説明

燃料電池システム

【課題】内部加湿方式の燃料電池システムにおいて、燃料電池の運転条件や環境条件に因らずに燃料電池内部の水分バランスを常に最適な状態に保てるようにして、フラッディングの発生を有効に抑制できるようにする。
【解決手段】制御ユニット2に、基準圧力設定手段31、湿潤状態判定手段32、目標圧力設定手段33、反応ガス圧力制御手段34、純水圧力制御手段35の各手段を設ける。基準圧力設定手段31は、要求出力及び燃料電池温度に基づき反応ガス及び純水の基準圧力を設定し、湿潤状態判定手段32が燃料電池の湿潤状態を判定する。そして、燃料電池が水過剰状態にある場合には、目標圧力設定手段33で、圧力差を増加させるように反応ガス或いは純水の基準圧力を補正してこれらの目標圧力を設定する。そして、反応ガス圧力制御手段34及び純水圧力制御手段35が、この目標圧力を実現するように、反応ガス供給系及び純水供給系の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型の燃料電池を使用した燃料電池システムに関し、特に燃料電池に直接純水を供給して加湿する内部加湿方式の燃料電池システムにおいて燃料電池内部の水分バランスを最適な状態に保つための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、反応ガスである水素を含む燃料ガスと空気等の酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、燃料の持つ化学エネルギを直接電気エネルギに変換するものである。燃料電池は、排気がクリーンであること、高エネルギ効率であること等から、大気汚染や二酸化炭素による地球温暖化の問題等に対処し得る技術として注目されている。
【0003】
燃料電池のアノード(燃料極)、カソード(酸化剤極)の両電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
【0004】
燃料極:2H→4H+4e ・・・(1)
酸化剤極:4H+4e+O→2HO ・・・(2)
燃料電池では、燃料極に水素が供給されると、燃料極で(1)式に示す反応が進行して水素が水素イオンと電子とに解離する。この水素イオンは電解質を透過(拡散)して酸化剤極に至り、電子は外部回路を通って酸化剤極に至る。このとき酸化剤極に空気等の酸化剤ガスが供給されていると、酸化剤極では(2)式の反応が進行する。この(1)式、(2)式に示す電極反応が各極で進行することで、燃料電池は起電力を生じることになる。
【0005】
燃料電池は、電解質の違い等により様々なタイプのものに分類されるが、その一つとして、電解質に固体高分子膜を用いる固体高分子型の燃料電池が知られている。固体高分子型燃料電池は、低コストで小型化、軽量化が容易であり、しかも高い出力密度を有することから、例えば車両用電源としての用途が期待されている。
【0006】
固体高分子型燃料電池の一般的な構成について説明すると、固体高分子型燃料電池では、固体高分子膜よりなる電極層の両側にアノード及びカソードとなる電極層が配置され、さらに各電極に接するようにガス拡散層がそれぞれ設けられる。これらを総合して膜・電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ぶ。そして、この膜・電極接合体を挟持するように、反応ガスである燃料ガスや酸化剤ガスを流通させる反応ガス流路を膜・電極接合体との対向面に設けた一対のセパレータが配置される。これらセパレータは、ガスマニホールドと呼ばれる貫通孔の内部を流れる燃料ガス或いは酸化剤ガスを、それぞれ反応ガス流路を介してアノードやカソードに供給する機能を有する。また、セパレータは、以上のようなガス供給機能だけでなく、膜・電極接合体で生じた起電力により流れる電流を、膜・電極接合体と接するリブ部を介して集電する役割を担う。
【0007】
これらを1つのユニットとして単セルと呼ぶ。固体高分子型の燃料電池は、通常、この単セルを直列に複数積層してスタックとしたものを指す。また、酸化剤極における電気化学反応は発熱反応であるため、その熱を冷却するための冷却液を流通させるため、冷却液流路を設けたセパレータが各単セル間、或いは所定の単セル数毎に挿入される場合もある。
【0008】
ところで、以上のような固体高分子型の燃料電池においては、固体高分子膜は、飽和含水することによりイオン伝導性電解質として機能するとともに、水素と酸素とを分離する機能も有する。固体高分子膜の含水量が不足すると、イオン抵抗が高くなり、水素と酸素とが混合して燃料電池としての発電ができなくなってしまう。一方で、発電により燃料極で分離した水素イオンが電解質膜を通るときには、水も一緒に移動するため、燃料極側は乾燥する傾向にある。また、供給する水素または空気に含まれる水蒸気が少ないと、それぞれの反応ガス入口付近で固体高分子膜が乾燥する傾向にある。
【0009】
このようなことから、固体高分子型燃料電池における固体高分子膜は、外部から水分を供給して積極的にこれを加湿する必要がある。そこで、固体高分子型燃料電池を備える燃料電池システムでは、通常、燃料ガスや酸化剤ガスを加湿した状態で燃料電池に供給することで、燃料電池の電解質として用いる固体高分子膜を積極的に加湿することが広く行われている。
【0010】
このように燃料電池に供給する燃料ガスや酸化剤ガスを加湿するタイプの燃料電池システムは外部加湿方式の燃料電池システムと呼ばれるが、この外部加湿方式の燃料電池システムでは、燃料電池の外部に燃料ガスや酸化剤ガスを加湿するための加湿器や水回収装置を設ける必要があり、部品点数の増加やシステム構成の複雑化が避けられない。そこで、近年では、燃料電池内部に純水を直接供給し、加湿を行う内部加湿方式の燃料電池システムが提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0011】
特許文献1にて開示される燃料電池システムでは、燃料電池の各単セルにおいて、膜・電極接合体のアノード側に隣接配置されるセパレータとカソード側に隣接配置されるセパレータとの少なくとも一方を多孔質材料よりなるポーラスプレートで構成し、この多孔質材料よりなるセパレータの反応ガス流路が形成された面とは逆側の面に純水流路を形成している。そして、この純水流路に純水を流通させて、反応ガス流路を流れる燃料ガスや酸化剤ガスとの間で多孔質材料よりなるセパレータを介して水分交換を行うことで、燃料電池内部での固体高分子膜の加湿を実現している。このような内部加湿方式の燃料電池システムでは、燃料ガス及び酸化剤ガスを加湿するための加湿器や水回収装置が不要となるため、システム構成を簡素化できるという利点がある。
【特許文献1】米国特許第6248462号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前述の特許文献1にて開示される燃料電池システムでは、燃料電池での電気化学反応により生成される水を純水流路へと回収させるため、反応ガスの圧力が純水の圧力よりも高くなるように、これらの圧力を制御している。ここで、反応ガス圧力と純水圧力との圧力制御は、これらの差圧が常に予め定められた規定値以上となるように行われるが、これらの差圧があまり高くなると、多孔質材料よりなるセパレータの水シールが機能しなくなって反応ガスが純水流路側へと漏れ出すという問題が生じるため、これらの差圧が規定値に近い値で落ち着くように圧力制御を行っていた。
【0013】
しかしながら、以上のような圧力制御を行った場合、高負荷時等、燃料電池での反応により多量の水が生成されたときに、この反応生成水を純水流路へと確実に回収させることが困難で、燃料電池内部が水過剰な状態となって反応ガス流路を液水が塞いでしまうフラッディング(水詰まり)と呼ばれる現象を生じさせてしまう場合がある。このフラッディングが発生すると、反応ガスの通流が阻害され、発電を安定して継続することが困難になる。
【0014】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みて創案されたものであって、内部加湿方式の燃料電池システムにおいて、燃料電池の運転条件や環境条件に因らずに燃料電池内部の水分バランスを常に最適な状態に保てるようにして、フラッディングの発生を有効に抑制することが可能な燃料電池システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の燃料電池システムは、固体高分子型の燃料電池を備え、この燃料電池内部に加湿用の純水を直接供給する内部加湿方式の燃料電池システムである。内部加湿方式の燃料電池システムでは、燃料電池に供給される反応ガスの圧力が純水の圧力よりも高くなるように制御されるが、特に本発明では、燃料電池が水過剰状態にあると判定されたときに、これら反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように、これらの圧力を制御するようにしている。
