させておき、当該マップを用いてTLを算出してもよい。
【0112】
そして、このように算出したメイン通路内温度TLに基づき各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,Cγを補正する。なお、本実施形態においては、燃料性状を専用のセンサで検出し、その検出値に基づき各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,Cγを補正してもよいし、想定していた性状と大きく異なる性状の燃料が給油される可能性は低い、との設計思想に基づき、燃料性状に基づく上記補正を廃止してもよい。
【0113】
以上により、本実施形態にかかる推定装置50Aでは、性状推定手段54を廃止しつつメイン通路内温度TLの推定を可能にするので、性状推定手段54が実施する演算処理の負荷分を軽減できる。
【0114】
(第3実施形態)
図16(a)は、図1に示す燃料噴射弁10の模式図であるが、本発明の推定装置50,50Aが適用される燃料噴射弁は図16(a)に示すものに限られるものではなく、例えば、図16(b)(c)(d)に示す燃料噴射弁10B,10C,10Dに適用される推定装置であってもよい。以下、本実施形態に係る燃料噴射弁10B,10C,10Dについて、燃料噴射弁10との違いを中心に説明する。
【0115】
(a)に示す燃料噴射弁10の高圧通路11aは、第1通路11a1および第2通路11a2から構成されている。第1通路11a1は、円柱形状のボデー11の軸線方向に延びる形状であり、第2通路11a2は、第1通路11a1と交差する向きに延びる形状である。そして、分岐通路15は第1通路11a1から分岐して延びる形状である。
【0116】
これに対し、(b)(c)に示す燃料噴射弁10B,10Cでは、第1通路11a1および第2通路11a2の接続箇所から分岐通路15が分岐している。そして、燃料噴射弁10Bにおいては、第1通路11a1の延長線上に分岐通路15が位置しており、燃料噴射弁10Cにおいては、第2通路11a2の延長線上に分岐通路15が位置している。
【0117】
また、(d)に示す燃料噴射弁10Dでは、高圧配管42bとの接続がボデー11の反噴孔側の端部に位置しており、ボデー11内部の高圧通路を、軸線方向に延びる形状に形成している。つまり、第2通路11a2が第1通路11a1の延長線上に位置していると言える。そして、高圧通路から分岐する分岐通路15は、ボデー11の径方向に延びる形状に形成されている。
【0118】
要するに、図16(a)〜(d)に例示するいずれの態様であっても、メイン通路11aから分岐する分岐通路15にセンサ装置20が搭載されている燃料噴射弁であれば、本発明にかかる推定装置を適用できる。
【0119】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0120】
・上記各実施形態では、図5および図15に示すバンドパスフィルタ52のフィルタリング周波数帯域(特定の周波数帯域)を、予め実施した試験の結果に基づき設定した値に固定している。これに対し、燃温センサ23の検出温度TSおよび平均圧力P0aveの少なくとも一方に基づき、フィルタリング周波数帯域を可変設定するようにしてもよい。これによれば、温度や圧力の変化に伴いピーク強度PeakSの周波数が変化しても、その変化に応じたフィルタリング周波数帯域で分岐波形成分WSを抽出するので、その抽出精度を向上できる。
【0121】
・上記各実施形態では、図13および図14による推定処理を、エンジン運転期間中に所定周期で繰り返し実施させているが、エンジン運転状態が特定の運転状態(例えばアイドル運転や定常運転)になっている時に取得された燃圧波形P0を用いて、前記推定処理を実施するようにしてもよい。これによれば、温度や圧力が想定値になっている時に燃圧波形P0を取得するので、前記フィルタリング周波数帯域を、前記想定値に応じた帯域に設定しておくことができる。よって、上述の如くフィルタリング周波数帯域を可変設定することを不要にしつつ、分岐波形成分WSの抽出精度を向上できる。
【0122】
・燃料温度はエンジンの運転期間中に大きく変化するが、燃料性状は給油が為されていなければ変化しない。そこで、図13による燃料性状推定処理の演算周期を、図14による温度推定処理の演算周期よりも長くして、演算処理負荷の軽減を図ることが望ましい。
【0123】
