説明

燃料電池システム

【課題】アノード、循環路および気液分離器内の液体の量を精度よく検出することができる、燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池のアノード、燃料循環ラインおよび気液分離器が外部から閉止された状態で、燃料電池における発電が行われる。そして、一定時間に燃料電池から発生した電流量が算出され、その電流量に基づいて、一定時間における液体燃料の消費量である燃料消費量、一定時間にアノードで生成される窒素ガスの量である生成窒素量、および一定時間に燃料電池のアノードで生成される水の量である生成水量が算出される。これらに基づいて、一定時間の終了時におけるアノード、燃料循環ラインおよび気液分離器内の空隙体積が算出され、アノード、燃料循環ラインおよび気液分離器内の全容積からその算出された空隙体積が減算されることにより、アノード、燃料循環ラインおよび気液分離器内の液体の量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムとして、燃料電池にメタノールやヒドラジンなどの液体燃料を改質器を介さずに直接に供給するものが知られている。
【0003】
燃料電池は、アノード(燃料極)およびカソード(酸素極)が電解質膜を挟んで対向配置された構造を有している。アノードは、燃料循環ラインの途中に介装されている。すなわち、燃料循環ラインの一端がアノードの燃料供給口に接続され、その他端がアノードの燃料排出口に接続されている。アノードには、燃料循環ラインから液体燃料が供給され、アノードを通過した液体燃料は、燃料循環ラインに排出される。一方、カソードには、空気が供給される。
【0004】
アノードでは、窒素ガス(N)、水(HO)および電子(e)が生成される。電子は、外部回路(図示せず)を介して、カソードに移動する。窒素ガスおよび水は、未反応の液体燃料とともに、燃料循環ラインに排出される。一方、カソードでは、アニオン(OH)が生成される。アニオンは、電解質膜を透過して、アノードに移動する。その結果、アノードとカソードとの間に、電気化学反応による起電力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−199770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような燃料電池システムでは、燃料循環ラインを循環する液体の量の管理が必要である。たとえば、液体燃料のクロスオーバ(液体燃料がアノードからカソードに移動する現象)、発電時の副次的反応量の増大および発電能力の低下などを防止するために、燃料循環ラインを循環する液体中の液体燃料の濃度を制御しなければならず、そのためには、燃料循環ラインを循環する液体の量の管理が必要となる。
【0007】
しかしながら、燃料循環ラインには、液体燃料および水を含む液体の他に、窒素ガスなどの気体が流れる。そのため、レベルゲージでは、燃料循環ラインを循環する液体の量を精度よく検出することが困難である。とくに、燃料電池システムが自動車などの車両に搭載される場合、車両の走行状態や傾きのため、レベルゲージによる液体の量(液面の位置)の高精度な検出が困難である。
【0008】
本発明の目的は、アノード、循環路および気液分離器内の液体の量を精度よく検出することができる、燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明は、燃料電池システムにおいて、アノードおよびカソードを有する燃料電池と、一端および他端が前記アノードに接続され、前記一端から前記アノードに液体燃料が流れ、前記アノードから排出される気体および液体が前記他端から前記一端に向けて流れる循環路と、前記循環路の一端から前記アノードに液体燃料を送り込むための送液手段と、前記循環路の途中部に介装され、前記循環路を流れる気体および液体を互いに分離して、当該液体を前記循環路に流出させる気液分離器と、前記カソードに空気を供給するための空気供給手段と、前記気液分離器内で分離された気体を外部に排出およびその排出を停止するために開閉されるガス放出バルブと、前記気液分離器内の圧力を検出する圧力検出手段と、前記燃料電池から発生する電流の電流値を検出する電流値検出手段と、前記ガス放出バルブが閉じられた状態で、前記送液手段および前記空気供給手段を所定時間にわたって駆動する駆動制御手段と、前記電流値検出手段の出力に基づいて、前記所定時間に前記燃料電池から発生した電流量を算出する電流量算出手段と、前記電流量算出手段により算出された電流量に基づいて、前記所定時間における前記燃料電池での気体の生成量を算出する気体生成量算出手段と、前記電流量算出手段により算出された電流量に基づいて、前記所定時間における前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の液体の変化量を算出する液体変化量算出手段と、前記所定時間の開始時および終了時に前記圧力検出手段により検出される圧力、前記気体生成量算出手段により算出された気体の生成量、および前記液体変化量算出手段により算出された液体の変化量に基づいて、前記所定時間の終了時における前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の気体の体積を算出する気体体積算出手段と、前記アノード、前記循環路および前記気液分離器の全容積から、前記気体体積算出手段により算出された気体の体積を減算することにより、前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の液体の量を算出する液体量算出手段とを含むことを特徴としている。