【0016】
そのための具体的な構成として、本発明の燃料電池システムは、燃料電池に供給される反応ガス及び純水の圧力を制御する制御装置を備え、この制御装置が、基準圧力設定手段、湿潤状態判定手段、目標圧力設定手段、動作制御手段の各手段を備えている。
【0017】
基準圧力設定手段では、燃料電池に要求される出力と燃料電池の温度とに基づいて、燃料電池に供給される反応ガス及び純水の基準圧力が設定される。また、湿潤状態判定手段では、燃料電池の湿潤状態が判定される。目標圧力設定手段は、湿潤状態判定手段によって燃料電池が水過剰状態にあると判定されたときに、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように、基準圧力設定手段で設定された基準圧力を補正して、目標圧力を設定する。そして、動作制御手段が、目標圧力設定手段で設定された目標圧力を実現するように、反応ガス供給系と純水供給系との動作制御を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料電池に要求される出力と燃料電池の温度とに基づいて反応ガス及び純水の基準圧力が設定され、燃料電池が水過剰状態にあると判定されたときには、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように基準圧力が補正されて目標圧力が設定され、この目標圧力を実現するように反応ガス供給系と純水供給系との動作制御が行われるので、燃料電池の運転条件や環境条件に因らず、常に燃料電池のフラッディング発生を有効に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した燃料電池システムの具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
本発明を適用した燃料電池システムの概略構成を図1に示す。この燃料電池システムは、電解質に固体高分子膜を用いた固体高分子型の燃料電池1を備え、この燃料電池1の内部に加湿用の純水を直接供給して加湿を行う内部加湿方式の燃料電池システムとして構成されている。そして、この燃料電池システムは、燃料電池1内部の湿潤状態を判定して、その判定結果に応じて燃料電池1に供給する反応ガス(燃料ガスや酸化剤ガス)の圧力と加湿用の純水の圧力との圧力差を制御する点に大きな特徴を有している。
【0021】
この燃料電池システムには、燃料電池1の他、主要な構成要素として、燃料電池1に水素を含む燃料ガスを供給する燃料ガス供給系、及び燃料電池1に空気等の酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系(反応ガス供給系)と、燃料電池1を最適な温度に保つための冷却液を供給する冷却液供給系と、燃料電池1に加湿用の純水を供給する純水供給系と、燃料電池システム全体の動作を制御する制御ユニット2とが設けられている。
【0022】
燃料ガス供給系は、水素タンク等の燃料ガス供給装置3を有し、この燃料ガス供給装置3から取り出された燃料ガスが、調圧バルブ4にて所望の圧力に調整された上で、燃料ガス供給配管5を介して燃料電池1のアノード側へと供給されるようになっている。
【0023】
燃料ガス供給配管5を流れる燃料ガスの圧力は圧力センサ6によって検出され、制御ユニット2が圧力センサ6の検出値をフィードバックして調圧バルブ4の動作を制御することによって、燃料電池1のアノード側の圧力が所望の圧力に保たれる。また、燃料電池1のアノード側出口には燃料ガス排出配管7が接続されており、燃料電池1のアノード側から排出されたアノードオフガスは、この燃料ガス排出配管7を通って外部に導かれる。
【0024】
酸化剤ガス供給系は、エアコンプレッサ等の酸化剤ガス供給装置8を有し、この酸化剤ガス供給装置8からの酸化剤ガスが、酸化剤ガス供給配管9を介して燃料電池1のカソード側へと供給されるようになっている。
【0025】
また、燃料電池スタック1のカソード側出口には酸化剤ガス排出配管10が接続されており、燃料電池1のカソード側から排出されたカソードオフガスは、この酸化剤ガス排出配管10を通って外部に導かれる。酸化剤ガス供給配管9を流れる酸化剤ガスの圧力は圧力センサ12によって検出される。また、酸化剤ガス排出配管10中には調圧バルブ13が設けられており、制御ユニット2が圧力センサ12の検出値をフィードバックしてこの調圧バルブ13の動作を制御することによって、燃料電池1のカソード側の圧力が所望の圧力に保たれるようになっている。
【0026】
冷却液供給系は、不凍液である冷却液を貯留する冷却液タンク14やこの冷却液を循環させる冷却液循環配管15及び冷却液ポンプ16を有し、例えば水にエチレングリコール等の凍結防止剤を混入した冷却液が、制御ユニット2によって動作制御される冷却液ポンプ16の駆動によって冷却液タンク14から取り出され、冷却液循環配管15を流れて燃料電池1に供給されるようになっている。
【0027】
冷却液循環配管15の中途部にはラジエータ17が設置されており、燃料電池1の冷却により加熱された冷却液は、このラジエータ17を通過する過程で図示しないラジエータファンの送風によって冷却される。また、冷却液循環配管15には、ラジエータ17と並列にバイパス配管18が接続されており、その分岐部分にはバイパスバルブ19が設けられている。冷却液循環配管15を流れる冷却液の温度は温度センサ20によって検出され、制御ユニット2が温度センサ20の検出値に基づいてバイパスバルブ19の動作を制御することによって、ラジエータ17を通過する冷却液流量とバイパス配管18を通過する冷却液流量とが調整されて、冷却液の温度制御が行われ、燃料電池1が最適な温度に保たれる。
【0028】
純水供給系は、燃料電池1の電解質として用いられている固体高分子膜を加湿するための純水を貯留する純水タンク21やこの純水を循環させる純水循環配管22及び純水ポンプ23を有し、制御ユニット2によって動作制御される純水ポンプ23の駆動によって純水タンク21から加湿用の純水が取り出され、純水循環配管22を流れて燃料電池1に供給されるようになっている。
【0029】
純水循環配管22を流れる加湿用の純水の圧力は圧力センサ24によって検出され、制御ユニット2が圧力センサ24の検出値に基づいて純水ポンプ23の動作を制御することによって、燃料電池1に供給される純水の圧力が所望の圧力に保たれるようになっている。また、純水タンク21には水位センサ25及び排水バルブ26が設置されており、水位センサ25の検出値から純水量が過剰となっていると判断される場合には、制御ユニット2が排水バルブ26を開放することによって、余剰の純水を外部に排出できるようになっている。
【0030】
また、本発明を適用した燃料電池システムでは、燃料電池1に温度センサ27及びセル電圧センサ28が設置されており、これら温度センサ27及びセル電圧センサ28によって、燃料電池1の温度と、燃料電池1を構成する各単セルの電圧とを検出できるようになっている。これら温度センサ27やセル電圧センサ28の検出値は、他のセンサ検出値と同様に制御ユニット2へと送られる。
【0031】
制御ユニット2は、上述したように、燃料電池システム全体の動作制御を行うものであるが、特に、本発明を適用した燃料電池システムでは、この制御ユニット2が、燃料電池1内部の湿潤状態を判定して、その判定結果に応じて、燃料ガス供給系から燃料電池1のアノード側に供給される燃料ガス、或いは酸化剤ガス供給系から燃料電池1のカソード側に供給される酸化剤ガス(以下、燃料ガスと酸化剤ガスとを特に区別しないときは反応ガスと総称する。)の圧力と、純水供給系から燃料電池1に供給される加湿用の純水の圧力との圧力差を制御する機能を有している。
【0032】
図2は、制御ユニット2に実現される機能のうちで、本発明を適用した燃料電池システムに特徴的な機能に関わる部分を表す機能ブロック図である。この図2に示すように、本発明を適用した燃料電池システムでは、制御ユニット2が、基準圧力設定手段31と、湿潤状態判定手段32と、目標圧力設定手段33と、反応ガス圧力制御手段34と、純水圧力制御手段35とを有している。
【0033】
基準圧力設定手段31は、燃料電池1に要求される出力と温度センサ27によって検出される燃料電池1の温度とに基づいて、燃料電池1に供給される反応ガスの基準圧力PBASE_Rと、燃料電池1に供給される加湿用の純水の基準圧力PBASE_Wとを設定するものである。ここで、反応ガスの基準圧力PBASE_Rと純水の基準圧力PBASE_Wとは、反応ガスの基準圧力PBASE_Rが純水の基準圧力PBASE_WよりもΔP1分だけ高くなるように、すなわち反応ガスの基準圧力PBASE_Rと純水の基準圧力PBASE_Wとの圧力差がΔP1となるように設定される。
【0034】
