説明

燃料電池車両の冷却装置

【課題】 少ない配置スペースに複数のラジエータを容易に配置し、燃料電池及び駆動モータを効率良く冷却すること。
【解決手段】 燃料電池車両の冷却装置26は、燃料電池と、走行用動力を発生する駆動モータと、燃料電池を冷却する第1ラジエータ31と、駆動モータを冷却する第2ラジエータ41とを備える。第1・第2ラジエータの通風開口の大きさW1,W2及びH1,H2を互いにほぼ同一に設定するとともに、第1ラジエータの放熱面積A1に対して第2ラジエータの放熱面積A2を小さく設定した。燃料電池車両の前部に第2ラジエータを配置するとともに、第2ラジエータの後面に第1ラジエータを隣接させて配置し、第1・第2ラジエータ間の周囲をシール部材でシールした。第1・第2ラジエータに共用するラジエータ空冷用ファンを、第1ラジエータの後部に取付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池車両における燃料電池と、この燃料電池の電力を受けて走行用動力を発生する駆動モータとを冷却する、冷却装置の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車両の開発に伴い、燃料電池及び駆動モータを冷却する冷却装置の開発が進められている。燃料電池の運転温度は、駆動モータの運転温度よりも高温である。これに対処するために、燃料電池及び駆動モータを互いに独立して冷却する技術が、開発されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−315513公報
【0003】
特許文献1による従来の冷却装置を、次の図7に基づいて説明する。図7は従来の燃料電池車両の冷却装置の系統図である。
従来の燃料電池車両の冷却装置100は、燃料電池101を冷却水で冷却する第1冷却ライン110と、駆動モータ102を冷却水で冷却する第2冷却ライン120とを、互いに独立させたというものである。駆動モータ102は、燃料電池101の電力を受けて走行用動力を発生するものである。
【0004】
このような冷却装置100は、冷却風の流れに対して、第1冷却ライン110の第1ラジエータ111を第2冷却ライン120の第2ラジエータ121の下流に配置するとともに、第1・第2ラジエータ111,121を冷却する複数のラジエータ空冷用ファン112,112を第1ラジエータ111の直後に配置した構成である。第1・第2冷却ライン110,120は、冷却水を循環させる冷却水ポンプ113,123を備える。
【0005】
なお、互いに独立している第1冷却ライン110と第2冷却ライン120との間は、2個の三方弁131,132をONからOFFへ切り替えることにより、各バイパスライン133,134を介して連通させることができる。また、第2冷却ライン120は、制御装置135及びコンプレッサ用インタークーラ136をも冷却することができる。
【0006】
特に、燃料電池101を固体高分子型の燃料電池とした場合には、その運転温度は70〜90℃と、内燃機関の運転温度と比較して低く、外気温度との温度差が小さいため、放熱量を大きくするためには、燃料電池のための冷却水(冷媒)を冷却する第1ラジエータ111は大型にならざるを得ない。大型の第1ラジエータ111を燃料電池車両の狭いスペースに配置するには改良の余地がある。
しかも、燃料電池101と駆動モータ102との運転温度は、それぞれ別々に制御することが望まれている。従って、駆動モータ102のための冷却水(冷媒)を冷却する第2ラジエータ121は、第1ラジエータ111とは別に必要である。このため、燃料電池101及び駆動モータ102を、互いに別々に効率良く冷却する技術が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、少ない配置スペースに複数のラジエータを容易に配置できるとともに、燃料電池及び駆動モータを効率良く冷却できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、燃料電池と、この燃料電池の電力を受けて走行用動力を発生する駆動モータと、燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータと、駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータとを備えた燃料電池車両の冷却装置において、
第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータの放熱面積を互いに異ならせ、
第1・第2ラジエータを前後に隣接させ、その隣接面の間をシール部材にてシールするとともに、燃料電池車両の前部に配置し、
