説明

燃料電池用金属分離板及びその製造方法

【課題】耐食性、伝導性、耐久性等の物性に優れた燃料電池用金属分離板及びその製造方法について開示する。
【解決手段】本発明にかかる燃料電池用金属分離板は、分離板形状に成形された金属母材及び前記金属母材上に形成されるコーティング層を含み、前記コーティング層は厚さによって炭素元素(C)と金属元素(Me)が濃度傾斜を有するが、前記金属母材から遠ざかるほどC−enrichで、前記金属母材側に近づくほどMe−enrichであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用金属分離板に関するものであり、より詳しくは、分離板形状に成形された金属母材上に金属元素と炭素元素を炭素元素が表面に集中する形態の濃度勾配型にコーティングしたり、或いは分離板形状に成形された金属母材上に金属でバッファ層を先に形成し、その上に非晶質炭素等をコーティングすることにより、燃料電池用金属分離板の耐食性、伝導性、耐久性等の物性を向上させることができる燃料電池用金属分離板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(Fuel Cell)とは、燃料の酸化によって生じる化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する電池であり、近年における化石燃料の枯渇問題、二酸化炭素発生による温室効果や地球温暖化等の問題点を克服するために太陽電池等と共に多くの研究が行われている。
【0003】
燃料電池は、一般的に水素と酸素の酸化、還元反応を利用して、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。陰極(anode)で水素が酸化して水素イオンと電子に分離され、水素イオンは電解質によって陽極(cathode)に移動する。このとき、電子は回路を通って陽極に移動する。陽極で水素イオン、電子及び酸素が反応して水になる還元反応が起こる。
【0004】
燃料電池の単位セル(Unit Cell)は、電圧が低く実用性に劣るため、一般的に数個あるいは数百個の単位セルを積層して使用する。単位セルの積層時、各単位セル間に電気的接続が起こるようにし、反応ガスを分離させる役割をするものが分離板(Separator)である。
【0005】
燃料電池用分離板は、材質に応じてグラファイト分離板、金属分離板等に分けられる。
【0006】
グラファイト分離板は、従来の燃料電池用分離板において多く採用されているものであり、グラファイト(Graphite)を流路形態に沿ってミーリング加工して作製していた。この場合、グラファイト材質の分離板が占める比重がスタック全体において費用は50%、重さは80%以上を占めていた。よって、グラファイト材質の分離板は、高コストおよび嵩が大きい等の問題点があった。
【0007】
前記のグラファイト材質の分離板の問題点を克服するために金属材質の金属分離板が開発されたが、金属分離板は、加工性が容易で、且つ分離板の厚さ減少による燃料電池全体的な嵩の減少及び軽量化を図ることができ、大量生産が容易な点等の様々な長所がある。
【0008】
しかし、燃料電池使用時に発生する金属の腐食は、膜電極集合体の汚染を誘発して燃料電池のスタック性能を低下させる要因として作用し、また長時間使用する場合は金属表面での厚い酸化膜の成長は燃料電池内部抵抗を増加させる要因として作用し得る。
【0009】
よって、前記のように金属分離板での金属の腐食と、燃料電池の内部抵抗の増加を抑えて金属分離板の性能を向上させることができるように、高い耐食性と電気伝導性を有する燃料電池用金属分離板が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、非晶質炭素コーティングや金属がドーピングされた炭素コーティングにより、薄いコーティング層でも高い耐食性及び伝導性を確保できる燃料電池用金属分離板を提供するものである。
【0011】
本発明の他の目的は、金属元素と炭素元素を分離板にコーティングするが、炭素元素が最外郭にコーティングされるようにコーティング量を調節したり、金属層と炭素層を順次にコーティングして、高い耐食性及び伝導性を確保できる燃料電池用金属分離板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の一つの目的を達成するための本発明の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板は、分離板形状に成形された金属母材及び前記金属母材上に形成されるコーティング層を含み、前記コーティング層は厚さによって炭素元素(C)と金属元素(Me)が濃度傾斜を有するが、前記金属母材から遠ざかるほど前記炭素元素が次第に多くなり(C−enrich)、前記金属母材側に近づくほど前記金属元素が次第に多くなること(Me−enrich)を特徴とする。
【0013】