湿潤状態判定手段32は、セル電圧センサ28によって検出される燃料電池1のセル電圧に基づいて、燃料電池1の湿潤状態を判定するものである。すなわち、燃料電池1が水過剰状態となると、セル電圧の変動幅が大きくなる傾向にあるので、湿潤状態判定手段32はセル電圧センサ28によって検出されるセル電圧の変動幅に基づいて、燃料電池1が水過剰状態となっているか否かを判定する。また、燃料電池1が乾燥状態となると、セル電圧が低下してくる傾向にあるので、湿潤状態判定手段32はセル電圧センサ28によって検出されるセル電圧の低下度合いに基づいて、燃料電池1が乾燥状態となっているか否かを判定する。
【0035】
目標圧力設定手段33は、湿潤状態判定手段32によって判定された燃料電池1の湿潤状態に応じて、基準圧力設定手段31で設定された反応ガスの基準圧力PBASE_R、或いは純水の基準圧力PBASE_Wを補正して、反応ガスの目標圧力PTARGET_Rと純水の目標圧力PTARGET_Wとを設定するものである。すなわち、湿潤状態判定手段32によって燃料電池1の湿潤状態が適正範囲内にあり、水過剰状態にも乾燥状態にもなっていないと判定された場合には、目標圧力設定手段33は、基準圧力設定手段31で設定された反応ガスの基準圧力PBASE_R及び純水の基準圧力PBASE_Wをそのまま反応ガスの目標圧力PTARGET_R及び純水の目標圧力PTARGET_Wとして設定するが、湿潤状態判定手段32によって燃料電池1が水過剰状態にあると判定された場合には、目標圧力設定手段33は、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差がΔP1よりも大きくなるように、反応ガスの基準圧力PBASE_R或いは純水の基準圧力PBASE_Wを補正して、反応ガスの目標圧力PTARGET_Rと純水の目標圧力PTARGET_Wとを設定する。また、湿潤状態判定手段32によって燃料電池1が乾燥状態にあると判定された場合には、目標圧力設定手段33は、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差がΔP1よりも小さくなるように、反応ガスの基準圧力PBASE_R或いは純水の基準圧力PBASE_Wを補正して、反応ガスの目標圧力PTARGET_Rと純水の目標圧力PTARGET_Wとを設定する。
【0036】
反応ガス圧力制御手段34は、目標圧力設定手段33で設定された反応ガスの目標圧力PTARGET_Rを実現するように、燃料ガス供給系に設けられた調圧バルブ4、或いは酸化剤ガス供給系に設けられた調圧バルブ13の動作を制御するものである。すなわち、反応ガス圧力制御手段34は、燃料電池1に供給される燃料ガスの圧力を制御する場合には、圧力センサ6によって検出される燃料ガスの圧力が、目標圧力設定手段33で設定された反応ガスの目標圧力PTARGET_Rとなるように、調圧バルブ4に対して駆動指令を出力して、この調圧バルブ4の動作を制御する。また、反応ガス圧力制御手段34は、燃料電池1に供給される酸化剤ガスの圧力を制御する場合には、圧力センサ12によって検出される酸化剤ガスの圧力が、目標圧力設定手段33で設定された反応ガスの目標圧力PTARGET_Rとなるように、調圧バルブ13に対して駆動指令を出力して、この調圧バルブ13の動作を制御する。
【0037】
純水圧力制御手段35は、目標圧力設定手段33で設定された純水の目標圧力PTARGET_Wを実現するように、純水供給系に設けられた純水ポンプ23の動作を制御するものである。すなわち、純水圧力制御手段35は、圧力センサ24によって検出される純水の圧力が、目標圧力設定手段33で設定された純水の目標圧力PTARGET_Wとなるように、純水ポンプ23に対して駆動指令を出力して、この純水ポンプ23の動作を制御する。
【0038】
本発明を適用した燃料電池システムでは、制御ユニット2における以上の各手段での処理によって、燃料電池1に要求される出力と燃料電池1の温度とに基づいて反応ガス及び純水の基準圧力が設定され、燃料電池1が水過剰状態にあると判定されたときには、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように基準圧力が補正されて目標圧力が設定され、また、燃料電池1が乾燥状態にあると判定されたときには、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を減少させるように基準圧力が補正されて目標圧力が設定され、この目標圧力を実現するように反応ガス供給系と純水供給系との動作制御が行われることになる。
【0039】
図3は、本実施形態の燃料電池システムで使用される固体高分子型の燃料電池1の単セル構造を示す断面図である。この燃料電池1の単セルは、図3に示すように、膜・電極接合体41と、アノードセパレータ42及びカソードセパレータ43と、冷却プレート44とから構成される。
【0040】
膜・電極接合体41は、固体高分子膜よりなる電解質層の両面にアノード及びカソードとなる電極層が配置され、さらに各電極に接するようにガス拡散層がそれぞれ設けられてなる。固体高分子膜は、例えばフッ素樹脂系イオン交換膜等のイオン(プロトン)伝導性を有する膜であり、飽和含水することによりイオン伝導性電解質として機能する。また、電極層は、白金または、白金とその他の金属からなる触媒を含有するカーボンからなり、触媒の存在する面が電解質層と接触するように形成されている。ガス拡散層は、ガス拡散効果によって電極層に反応ガスを供給するものである。
【0041】
この膜・電極接合体41では、アノード側に燃料ガスが供給されると、燃料ガス中の水素が水素イオン(プロトン)と電子とに解離し、水素イオンは電解質層を通過し、電子は外部回路を通って電力を発生させ、カソード側へとそれぞれ移動する。このときカソード側に酸化剤ガスが供給されていると、カソード側では酸化剤ガス中の酸素とアノード側から移動してきた水素イオン及び電子が反応して水が生成される。
【0042】
アノードセパレータ42及びカソードセパレータ43は、膜・電極接合体41のアノード側に燃料ガス、カソード側に酸化剤ガスをそれぞれ供給すると共に、膜・電極接合体41で生じた起電力により流れる電流を集電する機能を有するものであり、膜・電極接合体41をその両側から挟み込むようにして各々配置されている。アノードセパレータ42の膜・電極接合体41と接する面には、燃料ガスを流通させる燃料ガス流路42aが形成されている。また、カソードセパレータ42の膜・電極接合体41と接する面には、酸化剤ガスを流通させる酸化剤ガス流路43aが形成されている。
【0043】
また、冷却プレート44は、冷却液を流通させて燃料電池1の温度調整を行うためのものであり、冷却液を流通させる冷却液流路44aが形成されて、例えば各単セル毎に1枚ずつ配置されている。
【0044】
本発明を適用した燃料電池システムは内部加湿方式の燃料電池システムであるので、燃料電池1の単セルを構成するアノードセパレータ42とカソードセパレータ43の少なくとも何れか一方のセパレータ(本実施形態ではカソードセパレータ43)は、多孔質材料よりなるポーラスプレートで構成されている。また、他方のセパレータ(本実施形態ではアノードセパレータ42)と冷却プレート44がソリッドプレートで構成されている。そして、ポーラスタイプのカソードセパレータ43には、酸化剤ガス流路43aが形成された面とは逆側の面に、加湿用の純水を流通させる純水流路43bが形成されている。この純水流路43bに純水を流通させることで、ポーラスタイプのカソードセパレータ43内部の空間(孔)は純水で満たされることになる。ポーラスタイプのカソードセパレータ43は、このように内部の空間が純水で満たされることによって、この水によるシール機能が働いて、酸化剤ガス流路43aを流れる酸化剤ガスが純水流路43b側へと漏れ出すことが防止される。
【0045】
なお、本実施形態ではカソードセパレータ43のみをポーラスタイプとしているが、アノードセパレータ42のみにポーラスプレートを用いる、或いはアノードセパレータ42とカソードセパレータ43の両方にポーラスプレートを用いるようにしてもよい。
【0046】
図4は、ポーラスタイプのセパレータであるカソードセパレータ43の平面図であり、図4(a)が酸化剤ガス流路43aが形成された面、図4(b)が純水流路43bが形成された面をそれぞれ示している。上述したように、燃料電池1には反応ガスである燃料ガス及び酸化剤ガスと、温度調整のための冷却液と、加湿用の純水とが供給されるので、各単セルのセパレータ42,43及び冷却プレート44には、燃料ガス供給マニホールド45及び燃料ガス排出マニホールド46、酸化剤ガス供給マニホールド47及び酸化剤ガス排出マニホールド48、冷却液供給マニホールド49及び冷却液排出マニホールド50、純水供給マニホールド51及び純水排出マニホールド52の計8つのマニホールドが、厚み方向に貫通するように形成されている。
【0047】