第1・第2ラジエータに共用するラジエータ空冷用ファンを設けることで、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するように構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、燃料電池の運転温度を駆動モータの運転温度よりも高温に設定するとともに、第1ラジエータを第2ラジエータの後方に配置したことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、燃料電池と、この燃料電池の電力を受けて走行用動力を発生する駆動モータと、燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータと、駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータとを備えた燃料電池車両の冷却装置において、
第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチに対して、第2ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチを大きく設定することで、第1ラジエータの放熱面積に対して第2ラジエータの放熱面積を小さく設定し、
燃料電池車両の前部に第2ラジエータを配置するとともに、この第2ラジエータの後面に第1ラジエータを隣接させて配置し、これら第1・第2ラジエータ間の周囲をシール部材にてシールし、
第1・第2ラジエータに共用するラジエータ空冷用ファンを、第1ラジエータの後部に取付けることで、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するように構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2又は請求項3において、第1・第2ラジエータの前に、車室の空調のための冷媒を冷却する第3ラジエータを配置し、この第3ラジエータの通風開口の大きさを第1・第2ラジエータの通風開口とほぼ同一に設定し、ラジエータ空冷用ファンが、第3ラジエータに冷却風を供給するファンを兼ねたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータの放熱面積を互いに異ならせ、第1・第2ラジエータを前後に隣接させたものである。従って、(1)放熱量が大きい燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータの、通風開口の大きさ及び放熱面積を確保した上で、(2)放熱量が小さい駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータの通風開口の大きさを、第1ラジエータの通風開口の大きさに合わせて設定するとともに、(3)第2ラジエータの放熱面積を、駆動モータの放熱量に応じた大きさに設定することができる。
【0013】
すなわち、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータの放熱面積をそれぞれ最適な大きさとなるように個別に設定することができる。このため、第1・第2ラジエータを前後に隣接させたにもかかわらず、第1・第2ラジエータを通過する冷却風の圧力損失(通風抵抗)が極力低減するように設定することができる。
【0014】
さらには、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを、互いにほぼ同一に設定したので、第1・第2ラジエータを前後に隣接させることによって、その隣接面の間をシール部材で確実に且つ容易にシールすることができる。この結果、第1・第2ラジエータ同士の間から冷却風の漏洩を防止することができる。
さらには、燃料電池車両の前部に第1・第2ラジエータを配置したので、燃料電池車両を走行させたときの走行風を有効利用することができる。
【0015】
このようにした結果、第1・第2ラジエータで放熱に必要な冷却風の風量を十分に確保することができる。
しかも、第1・第2ラジエータを前後に隣接させたので、ラジエータの配置スペースを抑制することができる。このため、燃料電池車両の前部の狭いスペースに第1・第2ラジエータを容易に配置することができる。
従って、少ない配置スペースに複数のラジエータを容易に配置できるとともに、燃料電池及び駆動モータを効率良く冷却することができる。
さらにまた、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するラジエータ空冷用ファンを、第1・第2ラジエータで共用したので、一層の省スペース化を図ることができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、第1ラジエータを第2ラジエータの後方に配置したので、第2ラジエータの冷却性能が第1ラジエータの放熱の影響を受けることはない。しかも、燃料電池の運転温度よりも駆動モータの運転温度が低温である。このため、第2ラジエータの冷却能力を低減させることができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチに対して、第2ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチを大きく設定することで、第1ラジエータの放熱面積に対して第2ラジエータの放熱面積を小さく設定したものである。