【0010】
この燃料電池システムでは、送液手段により、循環路の一端から燃料電池のアノードに液体燃料が送り込まれる。一方、空気供給手段により、カソードに空気が供給される。アノードに液体燃料が供給され、カソードに空気が供給されると、燃料電池において電気化学反応が生じ、燃料電池から電流が出力される。
【0011】
電気化学反応の生成物として、アノードで気体および水が生成される。この気体および水は、未反応の液体燃料とともにアノードから循環路に排出される。循環路の途中部には、気液分離器が介装されている。アノードから循環路に排出される気体および液体は、気液分離器内において互いに分離される。そして、液体は、気液分離器内から循環路に戻される。また、ガス放出バルブが開かれていれば、気体は、気液分離器内から外部に排出される。
【0012】
ガス放出バルブが閉じられた状態で発電が行われた場合、その発電に伴って生成される気体は、アノード、循環路および気液分離器内に閉じ込められる。その結果、アノード、循環路および気液分離器内の圧力が上昇する。発電前後における気液分離器内の圧力、発電による気体の生成量、発電によるアノード、循環路および気液分離器内の液体の変化量が判れば、発電前後における気体の状態方程式から、発電前後におけるアノード、循環路および気液分離器内の気体の体積を求めることができる。
【0013】
そこで、ガス放出バルブが閉じられた状態で、送液手段および空気供給手段が所定時間にわたって駆動される。所定時間の経過後、所定時間に燃料電池から発生した電流量が算出され、その電流量に基づいて、気体生成量算出手段により、所定時間における気体の生成量が算出される。さらに、電流量に基づいて、液体の変化量が算出される。また、所定時間の開始時および終了時に、気液分離器内の圧力が検出される。そして、算出された気体の生成量および液体の変化量、ならびに所定時間の開始時および終了時における気液分離器内の圧力に基づいて、所定時間の終了時におけるアノード、循環路および気液分離器内の気体の体積が算出され、アノード、循環路および気液分離器内の全容積からその算出された気体の体積が減算されることにより、アノード、循環路および気液分離器内の液体の量が算出される。
【0014】
このように、レベルゲージを用いずに、アノード、循環路および気液分離器内の液体の量が検出されるので、燃料電池システムが車両などに搭載される場合にも、その液体の量を精度よく検出することができる。
【0015】
前記駆動制御手段は、前記所定時間の経過後、前記送液手段および前記空気供給手段の駆動を停止するとともに、前記ガス放出バルブを開き、前記燃料電池システムは、前記ガス放出バルブが開かれた後に前記圧力検出手段により検出される圧力が前記所定時間の開始前に前記圧力検出手段に検出された圧力まで低下するのに要する時間を計測する計時手段と、前記計時手段により計測された時間に基づいて、前記気体生成量算出手段により算出された気体の生成量を補正する気体生成量補正手段とをさらに含むことが好適である。
【0016】
この燃料電池システムでは、所定時間の経過後、送液手段および空気供給手段の駆動が停止され、燃料電池での発電が停止する。また、ガス放出バルブが開かれる。これにより、気液分離器内から外部に気体が排出される。所定時間における気体の生成量が多いほど、ガス放出バルブが開かれてから気液分離器内の圧力が所定時間の開始前の圧力に戻るまでに要する時間が長く、気体の生成量が少ないほど、当該時間は短い。すなわち、所定時間における気体の生成量と、ガス放出バルブが開かれてから気液分離器内の圧力が所定時間の開始前の圧力に戻るまでに要する時間との間には、相関関係がある。
【0017】
よって、当該相関関係およびガス放出バルブが開かれてから気液分離器内の圧力が所定時間の開始前の圧力に戻るまでに要する時間に基づいて、気体生成量算出手段により算出された気体の生成量が補正されることにより、所定時間における気体の生成量をより正確に知得することができる。その結果、アノード、循環路および気液分離器内の液体の量をより精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガス放出バルブが閉じられた状態で、所定時間にわたって燃料電池からの発電が行われ、その所定時間に燃料電池から発生した電流量などに基づいて、アノード、循環路および気液分離器内の液体の量が算出される。アノード、循環路および気液分離器内の液体の量の検出にレベルゲージが用いられないので、燃料電池システムが車両などに搭載される場合にも、その液体の量を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図2は、燃料電池システムの制御のための電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2に示す制御部により実行される循環燃料体積算出処理のフローチャートである。