前記の一つの目的を達成するための本発明の他の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板は、分離板形状に成形された金属母材及び前記金属母材上に形成されるコーティング層を含み、前記コーティング層は前記金属母材上に金属元素(Me)で形成される金属層と前記金属層上に炭素元素(C)を含んで形成される炭素層を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる燃料電池用金属分離板は、表面側に非晶質炭素層等を形成することにより、耐食性、伝導度、耐久性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明にかかる燃料電池用金属分離板は、低い工程コストでも高密度の非晶質炭素層等を形成でき、燃料電池用金属分離板の全体的な製造コストを節減でき、且つ燃料電池用金属分離板の厚さを減少させることができる。
【0016】
さらに、本発明にかかる燃料電池用金属分離板の製造方法は、化学的洗浄、商業用脱脂、乾式蝕刻等の方法により金属母材の表面に存在する不純物を取り除くことにより、コーティング層形成時に金属母材とコーティング層との密着力を増大させることと併せて、不要な酸化雰囲気を形成しないという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板を概略的に示した断面図である。
【図2】本発明の他の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板を概略的に示した断面図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板の製造方法を概略的に示した順序図である。
【図4】本発明の他の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板の製造方法を概略的に示した順序図である。
【図5】本発明にかかる燃料電池用金属分離板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を図示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳しく後述する実施例及び図面を参照すると明確になる。しかし、本発明は以下で開示する実施例に限定されるものではなく、相違する様々な形態に具現でき、但し本実施例は、本発明の開示が完全になるようにし、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に発明のカテゴリーを完全に教示するために提供するものであり、本発明は請求項の範疇によって定義されるに過ぎない。
【0019】
以下では、本発明にかかる燃料電池用金属分離板及びその製造方法について詳しく説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板を概略的に示す断面図である。
【0021】
図1を参照すると、図示した金属分離板は、分離板形状に成形された金属母材110及びコーティング層120を含む。
【0022】
金属母材110は、一般的な燃料電池用金属分離板に利用されるものであれば制限なく利用することができ、具体的な材質の例を挙げると、金属母材110はステンレススチール、アルミニウム、チタニウム、ニッケルや、これらのうち一つ以上を含む合金等の材質からなり得る。このうち、軽く且つ耐食性に優れたステンレススチール材質の金属母材が最も好ましいと見なせる。このとき、本発明での金属母材は分離板形状に成形されたものを利用する。
【0023】
但し、これら金属母材110を構成する材質は、燃料電池の高温多湿の苛酷な環境下では耐食性及び電気伝導性特性が満足のいく水準を見せないため、本発明ではこのような点を補完するために金属母材110表面にコーティング層120を形成する。
【0024】
このとき、コーティング層120は金属元素(Me)121と、炭素元素(C)122で形成される。
【0025】
金属元素(Me)121は、電気伝導性に優れたジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等から1種あるいは2種以上選択できる。
【0026】
炭素元素(C)122は、耐食性、耐久性及び電気伝導性に優れたDLC(Diamond Like Carbon)のような非晶質炭素(Amorphous Carbon)の形態を有することが好ましい。炭素の場合、ダイヤモンド形態、非晶質炭素形態、グラファイト形態等を有することができるが、ダイヤモンド形態の場合は電気伝導性が非常に良くなく、グラファイト形態の場合は膜の緻密性が良くない。よって、本発明では分離板の耐久性及び伝導性を共に考慮してダイヤモンドとグラファイトの中間程度の物性を有する非晶質炭素を利用する。勿論、非晶質炭素で足りない電気伝導性は、金属等によって補完できる。
【0027】
金属元素121は、金属母材110との付着性等を向上させ、金属母材110に集中する応力を緩和する役割をし、また電気伝導度を補完する役割をする。炭素元素122は、分離板の耐食性等を向上させる役割をする。このような点で金属元素121は、金属母材110の近くに集中的に形成され、炭素元素122は分離板の表面に集中的に形成されることが好ましい。
【0028】
