説明

燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体およびその製法

【課題】柔軟性に優れるとともに、耐燃料透過性にも優れた、燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体を提供する。
【解決手段】下記の(A)〜(D)を必須成分とする熱可塑性エラストマー組成物中の(B)を(D)により動的架橋してなる燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体であって、(A)からなるマトリックス1中に、(B)を主成分とする島構造2と、(C)を主成分とする微粒子3とがそれぞれ分散して分散しており、上記島構造2の平均粒径が0.1μm以上1μm未満の範囲に設定されている。(A)末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂。(B)アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の架橋ゴム。(C)上記(A)中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム。(D)特定の化学構造のフェノール樹脂およびその水酸基が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体およびその製法に関するものであり、詳しくは、自動車等の燃料〔ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、アルコール、水素、軽油、ジメチルエーテル、LPG、CNG等〕の輸送ホース等に用いられる、燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン燃料ホース等の燃料系ホースの材料として、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とポリ塩化ビニル(PVC)とのブレンドゴム(NBR−PVC)が用いられている(特許文献1)。このブレンドゴム(NBR−PVC)は、耐ガソリン透過性や耐オゾン性に優れている。しかし、上記燃料系ホースは、環境負荷物質であるPVCを含んでいることから、ホースを焼却廃棄等する際に塩素化合物の発生が懸念されるとともに、低温性(−30℃程度の極寒地での使用時におけるホースのシール性)にも劣るといった問題もある。
【0003】
一方、上記のようなブレンドゴム等では対処できないレベルの耐ガソリン透過性が要求される場合は、通常、ゴムタイプではなく、ポリアミド樹脂等の樹脂タイプのホースが用いられる。この樹脂タイプのホースとしては、例えば、ポリアミド樹脂をマトリックス(海構造)とし、その中にNBRを島構造として分散させた熱可塑性エラストマー組成物を使用したホースが提案されている(特許文献2)。このホースは、その材料中にPVC等の塩素発生物質を含有しておらず、また、ポリアミド樹脂をマトリックスとしていることから耐ガソリン透過性等に優れるとともに、マトリックス中にNBRを分散させていることから、ある程度の柔軟性を確保することが可能である。しかし、マトリックス中にNBRを分散させるだけでは、耐ガソリン透過性等を確保しつつ、所望の柔軟性を得るには限界があり、未だ改善の余地がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、上記問題を解決するため、特定のポリアミド樹脂マトリックス中に、NBR等の島構造を分散させるとともに、アクリルゴム等の非架橋ゴムを主成分とする微粒子を分散させた熱可塑性エラストマーを提案した(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特許第2932980号公報
【特許文献2】特開2001−49037号公報
【特許文献3】特開2006−77090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3に記載の熱可塑性エラストマーは、硫黄や有機過酸化物を用いて架橋しているため、柔軟性の点で改善の余地があり、柔軟性の高い要求特性に充分に応えられなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、柔軟性に優れるとともに、耐燃料透過性にも優れた、燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(D)を必須成分とし、(B)の重量割合が(A)よりも多い熱可塑性エラストマー組成物中の(B)を(D)により動的架橋してなる燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体であって、(A)からなるマトリックス中に、(B)を主成分とする島構造と、(C)を主成分とする微粒子とがそれぞれ分散しており、上記島構造の平均粒径が0.1μm以上1μm未満の範囲に設定されている燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体を第1の要旨とする。
(A)末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂。
(B)アクリロニトリル−ブタジエンゴム,水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム,ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つの架橋ゴム。
