説明

燃料電池搭載車輌の冷却システム

【課題】燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術を提供する。
【解決手段】電動駆動系用ラジエータ101の後に燃料電池用ラジエータ102を配置し、燃料電池用ラジエータ102で冷却された冷却水をポンプ110から電動駆動系用ラジエータ101と燃料電池用ラジエータ107に分岐して供給する。電動駆動系104は、燃料電池用ラジエータ102と電動駆動系用ラジエータ101の両方で冷却された冷却水により冷却され、燃料電池107は、燃料電池用ラジエータ102によって冷却された冷却水によって冷却される。これにより、相対的に低温に冷却する必要がある電動駆動系104と、それよりも高い温度での冷却でよい燃料電池107の冷却が一つのポンプ110によってバランス良く行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池搭載車輌の冷却システムに係り、特に、システムを簡素化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した車輌における燃料電池の冷却に関する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載された技術が公知である。燃料電池は、発電に際して発熱するが、発電の効率を高めるためには、その温度は管理する必要がある。また、電動駆動系の冷却もモータの過熱やモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスの熱破壊を避けるために必要となる。
【0003】
燃料電池と電動駆動系の適切な冷却温度は、異なっている。例えばある種の固体高分子型燃料電池は、95℃程度の温度に保つことが、発電効率の観点から適切となる。一方、半導体デバイスは、熱破壊や熱暴走を防ぐために70℃程度以下に保つ必要がある。このため、従来の車載型の冷却システムでは、燃料電池の冷却系と、電動駆動系の冷却系とは、別系統とされ、2系統の冷却系を備えていた。
【0004】
図6は、従来技術における燃料電池を搭載した車輌の冷却系の概要を示すブロック図である。図6には、車輌に搭載された冷却系500が示されている。図6において、図の上方が車輌の前方となる。冷却系500は、燃料電池用ラジエータ501を備えている。燃料電池用ラジエータ501は、冷却水を空冷する。空冷された冷却水は、ポンプ502によって循環経路503内を流され、燃料電池504に供給される。燃料電池504から熱(反応熱)を奪った冷却水は、燃料電池用ラジエータ501に戻され、そこで再び冷却される。
【0005】
燃料電池508の冷却系では、燃料電池504から排出された部分における冷却水の温度が、例えば95℃となるように、ポンプ502の出力が調整される。
【0006】
他方において、冷却系500は、電動駆動系用ラジエータ505を備えている。電動駆動系用ラジエータ505は、冷却水を空冷し、空冷された冷却水は、ポンプ506によって循環経路507内を流され、電動駆動系508に供給される。電動駆動系508には、例えば駆動力を発生するモータや、このモータを駆動する駆動回路の半導体デバイス等が含まれ、それらが冷却水によって冷却される。電動駆動系を冷却した冷却水は、電動駆動系用ラジエータ505に戻され、そこで再び冷却される。
【0007】
電動駆動系508の冷却系では、電動駆動系508から排出された部分における冷却水の温度が、例えば70℃となるように、ポンプ506の出力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−315513号公報
【特許文献2】特開2002−141079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示す冷却システムは、燃料電池と電動駆動系とにそれぞれポンプ(502、506)が必要となり構成が複雑となる。また、ポンプ2台分の電源電力が必要となる。このことは、乗用車のように小形化、軽量化、低消費エネルギー化、低コスト化が要求されるシステムに適用する場合に障害となる。
【0010】
そこで本発明は、燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、燃料電池を搭載し電動により走行可能な車輌にあって、燃料電池を冷却するための第1のラジエータと、電動駆動系の要素を冷却するための第2のラジエータと、前記第1のラジエータで冷却された冷媒を前記第2のラジエータに供給する第1の流路と、前記第1のラジエータで冷却された冷媒を前記燃料電池に供給する第2の流路と、前記冷媒に流れを与える冷媒用ポンプとを備えることを特徴とする燃料電池搭載車輌の冷却システムである。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、第1のラジエータで冷却された冷媒が、燃料電池と第2のラジエータに向けて2系統に分岐されて供給される。そして、第1のラジエータで冷却された冷媒の内、燃料電池に向けて分岐された冷媒により燃料電池が冷却され、第2のラジエータに向けて分岐された冷媒が第2のラジエータで更に冷却された後に電動駆動系の要素を冷却する。
