説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の温度上昇要求時において、低温であっても、燃料電池を昇温させることが可能な技術を提供すること。
【解決手段】燃料電池を備えた燃料電池システムであって、燃料電池は、燃料電池内に配され、燃料電池内で電気化学反応に供される反応ガスが流れる反応ガス供給流路を備え、燃料電池システムは、燃料電池の温度上昇要求時において、水と反応すると発熱する発熱物質を反応ガス供給流路に供給するための発熱物質供給部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を備えた燃料電池システムの起動処理に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池、例えば固体高分子型燃料電池では、触媒電極層であるアノードおよびカソードに、それぞれ、水素を含有する燃料ガスおよび酸素を含有する酸化ガスが供給されることで電気化学反応が進行する。そして、この電気化学反応の進行に伴って、カソードで水が生じる。このようにカソードで生じた水は、燃料電池の外部に排出されるが、一部が燃料電池内の流路に滞留する場合がある。このような状態であって、外気温度が氷点下というような低温時に、燃料電池システムを起動した場合には、滞留水が凍結している場合があり、そのため、カソードにおいて、酸化ガスの供給量が抑制されるおそれがあった。その結果、電気化学反応の進行が抑制され、燃料電池システムの起動に時間がかかるおそれがあった。なお、カソードで生じた水が、アノード側へと移動する場合があり、上記問題は、アノード側においても同様に生じ得る。
【0003】
また、燃料電池システムを低温起動した場合において、その場合の外気温度によっては触媒電極層の触媒活性が十分でなく、それに伴い電気化学反応の進行が抑制され、燃料電池システムの起動に時間がかかるおそれがあった。
【0004】
以上のような問題を解決する手段として、例えば、燃料電池システムの低温起動時において、水素と酸素との混合ガスを触媒電極層に供給し、そこで混合ガスを燃焼触媒反応によって燃焼させることにより、燃料電池(触媒電極層)を昇温させる技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−281074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術のように、燃料電池システムの低温起動時において、混合ガスを触媒電極層で燃焼させることにより燃料電池を昇温させる場合に、一定温度以下では触媒電極層の燃焼触媒活性が低く混合ガスを触媒電極層で十分に燃焼させることができないおそれがあり、そのため、燃料電池を十分に昇温できないおそれがあった。
【0007】
なお、上記問題は、燃料電池システムの起動時に限られず、間欠運転状態、すなわち、燃料電池システムが起動中ではあるが、燃料電池の発電を一時的に停止している状態から燃料電池の運転を開始する際にも同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、燃料電池の温度上昇要求時において、低温であっても、燃料電池を昇温させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明の第1の燃料電池システムでは、
燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、
前記燃料電池内に配され、前記燃料電池内で電気化学反応に供される反応ガスが流れる反応ガス流路を備え、
前記燃料電池システムは、
前記燃料電池の温度上昇要求時において、水と反応すると発熱する発熱物質を前記反応ガス流路に供給するための発熱物質供給部を備えることを要旨とする。
【0010】
上記構成の燃料電池システムによれば、燃料電池の温度上昇要求時において、発熱物質が反応ガス供給流路内の滞留水と反応して発熱するので、燃料電池を十分に昇温させることができ、すなわち、燃料電池を暖機することが可能となる。その結果、燃料電池において、電気化学反応の進行を促進し、燃料電池システムの起動時間を短縮することが可能となる。なお、燃料電池の温度上昇要求時とは、燃料電池システムの起動時や、間欠運転状態(燃料電池システムが起動中ではあるが、燃料電池の発電を一時的に停止している状態)から燃料電池の運転を開始する時などを含む概念である。
【0011】
上記燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、ガスであり、水に溶解すると発熱する物質であることが好ましい。
【0012】
このように発熱物質がガスであれば、発熱物質を反応ガス供給流路に供給することが容易となる。
【0013】
上記燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、塩化水素(HCl)、臭化水素(BrH)、および、フッ化水素(FH)のいずれかであることが好ましい。
【0014】
上記燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、
前記燃料電池内に配され、電気化学反応に供された後の反応ガスを前記燃料電池の外部に排出するための反応ガス排出流路を備え、
前記燃料電池システムは、
前記発熱物質を貯蔵する貯蔵部と、
前記反応ガス排出流路から前記反応ガスと共に排出される排出物質から、前記発熱物質を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記発熱物質を前記貯蔵部に戻すための発熱物質回収部と、
を備えるようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、発熱物質を燃料電池システムの外部に排出することを抑制することができ、また、環境にやさしく経済的である。
【0016】
上記燃料電池システムにおいて、