(C)上記(A)中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム。
(D)下記の一般式(1)で表されるフェノール樹脂およびその水酸基が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤。
【0009】
【化1】

【0010】
また、本発明は、上記燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体の製法であって、上記(A)と(C)とを混練し両者を反応させて(C)を主成分とする微粒子を形成した後、これに(B)と(D)とを混合し(B)を(D)により動的架橋する燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体の製法を第2の要旨とする。
【0011】
本発明者らは、発明者自身の出願に係る前記特許文献3の発明内容について、柔軟性等の改良を図るためさらに実験を重ねたところ、従来の硫黄架橋剤や過酸化物架橋剤に代えて、特定のフェノール樹脂系架橋剤を用いて動的架橋させることが極めて有効であることを見いだし本発明に到達した。すなわち、前記一般式(1)で表されるフェノール樹脂およびその水酸基が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤を用いて、NBR等の架橋ゴムを混練しながら動的架橋すると、架橋速度が非常に遅くなるため、架橋ゴムが粉砕されて細かくなりやすい。そのため、特定のポリアミド樹脂からなるマトリックス(海構造:連続相)中に分散している、架橋ゴムを主成分とする島構造(分散相)の表面積が増大し、熱可塑性エラストマー体の柔軟性が向上すると思われる。
【0012】
なお、本発明において動的架橋とは、熱可塑性エラストマー組成物をミキサーやニーダー等の混練機中で混合攪拌する際に行う架橋をいい、通常の金型を用いて行う型架橋と区別して一般に「動的架橋」と呼ばれているものと同義である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、前記一般式(1)で表されるフェノール樹脂およびその水酸基が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤を用いているため、架橋速度が非常に遅くなるとともに、この架橋剤を用いて、NBR等の架橋ゴムを混練しながら動的架橋するため、架橋ゴムが粉砕されて細かくなる(上記架橋ゴムを主成分とする島構造の平均粒径が、0.1μm以上1μm未満の範囲になる)。そのため、特定のポリアミド樹脂からなるマトリックス(海構造:連続相)中に分散しているところの、架橋ゴムを主成分とする島構造(分散相)の表面積が増大し、熱可塑性エラストマー体の柔軟性が向上する。その結果、エンジンやシャーシからの振動伝達に対する吸収性能が向上するとともに、ホース内の液圧変動の吸収性能も向上し、ホースの振動を抑制することができる。また、燃料系ホースをパイプに組み付ける際の挿入性も向上する。また、本発明に係る熱可塑性エラストマー体は、マトリックスが、末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂からなるため、各種ガスや、オイル,ガソリン等の耐燃料透過性に優れるとともに、上記マトリックスに非架橋ゴムが分散されていることから、柔軟性、耐衝撃性、低温性等にも優れている。また、本発明においては、安価でゴム特性に富む架橋ゴム(島構造用成分)の重量割合が、末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂(マトリックス用成分)よりも多いため、低コストで、しかも、圧縮永久歪み特性にも優れている。そのため、この熱可塑性エラストマー体によって形成されるホースは、燃料系ホースとしての用途において優れた性能を発揮することができる。
【0014】
また、上記特定のフェノール樹脂系架橋剤の配合量が、前記特定の範囲であると、柔軟性がさらに向上する。
【0015】
また、上記ポリアミド樹脂と架橋ゴムとの重量混合比が、特定の範囲に設定されていると、圧縮永久歪み特性がさらに優れるようになる。
【0016】
そして、上記非架橋ゴムが、エポキシ基,無水マレイン酸基およびカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を有するゴムであると、マトリックス中での非架橋ゴムを主成分とする微粒子の安定性がより高くなり、製品性に優れるようになる。
【0017】
また、上記非架橋ゴムの配合量が、特定の範囲に設定されていると、より柔軟性等に優れるようになる。
【0018】
そして、上記非架橋ゴムを主成分とする微粒子の平均粒径が1μm以下であると、物性(破断点強度等)の低下を抑制することができるようになる。
【0019】