【図4】図4は、図2に示す制御部により実行される生成窒素量補正処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【0022】
燃料電池システム1は、たとえば、自動車に駆動源として搭載される。
【0023】
燃料電池システム1は、燃料電池2を備えている。燃料電池2は、アノード(燃料極)3およびカソード(酸素極)4が電解質体5を挟んで対向配置された構造のセルを複数備えている。複数のセルは、各セルの間にセパレータを介在させて積層され、セルスタックを構成している。電解質体5は、たとえば、アニオン(OH)を透過させる性質を有する固体高分子膜である。
【0024】
アノード3には、燃料流路6が形成されている。燃料流路6は、燃料循環ライン7の一端と他端との間に介装されている。具体的には、燃料流路6の一端は、燃料供給口8をなし、この燃料供給口8には、燃料供給ラインとしての燃料循環ライン7の一端9が接続されている。燃料流路6の他端は、燃料排出口10をなし、この燃料排出口10には、燃料排出ラインとしての燃料循環ライン7の他端11が接続されている。
【0025】
燃料循環ライン7の一端9および他端11の近傍には、それぞれ燃料供給バルブ12および燃料排出バルブ13が介装されている。
【0026】
燃料循環ライン7の途中部には、燃料タンク14から延びる燃料補給管15が接続されている。燃料タンク14には、液体燃料の一例である水加ヒドラジン(NHNH・HO)が貯留されている。燃料補給管15の途中部には、燃料補給ポンプ16が介装されている。燃料補給ポンプ16が駆動されることにより、燃料タンク14から燃料補給管15を通して燃料循環ライン7に液体燃料が供給される。
【0027】
また、燃料循環ライン7において、燃料補給管15が接続される部分と燃料供給バルブ12との間には、燃料循環ポンプ17が介装されている。燃料供給バルブ12および燃料排出バルブ13が開かれた状態で、燃料循環ポンプ17が駆動されると、液体燃料が燃料循環ライン7を燃料循環ポンプ17から一端9に向かう方向に流れ、燃料供給口8から燃料流路6に液体燃料が供給される。燃料流路6に供給される液体燃料は、燃料流路6を流れ、燃料排出口10から燃料循環ライン7に排出される。このように、燃料供給バルブ12および燃料排出バルブ13が開けられた状態で、燃料循環ポンプ17が駆動されると、燃料流路6および燃料循環ライン7を液体燃料が循環する。
【0028】
燃料循環ライン7にはさらに、燃料排出バルブ13と燃料補給管15が接続される部分との間に、気液分離器18が介装されている。燃料排出口10から燃料循環ライン7には、液体燃料を主として含む液体とともに気体が排出される。液体燃料および気体は、燃料循環ライン7から気液分離器18内に流入する。そして、気液分離器18内において、液体と気体とが互いに分離される。分離された液体は、燃料循環ライン7に戻される。
【0029】
気液分離器18には、ガス放出ライン19が接続されている。ガス放出ライン19には、ガス放出バルブ20が介装されている。ガス放出バルブ20が開かれると、気液分離器18内のガスがガス放出ライン19を通して大気に放出される。
【0030】
カソード4には、気体流路21が形成されている。気体流路21の一端は、気体供給口22をなし、この気体供給口22には、エアコンプレッサ23から延びる空気供給ライン24が接続されている。気体流路21の他端は、気体排出口25をなし、この気体排出口25には、一端が開放される気体排出ライン26の他端が接続されている。気体排出ライン26の途中部には、気体流路21を流れる空気の圧力を調節するための圧力調節バルブ27が介装されている。
【0031】
図2は、燃料電池システムの制御のための電気的構成を示すブロック図である。
【0032】
燃料電池システム1は、気液分離器18内の圧力を検出する圧力センサ41と、気液分離器18内の気体の温度を検出する温度センサ42と、燃料電池2が発生する電流の電流値を検出する電流センサ43とを備えている。
【0033】
また、燃料電池システム1が搭載される自動車には、燃料電池2で発生した電力(電気エネルギー)を蓄えておくための二次電池51が搭載されている。電流センサ43は、たとえば、燃料電池2から二次電池51への送電経路上に設けられている。
【0034】
そして、燃料電池システム1は、マイクロコンピュータにより構成される制御部44を備えている。マイクロコンピュータには、CPUおよびメモリなどが含まれる。
