説明

燃料電池用固体高分子電解質膜及びその製造方法

【解決手段】 炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムに放射線を照射した後、ラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることによって製造した燃料電池用の固体高分子電解質膜において、前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムの放射線照射前の結晶化度が33%以上であることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質膜。
【効果】 本発明の放射線グラフトにより製造された固体高分子電解質膜は、高いイオン伝導度を示し、かつメタノールに対する膨潤が少ないため、燃料電池用の電解質膜、特にダイレクトメタノール型燃料電離用の電解質膜として適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質型燃料電池用固体高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型イオン交換膜を用いた燃料電池は、作動温度が100℃以下と低く、そのエネルギー密度が高いことから、電気自動車の電源や簡易補助電源として広く実用化が期待されている。この燃料電池においては、固体高分子電解質膜、白金系の触媒、ガス拡散電極、及び高分子電解質膜と電極の接合体などに関する重要な要素技術がある。しかし、この中でも燃料電池としての良好な特性を有する固体高分子電解質膜の開発は、最も重要な技術の一つである。
【0003】
固体高分子電解質膜型燃料電池においては、電解質膜の両面にガス拡散電極が複合されており、膜と電極とは実質的に一体構造になっている。このため、電解質膜はプロトンを伝導するための電解質として作用し、また、加圧下においても燃料である水素やメタノールと酸化剤とを直接混合させないための隔膜としての役割も有する。このような電解質膜としては、電解質としてプロトンの移動速度が大きく、イオン交換容量が高いこと、電気抵抗を低く保持するために保水性が一定で、かつ高いことが要求される。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度が大きいこと、及び寸法安定性が優れていること、長期の使用に対する化学的な安定性に優れていること、燃料である水素ガスやメタノール、酸化剤である酸素ガスに対して過剰な透過性を有しないことなどが要求される。
【0004】
初期の固体高分子電解質膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合で製造した炭化水素系樹脂のイオン交換膜が電解質膜として使用された。しかし、この電解質膜は、耐久性が非常に低いため、実用性に乏しく、そのため、その後はデュポン社によって開発されたフッ素樹脂系のパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(デュポン社登録商標)」等が一般に用いられてきた。
【0005】
しかしながら、「ナフィオン」等の従来のフッ素樹脂系電解質膜は、化学的な耐久性や安定性には優れているが、メタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池(DMFC)ではメタノールによって膜が膨潤し、膜と電極の接合部が剥がれる問題、更にメタノールが電解質膜を通過するクロスオーバー現象が生じ、出力が低下する等の問題があった。
【0006】
更に、フッ素樹脂系電解質膜はモノマーの合成から出発するために、製造工程が多く、コストが高くなる問題があり、実用化する場合の大きな障害になっている。
【0007】
そのため、前記「ナフィオン」等に代わるメタノールに対する膨潤が小さく、かつ低コストの電解質膜を開発する努力が行われている。その中で、フッ素樹脂系の膜に放射線を照射し、スチレンなど反応性モノマーをグラフト重合した後にスルホン基を導入して固体高分子電解質膜を作製する方法は、ナフィオンと同程度あるいはそれより高いイオン伝導度を容易に得られることから有望な方法と考えられている。この方法については、例えば特開2001−348439号公報(特許文献1)、特開2002−313364号公報(特許文献2)、特開2003−82129号公報(特許文献3)などで提案されている。
【0008】
反応性モノマーをグラフトするフィルムとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ[テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン](FEP)、ポリ[テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル](PFA)など、フッ素樹脂が耐酸化性に優れることより主に検討されている。しかしながら、これらのフィルムは、スチレンなど反応性モノマーのグラフト率を増加するにつれて脆くなり、スルホン化した電解質膜と電極との接合体(Membrane−Electrode−Assembly:MEA)をホットプレス法で形成しようとすると、電解質膜に亀裂が入りやすい問題点がある。
【0009】
そのため、反応性モノマーをグラフトするフィルムには、スチレンなどの反応性モノマーをグラフトし、スルホン化後の伸び・破断強度が大きくなるものが好ましい。炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体からなるフィルムがその要請を満たし、代表的なものとしてポリ[エチレン−テトラフルオロエチレン](ETFE)が挙げられる。ETFEフィルムにスチレンなど反応性モノマーをグラフトし、電解質膜を得る方法については、例えば特開平9−102322号公報(特許文献4)、H.P.Brack et al.,American Chemical Society Symposium Series Vol.744,p.174(1999)(非特許文献1)、A.S.Arico et al.,Journal of Power Sources 123,p.107(2003)(非特許文献2)などに述べられている。上記文献では、燃料に水素を用いたときの電池特性について記載されているが、燃料にメタノールを用いたときの電池特性について記載された例として、T.Hatanaka et al.,Fuel 81,p.2173(2002)(非特許文献3)が挙げられる。