また、上記(A)と(C)とを混練し両者を反応させて(C)を主成分とする微粒子を形成した後、これに(B)と(D)とを混合し(B)を(D)により動的架橋すると、柔軟性等に優れた所望の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体を、効率良く生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0021】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂(A成分)と、特定の架橋ゴム(B成分)と、上記A成分中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム(C成分)と、特定のフェノール樹脂および臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤(D成分)とを必須成分とし、特定の架橋ゴム(B成分)の重量割合が、特定のポリアミド樹脂(A成分)よりも多い熱可塑性エラストマー組成物中の特定の架橋ゴム(B成分)を、上記特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)を用いて動的架橋してなるものである。
【0022】
本発明においては、特定のポリアミド樹脂(A成分)からなるマトリックス(海構造:連続相)中に、特定の架橋ゴム(B成分)を主成分とする島構造(分散相)と、特定の非架橋ゴム(C成分)を主成分とする微粒子とがそれぞれ分散しているとともに、上記島構造の平均粒径が0.1μm以上1μm未満の範囲に設定されており、これらが本発明の特徴である。
【0023】
上記特定のポリアミド樹脂(A成分)としては、末端にアミノ基を有するものであれば、特に限定はなく、例えば、ラクタムの重合物、ジアミンとジカルボン酸の縮合物、アミノ酸の重合物、これらの共重合体およびブレンド物等があげられる。上記特定のポリアミド樹脂(A成分)の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6とポリアミド666との共重合体、もしくはこれらのブレンド体等が好適に用いられる。
【0024】
上記特定のポリアミド樹脂(A成分)とともに用いられる架橋ゴム(B成分)としては、特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)により架橋する点で、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム〔臭素化ブチルゴム(Br−IIR),塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等〕が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0025】
上記架橋ゴム(B成分)の重量割合は、先に述べたように、特定のポリアミド樹脂(A成分)の重量割合よりも多ければ特に限定はないが、A成分とB成分の混合比は、重量比で、A成分/B成分=45/55〜10/90の範囲が好ましく、特に好ましくは、A成分/B成分=30/70〜45/55の範囲である。すなわち、このような範囲内であると、耐燃料透過性に劣ることなく、より圧縮永久歪み等に優れるようになるからである。
【0026】
つぎに、上記A成分およびB成分とともに用いられる非架橋ゴム(C成分)は、上記エラストマー体中で、上記特定のポリアミド樹脂(A成分)のアミノ基と反応するが、特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)によって、殆どもしくは全く架橋反応を生じないものが用いられる。上記特定のポリアミド樹脂(A成分)中のアミノ基と反応する官能基としては、例えば、エポキシ基、無水マレイン酸基、カルボキシル基等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記特定のポリアミド樹脂(A成分)中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム(C成分)としては、具体的には、アクリルゴム、エポキシ化天然ゴム、マレイン酸変性EPDM、マレイン酸変性NBR等があげれられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、柔軟性低下を達成しやすい点で、アクリルゴムが好ましい。
【0027】
上記特定の非架橋ゴム(C成分)の配合量は、特に限定はないが、上記特定のポリアミド樹脂(A成分)と、特定の架橋ゴム(B成分)との合計100重量部(以下、「部」と略す)に対して、1〜30部の範囲が好ましく、特に好ましくは5〜20部の範囲である。すなわち、上記特定の非架橋ゴム(C成分)の配合量が上記範囲に設定されていると、より柔軟性等に優れるようになるからである。
【0028】
つぎに、前記A〜C成分とともに用いられる動的架橋剤としては、先に述べた下記の一般式(1)で表されるフェノール樹脂およびその水酸基(好ましくは、末端水酸基)が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤(D成分)が用いられる。
【0029】
【化2】

【0030】
上記一般式(1)において、好ましくは、Qは−CH2 −O−CH2 −であり、mは0または1〜10の正の整数であり、Rは20未満の炭素原子を有する有機基であり、特に好ましくは、mは0または1〜5の正の整数であり、Rは4〜12の炭素原子を有する有機基である。
【0031】
上記特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)の中でも、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、メチロール化アルキルフェノール樹脂、臭素化アルキルフェノール樹脂がより好ましく、特に好ましくはアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂である。
【0032】
