説明

燃料電池システムの燃料電池に燃料ガスを供給する装置

本発明は、燃料ガス、特に水素を燃料電池システムの燃料電池に供給する装置に関する。燃料電池システム(1)は、少なくとも以下の構成部品:
未使用の燃料ガスと新たな燃料ガスを混合する混合領域(7.4)と、
水沈降分離装置(16)と、
供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する少なくとも1個の装置(7.2、14、32)と、
アノード(3)に流入する燃料ガスの状態変数及び/又は化学量を検知するセンサ(29、30、31)用の少なくとも1つの受容体と、を含む。本発明によると、これら構成要素を一体構成部(7)内で組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に詳細に定義した種類の、燃料電池システムの燃料電池に燃料ガス、特に水素を供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスとして水素含有ガスの水素で通常運転する燃料電池システムが、基本的に知られている。そのため、そうした燃料電池システムは、例えば、電解質として高分子膜を有する燃料電池、所謂PEM型燃料電池から構成されている。燃料電池はそのために一般的に単セルのスタックから成る。従って、燃料電池スタックとも呼ばれている。この種のシステムでは、燃料電池のアノード側に燃料ガスを供給し、通常未使用の燃料ガスの一部を、燃料電池のアノード側の後方領域から燃料電池のアノード側の前方領域へと戻す。当該燃料電池のカソード側には、酸素含有ガス、通常空気をカソード側に供給する。その結果、これらの燃料電池はまさしくこの燃料ガスと空気中の酸素から電気エネルギを発生させる働きをする。典型的な用途としては、例えば、自動車の電気駆動系の範囲内での使用が挙げられる。
【0003】
特に、そうした自動車用駆動系を燃料電池システムにおいて構築する際に、これら燃料電池システムの設置空間や重量は重要な要素となる。従って、特許文献1では、反応物、反応生成物及び/又は冷却剤用の搬送装置を、燃料電池スタックのエンドプレートに組込んだ、燃料電池スタックのエンドプレートについて、記載している。
【0004】
この構造では、付随する振動がポンプによって燃料電池スタックに入ってしまい、該振動が該スタックの非漏出性に望ましくない影響を与える可能性があるため、不利である。その上、スタックは封止に関してただでさえ影響を受け易いのだが、燃料電池スタックの取外しを、ポンプをメンテナンスする度に行わねばならない。また、例えば、燃料電池スタック又はポンプの交換では、常に燃料電池スタックを開封し、その後、搬送燃料ガスとして特に水素で比較的密となった燃料電池スタックを再び封止する必要がある。
【0005】
例えば特許文献2に記載された更なる公知技術から、かかる燃料電池システムの燃料電池又は燃料電池スタックを予熱する燃料電池システム及び方法が、更に知られている。冷間始動時又は低温時により効率的に均等に予熱するよう設計するために、同文献では、燃料電池のカソード側に流す圧縮空気に含まれる熱エネルギ含量をより均等に分配するものとしている。このために、ここでは燃料電池システムに流入する燃料として働く水素ガスを、燃料空気熱交換器を用いて圧縮する間に加熱される空気によって、熱交換器を介して予熱する。そのため燃料のガス流に入る熱は、圧縮空気から発生するので、この構造では利用可能な熱を異なる方法で分配するだけで、入熱量は全体的に増加しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102004049623A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10248611A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、コンパクトで高負荷の燃料電池システムに特に適する、設置空間が僅かで容易にメンテナンスできる実用的な構造を実現する燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1の特徴部分に記載した特徴によって達成される。
【0009】