従って、(1)放熱量が大きい燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータの、通風開口の大きさ及び放熱面積を確保した上で、(2)放熱量が小さい駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータの通風開口の大きさを、第1ラジエータの通風開口の大きさに合わせて設定するとともに、(3)第2ラジエータの放熱面積を、駆動モータの放熱量に応じた大きさに設定することができる。
【0018】
すなわち、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータの放熱面積がそれぞれ最適な大きさとなるように、第1・第2ラジエータにおける放熱用フィンのピッチを、個別に設定することができる。このため、燃料電池車両の前部に第2ラジエータを配置するとともに、この第2ラジエータの後面に第1ラジエータを隣接させて配置したにもかかわらず、第1・第2ラジエータを通過する冷却風の圧力損失(通風抵抗)が極力低減するように設定することができる。
【0019】
さらには、第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを、互いにほぼ同一に設定したので、第1・第2ラジエータを前後に隣接させることによって、第1・第2ラジエータ間の周囲をシール部材で確実に且つ容易にシールすることができる。この結果、第1・第2ラジエータ同士の間から冷却風の漏洩を防止することができる。
さらには、燃料電池車両の前部に第1・第2ラジエータを配置したので、燃料電池車両を走行させたときの走行風を有効利用することができる。
【0020】
このようにした結果、第1・第2ラジエータで放熱に必要な冷却風の風量を十分に確保することができる。
しかも、第1・第2ラジエータを前後に隣接させたので、ラジエータの配置スペースを抑制することができる。このため、燃料電池車両の前部の狭いスペースに第1・第2ラジエータを容易に配置することができる。
従って、少ない配置スペースに複数のラジエータを容易に配置できるとともに、燃料電池及び駆動モータを効率良く冷却することができる。
さらにまた、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するラジエータ空冷用ファンを、第1・第2ラジエータで共用するとともに、第1ラジエータの後部に取付けたので、一層の省スペース化を図ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、第1・第2ラジエータの前に、車室の空調のための冷媒を冷却する第3ラジエータを配置したので、燃料電池車両の前部の狭いスペースに、第1・第2ラジエータと共に第3ラジエータを容易に配置することができる。
さらには、第3ラジエータの通風開口の大きさを、第1・第2ラジエータの通風開口とほぼ同一に設定したので、第3ラジエータを第1・第2ラジエータに隣接させることによって、第3ラジエータと第1・第2ラジエータとの間の周囲を、シール部材で確実に且つ容易にシールすることができる。この結果、第3ラジエータと第1・第2ラジエータとの間から冷却風の漏洩を防止することができる。
【0022】
このようにした結果、第1・第2・第3ラジエータで放熱に必要な冷却風の風量を十分に確保することができる。
さらにまた、ラジエータ空冷用ファンが、第3ラジエータに冷却風を供給するファンを兼ねたので、第3ラジエータのための空冷用ファンを別個に設ける必要はない。このため、一層の省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を、添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Lは左側、Rは右側、CLは車幅中心(車体中心、車幅中心線)を示す。
【0024】
図1は本発明に係る燃料電池車両の模式図である。燃料電池車両10は、車室11の空調(少なくとも冷房又は冷暖房)を行う空調装置12を備えるとともに、車体後部に2個の水素タンク21,21及びキャパシタ(蓄電池)22を備え、車体中央の床下に燃料電池23を備え、車体前部のパワープラント収容室13に駆動モータ24、エアポンプ25及び冷却装置26を備えた、燃料電池搭載自動車である。
【0025】
燃料電池23は、固体高分子型の燃料電池を複数枚積層したスタックからなり、エアポンプ25から空気が供給されるとともに、水素タンク21,21から水素が供給されることにより、空気中の酸素と水素を電気化学反応をさせることで電気を発生させるものであり、システムボックス(燃料電池ケース)27に内蔵されている。燃料電池23によって発電した電気の一部は一時的にキャパシタ22に蓄えられ、燃料電池23の出力が不足するときなどに、キャパシタ22から駆動モータ24に電力が供給される。