前記排出物質は、前記反応ガス供給流路に供給された前記発熱物質が前記燃料電池内の水と反応した後に生じた反応物質、または、前記燃料電池内の水と反応しなかった前記発熱物質を含むようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、上記反応物質、または、水と未反応の発熱物質を燃料電池システムの外部に排出することを抑制することができ、また、環境にやさしく経済的である。
【0018】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明の第2の燃料電池システムでは、
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池を冷却するための冷却水が通る冷却水経路と、
前記燃料電池の温度上昇要求時において、水と反応すると発熱する発熱物質を、前記冷却水経路を通る前記冷却水に混入するための発熱物質混入部と、
を備えることを要旨とする。
【0019】
上記構成の燃料電池システムによれば、燃料電池の温度上昇要求時において、水と発熱物質との反応熱によって暖められた冷却水によって、燃料電池を十分に昇温させることができ、すなわち、燃料電池を暖機することが可能となる。その結果、燃料電池において、電気化学反応の進行を促進し、燃料電池システムの起動時間を短縮することが可能となる。なお、燃料電池の温度上昇要求時とは、燃料電池システムの起動時や、間欠運転状態(燃料電池システムが起動中ではあるが、燃料電池の発電を一時的に停止している状態)から燃料電池の運転を開始する時などを含む概念である。
【0020】
上記燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質混入部によって混入された前記発熱物質が、前記冷却水と反応することで生じる反応物質を、前記冷却水から除去するためのトラッパ部を備えるようにしてもよい。
【0021】
このようにすれば、冷却水経路を通る冷却水から反応物質が除去されるので、冷却水経路において、反応物質によって冷却水の流れが抑制されないようにすることが可能となる。
【0022】
上記燃料電池システムにおいて、
前記トラッパ部は、
前記冷却水経路において、前記発熱物質混入部と前記燃料電池との間であって、前記発熱物質混入部よりも、前記冷却水の流れ方向の下流側の位置に設けられることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、燃料電池内の冷却水経路において、反応物質によって冷却水の流れが抑制されないようにすることが可能となる。
【0024】
前記発熱物質混入部によって混入された前記発熱物質が、前記冷却水と反応することで生じる反応イオンを、前記冷却水から除去するためのイオン除去部を備えることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、冷却水経路を通る冷却水から反応イオンが除去されるので、冷却経路を通る冷却水が導電性を持つことを抑制することができ、その結果、漏電を抑制することができる。
【0026】
上記燃料電池システムにおいて、
前記イオン除去部は、
前記冷却水経路において、前記発熱物質混入部と前記燃料電池との間であって、前記発熱物質混入部よりも、前記冷却水の流れ方向の下流側の位置に設けられることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、冷却水経路を通る冷却水から反応イオンが除去されるので、冷却経路を通る冷却水が導電性を持つことを抑制することができ、その結果、漏電を抑制することができる。
【0028】
上記燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、および、炭酸カルシウム(CaCO3)のいずれかであることが好ましい。
【0029】
なお、本発明は、上記した燃料電池システムなどの装置発明の態様に限ることなく、燃料電池システムの暖機方法などの方法発明としての態様で実現することも可能である。さらには、それら方法や装置を構築するためのコンピュータプログラムとしての態様や、そのようなコンピュータプログラムを記録した記録媒体としての態様や、上記コンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号など、種々の態様で実現することも可能である。
【0030】
また、本発明をコンピュータプログラムまたはそのプログラムを記録した記録媒体等として構成する場合には、上記装置の動作を制御するプログラム全体として構成するものとしてもよいし、本発明の機能を果たす部分のみを構成するものとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.燃料電池システム1000の構成:
A2.塩化水素供給・回収処理:
B.第2実施例:
B1.燃料電池システム1000Aの構成:
B2.暖機装置550の構成:
B3.アルミ混入・除去処理:
C.変形例:
【0032】
A.第1実施例:
A1.燃料電池システム1000の構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム1000の概略構成図である。図1に示すように、燃料電池システム1000は、主に、燃料電池100と、水素タンク20と、ブロワ30と、水素遮断弁200と、調圧弁220と、パージ弁240と、循環ポンプ250と、塩化水素タンク300と、塩化水素抽出部310と、塩化水素遮断弁320と、塩化水素回収コンプレッサ330と、塩化水素回収遮断弁355と、制御回路400と、ラジエータ500と、冷却水循環ポンプ510などを備えている。
【0033】
ブロワ30は、空気を取り込み圧縮する装置であり、酸化ガス流路34を介して燃料電池100(後述する酸化ガス供給流路35)と接続されており、圧縮した空気(酸素)を酸化ガスとして、燃料電池100(後述する酸化ガス供給流路35)に供給する。
【0034】