殆どの燃料ガスに関連する構成要素、即ち、特に混合領域、水沈降分離装置、燃料ガスを加熱する装置、少なくとも1個のセンサのための受容体を、1つの一体構成部に組込むことによって、利用可能な設置空間の使用の際に、極めて大きな効果を提供できる。一体構成部により、省スペースで基本的な燃料ガス導入要素を配置したり、ライン長を短くしたりでき、従ってそれに応じて燃料ガスの圧力損失が少なくなる。更にまた、燃料電池スタックとは独立して設計できる一体構成部によって、燃料電池スタックとは独立して取付けでき、メンテナンスのために容易に取外せる一体構成部を実現可能となる。一体構成部において発生する可能性がある振動や温度変動も、燃料電池スタックには遷移せず、従って、様々な熱膨張又は振動によって、該スタックの気密性に、望ましくない影響を与えることもない。
【0010】
更にまた、全ての関連要素を、燃料ガス、特に水素が、所定の圧力、体積流量、所定温度、及び所定のガス組成(例えば、水素濃度及び湿度)を備えられるように、一体構成部内で組み合わせる。また、液体状態の水を、再循環した未使用の燃料ガスから排出する。そのために燃料ガスを加熱する装置について、特に配慮する。燃料電池システムの運転中、燃料、通常は水素を、蓄圧装置から燃料電池システムに供給する。しかしながら、まず蓄圧装置を、全く絶縁しない又は最低限だけ絶縁した‐例えば、自動車の‐領域に、通常は配設するので、この燃料は極めて低温となることが多い。従って、蓄圧装置の燃料は周囲温度となり、該温度は、燃料電池システムの通常の運転温度である約70度〜100度程度と比較して、かなり低温となる。更にまた、熱エネルギが、燃料の緩和中に蓄圧装置から更に失われ、その結果、少なくとも燃料電池システムと比べて極めて低温の水素又は燃料流が燃料電池システムに達することになる。燃料電池システムのガス中に存在する水分を凝縮又は場合によっては凍結さえ可能なシステムのヒートシンクから分かるように、外気温が低く、燃料電池の運転時間が短いほど、この低温の燃料流は一層重要となる。
【0011】
この作用は、燃料を加熱する一体装置によって大幅に減少し、その結果、該装置の燃料電池システムの冷間始動を一層良好に、特に安全迅速に、エネルギ生成のために確実に行える。
【0012】
この燃料加熱装置には、特に燃料電池システムの冷間始動に関して、一体構成部自体及び該構成部の全構成要素も加熱して、できる限り解凍し、その結果例えば余分な不活性ガスも放出できる1本の当該水用排出ラインを、システムの始動時に直ぐに解凍し、機能状態にできるという、利点がある。
【0013】
更にまた、一体構成部を、更なるキャリアフレームを必要としない設計にもでき、その結果、当該設置空間を節約できる他、質量、構成容積を減少でき、それで最終的にコストも削減でき、燃料ガス導入要素のガス量も更に大幅に減少できる。ライン長の短縮によって、コンパクトな構造が可能になることに加えて、圧力損失を低減できると共に、必要な封止箇所を減少でき、水素を使用する際に特に重要な利点となる。また、一体化やインタフェースの省略によって、製造上の公差に関する必要条件をそれに応じて少なくできるため、一体構成部を大幅に経済的に製造できる。
【0014】
本発明による装置の更なる極めて有益な仕組みでは、一体構成部には、燃料電池システムの冷却水が流通するものとする。このように冷却水又は燃料電池自体への冷却水供給部を一体構成部に組込むと、ライン長やライン間のインタフェースに関して更なる利点がある。更にまた、全構成部品を一体構成部内で少なくとも間接的に熱伝導するように接続するので、冷却水も、供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する少なくとも1個の装置を介して、加熱されることになる。これにより、新たな燃料ガスだけでなく、冷却水もまた、加熱装置を介して加熱でき、その結果加熱装置を、燃料電池自体を、例えば冷間始動状況で、加熱するのにも使用できる。また、逆に、冷却水からの熱も、供給される新たな燃料ガスを加熱するのに使用できる。これにより、エネルギを節約でき、どのような場合でも存在する廃熱を、新たな燃料ガスを加熱するのに使用できる。
【0015】
本発明による装置の更なる極めて有益で有利な仕組みでは、加えて、供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する少なくとも1個の装置を、電気ヒータとして形成するものとする。かかる電気ヒータを、例えば、電気抵抗体によって、一体構成部に極めて簡単に効率的に受容できる。電気ヒータで所望の熱量を、極めて容易に入手でき、従って極めて簡単に効率的に発生できることで、供給される新たな燃料ガスを、所定の終了温度にまで極めて効率的に加熱できる。更にまた、一体構成ユニット全体の加熱を、更なる電熱性能によって行ない、例えば、燃料電池システムの冷間始動中に該ユニットを予熱したり、場合によっては解凍したりもできる。
【0016】