駆動モータ24は、燃料電池23やキャパシタ22の電力を受けて走行輪28の走行用動力を発生する電動モータであり、変速機を備える。
【0026】
図2は本発明に係る燃料電池車両の冷却装置の系統図である。図2に示すように、冷却装置26は、燃料電池23を冷媒で冷却する第1冷却ライン30と、駆動モータ24を冷媒で冷却する第2冷却ライン40と、空調装置12を冷媒で冷却する第3冷却ライン50と、ラジエータ空冷用ファン61とからなる。これらの冷却ライン30,40,50は互いに独立している。冷媒は例えば冷却水である。
【0027】
第1冷却ライン30は、燃料電池23と第1ラジエータ31との間を冷媒が循環可能に、第1配管32で接続した系統であり、冷媒を循環させる第1冷却ポンプ33を備える。第1ラジエータ31は、燃料電池23からの放熱を冷媒を介して熱交換することで、大気に放出するものである。
【0028】
第2冷却ライン40は、駆動モータ24と第2ラジエータ41との間を冷媒が循環可能に、第2配管42で接続した系統であり、冷媒を循環させる第2冷却ポンプ43を備える。第2ラジエータ41は、駆動モータ24からの放熱を冷媒を介して熱交換することで、大気に放出するものである。
【0029】
第3冷却ライン50は、空調装置12に内蔵されたエバポレータ(図示せず)とコンプレッサ51と第3ラジエータ52との間を、冷媒が循環可能に第3配管53で接続した、一般的な蒸気圧縮式冷凍方式の冷房系統である。第3ラジエータ52は、コンプレッサ51で圧縮された高温高圧のガス状の冷媒と熱交換することで、冷媒からの放熱を大気に放出するものである。なお、第3ラジエータ52は、二酸化炭素(CO)を用いた空調装置にも適用することができる。
【0030】
ラジエータ空冷用ファン61は、第1・第2ラジエータ31,41に冷却風Wiを供給するために第1・第2ラジエータ31,41に共用した単一のファンである。このラジエータ空冷用ファン61は、第3ラジエータ52に冷却風Wiを供給するファンを兼ねている。
【0031】
通常状態において、燃料電池23の運転温度(放熱温度)Te1は80〜90℃であり、駆動モータ24の運転温度Te2は60〜70℃である。空調装置12の冷房時において、コンプレッサ51の運転温度Te3は50〜55℃である。
このように、燃料電池23の運転温度Te1を駆動モータ24の運転温度Te2よりも高温に設定するとともに、駆動モータ24の運転温度Te2をコンプレッサ51の運転温度Te3よりも高温に設定した(Te1>Te2>Te3)。
【0032】
図1及び図2に示すように、第3ラジエータ52、第2ラジエータ41、第1ラジエータ31及びラジエータ空冷用ファン61は、燃料電池車両10の前部に、前から後方へこの順に隣接して配列することで、燃料電池車両10に搭載したものである。
つまり、燃料電池車両10の前部に第2ラジエータ41を配置し、この第2ラジエータ41の後方に第1ラジエータ31を配置し、この第1ラジエータ31の後方にラジエータ空冷用ファン61を配置し、一方、第2ラジエータ41の前方に第3ラジエータ52を配置した。
【0033】
図3は本発明に係る冷却装置の第1・第2・第3ラジエータの概要図である。図3に示すように、第1ラジエータ31は、ヘッダ等の枠34と、この枠34によって囲まれたコア35と、枠34における上端面の左右から上方へ延びた上部支持ピン36,36と、枠34における下端面の左右から下方へ延びた下部支持ピン37,37とからなる。コア35は、多数の冷媒用チューブ38・・・と、これらの冷媒用チューブ38・・・の外周面に一体的に設けた多数の放熱用フィン39・・・(以下、「第1放熱用フィン39・・・」と言う。)とからなる。
【0034】
第1ラジエータ31に備えた第1放熱用フィン39・・・の形状は、コルゲート状又はプレート状である。第1放熱用フィン39・・・のピッチはP1である。第1放熱用フィン39・・・の放熱面積、すなわち、第1ラジエータ31の放熱面積はA1である。
第1ラジエータ31の通風開口の大きさ、すなわち、コア35の大きさは高さH1、幅W1である。コア35の奥行きはT1である。第1ラジエータ31の通風開口の面積、すなわち、コア35の面積A1は乗算式「A1=H1×W1」で求めることができる。
【0035】
第2ラジエータ41は、ヘッダ等の枠44と、この枠44によって囲まれたコア45と、枠44における上端面の左右から上方へ延びた上部支持ピン46,46と、枠44における下端面の左右から下方へ延びた下部支持ピン47,47とからなる。コア45は、多数の冷媒用チューブ48・・・と、これらの冷媒用チューブ48・・・の外周面に一体的に設けた多数の放熱用フィン49・・・(以下、「第2放熱用フィン49・・・」と言う。)とからなる。
【0036】
第2ラジエータ41に備えた第2放熱用フィン49・・・の形状は、コルゲート状又はプレート状である。第2放熱用フィン49・・・のピッチはP2である。第2放熱用フィン49・・・の放熱面積、すなわち、第2ラジエータ41の放熱面積はA2である。