これにより、図1に図示した実施例では、前記コーティング層は厚さに応じて炭素元素(C)と金属元素(Me)が濃度傾斜を有するように形成される。具体的には、金属母材110から遠ざかるほど炭素元素(C)が次第に多くなり(C−enrich又はC−rich)、逆に、金属母材110側に近づくほど金属元素(Me)が次第に多くなる(Me−enrich又はMe−rich)。このとき、厚さによる炭素元素(C)と金属元素(Me)の濃度傾斜は、必ずしも線状である必要はなく、コーティング層120の厚さ方向に炭素元素(C)と金属元素(Me)の全体的な濃度勾配を有するもの、つまりコーティング層120の表面側に炭素元素(C)が集中し、金属母材110側に金属元素(Me)が集中する形態であれば良い。
【0029】
このとき、コーティング層120で炭素元素122が金属元素121よりも多い部分の厚さは0.01〜5.0μmであることが好ましい。炭素元素122が集中している部分の厚さが0.01μm未満だと分離板の耐食性等の向上効果を期待できなく、逆に、炭素元素122が集中している部分の厚さが5.0μmを超える場合は、金属分離板の製造コストが上昇し得る。
【0030】
また、コーティング層120で金属元素121が炭素元素122よりも多い部分の厚さは0.01〜5.0μmであることが好ましい。金属元素121が集中している部分の厚さが0.01μm未満だと表面に集中する炭素元素122の密着性等が低下し得、金属元素121が集中している部分の厚さが5.0μmを超えると密着力が低下し得、また生産性が低下して劣り、製造コストが上昇し得る。
【0031】
図2は、本発明の他の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板を概略的に示す断面図である。
【0032】
図2を参照すると、図示した燃料電池用金属分離板は、分離板形状に成形された金属母材210、金属層220及び炭素層230を含む。
【0033】
前記図1に示した実施例は、 金属元素(Me)と炭素元素(C)が濃度傾斜を有すると共に、一つのコーティング層で形成されるものに比べて、図2に示した実施例は分離板形状に成形された金属母材210上にほぼ完全に分けられる二つの層がコーティング層を形成する。
【0034】
金属母材210上に形成される二つのコーティング層は、金属層220と炭素層230に分けられる。
【0035】
金属層220は、炭素層230の密着力を向上させ、炭素層230形成時に金属母材210が受ける応力等を分散させるために金属母材210上に先に形成される。金属層220は、電気伝導性に優れたジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の材質で形成できる。
【0036】
炭素層230は、分離板の耐食性、伝導性等を向上させるために金属層220上に炭素元素を含んで形成する。このとき、炭素層230は、非晶質炭素層の形態に形成でき、また、金属がドーピングされた炭素層の形態に形成できる。このとき、後者の場合は、炭素層にドーピングされる金属は金属層220を形成する金属元素と同様に、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等から1種あるいは2種以上選択できる。
【0037】
金属層220の厚さは、0.01〜5.0μmであることが好ましく、炭素層230の厚さは0.01〜5.0μmであることが好ましい。前述のとおり、金属層220のコーティング厚が0.01μm未満だと炭素層230の密着性が低下し得、炭素層230のコーティング厚が0.01μm未満だと分離板の耐食性、伝導性、耐久性向上の効果が不十分であり得る。そして、金属層220及び炭素層230のコーティング厚が前記の範囲を超えると、それ以上は効果が上昇せず、それだけ多くの炭素元素及び金属元素を必要とするため、全体的な分離板の製造コストが上昇することになる。
【0038】
図3は、本発明の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板の製造方法を概略的に示す順序図であり、図1に示した燃料電池用金属分離板を製造するための過程を示したものである。
【0039】
図3を参照すると、図示した燃料電池用金属分離板は、金属母材表面洗浄段階S302、金属母材表面乾式蝕刻段階S304及びコーティング層形成段階S310を含む。
【0040】
金属母材表面洗浄段階S302は、金属母材表面の有機物や無機物の洗浄のために実施するものであり、化学的洗浄、商業用脱脂、乾式蝕刻等の方法を一つ以上利用することができ、例えば、アセトンやエタノール、商業用脱脂剤を利用して5〜10分程度実施できる。
【0041】
乾式蝕刻段階S304は、コーティング層の形成S310前に金属母材表面の酸化膜や不純物を除去し、さらに、金属母材の表面活性化のためにアルゴンガス等を利用したイオン銃エッチングやスパッタエッチング方法により実施される。
【0042】
乾式蝕刻方法のうちイオン銃エッチングは、反応チャンバーに40〜60sccm程度のアルゴンを流し込み、イオン銃に800〜1500Vの電圧と0.15〜0.25A程度の電流を印加してイオン銃によるエッチングを行うことができる。
【0043】
このとき、印加電流が約0.2Aのときにイオン銃に印加される電圧が800V以下だとイオン銃エッチングの効果が低下するため、イオン銃に印加される電圧は800V以上でなければならない。イオン銃エッチングは、約10〜30分間行われ得るが、金属母材表面の酸化膜等の厚さやエッチング速度等によってイオン銃エッチング時間が異なり得る。
【0044】