【0035】
制御部44には、圧力センサ41、温度センサ42および電流センサ43の出力が入力される。
【0036】
制御部44は、メモリに格納されたプログラムに従って、各センサ41,42,43からの入力に基づいて、燃料補給ポンプ16、燃料循環ポンプ17およびエアコンプレッサ23の駆動を制御し、燃料供給バルブ12、燃料排出バルブ13およびガス放出バルブ20の開閉を制御する。また、圧力調節バルブ27の開度を制御する。
【0037】
燃料電池システム1の運転時には、燃料供給バルブ12および燃料排出バルブ13が開かれ、燃料循環ポンプ17が駆動されて、アノード3の燃料流路6に液体燃料が供給される。その一方で、エアコンプレッサ23が駆動されるとともに、圧力調節バルブ27の開度が調節されることにより、カソード4の気体流路21に空気が供給される。
【0038】
これにより、燃料電池2において、電気化学反応が生じ、その電気化学反応による起電力が発生する。
【0039】
具体的には、アノード3において、反応式(1)で示される反応が生じ、窒素ガス(N)、水(HO)および電子(e)が生成される。電子は、外部回路(図示せず)を介して、カソード4に移動する。窒素ガスおよび水は、未反応の液体燃料とともに、燃料流路6から燃料排出口10を介して燃料循環ライン7に排出される。一方、カソードでは、反応式(2)で示される反応が生じ、アニオン(OH)が生成される。アニオンは、電解質体5を透過して、アノード3に移動する。
【0040】
NHNH+4OH→N+4HO+4e ・・・(1)
+2HO+4e→4OH ・・・(2)
この結果、アノード3とカソード4との間に、電気化学反応による起電力が発生する。
【0041】
燃料補給ポンプ16は、燃料循環ライン7に液体燃料を補給する必要が生じた時に駆動される。
【0042】
ガス放出バルブ20は、気液分離器18内の圧力に応じて開閉され、通常の運転時には開かれている。
【0043】
図3は、循環燃料体積算出処理のフローチャートである。
【0044】
燃料電池システム1の運転中に、制御部44は、燃料循環ライン7を流れる液体の体積(量)を算出するために、図3に示す循環燃料体積算出処理を予め定める周期で実行する。
【0045】
循環燃料体積算出処理では、まず、圧力センサ41、温度センサ42および電流センサ43の出力が取得される(ステップS1)。その後、圧力センサ41、温度センサ42および電流センサ43の出力は、一定のサンプリング周期で取得される。
【0046】
次に、ガス放出バルブ20が閉じられる(ステップS2)。ガス放出バルブ20が閉じられた後も、燃料循環ポンプ17およびエアコンプレッサ23の駆動は続けられ、燃料電池2における発電(電気化学反応)が継続する。ガス放出バルブ20が閉じられているので、その発電に伴って生成される気体(主として窒素ガス)は、気液分離器18から排出されず、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内に閉じ込められる。これにより、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の圧力は、発電が進むにつれて高くなる。
【0047】
ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間にわたって発電が継続されると(ステップS3のYES)、その一定時間に燃料電池2から発生した電流量Iが算出される。ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間において、圧力センサ41、温度センサ42および電流センサ43の各出力は、制御部44のメモリなどに保持されている。電流量Iは、たとえば、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間に取得された電流センサ43の出力(電流値)が積分されることにより算出される。
【0048】
なお、ガス放出バルブ20が閉じられてから電流量Iが算出されるまでの一定時間には、圧力センサ41、温度センサ42および電流センサ43の出力が一定のサンプリング周期で繰り返し取得されている(ステップS1)。
【0049】
その後、電流量Iおよび燃料電池2に備えられるセルの数Ncに基づいて、演算式(3)に従って、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間における液体燃料の消費量である燃料消費量Acが算出される(ステップS4)。
【0050】
c[l]=I×(1/4F)×Nc×30/1000/D ・・・(3)
F:ファラデー定数
D:液体燃料の密度
また、電流量Iおよび燃料電池2に備えられるセルの数Ncに基づいて、演算式(4)に従って、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間に燃料電池2のアノード3で生成される窒素ガスの量である生成窒素量GN2が算出される(ステップS5)。
【0051】