カソードセパレータ43の酸化剤ガス流路43aは、図4(a)に示すように、入口側平行流路を流れる酸化剤ガスが集合流路で折り返されて出口側平行流路を流れるリターンタイプのフローパターンとされており、入口側平行流路が酸化剤ガス供給マニホールド47に、出口側平行流路が酸化剤ガス排出マニホールド48にそれぞれ接続されている。また、カソードセパレータ43の純水流路43bは、図4(b)に示すように、酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路及び出口側平行流路とは直交する方向に形成された平行流路を、入口側から出口側に向かって純水が流れるフローパターンとされており、平行流路の一端側が純水供給マニホールド51に接続され、平行流路の他端が純水排出マニホールド52に接続されている。そして、純水流路43bを流れる純水は、酸化剤ガス流路43a側で見ると、出口側平行流路から入口側平行流路に向かって、これらと直交する方向に流れるようになっている。
【0048】
したがって、酸化剤ガス供給マニホールド47から酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路に流れ込んだ乾燥状態の酸化剤ガスは、この入口側平行流路を流れる過程で、純水流路43bを流れる純水によって加湿されることになる。また、集合流路で折り返されて出口側平行流路を流れる酸化剤ガスは、発電反応によって生じる生成水で水分過剰になる場合があるが、この出口側平行流路を流れる酸化剤ガスの水分過剰によって凝縮水が発生すると、その凝縮水が純水流路43bの上流側へと受け渡され、純水流路43bの上流側から下流側へと流れることで、酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路での加湿に供される。
【0049】
カソードセパレータ43内における水移動の様子を図5に示す。なお、図5(a)は酸化剤ガス流路43aの出口側平行流路の部分(図4中のA−A線)の断面図であり、図5(b)は酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路の部分(図4中のB−B線)の断面図である。
【0050】
多孔質材料であるポーラスプレートよりなるカソードセパレータ43内部には、多数の空間(孔)が存在するため、この空間を通じてカソードセパレータ43内部を水が移動できるようになっている。ここで、水が移動するドライビングフォースは毛細管力であるため、水は余剰部分から不足部分へと自然に移動していくことになる。したがって、酸化剤ガス流路43aの出口側平行流路の部分では、図5(a)に示すように、生成水の凝縮によって酸化剤ガス流路43a表面に形成された液相の水がカソードセパレータ43内部を純水流路43b側に向かって移動する。一方、酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路の部分では、図5(b)に示すように、酸化剤ガスの加湿によって酸化剤ガス流路43a表面で水が気化してカソードセパレータ43内部の水を奪うので、純水流路43bを流れる純水がカソードセパレータ43内部を酸化剤ガス流路43a側に向かって移動する。このようなカソードセパレータ43内部での水の動きによって、カソードセパレータ43内部に常に充分な水が存在することになり、この水で酸化剤ガスが加湿されて膜・電極接合体41に供給されることで、膜・電極接合体41の固体高分子膜の水分が最適に保たれることになる。また、このとき、酸化剤ガス流路43aを流れる酸化剤ガスは、カソードセパレータ43に水シール機能が働いているので、純水流路43b側へと漏れ出すことはない。
【0051】
以上のように、カソードセパレータ43にポーラスプレートを用いた燃料電池1では、当該燃料電池1での電気化学反応によって生じる生成水が、主に酸化剤ガス流路43aの出口側平行流路の部分で凝縮して液水となったものを、カソードセパレータ43を介して純水流路43b側へと回収して酸化剤ガス流路43a上流側での加湿に用いることで、燃料電池1内部での水分バランスを保つようにしている。ここで、酸化剤ガス流路43aの出口側平行流路の部分で、液水となった生成水をカソードセパレータ43内部を通じて純水流路43b側へと適切に回収させるためには、酸化剤ガス流路43a側の圧力、すなわち酸化剤ガスの圧力が、純水流路43b側の圧力、すなわち純水の圧力よりも高くなっていることが必要であり、このような燃料電池1を備える燃料電池システムでは、酸化剤ガス及び燃料ガス(反応ガス)の圧力を、純水の圧力よりも高い圧力となることを前提条件として、これらの圧力を制御している。
【0052】
このとき、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差が大きいほど、酸化剤ガス流路43aの出口側平行流路の部分で液水となった生成水が純水流路43b側へと回収され易くなる。したがって、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差が大きいほど、フラディングを防止する効果が高まることになり、フラッディング防止の観点からは、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を大きくする方が有利となる。フラッディングとは、電気化学反応によって発生した生成水が反応面から除去できずに、反応面への反応ガスの供給が不安定になることにより、燃料電池1での適切な発電が阻害される現象をいう。
【0053】
また、その一方で、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差が大きいほど、酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路の部分では、純水流路43b側から酸化剤ガス流路43a側へと移動する純水の移動スピードが低下するため、加湿が不十分なドライアウトと呼ばれる現象を生じやすくなり、ドライアウト防止の観点からは、反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を小さくする方が有利となる。ドライアウトとは、純水流路43bからカソードセパレータ43を介して酸化剤ガス流路43a側へと移動する水分量が不足し、加湿量が十分となって膜・電極接合体41の固体高分子膜が乾燥することによって、燃料電池1での適切な発電が阻害される現象をいう。
【0054】
図6は、酸化剤ガス流路43a中の酸化剤ガス圧力と純水流路43b中の純水圧力との関係を示したものである。上述したように、これら酸化剤ガス流路43a及び純水流路43bでは、常に酸化剤ガスの圧力が純水の圧力よりも高くなるように、これらの圧力が制御されている。ここで、酸化剤ガスの流路出口側の圧力と純水の流路入口側の圧力との圧力差をΔPとすると、このΔPが流路中における酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差の最小値となる。この圧力差の最小値であるΔPをある程度確保しておかないと、フラッディングが発生することになる。
【0055】
また、酸化剤ガスの流路入口側の圧力と純水の流路出口側の圧力との圧力差をΔPとすると、このΔPが流路中における酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差の最大値となる。この圧力差の最大値であるΔPが、カソードセパレータ43のバブルプレッシャであるΔPよりも大きくなると、カソードセパレータ43の水シールが機能しなくなって、酸化剤ガス流路43a側から純水流路43b側へと酸化剤ガスが漏れ出してしまうことになるので、ΔPはΔPよりも小さくする必要がある。
【0056】
図7は、酸化剤ガスの流路入口側の圧力と純水の流路出口側の圧力との圧力差ΔPの大きさと、酸化剤ガス流路43a側から純水流路43b側への酸化剤ガスの漏れ量との関係を示したものである。この図7に示すように、ΔPがΔPよりも小さい値に保たれていれば、酸化剤ガス流路43a側から純水流路43b側へと酸化剤ガスが漏れ出すことはないが、ΔPがΔPを越えると酸化剤ガスのガス漏れが始まり、ΔPが大きくなるにつれて、酸化剤ガスの漏れ量が急激に増加することになる。
【0057】
燃料電池システムでは、燃料電池1に要求される要求出力に応じて燃料電池1へと供給する燃料ガス及び酸化剤ガス(反応ガス)の流量が決定される。このとき、反応ガスの圧損の増加を抑えるために、反応ガスの流量変化に伴って反応ガスの圧力も変化させるようにしているが、反応ガス(本実施形態では酸化剤ガス)の圧力との純水の圧力との圧力差は、上述したように燃料電池1内部における水バランスに大きく影響するので、これらの圧力差を最適に制御することが望まれる。ここで、流路中における酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差の最小値ΔPが常に既定値以上となるようにこれらの圧力差を制御すると、システムの運転状況によっては、流路中における酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差の最大値ΔPがカソードセパレータ43のバブルプレッシャΔPよりも大きくなって、酸化剤ガスのガス漏れが生じてしまう場合がある。