燃料電池システムの冷却水が更に一体構成部を流通する本発明による装置の形態では、冷却水、従って燃料電池も加熱でき、その結果電気ヒータを起動用電気ヒータとして、かかるヒータを燃料電池システムに追加して組込む必要なく、同時に使用できる。これにより、構成部品数を少なくでき、本発明による装置で、燃料電池システムの構成容量を減少できる。
【0017】
本発明による装置の追加の又は別の仕組みの形態では、少なくとも間接的に供給される新たな燃料を加熱する少なくとも1個の装置を、少なくとも1個の発熱構成要素に対する冷却用熱交換器として形成し、該熱交換器で、新たな燃料ガスにより発熱構成要素を少なくとも部分的に冷却する。燃料ガスが、燃料電池システムの発熱構成要素に対する冷却用熱交換器を介して加熱されることで、どのような場合でも、燃料電池システムに存在する熱エネルギを、該システムで使用可能になる。更なるプラスの効果としては、各熱供給構成要素を燃料ガス流で少なくとも部分的に冷却するので、その結果該熱供給構成要素の運転が、最適な運転に適した温度域で進行できるようになる。また、そのために冷却用熱交換器及び/又は発熱構成要素も、一体構成ユニットに組込む、又は該ユニットに取付けることができる。
【0018】
この構成要素をそのため、燃料電池システムで熱又は廃熱を活発に発生する各構成要素、例えば、その廃熱を冷却する必要がある電子装置又はパワーエレクトロニクス、又はエンジンを確実に理想的に機能させるために冷却すべき電動駆動部を有するユニットとすることができる。かかる装置を、例えば、ファン又は圧縮ユニットとすることができるが、また、輸送手段で使用する駆動モータとすることもできる。燃料ガスが、例えば燃料電池スタック自体又は燃料電池スタックに加えて場合によっては存在するバッテリの電気化学成分を冷却する役目を担い、そのため昇温する可能性が高くなる。ここでは、自動車の駆動システムに用いる牽引用蓄電池を、例えば、リチウムイオン技術に基づく高性能バッテリとして形成できると、特に考えてもよい。しかしながら、燃料電池システムの他の構成要素、例えば、カソード側用に搬送される空気を圧縮するための、電気的に支持されることもあるターボチャージャ等もまた可能である。また、最後に、そこで行なうプロセスの結果熱くなる他の構成要素、例えば凝縮器又は流体沈降分離装置(fluid precipitator)もまた可能であり、これらの装置では、付随する凝縮熱によって発熱し、この熱を次に燃料に伝達できる。更にまた、本発明の意味における発熱構成要素を、熱を外部から媒体を介して第2回路に供給する熱交換器としてもよい。
【0019】
本発明の意味におけるこの発熱構成要素を、次に燃料流によって少なくとも部分的に冷却する。夫々の構成要素によっては、及び例えば、部分負荷運転時、全負荷運転時、アイドリング中等での冷却に関して夫々要求される特性によっては、夫々利用可能な燃料ガス流は確実に冷却するには不十分な可能性がある。不十分な場合には、燃料ガスによる冷却を、更なる冷却として設定することもでき、そのため冷却用熱交換器を、例えば、構成要素内に又は構成要素に、更なる冷却用熱交換器に加えて存在させる。流入燃料ガスの体積流量を介した冷却が不十分な状況及び運転状態での冷却を、この更なる熱交換器を介して、例えば、冷却液を用いる従来の冷却回路を介して、確実に行なうことができる。
【0020】
本発明による装置の更なる極めて有益で有利な仕組みでは、燃料電池システムは、再循環搬送装置を更にまた含み、該再循環搬送装置を通して、未使用の燃料ガスを、燃料電池のアノードの1後方領域からアノードの前方領域へと戻し、この再循環搬送装置を一体構成部に取付ける。再循環搬送装置、例えば水素再循環ファンを取付けることで、一体構成ユニットと該再循環搬送装置との間のライン長が短くなり、再循環搬送装置を、更なるキャリアフレーム等無しに一体構成ユニットに接続でき、該ユニットで担持できる。該ユニットは通常、依然としてそれ自体で冷却できるので、再循環搬送装置を確実に使用可能にし、場合によっては交換可能にするようメンテナンスするのに、この取付けは、極めて有利な代替手段であるかも知れない。再循環搬送装置を取付けることで、該再循環搬送装置と一体構成部との間の少なくとも間接的な熱伝導を、更に達成できる。供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する装置により、特に高加熱性能を使用する際には、冷間始動する場合に再循環搬送装置をある程度まで加熱して、該装置で凍結している水滴を解凍できる場合もある。
【0021】