上記特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)は、通常の方法で製造することができ、例えば、アルキル置換フェノールまたは非置換フェノールをアルカリ媒体中で、アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと縮合させることにより、または二官能性フェノールジアルコール類を縮合させることにより製造することができる。あるいは、市販のフェノール樹脂を使用することもできる。
【0033】
上記特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)の具体例としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール201)、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール250−I)、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール250−III )等があげられる。
【0034】
上記特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)の配合量は、前記特定のポリアミド樹脂(A成分)と特定の架橋ゴム(B成分)との合計100部に対して1〜10部の範囲が好ましく、特に好ましくは2〜5部の範囲である。すなわち、D成分の配合量が1部未満であると、動的架橋が不充分となり、圧縮永久歪み性等の諸物性が低下する傾向がみられ、逆に10部を超えると、架橋ゴム(B成分)を主成分とする島構造の平均粒径が1μm以上となり、柔軟性が低下する傾向がみられるからである。
【0035】
なお、上記熱可塑性エラストマー組成物には、前記A〜D成分以外に、充填剤、補強剤、加工助剤、導電剤、架橋促進剤、老化防止剤、可塑剤等を適宜に配合しても差し支えない。
【0036】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、特定のポリアミド樹脂(A成分)と、特定の非架橋ゴム(C成分)とを配合し、ニーダー,バンバリーミキサー,ロール,二軸混練機等の混練機を用いて高温(約200℃)で混練し、両者を反応させ、Cを主成分とする微粒子が形成されるまで混練を続ける(好ましくは、10〜30分)。この反応は、混練時に粘度が上がることにより確認することができる。つぎに、この中に、特定の架橋ゴム(B成分)と、特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)とを配合するか、あるいは上記特定の架橋ゴム(B成分)と、特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)とを予備混合したものを配合し、さらに必要に応じて充填剤等の他の成分を配合し、高温(約200℃)で混練を続け(好ましくは、2〜5分)、上記特定の架橋ゴム(B成分)を特定のフェノール樹脂系架橋剤(D成分)により動的架橋させることにより得ることができる。
【0037】
このようにして得られる、本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、例えば、図1に示すように、特定のポリアミド樹脂(A成分)からなるマトリックス1中に、特定の架橋ゴム(B成分)を主成分とする島構造2と、特定の非架橋ゴム(C成分)を主成分とする微粒子3とが、それぞれ分散されて構成されている。なお、上記微粒子3は、特定の非架橋ゴム(C成分)のみからなる場合に限定されるものではなく、例えば、図1の拡大部分Aに示すように、非架橋ゴム4を主体とする微粒子3の表面に、ポリアミド樹脂5が付着していたり、あるいは微粒子3中にポリアミド樹脂5が取り込まれていても差し支えない。また、上記特定のポリアミド樹脂(A成分)からなるマトリックス1中には、ポリアミド樹脂5以外に、充填剤等の他の成分が含有されていても差し支えない。
【0038】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体において、特定の架橋ゴム(B成分)を主成分とする島構造2の平均粒径は、柔軟性の点から、0.1μm以上1μm未満の範囲に設定され、好ましくは0.5μm以上1μm未満の範囲である。すなわち、上記島構造2の平均粒径が1μm以上であると、柔軟性が劣るからである。
【0039】
ここで、上記島構造2の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM),走査型プローブ顕微鏡(SPM),実態顕微鏡等による顕微鏡写真に基づき測定することができる。なお、上記島構造2の形状が、真球状ではなく楕円球状(断面が楕円の球)等のように一律に定まらない場合には、最長径と最短径との単純平均値をその島構造の粒径とする。
【0040】
また、上記特定の非架橋ゴム(C成分)を主成分とする微粒子3の平均粒径は、1μm以下が好ましく、特に好ましくは平均粒径0.5〜1μmの範囲である。このような範囲の平均粒径に設定することにより、物性(破断強度等)の低下を抑制することができるため好ましい。
【0041】
なお、上記微粒子3の平均粒径も、上記島構造2の平均粒径の測定方法に準じて測定することができる。
【0042】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、例えば、燃料系ホースが単層構造の場合は、その層(単層)に用いられ、また、上記燃料系ホースが2層以上の複層構造の場合は、任意の層(好ましくは、最内層)に用いられる。