【0058】
そこで、本実施形態の燃料電池システムでは、制御ユニット2が燃料電池1の湿潤状態を判定し、その判定結果に応じて酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を最適な状態に制御するようにしている。具体的には、燃料電池1が水過剰状態にあってフラッディングが発生する状況にある場合には、これらの圧力差を増加させて、カソードセパレータ43の酸化剤流路43a側から純水流路43b側への水の移動を積極的に生じさせ、燃料電池1での電気化学反応によって発生した生成水を反応面から除去できるようにしている。また、燃料電池1が乾燥状態にあってドライアウトが発生する状況にある場合には、これらの圧力差を減少させて、カソードセパレータ43の純水流路43b側から酸化剤流路43a側への水の移動を積極的に生じさせ、このカソードセパレータ43内部を移動する水によって十分な加湿が行われるようにしている。
【0059】
ここで、燃料電池1の湿潤状態は、セル電圧センサ28によって検出される燃料電池1のセル電圧に基づいて判定することが可能である。
【0060】
燃料電池1の湿潤状態が標準状態のときのセル電圧の変化の様子を図8(a)、水過剰状態のときのセル電圧の変化の様子を図8(b)にそれぞれ示す。これら図8(a)及び図8(b)に示すように、燃料電池1の内部が水過剰状態となると、電気化学反応によって発生する生成水が反応面から確実に除去されずに、反応ガスの供給が不安定となるため、標準の湿潤状態のときと比べて、セル電圧に大きなばらつきが発生することになる。したがって、このセル電圧Vのばらつきとして、例えば標準偏差σVを見ることによって、燃料電池1内部の水過剰状態によるフラッディングの発生を予測することができる。
【0061】
本実施形態の燃料電池システムでは、制御ユニット2でこのセル電圧Vの標準偏差σVから燃料電池1が水過剰状態となっているか否か判定し、フラッディングの発生が予測される場合には、酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように、これらの圧力差を制御することによって、生成水を反応面から除去できるようにしている。
【0062】
燃料電池1の湿潤状態が標準状態のときのセル電圧の変化の様子を図9(a)、乾燥状態のときのセル電圧の変化の様子を図9(b)にそれぞれ示す。これら図9(a)及び図9(b)に示すように、燃料電池1の内部が乾燥状態となると、膜・電極接合体41の固体高分子膜が乾燥してセル抵抗が増加するため、標準の湿潤状態のときと比べて、セル電圧が低下することになる。したがって、このセル電圧の低下代ΔVを見ることによって、燃料電池1内部の乾燥状態によるドライアウトの発生を予測することができる。
【0063】
本実施形態の燃料電池システムでは、制御ユニット2でこのセル電圧の低下代ΔVから燃料電池1が乾燥状態となっているか否かを判定し、ドライアウトの発生が予測される場合には、酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を減少させるように、これらの圧力差を制御することによって、純水流路43b側から酸化剤ガス流路43a側へと純水が流れ易くなるようにしている。
【0064】
ここで、本実施形態の燃料電池システムで特徴的な制御ユニット2による差圧制御の一例について、図10のフローチャートに沿って具体的に説明する。
【0065】
制御ユニット2は、先ず、ステップS101において、燃料電池1に要求される要求出力Wと、温度センサ27によって検出される燃料電池1の温度検出値Tとを読み込む。なお、ここでは燃料電池1の温度として温度センサ27によって検出される燃料電池1自体の温度検出値を用いているが、燃料電池1に供給される冷却液の温度が燃料電池1の温度を反映しているので、この冷却液の温度を温度センサで検出してその検出値を用いるようにしてもよい。
【0066】
そして、ステップS102において、これら読み込んだ要求出力Wと温度検出値Tとに基づいて、反応ガス(ここでは酸化剤ガス)の基準圧力PBASE_Rと、加湿用の純水の基準圧力PBASE_Wとを設定する(基準圧力設定手段31)。ここで、反応ガスの基準圧力PBASE_Rは、図11に示すようなマップを用いて算出する。この図11に示すように、反応ガスの基準圧力PBASE_Wは、燃料電池1に要求される要求出力Wが高いほど、また、燃料電池1の温度検出値Tが高いほど高い値に設定される。なお、燃料電池1の温度が低いときに反応ガス圧力を下げるのは、その圧力低下分を反応ガスの流量増加によって賄うことでガスの流速を高くし、生成水を押し流すためである。また、純水の基準圧力PBASE_Wは、図12に示すようなマップを用いて算出する。この図12に示すように、純水の基準圧力PBASE_Wは、燃料電池1に要求される要求出力Wが高いほど高い値に設定される。
【0067】
次に、制御ユニット2は、ステップS103において、セル電圧センサ28によって検出される燃料電池1のセル電圧検出値Vを読み込む。そして、ステップS104において、セル電圧Vの降下代ΔVに基づいて、燃料電池1内部が乾燥状態にあるか否かを判定する(湿潤状態判定手段32)。具体的には、セル電圧Vの降下代ΔVと所定の判定閾値ΔV0(例えば1mV/hour)とを比較して、セル電圧降下代ΔVが閾値ΔV0を越えていれば、燃料電池1内部がドライアウトに繋がる乾燥状態にあると判定して次のステップS105に進み、セル電圧降下代ΔVが閾値ΔV0以下であればステップS107へと処理を移行する。
【0068】
ステップS104で燃料電池1内部がドライアウトに繋がる乾燥状態にあると判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS105において、純水の基準圧力PBASE_Wに対する補正値αを設定し、ステップS106において、純水の基準圧力PBase_Wを補正値αで補正して、純水の目標圧力PTARGET_W(PTARGET_W=PBASE_W+α)を設定する(目標圧力設定手段33)。ここで、基準圧力PBASE_Wに対する補正値αは、例えば1kPaとする。なお、本例では、反応ガスの目標圧力PTARGET_Rについては、ステップS102で設定した反応ガスの基準圧力PBASE_Rがそのまま反応ガスの目標圧力PTARGET_Rとして設定される。
【0069】
一方、ステップS104で燃料電池1内部が乾燥状態にないと判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS107において、セル電圧検出値Vのばらつき(標準偏差)σVに基づいて、燃料電池1内部が水過剰状態にあるか否かを判定する(湿潤状態判定手段32)。具体的には、セル電圧VのばらつきσVと所定の判定閾値σV0(例えば5mV)とを比較して、セル電圧ばらつきσVが閾値σV0を越えていれば、燃料電池1内部がフラッディングに繋がる水過剰状態にあると判定して次のステップS108に進み、セル電圧ばらつきσVが閾値σV0以下であればステップS112へと処理を移行する。
【0070】
ステップS107で燃料電池1内部がフラッディングに繋がる水過剰状態にあると判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS108において、純水の基準圧力PBase_Wに対する補正値βを設定し、ステップS109において、純水の基準圧力PBASE_Wを補正値βで補正した純水の目標圧力PTARGET_W(PTARGET_W=PBASE_W−β)を設定する(目標圧力設定手段33)。ここで、基準圧力PBASE_Wに対する補正値βは、例えば2kPaとする。なお、この場合も、反応ガスの目標圧力PTARGET_Rについては、ステップS102で設定した反応ガスの基準圧力PBASE_Rがそのまま反応ガスの目標圧力PTARGET_Rとして設定される。
【0071】
次に、制御ユニット2は、ステップS110において、反応ガス(本例では酸化剤ガス)の圧力と純水の圧力とをステップS109で設定した目標圧力とした場合における、カソードセパレータ43内でのこれらの圧力差の最大値ΔPを求める。そして、ステップS111において、この圧力差の最大値ΔPが、カソードセパレータ43のバブルプレッシャであるΔPよりも大きくなるかどうかを判定する。この判定の結果、圧力差の最大値ΔPがΔP以下であれば、ステップS109で設定した純水の目標圧力PTARGET_W(PTARGET_W=PBASE_W−β)が維持されるが、圧力差の最大値ΔPがΔPよりも大きくなると判定された場合には、ガス漏れが生じる懸念があるので、次のステップS112において、純水の目標圧力PTARGET_Wを補正値βで補正する前の圧力、すなわちステップS102で設定した純水の基準圧力PBASE_Wに戻す。