イオン銃エッチングは、グラインディング方式に比べて化合物層を除去する速度が速く、工程中間に母材表面の温度上昇、及び酸化雰囲気を組成する不要な過程を除くことができ、コーティング時に付着力を阻害し得る照度の差を最小化できるという長所がある。
【0045】
前記の金属母材表面洗浄段階S302や乾式蝕刻段階S304は、必ずしも必須的なものではないが、金属母材上に形成されるコーティング層の密着力の向上等のために実施することがより好ましい。
【0046】
コーティング層形成段階S310では、金属元素と炭素元素を金属母材上にコーティングしてコーティング層を形成する。コーティング層は、物理的気相蒸着(Physical Vapor Deposition;PVD)方式、化学的気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition;CVD)又は原子層蒸着方式(Atomic Layer Deposition)等の様々な蒸着方式を利用できる。例えば、物理的蒸着方式の場合は、炭素元素ターゲット、金属元素ターゲット及びアルゴンガスを利用して金属母材上に炭素元素及び金属元素を蒸着できる。
【0047】
このとき、コーティング層形成段階S310では分離板形状に成形された金属母材上に炭素元素(C)と金属元素(Me)が厚さによって濃度傾斜を有するようにコーティング層を形成する。このとき、金属母材から遠ざかるほど炭素元素が次第により多くなり(C−enrich或いはC−rich)、前記金属母材側に近づくほど金属元素がより多くなるように(Me−enrich或いはMe−rich)する。このために、図3に示したように、炭素元素(C)のコーティング量をコーティング時間の経過に応じて漸進的に増加させ、金属元素(Me)のコーティング量をコーティング時間の経過に応じて漸進的に減少させる。具体的には、コーティング初期には金属元素中心にコーティングを実施し、次第に金属元素のコーティング量を減らし、相対的に炭素元素のコーティング量を増加させることにより、コーティングの最終時期には炭素元素を中心にコーティングする。
【0048】
前述の通り、コーティング前半部は金属元素が前記炭素元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmになり、コーティング後半部は炭素元素が金属元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmになるようにすることが好ましい。
【0049】
図4は、本発明の他の一実施例にかかる燃料電池用金属分離板の製造方法を概略的に示す順序図であり、図2に示した燃料電池用金属分離板を製造するための過程を表したものである。
【0050】
図4を参照すると、図示した燃料電池用金属分離板は、金属母材表面洗浄段階S402、金属母材表面乾式蝕刻段階S404及び金属層形成段階S410及び炭素層コーティング段階S420を含む。
【0051】
金属母材表面洗浄段階S402及び乾式蝕刻段階S404は、図3で説明したものと同一なため、詳しい説明は省略する。
【0052】
金属母材表面洗浄段階S402及び乾式蝕刻段階S404は、本実施例においても必ずしも必須的なものではないが、金属母材上に形成されるコーティング層の密着力向上等のために実施することがより好ましい。
【0053】
図3に示した実施例では、コーティング層として金属元素と炭素元素を利用した一つの層を形成したが、本実施例ではコーティング層として金属層及び炭素層を形成する。
【0054】
金属層形成段階S410では、金属母材上に金属元素(Me)をコーティングしてバッファ層としての金属層を形成する。金属層形成段階S410によって形成される金属層は、炭素層の密着力を向上させ、炭素層形成時に金属母材等が受ける応力の集中を緩和する役割をする。
【0055】
炭素層形成段階S420では、金属層上に炭素層を形成する。このとき、炭素層は非晶質炭素(amorphous Carbon)層の形態または金属がドーピングされた炭素(Me doped Carbon)層の形態になり得る。
【0056】
前記金属層形成段階S420でコーティングされる金属や、炭素層形成段階S420で金属ドーピングのために使用する金属は、電気伝導性に優れたジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等であり得る。これら金属元素は、単独で利用でき、2種以上混用することもできる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の好ましい実施例によって本発明の構成及び作用をより詳しく説明する。但し、これは本発明の好ましい例として提示したものであり、如何なる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈してはならない。
【0058】
ここに記載しない内容は、本技術分野の熟練者であれば十分に技術的に類推できるもののため、説明は省略する。
【0059】
1.燃料電池用金属分離板の製造
分離板形状に成形された金属母材であり、ステンレススチール(316L,厚さ0.1mm)を使用し、表1に示した条件で実施例1〜10及び比較例1〜10に従った燃料電池用金属分離板を製造した。
【0060】
【表1】

【0061】
2.物性評価
【0062】
(1) 接触抵抗測定