【0013】
この仕組みによれば、2系統の冷却系を一つの冷媒用ポンプにより動作させることができる。また、電動駆動系の要素への冷媒が2段階に渡りラジエータで冷却されるので、電動駆動系の要素をより低温に維持することができる。また、分岐される比率を設定あるいは調整することで、異なる冷却能力が要求される2系統の冷却系の冷却機能のバランスをとることができる。
【0014】
なお、電動駆動系の要素というのは、電動による駆動を行う系を構成する要素のことであり、具体的には、車輌を動かすためのモータ、このモータを駆動するための駆動回路、この駆動回路を構成する電子デバイス、この駆動回路に電力を供給するための電源回路、この電源回路を構成する電子デバイスといったものが挙げられる。この要素は、一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、冷媒は、前記燃料電池、前記第1のラジエータ、前記冷媒用ポンプ、前記第2のラジエータを順に通過した後に前記電動駆動系の要素の冷却を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、燃料電池を通過した昇温した冷媒が、第1のラジエータで冷却され、その後冷媒用ポンプにより第2のラジエータに送られ更に冷却される。そして、この2段階に渡って冷却された冷媒によって、燃料電池よりも低い温度に保たなければならない電動駆動系の要素の冷却が行われる。このため、一つの冷媒用ポンプに頼った冷媒の供給方法でありながら、異なる冷却能力が必要な2箇所の冷却を適切に行うことができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、車輌の前進による空気の流れに沿って、前記第2のラジエータ、前記第1のラジエータの順に配置されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、燃料電池に比較して相対的に低い温度に冷却が必要とされる電動駆動系用の冷媒をより優先的に冷却できる。この構成では、第1のラジエータは、第2のラジエータから熱を奪った空気の流れによって冷却される。この際、第1のラジエータの冷却効率は、第2のラジエータに比較して低いが、燃料電池用の冷媒の温度は、電動駆動系用に比較して相対的に高い温度でもよいので、問題は生じない。このため、前方から見て車輌内部での占有面積が問題となるラジエータを前後に重ねて配置することができる設計上の優位性が得られ、且つ、電動駆動系の要素を冷却する冷媒の温度と燃料電池の冷却を行う冷媒の温度とをそれぞれ適切に得ることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1または3に記載の発明において、前記冷媒用ポンプは、第1のラジエータから冷媒が排出される流路または第1のラジエータに冷媒が流入する流路に配置され、前記第1のラジエータからの冷媒の流路を前記第1の流路と前記第2の流路に分ける分岐と、前記第1の流路と前記第2の流路を流れる前記冷媒の流量比を調整する流量比調整手段とを更に備えることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、第1のラジエータにおいて冷却された冷媒が分岐され、一方が第2のラジエータに送られ、他方が燃料電池に送られる。この分岐される冷媒の流量の分配比率が流量比調整手段により調整されることで、燃料電池の冷却具合と第2のラジエータの下流側に配置された電動駆動系の要素の冷却具合とのバランスの調整が行われる。すなわち、電動駆動系の要素の冷却を優先するか、燃料電池の冷却を優先するかの調整が行われる。このため、各冷却対象に適した温度管理を行うことができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒の温度を検出する第1の温度センサと、前記燃料電池を冷却した冷媒の温度を検出する第2の温度センサと、前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの出力に基づいて前流流量比調整手段の制御を行う制御手段とを更に備えることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、2つの温度センサの出力に基づいて、電動駆動系の要素に供給される冷媒の供給量と、燃料電池に供給される冷媒の供給量との比率(流量比)が調整される。これにより、電動駆動系の要素の温度が上昇し、その更なる冷却の必要があれば、前者の供給量が増加され、燃料電池の温度が上昇し、その更なる冷却が必要であれば、後者の供給量が増加される制御が行われる。