説明

燃料電池システム

【課題】簡易な構成で高電圧時における安全性を確保することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】酸素と水素を電気化学反応させて電気エネルギーを発生させ、走行用モータ5に電力を供給する燃料電池1を備える燃料電池システムであって、燃料電池1内を通過することで燃料電池1を冷却する冷却水の導電率を検出する導電率センサ49と、導電率センサ49により検出された冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合に、導電率が高くなるに応じて走行用モータ5に供給する電圧の上限値を低下させる電圧制限手段50とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により電気エネルギーを発生させる燃料電池を備える燃料電池システムに関するもので、車両、船舶および航空機等の移動体用発電機に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムには通常、燃料電池内部に冷却水を循環させて燃料電池を冷却する冷却システムが設けられている。
【0003】
ところで、燃料電池システムを搭載した車両の絶縁抵抗は、燃料電池と電気的に接続されている要素の抵抗値から決定される。絶縁抵抗を決定する要素としては、燃料電池本体、走行用モータ、二次電池等の機器、燃料電池の発電に伴って発生する生成水、および燃料電池内を循環する冷却水等がある。ここで、冷却水の抵抗値は、冷却水の導電率に支配されている。そして、燃料電池は発電に伴い電位が発生するので、燃料電池内部を循環する冷却水の導電率が高いと、冷却水が帯電してしまい、冷却水経路において電荷が冷却水を通じ人体への通電が起こるという問題がある。
【0004】
したがって、通常は導電率の低い冷却水を用いているが、冷却水経路中のラジエータ、ポンプ、バルブ、配管等から導電性イオンが冷却水中に溶け出し、冷却水中の導電性イオンが増加する場合がある。また、冷却水として一般的に使用されている不凍液にはラジエータ等の腐食を防止する防錆剤が含まれており、この不凍液にもイオンが存在している。これらにより、冷却水の導電率が上昇してしまう。
【0005】
これに対し、冷却水経路中にイオン交換樹脂を設けることで、冷却水経路中の導電性イオンを除去し、車両の絶縁抵抗を確保する燃料電池システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−298885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の絶縁抵抗は漏電時に流れる電流値で規定されており、一般的にΩ/Vという単位で表される。したがって、電圧1V当たりに対する抵抗値が規定されているため、走行用モータやインバータの小型化のために燃料電池のシステム電圧(走行用モータを駆動する電圧)を高電圧化すると、図5に示すように、絶縁抵抗値が低下してしまう。
【0007】
ここで、上記特許文献1に記載の燃料電池システムでは、イオン交換樹脂の性能が高いときには冷却水の導電率を低く維持できるが、イオン交換樹脂の性能が低下した場合や、冷却水経路のラジエータ等からイオンが過剰に溶出した場合には、冷却水中のイオンをすべて吸着することができなくなる。このため、冷却水の導電率が上昇し、これにより絶縁抵抗値が低下して下限閾値を下回ってしまう。
【0008】
これに対して、イオン交換樹脂の量を増加する方法や、イオン交換樹脂の交換時期を早めることが考えられるが、システムの大型化、メンテナンス等で不利となる。
【0009】
本発明は、上記点に鑑み、簡易な構成で高電圧時における安全性を確保することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では、酸化剤ガスと燃料ガスを電気化学反応させて電気エネルギーを発生させ、電力消費機器(5)に電力を供給する燃料電池(1)を備える燃料電池システムであって、燃料電池(1)内を通過することで燃料電池(1)を冷却する冷却媒体の導電率を検出する導電率検出手段(49)と、導電率検出手段(49)により検出された冷却媒体の導電率が第1の閾値以上になった場合に、導電率が高くなるに応じて電力消費機器(5)に供給する電圧の上限値を低下させる電圧制限手段(50)とを備えることを第1の特徴としている。
【0011】
なお、第1の閾値は、例えば冷却媒体の導電率がこの値より高くなると、許容できるが警告すべきレベルにまで達しているという値に設定される。
【0012】
これにより、冷却媒体の導電率が上昇した場合でも、システム電圧の上限値を低下させることで、図5に示すように絶縁抵抗値を高くすることができるため、安全に走行を維持することができる。このとき、イオン交換樹脂の量を増加したり、イオン交換樹脂の交換時期を早める必要がないため、簡易な構成で高電圧時における安全性を確保することが可能となる。
【0013】
また、本発明では、導電率検出手段(49)により検出された冷却媒体の導電率が第1の閾値以上になった場合、および、導電率が第1の閾値より高い第2の閾値以上になった場合の、少なくともいずれか一方の場合に、冷却媒体の導電率の上昇を示すダイアグコードを記憶する記憶手段(50)を備えることを第2の特徴としている。
【0014】