水素タンク20は、高圧の水素ガスが貯蔵される貯蔵装置であり、水素遮断弁200、燃料ガス流路24を介して燃料電池100(後述する燃料ガス供給流路25)に接続されている。また、燃料ガス流路24において、水素タンク20から供給される水素ガスの圧力を調圧するための調圧弁220が設けられている。後述する制御回路400は、水素遮断弁200を開弁することにより、燃料電池100(後述する燃料ガス供給流路25)に水素ガスを燃料ガスとして供給する。
【0035】
燃料電池100の運転中において、カソードで電気化学反応に供された後の酸化ガス(以下では、酸化排ガスとも呼ぶ。)は、酸化ガス排出流路36を介して塩化水素抽出部310に供給される。塩化水素抽出部310についての詳細は、後述する。
【0036】
燃料電池100の運転中において、アノードで電気化学反応に供された後の燃料ガス(以下では、燃料排ガスとも呼ぶ。)は、定期的に、燃料ガス排出流路26を介し、パージ弁240から燃料電池100の外部へ排出される。また、燃料排ガスは、循環ポンプ250によりガス循環流路28を介して、燃料ガス流路24に再度供給される。このようにして、燃料排ガスに含まれる水素は、循環して、燃料ガスとして再び発電に使用される。
【0037】
また、燃料電池100(後述する燃料電池内冷却水流路175)には、燃料電池100に冷却水を供給し、回収するための冷却水流路505が接続される。そして、冷却水流路505には、ラジエータ500と、冷却水循環ポンプ510が設けられる。冷却水は、ラジエータ500で冷却され、冷却水循環ポンプ510によって、燃料電池100(後述する燃料電池内冷却水流路175)に供給され、再び、ラジエータ500に戻って冷却される。
【0038】
図2は、本実施例の燃料電池システム1000が備える燃料電池100の概略断面構成を表わす説明図である。この燃料電池100は、固体高分子型燃料電池であって、図2に示す単セル10を複数枚積層したスタック構造を有している。燃料電池100は、各々の単セル10のアノード側に燃料ガスを供給し、カソード側に酸化ガスを供給することで、電気化学反応が進行し、起電力を生じる。燃料電池100は、生じた電力を燃料電池100に接続される所定の負荷(例えば、モータや蓄電池。)に供給する。なお、図2は、燃料電池100の分解断面構成を表わしており、燃料電池100は、実際には、図の横方向に詰めて形成される。
【0039】
単セル10は、電解質膜1を含むMEA(膜−電極接合体、Membrane Electrode Assemble)を、アノード側セパレータ130およびカソード側セパレータ140で挟持することによって構成されている。ここで、MEAは、電解質膜1と、電解質膜1を間に挟んでその表面に形成された触媒電極であるカソード2およびアノード3と、これら触媒電極のさらに外側に配設されたガス拡散層4,5とを備えている。なお、カソード2の面に平行な方向を面方向とも呼び、面方向と直交する方向であって、カソード2やアノード3が積層される方向を積層方向とも呼ぶ。
【0040】
電解質膜1は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0041】
カソード2およびアノード3は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金、あるいは白金と他の金属から成る合金を備える多孔質体である。
【0042】
ガス拡散層4,5は、カーボン製の多孔質部材であり、例えばカーボンクロスやカーボンペーパによって形成される。このガス拡散層4,5において、内部の細孔によって形成される空間に、反応ガスが拡散する。ガス拡散層4では、その内部の細孔によって形成される空間が、酸化ガスが拡散する酸化ガス拡散流路として機能し、ガス拡散層5では、その内部の細孔によって形成される空間が、燃料ガスが拡散する燃料ガス拡散流路として機能する。
【0043】
カソード側セパレータ140およびアノード側セパレータ130は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成形した金属板によって形成することができる。
【0044】
燃料電池100は、各単セル10に対して電気化学反応に供される酸化ガスを供給する酸化ガス供給マニホールド13(図2)と、各単セル10に対して電気化学反応に供される燃料ガスを供給する燃料ガス供給マニホールド(図示せず)と、各単セル10に対して各単セル10を冷却するための冷却水を供給する冷却水供給マニホールド(図示せず)とを備えており、これらは、それぞれ、各単セル10を積層方向に貫通するように形成されている。また、燃料電池100は、各単セル10から酸化排ガスを燃料電池100の外部に排出するための酸化ガス排出マニホールド14(図2)と、各単セル10から燃料排ガスを燃料電池100の外部に排出するための燃料ガス排出マニホールド(図示せず)と、単セル内冷却水流路170から各単セル10の冷却に供された冷却水を燃料電池100の外部に排出するための冷却水排出マニホールド(図示せず)とを備えており、これらは、それぞれ、各単セル10を積層方向に貫通するように形成されている。なお、酸化ガス供給マニホールド13は、酸化ガス流路34と接続され、酸化ガス排出マニホールド14は、酸化ガス排出流路36と接続される。燃料ガス供給マニホールドは、燃料ガス流路24と接続され、燃料ガス排出マニホールドは、燃料ガス排出流路26と接続される。また、冷却水供給マニホールドおよび冷却水排出マニホールドは、冷却水流路505と接続される。
【0045】
各単セル10は、カソード側セパレータ140とMEAとの間に、酸化ガス受渡流路150を備える。この酸化ガス受渡流路150は、酸化ガス供給マニホールド13からの酸化ガスをカソード2(ガス拡散層4)へ供給し、電気化学反応後の酸化排ガスを酸化ガス排出マニホールド14へ排出するための流路である。
【0046】
また、各単セル10は、アノード側セパレータ130とMEAとの間に燃料ガス受渡流路160を備える。この燃料ガス受渡流路160は、燃料ガス供給マニホールドからの燃料ガスをアノード3(ガス拡散層5)へ供給し、電気化学反応後の燃料排ガスを燃料ガス排出マニホールドへ排出するためのするための流路である。