しかしながら、本発明による装置の別の仕組みでは、かかる再循環搬送装置を、一体構成部内に組込んで少なくとも部分的に実装する。これにより、再循環搬送装置を、一体構成部に完全に収容できる、又は水素導入部だけを、一体構成部に組込むことができる。考え得る駆動モータ、例えば、キャンド構造の駆動モータを、外部から取付けてもよい。これにより、確実に、全水素導入部を一体構成部に組込め、その結果ライン長や封止箇所に関する問題を、また更に改善できる。更にまた、新たな供給燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する装置を介して、再循環搬送装置を極めて良好に加熱することが、一体化することで可能となる。これにより、再循環搬送装置も、例えば一体構成ユニットを介して加熱してもよい。
【0022】
こうした経済的で、小型で、コンパクトで、その質量に関して比較的軽量な構成部の好適な用途としては、陸上、海上、航空輸送手段、特にレールが無い農作業車での用途が確実に存在する。上述した利点を、これらの用途で特に効果的に使用できるため、本装置を更なるエネルギ生成、又はかかる輸送手段の駆動系用のエネルギ生成に使用しても、問題はない。
【0023】
本発明の更なる有利な仕組みは、従属請求項によりもたらされ、これらの仕組みについては、実施形態を用いて以下に更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による装置を有する燃料電池システムの断面の模式図。
【図2】第1実施形態における本発明による装置の主要配置図。
【図3】更なる実施形態における本発明による装置の主要配置図。
【図4】供給される新たな燃料ガス流を加熱する装置を実現する別の模式図。
【図5】供給される新たな燃料ガス流を加熱する装置を実現する更なる別の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1では、燃料電池システム1の一部の概要を示している。燃料電池2は、燃料電池システム1の不可欠な構成要素と考えることができ、燃料電池を通常は、燃料電池スタックとして、例えば、PEM型燃料電池のスタックとして形成できる。燃料電池2は、そのためアノード領域3とカソード領域4を含む。カソード領域4には、ここでは詳細には示さない搬送手段を用いて、酸素含有酸化手段、例えば空気を供給する。アノード領域3には燃料ガス、特にここでは水素を、圧力水素タンク5から供給するが、該タンクについては、ここでは、例示的に関連する弁装置6と共に示している。次に、水素は、圧力水素タンク5から弁装置6を介して一体構成部7に流入し、そこから更に燃料電池2のアノード領域3へと流入する。また、未変換の水素ガスを、再循環ライン8を介して一体構成部7の領域に戻す。
【0026】
図2では、一体構成部7について、可能な一実施形態の概要を再び示す。一体構成部7は、その中に全ての燃料ガス伝導要素を集結させるハウジング9と、該ハウジング9と共に一体構成部7を形成する2個の取付構成要素10、11とから成る。そのため構成要素10、11をハウジング9に直接取付けて、一体構成部7自体で、フレーム構造体等の外部担持要素が無くても済む自立型ユニットを形成する。そのため一体構成部7を、ハウジング9又はハウジングの一部と共に、自立可能なだけでなく、それに接続した燃料電池2も支持可能な安定した方法で、自立型ユニットとして形成する。また、一体構成部7を燃料電池2に接続する自立型の仕組みとする代わりに、一体構成部7を、燃料電池2のエンドプレートの1つとして直接形成することも可能である。
【0027】
図2における、一体構成部7についての例示的な模式的な図示では、片方の取付構成要素11は、圧力調整弁、即ち弁装置6を含み、該弁装置6を、ここでは示さない高圧タンク5と一体構成部7との間に配設する。ここで11で表した構成要素には、従って、弁装置6、及びこれに対応する、圧力タンク5から発するコネクタライン12を含む。そのため取付構成要素10は、未使用アノードガス用再循環搬送装置としての再循環ポンプ13の、モータと電子部品を含む。再循環ポンプ13の配置に応じて、取付部は、場合によっては電子部品やモータに加えて圧縮機ホイール自体を含むこともあり、一方でコンプレッサホイールのハウジングを、7.1で表したハウジング9の部分に配設する。その代わりに、別の一体化の構造タイプや方法を、例えばキャンドモータといった実施形態に関して選択できる。代わりに又は追加して、ここでは図示しない、気体ジェットポンプを、アノード排ガスを再循環させる構成部7に設けることができる。また、その代わりに、再循環搬送装置13を、一体構成部7に完全に組込んでもよい。
【0028】