図5は、本発明にかかる燃料電池用金属分離板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を図示した図面である。
【0063】
図5を参照すると、燃料電池用金属分離板500の接触抵抗測定のために、セル締結のための最適化された定数を得るために修正したデビッド方法(Davies method)を金属分離板とカーボンペーパー間の接触抵抗を測定するために用いた。
【0064】
接触抵抗は、4点法(four−wire current−voltage)測定原理を利用してZahner社のIM6D装備で測定した。
【0065】
測定方法は、定電流モードで測定領域DC 5A及びAC 0.5Aにして10kHzから10mHzまでの範囲で接触抵抗を測定した。カーボンペーパーはSGL社の10BBを使用した。
【0066】
前記接触抵抗測定装置50は、カーボンペーパー520、金がメッキされた銅プレート510が試片500を介してそれぞれ上下に備えられ、前記銅プレート510は電流供給装置530と電圧測定装置540に連結されている。
【0067】
前記試片500に電流を供給できる電流供給装置(530,Zahner社のIM6)でDC 5A/AC 0.5Aの電流を印加して電圧を測定した。
【0068】
そして、前記接触抵抗測定装置50の銅プレート510の上下で前記試片500とカーボンペーパー520、銅プレート510が積層構造を有するように圧力を提供できる圧力機(Instron社モデル5566,圧縮維持試験)を準備する。前記圧力機は、前記接触抵抗測定装置50に50〜150N/cm2の圧力を提供する。
【0069】
このように準備した接触抵抗測定装置50で実施例1〜10と比較例1〜10の試片500の接触抵抗を測定した。
【0070】
(2)腐食電流密度の測定
実施例1〜10及び比較例1〜10による金属分離板の腐食電流密度を測定するための測定装備としては、EG&G 273Aを使用した。腐食耐久性実験は、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)の駆動雰囲気と類似環境下で行われた。
【0071】
金属分離板腐食用実験溶液としては、80℃の0.1N H2SO4+5ppm HF溶液を使用し、1時間のN2 bubbling後、OCP(Open Circuit Potential)−0.25V〜1.2V vs SCEの範囲で測定した。
【0072】
そして、PEFC anode環境に対して−0.24V vs SCE、cathode環境(SCE:Saturated Calomel Electrode)に対して0.6V vs SCEで物性測定をした。
【0073】
ここで、前記物性測定の比較は、燃料電池環境と類似するcathode環境の0.6V vs SCEの腐食電流密度データにより比較評価した。
【0074】
前記anode環境は、水素が膜‐電極集合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)で水素イオンと電子に分離される反応が起こる環境であり、前記cathode環境は酸素が水素イオン及び電子と結合して水を生成する反応が起こる環境である。
【0075】
ここで、前記の条件のようにcathode環境の電位が高く、より苛酷な腐食条件のため、cathode環境を基準に耐食性を試験することが好ましい。
【0076】
3.物性評価の結果
表1を参照すると、本発明の実施例1〜10は、腐食電流密度が0.6〜6.2μA/cm2間の値を有していることが分かり、接触抵抗は14〜22mΩ・cm2の値を表していることが分かる。
【0077】
その反面、比較例1〜10は、腐食電流密度が10〜30μA/cm2間の値を有しており、接触抵抗は24〜40mΩ・cm2の値を表していることが分かる。
【0078】
これは、洗浄及び乾式蝕刻を行い、金属層とコーティング層を共に形成した実施例の場合は、電気伝導性、耐食性及び耐久性が優れることを意味する。
【0079】
その反面、炭素層及び金属層のうちいずれかが形成されなかったり、形成された場合でも厚さが0.01μm未満または5.0μmを超える場合は、薄膜の電流応力による剥離により腐食電流密度及び接触抵抗の測定ができなかった。
【0080】
以上、添付の図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されるのではなく、相違する様々な形態に変形でき、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更せず他の具体的な形態で実施できるということが理解できる。そのため、以上に記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないことを理解しなければならない。
【符号の説明】
【0081】
110,210:金属母材
120:コーティング層
121:金属元素
122:炭素元素
220:金属層
230:炭素層
S302,S402:金属母材表面洗浄
S304,S404:金属母材表面乾式蝕刻
S310:コーティング層形成段階
S410:金属元素コーティング段階
S420:炭素コーティング段階

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離板形状に成形された金属母材及び前記金属母材上に形成されるコーティング層を含み、