【0047】
さらに、燃料電池100は、各単セル10の間に、各単セル10を冷却するための冷却水が流れる単セル内冷却水流路170を備える。この単セル内冷却水流路170は、冷却水供給マニホールドから供給される冷却水によって単セル10を冷却し、冷却後に冷却水を冷却水排出マニホールドに排出するための流路である。
【0048】
また、各単セル10は、図2に示すように、アノード側セパレータ130とカソード側セパレータ140との間の絶縁や、酸化ガスまたは燃料ガスのシールをガスケット6と、冷却水のシールのためのパッキン8を備えている。
【0049】
なお、燃料電池100としては、上記した固体高分子型燃料電池の他、水素分離膜型燃料電池や、アルカリ水溶液電解質型や、リン酸電解質型や、あるいは溶融炭酸塩電解質型等、種々のタイプの燃料電池を用いることができる。
【0050】
燃料電池100において、ブロワ30(酸化ガス流路34)から供給される酸化ガスは、まず、酸化ガス供給マニホールド13に流入し、酸化ガス受渡流路150を流れ、そして、ガス拡散層4で拡散しつつ、カソード2へ供給される。このように、燃料電池100において、酸化ガスがカソード2へ供給されるまでの流路である、酸化ガス供給マニホールド13、酸化ガス受渡流路150、および、ガス拡散層4(酸化ガス拡散流路)を総じて、酸化ガス供給流路35Aとも呼ぶ。また、カソード2で電気化学反応に供された後の酸化排ガスは、ガス拡散層4を通り、酸化ガス排出マニホールド14を介して、酸化ガス排出流路36に排出される。このように、燃料電池100において、酸化排ガスが酸化ガス排出流路36へ排出されるまでの流路を酸化ガス排出流路35Bとも呼ぶ。そして、これら酸化ガス供給流路35Aおよび酸化ガス排出流路35B、すなわち、燃料電池100内を酸化ガス(酸化排ガス)が流れる流路を総じて酸化ガス供給流路35とも呼ぶ。
【0051】
燃料電池100において、水素タンク20から供給される燃料ガスは、まず、燃料ガス供給マニホールドに流入し、燃料ガス受渡流路160を流れ、そして、ガス拡散層5で拡散しつつ、アノード3へ供給される。このように、燃料電池100において、燃料ガスがアノード3へ供給されるまでの流路である、燃料ガス供給マニホールド、燃料ガス受渡流路160、および、ガス拡散層5(燃料ガス拡散流路)を総じて、燃料ガス供給流路25Aとも呼ぶ。また、アノード3で電気化学反応に供された後の燃料排ガスは、ガス拡散層5を通り、燃料ガス排出マニホールドを介して、燃料ガス排出流路26に排出される。このように、燃料電池100において、燃料排ガスが燃料ガス排出流路26へ排出されるまでの流路を燃料ガス排出流路25Bとも呼ぶ。そして、これら燃料ガス供給流路25Aおよび燃料ガス排出流路25B、すなわち、燃料電池100内を燃料ガス(燃料排ガス)が流れる流路を総じて燃料ガス供給流路25とも呼ぶ。
【0052】
燃料電池100において、冷却水流路505から供給される冷却水は、冷却水供給マニホールドに流入し、単セル内冷却水流路170を流れ、冷却水排出マニホールドを介して、再び、冷却水流路505に排出される。このように、燃料電池100内において、冷却水が流れる流路である冷却水供給マニホールド、単セル内冷却水流路170、および、冷却水排出マニホールドを総じて燃料電池内冷却水流路175とも呼ぶ。
【0053】
本実施例の燃料電池システム1000が備える塩化水素タンク300は、高圧の塩化水素ガスが貯蔵される貯蔵装置であり、塩化水素遮断弁320、塩化水素供給流路340を介して酸化ガス流路34に接続されている。後述する制御回路400(制御部410)は、塩化水素遮断弁320を開弁することにより、酸化ガス流路34に塩化水素ガスを供給する。酸化ガス流路34に供給された塩化水素ガスは、酸化ガスと共に、酸化ガス供給流路35(酸化ガス供給流路35A)に供給される。なお、塩化水素は、水に溶解する際(水と反応する際)発熱を伴う性質がある。
【0054】
塩化水素抽出部310は、酸化ガス排出流路36と接続され、酸化ガス排出流路36を介して燃料電池100から排出されるガス(酸化ガス供給流路35をそのまま通過した塩化水素ガスを含む)、および、後述のごとく生じる塩酸が流入する。そして、塩化水素抽出部310は、それらから塩化水素ガスを抽出し、塩化水素貯蔵部315に貯蔵する。また、塩化水素抽出部310は、塩化水素ガスを抽出後、残ったガスや液体(水)を外部排出流路39を介して燃料電池システム1000の外部に排出する。なお、この塩化水素抽出部310において、塩化水素ガスを抽出する方法についての詳細は、後述の塩化水素供給・回収処理で説明する。
【0055】
また、塩化水素抽出部310の塩化水素貯蔵部315と塩化水素タンク300は、塩化水素回収流路350、塩化水素回収遮断弁355を介して接続されている。そして、塩化水素回収流路350上には、塩化水素回収コンプレッサ330が設けられ、塩化水素貯蔵部315に貯蔵された塩化水素ガスを塩化水素タンク300内の圧力よりも高く圧縮して塩化水素タンク300に導く。
【0056】
制御回路400は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPU(図示せず)と、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM(図示せず)と、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAM(図示せず)と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)等を備え、ブロワ30、循環ポンプ250、水素遮断弁200、パージ弁240、塩化水素遮断弁320と、塩化水素回収コンプレッサ330と、塩化水素回収遮断弁355と、冷却水循環ポンプ510などの燃料電池システム1000に関する種々の制御を行う。
【0057】