N2[mol]=I×(1/4F)×Nc ・・・(4)
さらに、電流量Iおよび燃料電池2に備えられるセルの数Ncに基づいて、演算式(4)に従って、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間に燃料電池2のアノード3で生成される水の量である生成水量GH2Oが算出される(ステップS6)。
【0052】
H2O[l]=4×I×(1/4F)×Nc×18/1000 ・・・(5)
ガス放出バルブ20が閉じられた時点(またはガス放出バルブ20が閉じられる直前もしくは直後)において、圧力センサ41の出力が表す圧力をP1とし、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の空隙となっている部分(液体が存在していない部分、気体が存在している部分)の体積である空隙体積をV1とし、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内に存在する気体のモル数をn1とし、気液分離器18内の気体の温度をT1とすると、式(6)の状態方程式が成立する。
【0053】
1×V1=n1×R×T1 ・・・(6)
R:気体定数
また、ガス放出バルブ20が閉じられてから一定時間が経過した時点において、圧力センサ41の出力が表す圧力をP2とし、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の空隙となっている部分(液体が存在していない部分、気体が存在している部分)の体積である空隙体積をV2とし、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内に存在する気体のモル数をn2とし、気液分離器18内の気体の温度をT2とすると、式(7)の状態方程式が成立する。
【0054】
2×V2=n2×R×T2 ・・・(7)
ここで、体積V1,V2には、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間にアノード3に供給された液体(液体燃料)の量をAs[l]とすると、式(8)の関係が成立する。また、モル数n1,n2には、式(9)の関係が成立する。
【0055】
2=V1−(As−Ac+GH2O) ・・・(8)
2=n1+GN2 ・・・(9)
なお、式(8)における「As−Ac+GH2O」は、一定時間におけるアノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の液体の変化量を表す。
【0056】
式(8),(9)を利用して、式(6),(7)の連立方程式が解かれる。これにより、空隙体積V1,V2が求められる(ステップS7)。
【0057】
その後、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の全容積から空隙体積V2が減算されることにより、ガス放出バルブ20が閉じられてから一定時間が経過した時点で燃料循環ライン7を流れる液体の体積(量)が算出される(ステップS8)。
【0058】
以上のように、ガス放出バルブ20が閉じられた状態で、燃料循環ポンプ17およびエアコンプレッサ23が一定時間にわたって駆動される。一定時間の経過後、一定時間に燃料電池2から発生した電流量Iが算出され、その電流量Iに基づいて、一定時間に燃料電池2のアノード3で生成される窒素ガスの量である生成窒素量GN2が算出される。さらに、電流量Iに基づいて、一定時間におけるアノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の液体の変化量「As−Ac+GH2O」が算出される。また、一定時間の開始時および終了時に、気液分離器18内の圧力P1,P2が検出される。そして、生成窒素量GN2、液体の変化量「As−Ac+GH2O」および圧力P1,P2に基づいて、一定時間の終了時におけるアノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の空隙体積V2が算出され、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の全容積からその算出された空隙体積V2が減算されることにより、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の液体の量が算出される。
【0059】
このように、レベルゲージを用いずに、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の液体の量が検出されるので、燃料電池システムが車両などに搭載される場合にも、その液体の量を精度よく検出することができる。
【0060】
なお、ガス放出バルブ20が閉じられてからの一定時間が経過すると、その一定時間に燃料電池2から発生した電流量Iが算出されて、ステップS4以降の処理が行われるとしたが、ガス放出バルブ20が閉じられた後、燃料電池2から一定の電流量Iが発生されると、ステップS4以降の処理が行われるように変更してもよい。