【0072】
また、ステップS104で燃料電池1内部が乾燥状態にないと判定し、且つ、ステップS107で燃料電池1内部が水過剰状態でもないと判定した場合にも、ステップS112において、ステップS102で設定した純水の基準圧力PBASE_Wがそのまま純水の目標圧力PTARGET_Wとして設定され、また、ステップS102で設定した反応ガスの基準圧力PBASE_Rがそのまま反応ガスの目標圧力PTARGET_Rとして設定される。
【0073】
最後に、制御ユニット2は、ステップS113において、ステップS106、またはステップS109、またはステップS112で設定した目標圧力PTARGET_R、PTARGET_Wを実現するように、反応ガス供給系の動作(本例では酸化剤ガス供給系の調圧バルブ13の動作)を制御する(反応ガス圧力制御手段34)と共に、純水供給系の純水ポンプ23の動作を制御して(純水圧力制御手段35)、リターンする。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、制御ユニット2が燃料電池1の湿潤状態を判定し、燃料電池1内部がドライアウトに繋がるような乾燥状態にあるときは、反応ガス(本例では酸化剤ガス)の圧力と純水の圧力との圧力差を減少させて、純水流路43b側から反応ガス流路(本例では酸化剤ガス流路43a)側への水分移動を積極的に生じさせるようにしていると共に、燃料電池1内部がフラッディングに繋がるような水過剰状態にあるときには、反応ガス(本例では酸化剤ガス)の圧力と純水の圧力との圧力差をポーラスプレートのバブルプレッシャを越えない範囲で増加させて、反応ガス流路(本例では酸化剤ガス流路43a)側から純水流路43b側への水分移動を積極的に生じさせるようにしているので、燃料電池1の運転条件や環境条件に因らず、常に燃料電池1内部の水分バランスを最適な状態に保って、ドライアウトの発生やフラッディングの発生を有効に抑制することができる。
【0075】
なお、以上説明した例では、カソードセパレータ43をポーラスプレートで構成し、このカソードセパレータ43内部を通じて水分を移動させることを前提として、燃料電池1の湿潤状態に応じて酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を制御するようにしているが、アノードセパレータ42をポーラスプレートで構成し、このアノードセパレータ42内部を通じて水分を移動させる場合には、上述した例と同様に、燃料電池1の湿潤状態に応じて燃料ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を制御するようにすれば、同様の効果を得ることができる。
【0076】
(第2の実施形態)
次に、本発明を適用した燃料電池システムの第2の実施形態について説明する。本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池1のアノードセパレータ42とカソードセパレータ43の双方をポーラスプレートで構成し、反応ガスと純水の圧力差を反応ガスの圧力で制御するようにした点に特徴を有するものである。なお、基本的なシステム構成は上述した第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分について詳しく説明する。
【0077】
図13は、本実施形態の燃料電池システムで使用される固体高分子型の燃料電池1の単セル構造を示す断面図である。本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1では、アノードセパレータ42とカソードセパレータ43の双方がポーラスプレートで構成されている。そして、カソードセパレータ43に純水流路43bが形成されている点は第1の実施形態で使用した燃料電池1(図3参照)と同様であるが、本実施形態で使用する燃料電池1では、アノードセパレータ42の燃料ガス流路42aが形成された面とは逆側の面にも、加湿用の純水を流通させる純水流路42bが形成されている。
【0078】
この燃料電池1では、アノードセパレータ42に形成された純水流路42bに純水を流通させることで、カソードセパレータ43と同様に、アノードセパレータ42内部の空間(孔)も純水で満たされることになる。そして、このように内部の空間が純水で満たされることによって、アノードセパレータ42に水シール機能が働いて、燃料ガス流路42aを流れる燃料ガスが純水流路42b側へと漏れ出すことが防止される。
【0079】
また、本実施形態で使用する燃料電池1では、アノードセパレータ42とカソードセパレータ43の双方がポーラスプレートで構成されたことに伴い、ソリッドプレートよりなる冷却プレート44は、冷却液流路44aがプレート内部を貫通するように形成されて、冷却液流路44aを流れる冷却液がアノードセパレータ42やカソードセパレータ43側に漏れ出すことが防止されている。
【0080】
図14は、本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1における燃料ガス流路42a中の燃料ガスの圧力と、酸化剤ガス流路43a中の酸化剤ガス圧力と、純水流路42b,43b中の純水圧力との関係を示したものである。この燃料電池1においては、フラッディングを防止するためには、酸化剤ガスの流路出口側の圧力と純水の流路入口側の圧力との圧力差ΔPだけでなく、燃料ガスの流路出口側の圧力と純水の流路入口側の圧力との圧力差ΔPについても考慮する必要があるが、フラッディングが発生し易いのは、電気化学反応によって生成水が発生するカソード側である。そこで、本実施形態の燃料電池システムでは、燃料電池1の湿潤状態を判定して、燃料電池1内部が水過剰状態にあるときは酸化剤ガスの圧力調整によって、酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように制御するようにしている。
【0081】
また、一方で、ドライアウトが発生し易いのは、水素イオンが固体高分子膜を通過する際に水分が奪われるアノード側である。そこで、本実施形態の燃料電池システムでは、燃料電池1の湿潤状態を判定して、燃料電池1内部が乾燥状態にあるときは燃料ガスの圧力調整によって、燃料ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を減少させるように制御するようにしている。
【0082】
ここで、本実施形態の燃料電池システムにおいて、制御ユニット2により実行される差圧制御の一例について、図15のフローチャートに沿って具体的に説明する。
【0083】
燃料ガス及び酸化剤ガス(反応ガス)と純水との差圧制御を行う場合、制御ユニット2は、先ず、ステップS201において、燃料電池1に要求される要求出力Wと、温度センサ27によって検出される燃料電池1の温度検出値Tとを読み込んで、ステップS202において、これら読み込んだ要求出力Wと温度検出値Tとに基づいて、燃料ガスの基準圧力PBASE_RFと、酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAと、加湿用の純水の基準圧力PBASE_Wとを設定する(基準圧力設定手段31)。ここで、燃料ガスの基準圧力PBASE_RFと酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAとは、これらの圧力差が固体高分子膜の耐圧特性を上回ることがない範囲内で設定される。
【0084】
次に、制御ユニット2は、ステップS203において、セル電圧センサ28によって検出される燃料電池1のセル電圧検出値Vを読み込んで、ステップS204において、セル電圧Vの降下代ΔVに基づいて、燃料電池1内部が乾燥状態にあるか否かを判定する(湿潤状態判定手段32)。具体的には、セル電圧Vの降下代ΔVと所定の判定閾値ΔV0(例えば1mV/hour)とを比較して、セル電圧降下代ΔVが閾値ΔV0を越えていれば、燃料電池1内部がドライアウトに繋がる乾燥状態にあると判定して次のステップS205に進み、セル電圧降下代ΔVが閾値ΔV0以下であればステップS207へと処理を移行する。
【0085】
ステップS204で燃料電池1内部がドライアウトに繋がる乾燥状態にあると判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS205において、燃料ガスの基準圧力PBASE_RFに対する補正値αを設定し、ステップS206において、燃料ガスの基準圧力PBASE_RFを補正値αで補正して、燃料ガスの目標圧力PTARGET_RF(PTARGET_RF=PBASE_RF−α)を設定する(目標圧力設定手段33)。ここで、燃料ガスの基準圧力PBASE_RFに対する補正値αは、例えば1kPaとする。なお、ここでは、酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RA及び純水の目標圧力PTARGET_Wについては、ステップS202で設定した基準圧力PBASE_RA、PBASE_Wがそのまま酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RA、純水の目標圧力PTARGET_Wとして設定される。