・図1に示す燃料噴射弁10では、センサ装置20がシリンダヘッドカバー(図示せず)の外部に位置することを想定しているが、シリンダヘッドカバーの内側にセンサ装置20が位置する場合であっても本発明を適用できる。但し、シリンダヘッドカバーの外側にセンサ装置20が位置する場合の方が、燃温センサ23による検出温度TSとメイン通路内温度TLとの乖離が大きくなっている。そのため、シリンダヘッドカバーの外側にセンサ装置20が位置する場合の方が、各種相関値Cα,Cβ,Cα1,Cβ2,CγをTLに基づき補正することによる本発明の効果が好適に発揮される。
【0124】
・図1に示す燃料噴射弁10では、ボデー11のうちシリンダヘッドE1に挿入されている部分(下流側ボデー)に分岐通路15が位置しているが、シリンダヘッドE1の外部に位置する部分(上流側ボデー)に分岐通路15が位置していてもよい。
【0125】
・図1に示す実施形態では、燃温センサ23および燃圧センサ22を同一の部材(ステム21)に取り付けて一体化させているが、燃温センサ23をステム21以外の部位に取り付けてもよい。
【0126】
・上記各実施形態では、噴射気筒波形Waに基づく燃圧波形を用いて、分岐波形成分WSおよびメイン波形成分WLを抽出しているが、噴射波形Wbに基づく燃圧波形を用いて前記抽出を実施してもよい。
【0127】
・上記各実施形態では、噴射気筒波形Waに基づく噴射波形Wbのうち、噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間における燃圧波形を、前記抽出に用いているが、噴射開始に伴い圧力下降が開始するP1時点の直前の期間における燃圧波形を前記抽出に用いてもよい。
【0128】
・図1に示す上記実施形態では、センサ装置20を燃料噴射弁10に搭載しているが、高圧配管42bに分岐配管を接続し、その分岐配管にセンサ装置を取り付けてもよい。
【0129】
・図5および図15に示すローパスフィルタ51およびバンドパスフィルタ52は、デジタル信号に変換された燃圧波形から分岐波形成分を抽出するデジタル式のフィルタであるが、アナログ信号の燃圧波形から分岐波形成分を抽出するアナログ式のフィルタであってもよい。
【符号の説明】
【0130】
10,10B,10C,10D…燃料噴射弁、11…ボデー(下流側ボデー、上流側ボデー)、11a…高圧通路(メイン通路)、15…分岐通路、22…燃圧センサ、23…燃温センサ、42…コモンレール(蓄圧容器)、30…ECU(燃圧波形取得手段)、42b…高圧配管(メイン通路)、50,50A…燃料状態推定装置、50,50A…燃料状態推定装置、51…ローパスフィルタ(メイン波形抽出手段)、51a…メイン伝播速度算出手段、52…バンドパスフィルタ(分岐波形抽出手段)、52a…分岐伝播速度算出手段、53…平均圧力算出手段、54…性状推定手段、55,56…メイン温度推定手段、E1…シリンダヘッド、CS…分岐伝播速度、CL…メイン伝播速度、WL…メイン波形成分、WS…分岐波形成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、
燃料を蓄圧して前記燃料噴射弁へ供給する蓄圧容器と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでのメイン通路から分岐する分岐通路に設けられ、前記分岐通路内の燃料の圧力を検出する燃圧センサと、
前記分岐通路内の燃料の温度を検出する燃温センサと、
を備える燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサにより検出された圧力の変化を表した燃圧波形を取得する燃圧波形取得手段と、
前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記メイン通路内を伝播する圧力の振動に起因したメイン波形成分を前記燃圧波形から抽出するメイン波形抽出手段と、
前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した分岐波形成分を前記燃圧波形から抽出する分岐波形抽出手段と、
前記分岐波形成分に基づき、前記分岐通路内の圧力伝播速度である分岐伝播速度を算出する分岐伝播速度算出手段と、
前記メイン波形成分に基づき、前記メイン通路内の圧力伝播速度であるメイン伝播速度を算出するメイン伝播速度算出手段と、
前記燃圧波形に基づき、前記燃料噴射弁へ供給される燃料の平均圧力を算出する平均圧力算出手段と、
前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、前記メイン伝播速度および前記平均圧力に基づき、前記メイン通路内の温度を推定するメイン温度推定手段と、