【0010】
この場合、ETFEのフィルムに放射線を照射後、スチレンなど反応性モノマーをグラフト重合し、スルホン化した膜は、スチレンのグラフト率を高くすることで優れた機械的特性を保ちつつ高いイオン伝導度を示す。しかし、グラフト率の増加に伴い、メタノールに対する膨潤度も大きくなる。そのため、グラフト率の高い、即ち、イオン伝導度の高い膜をMEA化した後メタノールに浸漬すると、膜のメタノール膨潤により、膜と電極とが剥がれたり、あるいは膜が破れる等の問題点があった。
【0011】
【特許文献1】特開2001−348439号公報
【特許文献2】特開2002−313364号公報
【特許文献3】特開2003−82129号公報
【特許文献4】特開平9−102322号公報
【非特許文献1】H.P.Brack et al.,American Chemical Society Symposium Series Vol.744,p.174(1999)
【非特許文献2】A.S.Arico et al.,Journal of Power Sources 123,p.107(2003)
【非特許文献3】T.Hatanaka et al.,Fuel 81,p.2173(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、放射線グラフト重合法により製造した固体高分子電解質膜において、高いイオン伝導度を保ちつつ、メタノール膨潤度を従来のグラフト膜より小さくした固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、放射線グラフト重合を行う基材として、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムであり、その結晶化度が33%以上のフィルムを用いることによって、高いイオン伝導度を保ちつつメタノールに対する膨潤度が小さくなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記の固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供する。
請求項1:
炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムに放射線を照射した後、ラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることによって製造した燃料電池用の固体高分子電解質膜において、前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムの放射線照射前の結晶化度が33%以上であることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質膜。
請求項2:
前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムが、エチレン−四フッ化エチレン共重合体である請求項1記載の燃料電池用固体高分子電解質膜。
請求項3:
炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムを、放射線を照射する前に加熱処理を施し、結晶化度を33%以上とした後、放射線を照射し、次いでラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質膜の製造方法。
請求項4:
前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムが、エチレン−四フッ化エチレン共重合体である請求項3記載の燃料電池用固体高分子電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射線グラフトにより製造された固体高分子電解質膜は、高いイオン伝導度を示し、かつメタノールに対する膨潤が少ないため、燃料電池用の電解質膜、特にダイレクトメタノール型燃料電池用の電解質膜として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の燃料電池用固体高分子電解質膜で使用される炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムとしては、反応性モノマーグラフト化後の伸び・破断強度が優れることよりエチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)が望ましい。
この場合、エチレンと四フッ化エチレンとの割合は、40:60〜60:40(モル比)であることが好ましい。
【0017】
ここで、本発明においては、ETFE等の炭化フッ素ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体(以下、単に共重合体という)として、結晶化度が33%以上のものを使用する。
即ち、本発明者の検討によれば、上記ETFE等の共重合体を特にダイレクトメタノール型燃料電池の電解質膜として使用する場合、その結晶化度の相違によりメタノール膨潤度が相違するもので、使用するETFEフィルムの放射線照射前の結晶化度によってメタノール膨潤度が異なることを見出している。ETFEフィルムの結晶化度は、Mohamed Mahmoud Nasef et al., Rad.Phys.Chem. 68(5),875−883(2003)に記載されているように、DSCの測定結果から以下の式によって求めることができる。