【0061】
また、制御部44により、たとえば、図3に示す循環燃料体積算出処理と並行して、循環燃料体積算出処理のステップS5で算出される生成窒素量GN2を補正するために、図4に示す生成窒素量補正処理が実行されることが好適である。
【0062】
図4は、生成窒素量補正処理のフローチャートである。
【0063】
生成窒素量補正処理では、まず、ガス放出バルブ20が閉じられる(ステップS11)。このステップS11は、図3に示す循環燃料体積算出処理のS2と同一のステップである。
【0064】
次に、燃料電池2における発電が開始される(ステップS12)。ガス放出バルブ20が閉じられる前から燃料電池2の発電が行われている場合には、その発電が継続される。すなわち、ガス放出バルブ20が閉じられた後も、燃料循環ポンプ17およびエアコンプレッサ23の駆動が続けられる。ガス放出バルブ20が閉じられているので、その発電に伴って生成される気体(主として窒素ガス)は、気液分離器18から排出されず、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内に閉じ込められる。これにより、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の圧力は、発電が進むにつれて高くなる。
【0065】
その後、圧力センサ41の出力に基づいて、ガス放出バルブ20が閉じられてから気液分離器18内の圧力が一定圧力(たとえば、50kPa)だけ上昇したか否かが調べられる(ステップS13)。気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ上昇するまで、燃料電池2における発電が継続される。
【0066】
気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ上昇すると(ステップS13のYES)、燃料循環ポンプ17およびエアコンプレッサ23の駆動が停止されて、燃料電池2における発電が停止される(ステップS14)。
【0067】
次いで、ガス放出バルブ20が開かれる(ステップS15)。これにより、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内からガス放出ライン19を通して気体が排出される。この気体の排出に伴って、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の圧力が低下する。
【0068】
また、ガス放出バルブ20が開かれるのと同時に、ガス放出バルブ20が開かれてからの経過時間の計測が開始される(ステップS16)。
【0069】
その後、圧力センサ41の出力に基づいて、ガス放出バルブ20が開かれてから気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ低下したか否か、つまりアノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の圧力がガス放出バルブ20が閉じられる前の圧力に戻ったか否かが調べられる(ステップS17)。
【0070】
気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ低下すると(ステップS17のYES)、ガス放出バルブ20が開かれてからの経過時間の計測が終了される(ステップS18).これにより、ガス放出バルブ20が開かれてから気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ低下するまでに要した時間が得られる。
【0071】
この時間は、ガス放出バルブ20が閉じられた状態で燃料電池2のアノード3で生成された気体の量が多いほど長く、アノード3で生成された気体の量が少ないほど短い。すなわち、ガス放出バルブ20が閉じられた状態で燃料電池2のアノード3で生成された気体の量と、ガス放出バルブ20が開かれてから気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ低下するまでに要する時間との間には、相関関係がある。
【0072】
そこで、その相関関係およびガス放出バルブ20が開かれてから気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ低下するまでに要した時間に基づいて、ガス放出バルブ20が閉じられた状態で燃料電池2のアノード3で生成された気体の量が求められる。そして、循環燃料体積算出処理のステップS5で算出される生成窒素量GN2がその求められた気体の量に補正されて(ステップS19)、生成窒素量補正処理が終了される。
【0073】
この生成窒素量補正処理で求められる気体の量は、ガス放出バルブ20が閉じられた状態において燃料電池2のアノード3で発生した気体が外部に排出されるのに要する時間の実測値に基づいて求められる。したがって、その求められる気体の量は、循環燃料体積算出処理のステップS5で算出される生成窒素量GN2よりも正確である。よって、生成窒素量補正処理が行われることにより、アノード3、燃料循環ライン7および気液分離器18内の液体の量をより精度よく検出することができる。