なお、第2の閾値は、例えば冷却水の導電率がこの値より高くなると、冷却水の導電率が許容できない範囲にまで上昇しているという値に設定される。
【0015】
これにより、修理工場等において作業者がダイアグコードを参照してイオン交換樹脂や冷却媒体の交換を行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明では、冷却媒体の導電率の上昇を使用者に報知する報知手段(6)と、導電率検出手段(49)により検出された冷却媒体の導電率が第1の閾値以上の場合に、報知手段(6)に報知を実行させる報知制御手段(50)とを備えることを第3の特徴としている。
【0017】
これにより、使用者にイオン交換樹脂や冷却媒体の交換を行うタイミングを知らせることできるため、冷却媒体の導電率の上昇に早急に対応することが可能となる。
【0018】
また、冷却媒体の導電率の異常を使用者に報知する報知手段(6)と、導電率検出手段(49)により検出された冷却媒体の導電率が第2の閾値以上の場合に、報知手段(6)に報知を実行させる報知制御手段(50)とを設けることができる。
【0019】
また、導電率検出手段を、冷却媒体に微小電流を流して抵抗値を測定し、測定された抵抗値を導電率に換算することで冷却媒体の導電率を検出する導電率センサ(49)にすることができる。
【0020】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。本実施形態は、本発明を燃料電池を電源として走行する電気自動車(燃料電池車両)に適用した実施例である。
【0022】
図1は、本実施形態の燃料電池システムの概念図である。図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池1を備えている。本実施形態では燃料電池1として固体高分子型燃料電池を用いており、基本単位となるセル100が複数積層されて構成されている。
【0023】
燃料電池1では、以下の水素と酸素の電気化学反応が起こり電気エネルギーが発生する。なお、水素が本発明の燃料ガスに相当し、酸素(空気)が本発明の酸化剤ガスに相当している。
【0024】
アノード(水素極)H2→2H++2e-
カソード(酸素極)2H++1/2O2+2e-→H2
全体 H2+1/2O2→H2
そして、燃料電池1の出力電圧を検出する電圧センサ11と、燃料電池1の出力電流を検出する電流センサ12とが設けられている。
【0025】
図2(a)は燃料電池1の断面図であり、図2(b)はセパレータ104の側面図である。図2(a)に示すように、各セル100は、電解質膜101、触媒層102、拡散層103、セパレータ104、電極板105、絶縁板106、締結板107を備えている。電解質膜101の両外側には一対の触媒層102は配置され、触媒層102の外側には一対の拡散層103が配置されている。触媒層102と拡散層103は電極(水素極と酸素極)を構成している。
【0026】
拡散層103には、セパレータ104が配置されている。セパレータ104には、反応ガスが通過する溝状の反応ガス経路104a、104bと、冷却水が通過する冷却水経路104cが形成されている。水素極側に配置されたセパレータ104には、反応ガス経路として水素が通過する水素経路104aが形成されており、空気極側に配置されたセパレータ104には、反応ガス経路として酸素(空気)が通過する空気経路104bが形成されている。
【0027】
図2(b)に示すように、セパレータ104には、空気経路104bに空気を流入出させるための空気入口部104dと空気出口部104eが形成されている。さらに、セパレータ104には、水素経路104aに水素を流入出させるための水素入口部104fと水素出口部104gが設けられ、冷却水経路104cに冷却水を流入出させるための冷却水入口部104hと冷却水出口部104iが設けられている。そして、上記電気化学反応によって酸素極側で生成した水分は空気経路104bに滞留することとなる。
【0028】
図1に戻り、燃料電池1と二次電池3は、DC−DCコンバータ2を介して電気的に接続されている。DC−DCコンバータ2は、燃料電池1から二次電池3への電力の流れをコントロールする。DC−DCコンバータ2は昇降圧チョッパ回路で、燃料電池1で発生した電力を二次電池3に充電したり、走行用インバータ4に供給することができる装置である。DC−DCコンバータ2は電圧の大きさに関わらず双方向に電力のやり取りが可能となっている。
【0029】
二次電池3は、燃料電池1から供給された電気エネルギーを蓄えると共に、蓄えた電気エネルギーを各種の電気負荷に供給するものであり、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池等を用いることができる。
【0030】
DC−DCコンバータ2と二次電池3の間に走行用インバータ4が接続されている。DC−DCコンバータ2を経由した燃料電池1からの電力あるいは二次電池3からの電力が走行用インバータ4へ供給される。
【0031】
走行用インバータ4は、走行用モータ5を駆動させたりあるいは電力を回生させるためのインバータである。本実施形態の走行用インバータ4は3相インバータであり、3相の交流電力を走行用モータ5に供給し、走行用モータ5を回転させることで燃料電池車両を走行させる。
【0032】