を備えることを特徴とする燃料状態推定装置。
【請求項2】
前記メイン温度推定手段は、
前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、および前記平均圧力に基づき、燃料の性状を推定する性状推定手段を有しており、
前記性状推定手段により推定された燃料性状、前記メイン伝播速度および前記平均圧力に基づき、前記メイン通路内の温度を算出することを特徴とする請求項1に記載の燃料状態推定装置。
【請求項3】
内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、
燃料を蓄圧して前記燃料噴射弁へ供給する蓄圧容器と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでのメイン通路から分岐する分岐通路に設けられ、前記分岐通路内の燃料の圧力を検出する燃圧センサと、
前記分岐通路内の燃料の温度を検出する燃温センサと、
を備える燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサにより検出された圧力の変化を表した燃圧波形を取得する燃圧波形取得手段と、
前記燃圧波形に含まれている波形成分であって、前記分岐通路内を伝播する圧力の振動に起因した分岐波形成分を前記燃圧波形から抽出する分岐波形抽出手段と、
前記分岐波形成分に基づき、前記分岐通路内の圧力伝播速度である分岐伝播速度を算出する分岐伝播速度算出手段と、
前記燃圧波形に基づき、前記燃料噴射弁へ供給される燃料の平均圧力を算出する平均圧力算出手段と、
前記燃温センサにより検出された前記分岐通路内の温度、前記分岐伝播速度、および前記平均圧力に基づき、燃料の性状を推定する性状推定手段と、
を備えることを特徴とする燃料状態推定装置。
【請求項4】
前記燃料噴射弁は、前記メイン通路の一部および前記噴孔が形成された下流側ボデーと、前記分岐通路が形成された上流側ボデーとを有して構成されており、
前記下流側ボデーが前記内燃機関のシリンダヘッドに挿入配置されているのに対し、前記上流側ボデーは前記シリンダヘッドの外部に位置していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料状態推定装置。
【請求項5】
前記分岐波形抽出手段は、前記燃圧波形取得手段により取得された燃圧波形のうち、燃料の噴射終了に伴い圧力上昇が終了した直後の期間における燃圧波形の中から前記抽出を実施することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料状態推定装置。
【請求項6】
前記燃料噴射弁には、前記内燃機関の第1気筒に備えられた第1燃料噴射弁、および第2気筒に備えられた第2燃料噴射弁があり、
前記燃圧センサには、前記第1燃料噴射弁に対して設けられた第1燃圧センサ、および前記第2燃料噴射弁に対して設けられた第2燃圧センサがあり、
前記第1燃料噴射弁での燃料噴射時に前記第1燃圧センサにより検出される燃圧波形を噴射気筒波形とし、前記第1燃料噴射弁での燃料噴射時に前記第2燃圧センサにより検出される燃圧波形を非噴射気筒波形とした場合において、
前記分岐波形抽出手段は、前記噴射気筒波形から前記非噴射気筒波形を差し引いて得られた燃圧波形を用いて、前記抽出を実施することを特徴とする請求項5に記載の燃料状態推定装置。
【請求項7】
前記分岐波形抽出手段は、特定の周波数帯域の波形成分を抽出するバンドパスフィルタであり、前記燃温センサにより検出された温度および前記平均圧力の少なくとも一方に基づき、前記特定の周波数帯域を可変設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料状態推定装置。
【請求項8】
前記分岐波形抽出手段は、前記内燃機関の運転状態が特定の運転状態になっている時に取得された燃圧波形を用いて、前記抽出を実施することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の燃料状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−215157(P2012−215157A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82197(P2011−82197)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】