再循環ポンプ13の圧縮機のためのホイールハウジングを含むことができる既に記載した領域7.1に加えて、ハウジング9は更なる一体化領域を含む。7.2で表したこの領域は、従って例えば、新たな供給燃料ガスを加熱する装置として、電気ヒータ14を含むことができる。そのため基本的には、単一の主電気ヒータ14を設けることができ、該電気ヒータ14を、対応領域を介して加熱する全領域又は媒体に付けた熱伝導材に接続する。その代わりに、電気ヒータ14を個々の要素に分割し、それによりハウジング9内の特定領域を夫々、例えば対応する弁装置、再循環ポンプ13のホイール、対応するセンサコネクタ、又は領域7.3に配設する水沈降分離装置(water precipitator)16の部分領域も個別に加熱可能にできる。
【0029】
ハウジング9の領域7.4には、混合領域を更に配設し、該混合領域で、圧力タンク5からライン12を通り供給された新たな水素を、再循環ライン8を通して一体構成部7に到達した、再循環ポンプ13を介して再循環させた未使用の燃料ガスと混合する。その後、当該燃料ガスは、導入要素15を介して燃料電池2のアノード3に到達する。少なくともハウジング9のこの混合領域7.4には、燃料電池2のアノード3に導入する燃料ガスの状態変数及び/又は化学量を、ライン15を介して検知できるように、更にまたセンサ又はセンサ用受容体を配設する。ここでの典型的な化学量を、燃料ガスの圧力、温度、体積流量、湿度、水素濃度とする。
【0030】
また、水沈降分離装置16を含む領域7.3には、排出弁17(明示せず)も特に配設できる。溜った水を、この排出弁を介してライン要素18を通して排出できる。また、再循環によってシステム内で徐々に蓄積された不燃ガスを、水と共にこのライン要素18を通して放出もできる。また、これらの要素を、ハウジング9に熱接着し、それによって電気ヒータ14を介して領域7.2で加熱できるようにして、ハウジング9の領域7.4に組込む。そのため、これら構成要素の機能を常に確保できる。水沈降分離装置16を、ハウジング9の領域7.4に任意の方法で主に構成できる。しかしながら、水沈降分離装置16と再循環ポンプ13とを、再循環ポンプ13の圧縮機ホイールの回転運動により、発生し得る水滴を、遠心力によって圧縮機ホイールのハウジングの領域に移し、該領域で、これら液滴の排出や沈降を当該溝等を介して実現できるように、組み合わせることも可能である。このように、再循環ポンプ13の圧縮機ホイールの回転エネルギを、水の沈降を向上するためにも使用できる。
【0031】
また、ハウジング9に、全ての流体導入部、即ち、特に沈降後に水が到達する部分を、該部分の壁が断面で燃料ガス又はエアクッションの方向に連続して開口するように形成することもできる。通常使用する場合、典型的には引力に逆らう方向となるエアクッション方向へのこうした開口によって、その中に存在する水分が凍る際に、損傷を受けない構造を達成できる。氷が膨張する際に氷の形成を妨げず、空気又は燃料ガスのクッション領域に滑入できるような仕組みによって、材料不良に繋がりかねない、氷の膨張によるハウジング材9への当該応力の印加を回避できる。
【0032】
ハウジング9は、図2では2本の更なるライン要素19、20を含む。一体構成部7を、これらのライン要素19、20を介して、燃料電池システム1の冷却回路21に任意に接続できるが、これについては図1で図式的に表している。そのため、冷却回路21は、搬送装置22と冷却器23を含み、該冷却器23を通して、過剰な熱を環境に放出できる。更に、冷却回路21は燃料電池2を通り、既に記載したように、任意に一体構成部7を通り進む。冷却回路21は、弁装置24を更に含み、該弁装置を介して、バイパスを冷却器23周りに実現できる。冷間始動時には、冷却器23をこの弁装置24によって切換えて、冷却回路21から外す。こうすると燃料電池システム1を高速加熱できるため、冷却水を冷却回路21でできるだけ急速に加熱したい場合には、検討対象となるであろう。次に、冷却回路21を一体構成部7に導通させた場合、これもまた領域7.2でそれに応じて寸法取りした電気ヒータ14で加熱できる。これには、熱エネルギを単一の電気ヒータ14で燃料電池システム1に入れることができ、該電気ヒータをその後始動ヒータとして、燃料電池システム1の冷間始動にも使用するといった、利点がある。一体構成部7では、ハウジング9に配設した又はハウジング9に取付けた領域に導入される全ての関連する燃料ガス、及びアノード領域3に流入する燃料ガスを、領域7.2の電気ヒータ14で、それに応じて加熱するが、これについては、図1でまた例示的に示している。冷却回路21で冷却水を加熱することで、この熱を、燃料電池2を含む燃料電池システム1全体に更に分配できる。そのため燃料電池システム1を極めて迅速に加熱可能になるが、これには、一体構成部7の領域7.2に単一の電気ヒータ14が必要なだけである。これは、起動とライン導通に関して特に有利である。