【0043】
そして、上記単層構造の燃料系ホースは、例えば、前記A〜D成分を必須成分とする熱可塑性エラストマー組成物を、ホース状に押し出し成形することにより作製することができる。この製法によると、上記特定の架橋ゴム(B成分)を主成分とする島構造は、ホース状に押出形成する際に、略球状から、押出方向に偏平した形状となる。なお、上記ホースの製法においては、必要に応じてマンドレルを用いても差し支えない。
【0044】
また、上記複層構造の燃料系ホースは、例えば、上記単層構造の燃料系ホースの外周面に、直接もしくは補強糸層等の中間層を介して、他の樹脂層やゴム層等を形成することにより作製することができる。
【0045】
上記燃料系ホースの総厚みは、特に限定はなく、通常、1.5〜12mmの範囲であり、また、燃料系ホースの内径は、通常、5〜50mmの範囲である。
【実施例】
【0046】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
〔実施例1〕
ポリアミド樹脂(A成分)と、アクリルゴム(C成分)とを、二軸混練機を用いて200℃で混練し、A成分とC成分とを反応させ、C成分を主成分とする微粒子の平均粒径が1μm以下となるまで混練を続けた(約15分間)。つぎに、混練機中に、NBR(B成分)と、フェノール樹脂系架橋剤(D成分)と、残りの成分(酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤)とを同時に投入し、200℃でNBR(B成分)を動的架橋した(3分間)。つぎに、これ(熱可塑性エラストマー体)を、ロールを用いて厚み2mmのシート状にし、230℃で5分間プレス成型して、サンプルシート(120mm×120mm×厚み2mm)を作製した。
【0048】
〔実施例2〜7、比較例1〜6〕
各成分の種類や配合量等を下記の表1および表2に示すように変更する以外は、実施例1に準じて、サンプルシートを作製した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
なお、上記表1および表2に示す材料は、下記のとおりである。
〔ポリアミド樹脂(A成分)〕
ポリアミド11(アルケマ社製、リルサンBESN P20)
〔NBR(B成分)〕
日本ゼオン社製、ニポールDN202(AN量:31重量%)
〔アクリルゴム(C成分)〕
日本ゼオン社製、ニポールAR12
〔フェノール樹脂系架橋剤(D成分)〕
アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール201)
〔酸化亜鉛〕
三井金属鉱業社製、酸化亜鉛2種
〔ステアリン酸〕
花王社製、ルナックS30
〔硫黄〕
軽井沢製錬所社製、サルファックスT−10
〔硫黄系加硫促進剤〕
大内新興化学社製、ノクセラーTT−G
〔有機過酸化物〕
日本油脂社製、ペロキシモンF−40
【0052】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用い、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を、上記表1および表2に併せて示した。
【0053】
〔島構造の平均粒径〕
上記サンプルシートの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製、JSM−6390)による顕微鏡写真により観察し、島構造の平均粒径を測定した。なお、先に述べたように、島構造の形状が、真球状ではなく楕円球状(断面が楕円の球)等のように一律に定まらない場合には、最長径と最短径との単純平均値をその島構造の粒径とした。
【0054】
〔常態物性〕 上記サンプルシートを用い、JIS K6251に準じて、破断点強度(TB)および破断点伸び(EB)を測定した。
【0055】
〔硬さ〕
上記サンプルシートの硬さを、JIS K6253に準じて測定した。評価は、硬さが85未満のものを○、85以上90未満のものを△、90以上のものを×とした。
【0056】
〔耐ガソリン透過性(カップ法)〕
図2に示すように、フランジ付きのSUS製カップ(内径φ:66mm、カップ内高さD:40mm)20を準備し、この中に試験燃料としてFUEL C(トルエン/イソオクタン=50/50重量%)を100cc入れた。つぎに、上記SUS製カップ20のフランジ部21に、上記サンプルシート(試料)10を載せ、さらに金網(16メッシュ)11を介してパッキン12で押さえボルト13で固定した。このようにして組立てられたものを逆さまにし、40℃オーブンに投入した。そして、1日毎にカップ重量を測定し、その減少量(透過量Q)を算出した。この値をもとに、下記の式(1)に従い、透過係数(mg・mm/cm2 ・day)を算出した。評価は、上記透過係数が25(mg・mm/cm2 ・day)未満のものを○、25(mg・mm/cm2 ・day)以上のものを×とした。
【0057】
【数1】

【0058】
上記結果から、実施例品は、いずれも破断点強度(TB)および破断点伸び(EB)に優れるとともに、硬さも良好で柔軟性に優れるとともに、耐ガソリン透過性にも優れていた。なお、特定の架橋ゴム(B成分)であるNBRに代えて、H−NBR、IIR、Br−IIR、Cl−IIRを用いた場合も、実施例品と同等の優れた効果が得られることを実験により確認した。また、フェノール樹脂系架橋剤(D成分)であるアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール201)に代えて、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール250−I)、もしくは臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業社製、タッキロール250−III )を用いた場合も、実施例品と同等の優れた効果が得られることを実験により確認した。