また、制御回路400は、制御部410として機能し、後述する塩化水素供給・回収処理の少なくとも一部を実行する。
【0058】
ところで、本実施例の燃料電池システム1000では、カソード2で、電気化学反応によって水が生じ、燃料電池システム1000の駆動終了後に、酸化ガス供給流路35内に水が滞留水として残るおそれがある。そして、このような状態であって、外気温度が氷点下というような低温時に、燃料電池システム1000を起動した場合には、滞留水が凍結している場合がある。そこで、本実施例の燃料電池システム1000は、起動時において、以下に説明する塩化水素供給・回収処理を実行して、燃料電池100を暖機するようにしている。
【0059】
A2.塩化水素供給・回収処理:
図3は、本実施例の燃料電池システム1000が行う塩化水素供給・回収処理のフローチャートである。この処理の前提条件として、塩化水素遮断弁320は閉弁されており、塩化水素回収コンプレッサ330は、駆動していない。また、以下の本処理の説明は、外気温度が氷点下というような低温時に、燃料電池システム1000を起動した場合であり、滞留水が凍結している場合を想定して説明する。
【0060】
制御部410は、燃料電池システム1000の起動時において、制御回路400によってブロワ30などが制御され燃料電池100の発電が開始されると、塩化水素遮断弁320を開弁し、塩化水素ガスを酸化ガス流路34に供給する(ステップS10)。酸化ガス流路34に供給された塩化水素ガスは、酸化ガスと共に燃料電池100の酸化ガス供給流路35に流入する。ところで、以下の図4に示すように、燃料電池100内(酸化ガス供給流路35内)が氷点下という状態でほとんどの滞留水が凍っていた場合であっても、滞留水の一部は、過冷却水として液体で存在し得る。
【0061】
図4は、塩化水素ガスが酸化ガス供給流路35Aのガス拡散層4に到達した際の様子を拡大して示した説明図である。図4(a)は、塩化水素ガスがガス拡散層4に到達した直後の様子を表し、図4(b)は、塩化水素ガスが過冷却水に溶解し(塩化水素ガスが過冷却水と反応し)、塩酸となった際の様子を表している。
【0062】
図4(a)に示すように、ガス拡散層4に至った塩化水素ガスは、滞留水の一部の過冷却水に溶解し、塩化水素ガスが溶解した過冷却水は、塩酸となり、その際、反応熱が生じる(図4(b)参照)。なお、この場合の反応式は、以下の式(1)の通りである。
HCl→H++Cl-+ΔH・・・(1)
ΔH:発熱量
【0063】
なお、ガス拡散層4以外の酸化ガス供給流路35においても、カソード2で生じた生成水が滞留し、凍結する場合がある。このような場合、塩化水素ガスは、これらの流路を通過する際においても、滞留水の一部の過冷却水に溶解して塩酸となり、その際、反応熱が生じる。
【0064】
以上のように、本実施例の燃料電池システム1000では、外気温度が氷点下という低温時に起動した場合であっても、塩化水素ガスが酸化ガス供給流路35内の過冷却水に溶解する際に放熱がなされ、燃料電池100を十分に昇温させ、すなわち、燃料電池100を暖機することが可能となる。その結果、燃料電池100において、電気化学反応の進行を促進し、燃料電池システム1000の起動時間を短縮することが可能となる。
【0065】
また、燃料電池システム1000が、外気温度が氷点下より高い温度の場合、すなわち、滞留水が凍結していない場合に、以上の処理が実行されると、酸化ガス供給流路35内の滞留水は、ほとんどが液水として存在しているので、酸化ガス供給流路35内に流入した塩化水素ガスは、その滞留水に溶解し、その際、放熱がなされる。従って、この場合には、燃料電池システム1000を外気温度が氷点下という低温時に起動した場合と比べて、燃料電池100を速やかに昇温させることができ、すなわち、燃料電池100を速やかに暖機することが可能となる。
【0066】
塩化水素ガスが供給された後、酸化ガス供給流路35で生じた塩酸は、酸化排ガスと滞留水に溶解しなかった塩化水素ガスとの混合ガスと共に、酸化ガス排出流路36に排出され、さらに、塩化水素抽出部310に流入する。塩化水素抽出部310では、酸化排ガスと塩化水素ガスとの混合ガス、および、塩酸から、塩化水素ガスを抽出し、塩化水素貯蔵部315に貯蔵すると共に、抽出に伴って生じる酸化排ガスや水を外部排出流路39を介して燃料電池システム1000の外部に排出する(ステップS20)。この塩化水素ガスの抽出工程を具体的に説明すると、まず、塩化水素抽出部310は、酸化排ガスと塩化水素ガスとの混合ガスを水に通し、塩化水素ガスを水に溶かして塩酸を生成する。この際、酸化排ガスは、水にあまり溶けないので、気体として分離され、外部排出流路39を介して排出される。そして、塩化水素抽出部310は、混合ガスから生成した塩酸と、酸化ガス排出流路36から流入した塩酸とを混合し、それを燃料電池100などの所定の熱源を利用して暖めて塩化水素ガスを抽出する。また、塩酸は、塩化水素ガスを抽出後、一定濃度以下になると、外部排出流路39を介して燃料電池システム1000の外部に排出する。
【0067】
そして、制御部410は、塩化水素遮断弁320を開弁後、一定時間経つと、塩化水素回収コンプレッサ330を駆動する。これにより、塩化水素貯蔵部315に貯蔵された塩化水素ガスが、塩化水素回収コンプレッサ330に圧縮されて塩化水素タンク300に回収される(ステップS30)。
【0068】
以上のように、本実施例の燃料電池システム1000では、塩化水素タンク300から供給した塩化水素ガスを、燃料電池100から排出される排ガス・排液から抽出して、塩化水素タンク300に再び回収し、再利用するようにしている。このようにすれば、燃料電池100に供給した塩化水素を燃料電池システム1000の外部に排出することを抑制することができると共に、経済的である。
【0069】