第2ラジエータ41の通風開口の大きさ、すなわち、コア45の大きさは高さH2、幅W2である。コア45の奥行きはT2である。第2ラジエータ41の通風開口の面積、すなわち、コア45の面積A2は乗算式「A2=H2×W2」で求めることができる。
【0037】
第3ラジエータ52は、ヘッダ等の枠54と、この枠54によって囲まれたコア55と、枠54における上端面の左右から上方へ延びた上部支持ピン56,56と、枠54における下端面の左右から下方へ延びた下部支持ピン57,57とからなる。コア55は、多数の冷媒用チューブ58・・・と、これらの冷媒用チューブ58・・・の外周面に一体的に設けた多数の放熱用フィン59・・・(以下、「第3放熱用フィン59・・・」と言う。)とからなる。
【0038】
第3ラジエータ52に備えた第3放熱用フィン59・・・の形状は、コルゲート状又はプレート状である。第3放熱用フィン59・・・のピッチはP3である。第3放熱用フィン59・・・の放熱面積、すなわち、第3ラジエータ52の放熱面積はA3である。
第3ラジエータ52の通風開口の大きさ、すなわち、コア55の大きさは高さH3、幅W3である。コア55の奥行きはT3である。第3ラジエータ52の通風開口の面積、すなわち、コア55の面積A3は乗算式「A3=H3×W3」で求めることができる。
【0039】
第1ラジエータ31、第2ラジエータ41及び第3ラジエータ52は、通風開口の大きさを、互いにほぼ同一に設定した。つまり、高さはH1≒H2≒H3であり、幅はW1≒W2≒W3である。
また、第1ラジエータ31の奥行きT1は第3ラジエータ52の奥行きT3よりも大きく、第3ラジエータ52の奥行きT3は第2ラジエータ41の奥行きT2よりも大きい(T1>T3>T2)。
【0040】
さらにまた、第1放熱用フィン39・・・のピッチP1よりも第3放熱用フィン59・・・のピッチP3が大きく、第3放熱用フィン59・・・のピッチP3よりも第2放熱用フィン49・・・のピッチP2が大きい(P1<P3<P2)。
ところで、放熱面積A1,A2,A3は、各放熱用フィン39,49,59のピッチP1,P2,P3の大きさに応じて決まる。つまり、ピッチが「P1<P3<P2」の関係なので、放熱面積は「A1>A3>A2」の関係になる。例えば、第1放熱用フィン39・・・のピッチP1に対して、第2放熱用フィン49・・・のピッチP2を大きく設定する(P1<P2)ことで、第1ラジエータ31の放熱面積A1に対して第2ラジエータ41の放熱面積A2を小さく設定した(A1>A2)。
【0041】
図4は本発明に係る燃料電池車両の前部を左側方から見た断面図である。図5は本発明に係る車体前部の左のコーナ部分の第1・第2・第3ラジエータの分解図である。図6は本発明に係る車体前部の左のコーナ部分の第1・第2・第3ラジエータの部分組立図である。
【0042】
図4及び図5に示すように、燃料電池車両10における車体70の前部は、車体前部の両側で車体前後に延びた左右のフロントサイドフレーム71(左のみを示す。以下同じ。)と、左右のフロントサイドフレーム71の車幅方向外側で且つ上方で車体前後に延びた左右のフロントアッパメンバ72と、左右のフロントサイドフレーム71の前端間に掛け渡したフロントバンパビーム73と、左右のフロントサイドフレーム71の前端部に接合したフロントバルクヘッド74と、フロントバルクヘッド74の上部コーナから後方へ延びて左右のフロントアッパメンバ72に接合した左右のアッパサイドメンバ75とを主要な構成とした、モノコックボディである。
【0043】
フロントアッパメンバ72は、図示せぬフロントピラーから前下方へ傾きつつ延び、その前端が下方へ湾曲しつつ延びた部材である。
【0044】
フロントバルクヘッド74は正面視略矩形状の枠体であって、左右のフロントサイドフレーム71の前部下方で車幅方向に延びたロアクロスメンバ76と、ロアクロスメンバ76の両端近傍から上方へ延びた左右のサイドステイ77と、これらのサイドステイ77の上端に接合するべく車幅方向に延びたアッパクロスメンバ78とからなる。
【0045】
ロアクロスメンバ76は、左右のフロントアッパメンバ72の下端間に掛け渡したクロスメンバであり、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52の下部を支持する支持部材の役割を果たす。左右のサイドステイ77は、左右のフロントサイドフレーム71の前部にそれぞれ接合した部材である。
【0046】
図4に示すように、燃料電池車両10は、車体70の前面を覆うバンパフェイス81と、車体70の前下面を覆うアンダカバー82と、車体70の前上部の開口を開閉可能に覆うフード83とを備える。このようにして、車体70前部にパワープラント収容室13を形成することができる。
【0047】
バンパフェイス81は、下端部を後方へ延ばして下部カバー部81aを形成し、下部カバー部81aの後端部をロアクロスメンバ76の下面に重ねてクリップやビス等の締付け部材84で取外し可能に取付けたものである。このバンパフェイス81は前面に、冷却風Wi(走行風を含む)を導入するための導風口81b,81bを有する。