【0059】
これに対して、比較例1品は、実施例1品に比べて動的架橋時間が短いため、島構造の平均粒径が大きく(1μm)、柔軟性に劣っていた。また、比較例2品は、硫黄架橋であるため柔軟性に劣り、比較例3品は、過酸化物架橋であるため柔軟性に劣っていた。この理由は明らかではないが、硫黄架橋や過酸化物架橋の場合は、実施例のフェノール樹脂系架橋剤を用いた樹脂架橋に比べて、架橋速度が速く、架橋ゴムを主成分とする島構造の粒径が、実施例品に比べて大きいため、実施例品に比べて柔軟性が劣ると推察される。比較例4品は、ポリアミド樹脂(A成分)中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム(C成分)を配合していないため、柔軟性に劣っていた。比較例5品は、NBR(B成分)の重量割合がポリアミド樹脂(A成分)よりも少ないため、柔軟性に劣っていた。比較例6品は、ポリアミド樹脂(A成分)を配合していないため、成型できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体は、例えば、自動車等の燃料〔ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、アルコール、水素、軽油、ジメチルエーテル、LPG、CNG等〕の輸送ホース等の燃料系ホースに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体における各材料の分散状態を示す模式図である。
【図2】耐ガソリン透過性(カップ法)の試験方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 マトリックス
2 島構造
3 微粒子
4 非架橋ゴム
5 ポリアミド樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(D)を必須成分とし、(B)の重量割合が(A)よりも多い熱可塑性エラストマー組成物中の(B)を(D)により動的架橋してなる燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体であって、(A)からなるマトリックス中に、(B)を主成分とする島構造と、(C)を主成分とする微粒子とがそれぞれ分散しており、上記島構造の平均粒径が0.1μm以上1μm未満の範囲に設定されていることを特徴とする燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
(A)末端にアミノ基を有するポリアミド樹脂。
(B)アクリロニトリル−ブタジエンゴム,水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム,ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つの架橋ゴム。
(C)上記(A)中のアミノ基と反応する官能基を有する非架橋ゴム。
(D)下記の一般式(1)で表されるフェノール樹脂およびその水酸基が臭素化された臭化フェノール樹脂の少なくとも一方からなるフェノール樹脂系架橋剤。
【化1】

【請求項2】
上記(D)の配合量が、(A)と(B)との合計100重量部に対して1〜10重量部の範囲に設定されている請求項1記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
【請求項3】
上記(A)と(B)との重量混合比が、(A)/(B)=45/55〜10/90の範囲に設定されている請求項1または2記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
【請求項4】
上記(C)の非架橋ゴムが、エポキシ基,無水マレイン酸基およびカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基を有するゴムである請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
【請求項5】
上記(C)の配合量が、(A)と(B)との合計100重量部に対して1〜30重量部の範囲に設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
【請求項6】
上記(C)を主成分とする微粒子の平均粒径が1μm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体の製法であって、上記(A)と(C)とを混練し両者を反応させて(C)を主成分とする微粒子を形成した後、これに(B)と(D)とを混合し(B)を(D)により動的架橋することを特徴とする燃料系ホース用熱可塑性エラストマー体の製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−31350(P2008−31350A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208297(P2006−208297)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】