なお、本実施例の燃料電池システム1000では、起動時において、塩化水素ガスを酸化ガス流路34を介して、燃料電池100の酸化ガス供給流路35(酸化ガス供給流路35A)に供給するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。燃料電池100において、アノード側にも滞留水が生じる場合があり、燃料電池システム1000の起動時において、塩化水素ガスを燃料ガス流路24を介して、燃料電池100の燃料ガス供給流路25(燃料ガス供給流路25A)に供給するようにしてもよい。このようにしても上記と同様の効果を奏することができる。
【0070】
塩化水素タンク300は、請求項における貯蔵部に該当し、酸化ガス流路34は、請求項における発熱物質供給部に該当し、酸化ガス供給流路35Aは、請求項における反応ガス供給流路に該当し、酸化ガス排出流路35Bは、請求項における反応ガス排出流路に該当し、塩化水素ガスは、請求項における発熱物質に該当し、塩化水素抽出部310は、請求項における抽出部に該当し、塩化水素回収コンプレッサ330、若しくは、塩化水素回収流路350は、請求項における発熱物質回収部に該当する。
【0071】
B.第2実施例:
B1.燃料電池システム1000Aの構成:
図5は、本発明の第2実施例としての燃料電池システム1000Aの概略構成図である。第2実施例の燃料電池システム1000Aは、第1実施例の燃料電池システム1000と類似する構成を有し、共通する部分については同じ参照番号を付して詳しい説明は省略する。本実施例の燃料電池システム1000Aは、第1実施例の燃料電池システム1000と比較して、塩化水素タンク300など塩化水素ガスを酸化ガス流路34に供給するための装置、および、塩化水素抽出部310など酸化排ガス中に含有する塩化水素を抽出する装置を備えていない点で相違し、また、冷却水流路505において、暖機装置550を備える点で相違する。
【0072】
B2.暖機装置550の構成:
図6は、暖機装置550の概略構成図である。暖機装置550は、冷却水流路505において、冷却水循環ポンプ510と燃料電池100との間であって、冷却水循環ポンプ510よりも冷却水の流れ方向の下流側の位置に設けられ、アルミ混入部520と、トラッパ部530と、イオン除去部540とを備えている。
【0073】
アルミ混入部520は、アルミニウム粉が充填されているアルミ粉カートリッジCLが挿入されるアルミ混合部525と、混入部遮断弁522とから構成される。このアルミ混合部525は、混合エリア525Aと、アルミ粉カートリッジCLが挿入され、アルミ粉カートリッジCLの挿入部分にアルミ粉カートリッジCLの先端部分を開閉してアルミ粉カートリッジCL内のアルミニウム粉を混合エリア525Aに導入可能な開閉可動部525Bとを備えている。
【0074】
トラッパ部530は、分離部535と、分離部535の下部に設けられる沈殿物排出弁532とを備えている。イオン除去部540は、イオン交換膜を備えており、冷却水流路505を流れる冷却水中の所定イオンを除去する。
【0075】
制御部410は、冷却水循環ポンプ510と、混入部遮断弁522と、開閉可動部525Bと、沈殿物排出弁532とを制御し、後述するアルミ混入・除去処理の少なくとも一部を実行する。
【0076】
第1実施例の燃料電池システム1000では、起動時において、塩化水素供給・回収処理を実行して、燃料電池100を暖機するようにしていたが、本実施例の燃料電池システム1000Aは、起動時において、以下のアルミ混入・除去処理を実行して、燃料電池100を暖機するようにしている。
【0077】
B3.アルミ混入・除去処理:
アルミ混入・除去処理の前提条件として、アルミ粉カートリッジCLは、アルミ混合部525に挿入されており、混入部遮断弁522、および、沈殿物排出弁532は、閉弁されている。
【0078】
まず、制御部410は、燃料電池システム1000Aの起動時において、冷却水循環ポンプ510を駆動する。これにより、冷却水は、冷却水流路505、および、燃料電池内冷却水流路175を循環する。
【0079】
そして、制御部410は、開閉可動部525Bを開閉させてアルミ粉カートリッジCLから混合エリア525A内にアルミニウム粉を導入させる。その後、制御部410は、混入部遮断弁522を開弁させて、冷却水流路505を流れる冷却水を混合エリア525Aに導入させる。これにより、混合エリア525Aにおいて、アルミニウム粉と冷却水とが反応し、この反応熱によって冷却水が暖められる(下記式(2)参照)。なお、このアルミニウムと冷却水との反応によって、水酸化アルミニウムや、各イオン(アルミニウムイオン等)が生じる(下記式(3)参照)。反応熱によって暖められた冷却水に、水酸化アルミニウム、および、各イオンが含まれる液体を混合液とも呼ぶ。
2Al+6H2O→2Al(OH)3+3H2O+ΔH’・・・(2)
Al(OH)3→Al++3OH-・・・(3)
ΔH’:発熱量
【0080】
この混合液は、アルミ混合部525から冷却水流路505を介して分離部535(トラッパ部530)に流入する。混合液中の水酸化アルミニウムは、分離部535の下部に沈殿し、分離部535において、混合液中から除去される。なお、制御部410は、沈殿物排出弁532を定期的に開弁して、分離部535に沈殿した水酸化アルミニウムを燃料電池システム1000Aの外部に排出する。
【0081】
分離部535で水酸化アルミニウムが除去された混合液は、イオン除去部540を通過する。この際、イオン除去部540において、混合液中の各イオン(アルミニウムイオン等)は、イオン交換膜によって除去される。そして、イオンが除去され、上記のごとく暖められた冷却水は、冷却水流路505を介して、燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)に供給される。
【0082】
以上のように、本実施例の燃料電池システム1000Aでは、起動時に行うアルミ混入・除去処理において、冷却水にアルミニウム粉を混入させ、その反応熱によって冷却水を暖め、その水を燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)に供給するようにしている。このようにすれば、反応熱によって暖められた冷却水によって、燃料電池100を十分に昇温させることができ、すなわち、燃料電池100を暖機することが可能となる。その結果、燃料電池100において、電気化学反応の進行を促進し、燃料電池システム1000の起動時間を短縮することが可能となる。