アンダカバー82は、前端部をロアクロスメンバ76の下面に重ねて、バンパフェイス81の後端部と共に、ロアクロスメンバ76に締付け部材84で取付けたものである。
【0048】
次に、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52の配置並びに取付構造について説明する。
図4〜図6に示すように、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52は、フロントバルクヘッド74の位置又はその近傍の位置で、互いに前後方向に隣接させて配置し、しかも、駆動モータ24(図4参照)よりも前方に配置したものである。なお、図4に示すように、車体70はサブフレーム85を介して、駆動モータ24を取付けたものである。
【0049】
より詳しく述べると、図4に示すように、最前部の第3ラジエータ52の後面52aに第2ラジエータ41を隣接させて配置し、この第2ラジエータ41の後面41aに第1ラジエータ31を隣接させて配置し、第3ラジエータ52と第2ラジエータ41との間及び第1・第2ラジエータ31,41間の周囲を、それぞれシール部材91,92でシールした。
【0050】
つまり、第3ラジエータ52と第2ラジエータ41とを前後に隣接させ、その隣接面の間をシール部材91にてシールするとともに、第1・第2ラジエータ31,41を前後に隣接させ、その隣接面の間をシール部材92にてシールした。従って、第2・第3ラジエータ41,52同士の間や、第1・第2ラジエータ31,41同士の間からの、冷却風Wiの漏洩を防止できる。
【0051】
さらに、図5及び図6に示すように、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52は、下端部をロアクロスメンバ76に直接に取付けるとともに、上端部を連結部材93によってアッパクロスメンバ78に取付けた構成である。
具体的には、それぞれの下部支持ピン37,47,57を、下のマウント用ブッシュ94・・・を介してロアクロスメンバ76の複数の支持用孔76a・・・に嵌合することで、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52の下端部をロアクロスメンバ76にて支える構成である。
【0052】
連結部材93は、鋼板のプレス成形品からなる平板状の部材であり、アッパクロスメンバ78の左右両端部に上から重ねて複数のボルト95・・・にて取り外し可能に取付けるものである。この連結部材93は上下貫通した3個の支持用孔93a・・・を有する。
それぞれの上部支持ピン36,46,56を、上のマウント用ブッシュ96・・・を介して連結部材93の支持用孔93a・・・に嵌合するとともに、連結部材93をアッパクロスメンバ78に取付けることで、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52の上端部をアッパクロスメンバ78に取り外し可能に取付けた構成である。
【0053】
このような取付け構造であるから、車体70にて第1・第2・第3ラジエータ31,41,52を十分に支えることができる。
なお、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52の下端部は、上述の上端部と同様の構成にしてもよい。
【0054】
次に、上記構成の冷却装置26の作用について説明する。
図1に示すように、ラジエータ空冷用ファン61を駆動することにより、燃料電池車両10の前方から内部に冷却風Wiを取り入れることができる。さらには、燃料電池車両10を前進走行させることで、燃料電池車両10の前方から内部に走行風(冷却風Wiの一部)を取り入れることができる。
【0055】
冷却風Wiは第3ラジエータ52、第2ラジエータ41、第1ラジエータ31の順に通過することで、それぞれ冷媒と熱交換した後に、ラジエータ空冷用ファン61によって外部に排出される。従って、図2に示すように、それぞれの冷媒を介して燃料電池23の運転温度Te1、駆動モータ24の運転温度Te2及びコンプレッサ51の運転温度Te3を、適切な温度で維持することができる。
【0056】
以上の説明をまとめると、次の通りである。
図2及び図3に示すように、冷却装置26は、燃料電池23、駆動モータ24、第1ラジエータ31及び第2ラジエータ41を備え、第1ラジエータ31の通風開口の大きさH1,W1と第2ラジエータ41の通風開口の大きさH2,W2とを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータ31,41の放熱面積A1,A2を互いに異ならせ、第1・第2ラジエータ31,41を前後に隣接させたものである。
【0057】