【0086】
一方、ステップS204で燃料電池1内部が乾燥状態にないと判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS207において、セル電圧検出値Vのばらつき(標準偏差)σVに基づいて、燃料電池1内部が水過剰状態にあるか否かを判定する(湿潤状態判定手段32)。具体的には、セル電圧VのばらつきσVと所定の判定閾値σV0(例えば5mV)とを比較して、セル電圧ばらつきσVが閾値σV0を越えていれば、燃料電池1内部がフラッディングに繋がる水過剰状態にあると判定して次のステップS208に進み、セル電圧ばらつきσVが閾値σV0以下であればステップS212へと処理を移行する。
【0087】
ステップS207で燃料電池1内部がフラッディングに繋がる水過剰状態にあると判定した場合、制御ユニット2は、次に、ステップS208において、酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAに対する補正値βを設定し、ステップS209において、酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAを補正値βで補正した酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RA(PTARGET_RA=PBASE_RA+β)を設定する(目標圧力設定手段33)。ここで、酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAに対する補正値βは、例えば2kPaとする。なお、ここでは、燃料ガスの目標圧力PTARGET_RF及び純水の目標圧力PTARGET_Wについては、ステップS202で設定した基準圧力PBASE_RF、PBASE_Wがそのまま燃料ガスの目標圧力PTARGET_RF、純水の目標圧力PTARGET_Wとして設定される。
【0088】
次に、制御ユニット2は、ステップS210において、酸化剤ガスの圧力と純水の圧力とをステップS209で設定した目標圧力とした場合における、カソードセパレータ43内でのこれらの圧力差の最大値ΔPを求める。そして、ステップS211において、この圧力差の最大値ΔPが、カソードセパレータ43のバブルプレッシャであるΔPよりも大きくなるかどうかを判定する。この判定の結果、圧力差の最大値ΔPがΔP以下であれば、ステップS209で設定した酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RA(PTARGET_RA=PBASE_RA+β)が維持されるが、圧力差の最大値ΔPがΔPよりも大きくなると判定された場合には、ガス漏れが生じる懸念があるので、次のステップS212において、酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RAを補正値βで補正する前の圧力、すなわちステップS202で設定した酸化剤ガスの基準圧力PBASE_RAに戻す。
【0089】
また、ステップS204で燃料電池1内部が乾燥状態にないと判定し、且つ、ステップS207で燃料電池1内部が水過剰状態でもないと判定した場合にも、ステップS212において、ステップS202で設定した基準圧力PBASE_RF、PBASE_RA、PBASE_Wが、そのまま燃料ガスの目標圧力PTARGET_RF、酸化剤ガスの目標圧力PTARGET_RA、純水の目標圧力PTARGET_Wとしてそれぞれ設定される。
【0090】
最後に、制御ユニット2は、ステップS213において、ステップS206、またはステップS209、またはステップS212で設定した目標圧力PTARGET_RF、PTARGET_RA、PTARGET_Wを実現するように、燃料ガス供給系の動作(調圧バルブ4の動作)や酸化剤ガス供給系の動作(調圧バルブ13の動作)を制御する(反応ガス圧力制御手段34)と共に、純水供給系の純水ポンプ23の動作を制御して(純水圧力制御手段35)、リターンする。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、制御ユニット2が燃料電池1の湿潤状態を判定し、燃料電池1内部がドライアウトに繋がるような乾燥状態にあるときは、ドライアウトが発生し易いアノード側の燃料ガスの圧力を制御して、この燃料ガスと純水との圧力差を減少させ、純水流路42b側から燃料ガス流路42a側への水分移動を積極的に生じさせるようにしていると共に、燃料電池1内部がフラッディングに繋がるような水過剰状態にあるときには、フラッディングが発生し易いカソード側の酸化剤ガスの圧力を制御して、酸化剤ガスと純水との圧力差をポーラスプレートのバブルプレッシャを越えない範囲で増加させて、酸化剤ガス流路43a側から純水流路43b側への水分移動を積極的に生じさせるようにしているので、燃料電池1の運転条件や環境条件に因らず、燃料電池1内部の水分バランスをより最適な状態に保って、ドライアウトの発生やフラッディングの発生を極めて有効に抑制することができる。
【0092】
(第3の実施形態)
次に、本発明を適用した燃料電池システムの第3の実施形態について説明する。本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池1が備えるポーラスタイプのセパレータの両面に、反応ガス流路と純水流路とが互いに平行となる流路形状で形成されている点に特徴を有するものである。なお、基本的なシステム構成及び差圧制御の概要は上述した第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分について、カソードセパレータ43がポーラスプレートで構成されている場合を例に挙げて詳しく説明する。
【0093】
図16は、本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1において、ポーラスタイプのセパレータとされたカソードセパレータ43を示す平面図であり、図16(a)が酸化剤ガス流路43aが形成された面、図16(b)が純水流路43bが形成された面をそれぞれ示している。このカソードセパレータ48には、上述した第1の実施形態と同様に、燃料ガス供給マニホールド45及び燃料ガス排出マニホールド46、酸化剤ガス供給マニホールド47及び酸化剤ガス排出マニホールド48、冷却液供給マニホールド49及び冷却液排出マニホールド50、純水供給マニホールド51及び純水排出マニホールド52の計8つのマニホールドが、厚み方向に貫通するように形成されている。
【0094】
カソードセパレータ43の酸化剤ガス流路43aは、図16(a)に示すように、入口側平行流路を流れる酸化剤ガスが集合流路で折り返されて出口側平行流路を流れるリターンタイプのフローパターンとされており、入口側平行流路が酸化剤ガス供給マニホールド47に、出口側平行流路が酸化剤ガス排出マニホールド48にそれぞれ接続されている。また、カソードセパレータ43の純水流路43bは、図16(b)に示すように、酸化剤ガス流路43aと同様のリターンタイプのフローパターンとされており、純水供給マニホールド51に接続される入口側平行流路と純水排出マニホールド52に接続される出口側平行流路とが、それぞれ酸化剤ガス流路43aの入口側平行流路及び出口側平行流路に対して平行となるように配置されている。そして、純水が流れる方向と酸化剤ガスが流れる方向とが同一方向となるように構成されている。
【0095】
したがって、本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1においては、カソードセパレータ43の酸化剤ガス流路43aを流れる酸化剤ガスの圧力が低下する方向と、純水流路43bを流れる純水の圧力が低下する方向とが一致することになり、これら酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差の確保が容易となる。
【0096】