結晶化度(%)=(ΔHm/ΔHm100)×100
【0018】
ここで、ΔHmは、ETFEフィルムの融解熱であり、ΔHm100は100%結晶化したETFEの融解熱である。ΔHm100の値として113.4J/g(例えば、Hans−Peter Brack et al.,J.Mater.Chem. 10,1795−1803(2000))を用いることによって結晶化度を求めることが可能である。
【0019】
この場合、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体、特にETFEで形成されたフィルムを使用し、これに放射線を照射した後、ラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることによって燃料電池用の固体高分子電解質膜を製造することは従来より行われてきたが、従来使用されてきたETFEフィルムの結晶化度は32%程度であったが、本発明者の検討によれば、結晶化度が33%以上、好ましくは35%以上の共重合体フィルム、特にETFEフィルムを用いた場合にメタノール膨潤度が小さくなるものである。なお、結晶化度の上限は、適宜選定されるが、通常50%以下、特に40%以下である。
【0020】
従って、本発明においては、上述した通り、上記共重合体フィルム、特にETFEフィルムとして、結晶化度が33%以上、特に35%以上のものを使用する。ここで、市販されているETFEフィルムの多くは、その結晶化度が32%程度であるが、予め結晶化度が33%以上、好ましくは35%以上のETFEフィルムを探索して用いてもよい。また、結晶化度を大きくする方法として、例えばエチレンとテトラフルオロエチレンの割合や、第三成分を添加するなど、フィルム組成を変えることで制御することが可能であるが、フィルムのコストが高くなる。
【0021】
結晶化度を大きくする簡便な方法として、例えば放射線を照射する前に加熱処理を施すことによって結晶化度を上げることも可能である。このとき加熱処理は50〜260℃、特に100〜200℃で行うことが好ましい。加熱処理温度が50℃未満であると、加熱処理の効果が得られない場合があり、260℃より高い温度では、ETFEの融点を超えるためフィルムの形状が保てなくなる場合がある。
【0022】
また、加熱処理時間は1分〜2時間、特に30分〜1時間とすることが好ましい。処理時間が短すぎると、フィルムが十分熱処理されず、結晶化度はほとんど変わらない。処理時間が長すぎると、フィルムが変形する問題が生じる。
【0023】
ここで、このような加熱処理されるフィルムは、結晶化度が33%より小さいETFEフィルム等が挙げられ、結晶化度が32%程度のETFEフィルムの市販品を用いることができ、このような市販品としてサンゴバン社製Norton ETFE等を挙げることができる。
なお、使用するフィルムの厚さは10〜300μm、特に25〜200μmが好ましい。
【0024】
本発明においては、このように結晶化度が33%以上の共重合体を使用し、これに放射線を照射した後、ラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることによって、燃料電池用の固体高分子電解質膜を得るものであるが、かかる放射線グラフト重合法は、公知の方法を採用し得る。
【0025】
即ち、放射線グラフト重合は、フッ素系樹脂のフィルムに放射線を照射することで、ラジカルを生成し、そこをグラフト点としてラジカル反応性モノマーをグラフトする方法であるが、照射する放射線としてはγ線、X線、電子線、イオンビーム、紫外線などが例示される。ラジカル生成の容易さからγ線、電子線が好ましい。
放射線の吸収線量は1kGy以上になるよう照射される。1kGy未満であると、ラジカル生成量が少なく、所望のイオン伝導度を得るのに十分なグラフト率が得られない。100kGyを超えるとフッ素系樹脂の伸び、強度などの機械特性が低下する。望ましい吸収線量は1〜100kGy,更に望ましい吸収線量は1〜50kGyである。
【0026】
グラフトするラジカル重合性のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロスチレン、ジビニルベンゼンなどが例示される。これら有機化合物をグラフト重合するに際し、アゾビスイソブチルニトリルなどの開始剤、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタンなどの有機溶剤を用いてもよい。
【0027】
この場合、グラフト共重合条件としては、窒素等の不活性雰囲気下、40〜80℃、特に50〜70℃で5〜30時間、特に10〜20時間重合を行うことが好ましい。またグラフト率は20〜100%、特に30〜60%であることが好ましい。
【0028】
グラフトした膜は、クロロスルホン酸−ジクロロエタン中に浸漬することによってクロロスルホン酸基を導入することができる。クロロスルホン酸と反応させた膜は、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム水溶液中で反応させ、スルホン酸アルカリ塩とし、引き続き塩酸などで酸処理することによってスルホン化される。
【0029】
このようにして得られた膜は、燃料電池用電解質膜、特にダイレクトメタノール型燃料電池用電解質膜として使用されるが、この場合、かかる燃料電池の構成としては、電解質膜として本発明の電解質膜を用いる以外は、公知の構成とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、これらは例示の目的で挙げられるものであり、本発明は、これらの実施例に示された具体的な事項に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
ETFEフィルムとして、厚さ50μmの市販されているフィルム(サイゴバン社製Norton ETFE)を用いた。結晶化度の測定は、DSC(Perkin Elmer社製、DSC7)により行った。窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで測定し、融解ピーク温度268℃のピークの面積より、結晶化度は35.2%であった。