つまり、冷却装置26は、第1・第2ラジエータ31,41の通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1ラジエータ31に備えた第1放熱用フィン39・・・のピッチP1に対して、第2ラジエータ41に備えた第2放熱用フィン49のピッチP2を大きく設定することで、第1ラジエータ31の放熱面積A1に対して第2ラジエータ41の放熱面積A2を小さく設定したものである。
【0058】
従って、(1)放熱量が大きい燃料電池23のための冷媒を冷却する第1ラジエータ31の、通風開口の大きさ及び放熱面積A1を確保した上で、(2)放熱量が小さい駆動モータ24のための冷媒を冷却する第2ラジエータ41の通風開口の大きさを、第1ラジエータ31の通風開口の大きさに合わせて設定するとともに、(3)第2ラジエータ41の放熱面積A2を、駆動モータ24の放熱量に応じた大きさに設定することができる。
【0059】
すなわち、第1・第2ラジエータ31,41の通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータ31,41の放熱面積A1,A2がそれぞれ最適な大きさとなるように、第1・第2ラジエータ31,41における放熱用フィン39,49のピッチP1,P2を、個別に設定することができる。このため、燃料電池車両10(図1参照)の前部に第2ラジエータ41を配置するとともに、この第2ラジエータ41の後面に第1ラジエータ31を隣接させて配置したにもかかわらず、第1・第2ラジエータ31,41を通過する冷却風Wiの圧力損失(通風抵抗)が極力低減するように設定することができる。
【0060】
さらには、第1・第2ラジエータ31,41の通風開口の大きさを、互いにほぼ同一に設定したので、第1・第2ラジエータ31,41を前後に隣接させることによって、第1・第2ラジエータ31,41間の周囲をシール部材92(図2参照)で確実に且つ容易にシールすることができる。この結果、第1・第2ラジエータ31,41同士の間から冷却風W1の漏洩を防止することができる。
さらには、図1に示すように、燃料電池車両10の前部に第1・第2ラジエータ31,41を配置したので、燃料電池車両10を走行させたときの走行風を有効利用することができる。
【0061】
このようにした結果、第1・第2ラジエータ31,41で放熱に必要な冷却風Wiの風量を十分に確保することができる。
しかも、第1・第2ラジエータ31,41を前後に隣接させたので、ラジエータ31,41の配置スペースを抑制することができる。このため、燃料電池車両10の前部の狭いスペースに第1・第2ラジエータ31,41を容易に配置することができる。
従って、少ない配置スペースに複数のラジエータ31,41を容易に配置できるとともに、燃料電池23及び駆動モータ24を効率良く冷却することができる。
さらにまた、第1・第2ラジエータ31,41に冷却風Wiを供給するラジエータ空冷用ファン61を、第1・第2ラジエータ31,41で共用するとともに、第1ラジエータ31の後部に取付けたので、一層の省スペース化を図ることができる。
【0062】
さらに冷却装置26は、第1ラジエータ31を第2ラジエータ41の後方に配置したので、第2ラジエータ41の冷却性能が第1ラジエータ31の放熱の影響を受けることはない。しかも、図2に示すように、燃料電池23の運転温度Te1よりも駆動モータ24の運転温度Te2が低温である。このため、第2ラジエータ41の冷却能力を低減させることができる。
【0063】
さらに冷却装置26は、図1に示すように、第1・第2ラジエータ31,41の前に車室11の第3ラジエータ52を配置したので、燃料電池車両10の前部の狭いスペースに、第1・第2ラジエータ31,41と共に第3ラジエータ52を容易に配置することができる。
さらには、図2及び図3に示すように、第3ラジエータ52の通風開口の大きさH3,W3を、第1・第2ラジエータ31,41の通風開口とほぼ同一に設定したので、第3ラジエータ52を第1・第2ラジエータ31,41に隣接させることによって、第3ラジエータ52と第1・第2ラジエータ31,41との間の周囲を、シール部材91(図2参照)で確実に且つ容易にシールすることができる。この結果、第3ラジエータ52と第1・第2ラジエータ31,41との間から冷却風Wiの漏洩を防止することができる。
【0064】
このようにした結果、第1・第2・第3ラジエータ31,41,52で放熱に必要な冷却風Wiの風量を十分に確保することができる。
さらにまた、ラジエータ空冷用ファン61が、第3ラジエータ52に冷却風Wiを供給するファンを兼ねたので、第3ラジエータ52のための空冷用ファンを別個に設ける必要はない。このため、一層の省スペース化を図ることができる。
【0065】
なお、本発明の実施の形態において、シール部材91,92の形状、寸法、材質、取付構造は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の冷却装置26は、燃料電池車両10に搭載された燃料電池23及び駆動モータ24を効率良く冷却するものに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る燃料電池車両の模式図である。