【0074】
なお、図3に示す循環燃料体積算出処理と並行して、図4に示す生成窒素量補正処理が実行される場合、循環燃料体積算出処理における「一定時間」は、ガス放出バルブ20が閉じられてから気液分離器18内の圧力が一定圧力だけ上昇するまでの時間となる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0076】
たとえば、燃料電池システム1が自動車に搭載された場合を例にとったが、燃料電池システム1は、自動車に限らず、自動車以外の車両、飛行機、宇宙ロケットなどに搭載されてもよい。
【0077】
また、液体燃料の一例として、水加ヒドラジンを取り上げたが、液体燃料としては、ヒドラジン(NHNH)、トリアザン(NHNHNH)、テトラザン(NHNHNHNH)、メタノール(CHOH)などが例示される。
【0078】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 アノード
4 カソード
7 燃料循環ライン(循環路)
17 燃料循環ポンプ(送液手段)
18 気液分離器
20 ガス放出バルブ
23 エアコンプレッサ(空気供給手段)
41 圧力センサ(圧力検出手段)
43 電流センサ(電流値検出手段)
44 制御部(駆動制御手段、電流量算出手段、気体生成量算出手段、液体変化量算出手段、気体体積算出手段、液体量算出手段、計時手段、気体生成量補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードを有する燃料電池と、
一端および他端が前記アノードに接続され、前記一端から前記アノードに液体燃料が流れ、前記アノードから排出される気体および液体が前記他端から前記一端に向けて流れる循環路と、
前記循環路の一端から前記アノードに液体燃料を送り込むための送液手段と、
前記循環路の途中部に介装され、前記循環路を流れる気体および液体を互いに分離して、当該液体を前記循環路に流出させる気液分離器と、
前記カソードに空気を供給するための空気供給手段と、
前記気液分離器内で分離された気体を外部に排出およびその排出を停止するために開閉されるガス放出バルブと、
前記気液分離器内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記燃料電池から発生する電流の電流値を検出する電流値検出手段と、
前記ガス放出バルブが閉じられた状態で、前記送液手段および前記空気供給手段を所定時間にわたって駆動する駆動制御手段と、
前記電流値検出手段の出力に基づいて、前記所定時間に前記燃料電池から発生した電流量を算出する電流量算出手段と、
前記電流量算出手段により算出された電流量に基づいて、前記所定時間における前記燃料電池での気体の生成量を算出する気体生成量算出手段と、
前記電流量算出手段により算出された電流量に基づいて、前記所定時間における前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の液体の変化量を算出する液体変化量算出手段と、
前記所定時間の開始時および終了時に前記圧力検出手段により検出される圧力、前記気体生成量算出手段により算出された気体の生成量、および前記液体変化量算出手段により算出された液体の変化量に基づいて、前記所定時間の終了時における前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の気体の体積を算出する気体体積算出手段と、
前記アノード、前記循環路および前記気液分離器の全容積から、前記気体体積算出手段により算出された気体の体積を減算することにより、前記アノード、前記循環路および前記気液分離器内の液体の量を算出する液体量算出手段とを含む、燃料電池システム。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、前記所定時間の経過後、前記送液手段および前記空気供給手段の駆動を停止するとともに、前記ガス放出バルブを開き、
前記ガス放出バルブが開かれた後に前記圧力検出手段により検出される圧力が前記所定時間の開始前に前記圧力検出手段に検出された圧力まで低下するのに要する時間を計測する計時手段と、
前記計時手段により計測された時間に基づいて、前記気体生成量算出手段により算出された気体の生成量を補正する気体生成量補正手段とをさらに含む、請求項1に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216341(P2011−216341A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83587(P2010−83587)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】