図17は、本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1における酸化剤ガス流路43a中の酸化剤ガス圧力と純水流路43b中の純水圧力との関係を示したものである。本実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池1では、酸化剤ガス流路43aと純水流路43bとが互いに平行に形成され、酸化剤ガスが流れる方向と純水が流れる方向とが同一方向となっているので、これら酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差としては、各々の流路の同じ場所で比較すればよいことになる。したがって、例えばフラッディングに対する影響が大きい圧力差については、酸化剤ガスの出口側の圧力と純水の出口側の圧力との圧力差(第1の実施形態で説明したΔPに相当)を見ればよく、フラッディングを抑制するための圧力差の確保が容易となる。また、酸化剤ガスと純水との圧力差を容易に確保できるということは、各流体が流路を流れる過程での圧損をある程度大きく取れることを意味する。そして、圧損を大きく取れるということは流路を浅くできるということになるので、その分、セパレータ(ここではカソードセパレータ43)の厚みを薄くして、燃料電池1を構成する各単セルのピッチを短くすることが可能となる。その結果、燃料電池1全体の出力増加を実現することも可能となる。
【0097】
また、酸化剤ガスと純水の圧力差を酸化剤ガスの圧力で制御することを考えた場合、図17に示すように、酸化剤ガスの出口側の圧力と純水の出口側の圧力との圧力差(第1の実施形態で説明したΔPに相当)をある程度確保できる範囲で、純水の入口側圧力が酸化剤ガスの入口側圧力よりも高くなるように、酸化剤ガスの圧力を低圧に制御することも可能となる。このように酸化剤ガスの圧力を制御した場合には、入口部分において純水流路43b側から酸化剤ガス流路43a側へと純水が素速く供給されることになり、酸化剤ガスの加湿を容易に行って、ドライアウトの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0098】
なお、以上は、カソードセパレータ43をポーラスプレートで構成した場合を例に挙げて説明したが、アノードセパレータ42をポーラスプレートで構成した場合には、このアノードセパレータ42の両面に、燃料ガス流路42aと純水流路42bとを互いに平行となる流路形状で形成し、燃料ガスと純水とがこれらの流路に沿って同一方向に流れるようにすれば、以上説明した例と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明を適用した燃料電池システムの概略構成を示す図である。
【図2】前記燃料電池システムの制御ユニットに実現される圧力差制御に関わる機能を示す機能ブロック図である。
【図3】第1の実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池の単セル構造を示す断面図である。
【図4】ポーラスプレートよりなるカソードセパレータの平面図であり、(a)は酸化剤ガス流路が形成された面側から見た平面図、(b)は純水流路が形成された面側から見た平面図である。
【図5】ポーラスプレートよりなるカソードセパレータ内部における水移動の様子を模式的に示す図であり、(a)は図4中のA−A線断面図、(b)図4中のB−B線断面図である。
【図6】酸化剤ガス流路中の酸化剤ガス圧力と純水流路中の純水圧力との関係を示す図である。
【図7】酸化剤ガスの流路入口側の圧力と純水の流路出口側の圧力との圧力差の大きさと、酸化剤ガス流路側から純水流路側への酸化剤ガスの漏れ量との関係を示す図である。
【図8】燃料電池の湿潤状態とセル電圧の変化との関係を示す図であり、(a)は燃料電池が標準の湿潤状態のときのセル電圧の変化の様子を示す図、(b)は燃料電池が水過剰状態のときのセル電圧の変化の様子を示す図である。
【図9】燃料電池の湿潤状態とセル電圧の変化との関係を示す図であり、(a)は燃料電池が標準の湿潤状態のときのセル電圧の変化の様子を示す図、(b)は燃料電池が乾燥状態のときのセル電圧の変化の様子を示す図である。
【図10】第1の実施形態の燃料電池システムにおいて、制御ユニットにより実行される差圧制御の一例を示すフローチャートである。
【図11】燃料電池に要求される要求出力及び燃料電池の温度検出値と、これらに基づいて設定される反応ガスの基準圧力との関係を示す図である。
【図12】燃料電池に要求される要求出力とこれに基づいて設定される純水の基準圧力との関係を示す図である。
【図13】第2の実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池の単セル構造を示す断面図である。
【図14】第2の実施形態を説明する図であり、燃料ガス流路中の燃料ガス圧力及び酸化剤ガス流路中の酸化剤ガス圧力と純水流路中の純水圧力との関係を示す図である。
【図15】第2の実施形態の燃料電池システムにおいて、制御ユニットにより実行される差圧制御の一例を示すフローチャートである。
【図16】第3の実施形態の燃料電池システムで使用される燃料電池のポーラスプレートよりなるカソードセパレータの平面図であり、(a)は酸化剤ガス流路が形成された面側から見た平面図、(b)は純水流路が形成された面側から見た平面図である。
【図17】第3の実施形態を説明する図であり、酸化剤ガス流路中の酸化剤ガス圧力と純水流路中の純水圧力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1 燃料電池
2 制御ユニット
3 燃料ガス供給装置
4 調圧バルブ
5 燃料ガス供給配管
8 酸化剤ガス供給装置
9 酸化剤ガス供給配管
13 調圧バルブ
21 純水タンク
22 純水循環配管
23 純水ポンプ
31 基準圧力設定手段
32 湿潤状態判定手段
33 目標圧力設定手段
34 反応ガス圧力制御手段
35 純水圧力制御手段
41 膜・電極接合体
42 アノードセパレータ
42a 燃料ガス流路
43 カソードセパレータ
43a 酸化剤ガス流路
43b 純水流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子膜よりなる電解質層の両面に電極層が設けられた膜・電極接合体が、当該膜・電極接合体との対向面に反応ガスを流通させる反応ガス流路が形成された一対のセパレータで挟持されて単セルが構成され、当該単セルが繰り返し並設された積層構造を有する固体高分子型の燃料電池であって、前記単セルを構成する一対のセパレータのうちの少なくとも一方が多孔質材料よりなり、当該多孔質材料よりなるセパレータの前記反応ガス流路が形成された面とは逆側の面に純水流路が形成されて、この純水流路を流通する純水によって加湿が行われる燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給系と、
前記燃料電池に加湿用の純水を供給する純水供給系と、
前記燃料電池に供給される反応ガス及び純水の圧力を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、
前記燃料電池に要求される出力と前記燃料電池の温度とに基づいて、前記燃料電池に供給される反応ガス及び純水の基準圧力を設定する基準圧力設定手段と、
前記燃料電池の湿潤状態を判定する湿潤状態判定手段と、
前記湿潤状態判定手段によって前記燃料電池が水過剰状態にあると判定されたときに、前記反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させるように、前記基準圧力設定手段で設定された基準圧力を補正して目標圧力を設定する目標圧力設定手段と、
前記目標圧力設定手段で設定された目標圧力を実現するように、前記反応ガス供給系と前記純水供給系との動作制御を行う動作制御手段とを備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記湿潤状態判定手段は、前記燃料電池の水過剰状態を当該燃料電池のセル電圧の変動幅から予測することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記目標圧力設定手段は、前記基準圧力設定手段で設定された純水の基準圧力を補正することで、前記反応ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記目標圧力設定手段は、前記基準圧力設定手段で設定された反応ガスのうちの酸化剤ガスの基準圧力を補正することで、当該酸化剤ガスの圧力と純水の圧力との圧力差を増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記多孔質材料よりなるセパレータの両面に形成された反応ガス流路及び純水流路は、少なくとも一部の流路同士が互いに平行となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−32092(P2006−32092A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208536(P2004−208536)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】