これにより、冷媒用ポンプが一つであっても、2系統の冷却機能の管理が適切に行われる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒を冷却せずに前記燃料電池に供給する供給手段を更に備えることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、燃料電池の温度が、発電効率が低下する低い温度にある場合、電動駆動系の要素を冷却し、温度が上昇した冷媒が冷却されずに燃料電池に供給される。この際、電動駆動系の要素から奪われた熱が冷媒を介して燃料電池に供給され、上述した燃料電池の低温状態の解消が計られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、燃料電池の冷却系と電動駆動系の冷却系とを統合し、同一のポンプで両冷却系に冷却媒体を循環させる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【図2】実施形態の制御系の概要を示すブロック図である。
【図3】実施形態の制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】車輌の状態と各パラメータの関係を示すグラフである。
【図5】実施形態の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【図6】従来の冷却システムの概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.第1の実施形態
(冷却システムの構成)
以下、図1を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、車輌に搭載された冷却システムの概要が示されている。図1において、図の上方が車輌の進行方向前方となる。図1には、冷却システムの冷却系の構成が主に示されている。図1には、冷却システム100が示されている。なお、車輌は、電動により走行する電動機構を備えたものであれば、特に構造が限定されるものではないので、車輌の構造についての説明は省略する。
【0028】
冷却システム100は、電動駆動系用ラジエータ101を備えている。電動駆動系用ラジエータ101には、冷媒となる冷却水が冷媒流路115から供給される。冷媒流路115から供給された冷却水は、電動駆動系用ラジエータ101で空冷され、冷媒流路103に排出される。電動駆動系用ラジエータ101から冷媒流路103に排出された冷却水は、電動駆動系104に含まれる要素に供給され、この要素を冷却する。
【0029】
この例では、電動駆動系104に含まれる車輌駆動用のモータ、およびこのモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスの冷却が行われる。なお、冷却の対象は、他の発熱部分であってもよい。
【0030】
電動駆動系104から熱を奪った冷却水は、電動駆動系104から冷媒流路106に排出される。冷媒流路106に排出された冷却水は、そこで温度センサ1(105)により、温度が検出される。冷媒流路106は、燃料電池107から排出された冷却水の排出経路である冷媒流路108に接続されている。燃料電池107は、複数のセルを積層した構造を有し、内部に冷却水を流す冷媒流路を備えている。
【0031】
また、冷却システム100は、燃料電池用ラジエータ102を備えている。燃料電池用ラジエータ102は、車輌の進行方向前方から見て電動駆動系用ラジエータ101の後側に配置されている。この構成では、電動駆動系用ラジエータ101を冷却した空気が、更に燃料電池用ラジエータ102に当たり、燃料電池ラジエータ102の冷却が行われる。
【0032】
燃料電池用ラジエータ102には、冷媒流路108から冷媒である冷却水が供給される。燃料電池用ラジエータ102に供給された冷却水は、そこで空冷により冷却され、サーモ弁109に向かって排出される。サーモ弁109は、冷媒流路108から燃料電池用ラジエータ102に向かう冷却水を燃料電池用ラジエータ102に送らず、バイパス経路108’を介して後述のポンプ110にバイパスすることが可能なバイパス弁の機能を有している。
【0033】
サーモ弁を上述のバイパス状態としない場合、冷媒流路108を流れる冷却水は、燃料電池用ラジエータ102に供給され、そこからサーモ弁109に向かって排出され、さらにポンプ110に至る。
【0034】
ポンプ110は、冷却水に流れを与える装置であり、図示省略したモータにより駆動され、サーモ弁109からの冷却水を電動駆動系用ラジエータ101および流量分配制御弁111に向かって送り出す機能を有する。この流量分配制御弁111は、開け閉めが可能な構造を有し、通過する流量を調整する機能を有する。ポンプ110と流量分配制御弁111との間には、冷媒流路の分岐点113があり、ポンプ110から排出された冷却水は、流量分配制御弁111の方向(燃料電池107の方向)と電動駆動系用ラジエータ101の方向の2つの方向に向けて分岐される。流量分岐制御弁111から排出された冷却水は、冷媒流路112を流れ、燃料電池107に供給される。