前記コーティング層は厚さによって炭素元素(C)と金属元素(Me)が濃度傾斜を有するが、前記金属母材から遠ざかるほどC−enrichで、前記金属母材側に近づくほどMe−enrichであることを特徴とする燃料電池用金属分離板。
【請求項2】
前記コーティング層は、
前記炭素元素が前記金属元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmで、
前記金属元素が前記炭素元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項3】
前記金属元素(Me)は、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)から1種または2種以上選ばれることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項4】
前記金属母材は、ステンレススチール、アルミニウム、チタニウム、ニッケル及びこれらのうち一つ以上を含む合金材質から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項5】
分離板形状に成形された金属母材及び前記金属母材上に形成されるコーティング層を含み、
前記コーティング層は、前記金属母材上に金属元素(Me)で形成される金属層と前記金属層上に炭素元素(C)を含んで形成される炭素層を含むことを特徴とする燃料電池用金属分離板。
【請求項6】
前記炭素層は、非晶質炭素層で形成されるか、或いは金属がドーピングされた炭素層で形成されることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項7】
前記金属は、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタニウム(Ti)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項8】
前記炭素層の厚さは0.01〜5.0μmで、
前記金属層の厚さは0.01〜5.0μmであることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項9】
分離板形状に成形された金属母材上に炭素元素(C)と金属元素(Me)が厚さによって濃度傾斜を有するようにコーティング層を形成するが、
前記コーティング層は、前記金属母材から遠ざかるほどC−enrichで、前記金属母材側に近づくほどMe−enrichするように、コーティング時間の経過に応じて前記炭素元素(C)のコーティング量を漸進的に増加させ、前記金属元素(Me)のコーティング量を漸進的に減少させることを特徴とする燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項10】
前記コーティング層で前記炭素元素が前記金属元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmになり、前記金属元素が前記炭素元素よりも多い部分の厚さが0.01〜5.0μmになるように、前記炭素元素(C)と前記金属元素(Me)のコーティング量を調節することを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項11】
前記燃料電池用金属分離板の製造方法は、前記コーティング層を形成する前に前記金属母材の表面を洗浄することを更に含むことを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項12】
前記燃料電池用金属分離板の製造方法は、前記コーティング層を形成する前に前記金属母材の表面をエッチングすることを更に含むことを特徴とする請求項9に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項13】
前記エッチングは、アルゴンガスを用いる乾式蝕刻方式で実施されるが、イオン銃に0.15〜0.25Aの電流及び800〜1600Vの電圧が印加されるイオン銃エッチング方式で実施されることを特徴とする請求項12に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項14】
分離板形状に成形された金属母材上に金属層と炭素層を含むコーティング層を形成するが、
前記金属母材上に金属元素(Me)をコーティングして前記金属層を形成し、
前記金属層上に炭素層を形成することを特徴とする燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項15】
前記炭素層の厚さは0.01〜5.0μmであり、前記金属層の厚さは0.01〜5.0μmであることを特徴とする請求項14に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−198764(P2011−198764A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62869(P2011−62869)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(509107932)ヒュンダイ ハイスコ (20)
【Fターム(参考)】