【0033】
既に言及したように、当該センサを、図2で表したハウジング9の領域7.4に組込み、一体構成部7は、図1で例示的に示したように、電気調整装置25にも対応できる。次に、この電気調整ユニットを、当該ライン要素を介して一体構成部7に接続できるが、該電子制御ユニット25をまた一体構成部7又はそのハウジング8にも取付ける、及び一体構成部7の一部とすることも可能である。
【0034】
図3では、一体構成部7の更なる可能な実施形態について示している。また、これを自立型の一体構成部7として設計し、燃料電池スタック2のエンドプレートに接続可能、又は直接燃料電池スタック2のかかるエンドプレートを形成可能にする。そのため、図3による実施形態における一体構成部7を、水沈降分離装置16と弁装置17を含むように配設する。そのため、燃料電池2のアノード領域3からの排ガスを、再循環ライン8 を通して水沈降分離装置16に供給する。液体水を水沈降分離装置16で沈降させ、次に、アノード排ガスを再循環搬送装置13の領域に到達させるが、該搬送装置を、ここで示す一体構成部7の実施形態では、該構成部に取付けるよう設計している。また、図3では、再循環搬送装置13は、熱交換器26を含むのが分かるが、該熱交換器26を介して、特に再循環搬送装置13の電動駆動ユニットを冷却できる。例えば、熱交換器26を、冷却回路21に組込んで設計することもできる。
【0035】
再循環搬送装置13の後、アノード排ガスは混合領域7.4に流入し、該領域で、圧力タンク5からの新たな燃料ガスと混合する。そのために、圧力タンク5からの新たな燃料ガスは、一体構成部7に取付けた弁装置6としても形成した弁装置6を介して、混合領域7.4に流入する。混合領域7.4に到達する前に、燃料ガスは、電気ヒータ14を新たな供給燃料ガスを加熱する装置として配設してある一体構成部7の領域7.2にも流通する。電気ヒータ14は、新たな供給燃料ガスをコンディショニング又は温度制御する役割も果たす。次に、互いに混合したガスは、ウォータトラップ27に達し、該ウォータトラップ27で、例えば比較的高温のアノード排ガス中から低温の新たな燃料ガスで凝縮した液滴といった、ガス中に存在し得る液滴を沈降させる。これは、燃料電池2のアノード領域3で燃料ガスを分配する経路が液体水で詰まるのを防止するのに必要である。ウォータトラップ27を一体構成部7に組込むことで、これらの装置が燃料電池2の内部又は燃料電池2内のガス供給領域に無くてもよいという利点を提供する。従って、全液体水が一体構成部7の領域に蓄積する。次に、例えば、水沈降分離装置16より高い位置でウォータトラップ27を適当に配設する等によって、この水はウォータトラップ27から、ここでは破線で示したライン28を介して水沈降分離装置16の領域に流入できる。次に、滴にならなかった燃料ガスは、燃料電池2のアノード室領域3に到達し、ここでそれに対応して変換できる。
【0036】
更にまた、図3による実施形態では、冷却回路21の一部は、一体構成部7を通過する。冷却回路21を流れる冷却水、通常は水と不凍剤の混合物を、ライン20を介して一体構成部7の領域に到達させる。そこで、冷却水は領域7.2を流通し、次にライン20を介して燃料電池2に組込んだ熱交換器に到達し、該熱交換器により熱を放出する。図3では、冷却回路21の残りの構造は示していないが、図1に示した冷却回路21と類似した構造とする。次に、領域7.2には、電気ヒータ14の他に一体構成ユニット7を導通する冷却水と新たな燃料ガスが、夫々別のラインで存在する。また、これも電気ヒータ14で極めて効率的に加熱でき、その結果燃料電池の冷間始動時に極めて速く加熱できる。これには、1個の電気ヒータ14だけが必要で、該ヒータを、通常運転で新たな燃料ガスを加熱するのに必要な電力として、それに相当する燃料電池2を加熱する電力を利用可能にできるように寸法取りしなくてはならない。
【0037】
ここで示した実施形態では、燃料電池2のアノード側3へ全媒体の供給部及び排出部、冷却水の供給部を、一体構成部7に組込んでいる。これにより、当該ライン要素を省略でき、例えば一体構成部7と燃料電池スタック2のエンドプレートとの間の適当なインタフェースを介して、極めて簡単に効率的に取付けできる。一体構成部7をエンドプレート自体とした場合、この取付け部分さえ無くて済む。
【0038】