【0035】
また、冷媒流路108には、燃料電池107から排出された冷却水の温度を検出する温度センサ2(114)が配置されている。
【0036】
(冷却水の流れの概要)
まず、サーモ弁109をバイパス状態とせず、冷媒流路108→燃料電池用ラジエータ102→サーモ弁109→ポンプ110と流路が設定されている場合における冷却水の流れの概要を簡単に説明する。この場合、冷媒流路108から燃料電池用ラジエータ102に供給された冷却水は、そこで冷却され、更にサーモ弁109を経てポンプ110に至り、ポンプ110でポンピングされる。
【0037】
ポンプ110から排出された冷却水は、分岐点113で2つの流路に分岐され、一方が冷媒流路115を経て電動駆動系用ラジエータ101に供給され、他方が流量分配制御弁111(冷媒流路112)を経て燃料電池107に供給される。
【0038】
冷媒流路115を経て電動駆動系用ラジエータ101に供給された冷却水は、燃料電池用ラジエータ102における冷却に加えて再度冷却され、冷媒流路103に排出される。冷媒流路103に排出された冷却水は、電動駆動系104内の冷却対象物を冷却し、冷媒流路106および108を経て燃料電池用ラジエータ102に送られる。
【0039】
冷媒流路112を経て燃料電池107に供給された冷却水は、燃料電池107を冷却し、その後冷媒流路108に排出されて燃料電池用ラジエータ102に送られる。
【0040】
サーモ弁109をバイパス状態とした場合、冷媒流路108を流れる冷却水は、バイパス経路108’にバイパスされ、燃料電池用ラジエータ102を通らず、サーモ弁109からポンプ110に供給される。その後の流路は、冷媒流路108から燃料電池用ラジエータ102に冷却水が供給されず、冷媒流路108からバイパス経路108’を通ってサーモ弁109に冷却水が流れる点を除いて、サーモ弁109をバイパス状態としない場合と同じである。
【0041】
上記の冷却水の流れにおいて、流量分配制御弁111の開度(弁の開きの程度)を調整すると、分岐点113で分岐される冷却水の流量比が変化する。例えば、流量分配制御弁111の開度を大きくすると(弁の開き加減を大きくすると)、冷媒流路112に流れる冷却水の流量が相対的に大きくなり、冷媒流路115に流れる冷却水の流量が相対的に小さくなる。逆に、流量分配制御弁111の開度を小さくすると(弁の開き加減を小さくすると)、冷媒流路112に流れる冷却水の流量が相対的に小さくなり、冷媒流路115に流れる冷却水の流量が相対的に大きくなる。
【0042】
(制御系の構成)
図2は、図1に示すシステムの制御系を示すブロック図である。図1に示す制御系は、コントローラ201を備えている。コントローラ201は、コンピュータとしての機能を有し、CPU、メモリ、インタフェース回路を備えている。コントローラ201は、後述する制御手順を実行し、冷却システム100における冷却制御を行う。
【0043】
図2の制御系は、図1にも示したサーモ弁109、ポンプ110、流量分配制御弁111、温度センサ1(105)および温度センサ2(114)を備えている。コントローラ201は、温度センサ1(105)および温度センサ2(114)の検出信号に基づき、サーモ弁109、ポンプ110および流量分配制御弁111の制御を行う。この制御の具体例について後述する。
【0044】
(制御の一例)
図3は、図2の制御系において行われる制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。図3に示す制御は、図2のコントローラ201内のメモリに記憶された制御プログラムに基づいて、コントローラ201によって実行される。
【0045】
例えば、冷却システム100を搭載した車輌のスタートキーが回された(ONにされた)状態で、ブレーキを解除し、アクセルを踏めば走行が可能な状態とされた場合に、図3の処理が開始される。処理が開始されると(ステップS301)、ポンプ110が始動され(ステップS302)、冷却水の循環が開始される。なお、初期状態において、流量分配制御弁111は、予め実験的に求められた開度に設定されているものとする。
【0046】
次に、温度センサ2(114)の検出温度が参照され、燃料電池107から排出される冷却水の温度が、予め決められた低温範囲(この例では、10℃以下の範囲)にあるか否かの判定が行われる(ステップS303)。燃料電池107からの冷却水の温度が予め決められた低温範囲であれば、冷媒流路108を流れる冷却水が、燃料電池用ラジエータ102を通らず、ポンプ110にバイパスするように、サーモ弁109を切り換える。こうして、冷媒流路108からの冷却水が、燃料電池用ラジエータ102を通らず、バイパス経路108’およびサーモ弁109を通ってポンプ110にバイパスされる状態とされる(ステップS304)。
【0047】
ステップS303において、燃料電池107から排出される冷却水の温度が10℃以下の範囲でなければ、ステップS305に進み、冷媒流路108→燃料電池用ラジエータ102→サーモ弁109と流路が繋がるように、サーモ弁109を切り換える。この際、バイパス経路108’は閉鎖される。