【0083】
また、以上のように、本実施例の燃料電池システム1000Aでは、アルミ混入・除去処理において、冷却水とアルミニウム粉との反応によって生じる水酸化アルミニウムをトラッパ部530の分離部535で沈殿させて混合液から除去するようにしている。このようにすれば、燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)、ラジエータ500、または、冷却水循環ポンプ510などに、水酸化アルミニウムが供給されることを抑制することができ、これらの流路内で水酸化アルミニウムが詰まり、冷却水の流れが妨げられることを抑制することができる。また、冷却水流路505においても水酸化アルミニウムが詰まり、冷却水の流れが妨げられることを抑制することができる。
【0084】
さらに、以上のように、本実施例の燃料電池システム1000Aでは、アルミ混入・除去処理において、混合液中の各イオンをイオン除去部540で除去するようにしている。このようにすれば、燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)や冷却水流路505中を流れる冷却水が導電性を持つことを抑制することができ、その結果、漏電を抑制することができる。
【0085】
なお、冷却水流路505、または、燃料電池内冷却水流路175は、請求項における冷却水経路に該当し、アルミ混入部520は、請求項における発熱物質混入部に該当し、トラッパ部530は、請求項におけるトラッパ部に該当し、イオン除去部540は、請求項におけるイオン除去部に該当し、アルミニウム粉は、請求項における発熱物質に該当する。
【0086】
C.変形例:
なお、本発明では、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【0087】
C1.変形例1:
上記第1実施例の燃料電池システム1000では、燃料電池100を暖機するための物質として、塩化水素ガスを用いているが、本発明は、これに限られるものではない。燃料電池100を暖機するための物質として、塩化水素ガスの代わりに、例えば、臭化水素(BrH)、フッ化水素(FH)などを用いてもよい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0088】
C2.変形例2:
上記第2実施例の燃料電池システム1000Aでは、冷却水を暖める物質として、アルミニウムを用いているが、本発明は、これに限られるものではない。冷却水を暖める物質として、例えば、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、炭酸カルシウム(CaCO3)などを用いてもよい。この場合、上記第2実施例のように、粉末状とすることが望ましい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。また、このように冷却水を暖める物質が固体物質ではなく、液体物質を用いるようにしてもよい。このような液体物質として、例えば、硫酸や塩酸などを用いるようにしてもよい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0089】
C3.変形例3:
上記第2実施例の燃料電池システム1000Aにおいて、アルミ混入・除去処理では、暖機装置550によって暖機された冷却水は、燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)を流れた後、ラジエータ500に流入するようになっているが(図5参照)、本発明は、これに限られるものではない。例えば、冷却水流路505において、ラジエータ500を迂回するバイパス流路を設け、暖機装置550によって暖機された冷却水は、燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)を流れた後、ラジエータ500を流れずに、このバイパス流路を流れるようにしてもよい。このようにすれば、暖機装置550によって暖機された冷却水は、ラジエータ500で冷却されることなく、再び燃料電池100(燃料電池内冷却水流路175)に流入することになり、燃料電池100の暖機効率を向上させることができる。
【0090】
C4.変形例4:
上記第2実施例の燃料電池システム1000Aにおいて、アルミ混入・除去処理では、分離部535に沈殿した水酸化アルミニウムを沈殿物排出弁532を介して定期的に排出するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、分離部535に沈殿した水酸化アルミニウムを沈殿物排出弁532を介して回収し、加熱してアルミニウムを抽出し、それを再利用するようにしてもよい。この場合、加熱手段として燃料電池100で生じる熱を利用するようにしてもよい。
【0091】
C5.変形例5:
上記第1実施例の燃料電池システム1000において、塩化水素供給・回収処理では、燃料電池100から排出された塩化水素ガス若しくは塩酸から塩化水素を回収して、再利用するようにしているが、本発明は、これに限られるものではなく、燃料電池100から排出された塩化水素ガスや塩酸を燃料電池システム1000の外部に排出するようにしてもよいし、回収のみを行うようにしてもよい。
【0092】
C6.変形例6:
上記第2実施例の燃料電池システム1000Aにおいて、アルミ混入・除去処理で、アルミニウム粉を、冷却水流路505を流れる冷却水に混入するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、アルミニウム粉を、燃料電池内冷却水流路175を流れる冷却水に直接混入するようにしてもよい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0093】