図3における一体構成ユニット7では、幾つかのセンサ又はセンサ用受容体を、例示的に更に示している。従って、例えば第1温度センサ29を表し、該センサで、燃料電池2の冷媒の入力温度又は冷媒の一体構成部7からの出口温度(ここでは同じ)を計測する。更なる温度センサ30を、燃料ガスが燃料電池2のアノード室3に流入する領域に存在させ、該センサによりここでの対応温度を検知する。更にまた、圧力センサ31が、図3では見られるが、該圧力センサは混合領域7.4に配設し、圧力、特に新たな供給燃料ガスの圧力を検知するのに役立てる。当然更なるセンサを構成ユニット7に組込める、又は構成ユニット7は、かかるセンサに対応するコネクタを含むことができる。更なるセンサを、温度や圧力を検知するセンサ、又は例えば、アノード室3とカソード室4の差圧を検知するセンサとしてもよい。
【0039】
次に、図4及び図5から、代替手段について見ることができる。これまで、電気ヒータ14について、新たな燃料ガスを加熱するための装置として記述してきた。この電気ヒータ14の代わりに、又は電気ヒータ14に加えて、他の熱源も、新たな燃料ガス流を加熱するのに、特に一体構成部7の領域7.2で、使用できる。輸送手段である自動車で駆動エネルギを提供するのに特に使用する燃料電池システム1では、高温の廃熱を生成し、冷却が必要な様々な構成要素が存在する。これらを特に、例えば、燃料電池システム1を備える輸送手段の構成要素又はトラクションドライブに供給するパワーエレクトロニクス又は電動駆動ユニットの構成部品としてもよい。
【0040】
次に、冷却用熱交換器32を、電動モータ34用のパワーエレクトロニクス33の領域にある、図4で例示的に示したような、これら被冷却構成要素の領域に、配設できる。次に、この冷却用熱交換器は、圧力タンク5から、弁装置6を介して冷却用熱交換器32の領域に流入する燃料ガスをそれに応じて予熱する機能を担う。そのためパワーエレクトロニクス33で発生する廃熱の少なくとも一部を、該パワーエレクトロニクスの領域から排出するので、その結果パワーエレクトロニクス33の冷却を完全にしなくて済む、又はパワーエレクトロニクス33を冷却するのに、低冷却機能が必要なだけとなる。そのため熱交換器32を、特に当該経路をパワーエレクトロニクス33のハウジングに導入して、該経路に燃料ガスを流通させるように、設計できる。次に、この構造を、一体構成部7に組込む又は一体構成部7に取付けるように、設計できる。そのため、前述した電気ヒータ14の代わりに、熱交換器32を介した新たな供給燃料ガスの加熱を、これまでに示した全ての実施形態で使用できる。これに加えて、電気ヒータ14を依然として存在させることも場合によっては可能である。
【0041】
図5では、その代わりに、電気機械34の領域に直接冷却用熱交換器32を示す構造を示しており、その結果新たなガス流を直接電気機械34で加熱するようになっている。ここでは、電気機械34を、輸送手段用電気駆動の電気機械とする。しかしながら、他の電気機械でも、例えば、燃料電池2のカソード室4用のエア搬送装置の電気機械でも同様な使用が可能である。熱伝導構成要素の領域に冷却用熱交換器32を直接組込む代わり又は組込むのに加えて、更なる冷却回路を構成して、該回路で適当な媒体を冷却用熱交換器32に流通させる一方、他方で一体構成部7の領域に新たな水素を流すことも、勿論可能である。その後、熱入力を、一体構成部7の領域で廃熱を生成する任意の構成部品の冷却媒体を介して、行なってもよい。そうでなければ、電気ヒータ14に関して述べた実施形態も、この種の入熱に有効である。
【符号の説明】
【0042】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 アノード領域
4 カソード領域
5 圧力水素タンク
6 弁装置
7 一体構成部
8 再循環ライン
9 ハウジング
10、11 構成要素
12 コネクタライン
13 再循環ポンプ
14 電気ヒータ
15 導入要素
16 水沈降分離装置
17、24 弁装置
18、19、20 ライン要素
21 冷却回路
22 搬送装置
23 冷却器
25 電気調整装置
26、32 熱交換器
27 ウォータトラップ
28 ライン
29、30、31 センサ
33 パワーエレクトロニクス
34 電動モータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システム(1)の燃料電池(2)に、燃料ガス、特に水素を供給する装置であって、前記燃料電池システム(1)が、少なくとも以下の構成要素:
未使用の燃料ガスを新たな燃料ガスと混合する混合領域(7.4)と、
水沈降分離装置(16)と、