【0048】
ステップS304またはステップS305の後に、温度センサ1(105)が検出した温度が予め決められた上限値(この例では、70℃)を超えたか否かの判定が行われる(ステップS306)。温度センサ1(105)が検出する温度が70℃を超えていれば、流量分配制御弁111を閉じる方向(開度小)に制御し、ポンプ110から送り出される冷却水がより冷媒流路115の方に流れるように調整を行う(ステップS307)。この閉じる方向への制御は、予め決められた変化幅で行われる。またこの際、ポンプ110の出力を増加させる制御を併用してもよい。ステップS307の処理を行った後、ステップS303以下の処理を繰り返す。
【0049】
ステップS306において、温度センサ1(105)の検出温度が70℃以下であれば、ステップS308に進み、温度センサ2(114)の検出温度が予め決められた上限値(この場合は95℃)を超えているか否かの判定が行われる。温度センサ2(114)の検出温度が95℃を超えている場合、流路112を流れる冷却水の流量がより多くなるように、流量分配制御弁111を開放する方向(開度大)に調整する(ステップS309)。この開放する方向への制御は、予め決められた変化幅で行われる。またこの際、ポンプ110の出力を増加させる制御を併用してもよい。
【0050】
ステップS309の後、あるいはステップS308において、温度センサ2(114)の検出温度が95℃を超えていない場合、ステップS310に進み、処理を終了するか否かの判定が行われる。例えば、スタートキーが抜かれた(OFFにされた)場合にステップS310の判定はYESとなり、制御は終了する(ステップS311)。制御を継続するのであれば、ステップS303の前段階に戻り、ステップS303以下の処理が繰り返される。
【0051】
(機能)
燃料電池107の温度が低い場合、発電のための反応が低効率となり、燃料電池107の出力が規定の値より低くなる。このような場合、燃料電池を冷却することは適切でない。図3に示す制御では、ステップS303において、この低温の状態が検出され、ステップS304に進むことで、燃料電池用ラジエータ102から燃料電池107への冷却水の供給を遮断し、電動駆動系104から熱を奪って温度が高くなった冷却水を冷媒流路106→冷媒流路108→バイパス経路108’→サーモ弁109→ポンプ110→流量分配制御弁111→冷媒流路112→燃料電池107と流す。これにより、燃料電池107は、電動駆動系104の排熱によって加熱され、反応効率が高められる。この作用は、冬季や寒冷地における車輌の始動時に特に有効となる。
【0052】
電動駆動系104の特に半導体デバイスは、高温に弱く、その温度を設定した上限以下とすることが重要となる。図3に例示する制御では、温度センサ1(105)により、電動駆動系104の温度を監視し、その温度が予め決められた温度を超えた場合にステップS306からステップS307に進み、電動駆動系104の冷却のための冷却水の流量が増加され、その冷却機能が強められる。このため、電動駆動系104の過熱が防止される。
【0053】
燃料電池107は、適切な温度範囲よりも温度が高いと、電解質膜の乾燥等に起因する発電効率の低下が生じる。このため、燃料電池107は、規定の発電能力を発揮させるために、ある温度を超えないようにすることが重要となる。
【0054】
図3に示す制御では、温度センサ2(114)が、燃料電池107から排出される冷却水の温度を監視し、燃料電池の温度が予め決められた温度を超えた場合にステップS308からステップS309に進み、燃料電池107を冷却する冷却水の流量が増加され、その冷却機能が強められる。このため、燃料電池107の過熱による発電効率の低下が抑えられる。
【0055】
(優位性)
以上述べたように、本実施形態では、冷却水の流れで考えて、電動駆動系用ラジエータ101の下流側に燃料電池用ラジエータ102を配置し、燃料電池用ラジエータ102で冷却された冷却水をポンプ110から電動駆動系用ラジエータ101と燃料電池107に分岐して供給する。電動駆動系104は、燃料電池用ラジエータ102と電動駆動系用ラジエータ101の両方で冷却された冷却水により冷却され、燃料電池107は、燃料電池用ラジエータ102によって冷却された冷却水によって冷却される。これにより、相対的に低温に冷却する必要がある電動駆動系104と、それよりも高い温度での冷却でよい燃料電池107の冷却が一つのポンプ110によってバランス良く行われる。
【0056】
本実施形態では、流量分配制御弁111を用いることで、上述した機能を実現するのに必要なポンプは、ポンプ110一つでよい。すなわち、一つポンプから送り出される冷却水を流量分配制御弁111により分配し、その分配比率を変えることで、管理温度の異なる電動駆動系における冷却水の循環と、燃料電池系における冷却水の循環とを制御し、それぞれ適切な温度となるように冷却水の供給量の調整がされる。このため、ポンプ系の構成が簡素化され、小形化、低コスト化、低重量化といった優位性が得られる。