また、燃料電池1の発電時に余った電力を二次電池3に蓄えることができる。二次電池3は回生ブレーキなどによって回生された電力を蓄えることができるため、効率的な車両システムとすることができる。通常、二次電池3は最適な充電状態に充電されている。本実施形態では、二次電池3から走行用インバータ4に電力供給できるように構成されており、例えば急加速時などに急激に大きな電力が必要な場合に、燃料電池1からだけでなく二次電池3からも電力を引き出して走行用インバータ4に供給することで対応することができる。
【0033】
燃料電池システムには、燃料電池1の酸素極(正極)側に供給される空気(酸素)が通過する空気供給流路20aと、燃料電池1の酸素極から排出される空気側排ガスが通過する空気排出流路20bとが設けられている。また、燃料電池システムには、燃料電池1の水素極(負極)側に供給される水素が通過する水素供給経路30aと、燃料電池1の水素極側から排出される窒素、水蒸気(水)および未反応水素を含んだオフガスが通過する水素排出流路30bとが設けられている。
【0034】
空気供給流路20aの最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池1に圧送するための空気ポンプ21が設けられ、空気供給流路20aにおける空気ポンプ21と燃料電池1との間には、空気への加湿を行う加湿器22が設けられている。また、空気排出流路20bには、燃料電池1内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。
【0035】
水素供給流路30aの最上流部には、水素が充填された高圧水素タンク(燃料ガス供給装置)31が設けられ、水素供給流路30aにおける高圧水素タンク31と燃料電池1との間には、燃料電池1に供給される水素の圧力を調整するための水素調圧弁32が設けられている。
【0036】
水素排出流路30bには、水素供給流路30aにおける水素調圧弁32の下流側に接続されて閉ループを構成する水素循環流路30cが分岐して設けられており、これにより水素流路30内で水素を循環させて、未反応の水素を燃料電池1に再供給するようにしている。そして、水素循環流路30cには、水素流路30a〜30c内で水素を循環させるための水素ポンプ33が設けられている。水素排出流路30bにおける水素循環流路30cとの分岐点より下流側には、燃料電池1から排出されるオフガスを外部に排出させるパージバルブ34が設けられている。燃料電池1の運転に伴って燃料電池1の水素極側に窒素等の不純物が蓄積され、燃料電池1から排出されるオフガス中の不純物濃度が高くなり水素濃度が低くなる。このため、燃料電池1の運転中にパージバルブ34を所定のタイミングで開放し、水素濃度が低くなったオフガスの一部をオフガス排出流路30bから外部に放出する。また、水素排出流路30bは、パージバルブ34の下流側において、空気排出流路20bに接続されている。
【0037】
燃料電池1は発電効率確保のために運転中一定温度(例えば80℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池1を冷却するための冷却システムが設けられている。冷却システムには、燃料電池1に冷却水(冷却媒体)を循環させる冷却水経路40、冷却水を循環させるウォータポンプ41、ファン42を備えたラジエータ43が設けられている。
【0038】
冷却水経路40には、冷却水をラジエータ52をバイパスさせるためのバイパス経路44が設けられている。冷却水経路40とバイパス経路44との合流点には、バイパス経路44に流れる冷却水流量を調整するための流路切替弁45が設けられている。また、冷却水経路40における燃料電池1の出口側近傍には、燃料電池1から流出した冷却水の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ46が設けられている。この温度センサ46により冷却水温度を検出することで、燃料電池1の温度を間接的に検出することができる。
【0039】
また、本実施形態の構成では、冷却水が直接燃料電池1内部と接するため、冷却水の導電率が大きいと、漏電による感電や燃料電池システム効率の低下をまねく。このため、本実施形態では、冷却水経路40にイオン吸着用経路47を設け、イオン吸着用経路47にイオン交換樹脂48を配置している。
【0040】
イオン交換樹脂48は、各部品より冷却水に溶出したイオンを吸着し、冷却水の導電率上昇を抑えることができる。ちなみにイオン吸着装置48は、冷却水が流れる位置であれば、どこに設置してもよい。
【0041】
また、イオン吸着用経路47には、冷却水の導電率を検出する導電率センサ(導電率検出手段)49が設けられている。本実施形態では、導電率センサ49は、冷却水に微小電流を流して抵抗値を測定し、測定された抵抗値を導電率に換算することで冷却水の導電率を検出するようになっている。
【0042】
燃料電池システムには、各種制御を行う制御部(ECU)50が設けられている。制御部50は、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROM等に記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。そして、制御部50には、各種負荷からの要求電力信号、電圧センサ11からの電圧信号、電流センサ12からの電流信号、温度センサ46からの温度信号および導電率センサ49からの導電率信号が入力される。また、制御部50は、演算結果に基づいて、DC−DCコンバータ2、二次電池3、走行用インバータ4、後述する警告ランプ6、空気ポンプ21、加湿器22、空気調圧弁23、水素調圧弁32、水素ポンプ33、パージバルブ34、ウォータポンプ41、流路切替弁45等に制御信号を出力するように構成されている。