C7.変形例7:
上記第1実施例の燃料電池システム1000において、塩化水素供給・回収処理では、塩化水素タンク300から塩化水素を、酸化ガス流路34を介して酸化ガス供給流路35に供給するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、燃料電池システム1000は、塩化水素タンク300と、酸化ガス供給マニホールド13、酸化ガス受渡流路150、または、ガス拡散層4とを結ぶ所定の流路を備えており、塩化水素供給・回収処理において、塩化水素タンク300から酸化ガス供給マニホールド13、酸化ガス受渡流路150、または、ガス拡散層4に直接塩化水素ガスを供給するようにしてもよい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池システム1000の概略構成図である。
【図2】第1実施例の燃料電池システム1000が備える燃料電池100の概略断面構成を表わす説明図である。
【図3】第1実施例の燃料電池システム1000が行う塩化水素供給・回収処理のフローチャートである。
【図4】塩化水素ガスが酸化ガス供給流路35Aのガス拡散層4に到達した際の様子を拡大して示した説明図である。
【図5】本発明の第2実施例としての燃料電池システム1000Aの概略構成図である。
【図6】暖機装置550の概略構成図である。
【符号の説明】
【0095】
25…燃料ガス供給流路
35…酸化ガス供給流路
100…燃料電池
175…燃料電池内冷却水流路
300…塩化水素タンク
310…塩化水素抽出部
320…塩化水素遮断弁
330…塩化水素回収コンプレッサ
340…塩化水素供給流路
350…塩化水素回収流路
355…塩化水素回収遮断弁
400…制御回路
410…制御部
500…ラジエータ
505…冷却水流路
510…冷却水循環ポンプ
520…アルミ混入部
530…トラッパ部
540…イオン除去部
550…暖機装置
1000,1000A…燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池は、
前記燃料電池内に配され、前記燃料電池内で電気化学反応に供される反応ガスが流れる反応ガス供給流路を備え、
前記燃料電池システムは、
前記燃料電池の温度上昇要求時において、水と反応すると発熱する発熱物質を前記反応ガス供給流路に供給するための発熱物質供給部を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、ガスであり、水に溶解すると発熱することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、塩化水素(HCl)、臭化水素(BrH)、および、フッ化水素(FH)のいずれかであることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、
前記燃料電池内に配され、電気化学反応に供された後の反応ガスを前記燃料電池の外部に排出するための反応ガス排出流路を備え、
前記燃料電池システムは、
前記発熱物質を貯蔵する貯蔵部と、
前記反応ガス排出流路から前記反応ガスと共に排出される排出物質から、前記発熱物質を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記発熱物質を前記貯蔵部に戻すための発熱物質回収部と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記排出物質は、前記反応ガス供給流路に供給された前記発熱物質が前記燃料電池内の水と反応した後に生じた反応物質、または、前記燃料電池内の水と反応しなかった前記発熱物質を含んでいることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池を冷却するための冷却水が通る冷却水経路と、
前記燃料電池の温度上昇要求時において、水と反応すると発熱する発熱物質を、前記冷却水経路を通る前記冷却水に混入するための発熱物質混入部と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質混入部によって混入された前記発熱物質が、前記冷却水と反応することで生じる反応物質を、前記冷却水から除去するためのトラッパ部を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池システムにおいて、
前記トラッパ部は、
前記冷却水経路において、前記発熱物質混入部と前記燃料電池との間であって、前記発熱物質混入部よりも、前記冷却水の流れ方向の下流側の位置に設けられることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質混入部によって混入された前記発熱物質が、前記冷却水と反応することで生じる反応イオンを、前記冷却水から除去するためのイオン除去部を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池システムにおいて、
前記イオン除去部は、
前記冷却水経路において、前記発熱物質混入部と前記燃料電池との間であって、前記発熱物質混入部よりも、前記冷却水の流れ方向の下流側の位置に設けられることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記発熱物質は、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、および、炭酸カルシウム(CaCO3)のいずれかであることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−27584(P2008−27584A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195044(P2006−195044)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】