【0057】
また、車輌の進行方向の前から順に、電動駆動系用ラジエータ101、燃料電池用ラジエータ102と配置することで、より低温に冷却水を冷却する必要がある電動駆動系ラジエータ101をまず空冷する。そして、電動駆動系ラジエータ101を冷却した空気の流れを利用して、電動駆動系よりも管理温度が高くてよい燃料電池用ラジエータ102の冷却を行う。こうすることで、車輌内部の狭いスペースを有効に利用してラジエータを配置することができ、且つ、必要な箇所を効率よく適切に冷却することができる。つまり、スペースの有効利用と、冷却による温度維持のバランスをとることができる。
【0058】
(具体例)
図4は、車輌の状態と各パラメータの関係を概念的に示したグラフである。なおグラフの軸の単位は、相対値である。図4(A)には、横軸に時間軸が示され、縦軸に走行している車輌の車速(破線)と車輌の傾斜の状態(実線)が示されている。図4(A)には、最初坂を上り、ついて坂を登り切ったところで平坦となり、直ぐに下り坂となり、下り坂を下りきった段階で水平に走行する状態が示されている。そして、この場合の車速の変化が示されている。
【0059】
図4(B)は、図4(A)と時間軸(横軸)を共有するもので、縦軸に温度がとられている。ここで、電動駆動系104におけるモータを駆動する駆動回路の半導体デバイスの温度が実線により示され、燃料電池107内部の温度が破線により示されている。
【0060】
図4(C)は、図4(A)と時間軸(横軸)を共有するもので、縦軸に流量分配制御弁111の開度が示されている。
【0061】
この例では、最初に坂を上っている段階で、図4(C)に示すように、燃料分配制御弁111の開度はさほど大きくない開度に設定されており、燃料電池107の冷却は電動駆動系の半導体デバイスの冷却に比べ、さほどではなく、燃料電池107の温度が登坂時の発電増加とともに上昇していく。一方、電動駆動系の半導体デバイスの温度は充分冷却されてたいへん緩やかに上昇していく。
【0062】
坂を図4(A)の上り切った段階では、電動モータに加わる負荷が急に低下するので、図4(B)に示すように、半導体デバイスの温度は上昇しなくなる。一方、燃料電池107は、電流の取り出しが少なくなることで、反応熱の発生がいくぶん収まるものの熱の発生が続き、内部温度が上昇してゆるやかながら温度が高くなっていく。
【0063】
この例では、燃料電池107内部の温度があるレベルに上昇した段階(時刻t1)で、燃料分配制御弁111の開度が大きくされ、燃料電池107に供給される冷却水の流量が増加する制御が行われる。このため、図4(B)に示すとおり、燃料電池107内部の熱は増加した冷却水で確実に奪われ、その内部温度は上昇から下降に転じる。
【0064】
また、燃料電池107への冷却水の供給比率は高くされた影響で、電動駆動系104の半導体デバイスの温度が徐々に上昇していく様子が図4(B)に示されている。そして図4(A)の通り、下り坂となり、車速が上っていくにしたがい、電動駆動系104の負荷が大きくなり、その半導体デバイスの温度は所定の管理水温上限に近づいていく。
【0065】
このとき、図4(C)の時刻t2で流量分配制御弁111の開度が絞られる。これにより、電動駆動系104への冷却水の供給量が増え、その半導体デバイスの温度上昇が抑制されて温度が下がっていく。一方で、燃料電池107ではゆるやかな温度上昇から、やや急な温度上昇へと転じる。
【0066】
ここで図4(A)に示すように、車輌は水平走行となりその車速も一定となった状態で、図4(C)の時刻t3を迎える。時刻t3では、電動駆動系104の半導体デバイスの温度は、所定の管理水温上限から相当量低下しており、ここで燃料分配制御弁111の開度は絞り過ぎない位置で固定される。こうすることにより、電動駆動系104の半導体デバイスの温度は一定値に安定する。
【0067】
なお、時刻t3において、燃料電池107の温度上昇が抑制されて一定の値となる様子が図4(B)に示されている。これは、車速が一定となるなか図1には図示されていないバッテリーへの燃料電池107からの充電量が増加し、バッテリーから電動駆動系104への電力供給の割合が高まり、それに伴って燃料電池107の負荷量が低下し、反応熱の発生が抑えられるためである。
【0068】
2.第2の実施形態
図5は、実施形態の他の態様を示すブロック図である。図5には、冷却システム600が示されている。冷却システム600は、冷却システム100に流量分配制御弁601、602および603を追加した構成とされている。この構成では、流量分配制御弁111の制御に加えて、流量分配制御弁601〜603から選ばれた少なくとも一つの流量分配制御弁を調整することで、図3のステップS307および/またはステップ309の制御が行われる。
【0069】
3.その他