サイズを6cm×6cmとした上記ETFEフィルムに、電子線を25℃で照射し、スチレン40質量部、ジビニルベンゼン2質量部、ヘキサン40質量部、アゾビスイソブチルニトリル0.01質量部が仕込んである500ccのセパラブルフラスコに入れ、窒素雰囲気下で60℃で16時間加熱し、グラフト重合した。電子線吸収線量を2kGy、3kGy、5kGyの3種類について実施し、下記の式よりグラフト率を算出した。
グラフト率(wt%)=(W−W0)/W0×100
各吸収線量におけるグラフト率は(表1)の通りであった。W0はグラフト前の基板質量であり、Wはグラフト後の基板質量である。グラフト後質量Wはグラフト後のフィルムをアセトンで3回洗浄し、60℃で2時間真空乾燥後の質量とした。
【0032】
上記フィルムをクロロスルホン酸30質量部と1,2−ジクロロエタン70質量部の混合液に浸漬し、50℃で1時間加熱後、90℃の1N苛性カリ水溶液中に1時間浸漬することで加水分解し、続いて90℃の2N塩酸に1時間浸漬後、純水で3回洗浄し、スルホン酸基を含有する固体高分子電解質膜を得た。
得られた膜についてイオン伝導度、及びメタノール膨潤度の測定を行った。イオン伝導度は交流インビーダンス法により純水中に1時間浸漬後室温における表面の伝導度を測定した。メタノールの膨潤度は、膜を60℃で2時間真空乾燥後、メタノールに室温下で16時間浸漬し、浸漬前後の質量変化より算出した。浸漬前の膜質量をW1、浸漬後の膜質量をW2とし、膨潤度は以下の式により算出した。
膨潤度(wt%)=(W2−W1)/W1×100
得られた固体高分子電解質膜のイオン伝導度、及びメタノール膨潤度は表1の通りであった。
【0033】
[実施例2]
ETFEフィルムとして厚さ50μmの、別のメーカーから市販されているフィルム(サンプラテック社製 ETFE)を用いた。このフィルムの結晶化度は、実施例1に記載した手順と同様の方法で測定し、その結晶化度は32.4%であった。このETFEフィルムをオーブンに入れ、100℃で1時間保持し、室温まで冷却した。加熱後のETFEフィルムの結晶化度を測定したところ33.5%であった。
加熱処理したETFEフィルム(サイズ6cm×6cm)に電子線を25℃で照射し、スチレン40質量部、ジビニルベンゼン2質量部、ヘキサン40質量部、アゾビスイソブチルニトリル0.01質量部が仕込んである500ccのセパラブルフラスコに入れ、窒素雰囲気下で、60℃で16時間加熱し、グラフト重合した。電子線吸収線量を2kGy、3kGy、5kGyの3種類について実施し、各吸収線量におけるグラフト率は表1の通りであった。スルホン化は実施例1と同様に実施した。得られた膜のイオン伝導度、及びメタノール膨潤度を実施例1と同様に測定した。測定結果は表1に示す通りであった。
【0034】
[比較例1]
比較例として、従来の方法を示す。使用するETFEフィルムは実施例2で示した結晶化度32.4%のものであり、それを加熱処理せずそのまま使用した。サイズ6cm×6cm,厚さ50μmのETFEフィルムに電子線を25℃で照射し、スチレン40質量部、ジビニルベンゼン2質量部、ヘキサン40質量部、アゾビスイソブチルニトリル0.01質量部が仕込んである500ccのセパラブルフラスコに入れ、窒素雰囲気下で60℃で16時間加熱し、グラフト重合した。各吸収線量におけるグラフト率は表1の通りであった。スルホン化は実施例1と同様に実施した。得られた膜のイオン伝導度、及びメタノール膨潤度を実施例1と同様に測定した。測定結果は表1に示す通りであった。
【0035】
【表1】

【0036】
用いたETFEフィルムの結晶化度によって、電子線吸収線量に対するグラフト率は異なっているが、イオン伝導度が0.10S/cmであるサンプルNo.1−3,2−2,3−1についてメタノール膨潤度を比較すると、結晶化度の高いフィルムの方が膨潤度が小さくなっていることがわかる。即ち、結晶化度が33%以上、好ましくは35%以上で、同程度のイオン伝導度であるにもかかわらず、メタノール膨潤度が小さくなっていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムに放射線を照射した後、ラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることによって製造した燃料電池用の固体高分子電解質膜において、前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムの放射線照射前の結晶化度が33%以上であることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質膜。
【請求項2】
前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムが、エチレン−四フッ化エチレン共重合体である請求項1記載の燃料電池用固体高分子電解質膜。
【請求項3】
炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムを、放射線を照射する前に加熱処理を施し、結晶化度を33%以上とした後、放射線を照射し、次いでラジカル反応性モノマーをグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体で形成されたフィルムが、エチレン−四フッ化エチレン共重合体である請求項3記載の燃料電池用固体高分子電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−59776(P2006−59776A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243335(P2004−243335)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】