【図2】本発明に係る燃料電池車両の冷却装置の系統図である。
【図3】本発明に係る冷却装置の第1・第2・第3ラジエータの概要図である。
【図4】本発明に係る燃料電池車両の前部を左側方から見た断面図である。
【図5】本発明に係る車体前部の左のコーナ部分の第1・第2・第3ラジエータの分解図である。
【図6】本発明に係る車体前部の左のコーナ部分の第1・第2・第3ラジエータの部分組立図である。
【図7】従来の燃料電池車両の冷却装置の系統図である。
【符号の説明】
【0068】
10…燃料電池車両、11…車室、23…燃料電池、24…駆動モータ、26…冷却装置、31…第1ラジエータ、39…第1ラジエータに備えた放熱用フィン、41…第2ラジエータ、49…第2ラジエータに備えた放熱用フィン、52…第3ラジエータ、61…ラジエータ空冷用ファン、91,92…シール部材、A1…第1ラジエータの放熱面積、A2…第2ラジエータの放熱面積、A3…第3ラジエータの放熱面積、H1,W1…第1ラジエータの通風開口の大きさ、H2,W2…第2ラジエータの通風開口の大きさ、H3,W3…第3ラジエータの通風開口の大きさ、P1…第1ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチ、P2…第2ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチ、P3…第3ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチ、Te1…燃料電池の運転温度、Te2…駆動モータの運転温度、Te3…第3ラジエータの運転温度、Wi…冷却風。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、この燃料電池の電力を受けて走行用動力を発生する駆動モータと、前記燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータと、前記駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータとを備えた燃料電池車両の冷却装置において、
前記第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、第1・第2ラジエータの放熱面積を互いに異ならせ、
前記第1・第2ラジエータを前後に隣接させ、その隣接面の間をシール部材にてシールするとともに、前記燃料電池車両の前部に配置し、
前記第1・第2ラジエータに共用するラジエータ空冷用ファンを設けることで、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するように構成したことを特徴とする燃料電池車両の冷却装置。
【請求項2】
前記燃料電池の運転温度を前記駆動モータの運転温度よりも高温に設定するとともに、前記第1ラジエータを前記第2ラジエータの後方に配置したことを特徴とする請求項1記載の燃料電池車両の冷却装置。
【請求項3】
燃料電池と、この燃料電池の電力を受けて走行用動力を発生する駆動モータと、前記燃料電池のための冷媒を冷却する第1ラジエータと、前記駆動モータのための冷媒を冷却する第2ラジエータとを備えた燃料電池車両の冷却装置において、
前記第1・第2ラジエータの通風開口の大きさを互いにほぼ同一に設定するとともに、前記第1ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチに対して、前記第2ラジエータに備えた放熱用フィンのピッチを大きく設定することで、第1ラジエータの放熱面積に対して第2ラジエータの放熱面積を小さく設定し、
前記燃料電池車両の前部に前記第2ラジエータを配置するとともに、この第2ラジエータの後面に前記第1ラジエータを隣接させて配置し、これら第1・第2ラジエータ間の周囲をシール部材にてシールし、
前記第1・第2ラジエータに共用するラジエータ空冷用ファンを、前記第1ラジエータの後部に取付けることで、第1・第2ラジエータに冷却風を供給するように構成したことを特徴とする燃料電池車両の冷却装置。
【請求項4】
前記第1・第2ラジエータの前に、車室の空調のための冷媒を冷却する第3ラジエータを配置し、この第3ラジエータの通風開口の大きさを第1・第2ラジエータの通風開口とほぼ同一に設定し、前記ラジエータ空冷用ファンは、前記第3ラジエータに冷却風を供給するファンを兼ねたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の燃料電池車両の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−327325(P2006−327325A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151357(P2005−151357)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】