図1に示す構成において、流量分配制御弁111を冷媒流路115に配置してもよい。この場合、冷媒流路115に配置した流量分配制御弁111を開放する方向に制御すると、電動駆動系ラジエータ101への冷却水の流量が増加し、その分、燃料電池107への冷却水の流量は減少する。また、冷媒流路115に配置した流量分配制御弁111を閉鎖する方向に制御すると、その逆となる。
【0070】
流量分配制御弁111を備えない構成も考えられる。この場合、冷媒流路112と115への冷却水の分配比は固定となる。この場合、分配比は、各流路を流れる冷却水の流れのコンダクタンスを調整することで設定される。この調整は、配管の内径の設定や冷媒流路途中に配置した図示省略したバルブの調整により行うことができる。
【0071】
温度センサ1および2が検出し、管理がされる温度の閾値は、燃料電池の規模や種類、電動駆動系の規模や回路構成等に応じて、変更が可能である。車輌は、乗用車、トラック、バス、その他人や荷物を運搬する目的で電動により走行するものであれば、特に限定されない。冷媒は、冷却を行う流体であればよく、水に限定されない。
【0072】
図1に示す構成において、ポンプの位置は、冷媒流路108における冷媒流路106が合流した位置の下流側で、且つ、バイパス経路108’への分岐点の上流側であってもよい。この場合、ポンプから押し出された冷却水は、分配経路108‘または燃料電池用ラジエータ102に流れ、さらにサーモ弁109から分岐点113に至って2流路に分岐される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、車載用冷却システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
100…冷却システム、101…電動駆動系用ラジエータ、102…燃料電池用ラジエータ、103…冷媒流路、104…電動駆動系、105…温度センサ1、106…冷媒流路、107…燃料電池、108…冷媒流路、108’…バイパス経路、109…サーモ弁、110…ポンプ、111…流量分配制御弁、112…冷媒流路、114…温度センサ2、115…冷媒流路、600…冷却システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を搭載し電動により走行可能な車輌にあって、
燃料電池を冷却するための第1のラジエータと、
電動駆動系の要素を冷却するための第2のラジエータと、
前記第1のラジエータで冷却された冷媒を前記第2のラジエータに供給する第1の流路と、
前記第1のラジエータで冷却された冷媒を前記燃料電池に供給する第2の流路と、
前記冷媒に流れを与える冷媒用ポンプと
を備えることを特徴とする燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項2】
冷媒は、前記燃料電池、前記第1のラジエータ、前記冷媒用ポンプ、前記第2のラジエータを順に通過した後に前記電動駆動系の要素の冷却を行うことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項3】
車輌の前進による空気の流れに沿って、前記第2のラジエータ、前記第1のラジエータの順に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項4】
前記冷媒用ポンプは、第1のラジエータから冷媒が排出される流路または第1のラジエータに冷媒が流入する流路に配置され、
前記第1のラジエータからの冷媒の流路を前記第1の流路と前記第2の流路に分ける分岐と、
前記第1の流路と前記第2の流路を流れる前記冷媒の流量比を調整する流量比調整手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1または3に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項5】
前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒の温度を検出する第1の温度センサと、
前記燃料電池を冷却した冷媒の温度を検出する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの出力に基づいて前流流量比調整手段の制御を行う制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。
【請求項6】
前記電動駆動系の要素を冷却した冷媒を冷却せずに前記燃料電池に供給する供給手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池搭載車輌の冷却システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−277815(P2010−277815A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128642(P2009−128642)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】