供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する少なくとも1個の装置(7.2、14、32)と、
アノード(3)に流入する燃料ガスの状態変数及び/又は化学量を検知するセンサ(29、30、31)用の少なくとも1つの受容体と、を含む装置であって、
これらの構成要素を一体構成部(7)内で組み合わせることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記一体構成部(7)に、前記燃料電池システム(1)の冷却水を流通させることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する前記少なくとも1個の装置を、電気ヒータ(14)として形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記電気ヒータ(14)を、前記一体構成部(7)の被加熱領域に、熱伝導材領域を介して接続する集中電気加熱要素を用いて、実現することを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
供給される新たな燃料ガスを少なくとも間接的に加熱する前記少なくとも1個の装置を、少なくとも1個の発熱構成要素(33、34)用の冷却用熱交換器(32)として形成し、新たな燃料ガスにより、前記発熱構成要素を少なくとも部分的に冷却することを特徴とする、請求項1乃至4の1項に記載の装置。
【請求項6】
前記冷却用熱交換器(32)は、前記発熱構成要素(33、34)の領域に配設される、燃料ガスが流通する経路を含むことを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記発熱構成要素(33、34)を、前記一体構成部に組込んで設計することを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記発熱構成要素(33、34)を、前記一体構成部に取付けることを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項9】
前記水沈降分離装置(16)からの排水用に、少なくとも1個の弁装置(17)を、前記一体構成部(7)に組込んで形成することを特徴とする、請求項1乃至8の1項に記載の装置。
【請求項10】
ウォータトラップ(27)を、前記一体構成部(7)に一体的に形成することを特徴とする、請求項1乃至9の1項に記載の装置。
【請求項11】
前記ウォータトラップ(27)を、前記混合領域(7.4)の後に燃料の流れ方向に組込むことを特徴とする、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
再循環搬送ユニット(13)を、前記一体構成部(7)に取付け、前記装置を通して未使用の燃料を、燃料電池(2)のアノード(3)の後方領域から該アノード(3)の前方領域に、導入し戻せることを特徴とする、請求項1乃至11の1項に記載の装置。
【請求項13】
再循環搬送装置(13)を、前記一体構成部(7)に少なくとも部分的に組込み、前記装置を通して未使用の燃料ガスを、燃料電池(2)のアノード(3)の後方領域から該アノード(3)の前方領域に、導入し戻せることを特徴とする、請求項1乃至11の1項に記載の装置。
【請求項14】
電気/電子部品ユニット(25、33)を、前記一体構成部(7)に取付けることを特徴とする、請求項1乃至8の1項に記載の装置。
【請求項15】
前記一体構成部(7)を、自立型ユニットとして形成することを特徴とする、請求項1乃至14の1項に記載の装置。
【請求項16】
前記一体構成部(7)を、燃料電池(2)のエンドプレートとして形成することを特徴とする、請求項1乃至14の1項に記載の装置。
【請求項17】
輸送手段、特にレールの無い農作業車の燃料電池システム(1)における請求項1乃至16の1項に記載の前記装置の使用。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−501055(P2012−501055A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524252(P2011−524252)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006223
【国際公開番号】WO2010/022950
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】