【0043】
制御部50は、冷却水の導電率が予め設定された第1の閾値以上になった場合に、走行用モータ5(走行用インバータ4)に供給される電圧、すなわち走行用モータ5を駆動する電圧(以下、システム電圧という)の上限値を制限するシステム電圧制限処理を行う。そして、制御部50は、電圧制限処理によって決定されたシステム電圧の上限値をDC−DCコンバータ2に制御信号として出力する。DC−DCコンバータ2は、制御部50からの制御信号に基づき出力側(二次側)の電圧(走行用インバータ4に出力する電圧)を変更するようになっている。ここで、第1の閾値は、冷却水の導電率がこの値より高くなると、許容できるが警告すべきレベルにまで達しているという値に設定されている。
【0044】
燃料電池システムには、冷却水の導電率が上昇していることを運転者へ報知する警告ランプ6が設けられている。警告ランプ6は、制御部50からの制御信号に応じて点灯を行うように構成されている。なお、警告ランプ6が本発明の報知手段に相当している。
【0045】
図3は、本実施形態における冷却水の導電率とシステム電圧の上限値との関係を示す特性図である。制御部50のROMには、図3で示す冷却水の導電率とシステム電圧の上限値とが関連づけられたマップがあらかじめ記憶されている。図3に示すように、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合、冷却水の導電率が高くなるに応じてシステム電圧の上限値を低下させるようになっている。
【0046】
次に、本実施形態の燃料電池システムのシステム電圧制限処理について図3および図4に基づいて説明する。図4は、制御部50がROM等に格納されたプログラムにしたがって行うシステム電圧制限処理を示すフローチャートである。
【0047】
まず、冷却水の導電率を検出し(ステップS100)、検出された冷却水の導電率が第1の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS110)。この結果、冷却水の導電率が第1の閾値以上でない場合は(S110:NO)、冷却水の導電率に異常はないと診断し、ステップS100に戻る。
【0048】
一方、冷却水の導電率が第1の閾値以上である場合は(S110:YES)、冷却水の導電率が許容できるが警告すべきレベルに達したと診断し、ROMから冷却水の導電率とシステム電圧の上限値とが関連づけられたマップを読み出して、ステップS100で検出された冷却水の導電率からシステム電圧の上限値を決定する(ステップS120)。さらに、冷却水の導電率が上昇した旨をダイアグコードとしてRAMに記憶し(ステップS130)、警告ランプ6を点灯して冷却水の導電率が上昇した旨を使用者(ドライバー)に警告する(ステップS140)。
【0049】
続いて、冷却水の導電率が第1の閾値より高い第2の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS150)。ここで、第2の閾値は、冷却水の導電率がこの値より高くなると、冷却水の導電率が許容できない範囲にまで上昇しているという値に設定されている。
【0050】
この結果、冷却水の導電率が第2の閾値以上でない場合は(S150:NO)、冷却水の導電率が許容できるが警告すべきレベルのままであると診断し、ステップS120に戻る。一方、冷却水の導電率が第2の閾値以上である場合は(S150:YES)、冷却水の導電率が許容できない範囲にまで上昇したと診断し、冷却水の導電率が異常である旨をダイアグコードとしてRAMに記憶する(ステップS160)。
【0051】
以上説明したように、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合、すなわち冷却水の導電率が許容できるが警告すべきレベルに達した場合に、導電率が高くなるに応じてシステム電圧の上限値を低下させることで、冷却水の導電率が上昇し車両の絶縁抵抗が低下しても安全に走行を維持することができる。このとき、イオン交換樹脂48の量を増加したり、イオン交換樹脂48の交換時期を早める必要がないため、簡易な構成で高電圧時における安全性を確保することが可能となる。
【0052】
さらに、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合、すなわち冷却水の導電率が許容できるが警告すべきレベルに達した場合、および、冷却水の導電率が第2の閾値以上になった場合、すなわち冷却水の導電率が許容できない範囲にまで上昇した場合に、その旨を示すダイアグコードをそれぞれ記憶することで、修理工場等において作業者がダイアグコードを参照してイオン交換樹脂や冷却媒体の交換を行うことが可能となる。
【0053】
さらに、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合、すなわち冷却水の導電率が許容できるが警告すべきレベルに達した場合に警告ランプ6を点灯することで、ドライバーにイオン交換樹脂48や冷却水を交換するタイミングを知らせることができるため、冷却水の導電率の上昇に早急に対応することが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態では、走行用モータ5が本発明の電力消費機器に相当し、記憶部50のRAMが本発明の記憶手段に相当し、ステップS120の処理を行う制御部50が本発明の電圧制限手段に相当し、ステップS140の処理を行う制御部50が本発明の報知制御手段に相当している。
【0055】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合および第2の閾値以上になった場合に、それぞれ異なるダイアグコードを記憶させていたが、これに限らず、少なくともいずれか一方の場合にダイアグコードを記憶させればよく、例えば冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合にのみダイアグコードを記憶させてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合に警告ランプ6を点灯させていたが、これに限らず、冷却水の導電率が第2の閾値以上になった場合に警告ランプ6を点灯させてもよい。また、冷却水の導電率が第1の閾値以上になった場合および第2の閾値以上になった場合に、それぞれ異なる警告ランプを点灯させてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、報知手段として警告ランプ6を用いたが、これに限らず、ブザーやスピーカ等を用いることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、DC−DCコンバータ2を燃料電池1と走行用インバータ4との間に配置したが、二次電池3とインバータ4との間に新たにDC−DCコンバータを設けてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、導電率センサ49を、冷却水に微小電流を流して抵抗値を測定し、その抵抗値を導電率に換算することで冷却水の導電率を検出する構成としたが、これに限らず、冷却水の導電率が検出できれば任意の構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの概念図である。
【図2】(a)は燃料電池1の断面図であり、(b)はセパレータ104の側面図である。
【図3】冷却水の導電率とシステム電圧の上限値との関係を示す特性図である。
【図4】制御部50がROM等に格納されたプログラムにしたがって行うシステム電圧制限処理を示すフローチャートである。
【図5】抵抗値が一定の場合の、システム電圧と絶縁抵抗との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0061】
1…燃料電池、5…走行用モータ(電力消費機器)、6…警告ランプ(報知手段)、49…導電率センサ(導電率検出手段)、50…制御部(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスを電気化学反応させて電気エネルギーを発生させ、電力消費機器(5)に電力を供給する燃料電池(1)を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池(1)内を通過することで前記燃料電池(1)を冷却する冷却媒体の導電率を検出する導電率検出手段(49)と、
前記導電率検出手段(49)により検出された前記冷却媒体の導電率が第1の閾値以上になった場合に、前記導電率が高くなるに応じて前記電力消費機器(5)に供給する電圧の上限値を低下させる電圧制限手段(50)とを備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記導電率検出手段(49)により検出された前記冷却媒体の導電率が前記第1の閾値以上になった場合、および、前記導電率が前記第1の閾値より高い第2の閾値以上になった場合の、少なくともいずれか一方の場合に、前記冷却媒体の導電率の上昇を示すダイアグコードを記憶する記憶手段(50)を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記冷却媒体の導電率の上昇を使用者に報知する報知手段(6)と、
前記導電率検出手段(49)により検出された前記冷却媒体の導電率が前記第1の閾値以上の場合に、前記報知手段(6)に報知を実行させる報知制御手段(50)とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記冷却媒体の導電率の異常を使用者に報知する報知手段(6)と、
前記導電率検出手段(49)により検出された前記冷却媒体の導電率が前記第2の閾値以上の場合に、前記報知手段(6)に報知を実行させる報知制御手段(50)とを備えることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記導電率検出手段は、前記冷却媒体に微小電流を流して抵抗値を測定し、測定された前記抵抗値を導電率に換算することで前記冷却媒体の導電率を検出する導電率センサ(49)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−59780(P2008−59780A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232052(P2006−232052)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】